最も重点を置いたのは、「在庫」の圧縮である。なぜなら、在庫の圧縮は取引先の許可なしで自社だけでできるため、 一番取り組みやすい課題だからだ。
ところで、在庫を減らす方法は売るか、造らないか、この2つしかない。しかし前述のとおり、私は社員に「売るな」と言った。P/Lはいくら赤字になっても構わない。給与のカットはしないし、賞与も年間最低保証の4カ月分は必ず支給する。だから、仕入れを減らして生産も減らして、とにかく在庫を減らすようにと指示して、社員はそのとおりに努力してくれた。なんと1年間で40%減を達成してくれたのだ。
第1表上図の主要経営指標のうち「在庫」の数字を時系列で見ていただくと、2007年から在庫は増え続けて2009年は154億円と計上されている。これを2010年に一気に90億円まで減らしている。
さらに、売上を減らしたことによって「売掛金」も10億円減らした。これによって、赤字額は85億円であるが、現預金の減少は6億円にとどめられたのだ。
さらに、株価が下がったため2010年と2011年に自社株を合計36億円ほど購入したが、この資金もバランスシートの現預金を減らさずに、運転資金から捻出している。どういうやり方をしたかというと、資金の「入り」を先に、「出」を後にという定石を応用したのだ。順を追って説明すると、まず先程から述べているとおり2010年までは徹底的に仕入れを抑えて売上を減らしていたので、売掛債権の減少と同時に買掛債務も2009年から2010年の1年間で4億円ほど減っていた。
そこへ、翌2011年に主要マーケットの景気が回復したために、 一気に売上を60億円増やしたのだが、ここで仕入れの増加に伴い買掛債務が30億円増加する。しかし、 一方の売掛債権は、「仕入れてから売る」という商売の順番からいって、すぐには増えない。2010年から2011年の1年間での売掛債権の増加はわずか1億円である。
このカネの「出」と「入り」の増加額のギャップにより資金が捻出できるのだ。つまり、いったん売上をガクンと減らし、次に増やすためにまずは仕入れを増やしたのだが、そもそもスター精密は仕入れの支払い期間が必ず回収よりも遅くなるように、常に支払いサイトを長くしていたから、買掛債務で資金が調達できたというわけだ。
もちろん、今度は売った分の売掛金がこれからどんどん増えてくるのだが、これも回収をしっかり行えば支払いと回収のバランスが崩れることはない。
以上のような方法で資金の流出を徹底的に抑えることで、バランスシートの現預金は増えていくのである。詳述は後に譲るが、とにかく借入依存に陥る温床は、在庫や売掛金の増加など日々の企業活動の細部に至るものだ。不況で売れなくなると在庫が増える。売掛金を回収していないと、次の支払いのキャッシュが足りずに銀行に借金をする羽目になる。それを回避するためには、まず在庫を減らすこと、そして買掛債務の支払いよりも売掛債権の回収を早める。こういう日々の運転資金で無駄な借金をしないことが、経営者が資金繰りに悩むことのない、無借金経営を実現するための重要な定石なのだ。
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