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定石21:これからは年功序列型賃金から能力型賃金へ移行する ただし、人件費の改革は時間をかけて着実におこなえ

これまで日本の会社のほとんど大部分が、いわゆる年功序列型処遇でやってきた。

今までの日本の給与というのは、新卒を採って会社で教育をして、だんだんと年功で基本給が上がる、年功序列型、教育指導型の給与体系であった。そして、基本給に役職手当、職務手当、家族手当などの諸手当がついて、これが給料全体になるというのが一般的な給与体系だろう。

戦後まだ給与水準の低い時代には、それが労使共に一番都合の良い制度であったし、実際に年功賃金が「奇跡の経済復興」を遂げた大きな要因であったことは事実だ。

しかし、日本が名だたる経済大国にまで発展すると、本書の冒頭で指摘したように、給与もいつの間にか世界最高となっていた。ただ、世界最高水準の給与という視点で見れば、40〜50歳以上の社員の中には、本人の仕事の成果と給与が合わない人たちが出てきているのも事実だ。すなわち、貰っている給与に値する仕事をしていないということである。

加えて、高齢者雇用安定法の改正後は、政府は60歳以下の定年を認めず、これをさらに65歳まで延長することが2013年までに義務化される。しかし、安易にこれに則り、定年制を延長してしまえば、企業は滅んでしまう。

そこで、大企業では確かに60歳までは雇用するが、早期退職制度を45歳頃から適用しはじめ、出向制度で中高年者を外に出してしまう。なおかつ、残った社員も55歳になると役職定年制で、 一切の役職から退いてもらうなどの厳しい対応をしている。

だから、現在の大企業の平均的な賃金カーブは55歳くらいから中折れして、そのまま定年を迎えるようなカタチになっている。さらに、定年以降の雇用延長にも厳しい姿勢をみせており、60歳になると一応退職金を払って、たとえば契約社員という名日で、給与を平均4割、シビアな会社になると5割下げて、65歳まで雇用を延長している。これが大企業の定年制延長の実態である。

あるいは、いわゆる成果主義とか能力給型の賃金制度には賛否両論あるが、大企業の多くが、今や何らかの形で成果主義に基づいた人事評価制度を運用している。すなわち、ビジネスがグローバル化する中で、年功型の給与体系の維持はもはや難しく、その人の職務能力によって給与を適正に査定され、それに相応しい給与を払うという、いわゆる能力給型が主流になる流れは、もはや止められないのだ。

ところが、中小企業の賃金カーブの多くは、いまでも55歳を過ぎても60歳まで順調に伸びている。60歳から65歳までもそのまま定年制を延長しているだけだ。これでは、人件費はかさむ一方で、本当にのんきな対応と言わぎるを得ない。

とはいえ、長年かけて築いてきた年功組織や年功処遇は、限界が見えたからといって、すぐに変えられるものではない。そこで、時間をかけて着実に実行していくということが、新しい人件費政策の定石ではなかろうかと思うのだ。

我が社でも、役職者に限っては55歳で役職から退いてもらうよう、「55歳役職定年制」を設けているが、その導入と運用は20年前から着実に進めてきたものだ。

我が社の賃金体系は、部長職や課長職についている人間は、56歳から給与が2割から3割減る。たとえば、55歳で給与55万円の課長は、56歳から定年退職するまで月額給与が38万円となるのだ。

ただし、この給与体系だけでは中高年社員のモチベーションが下がってしまうため、独自の早期退職者優遇制度を設けている。どういう制度かというと、45歳から55歳までの早期退職者に、かなり多額の退職金を支給している。具体的に言うと、45歳で勤続年数が20年以上の退職者には、退職金のほかに、25カ月分の給与と同額の特別退職金を支給している。最大で3,500万円ほどの退職金だ。

なぜここまでの優遇制度を設けたかといえば、社員の人生プランの選択に幅を設けてやりたいからだ。45歳といえば、気力体力ともに新しいことを始めるのに遅すぎるということはない。55歳で役職定年を迎えて賃金が下がることがあらかじめわかっている状況で、別の道を歩みたいという者にはできる限りの経済的援助をしてやりたいという思いから、55歳役職定年制の実施と同時に、この早期退職者優遇制度も始めたのである。

ただ、これまで早期退職者優遇制度に手を挙げた社員は年間3〜5名程度しかいない。また、65歳までの雇用延長を望む者も、じつは高齢者雇用安定法施行後の退職者20数名のうち、未だ2名のみである。

これは、早期退職者優遇制度のさらに20年前から実施している「持ち家制度」のお陰である。

我が社の賃金体系は、前の定石で述べたように、経営者自らが社員の生涯生活プランを立てて、それを実現できる給与体系になっている。たとえば、「28歳で結婚できるようにしてやりたいから、世間水準を考慮してこれくらいの給与ベースを払ってやろう」「子供は何歳になったら産めるようにしてやりたい」「少子化対策として、日本の経営者は少なくとも子供3人でも食べていけるような給料を支払うべきだ」「仮に30歳で子供ができて、少なくとも短大まで行かせてやりたい。その子が短大を卒業する頃には社員は50歳になるから、50歳の給与はこれくらいまで払ってやれば何とかなる」…という社員の生涯にわたる生活プランを立て、それに沿った給与制度を敷いているのだが、その中に「35歳で家を建てられるようにしてやる」というプランがある。

そのために、住宅財形貯蓄や銀行との提携による低金利融資を用意しており、社員のほぼ100%が、55歳までに住宅ローンの返済が終えられるようにしている。そうなると、いよいよ定年が近づく頃に住宅ローンにかかる分が不要になるため、60歳で定年を迎えてからも、再雇用で65歳まで働かなければ生活費に困る、というような社員は出てこないのだ。

このように、企業は年功序列や終身雇用という伝統的な賃金制度のなかで、経営環境の変化に合わせて、従来の賃金カーブを変えていかなければならない。年をとれば給与が自動的に上がる従来の年功序列型の賃金制度を完全に否定するわけではないが、これからは経済成長が1〜2%しかないことを前提に、企業経営や人件費総額を考えていかなければならないのだから、事業を拡大しても安易に人員を増やすことなど絶対に許されない。

人員の増加を労働生産性できっちり裏付けた上でなければ増員は認められないし、また、少ない原資の分け方にも相当の工夫を要する。

ゆえに、少ない原資を有効に配分するためには、従来のような一律の昇給ではなく、社員の利益貢献度によってメリハリをつけた公平な人件費の配分が望まれるのだ。

要するに、原資を稼ぎ出す社員には多く、原資を食いつぶすだけの社員には少なく配分せざるを得ない。そうすることによって、有能な社員のやる気をさらに高め、そこそこの社員にも発奮の機会を与え、常に生産性向上の好循環が回るようにすべきである。

これを社長は明確な意図をもって断行しなくては、会社の輝かしい未来はない。ゆえに、時間をかけて着実に、従来の賃金体系を抜本的に変えていってもらいたいのだ。

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