企業の将来を考えるときに忘れてはならない定石は、過去の数字を大事にするということだ。なぜなら、自社の将来を計画するとき、これまでの企業体質を切り離して考えることはできないからだ。
将来の経営は、過去の体質の延長線上にプラスあるいはマイナスのアルファが加味された姿になっていく。したがって、もし社長に明確な体質改善の意識と対応がなければ、将来その範囲を超えるような変化は、到底、期待できないのである。
たとえば経費ひとつとっても、増え続けた経費は何もしない限り増え続けるものだ。あるいは、利益が減り続けてきたとすれば、何も対策を打たない限り、この利益は減り続ける、これが企業経営の定石である。
ゆえに、事業の将来を考えるときには、まず過去の数字をよく分析してみる。具体的には5年前までさかのぼって、自社のトレンドすなわち「この事業は上り調子なのか、それとも下がり調子なのか」という流れを把握するのだ。
これは的確に自社の実態をつかむために非常に重要な分析である。たとえ今期は利益が出ている部門でも、過去5年の間に毎年利益率が減少し続けているようならば、何かしらの手を打たない限り、当然のことながら来年以降も下降トレンドで推移するだろう。
つまり、今年だけの数字を見ていても先の見通しというのはわからないということだ。加えて、過去トレンドを把握しないと、その後の手の打ち方をも間違えてしまう。たとえば、過去、減収減益で推移してきた会社が1年で増収増益には絶対にならない。もしなったとしたら、それは一時的に無理をしたからであって、会社の体質が根本的に回復したわけではない。
いきなりV字で業績が向上する場合は、たいてい社長が「とにかく売上を増やせ」と大きな声で叱咤激励し、現場の営業マンが支払い条件を悪くしたり値引きしたりして、強引に押し込み販売した結果であろう。
そういうやり方で売上を一時的に上げても会社の収益性や健全性は悪化して、倒産リスクが高まるだけであることは、本書の冒頭で我が社のV字回復の経営法について述べたときにお話ししたとおりだ。要するに、急激な変革は経営に歪みを生むのである。
したがって、少なくとも業績が下降し続けている場合は、初年度は下降を食い止める。そして2年目、3年目と在庫や売掛金や経費やら様々な経営指標を、目指すべき正常値に近づけていって、大まかに5年のスパンで会社の体質を改善していくというのが良いやり方であろう。
よって、会社の実態、そして事業の将来を的確に見るためには、過去の自社の数字を時系列で見る必要があるということだ。そうして、上り調子なのか、下がり調子なのかを判断し、改善すべき点をみつけて必要な手を長期のそろばんで打っていくのだ。
これまで低迷を続けてきた会社が、明日からでもすぐに高収益を上げられる会社に変身したいと願っても、無理なものは無理なのである。実績を上げ続ける会社にしたかったら、過去の数字を検証して改善すべきポイントを発見し、時間をかけてそれを修正していくしかない。過去の数字を分析することは、会社の体質を知るためにこそ必要なのである。繰り返して言う。将来は過去の延長線上にある。現在は過去のカガミだ。それが軌道修正を加えられつつ、将来へと引き継がれていく。
現在のマイナスは直ちに明日プラスに転化できない。それは必ずどこかで無理が出る。車は急には曲がれないし、急ハンドルは事故のもとだ。長い歴史のなかでつくられたマイナスは、 一定の時間をかけて修正していくしかないのだ。
したがって、急ハンドルを切らないように、社長は過去から現在に続く会社のトレンドを的確につかまなければならないのだ。
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