事業の将来の方向づけをするうえで、できるだけ社長のもとに入ってくる情報の量と精度
を高める必要がある。
そのためには、人とのつき合いの幅を広げることが特に大事だ。大企業のように、自前で
研究機関や調査機関をもって、優秀な専門家を擁しているところなら、次の方向づけは自分
のところでも可能だろう。しかし一般の会社で簡単にできることではない。
わたしの今日までを振り返ってみて、自分の力で事業発想を思いついたことはほとんどな
くて、たいていは他人から得た情報やアドバイスが一番大きかったのだ。業界の内外を問わ
ず、できるだけ多くの人と会って交流することが、事業決定のキメ手だと思うのである。
そこで、経営上の人間関係はギブ&テイク、という原則を忘れてはいけない。
「人間関係がギブ&テイクとは、打算的で特殊な意見だ」と、眉をしかめる向きもいるだ
ろう。人と人との関係は、ギブ&テイクというような打算で動いてはいけない、損だ得だで
判断することではないと。まことにもってきれいで立派な主張だと思う。
ところが現実の世の中は、テイク&テイク、手前勝手な風潮に満ちているのではないだろ
うか。事業の世界でも、社長がテイク&テイク、お客様にも、関係先にも、社員にも要求ば
かりでは、永続的な事業の繁栄は望めない。
わたしがここで強調したいのは、社長は、何事もまず相手にギブしてからテイクを考える
ようにせよ、ということだ。
このごろ異業種交流の会が盛んなようだ。ところがギブするものが何もなくて、テイクだ
けの動機で参加したところで何もテイクできない。異業種の交流も単なるお遊びに終わって
しまいかねないのだ。
まだ若い血気盛んな方に多い傾向だが、テイク、テイクだけの経営者がいらっしゃる。あ
の人と会うのはテイクするため、この人と会うのもテイクするため、こんな発想ではよい情
報をテイクできるチャンスは永遠に訪れてこないものだ。
経営はボランティア活動ではない。テイクしようと思ったら、何かギブするものをつくっ
てから考える。どうしても欲しいものをテイクしたい、しかし自分のところで先方にギブで
きるものがない、それならギブできる自分の友人を紹介してでも、少しでもギブできること
を考えるくらいの覚悟が必要だ。要するに相手の喜ぶことを何としてでも実施してから、何
かを期待する。そういう姿勢が社長に必要なのである。
中小規模の会社では、集まる情報の量も質も限られることになる。それだけに将来を決め
る一番大きな要素は、人とのつき合いの幅にあるといってよい。だからといって、一単なる遊
び仲間をいくら増やしてもだめだ。やはり経営上のギブ&テイクの関係になる人との交流を
増やすことが、肝心である。
これは何も事業展開のための情報源の広げ方だけの問題ではない。会社の死命を握るお客
についての社長の姿勢、会社の姿勢にもそのまま当てはまることである。
お客に、儲けさせてください、お金をください、とだけお願いにいく人はいないはずだ。
うちの商品は使うとこんな効用があります、次のようなメリットがあります、こんなに便利
なサービスですと、こちらからギブできるものをまず示さなければ商売が始まらない。ちょっ
とベテランの営業なら、いきなり商品を売り込んでも相手は目を向けてくれない、まずは相
手が関心ある情報を提供したり、困っていることを無償で解決したりして信頼関係を築いて
から、と言うだろう。
考えてみれば、社員についても言えることだ。うんと儲かったら給料を弾むと言うのと、
給料をコレだけ上げていこうと思う、ついては売上をいくらに上げ費用をコレだけ抑えるよ
うに頑張ってくれと言うのと、どちらが社員のやる気につながるだろうか。言うまでもない
ことだ。
まさにギブしてからテイクを期待する。この原則は、事業の基本的なあり方を決定するほ
ど大事なものなのである。
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