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定石9:部門別、支店別、商品別、得意先別などについて売上高、売上総利益など過去の実績を正確に把握せよ

「企業の将来は過去の延長上にある」そして、「会社の過去の実態を知ることが最も大事」と述べてきたが、これに基づいて事業の将来をいかに方向づけるか、3社の事例を挙げながらさらに詳述する。

ポイントは、自社の業種業態など実態に即して、過去の実績を部門別、支店別、商品別、あるいは得意先別などに分けて正確につかむことが極めて大事ということだ。

そこで、私の経営塾の門下生の会社を例に、実際に私のアドバイスにしたがって社長が部門別、支店別、商品別それぞれの決算書からどのような経営判断をしたのかをご紹介していこう(もちろん、数値的には若干変えさせていただくことをご了承いただきたい)。

【部門別の過去分析と将来の方向づけ】

第8表は、卸と小売と通販の3つのルートを通じて販売をしているA商事が部門別に会社の実績を分析し、それに対する対策を打った例である。

A商事は、卸・小売・通販の3つのルートを通じて薬および化粧品を販売してきた。第8表は、A商事の部門別の過去3年の実績と今後5年の長期計画である(かなり細かい数字が並んでいるので戸惑われる社長もおられるかも知れないが、説明はいたって簡単なので、本文にでてくる数字だけを確認していただければ結構である)。

そもそも、A商事は薬問屋として出発したが、卸部門は売上も利益も年々低下が著しい。直前3期の卸部門は、売上が15億円、付加価値が2億2,500万円、付加価値率が15%であった。卸部門の付加価値率15%というのは、悪い数字ではない。また、部門付加価値から部門経費合計1億6,900万円を差し引いた部門利益5,600万円も、そこそこの額である。

ただ見逃せないのは、直前3期から直前期にかけて、売上が15億円から10億円へと約30%も落ち込んでいることである。付加価値率も15%が11・5%へと、金額でいえば2億2,500万円から約半分の1億1,500万円にダウンしている。この間、人件費とか一般経費の削減に努力したが、それでも部門利益率は確実に落ちている。

直前3期には部門利益が5,600万円で付加価値に対する部門利益率が24・9%だったものが、直前期になると部門利益が半分以下の2,200万円で、付加価値に占める部門利益率も19。1%と大幅に減少している。

そこで社長は、「卸部門については将来性が全くない」と判断を下した。ただし、翌年からすぐに撤退することはできないから、初年度から2年度と売上を落としていく一方で、経費を食いつぶし続けることも覚悟の上で、3年度までには完全に撤退しようと決断した。事実、2年度には1,500万円の赤字を計上している。赤字であってもある程度の経費をかけぎるを得ないのが、商売の辛いところである。

一方、通販部門は直前3期から業績が非常に伸びてきている。A商事は通販に早くから目をつけ、幸いに直前3期から直前期にかけて売上が5億円から12億5,000万円へと驚異的な伸びを示している。それに加えて利益率も非常に高い。通販部門は固定費がそんなにかからないからである。

卸と比較すると、その違いがよくわかる。直前期の卸部門の人件費と比較すると、通販部門はわずか2,600万円、付加価値に対して5。6%にすぎない。ところが卸部門では、付加価値に対して54・8%を占め、額にして6,300万円だから通販部門の2倍以上もかかっている。

さらに、卸と通販部門では、付加価値率が全然違う。卸はどこの会社でもA商事と同じように大体10〜15%前後である。それが通販では35%前後と非常に高い。そこで社長は、自分の会社でなければ販売できないような商品に特化して通販部門をますます強化することによって、事業体勢の立て直しを根本的に図ろうとした。

一方、小売部門はここ数年、大型ドラッグストアが非常に増えて過当競争が激化しているため売価が低下の一途を辿り、利益率が落ちてきている。直前3期の付加価値率が32%であったものが、直前2期30・5%、直前期28%と急激に落ち込んできている。

しかし、小売部門については簡単にやめるわけにいかない。というのも、直前期の総売上高54億5,000万円に対して、小売部門だけでもその約6割の32億円を占めているからである。付加価値率が落ちるのは、今の時代、小売業一般として仕方がない。その中でも特に過当な競争を強いられている薬とか化粧品業界は年々儲からなくなってきている。

とにかく、A商事では店舗別にきめ細かな対応を練り、立地条件の良い店舗のみに特徴のある品揃えをして他店との差別化を図りながら、「攻めの経営」ではなく、ある程度の利益を確保する「守りの経営」に徹することを社長が決めた。

さらに、商圏が小さくなるかも知れないが、不採算店舗の抜本的な見直しを行い、採算が合わない店については、成り行き任せで決してテコ入れをしないことに決めた。採算をとろうと無理をすれば、結局、採算の良い店にも悪影響を及ぼすことになるからである。店を閉めることはなかなか勇気がいることだが、足を引っ張り続ける店を、ボランティアみたいにいつまでも続けていくことは、それこそナンセンスである。悪影響が顕著になる前に切り捨てる方向で、常に監視を怠らないことにした。

小売部門では以上のような事情があるから、今後の売上見通しについても、毎年数%の増加にとどめて辛く見積もっている。

そして、小売部門については、当然のことながら付加価値率も下げて事業計画を立てている。すなわち、直前期に28%だったものを毎年1%ずつ3年度までの3年間下げ続け、その後は何とか25%を維持しようという計画である。

このような方向づけは、社長でなければできないことである。しかも、非常に勇気のいることだ。この会社の直前期の会社全体の総売上高が54億5,000万円で、卸部門の売上が10億円ということは、卸が落ちてきたとはいえ全体の約2割である。

中小企業が総売上の2割を3年かけて捨てるというのは、非常に勇気がいる。ただ、このままいけばじり貧は確かだし、直前期には2,200万円の利益がでているが、無計画のままでいったらおそらく初年度から大幅な赤字になるはずである。なぜなら、何とか売上を維持しようと悪あがきをして経費が余計にかかるからである。

そこで卸を捨てる部門とし、余計な経費は一切かけないことに決めた。そして、時代にあった通販部門についてはこれからの成長が期待できるということで、自社の有力な部門に育てていき、小売については攻めるのではなく他店との差別化を図って、「守りの経営」にすることにしたのだ。

これが過去の実態を「部門別」に把握することによって、儲かるように自社の将来の方向づけをした一つの例である。

【支店別の過去分析と将来の方向づけ】

次は、多店舗展開をしている量販店を例に、第9表のような「支店別」で過去の実態をつかみ将来の方向づけをするやり方である。

第9表のとおり、B社は1号店から6号店まで計6店舗を多店舗展開している。売上規模は8億5,000万円の大型店から3,500万円の小規模型の店まであり、出店立地も都心から郊外店まで様々ある。

しかし、ここ3年の実績をみると6号店以外の店舗は売上高が減少傾向である。とくに量販店の大型化が進み、小規模店の2号店の売上高は直前3期の3,500万円から3,000万円、2,500万円に、付加価値率も22・9%から20%へと落ちている。

さらに売上は中規模ながら3号店、4号店も過去3年からずっと売上、付加価値率ともに減少しており、これは立地条件が原因であると社長は分析した。また、 一番の大型店1号店については、売上は減少傾向だが付加価値率は維持している。

このように、店舗ごとの売上と付加価値、売上に対する付加価値率を過去3年分一覧にして眺めてみると、同じ商売でも、売上規模や立地条件によって大きな変化があるということが見えてくる。

そこで、規模の小さな2号店ならびに立地条件が悪い3号店と4号店は利益率がどんどん落ちていくと判断して、社長は今後5年の間にこれら3店舗を閉鎖する計画を立てた。

そして、これで捻出できる資金を裏づけにして、新たに7号店、8号店、9号店を、立地条件、売上規模など、適切な条件に沿ったかたちで多店舗展開をしながら、収益の拡大を図っていこうということを計画した。

小売業の場合は、売上の伸展は出店政策にかかっている。しかし、店の数をただ野放図に増やせば付加価値率は下がる。これは小売だけでなく、卸だろうが製造であろうが、 一般的に売上高が伸びれば付加価値率は必ず下がるのである。

なぜなら、売上を伸ばすにはすべて平均以上に儲かる商品だけを伸ばすわけにはいかないからだ。そこには、ライバルとの生き残りをかけた激しい価格競争があるし、そもそも商売をやっていくからには、どうしてもある程度のアイテムをそろえなければならない。そうすると、多少、儲からないような商品でも無理して販売していかなければならないのである。

もし、売上が伸びて付加価値率も上がるとすれば、それは未来永劫に続く現象ではなく一時的なものに過ぎない。ゆえに、社長はむやみやたらに出店するのではなく、スクラップ&ビルドを繰り返しながら一定以上の利益率を確保し売上拡大を図るということが、小売業では非常に重要なポイントになる。

【商品別の過去分析と将来の方向づけ】

最後に、製造業C社を例に商品別の実績管理と今後の方向づけのやり方を述べる。C社は事務機器と医療機器の2つの製造部門がある。この2つの部門ごとの過去3期分の売上高、付加価値、付加価値率、経費と、付加価値から経費を差し引いた部門利益を一覧にしたのが第10表である。

まず、会社全体の売上の7割を占める事務機器部門からみると、直前3期の売上高38億3,400万円から直前期39億6,500万円と、大幅ではないが順調に増加して

しかし、付加価値率は直前3期には25・5%あったものが、直前2期には23%、直前期には21%と年々下がってきている。なおかつ経費についても、付加価値を100とした場合の経費比率は直前3期68%だったものが、直前2期には76・6%になり、直前期には84・6%と、こちらも増加している。ゆえに、部門利益はずっと減少傾向をたどっている。

一方の医療機器部門は、全社に占める売上高は3割以下と小さいが、売上高は過去3年増加しており、付加価値率は横ばいで推移している。

なおかつ、この部門の大きな特徴は経費率が直前3期は売上総利益に対して50%もかかっていたのが、直前2期には49・3%、直前期においては46・7%と下がってきていることだ。要するに、売上は伸び、粗利は維持、そして経費は縮小しているというのが現状である。

そこで社長が出した結論は、事務機器部門については過去3年間における売上高と付加価値率および経費率の傾向を鑑みて、このまま強引に売上を伸ばしていっても儲からない体質になっていくと判断し、売上の伸びよりも付加価値率の維持に注力していこうと方向づけた。具体的にいえば、これまで2%ずつ落ちていた付加価値率をなんとか0・5%の落ちにとどめるため、商品の取り扱いを付加価値率の高いものに絞り込み、売上を下げていく計画を立てた。

そして、順調に伸びてきている医療機器部門を全社挙げて販売強化に取り組み、付加価値率を維持しながら毎年10%の売上増を達成する積極策をとろうと決めた。

さて、事務機器部門の付加価値率の減少幅を今後毎年0・5%ずつにとどめるために売上をセーブしていく決定をした社長であるが、同時に経費の圧縮にも手を打たなければならない。そのなかでも経費の大部分を占める人件費は、その原資である付加価値が減少していく以上、これを圧縮していかねばならない。

本書の序章でも述べたとおり、現在の日本の人件費は世界一高い。どの会社でも固定費の大部分を占めるのは人件費であり、それゆえ人件費の膨張は会社の損益分岐点を上げ、利益の出にくい体質にする。とくに今後、売上の大幅な伸びが期待できない経営環境においては人件費の膨張は命取りとなる。

かといって、景気が悪くなったからと、安易に社員のクビを切るようでは社長失格だ。よって、これからは安易な人員の補充を止め、今後5年の総人件費をしっかりと見積もり、利益に見合った適切な人員枠内で経営をしていかなければならない。

そういう人件費の定石については後の頁で詳述するが、とにかく社長は、事務機器部門を中心に、さらに医療機器部門についても、付加価値に占める人件費率を下げていくよう決断し、その余剰人員を前々から構想を練っていた新規事業にまわすことにした。

このように、新たに人を雇うのではなく、事業の見直しにより、既存人員の余剰を使って新規事業を展開していくことによって、会社全体の付加価値率を高めていこうと計画したのである。

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