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手腕の磨き方

方向性を決定する二番目の要因に、社長自身の手腕と考え方がある。これによって、方向性の決定が全く違ってくる。

事業の永続繁栄には、「成長拡大」と「安定」の両方が不可欠の大事である。成長拡大だけでは長続きしないし、安定だけでも栄えない。幾代もの繁栄を築くには、どちらを欠いてもだめである。

成長拡大と安定を同時に実現していく力が、即ち社長の手腕である。手腕を遺憾なく発揮できて、初めて事業の永続繁栄が可能となる(「成長拡大」と「安定」については、第二章で詳しく書く)。

第一のコンセプト「成長拡大」には、三つある。①増客すること、②商品やサービスの売価と粗利と数量を検討すること、③経営態勢を整えること、この二つである。

もう一つのコンセプト「安定」にも、やはり三つある。①繰り返すシステムを構築すること、②売り物を磨くこと、③お客様第一主義を実践すること、この二つである。

未来永劫に亙って自社の繁栄を築くとは、この六つの手腕を身につけ、成長拡大と安定を共に追求し続けることである。どんなに多くの会社を見ても、繁栄の究極は、そういうことでしかない

お客様第一主義という安定だけをやっていたら、会社は大きくならない。良い会社にはなっても、やがてじり貧になっていく。そうかといって、成長拡大だけをやっていたら、お客様はどんどん逃げてしまう。

だから、両方を同時に追求することが事業の命題である。要するに、社長は、成長拡大に必要な手腕と、安定に必要な手腕を兼備しなければならないということだ。

第一のコンセプトの成長拡大について言えば、事業の規模は事業を起こしたときにほとんど決まってしまう。なぜならば、市場の規模と事業の規模とは、非常に密接な関係にあるからだ。

つまり、どこの市場を狙うかという考え方と、その市場を具体的に攻略していく手腕によって、すべての事業の規模が決定されてしまうということである。

世界の人口が五十八億五千万、そしてアジアに二十五億四千万、日本に一億二千五百八十七万人いる。

人口を超えて物が売れるということはない。携帯電話が一人一本ずつの時代になったところで、人口を超えない。テレビでも、世帯に二つ、三つと普及してきても、日本の世帯数は三千六百五十万と決まっているから、おのずと上限が知れる。人口の半分が男と女で、これも決まっている。

そうすると、事業の規模は、市場の規模で決まってしまうということである。何か事業をやるときに、 一地域で事業をやったら、それよりも大きくなることはない。

事業の規模を大きくしようとするなら、地域を飛ばしたり、地域を拡大していくしか道はない。また、市場規模が大きすぎても、事業はなかなかうまくいかない。

手腕がないまま不用意に飛び込めば、すぐに大企業が参入してきて、手痛いダメージを受けることが多い。

しかし、市場が身の丈に余るからといって、すぐにあきらめる必要も無い。こういう場合は、大きな市場のどこか一点に絞り、最初は間口を広げずに専業でやっていく。

そして、徐々に力を付けていって、事業を複合化していくことが非常に大切だ。これが、優れた手腕というものだ。朧げなまま、いきなり複合化したり全体化しては絶対にいけない。

店舗を展開する場合ならば、たとえば全国に千店舗つくることが可能だとしても、まず最初は、狙いとする顧客の人口が多い好立地を綿密に絞り、十店舗ほど出店してみる。そして、立地の良いところだけを選んで、少しずう店舗を増やしていく。

ビデオやCDのレンタルをやっているカルチャー・コンビニエンス・クラブの増田宗昭社長は、事業を展開するに当たって、まず、日本全国を二十五キロメートルの升目で区切り、人口密度の高いところだけをピックアップした。それを、さらに五百メートルの升目で区切り、特に人口密度の高い約二千の地域を絞り込んだ。この二千くらいの地域は、さしたる営業努力をしなくてもやっていけるほど人口の密度が高い。そういうことを予めきちっと把握したうえで、資金があるとか無いとかを勘案しつつ、最初、どの地域からスタートすべきかを決めていった。

そして、現在、日標二千店のうち九百店近くを全国に展開している。まだまだ新店舗をつくっていける状態だが、増田社長は意図的に拡大をストップしている。それは、なぜか?増田社長自ら設立に参加しているディレク・ティービーをはじめ、他の様々なデジタル衛星テレビ放送が普及し、近い将来、レンタルビデオと競合する数百チャンネル時代が必ず到来することを予見しているからである。

次に、事業のもう一つのコンセプトである安定は、商品を購買する頻度で決まる。一回買ったら二度と買われない、あるいは長い問買われないような商品を扱えば、事業は安定しない。それは、理の当然である。

たとえば、トヨタや日産は、 一番最初、国内に販売ネットをつくっていった。日本でどんどん売れた。私は、東名高速道路が昭和三十九年の東京オリンピックをめざして開通したときに、 一分間に何台の車が通れるかを、ある一か所を切って調査したことがある。その結果を、大阪の商工会議所で話した。

そのとき、「いまに自動車が一家に二台、三台という時代が来る。テレビも一家に三台、四台、五台という時代が来る」と言ったら、社長たちがみんなワーッと笑って、「牟田さん、夢のようなうそばっかりついては、だめだよ」と言われてしまった。大阪の商工会議所にして、この反応である。それが、いまでは、「牟田さんが言ったとおりになった。だから、私はあんたを信用して講演を聞きに来てるんだ」という年配の方が何人もいる。事業規模は、人口を超えてはいかないが、自動車やテレビは物すごい勢いで伸びてきた。

東京オリンピックで、テレビがなかった世帯がみんなテレビを買うようになった。いま日本全国の町々で、家電の小売店がない町はない。ということは、家電業界は非常に成熟化したということである。そこで、各社は余勢をかって、日本から海外へ出て、アメリカやョーロッパの購買力がある先進諸国に売っていった。市場が未成熟な間は事業は物すごい勢いで成長する。しかし、成熟化は事業の成長を急速にストップさせる。

自動車でも、全く同じだ。トヨタも日産もホンダも、購買力がある先進諸国に販売ネットをくまなく築き、これまた国際的に成熟化してしまった。売上が伸びない。そうすると、買い替え需要しかないから、定期的にモデルチェンジをしたり、車種を増やしたり、販売ネットも車種別で多岐に分けたりしていった。要するに、売り物を磨き、チャネルをたくさんつくってキメ細かなサービスに努め、繰り返すシステムを構築していって、安定化を図った訳である。これが戦略である。

やがて、国内市場も先進国市場も成熟化の頂点に達した。たとえば、中国とか、あるいはロシアの経済が軌道に乗って、購買力のある国になるまでに十年から十五年はかかる。これらの発展途上国が完全なマーケットになるまでの間、どうやっていくかといえば、どこかライバルの市場を奪っていかなければならない。どこかと言えば、 一番弱い者の市場に外ならない。そこをみんなが寄ぅてたかって奪うていく。

なぜ、奪わないといけないか……事業は成長拡大が一つのバランスで、安定ばかりに止まっていることは許されないからである。

人件費も公共料金も、すべて凍結したら、固定費は変わらないから、値段も変えなくて済む。しかし、現実には統制経済ではなく、自由競争であるから、値段を高くしたり、逆に値段を安くしたら数を多く売っていかなければならない。

人件費も、公共料金も上がる。いつか必ずバランスが崩れるようになっている。そういう中で生きていくことは、非常に難しい。どうしても、いままでのお客様に新しいお客様を加えていく必要がある。縮小均衡など、事業家の考えにあってはならないことだ。

弱者の市場をみんなで奪うていく。ますます弱者は安定を脅かされ、苦境にあえいでいるというのが日の前の現実ではないか。自由競争とは、それぐらい熾烈な戦いを強いられる。各社の経営計画書を見ると、ことし一年の短期的な戦い方ばかり書いてあって、残念ながら方向性の決定とか長期的な考え方が多くの会社で欠如している。五年とか十年先どうするか、 一生をどうするかという考えを、明確に書いておくべきだ。

命を賭けてどれぐらいの大きさの会社にしたいのかという考えも書いておく。経営の手腕は、この「考え」を究めて、成長拡大と安定を実現することである。ところが、社長と話をしてても、どっちの方向へ事業を進めていくかという考えが全くない。だから、卓抜の手腕が身につくはずがない。残念でならない。

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