MENU

61年間不変の定石

2008年秋のリーマンショックは、我が社スター精密にとってひとつの重要なターニングポイントだった。

何しろ、リーマンショック前の08年2月期に738億円あった売上はわずか2年後の2010年には3分の1に大激減、経常利益は191億円減り、最終利益にいたっては85億円という創業以来の大赤字を出した。

たった2年で売上が3分の1に、純利益が166億円も急減すれば、並日通の会社なら潰れてもおかしくない。私のところにも、ニュースでスター精密の大赤字を知った大学時代の友人が「お前、大文夫か」と心配して電話をよこしたくらいだ。

しかし、私は友人に「もちろん大丈夫だ。むしろ会社の財務体質はさらに良くなる」と答えた。もちろん格好をつけたわけでも強がりでもない。

スター精密は2009年から2011年までの3年間、85億円の赤字になっても会社がビクともしない財務基盤をもっており、そして、この期間にやるべきことが私にははっきりとわかっていたからだ。

そして結果はどうなったかといえば、2009年、2010年と売上・利益は右肩下がりでも、自己資本比率は好況期と変わらぬ81%を維持、無借金。国内従業員700名の人員削減、給与カットは一切していない。

さらに翌2011年は、欧州市場の回復により売上が60億円ほど増えて357億円となったが、ご注目いただきたいのは、売上の伸びではなく収益性の向上にある。

第1表の下図は2007年から2011年までの5年間のスター精密の損益の推移だ。細かい数字はとりあえず無視して、2010年から2011年にかけての売上高と営業利益の増加額に注目注目してほしい。

2010年売上高291億円、翌2011年は357億円と、売上高の増加はたった60億円であるが、その60億円がほぼイコールで営業利益増加、つまり売上高増=営業利益増となるよう、赤字前の2006年よりむしろ利益の出やすい体勢にしたのだ。

よって、我が社の主カマーケットである欧米及びアジアはいま好況をむかえて、来年以降売上の増加が期待できるだろうから、2012年度以降はさらに利益が増えていくはずだ。

こうして、友人に宣言したとおり健全性を損なうことなく、2011年2月にはV字回復ており、そして、この期間にやるべきことが私にははっきりとわかっていたからだ。

100年に一度と言われたこのたびの大不況によって創業来の大赤字を出したが、現預金の減少を6億円にとどめられたのは、創業者の父の背中を見て育ち、夢の実現のバトンを引き継いでスター精密の社長となった私のいわば意地であり、父が全霊をかけて育てた会社を絶対に守り抜くのだという、使命感に突き動かされた結果だと思っている。

いずれにせよ、父から直伝され、自らが30余年実践し続けた経営の定石の正しさを改めて確信する、良い機会になった。

ところでスター精密の創業は1950年、私の父である佐藤誠一が静岡で時計やカメラ用の精密部品をつくる工場を興したのが始まりである。

工場といってもわずか12坪の掘っ立て小屋で、社員は発起人である親父を含めてたったの6名。そんな零細企業が1990年に東証一部上場を果たし、現在では創業来の精密部品のほかに小型音響機器、工作機械、小型プリンターなどの市場で世界トップシェアメーカーにまで成長を遂げた。

私は東京の大学を卒業した1975年にスター精密に入社した。ちょうど第一次オイルショックが起きて、世の中が不景気だった頃である。

当時、タバコが130円、タクシーの初乗りが350円と、だいたい現在の物価価値の約半分なので、私の入社当時のスター精密の年商28億円というのは現在で言うと年商60億円くらいになる。いわゆる典型的な中小企業であった。

22歳で入社した私は、総務や経理、海外工場の設立や撤退などを経験しながら親父とともにスター精密の発展に尽くし、こんにち社長として経営の舵をとっているが、スター精密の経営の考え方は一貫して変わっていない。

それは弱冠23歳で裸一貫から事業を興した父・誠一が、なんとか会社を大きくしたい、そして自分を信じてついてきてくれた社員とその家族の生活を豊かにしてやりたいと、無我夢中で事業をやっていくなかでつかみ取った、経営の定石だからである。

囲碁や将棋の世界と同じように経営にも「定石」がある。定石を無視した奇策で企業が伸びたためしはまずない。

たとえあったとしても、それは一時の繁栄をもたらすだけだ。したがって、会社を永く繁栄させたければ定石を外さない経営に徹することである。

前述のとおり、我が社が2008年秋のリーマンショックに端を発した大不況で売上が一気に3分の1に激減、最終利益にいたっては85億円の赤字を出しながら、人員削減、給与カットは一切なし。現預金や自己資本比率も好調期と変わらない強い経営体勢を維持しながら、2011年2月期に黒字転換を果たしたのも、定石どおりの経営を推進してきたからにほかならない。

そこで、父が編み出し、今も私が徹底して実践している「経営の定石」の一つ一つを次章以降より述べる前に、2008年のリーマンショックから業績のV字回復を成し遂げた2011年2月期までに、私がどのような定石にもとづき経営したのかを、定石経営の最新事例としてご紹介したい。

それによって、本書で紹介する定石がどういう会社を築くためのものか、まずは皆さんに知っていただきたいのだ。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次