第二図は、わたしの「付加価値の配分」の考え方を図に表したものだ。
わたしは、樹齢何百年の名木を見るたびに、自分の事業もこのすばらしい樹のように育て
たいと思う。枝振りといい、しっかり大地に根を張っている様子といい、大きな嵐がきても
倒れることなく何百年と成長し続ける見事な大木と、わが社を重ね合わせて考えるのだ。
つまりこの図は、自分の事業の長期繁栄を大本に見立てて、付加価値の配分との関係を示
している。
先に、経営の本質は分配だ、と申しあげた。さまざまな協力者に、いかにバランスよく生
み出した付加価値を配分するか、を決定するためには、そこに社長の将来構想に基づく配分
ポリシーがなければならないのである。
第二図でいえば、どの枝を伸ばして幹とするか、どの枝を摘めるかは、社長がこの木をど
のように育てたいのかというイメージをはっきりさせないと、小枝の剪定ができないという
ことである。そこでわたしは、育てるべき枝、つまり付加価値を配分する先を次の一〇の要
素に分けている。
さて第二図をみてみよう。まず「社員配分」の枝がある。企業は、生み出した付加価値を

給料とか賞与というかたちでまず社員に分配しなければならない。これが社員に対する経営
の役割である。
また、いたずらに経費を詰め、節約しろと言うだけでは仕事は進まない。無駄な経費を使
えとは言わないが、適正な経費に対しては生み出した付加価値の一部を分配する必要がある。
これが「経費配分」の枝である。
「再生産配分」の枝というのは、ことばとしては耳慣れないかもしれないが、いわゆる減
価償却費と考えていただければいい。機械は使えば使うほど陳腐化していく。 一〇年も使え
ば当然新品に入れ替えていかなければならない。減価償却費は税法にも認められているが、
次の再生産に対する準備という意味で、あえて「再生産配分」としたわけである。
「先行投資配分」の枝は、研究開発費、新製品の開発費、新業種の調査費用などを指す。
企業は現在の日の前の仕事だけをするのではない。将来の果実を得るための投資も必要であ
る。それを怠っていたら、次の時代の発展はないだろう。したがって、企業規模に応じ、何
かしらの枠を設けて常に投資しつづけていなければならない。多い少ないは別として、これ
は絶対に必要である。そのための配分がこの先行投資配分だ。
次が「金融配分」の枝である。二、三の特殊なケースを除けば、事業には金融機関からの
借金はつきものだろう。そうである以上、金融機関に対して金利というかたちでの配分を考
えるのは当然のことである。お金を借りたままで金利を払わないというのでは、金融機関か
らの協力は得られないし、結果的に会社は運営していけなくなる。付加価値の生産どころで
はなくなってこよう。しかしその配分には限度があるであろう。
「安全配分」の枝もある。企業というのは、いつ何が起きるか分からない。不幸にしてお
客様が倒産し、不渡りを食う可能性もないとはいえないだろう。そういうことに対し、たと
えば貸倒引当金を準備するなどして、常に安全を考慮に入れながら事業を進めていかなけれ
ばならない。あるいはまだ耐用年数に達していない機械などの固定資産を売って、新しい近
代的な設備に置き換える必要もあろう。それがなければ設備の近代化はできないわけだが、
そのときに発生する赤字も覚悟していなければならない。決算上でいう特別損益勘定とか固
定資産の売却損益に該当するものだ。また在庫品の評価減も必要であろう。それを準備して
おく。これが安全配分である。
「社会配分」の枝というのは、要するに税金のことだ。わたしの会社でいえば、日本という国、
あるいは静岡県とか静岡市という地域の協力に対し、地方税、事業税、法人税といったかた
ちで、生み出した付加価値の中から常に何%かの配分を考えていかなければならない。
われわれは日本という国があるから、あるいは静岡市という地域のおかげで仕事ができて
いるのである。それに対する配分を考えるのは経営者としての当然の義務だろう。第一章で、
税金をろくに払わない経営者は大きな顔をして表通りを歩くなと書いたのは、この社会配分
をすることが経営者としての大きな役割のひとつであるということを言いたかったからであ
る。
「資本配分」の枝とは、会社に資本を提供してくれる人、つまり資本家に対する配分だ。
だれもボランティアで会社にお金を出してくれる人はいないだろう。会社としても資本家の
協力は絶対に必要である。したがって、資本家に対する配分は配当または無償増資という方
法で常に考えていなければならない。これが資本配分である。
「経営者配分」の枝もある。本章の冒頭に経営者の仕事は割りに合わないと書いたが、た
しかに経営者には経営者としての大変な仕事があり、苦労があるわけで、無報酬ではとても
やってはいられない。当然、経営者として調和のとれた配分を受ける正当な権利がある。
そして一〇番目の配分先が「蓄積配分」である。大木の根っことなる部分である。
企業としての貯蓄は、それぞれの家庭生活を考えてみれば分かりやすいだろう。大概の家
庭では、給料が入ると、それをいちいち封筒に入れて分けるかどうかは分からないが、今月
の食費はいくら、教育費はいくら、保険料はいくら、ローンの返済はいくら、自分たちの小
遣いはいくらといったように分けるはずである。そして、せめて最小限度、将来に対する蓄
えとして貯金を考える。
企業も同じだ。金額やパーセンテージの多寡は別として、将来の予期せぬことに備えて蓄
積というものを常に考え、それに対する配分を心掛けておかなければならない。
以上の一〇本の枝が、企業が生み出した付加価値の配分先である。
会社によっては、これらに加えて「教育」の枝も別に必要だとする意見もあり、会社によっ
ては他の枝を加えてもよいと思う。ただ、わたしはこれらの一〇本の枝で十分と考えている
し、本書もそれにそって説明していくつもりだ。
さて若木のうちは、どの枝を伸ばすと大木になるのか、しだいに大きく育ってくると、ど
の枝を幹として、堂々たる名木に育てるのか、すべて社長が、長期的な視野から自分の配分
ポリシーをもって意識して決定することなのである。経営という大木は根の栄養だけでなく、
枝先から吸収する自然のエネルギーの二つにより、素晴らしい大木にもなるものである。
自分の事業がそこそこの規模のうちから、社長が意図して配分というものを考えておかな
いと、たとえば経営者配分の幹だけがグロテスクなまでに育って、あとは小枝ばかりの変て
こな雑木で終わってしまうことになりかねない。あるいは蓄積配分がなくて、見かけは立派
な大木でも、ちょっとした嵐にひとたまりもなく倒れてしまうかもしれない。大木に育てる
ことは一朝丁夕にはできないことなのである。
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