ここで社長に確認しておいていただきたいのは、両者の違いだけではない。
それだけなら人事担当の仕事にすぎない(もちろん社長としては、自分の会社の中に定期
昇給のルールをまずつくっておく必要がある。細かな仕組みは、担当や専門家に任せるとし
ても、能力主義の昇給の仕組みだけは確認しておくことは必要だ)。
社長にとって一番大事なことは、賃上げによって社員の生活向上を図ることである。つま
り物価上昇を下回るようなベースアップ率では、社員の生活水準が低下するから、少なくと
も物価上昇率を上回るベースアップ率と、これに加えて定期昇給、これが経営者として最低
の義務と考えるべきである。
数値でいうと、定期昇給で二・五%、ベースアップで一・五%程度とみて、四・〇%ぐら
いの賃上げというものは、今後、景気がどうであろうと最低出していくんだ、という覚悟が
必要なのである。
さらに自分の会社の賃金水準がョソよりかなり低いようであれば、その是正を図るのも、
経営者の義務であり役割である。その場合、ベースアップを思い切って五%とか八% (賃上
げ率としてはそれぞれ約七・五%、 一〇・五%前後になる)実施してやらなければ、いつま
でたっても、よそより低いままということになる。今後の会社の収益状況や賃金原資に大き
な問題がなければ、ベースアップの率を、世間のベースアップ率に横並びさせることはない
のだ。世間水準ばかりを気にするのは担当の仕事であって、社長であってはいけないのだ。
しかし、これは社長に相当の覚悟と準備のいることである。
毎年、春闘のころになると、「佐藤さんのところでは、いくらにするの、何%にしたの」
と問いてくる経営者が必ずいらっしゃる。
業績好調であれば、ベースアップを物価上昇以上にはずんで、「いい会社に勤めたものだ」
と社員から言われたいのは山々だけれども、その分の固定コスト増を考えるとためらってし
まう、というのが賃上げ額決定のときの社長共通の悩みかもしれない。
わたしは、「うちでは来年の賃上げをすでに決めてある。いつの賃上げの話なの?」と聞
き返すことにしている。はっきりいって嫌みだ。しかし社長たるもの、その年になって今年
の賃金はいくら上げるか、その都度エンピツをなめているようでは落第といっていいのでは
ないか。社員への役割を意識したら、少なくても一年前に翌年度のインフレ率を予測して、
経営者の義務としてのミニマム昇給額を推定すべきである。そして三年先、五年先までの給
料の処遇について、具体的な案をもっていてほしい。
社長に限らず経営者というのは、賃金が上がるということにアレルギーがあるようだ。わ
たしとて、意味のない上昇は大嫌いだ。しかし社員を大事にすると言っている一方で、賃上
げというたびに、ゾッとしていては、社員は救われないではないか。
社長の社員への役割意識、これがあるなしで、覚悟の仕方、準備の仕方が徹底的に違うと
思う。
その意味でも、次の項で述べる「人件費計画の実証作業」が、社長の実務として、多くの
ことを示唆してくれるはずである。
人件費計画の実証作業
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