永続繁栄のための二大コンセプト
未来永劫に亙って繁栄を実現するということは、「二つのコンセプトを同時に追求する」ことである。
その一つは、事業の成長、拡大をやり続けるというコンセプトだ。もう一つは、事業の安定をやり続けるというコンセプトである。成長とは攻撃である。安定とは守備である。この二つ、攻撃と守備とを同時にやっていくことを、後継者に間違いなく教えていかなければならない。
攻撃とは、まず第一に、短期では「前月」より、長期では「前年」よりも増客することである。どんなことがあっても、いつでも、お客様を増やし続ける。お客様を増やした会社で業績が悪い会社を見たことがない。逆に、業績の悪い会社は、必ず、お客様の数を減らしているのだ。
なぜ、新事業をやり、新商品開発をやり、新規開拓をやり、イベントを開くかといえば、すべて、この大事な増客のためである。お客様を増やすため以外の、何ものでもない。攻撃の二番目は、なるべく前年よりも売価が高く、粗利も多い商品やサービスを開発して売っていくことが基本だが、やむなく売価が安く、粗利も少ないもので勝負せぎるを得ない場合には、必ず数量を多くだす以外にない。これが攻撃、成長拡大のための二番目の方策である。
つまり、売価が安かったり、粗利が少なかったなら、その分余計に数量を売る以外に方策はない。できるなら、前年よりも売価が高くて、粗利が多い商品を開発し続けるべきである。永久に、それをやり続ける。増客も何も永久にやり続ける。そういうことを、後継者に教えていかなければならない。
三番目に、増客できて、商品も増え、粗利が多いものも開発されたり、数量が多く売れていったら、それに合わせて経営態勢を整える。
経営態勢には二つある。
まず一つは、社員の質と人数を考える。社員に対する正しい対策を取っていくことだ。二つ目は、資本の質と量である。つまり、借金ばかりで、他人資本を中心に事業をやってはいけない。
先に書いたことを復習すると、貸借対照表の右側に、総資本があった。その一番上に、流動負債がある。流動負債の最も代表的なものは短期借入金だ。その次に固定負債がある。固定負債とは長期の借入金だ。その下に資本の部があるが、これは、今期の利益も含めた資本金のすべてであり、自己資本ということになる。借金まで含めたすべてを総資本という。その総資本の中での自己資本の比率が高くなければいけないということを、永久に教え続ける。そして、資本の獲得を間違いなくやる。
経営態勢の二つ目に、設備とか技術がある。これを、絶え間なく革新していく。店でも何でも近代化していく。設備も近代化していく。
馬車と自動車なら、自動車が勝つに決まっている。だから、馬車が設備の一種であれば、これをより近代化していく。絶えぎる近代化を進める。
上述のように、社長にとって、成長拡大は三つしかない。「増客する」「商品やサービスの売価と粗利と数量を検討する」「経営態勢を検討する」、この二つしかない。三つ以外は、枝葉末節だ。
成長とは、そういう三つから成り立っているということを教えて欲しい。揺るぎない哲学をもって、変えようがない原理原則として、伝承していく。
自分の会社は特殊で、なかなか思う通りにはいかないと言い訳する社長が多いかもしれないが、事業経営の本質は、いずれも同じである。そういう社長の甘えを封じるために、歯科医院を経営しているCさんの事例を紹介しておく。
私の門下生の中には、医師が三、四人と歯科医師が二、二人いる。いままであらゆる業種を指導してきたが、「自分は特殊だ」と主張する医師の業界も一般の業界も、物事の基本はすべて同じである。
この業界も、経営は非常に厳しい。医療費が伸びない。医師の過剰も進んでいる。その他にも、いろいろなことが問題になっている。このような現状のなかで、質の高い医療サービスを提供しながら、医療収入を上げ、また、個人としての所得も増加させるためにはどうしたらいいか、という相談を歯科医師のCさんから持ち込まれた。Cさんの医院は、最初、赤字だった。現在は、好業績を上げている。どういう手を打ってもらったか……定石として商品やサービスの売価と粗利と数量を検討して、まず第一に、保険外の高額医療を勧めた。特別室をつくり、その中で医療をやる。
それからもう一つ、歯医者を含めて医者はあまり宣伝してはいけないというような、医師会の申し合わせがあり、また法律でもそうなっているらしいが、そういう制約の中で、増客を推し進めた。そのために、「世界の歯ブラシ」というものを手がけてもらった。研究熱心ということで、医院のイメージや医者に対する信頼性が高くなれば、患者はどんどん増えていくからである。
近畿日本ツーリストとかJTBとかの旅行社に、私が親しくしている人がかなりいたので、その人たちがヨーロッパとかアメリカとか、アフリカ、南米、あるいはロシア、中近東など、いるいろな国へ行く時に、五万円とか三万円とかを渡して、「世界の歯ブラシを集めてください」とお願いした。集めてもらう時は、どこで買ったか、何という名前の歯ブラシか、すべて書き記してもらった。世界中の歯ブラシにはいろいろある。形も、大きさも、長さも、重さも、機能性も実にさまざまだ。
そのいろいろな歯ブラシを、大きくてきれいなガラスケースに入れ、どこの国の歯ブラシで、どのような効果があるか、 一つ一つ書き出して、待合室に置いた。そして、ガラスケースの隅に、ドイツ語の医学の原書を、わざわざページを開いて置いて、演出効果を盛り上げた。
また、乳幼児から老人になるまでの歯の手入れの仕方を書いた小冊子を作り、来院の患者にただであげた。
さらに第二弾として、四季ごとに、いろいろなテーマの小冊子を作り、これも来院の患者にただであげているうちに、「あそこの歯医者さんは、感じもいいし、研究熱心だ。世界の歯ブラシにはびっくりした。あんなの初めて見た」と話題になり、どんどん患者が増えていった。これは、商売というか、完全に経営的な発想である。そういう発想が非常に大切だ。
歯科医院をやっている人に限らず、自分のところは特殊だと思っている社長は、その頑なな固定観念をいますぐ捨てて欲しい。そういう社長は、自ら進んで、いろいろ多方面にわたる実業家の友達を持つ。商売人の友達を持つ。自分と反対の立場の友達を持つ。そういうことを、積極的に研究すべきだ。
Cさんはまた、「求人をしても、歯科医院は人気がなく、いい人材がなかなか来ない」とこぼしていたが、これについても、 一般企業の経営態勢を検討してもらった。
一般企業では、人を得ることに物すごい努力をしている。Cさんのところは、歯医者だからといって、募集カタログもないような状態だった。 一般の企業では、募集用カタログとか、会社概要がないところなどほとんどない。そういうものがどのようにつくられているか、まず研究すべきだ。
それから、歯医者でも事業発展計画、すなわち経営計画の発表会をやらせた。そのようにして、銀行から金を借りやすくしたり、人材が集まりやすくしたりする。事業発展計画書は、それぐらい大切なものだ。今年は粗利が幾らないといけないか、そのためには何人の患者を、要するにどれぐらいの売上を獲得しなければいけないかということも、すべて発表する。
そして、そのために看護婦をはじめ、みんながどのように努力をしなければいけないか、計画書に細かく書かせる。歯科医院も一般企業も全く同じである。事業経営の根本に、特殊はない。
最終的には、働くすべての部門の作業の仕方までマニュアルにして書いていく。そして、日でいくら言っても、「うるさい」と反発されるだけだから、 一人一人が一回で自覚するようにするために、会計年度のスタートの時に事業発展計画書の発表会を開いて、 一々を説明していく。途中で採用した者には、「事業発展計画書を読んでおきなさい」と言えるぐらいのことをやっていかないとだめだ。
歯医者でさえ事業発展計画書の発表会をやるのだから、ましてや、 一般の会社では最低限でもそれぐらいのことは必要である。
事業の計画を立てるにあたっては、先述したように、売上からスタートしてはいけない。一年間、固定費、すなわち人件費とか光熱費とか家賃とかの諸経費が幾らかかるか、これを一番最初にとらえる。そして、その分は、絶対に粗利として稼がなければならない。
もう一つ、粗利で稼がなくてはならないのは、借金の返済額である。医院と一般企業では税制が多少違うが、 一般企業では営業利益が出てから金利を払い、経常利益が出てから税金を払い、純利益が出てから配当を行い、残った内部留保金で借金の返済をする。そうすると、必要な営業利益と一年分の固定費を足したものが粗利でなくてはならない。
歯医者の場合は、保険と保険外がどれくらいで、さらに粗利益率がどれぐらいかということも分かっているはずだから、粗利を保険でいくら、保険外でいくら確保しなければならないかがすぐに出てくる。
必要粗利が分かれば、粗利益率から必要売上もすぐに出てくる。その売上に、 一生懸命にチャレンジする。募集カタログでも何でもきちっとつくって、計画的な経営をしていく。
さらに、勤労意欲のあまりないような女子従業員の意識を変えていくには、小まめに教育していく以外にない。基本的には事業発展計画書を用いて教育をする。さらに、マニュアルを用いて教育をする。
経営は非常に原始的だ。規模が小さいとか大きいとか、業種が特殊だとか、全く関係ない。きちっとすべきことは、きちっとするということに尽きる。
事業発展計画書をつくれば、全員が燃えていく。必要売上に向かってのチャレンジ、必要粗利に向かってのチャレンジを敢行する。
そして、目標以上の利益が出たら、みんなに分配すれば良い。決算賞与をきちっと出す。そういうことが、基本中の基本だ。これで、どの業界も基本は寸分変わらないということに得心がいったと思う。「うちは特殊だ」などと、決して言って欲しくない。
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