ドラッカーの二大法則
平成大不況と呼ばれるほど深刻な不況もようやく出口らしきものが見え始めたが、「もう
過去のような好況は来ない」「政府が財政投融資など公共投資をいくら増やしても、従来のよ
うに景気が循環的に回復するような社会構造ではなくなった」などと、まるで日本の経済界
のお先は真っ暗で、どの産業、業界も潰れてしまうかのような説が大流行だし、また日本人
はなぜか、こういう悲観論が大好きのようである。そしていつも「大変だ! 大変だ!」と騒
ぎ立て、自分でも半ば納得し、半ば諦めてしまいがちである。
たしかに平成不況は長かったから、回復の足取りも従来に比べて重く鈍かった。だが、こ
こでは、もう少し冷静になって考える必要があるだろう。というのも、バブル期の大好況が
かつてないほど異常だった。半世紀に一度来るかどうかというほどの高い、高い山だった。
「山高ければ谷深し」のたとえもあるように、今回の調整期間はとくに金融業、不動産・建
設業にとっては、それは長い長いトンネルから抜け出すように時間がかかると私は思う。だ
が、そうだからと言って、将来にまったく希望が持てないというような総悲観論が正しいの
だろうか。
石油ショック当時も、いまとよく似た現象、風潮であった。しかも、たまたま時期が重なっ
たローマ会議では、世界の食料事情は今後深刻化する一方で、遠からず食糧危機に見舞われ
るのは避けられないとの説が一気に広がった。また、石油はあと三〇年でなくなり、世界は
低成長、市場が広がらないゼロサム経済社会が到来する、もはや列島改造どころではないと、
半ば恐慌状態に陥ったのを覚えておられる方も少なくないだろう。
私は、そのときも「食糧危機は起こらない、いざとなれば日本中にある二千数百のゴルフ
場の芝をはずして、さつま芋を栽培すれば昭和三七年ごろの食事・カロリーは確保できる」
と言っていた。また一バーレル五ドルの石油が四〇ドルにもなれば、使えないところが出て
くる一方、いままでは掘削しても採算が合わないとされてきた新しい油田の開発が活発にな
り、逆に石油は余り、三〇年どころか、五〇年は優にもつと、頑として言い続けてきた。
ところが皆さん、どうですか。いま、この二つの問題はちっとも発生していないじゃあり
ませんか! 私は楽天主義を自認するわけではないが、あまり自虐的に現状なり未来を騒ぎ
立てるのは好まない。
日本で人気が高いP ・F ・ドラッカー教授は、つねに次の二つの対策をとっていくのが事
業であると言っている。その二つとは、
①顧客の創造(マーケティング)
②技術の革新(イノベーション)
である。
ドラッカー教授は、われわれ経営者を取り巻く環境がどのようであろうとも、この二つに
注力することが事業家の使命であることを教えている。われわれが経営を行なっているいま
現在でも、顧客はつねに、われわれが提供する製品、商品、サービスに不足はないものの、
不満だけは持っている。ドラッカー教授が力説する二つの対策の意味を整理しよう。
〈マーケティング〉― その時代の顧客が欲するニーズを見抜き、その要求よりも、よりよ
く。より安い商品、より早く。よりよいサービスを提供していくのが事業家の第一の役日で
ある。
ドラッカー教授がここで言っているのは、時代、時代によって顧客のライフスタイルが変
わるように、「顧客」と「顧客のニーズ」もつねに変わっているということである。例えばライ
ターでも、四〇年前はロンソンが人気の的だったが、二五年前ごろにはデュポンに、さらに
一〇年ほど前には使い捨てが主流となった。ところが、最近は健康志向も手伝って、ク禁煙族″
が増え、 一時に比べてライターは売れなくなり、パイポがむしろ売れている。
いまの消費者は、 一世代前に流行った商品はダサイと感じ、敬遠しているのだ。同じ年代
でも顧客の価値観は大きく変わっている。まさに、「年々歳々、花相似たり。年々歳々、人
同じからず」である。
ところが、世の中の経営者の多くは、従来と同じ商品を、同じ手法で売っている。「売れな
い、売れない、やっばり不況だ」ともっばら売れないのを不況のせいにするだけで、顧客の
変化に気づかない。最近は顧客ニーズがどんどん変わるので、商品の寿命が短くなり、発売
されてから五年もすればダサクなる。この五年というのはちょうど顧客層の入れ替わる時期
で、案外、これが好・不況と関係あるのでは、とも思っている。
いままでの話でおわかりいただいたように、新しい価値観を持った顧客に合った商品なり
サービスを開発することが、ドラッカー教授の言う「顧客の創造」である。いま一度、皆さん、
胸に手を当てて、自分の会社では、本当に「顧客の創造」に努めているか、ぜひ考えていただ
きたい。
〈イノベーション〉― ―時代の新しい要求を満たそうと思っても、従来のやり方では顧客は
満足しない。顧客が満足する製品、商品、サービスを提供するには、新しい技術を導入しな
ければ実現しない。その革新策をさぐり出し、使うのが事業家の第二の役目である。
音楽を聴くのに、以前のレコードからテープヘ、そしてCD、最近はダウンロードやスト
リーミングヘと移り変わっているように、時代ごとに、顧客が欲し、満足する商品やサービ
スは変わっている。これを実現させるのが技術革新である。石油ショック後、ゼロサム時代
に一時、技術の進歩は行きついたと言われた。だが、現実にその後の技術革新は素晴らしい。
平成不況後の回復の足取りが重いこともあって、もう右肩上がりの経済は望めない、といっ
たような末世思想が経営者の間にはびこりつつある。そうした考えが、自分の能力のなさを
棚に上げて横行しつつもある。だが、ドラッカー教授が言われる「顧客の創造」と「技術の革新」
に力を入れれば、道は必ず開けると私は信じており、ぜひ、皆さんにも勇気を持って、この
課題に取り組むことをお勧めしたい。
日本には一億二〇〇〇万人、世界には約七七億人の顧客があり、新しい技術、新しいシス
テムは相次いで開発されている。いつの時代でも、過去の成功体験に満足し、それをただ踏
襲していると、すぐに後発に追い越されていくのである。
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