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2 奇策が通用しない時代:低成長国家日本が背負う5つの問題

なぜ定石に則った経営が今後ますます重要になるか、今なぜ「企業経営の定石」をテーマとするか、結論から申し上げると、日本はかつてのような5%、10%という経済成長を遂げる時代を迎えることはもう三度とない、という前提にたって経営をすべきだからだ。言い方を変えると、経済が右肩上がりの時代に通用した奇策はもはや通用する経営環境にはない、ということでもある。

経営には定石というものがある。こういった定石を一つ一つ積み上げていくことは、大変地味だが、長期に繁栄する企業を築く要諦だと思う。今後、成熟国家としての低成長の道を歩む日本経済において、とくに中小企業の経営は、従来のような派手な経営手法、特別な経営手法ではなく、「どんなに苦しくてもやるべき定石は守り、やってはいけない事は絶対に避ける」、この繰り返しによって、成長のスピードは遅くとも、確実に経営する時代がきているのだ。

しかし、多くの経営者がバブル崩壊以降これだけの年数を経て、近いうちに何とか昔のような光景に戻るのではないかと甘い認識を捨てきれず、真にやるべきことを先延ばしにしたまま、「待ちの経営」をしているように思う。

しかし、残念ながら高度経済成長の再来はない。振り返れば、戦後65年の間に日本は幾度も大きな変化を遂げてきたが、その中でも一番大きな転換期は、1991年のバブル崩壊である。バブル崩壊で日本は低成長が始まり、現在でも状況はほとんど改善していない。

なぜかといえば、バブルの崩壊というのは、在来の不況とは異質のものであるからだ。どういうことかといえば、バブル崩壊の本質というのは、じつは日本だけではなくて、世界を同時に襲った世界的同時不況だからである。

その原因は、冷戦の終結にある。日本企業が現在直面している不況は、冷戦終結後初めてのものであり、在来の不況と本質的に異なっているのはこの点なのだが、冷戦の終結が世界中の様々な構造を大きく変えることに、日本人は非常に疎かった。

日本人にとってみれば冷戦が終結するということは、「これで核戦争勃発の不安が解消される。万事ハッピーだ」となるが、欧米にとっては単純にハッピーとはいかない。なぜなら、戦争が終わるということは軍需産業の衰退や軍隊の縮小という問題を招くからだ。

しかし、日本には縮小するような防衛産業もなければ縮小するほどの大きな軍隊もないから、冷戦の解消が激動の国際社会の変化の契機となるような大きな問題として受けとめることが、どうにもできなかったのだ。

ちなみに、東西冷戦の終結により世界にどのような変化が起きたかというと、東と西の間を自由に行き来できるようになったことで、いわゆる経済のグローバル化が一気に進んだ。東側の非常に安い労働力が大量に自由主義経済圏に流れ込み、その上、同時期にアジア諸国の経済も成長して技術力をつけ始めた。

ョーロッパでは、東西ドイツの統合、ソ連の消滅、そして東欧諸国の民主化運動により、ポーランドやハンガリーなどの国々から大量の難民がEC (現在のEU) へ流入した。ECにすれば、東欧諸国に資金援助をして再建の手助けをしたかったが、どうにも東欧を助けるほどの資金余力がない。そこで、輸入に係る規制を解除して、東欧の廉価な商品を市場に流通させ、経済的自立を促したのだ。

当初、東欧の商品を目にしたEC諸国の消費者は、「デザイン性や品質はイマイチだな」と感じたであろうが、価格の圧倒的な安さに魅力を感じ、 一斉にEC諸国に東欧の低価格品が受け入れられた。

この、いわば「低価格志向」の動きはヨーロッパ同様アメリカでも起こり、カナダやメキシコ、あるいは東南アジアからの輸入品の規制解除に踏み切ったアメリカに安い商品がどんどん入ってきた。そしてこの動きに対応すべく、アメリカ経済は大きな構造変化を成し遂げた。結果、1990年代のアメリカは長期不況にあえぐ日本とは対照的に、高成長と低インフレを両立するという、これまでに見られなかった高パフォーマンスを実現し、80年代の経済混乱期を経て、再び回復の傾向を見せたのである。

ところが、日本だけがこの動きに対応できなかった。多くの企業は冷戦終了後のグローバル経済体制の流れに乗れず、旧来の経営に国執していた。民間企業は過剰な設備・雇用。負債を抱え込み、中小零細企業だけでなく大企業の倒産も相次ぎ、経済停滞が長引いた。

要するに、現在の不況というのは、我々日本人が世界の大きな変化に余りにも鈍感だった上、これまでの成功体験に溺れて、真剣に課題に取り組まなかった結果なのである。

さて、以上が今後の日本の低成長を裏付ける海外要因であるが、国内要因についても、とくに深刻な要因が5つある。これらの要因を解消しないことには、何年待っても景気は回復しないのであるが、残念ながら解決の見通しは未だ立たずといったところである。

なぜ要因の解決が難しいのか、どのくらい要因が深刻なものなのか、理由はこれから述べていくが、1970年代から海外進出を進め、アメリカ、ョーロッパ、中国、タイなどで自社工場を持ち、商社を通さず現地人を採用して直販している私の感覚からすると、どうも日本の経営者、とくに中小企業の経営者は国内だけで商売をしておられることが多いため、日本人の感覚がグローバルスタンダードとどれほどかけ離れたものかを、なかなか肌で感じてはおられないように思う。

そこで、戦後65年の間にとくに大きな変化を遂げ、かつ今後の先行きに大きな影響を与える5つの問題を挙げて、簡単に説明しておきたい。

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