銀行からお金を借りる場合に、長期資金で借りたらいいのか、短期資金で借りたらいいのか。この判断に明確な根拠がないというのが、一般の中小企業には多いように思う。しかし、資金導入に際して長期か短期かという問題については、はっきりと定石というものがある。それは、固定資金の不足は、長期資金で調達し、運転資金の不足は短期借入金で調達する、これが、資金繰りの一番大事な定石である。間違っても、固定資金の不足を短期借入金で調達してはならないのだ。
実際、よくある例だが、長期借入よりも短期借入の方が金利が安いからと、安易に資金不足を短期借入金で調達してしまう社長がいるが、日の前の金利は確かに少なくなっても、長期的にみて、資金繰り破綻を招くような大事になりかねない。
というのも、固定資金として運用しているカネの回収には、長い時間がかかるからだ。たとえば、固定資金運用の最たるものに、設備投資がある。設備投資をして、それが利益に結びつき、つぎ込んだカネが回収されるまでには相当の時間がかかる。ところが、この設備投資の資金を、短期間で返済しなければならない短期借入金で調達したら、会社の資金繰りが破綻をきたすのは目に見えている。
したがって、設備投資の資金には、返済のいらない自己資本で賄うことが第一であり、「5、設備投資の定石」で述べたとおり、実際の資金支出を伴わない経費である減価償却費の範囲内で設備投資をしていれば、多額の借金に依存することなく、健全に成長していけると述べたことを、覚えておられるだろうか。
要するに、長期にわたって使うことを前提に取得した固定資産は自分のカネで買うことが一番望ましいことではあるが、いわゆる好期には自己資本以上の設備投資をすることもある。この場合における安全な借人の定石は、運転資金の不足は短期借入金で調達し、それ以外の資金不足は長期借入金で調達する。なおかつ、そのために資金不足の内訳をしっかり把握せよと言いたいのだ。
ところが、問題はカネには色が着いていないから、日常の資金繰りだけをみていたのでは、まったく見当がつかない。「このところ、どうも資金繰りが苦しい…」と思っていたら、いつの間にか固定資金の運用を短期借入金の調達で賄うことになっていたというのは、実際によくある話だ。
そこで、第44表のように自社の長期借入金・短期借入金の導入区分表をつくることをお薦めしたい。まずは借入金導入区分表の見方を説明する。項目がたくさんあり、 一見ややこしく思えるだろうが、非常に単純な表だ。要するに、各期ごとに固定資金と運転資金それぞれの収支に、いくらの過不足があるかをまとめ、その不足額を長期。短期どちらの借入で調達するかを一覧にしたものである。表の区分をご覧いただきたいのだが、上から「固定資金運用」と「運転資金運用」がある。どちらもすでに説明してあるので、細かい項目の説明は割愛するが、直前2期のA社は、固定資金の源泉が1億3,000万円で、 一方の固定資金の使途は2億6,700万円である。よって、使途が源泉を1億3,700万円上回っているから、この一年間の固定資金運用では1億3,700万円の資金が不足することがわかる。対して、運転資金の状態はというと、源泉が2,800万円で使途が9,900万円と、こちらも使途が源泉を7,100万円も上回る。ということは、この一年間で運転資金が7,100万円不足するということだ。さて、こうして直前2期のA社の資金収支を出してみたところ、合計で2億800万円の資金不足が生じるのだが、これを金利が低いからと全額短期借入金で調達してはいけない。
その理由は先ほども申し上げたとおり、固定資金として運用しているカネの回収には長い時間がかかる。設備投資した翌年に、すぐ全額を賄えるだけの利益がでることなどありえないのだから、つぎ込んだ資金の回収には数年を見込まなければならない。
ゆえに、 一年以内に返済しなければならない短期借入金ではなく、金利が高くても長期で返済していく長期借入金で賄うというのが、堅実な銀行借入と資金調達の定石なのだ。
そして、第44表のように会社の資金の収支を一覧にしてみれば、こういう判断も間違いなくできる。A社は、固定資金不足1億3,700万円を1億5,000万円の長期借入金で調達した。そして、残りの不足分は、短期借入金7,000万円の調達で賄い、借入金の
それでは続いて、直前期の資金導入計画もやってみよう。直前期は固定資金の源泉が1億1,300万円、使途は8,800万円と、源泉が使途を2,500万円上回っており、つまり2,500万円も固定資金から余裕が出ている。
しかし、運転資金の方は1億7,300万円の不足である。よって、A社の直前期の総合資金収支過不足は1億4,800万円であるが、この不足を長期借入金で調達してはならない。不足しているのは日々の決済に必要な運転資金だから、これは短期借入金で賄わなければならないからだ。
よって、長期借入金導入はゼロで、短期借入金は1億5,000万円調達し、差額の200万円は次期繰越金となる。
以上のように、銀行から借金する場合には、その資金の区分をしっかりとつかみ、長期で借りるか短期で借りるかを検討してから資金調達することが、銀行取引の定石なのである。
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