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会社を売ってなぜ悪い

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会社を売ってなぜ悪い

日本のオーナー経営者の九〇%までは自分の会社をよそに売ることなどこれっぽっちも考

えないし、自社の株式を売り物にして上場し、売り払おうという気もまったくない。

もちろん、そういう発想にはよい点も、悪い点もある。よい点をあげるならば、それだけ

経営への態度が真剣になり、自社が抱えている経営上の課題について、短期的判断ではなく、

長期的な展望に立って判断することである。さらに社員一人ひとりにまで愛情を注ぎ、いざ

となれば会社や社員のために全財産を投げ出す(?)と言われている点である。

しかし、冷静に考えてみると、果たしてそれが長所であり、よいことであろうか?

会社を他人に売る気がない日本の経営者は、日を開けば「会社は皆さんのものです」と調子

のいいことを言いながら、実はカマドの灰まで自分のものだと思っている。他人からとやか

く口をはさまれたくなく、自分の意思どおりに好き勝手に経営を行なっているとは言えない

だろうか。その姿は企業経営者というよりは趣味の日曜家庭菜園家であって、お世辞にもプ

ロのお百姓とは言えない。前者のやっていることは、ひたすら自己満足のためであり、後者

のプロのお百姓のように「売り買い」で利益が出るか出ないかの生産活動、経済活動に力を入

れて汗を流す人間とは違う。

しかも、「会社を売る」となれば、それだけ自分の会社にのめりこまず、客観的に見る眼が

養われる。例えば、会社を美しい形、財務諸表をよその経営者が見てもほればれするような

立派で美しいものにしようと努力する。自分の会社を市場で売り出すためである。いかに形

よく、枝ぶり。葉ぶりを見栄えよくし、サイズを揃え、天候や害虫に強い樹木や野菜に育つ

よう、絶えず気を配り、注意深く肥料を与えるなど努力を惜しまない。

ところが、この後者のような経営者は、日本ではきわめて稀、というよりもまず皆無と言っ

ていいだろう。会社を自分の生活の場とし、本来あるべき法人的な発想や、出資している株

主や資本家の期待などに応えることも考えないのが、日本の経営者である。また従業員も会

社を自分の利益のために利用し、儲けを減らすことばかり考えている。

家族で働く零細規模の生業、家業段階は別として、年商一〇億円以上、社員数五〇人以上

くらいの規模になった企業経営者がなすべき第一の務めは、素晴らしい財務諸表をつくり上

げ、創造することである。そうすれば出資者に高配当で報い、銀行には借入金の元金。金利

をキチッと支払い、仕入先や納入業者などの取引先には約束の期日に代金を現金でキッチリ

と支払ったうえに、会社で働いている社員に地域、業界の水準以上の給料を払い、そのあと、

利益が残れば経営者が高給を手にすることができるだろう。これができてこそ、本当の意味

での立派で優秀な経営者と言えるのである。

後進国の王様じゃあるまいし、世襲で得た地位を死ぬまで人には譲らないばかりか、社員

も幹部も皆ファミリー、といった一族意識で自分の周りを固め、顧客や取引業者へ「顧客第

一主義」、「共存共栄」などと言うのは口先だけで、会社に生活費どころか遊興費まで持たせる。

社員は社員で慰安旅行や親睦会、忘年会、新年会、さらに創業記念日だ、新人歓迎会だと騒

ぎまくり、その費用は会社が負担して当たり前といった風潮が一般的になっている。また業

者懇談会の実態は、官も民も、日本国中、形こそ違え、いずれも接待天国になっている。

おまけに、毎年、夏と冬には月給のほかにボーナスを支給するうえ、決算賞与、さらに○

○達成賞、永年勤続手当など、ことあるごとに会社は金品をバラまいている。このような実

態は、海外の優秀な経営者にはとても理解できない。たしかに日本は、世界の先進諸国に比

べて直接税の割合が高く、経営者、サラリーマンとも重税に泣かされていることはあるにせ

よ、海外の経営者には奇妙な現象としか映らない。

こんなことを続けていることもあって、たいていの日本の会社の財務諸表(貸借対照表に

せよ、損益計算書にせよ)の形は醜く、まったく売り物にはならない。経営者はしっかりし

た理念もなく、ただ自己流の経営を進めている結果、経営の実態、財務諸表は贅肉を取り忘

れた肥満体に陥っているか、それともその反対にガリガリのやせすぎの体形になっているの

がほとんどであるc

ここで、もう一度、この章の最初に触れた問題に戻って考えよう。自分の会社を素晴らし

い形・組織体に育て上げ、市場で売却することが、悪いことであろうかc

よい会社をつくり上げて、自分は社長をサッサと辞める。そのよい会社の条件とは、第一

に、次の後継者を育てていることである。にもかかわらず、いつまでも人に譲れないように

しながら、「後を任せられる人間がいない!」と言っているのは、自らが経営者として不合格

なことを証明しているようなものである。

日本の会社で株式公開していないほとんどの企業は、トップが変わり、もっとましな株主・

経営者が乗り込んできたほうがずっとよい会社に変わるのは間違いない、と言っても言い過

ぎではないだろう。また、もし、社長が会社を売り払うことに反対する従業員は、会社によ

りかかり、ぶら下がって働いているだけにしかすぎない連中、と言っても過言ではない。

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