自社の労働生産性を高めるためには、「仕事と人のリストラ=事業構造の再構築」と共に、「人件費の変動費化」についても、社長として押さえるべき実務の定石を知っておいていただきたい。
社長は、労働生産性を高めるために、最近、どんどん増えてきている「新しい労働力」に、もっと目を向けるべきなのである。
ところが、多くの社長がこのことに無関心すぎるのは残念なことである。今の正社員の給与の半分ですむような労働力が、市場にいくらでも余っているのだ。たとえば、安くて有能なパートとか中高年齢者の労働力を、もっと積極的に活用すべきである。
また、人材派遣会社の台頭も著しい。在宅でできるような新しい外注のスタイルも、採用すべきである。特に、計算処理や文書の作成。デザイン・トレースなどの仕事は、専門の会社に依頼すると、簡単なものでも高くつくが、在宅勤務者なら安上がりですむ。今時の在宅勤務者は誰でもパソコンを持っているから、複雑な通信のやりとりも随時で簡単にできる。時代はどんどん変わっているのだ。
いずれも、単に給与を安く押えられるだけではなく経営コストとしての人件費を固定費から変動費に変えてくれるという有り難い効果がある。こうした効果に、社長としてもっと目を向けるべきである。これから先の不確定の時代、それだけ経営の機動性を増すことになるからだ。
現在、新しい形のアウトソーシングが、あらゆる分野で浸透しつつある。これまでは考えられなかった経理部門の外部委託にふみきる会社も出てきたぐらいだ。何も生産部門の海外移管や物流部門のアウトソーシングのように大がかりでなくとも、会社の仕事を見直して、「正社員でなくてもできる仕事」を積極的に外部委託するかパート社員に切り換え、「人件費の変動費化」という視点から、正社員と組み合わせて経営を行っていくことが、会社全体の人件費を下げるうえでの大きなポイントとなる。たとえば、我が社の例では、かつて213人いた女子社員を漸次パート化していって、5年後に96名まで減らしたことがある。その分、コストがぐ―んと下がり、付加価値の増加分を人や設備に再配分して、会社の勢いをさらに増した経験がある。
ヨソでこういう話をすると、「それはおたくのような細かい商品だから、女性パートでもいけるんだ。うちみたいな何トンもの大きなものを造っていると、パート化なんて、とてもとても」とすぐに反論が出る。
しかし、中国。大連の工作機器などを製造している我が社の工場には、女性作業員しかいない。これまでは危険で重くて男でもつらかった、10トンの金型の変更を女性がやっている。それは、女性でもできるようにと、クレーンやテーブルを工夫して、機械の力で重くて大きいものでも操作できるようにしてあるからだ。
仕事を単純化し、作業環境を変えていく、そうすることで、これまで常識ではパート化が考えられなかったものが、パート化できてしまうのだ。要するに、社長の執念の問題だと思う。
しかも、新しい労働の質の転換に積極的に取り組めるのが、中小企業の強みでもある。パー卜やその他の新しい労働力を積極的に活用して人件費の変動費化をはかろうとしても、大企業はそれらを簡単に採用できないのである。強力な労働組合があるからだ。
たとえば、パートを採用すると、それだけ相対的に組合員が減ってしまうから、パートは社員の10%までと労働組合が規制しているところがある。中小企業には、こんな規制を敷いている会社はほとんどない。
たとえば、私が指導している中堅の工作機械メーカIN社では、40%がパートならびに臨時雇用者である。N社の正社員は、「パートの安い人件費の上に、自分たちの待遇改善が保障されている」と、はっきり自覚している。
したがって、正社員がやめても、N社の幹部は、「正社員を補充してくれ」とは絶対に言わない。そのかわり、「ぜひ、パートを入れてください」と、社長に言ってくる。パートの方が人件費が安いからである。人件費が安いということは、それだけ業績が上がるということである。
業績が上がれば、労働生産性が上がり、自分たちの待遇改善のための原資が増える。そういうことを、N社の正社員はわかっている。本当に経営者みたいな感覚をしている社員が多い。語弊を覚悟であえて極端な物言いをすれば、他の社員がやめることを喜んでいる。それは、月給30万円の正社員がやめて、13万円のパートに切り換えれば、その分利益が増えるからである。
ところで、いま日本の世帯主以外の収入比率は20%近い。それはどういうことかと言えば、専業主婦がどんどん少なくなって、奥さんがパートで稼いでいるからだ。かつてのパートは、主婦が暇だから表へ出て、ちょっと働こうというような感じだった。あるいは、生活が豊かな人たちが、半分ボランティアみたいに働いたものである。それが、昨今では、主要な収入源の一つとして真剣に稼ぎだした。
その分、パートの質はどんどんよくなっている。先の工作機械メlヵlN社の例では、全社員が約100人で、そのうち正社員は60人、残りの40人がパートならびに中高年齢の契約社員である。
N社の場合には、既に20数年前から女子工社員の完全な代替としてパートの採用を始めた。今のようなにわかリストラではなく、早くから労働の質と構造を、人の面から徹底的に見直してきたのである。
繁忙期の単なる仕事の補充とか補助としてパートを採用するのではなく、初めから一人前の女子工社員に匹敵するような形で採用を行ってきた。女子30人くらいのうち、正社員が10人で、残りの20人がパートである。
N社の特色は、女子の場合、事務職はほとんどパートであり、逆に現場は短大卒の正社員が多いのである。 一般の会社では、現場に近い仕事がパートで、事務は正社員という形になっている。N社では逆に、経理から総務まで事務職はパートである。
そして、ここが実にユニークなのだが、パート採用の歴史が長いこともあって、パートにも年間4カ月のボーナスを支給している。パートであっても、誰かの扶養家族のままでいようという人には、到底勤められない。
4カ月分のボーナスをもらったら、被扶養限度をたちまちオーバーしてしまう。したがつて、N社では8時間勤務に満たないパートは一人もいない。6時間しか勤められないとか、被扶養からはずれるのが嫌だから年収の限度内しか働かない…などという人は、パートとして一切採用していない。
昔は、パートの初任年齢は45歳前後だったが、N社では、パートの初任平均年齢は38歳である。中には、20歳代のパートもいる。それは、結婚しても2〜3年は共稼ぎで貯金を増やそうという考えからである。とにかく、パートの初任平均年齢がどんどん若くなってきている。今、事務系のパートを募集したら、ほとんどの応募者がパソコンを使える。
さらに、N社の場合、年間4カ月のボーナスを払っても、女子正社員に比べると1時間当たりの給与は25%も安い。ボーナスを払わない一般の会社では、おそらく半分近くの給与になるはずである。これが、新卒よりもパートの女子に目を向ける本音の部分である。
昨今の相場では、高卒の女子を採用しても月給16万円は必要である。短大では、もう少し高い。とにかく、月給16万円にボーナス4カ月分をプラスすると、年間16カ月分払うことになるから256万円にものぼる。
一方、時給800円のパートを採用して、ボーナスを払わなければ、1日8時間、週40時間、月4週少々だから160余時間で計算すると、月給が約13万円、これに12を掛けても年間156万円、正社員の約60%である。
繰り返すが、時給800円のパートタイマーを採用すれば、月給16万円の新卒女子正社員を採用した場合の60%の給与ですむということである。ということは正社員の採用をパートに切り換えるだけで、原価は瞬間に40%減る。いろいろな合理化をめぐらしても、原価を40%下げることなど不可能である。
男子の中高年齢者についても、同じことが言える。第一線をリタイアした男子の中高年齢者ならば、月給17〜18万円くらい、正社員の約半分で十分に雇用することができる。運搬とか、倉庫管理とか、運転とかは、中高年齢者でも用が足りる。ということは、今の男子正社員の半分の給与で雇用できる労働力が、市場にいくらでも余っているということである。
なぜ世の多くの社長は、中高年齢者を積極的に雇用して、給与を半分にしないのかというのが、私の素朴な疑間である。そういえば、N社を訪問した経営者から、「御社は高齢者とおばさんばかりですね、とよく馬鹿にされる」と、内心では誇らしげに、N社長が言っていた。
確かに高齢者とおばさんばかりだが、経営の立場から言えば魅力の固まりなのである。この見解の相違は、どうにも仕方がない。お節介がましく、訪問者がさらに続けて言うには、「経理の仕事をパートのおばさんにやらせて、よく大丈夫ですね」…この辺の考え方が、N社長と一般社長とでは根本的に違う。
どんなに家柄が良くて頭が良い新卒の「お嬢さん」でも、何年後かに素性の悪い男と結婚したら、どう変身するかわからないのが世の常である。その点、N社では、パートの奥さんの夫の素性は事前に調査しているから、まず問題がない。夫が信用できる人物でなければ、採用しない。
夫が信用できる人物であれば、秘密保持についても安心できる。万一、パートが悪事を働けば、夫の地位や名誉にかかわってくる。新卒の女子正社員と既婚の女子パートのどちらが安心か…言うまでもなく、パートの方がよほど安心なのである。
N社長は、パート活用の歴史が長いこともあり、その質が相当に高いと自負していた。その上、年間4カ月のボーナスの実績が効いているから、応募者の中から選びに選び抜くことができる。
しかも、経理部門で働いているパートは、ほとんどが銀行出身者だという。昔の女子行員は相当に質が高かったらしい。数字に強いし、字も上手だ。比較的家柄もいいから、夫も信用できる人が多い。そういう人を選んでいけば、新卒女子の正社員採用など不合理の極みだとN社長も私も思っている。
パートの良い点を一般的にあげれば、特に主婦経験者は、経済観念に優れていることだろう。たとえば、 一般の事務用品とか、資材関係でも繰り返し購入する商品は、パートに買わせる方が断然安くあがる。日のつけどころが鋭く、交渉術に長けているから、値切り方がうまい。とても、男性の比ではない。
また、販売に関連して言えば、男性社員が開拓したお得意先の後を受けて、そこへ商品を毎月納める、あるいは、納品の幅を徐々に広げていくような繰り返して受注する仕事は、女性が最も得意とする分野である。ただし、新しいお客様を次々に開拓していくような仕事は、女性にはあまり向かないようだが。
女性の一番の特徴は、「ヒステリックな責任感」だと思う。これは、褒め言葉で、決してケナしているのではない。男性にない直情的な責任感がある。この点をわきまえて、女性のヒステリックな責任感をうまく活用すると、本当に良い仕事をしてくれる。
そういう意味で、パートは愛社精神のかたまりである。女子正社員とパートとどちらが愛社精神が高いかといえば、迷わず、パートの方がはるかに高いと言える。
ただ、N社でも、パートの戦力化を軌道に乗せるまでには、相当の紆余曲折があったのも事実である。
N社は、過去において、人員整理をしなければならないような大きな苦境に2回も追い込まれている。普通の会社だったら、クッションとしてパートを簡単に解雇したに違いない。パートとは、そもそも繁忙期の調整目的で採用しているものだからである。
しかし、N社長は、1名も解雇しなかった。そのかわり、パートを集めて、「会社の業績が悪いから、申し訳ないが1日休んでくれませんか。何としても人は切りたくない」とお願いした。今で言うところの「ワークシェアリング」である。
N社では、正社員にもパートにも週休2日制を導入して20数年たつから、その導入は相当に早かった。そういう事情があって、週5日間しか働かないパートに1日休んでもらうと、人件費はたちどころに20%安くなる。
つまり、週5日分の給与が4日分ですむから、単純計算で人件費が20%安くなるということである。週1日、それを3カ月続けて休んでもらうことによって、1人も解雇せずにすまそうという計画だった。この案をパートの全員が飲んでくれたが、不満でやめる人は1人もいなかったという。
ところが、3カ月たっても業績が十分に改善しなくて、さらにもう1日だけ休んでもらうことになった。その時の正直な感想を、N社長は次のように言っていた。
「さすがに、私は体裁が悪かった。 一所懸命に努力したが、どうにもならなかった。それで、申し訳ないが、もう1日休んでくださいと必死にお願いした。パートにとってみれば、週に3日の勤務になるから、大変な家計の圧迫になるわけである。それでも、私の誠意を汲み取ってくれた。本当に有り難かった」と。
そして、この時の苦しさと有り難さがいつまでも心に残っていたので、その2年後に、賃金カット分をボーナスの形でパートに返したという経緯がある。こういう具体的な行為が、パートと会社との信頼関係をよりいっそう強固なものにしているのだと思う。
「N社長は、景気が悪くなっても、私たちの首を切らずに守ってくれた」ということが、質の高いパートを採れる理由になっていることは事実である。
これからは、パートに対する考え方を根本的に変えなければならない。パートを繁忙期のクッションとして採用するとか、雑用に使うというだけでは、宝の持ち腐れになってしまう。パートの持てる才能をフルに生かすようなシステムを、N社の場会には、20余年かかって築いてきた。その間、ボーナスを徐々に増やしていって、やっと4カ月分払えるような形が出来上がったのである。
それでもまだ、正社員に比べると25〜30%も給与が低い。有能なパートを多く採用することによって、経営のコストが大幅に下がり、人件費が変動費になる。この2点が、ここでの大きなポイントである。
今日の明日というわけにはいかないだろうが、N社の事例を参考に、パートの戦力化を自社の人件費の定石として、ぜひ実践していただきたい。
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