家電量販店のP社も、本書の冒頭で出てきた会社である。
店舗展開を借地・借家中心戦略に切り替えて、極めて順調に事業を伸ばしていた。社長の
最大の夢である店頭公開も視野に入ってくるだけの規模になっていたころのことだ。社長に
迷いが出てきたのである。折からの土地高騰で、もし店舗を借地でなく自社物件でもってい
れば、と死んだ子のとしを数えるような気になったのだ。
わたしは、「P社長、何を考えているんだ。君の最大の夢は上場だろ。家電量販店にとって、
今が明暗を分ける大事なときだ。不動産投機にうつつを抜かしている場合じゃないだろ。単
なる一時の金儲けを選ぶのか、上場を選ぶのか」と決めつけたのだ。もちろん当時のP社長
が、投機で一時の儲けを考えたわけではない。どちらが有利か、やはり自前の土地と建物な
のだろうか、と社長の方針に迷いが出ている。今は一挙に店舗を増やして打って出るときな
のに、またぞろ自前の土地と店では出店ペースがダウンしてしまうと思ったので、強く言っ
たのであった。
そこで改めて、店頭上場を具体的に目指す中期三年計画をつくったのであった。その骨子
は次のようなものであった。
(運営基本方針)
①これから二年間の売上目標は、GDP比一五〇%を最低目標とし積極展開を図る。
②そのため積極的店舗展開をし、日標年度に一〇〇店舗とする。資金の有効活用を図る
ために、自前の店舗と借家店舗の両用を基本とする。
③売上総利益率は、絶対に現状の二六。三%を下回らないように仕入れ対策を行う。
④人員は、パートタイマーの活用を図り、社員分配比率が四五%以下になるように努力
する。
⑤借家店舗の増加を配慮し、現状二八・五%の経費分配比率は三〇%を許容目標とする。
⑥企業イメージアップの特別広告費、及び新業態研究開発のために、現状一%の先行投
資配分比率を五%に上げる。
⑦資金調達の区分を明確にし、運転資金は短期、設備及び固定投資については長期によ
って調達し、財務の健全化を損なわないように留意する。
③金融分配比率は上限六%とする。それ以上の資金調達は自己資金で行う。
⑨最終年度の利益目標は一〇億円、かつ蓄積配分比率を四%とする。
⑩以上を着実に実行することによって、計画期間内に店頭上場を果たす。
つまり、三年以内に店頭上場する、そのためには多店舗展開を急いで目標年度には一〇〇
店舗とし、売上を直前期の四〇%増四〇〇億円、という思い切った積極策を立てたのだ。
事業を大きく伸ばすチャンスというものは、そう何度も訪れるものではない。これまでの



長期計画実践の過程で、会社の体質も強くなり、社長の経営手腕も幹部の能力も次第しだい
に磨かれ、満を持している状況とみたからである。その結果はどうであったか。
第35表、第36
表は、三年後の目標と実績を比較したものであるが、売上高は五%及ばなかっ
たものの、経常利益で念願の一〇億円を超え、しかも金融配分目標を五%以内に抑える財務
方針をはじめ、その他の方針もほぼ当初の計画どおり達成することができたのであった。
かくて、上場するという社長の長年の夢が、ついに実現したのであった。上場の日は、P
社長はもちろんわたしも感無量、まさに社長業冥利に尽きる一日であった。しかしこの感慨
もつかの間の話で、すぐに次の計画が待ちている。
事業は生き物であり、環境は刻一刻と変わり、絶頂のときがあれば、どん底のときも必ず
訪れる。その真っ只中で事業をやりつづけるためには、長期計画こそ社長の一番頼りになる
武器となるに違いない。そのことを、繰り返し繰り返しここまで述べてきたわけである。
ところで、事業経営について、あるいは社長業について、わたしはこうも考えている。
長期計画を持つか持たないかは、社長の人生に月とスッポンほどの差をもたらすと信じて
いるが、事業の永続的な繁栄は、それだけでは十分ではない、と。そこで、会社を事業を、
永続的に発展させる社長の条件とはなにか、次の章で触れておくことにしたい。
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