社長という人種は概してロマンチストだ。そうでなければ、大失敗の可能性もある事業を自分の人生を賭けて興し、経営を続けたりできるものではない。それに社長は人一倍人情家でもある。そうでなければ、生まれも育ちも違う多くの人を率いていけない。
つまり、社長というのは人並み以上の情熱と情緒を持ち合わせた人物であるが、だからこそ、社長には人並み以上に冷静な数字のコントロールもまた必要なのである。経営はバランスである。社長の頭のなかでは夢と数字のバランスこそが一番大事なのかもしれない。すなわち、社長は自分の夢やロマンを数値化する、言い換えれば、経営数字に社長の意図を込めることが必要なのである。要するに、社長は会社の数字を意図的に創り出す人でなければならないということだ。
ところで、事業経営には数字の約束事がつきものである。そして幸いなことに、用いられる数字はそう難しいものではない。小学生の知識で十分ときている。それでいて、商売の長い歴史のなかで培った経験則から、社長にとって非常に重要な決断の根拠となるものだ。
数字は、社長の考え方を明快に整理してくれる実に便利な道具なのである。事業経営を簡単にするには、経営の定石を踏まえることだと繰り返し述べてきた。そして、多くの経営の定石は、数値化することによって、より客観的な判断材料となる。たとえば、「もっともっと儲かる会社にしたい」というのであれば、、ROAを社長がつかんでいなければいけない。「いざというときにビクともしない会社に育てたい」というのであれば、社長が自社の流動比率を把握し、さらに数値を改善する具体策を理解していないと、単なる寝言ということになる。
しかし、ちょっと周囲を見回してみただけでも、将来の経営を難しくするような資金の調達を不用意にしている会社が意外に多いのが目に付く。私が塾頭を務める経営塾において、塾生の会社の決算書をまずはじめに拝見すると、目指すべき経営指標がわからなくて社長に明確な方針がないために、必要以上の在庫を抱えて事業の収益性を大きくマイナスさせていることに気づいていないとか、資金が固定化されすぎていて、万一のときにどうなるか心配になるバランスシートにお目にかかるのは珍しくない。
こういう経営体質は絶対に直しておかなければならないのだが、財務体質の改善は一年やそこらでできるものではない。たとえば、在庫の削減ひとつとっても、今まで大量に在庫を保有していた会社が、営業になんの支障もなく来年には在庫を半分に減らせるかと言えば、なかなか難しい。やはり、在庫が増え続ける原因を突き止めて、全社をあげて解決していくには相応の時間が必要である。
こういうものは、人間の身体と同じだ。単純に風邪を引いたときは、栄養と睡眠をたっぷりとれば1日や2日で回復するが、そもそも風邪を引きにくい体質に根本から改善しようと思ったら、3カ月や半年、場合によれば1年、2年かけて食生活や運動などを日々の習慣にまでしないと成功しない。
会社も同じで、日々の資金繰りというのは、その会社の財務体質の結果を表している。いつも資金繰りに追われている会社は、資金全体の運用と調達のバランスを改善しない限り、未来永劫、資金繰りの苦労から解放されることはない。
もちろん、いま述べたように会社の体質はそう簡単には直らない。ある程度の時間が必要だ。だが、直した体質は、それ以後の会社の確実な発展のベースになってくる。そのために社長は、将来に向けて計画的に企業の収益性と安全性の2つの体質を具体的に改善していくのである。
要するに社長は、常に決算書から我が社の体質を正しくつかみ、実態が効率のいい経営となるように、なおかつ同時に、万全の健康な体質となるように、必要な手を逐次打っていかなければいけないということだ。
そのためには、これから本書で述べていく数々の定石に基づく経営指標を常に頭に入れておく必要がある。決算書に目をやったとき、大まかな暗算でいいから、これらの指標がたちどころに、自社の数字で出てくるようにしておくことが大事なのだ。
過去の数字を読みながら現在の我が社の実態を数字の約束事から客観的に捉えて、どこを改善し、何を伸ばすべきか、その明確な根拠を頭にしっかり叩き込んでいただきたい。それが、社長の示す「事業の将来の方向づけ」を地に足の着いた、社長自身の支えとなってくるものにしていくであろう。
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