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天に学ぶ

「天を師として学ぶ」といえば、いかにも、八卦占いのように思えるが、天地自然の動きというものはわれわれ人間に真実を教えてくれているものである。

春夏秋冬、寒暖、昼夜等々寸分たがわず移り変わって誤ることはない。人間もまたこの動きに従って動いてやまない。言い換えれば、人は天の命に従って動くともいえる。物は人によって動き、人は天によって動く、とすれば、物の動きも天の命に従うともいえるのである。また、天地の理、自然の動きには人間と違って感情がない。人に動かされることもない。天に従って、だまされることもなければ誤ることもない。

そのため「太上は天を師とし、その次は人を師とし、その次は経を師とす」(最上の人は天を師とし、二級の人は優れた人を師とし、三級の者は経典を師とす)という言葉さえある。

よく時のムードに巻きこまれて将来を見失なうことがある。こうしたとき、誰を師とするか。ムードに巻きこまれることのない天を師とするに如かずで、ムードに巻きこまれがちな人を師としたのではかえって危うくなろう。教本を師にするとしても、ムードに巻きこまれている自分が読むわけで、教本の教えまで破ることになるだろう。その点、自然は人間に、ありのままの姿で教えてくる。

春夏の候も、生物の生活などに狂いはない。熱したものは冷め、上がったものは下がる。自然の理である。

昭和六十一年から六十二年にかけて株価が上昇し新記録を更新しつづける活況を呈したことがある。

その背景は、超金融緩和と史上最低金利、加えて円高と世界市場の活況、内外機関投資筋の手揃い買い等々材料としては株価の上昇も当然といえたろう。しかし、なんといっても、常識を逸した値上りであった。当時、私もよく質問をうけた。

余裕資金を多分にもった内外機関投資筋や、円高による収益低下をカバーするための一般企業の財テク、預貯金離れのした個人投資家、さらには新人類の出動もあって、値下りすることはないといわれているが、手持株をどうしたらよいかこれから買ってもよいか、というようなものであった。その度に私はこう答えていた。

「あり余るはどのかねを持っている人であっても、株式投資で損をしてもよい、という人は一人もいない。ということから、先々値上がるか値下がるか考えたらいいでしょう」と。株で儲けたいなら、値上りすれば売る、ということに気づくはず。果たして、六十二年十月は平均株価で四千円近い大暴落を演じている。売る人があったから下がったのである。

「新人類が買っているから下がらない、という人があるがほんとうか」という質問もあった。そこで答えた「新人類とは、利は知っているが損の知らない人です」と

さて、天の理は正しく巡って狂うことはないが、これに逆らうことはできない。またゆるやかにめぐり動くが、これを速くすることはできない。

さて、先見力が必要といっても、先の先まで先見すると、空想論者扱いされることがある。昭和三十三年、私は、東京の九段会館で、全国地方銀行協会主催の″銀行の機械化″を演題とした講演をしたことがある。

終って廊下を歩いていたところ「今日は空気のような話をきいた」といいながら帰っていく人がある。私は、人間は空気がなければ生きてはいられない、と同じように、銀行も機械がなければ経営できなくなる、とでも解釈してくれたのかと思っていた。

ところが控え室へ戻ってから話をきくと、どうやら、空想的な話、雲をつかむような話として聞いていたらしい。現代になってみると、そのほうが、よほどウソのように思えるが少々先走ると空想論者にされてしまうらしい。

また、流れに竿さすことも物笑いにされる。現在の事業がすでに時代に流されて斜陽化しているのに拡張をつづけ、大きく名利を失なった人がある。高度成長時代の夢が捨てきれず、低成長になっても、音を今に返そうとしている向きもある。流水再び戻らずの自然の理を知らないのである。

天の理といえば、唐の詩人、李自の詩に「君見ずや黄河の水、天上より来るを、奔流して海に到って復た回らず、君見ずや高堂明鏡白髪を悲しむを、朝には青糸の如きも暮には雪となる……」(君よ、黄河の水が天より降ってくるのを見給え。その水は一旦奔流して海に到れば、もはや再び帰ることはない。人の命もまた、これと同じ。また見給え、高堂に住む貴人も、明鏡に向かって、いつのまにかわが髪の白くなったのを悲しんでいるのを……)。生まれれば老い死ぬ、入社には退職がある。天の理で何人もこの圏外にあることは許されない。いかに先見の明がある人であっても誤ることもあるが、こうした天の理に誤りはない。人間誰しも正確に見通していながら、これに備えようとする者は少ない。

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