設備投資は減価償却費の範囲内にする。これが設備投資の定石だと繰り返し申し上げた。
ただ現実的には、減価償却費の枠と設備投資の枠が、単年度ごとにぴったりと一致するかといえば、そう簡単にうまくいくものでもない。
理由の一つは、機械設備によって償却率や償却年数が大きく異なるからだ。たとえば、 一般機械設備だと償却年数10〜12年で、年間の償却率がおおむね20%ぐらい、工具・金型のようなものであれば償却年数は2〜3年からせいぜい5年、年間償却率が50%くらいで大変な違いがある。
さらに建物などになると、鉄筋では償却年数が65年、鉄骨で25年、償却率も9〜21・5%である。そうすると、機械設備を多く入れる期と工具。金型が多い期では、減価償却費は当然のことながら大きく変わってくるから、どうしても単年度でコントロールするのが難しい。
そこで、減価償却費の範囲内に設備投資を収めるにしても、単年度ではなく5年スパンで減価償却費を出して、設備投資の枠を見積もるのが無理のないやり方だろう。
さて、それでは第23表のモデル会社A社の設備投資計画表を使って、今後5年間での設備投資計画のやり方を説明しよう。
まずは既存の機械設備の今後5年間の償却費を書き入れる。減価償却費については経理が把握しているので、担当者に聞けばすぐにわかる。A社の場合は、直前期末の既存償却資産の簿価が1億7,800万円なので、金額の欄に数字を入れる。そして、直前期末の残高ということは初年度期首残高ということであるから、初年度の所定欄にも同じ数字を書き込む。続いて2年度から5年度までも期首残高と償却費を、同じ要領で記入していく。そうするとA社の既存機械設備の5年間の償却費合計は8,500万円ということがわかった。
すなわち、新しい機械設備を買わなくても、今後5年で8,500万円の償却費が出ることになる。続いて、新規投資の予定を書き込んで減価償却費を算出してみる。減価償却費は、(取得価格― 前年度までの減価償却費の累計額)×償却率で求められる。償却率は税法で耐用年数に応じて定められているので、経理の担当者に聞いていただきたい。
A社は、初年度に3,000万円の機械装置と、lσ00万円の金型の購入を予定している。償却率表でそれぞれの償却率を調べると、機械装置は年間償却率が25%、金型は年間償却率が100%とわかる。そこで、この2つの資産の初年度の償却費を求めるのだが、ここで一点注意が必要だ。
償却費の計算は(取得価格― 前年度までの減価償却費の累計額)×償却率だから、機械装置の初年度の償却費は、取得価格3,000万円×償却率25%=800万円(百万円以下四捨五入)である。しかし、取得初年度の償却費だけは、これを半額の400万円としておくのだ。
というのも、償却費は月割りで計算するため、期首に取得した場合は800万円の償却費だが、期の真ん中で取得すれば半額の400万円になるし、年度末に取得した場合は800万円を12等分した1カ月分しか償却できない。
そこで、期のどこで取得するかわからない初年度の償却費は、とりあえず期の真ん中で取得したということで、半額にしておくのだ。
よって、1,000万円の金型の初年度償却費も同様に、取得価格1,000万円×償却率100%=1,000万円の半額500万円となる。
そうすると、初年度の償却費総額は、既存償却資産の償却費2,600万円+機械装置400万円+金型500万円で、合計3,500万円と算出できる。
続いて、2年度も同様のやり方で償却費を求める。まず、2年度に新たに取得する2,500万円の機械装置と1,200万円の金型の償却費から求めよう。
これらは、先ほど説明したとおり期の中央で取得したという前提で半額にするので、機械装置は(2,500万円×償却率25%)■2=3,125,000の四捨五入で300万円となり、金型は(1,200万円×償却率100%)■2=6,000,000の四捨五入で600万円が償却費と算出される。
そして、この新規取得の償却費合計900万円に、初年度に取得した資産4,000万円の2年度の償却費1,200万円と、直前期以前から取得していた既存資産の償却費2,000万円を加算した計4,100万円が、2年度の償却費総額となるのだ。
ちなみに、初年度取得の機械装置と金型の2年目の償却費の計算方法は以下の通りだ。まず機械装置の方は、初年度の償却費が400万円だから、2年度の期首残高は3,000万円1400万円で2,600万円ということになる。この2,600万円に償却率25%を掛けて100万円以下を四捨五入すると、2年度の償却費は700万円と算出できる。
そして、初年度取得の金型の2年度の償却費は、2年度期首の残高が500万円(初年度期首残高1,000万円―償却費500万円)だから、これに償却率100%をかけて、償却費500万円と出す。よって、初年度取得資産である機械装置と金型の2年目の償却費総額は、1,200万円と求められるのだ。
さて、同様の計算で5年度まで各期を計算していくと、A社の5年間の新規投資額合計は2億700万円、そして5年間の減価償却費合計は2億1,200万円となり、「設備投資は減価償却費の範囲内で行う」という定石を守りながら設備投資ができることが実証された。
しかし、ここで満足してはいけない。設備生産性の面からも毎期数値が順調に上がるのかをチェックしてみなければならない。
A社の設備生産性はどうか。まず初年度の目標付加価値は5億3,300万円である。
期間平均償却資産残高は、期首と期末の償却資産残高を足して2で割るから、期首1億7,800万円十期末1億8,300万円■2=180・5の四捨五入で1億8,100万円となる。
ということは初年度の設備生産性は、付加価値5億3,300万円■初年度平均償却資産残高1億8,100万円=2・9円(小数点以下第二位四捨五入)である。
機械設備1円あたり2・9円の付加価値をあげており、機械設備が付加価値造成にきちんと貢献しているということだ。
同じ要領で5年度までの設備生産性を計算していくと、2年度「3・1」円、3年度「3・4」円、4年度「3・7」円、5年度「3・9」円と年々着実に上がっていく。
それでは、労働装備高はどうか。労働装備高は期間平均償却資産残高を期間の平均社員数で割るので、初年度の平均償却資産残高1億8,100万円■初年度の平均社員数46名=390万円となる。
同様に5年度までを計算していくと、2年度「3・9」百万円、3年度「3・7」百万円、4年度「3。5」百万円、5年度「3・4」百万円と年々微減する。ということは、設備生産性は毎期微増、労働装備高は微減となるので、これも問題ないことがわかった。
以上が、設備に対する5年計画の立て方である。この方法どおりにやれば、多額の借入金に頼ることなく、安定的な設備投資で社長の事業計画を実現できるのだ。
しかし、事業計画によっては、5年間の投資額が減価償却費の累計をどうしても上回る場合もあろう。とくに今回のような不況期には、ライバル社の倒産などで攻め時が到来することもあるc
そういう場合は、あえて定石を破ってでも減価償却費を上回る投資が必要になる。あまりに「分相応」を意識しすぎて、時代に遅れて業績は右肩下がり、将来に何ら希望のない会社、というのではダメだ。
そこで、設備投資が減価償却費の範囲を超える場合には、その上限を130%までと心得て欲しい。すなわち、減価償却費が1,000万円のときは設備投資は1,300万円、減価償却費1億円のときは1億3,000万円までならば、健全性指標やROAを悪化させることなく、安全に設備投資をすることが可能である。
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