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定石8:自社の「本当の姿」をつかきために、社長は通常の決算書の他に「社長のための決算書」をつくれ

前述のとおり、会社の将来は、過去の数字から自社の良いところと悪いところを社長がしっかりと把握し、それを計画的に直していくことでしか発展して行かない。つまり、社長として、自分の会社のどこが良いか、どこが悪いかを知るということが、事業経営の大前提にな

ところが、現実に数百社の経営の相談を受けた私の経験を述べると、自らの会社の実態と問題点を正確に把握している経営者は、驚くほど少ない。私がこのようなことを申し上げると、ほとんどの経営者は「そんな馬鹿な、私は会社のことは総てを理解している」と言われる。

しかし、本来会社の実態を示す決算書というものは、 一般的に経理の立場からあるいは税理士、公認会計士の先生方によって作成されているのが実態だ。そして、その実態はこれを作成した立場からは正しい決算書であることは間違いないが、何れも社長の立場から作られた決算書ではない。

したがって、この決算書を社長の立場から正しい判断が行われ易い決算書に作り直し、且つ数年分を一枚の紙に時系列に並べて眺めた時、社長はこの数年間に会社内に起きている変化、即ち自社の良いところ、悪いところを正確に把握できるのである。決算書が「社長、こんなに良くなったからもっと伸ばしてくれ、こんなに悪くなったから早く改善してくれ」と語りかけてくれる。これが社長としての決算書であるべきなのだ。

それでは、社長がひと目で会社の良いところと悪いところを把握し、将来へ向けてこれを計画的に直していける決算書とはどういうものかというと、第6表の佐藤式「社長のための

損益計算書(P/L)」である。これは一般の損益関係の決算書を社長専用にまとめた、通称「佐藤式P/L」である。

一見しておわかりになると思うが、直前期、直前2期、直前3期と過去3期分と、初年度から5年度までの目標損益計算書が一枚の紙で一覧できるようになっている。何度も書くように、過去の体質の延長線上にこれからの経営がある。現実の会社の良いところと悪いところをつかみ、どう舵取りをして修正していくかというのが経営というものだ。すなわち、過去の数字を左目で見ながら、右手で将来の数字を書いていく必要がそこにある。スター精密ではこのフォーマットのP/Lに過去5期分、そして今後5年分の目標を書き込む。そして一年ごとに検証して、修正を加えながら新たに5年分の目標P/Lをつくる。

つまり、平成23年度を初年度とすると、22年度、21年度、20年度、19年度、18年度までの5期分の過去実績と、24年度、25年度、26年度、27年度までの5年分の5年計画を立てる。そして、 一年後の23期末に計画の数字と実績値を照らし合わせ、何か予定通りにいかなかったらその原因を検証して、今度は24年度を初年度として28年度までの5年計画をつくるといった具合だ。

たとえば、23年度期首に24年度の売上を12億円と予測して、売上実績は予測通り達成できたとしても、利益が予測よりも3,000万円も下回ったとする。その原因を追求すると、「当初の採用計画では10名採るはずが、予想外に良い人材が多くて倍の20名を採用したことによって人件費が増えた」とか「運転資金が足らずに急邊、短期の借入をしたので、その金利支払いが増えた」など、いろいろな原因が明らかになる。これらを考慮して、それでも5年後の目標を達成するにはどうしたらよいかと、また計画を練り直すという作業を毎年毎年繰り返して、 一歩一歩会社の体質を改善しながら目標達成に向かって歩を進めていくのだ。

ちなみに、本書ではスペースの都合上、過去3年分までしか載せていない。ただし、今まで過去分析をしたことがない社長がいきなり5年分の数字を見ても消化不良を起こすかもしれないから、初心者は3年分の過去分析から始めてみればよい。

もちろん言うまでもないが、P/Lだけではなくバランスシート(B/S)も同様に過去5年分と将来の5年分をつくる。B/Sの重要性は後でしっかりと説明するが、とにかく会社の体質を根本から変えるためにはB/Sが非常に重要であり、P/LとB/Sをセットで見なければ、会社の将来を間違いなく方向づけることなど、とてもできない。しかし、とりあえずここではP/Lを例にして、社長のための決算書とはいかなるものかを説明したい。

(1)科目を集約する

もう一度、第6表の社長のための損益計算書をご覧いただきたい。

まず、佐藤式P/Lの見方を簡単に説明すると、冒頭に「売上高」の科目があり、そこから「売上原価」を差し引いたものが「付加価値」(売上総利益)であり、以下、この付加価値から様々な経費を差し引いて、営業利益がいくら、経常利益がいくら、税引前利益がいくら、当期利益がいくら、そして最後に「内部留保」が今期いくら残ったかという一年間の損益を、直前3期から直前期までの3年分と、さらに5年先までの目標額を一列に並べている。

そして、 一見しておわかりになると思うが、佐藤式決算書の第一ポイントは、勘定科目を社長が把握すべきものだけに集約してあるという点だ。

というのも、通常、損益関係の決算書というのは損益計算書(P/L)のほかに販売費および一般管理費の明細、メーカーであれば製造原価報告書、さらに利益金処分計算書(平成18年施行の会社法により、利益処分計算書に記載されていた配当やその他の剰余金の処分に関するものは株主資本等変動計算書に記載)など、じつに4枚もの決算書に分かれている。そうすると、先ほど申し上げたとおり、直前期、直前2期、直前3期と過去から現在に続く我が社のトレンドを分析するためには、1期4枚の資料を3年分、計12枚もの資料を見なければならない。

しかし、実際には12枚もの大量の資料を並べても、自分の会社のどこが良いのか、どこが悪いのかを見つけることは非常に難しいと思う。

そこで、会社の良いところと悪いところを過去3期分にわたり、時系列にしてひと目で把握するために、4つの決算書に細々と計上されている費用を、社長が把握すべきいくつかの経費科目に集約してしまうのだ。

たとえば賃借料がいくら、家賃・地代がいくら、あるいは修繕費がいくら、寿命消耗品がいくら、交通費がいくら…など、 一般の決算書に記載されているような細かい経費金額は、はっきり申し上げて社長がいちいち把握すべき数字ではない。

そこで、「付加価値」の科目の下にある「営業経費」などは、社員に支払う給与・賞与。福利厚生費などの「人件費」、研究開発費や新業種へ向けての調査費用など将来の仕事に対する投資費用である「先行投資」、減価償却費の「償却費」、役員の給与・退職金・法定福利費などの「役員報酬」、そして以上4つに当てはまらない経費「一般経費」の5つに大別し、一般的な損益関係の4つの決算書に別々の勘定科目として計上されているものを、それぞれこの5つの科目に集約するのだ。

たとえば「人件費」の科目には、 一般の損益関係の決算書のなかの「販売費および一般管理費」に別々に計上されている「給与」「賞与」「福利厚生費」「賞与引当金」「退職金」、メーカーであれば「製造原価報告書」に計上されている「当期労務費」も合算して、佐藤式P/Lの「人件費」の科目に一括計上する。

また、「償却費」の科目は、 一般の損益関係の決算書の「製造原価報告書」と「販売費および一般管理費」それぞれに別立てで計上されている工場と本社の償却費を合算して佐藤式P/Lの「償却費」に一括するといった具合である。

社長が会社の実態を把握して将来の方向づけをするための営業経費分析には、「人件費」「先行投資」「償却費」「役員報酬」「一般経費」と、この5つを見ればよい。もちろん、会社によっては、さらに別の科目を加えてもよいと思う。ただし、あまり分類が細かすぎるとかえって会社の実態が見えてこないので、そこは注意するように。

ちなみに、「社長のための決算書」の作り方の詳しい説明は前著『佐藤式先読み経営』(日本経営合理化協会刊)にまとめているのでここでは割愛する。『佐藤式先読み経営』には佐藤式P/LとB/Sを自社の決算書に合わせて作りかえるための専用フォーマットとモデル会社の作成見本も収録してあるので、興味のある方はそちらを参照していただきたい。とにかく本書では、佐藤式決算書のポイントだけを挙げて説明する。

(2)単位は100万円まで記載

佐藤式の決算書の2つ目のポイントは、数字の単位を100万円にすることだ。社長が経営判断に使う数字に、10万円以下の細かい数字は不要である。したがって、10万円以下は四捨五入して100万円から記載するのだ。

(3)数字の「額」ではなく「率」の推移をみる

そして3つ目のポイントは、決算書に計上されている「額」ではなく、あくまで「率の推移」を一覧で見られるようにしてあるという点だ。

佐藤式P/Lには、各期すべての付加価値(売上総利益)額の右横に、「付加価値率」つまり売上高を100としたときの付加価値額のパーセンテージを入れる。

さらに、営業経費以下のすべての科目、すなわち人件費から内部留保までの額の右横に、付加価値を100としたときの比率、つまり付加価値が分母、各勘定科目の額を分子にしたパーセンテージを入れる。

こうして決算書の数字を「率」で表すと、「額」だけ見ていても気がつかない、会社の実態がみるみる浮き彫りになってくる。たとえば、過去3期分のP/Lを並べてみて、売上高と付加価値額が増加していると、これだけで安心してしまう社長がおられる。

しかし、たとえ売上額が増加していても、売上高に対する付加価値の比率が減っているようなら、会社の状態は悪くなっていると考えなければならない。なぜなら、こういう会社は不況になって売上が落ちると、 一気に収益性が悪くなるからだ。こういうことは、売上・利益の額だけを漫然と眺めていてもわからないが、「率の推移」を追うことによって、ひと目で判断できる。

たとえば、直前期の売上「額」は直前2期よりも増えているが、内部留保率が直前3期より直前期まで3年にわたり低下していれば、会社の収益性と健全性を悪くする原因があることに気づく。

そこで、まずは付加価値に対する各経費の比率をみて、自社の収益構造の実態を分析する。たとえば、付加価値に占める営業経費の比率が増加していたら、さらに営業経費のうち、どの経費が増加しているかを探すのだ。

もし営業経費率上昇の原因が、人件費の上昇ならば、これはまずい。人件費はどの会社でも固定費の大部分を占めるものであり、人件費の膨張は会社の損益分岐点を上げ、利益の出にくい体質にする。とくに、今後売上の大幅な伸びが期待できない経営環境においては、人件費の膨張が命取りになるだろう。

したがって、社長はこれまでさしたる方針も無いまま気まぐれにやってきた人の採用や昇給・昇格を、今後は利益に見合うよう適正に行わなければならないと気づく。人件費についてどのようにすべきかという定石については後の「人件費の定石」で詳述するが、とにかく、「額」だけでなく、「率の推移」をひと目でわかるように加工するというのが、会社の実態を社長が正確に把握するためのポイントの一つなのだ。

以上の3つのポイントをふまえた佐藤式決算書を、毎年、期が変わるごとにつくり、経営者の目で読んでいけば、何が原因で2年前、3年前に比べて今年が悪くなったか、どこが良くなったか、だれが見てもすぐわかるようになる。そこを直すように努力をしていけば、会社は必ず良くなるということ、これが会社経営の定石である。

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