私は先ほど、第一に健全性、そして収益性を大事にしながら身の丈に合った成長をしていくというのが経営の本質であると申し上げたが、収益性と健全性はそれぞれ「総資本利益率」(ROA)と「自己資本比率」が一つの目安となる。
「自己資本比率」については、もはや知らない経営者などいないと思うが、要するに自分たちのカネがいくらあるかの指標だ。
自社のバランスシートの合計のうち、借金に頼らず自前で調達した資金が何%あるかを表すが、スター精密は85億円の赤字を出した2010年でも81%を維持している。
さらに、いざというときに使えるカネがいくらあるか、バランスシートの中の現預金の割合を示すネットキャッシュ比率は、現在30%だ。
ちなみに、東証一部企業約1700社の平均ネットキャッシュ比率は、たったの8・5%である。
要するに、自社の資金のうち現預金を1割も持っていないということであり、今回のような不況で思わぬ不渡りを食ったら、あっという間に資金がショートして連鎖倒産する危険性が高くなる。
したがって、とにかく借金をせずに資金は自前で捻出すべきであるが、それにはバランスシートを小さくするというのが、収益性を高めるやり方なのである。
その理由は、収益性を表す指標「総資本利益率」(”①ご〓o●>∽∽①一=ROA)を分解するとよくわかる。ROAとは、「いくらの元手を使って、どのくらい効率的に利益をあげたか」という自社の儲ける実力を表す指標である。
要するに、会社の収益性とは利益の絶対額ではなく、いかに小さな元手で多く儲けられるかが大事ということだ。
そして、ROAはバランスシートの総資産に対する税引前利益で求めるのだが、第2表のとおり、「売上高利益率」と「総資本回転率」の積というのがおわかりいただけるだろう。とすると、ROAを上げるためには、税引前利益をたくさん出して売上高利益率を高めるか、売上高を多くして総資本回転率を高めるか、あるいは両方やるかの3つである。
難しい用語ばかりでピンとこない方のためにもう少しわかりやすい言葉を使うと、経営とは「利幅を増やすか、または調達した資金を効率よく使うか、あるいはその両方をすれば儲かる」ということだ。
ところが、売上高利益率を高める方法、すなわち売上高を増やして利益を出すのはこの不況下では難しいというのはすぐにわかる。まして、売上高が減っても利益は増やす減収増益というのも、実際には至難の技だ。
一方の総資本回転率に着目すると、売上高を増やさなくとも総資本を小さくすればよいのだから、こちらの方が売上高利益率を上げるよりもはるかに簡単である。つまり、無理に売上を伸ばさなくとも、無駄な在庫、機械設備、土地、建物、売掛金などを減らせば利益が出るということだ。
事業の利益は売上さえ増えればどうにかなるものではない。売上をあげることばかりに執着して、そのために在庫が増えて売掛金が増えると資金調達が苦しくなり、借金が膨らみ支払い金利で余計に利益が減る。さらに新規出店で土地や建物、設備も増えて、結果として売上高が伸びてもバランスシートも大きくなってしまう。
そうすると総資本回転率がどんどん悪くなるから、儲からなくなる。だから儲からない事業はやらないで、儲かる事業にのみ注力する。そうして、少ない原資で確実に利益を出し、その利益を内部留保に回して、しっかりと自己資本を増やす。そうすれば、会社は絶対に潰れない。これがいかなる環境になっても、健全性と収益性を維持しながら経営する、いわば経営の本質といえるものだ。
この単純な理屈がわからないと、局面局面で逆に儲けを減らすような悪手を打ってしまう。
だから、定石を知っているかどうかが正しい経営判断をするには必要なのであるじつを言うと、年々売上が伸びるに従って、我が社のバランスシートも膨張してきていた。
売上が伸びると在庫もヒトも機械設備も増やさなければならないから、しょうがないことであるが、そのピークが2008年の売上高738億円、総資産額863億円であった。
だから、リーマンショックが起きて正直私は、「これはバランスシートを改善する絶好のチャンスだ」と思った。そこで定石に沿って、さっそく手を打ち始めたのである。
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