会社を儲かる体質にするために、資金の効率面からB/Sをどうみるべきか、そして守るべき2つの指標について説明したが、このほかに、いや、この2つ以上に、現在の経営環境において絶対に守るべき経営指標がある。それが健全性の指標である。
たとえば、得意先から予測もしていなかった不渡りを食ったとする。小さい手形ならまだいいとして、これが大きい手形だったら大変である。自分も仕入先に支払手形を切っており、もう今月にはそれを落とさなければならない。もし落とさなかったら、そのときはこちらが倒産してしまうから、「困った」と、ただ頭を抱えている訳にもいかないだろう。さて、常識的にいって、こういう場合にまずやるべきことは、手元にあるお金をかき集めて支払いに充てることだ。しかし、全額現金でそろうことはまずありえない。
そこで、手元にあるだけの現金を持って、支払手形を切っている仕入先に駆け込んで、「実は、受取手形が不渡りになってしまいました。それで、今月末に御社宛ての手形を切っているのですが、ここに今うちにある現預金を全部持ってきました。大変申し訳ないが、これを内金として受け取っていただき、今月は一度ジャンプしていただけませんでしょうか。どうか取り立てに出さないでください」とお願いする。
そして、「うちに今これだけの売掛債権があります。これを一所懸命回収し、来月には手形の決済に回すようにします。それでも足りないときには、今うちにある在庫を処分して、とにかく御社に切った手形については決してご迷惑をかけないように決済します」と約束する。
これが定石である。これ以外の方法はないだろう。つまり、会社の健全性が高いかどうかは、手元にすぐにお金になるものがどれだけあるかということに尽きるのだ。
そして、会社が健全な体質かどうかをつかむ指標は、第51表のとおり、流動比率、当座比率、現金比率の3でつある。
経営分析の本にはよく出てくる指標なので、おそらく大半の社長がご存知かとは思うが、 一応簡単に説明しておく。
もし、この3つの指標を初めて聞いたという読者がいたら、はっきり言って勉強不足であると反省していただきたい。それほど経営の初歩であり、また非常に重要な指標なのだ。
まず、「流動比率」であるが、これはB/S左側の「流動資産」を右側の「流動負債」で割って算出する。「流動」とは、1年以内という意味である。
したがって、流動資産とは1年以内に回収される資産、流動負債とは1年以内に決済する負債をいう。
もう少し詳しくいえば、流動資産とは、現預金、売掛債権、在庫など1年以内に回収される資産であり、一方の流動負債は、買掛債務、短期借入金、未払い金など1年以内に決済しなければならない負債である。
そして、この「流動比率」は120〜150%が守るべき指標となる。つまり、分母にある「1年以内に支払わなければならない負債」よりも、支払いの原資となる資産が20〜50%多くなければいけないということだ。
次の「当座比率」は、分母の流動負債は変わらないが、分子は流動資産から棚卸在庫を除いた残りとする。当座比率は70〜100%、つまり、流動負債に対し、流動資産から在庫を引いた残りが常時70〜100%なければ、企業経営は健全とはいえないということだ。
そして最後の「現金比率」は、文字どおり、流動負債に対して現金、いわゆるキャッシュが30〜50%あればよいという意味である。
さて、流動比率120〜150%、当座比率70〜100%、現金比率30〜50%、この数値がそれぞれ何を意味するか、わかりやすくするために、もう少し具体的な話をする。資金が詰まるような不渡りを食らった場合、先に述べたように、とりあえず現預金を持って、支払手形を発行した仕入先へ真っ先にお願いに行かなければならない。それが常識である。
その場合、負債の1割に相当する現預金を持って行き、残りはすべてジャンプして欲しいと依頼したら、果たして相手は承諾してくれるだろうかといえば、よほど人の良い経営者でなければ、まず無理だろう。
では、負債額に対して何%の現預金ならば聞き入れてくれるだろうかと考えると、常識的にいって30%だ。これなら、相手が鬼でない限り、願いを聞いてくれるはずである。だが、もちろん話はそれで終わらない。
「わかりました。でも、30%はいいとして、後の残りはどうするつもりですか?」
相手は必ずこう聞いてくるに決まっている。要するに、残りの決済をどうするかという問題だ。 一刻も早く現預金を確保したいところだが、あいにく在庫を処分するには若千時間がかかる。したがって、流動資産から棚卸在庫を除いた分を残りの決済に充てなければならない。具体的には、売掛債権、受取手形、仮払金、前渡金など在庫よりも現金化しやすいものだ。そこで、こうお願いする。
「残りはあと1カ月お待ち下さい。売掛債権を回収して現金にするなり手形にするなりしてお持ちします。あるいは他の受取手形を銀行で割り引いてもらい、現金化します。それで何とかひとつお願いします」すると、必ず相手はこう突っ込んでくるはずだ。
「それでは、1カ月待ったらあといくら入れてくれるんですか?」その入れ方によっては考えてもいい、という話であるが、これはもっともである。では、一体いくら入れたら相手は納得してくれるだろうか。もちろん全額完済がベストであるが、そうもいかないことだってある。
その最低ラインが今日返済した現預金を加えて70%なら、これまた相手が鬼でない限り、これまでの長い付き合いを考慮して了承してくれるはずだ。むろん、残りは在庫を処分して全額完済するという確約は絶対に必要である。
これが、各指標の根拠である。とくに学問的裏づけがあるわけではないが、実際の経営現場で通用してきた数値であるから、非常に現実に即した数値と思っていただいてよい。
ところで、この3つの指標はすべてをクリアしていることがベストであるが、中でも私が一番重要視しているのは当座比率と現金比率だ。これはおそらく、経営分析の本にも書いていないだろうが、私独自の基準として、これからの時代は流動比率はもう見ていない。
なぜなら、在庫は非常に評価性の低いものだからである。在庫というのは自社で勝手に評価している金額であって、それが市場に出回ったときに実際にその金額で売れるとは限らない。
しかも、現在はデフレであり、モノの値段がどんどん下がっていく。それに、メーカーの場合は完成品以外のカタチ、つまり仕掛品や原材料などそのままでは販売できない在庫も評価に含まれている。たとえば、ボールペンを作っている会社は店頭でキャップだけを売ることができなくても、B/Sには在庫の評価として勝手な自己評価で何円と計上できる。
したがって、「どんなことがあっても潰れない体質」の指標は、流動資産から評価減される在庫を引いたもので、流動負債が確実に賄えるかを判断の基準にするべきであり、当座比率は100%、最低でも70%、現金比率は30〜50%なければ、企業の体質は健全とはいえない。その証拠に、ここ1、2年の間に倒産した上場企業のB/Sをチェックしてみればよい。
流動比率が200%を超えていても、保有資産の半分以上が在庫、なかには7割が在庫というめちゃくちゃなB/Sがゴロゴロある。ちなみに2008年度に倒産した上場企業30社を私独自の健全性基準、つまり、当座比率100%と現金比率50%の指標でチェックしたことがある。結果は、30社のうち26社は不合格である。
さらに、もう一つ注意点を申し上げるならば、健全性は高ければ高いほどいいというものでもない、というのが世間一般で言われていることも事実だ。先ほど「ROAは長期国債の利回りが最低合格ライン」と述べたが、現預金などを貯めて流動資産を増やすと総資本も大きくなるから、健全性を高めると同時にROAの分母が大きくなり、収益性が悪くなる。
スター精密がまさにそのとおりで、2011年度2月の時点でB/Sの合計が490億円ほどあって、うち現預金がその3割を占めているから、流動比率は350%、現金比率は100%を超えてしまい、総資本回転率も1回転を割ってしまっている。すると投資家から「この眠っているカネをもっと効率よく使ってくれ」とリクエストが入るというわけだ。
しかし、これは私の経営哲学ともいえるのだが、企業の永い繁栄を築くなら、どうか収益性よりも健全性を重視した経営に徹して欲しい。ましてや成長性、つまり売上規模拡大などは考えてはダメだ。とにかく、会社は潰れたら終わりである。皆さんの肩には従業員とその家族の生活がかかっている。その責任を考えれば、経営の優先順位はおのずと決まってくるはずだ。
つまり、第一に健全性、二番目に収益性、成長性は最後である。これはバブルの頃と真逆の順位だ。大体、バブルまではまずは成長性ありきだった。成長性を高めれば収益性も健全性もついてきたから、毎年売上が伸び、従業員数が増える会社が良い会社と評価されていた。
しかし、今はまず会社を潰さないことを念頭に置く。人間の突然死は確率的には少ないが、これからの時代、企業の突然死は十分有り得る。ある日突然資金繰りに詰まって潰れてしまうのだ。
赤字で一晩で潰れる会社はない。しかし、約定返済日に銀行にカネを返せなくて一晩で潰れる会社はたくさんある。
だから、とにかく倒産の最大要因となる借金をなくして健全性を高めるのだ。すると、B/Sが小さくなり、総資本回転率が上がる。このやり方で健全性を高めれば、収益性も同時に上がってくるのである。
ところで、会社が守るべき健全性指標には、ほかにもう一つ、「固定比率」がある。固定比率は、B/S右側の自己資本残高を分母に、B/S左側の固定資産残高を分子にした計算式で表される。
分子の「固定資産」とは、長期に渡って使うことを前提に取得した資産という意味だ。具体的には土地や建物や機械設備などの「有形固定資産」の他に、商標権や特許権など会社が利用する権利などで物理的に存在していない「無形固定資産」や、長期保有の有価証券などの「投資その他の資産」なども含まれる。
さて、いざというときの、いわば短期的な健全性は、流動資産の流動負債に対する比率をみたが、長期的な健全性をみる固定比率は、固定資産の固定負債に対する比率ではなく、分母には自己資本を用いる。
なぜなら、固定資産に投下した資金は、長期に渡って拘束される資金であるから、土地や設備を買う場合、健全性の観点である「支払い義務」から見て、どのような買い方が安心できるかを考えれば、全額返済義務のない自己資金で買うということになる。
すなわち、固定資産を返済不要の資金源である自己資本でどれだけ賄っているかを、企業の健全性を図る指標としているのだ。
そうすると、分子の固定資産を分母の自己資本が上回っている状態が健全であり、100%以下が守るべき基準値となる。つまり、平坦に表現すれば、自分のお金で固定資産は買いなさいと言っているのだ。
以上に述べてきた健全性の4つの指標、すなわち現金比率、当座比率、流動比率、そして固定比率が、なぜ大事かおわかりいただけたと思う。
要するに社長は、常にB/Sから、我が社の体質を正しくつかみ、実態が効率のいい経営となるように、なおかつ同時に、万全の健康な体質となるように、必要な手を逐次打っていかなければならない。そのためには、これまで述べた指標のうちで、少なくともROAと健全性の指標は、常時、我が社の数値を社長の頭にいれておく必要がある。
つまり、
oROAは国債の利回り以上
。流動比率は120〜150%
。当座比率は70〜100%
。現金比率は30〜50%
。固定比率は100%以下
という具体的な数値目標に対して、自社の現実との落差を埋めることこそ、経営の基本方策となるものなのだ。
社長はB/Sに目をやったときに、大まかな暗算でいいから、これらの指標がたちどころにパッパと数字で出てくるようにしておくことが大事なのだ。
つまり、過去の数字を読みながら、現在の我が社の実態を経営の定石から客観的にとらえて、どこを改善すべきか、なにを伸ばすべきか、その明確な根拠を頭にしっかりたたき込むことが必要なのである。
それが会社を絶対に潰さずに高収益体勢を築くために、社長自身が会社の方向づけを迷わない急所といえよう。
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