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成功の積ませ方、失敗の積ませ方

今、書いたように、私は、渡辺印刷の息子を預かって教育した時に、まず現実に目を向かせ、彼の作家になりたいという夢を容赦なく打ち砕いた。ある意味では、挫折を味わわせた。

次に、合理化協会の仕事を通して、時には試行錯誤にまかせながら、徹底的に鍛え上げたが、必ず要所要所でバックアップすることによって、大きな失敗は一度もさせなかった。そして、一人前になって巣立っていってからも折に触れ、仕事を援助したり、お客様を紹介したりして、成功体験を積ませてきた。後継者を育てていくには、成功体験と失敗体験をバランスよく積ませていくことが大切である。

私は、セミナーの質疑応答の時間に、こんな意見を言われたことがある。

「後継者の育成では、成功体験も重要だが、どちらかというと失敗を恐れずに挑戦していくようにさせないと、結局、第二の創業者とはなり得ず、現在の創業者から見れば、いつまでたってもただの良い子で終わってしまう。また、失敗はさせられないという社長の親心から、新製品の開発段階では後継者を関わらせないということであれば、結果的に後継者の育成が遅れ、その人が社長になった時には、活力のない企業になってしまうのではないだろうか。専務であろうが、常務であろうが、失敗した数が多いほど成功も多くなると思う。後継者の若さと活力を潰していくような社長であれば、空しさだけしか残らない」と。この意見に対して、どのように考えるか、 一人一人の社長に是非とも聞いてみたいと思っている。失敗の数と成功の数はほぼ同じにするのが、確かに後継者を育成するうえでの原則である。

失敗をたくさんしたら、同じように成功もたくさんする。ただし、最も重要なことが、そこに抜けている。致命傷にならない失敗をさせるということだ。言い換えれば、致命傷になる失敗は絶対にさせてはならないということである。これを忘れないで欲しい。「親心として」とかいうことは、 一切関係ない。

私が預かった後継者は、その後みんな成功しているが、育成法はその子の性格によっても随分違ってくる。つまり、失敗にめげない性格かどうかを見極めることが重要である。

また、周りが失敗を許してくれるかというと、多くの場合は許してくれない。私にも苦い経験があるが、私の部下の小さな失敗にもかかわらず、彼の進退を左右するような干渉を外から受けた。「彼を首にしてくれ」と、押しかけられた。その辛さは、苦労人でなければなかなか分からない。

本当の親ならば、甘ちゃんの子を育てるかもしれないが、私は他人だ。愛の鞭を振るう。いままで後継者を預かって、失敗したためしはない。失敗の経験も相当させるが、必ずそれ以上の成功をさせるようにしている。育て方は、その子の性格にもよるし、預かったときのスタイルにもよる。

簡単にいえば、まず、私の真似をかなりさせる。つまり、私という基本を勉強させる。しばらくすると、私を超えるように徹底的に教育する。私と同じ事業をやらないのだから、私と全く違ったこと、つまり独自のものを自分でやれるようにしてやる。

確かに、新事業とか新商品を、後継者にいきなりやらせてはいけない。そういう場合、時間の経過ということが非常に大切だ。新しい事業を自分の弟や息子に任せたりすると、ほとんどの場合、その新事業に対して社長自身が疎くなっていく。最初の仕事は、どんなものでも水物で、社長にもどうなるか分からない。それを、他人に任せっきりにすると、とんでもない方向へ走って、致命傷になることが多い。私も苦労を積んで、大部そういうことが分かるようになった。

ところが、現業ならば任せても、 一週間に一回、社長に報告があっただけで、状況がピンとくる。長い問やってきたことだから、特に創業者には、状況がすぐに分かる。

新事業とか新商品は、できるだけ社長が「長」になってやっていく。たとえば、社長が一週間、 一か月間、あるいは一年間やって、その後を任せる。事業によって違うが、 一応、社長がやって、その後を任せるようにする。そうしないと、現業は掴みやすいが、新事業は掴みにくいので、数多くの会社が失敗する。これは、理屈ではなくて、私自身のキャリアから会得した独自のノウハウである。そして、実際にもほとんどそういう結果になっている。

もう一度念を押すが、新事業をやるときは、まず社長自身がやる。むしろ、任せるのは現業である。新事業は社長が長になってやる。そして、この事業はどういうものかということをある程度掴んでから任せる。そうしないと、失敗が起こる。

小さな失敗はかまわないが、致命傷になる失敗は、後継者にさせてはいけない。

私は、よそ様の子供を預かって育てて、こんな経験をしたことがある。その子がアメリカに長い間留学して、いよいよ帰ってくることになった。帰り先は父親のところと私のところと二つあるわけだが、その子は父親を選択しないで、私を選択した。その子は、私を第二の父親というくらいに信頼している。逆に言えば、私にとって、これくらい厳しく重いことはない。しかし、事実として、父親のところへ行かずに私のところへ来る。だから、 一旦、預かったからには、責任を非常に強く持って育てていかぎるをえない。

この厳しさは、自分で他人の子を預かり、立派に育ててみて、初めて分かることである。そういうものだ。これこそ、遊びを許されない実務である。小さな失敗の経験はいくらさせてもいいが、大きな失敗をさせてはいけない。特に、新商品とか新事業には注意して欲しい。

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