P/Lは見るもの、そしてB/Sは読むもの、というのが私の持論である。
P/Lは一番上にある売上高から下に目をやっていくだけで、いくら経費を使って最終的にいくら儲かったか、単純な引き算である。したがって、見ればすぐわかる。
一方、B/Sをただ眺めていても、会社の実態は一向に見えてこない。しかし、会社の実態というのはB/Sにこそ示されているものであり、B/Sの体質が良くなったのかどうか、経営としてはそれが重要である。利益は出たがB/Sが良くないというのでは、優れた経営とはいえない。利益が出て、なおかつB/Sが良くなり、会社が効率のいい会社に生まれかわる、ここにこそ、経営の定石を守る意義があると、前頁で申し上げたとおりだ。
たとえば、A社は売上は順調に伸びていても、なぜか利益が減っている。この場合、最も即効的かつ確実に体質改善を図るには、P/Lだけみても的確な方策は見えてこない。そこでまずは、第53表のB/Sを同表右図のように加工してみる。つまりB/S右側を、どういうところから資金を調達しているか、自分のカネなのか、銀行から借りてきているカネなのか、信用によって仕入れ先から買掛金として調達しているカネなのか、資金の調達先別に大きく4つに分けてみるのだ。
通常、 一般的なB/Sでも、資金を取引先や銀行など第二者から調達した資金、すなわち他人資本である「負債の部」と、株主や自社で調達した資金、つまり自己資本である「純資産の部」の2つに分けてあるが、この2つのうち「負債の部」の方をもう少し細かく分類して、自社の資金調達の良否を分析してみる。
要するに、金融費を払わなければならない資金調達がどれくらいあるかを見るためであり、「負債の部」の流動負債と固定負債を「信用調達」「金融調達」「引当調達」に振り分けていくのだ。
まず「信用調達」とは、流動負債の買掛債務と未払金のことである。モノの決済というのは、現金で行われるのが本来のあり方だが、会社の商い高が増えてくると、いちいち現金をもって買い物に行くわけにはいかない。
そこで、月末一本にまとめて請求書を出してもらい、そのときに一括して支払ったり、あるいは手形を発行して支払いを3カ月先、6カ月先に延ばしてもらう。
こういう決済の形態で調達するのが「信用調達」であり、信用調達は金融費がかからない良い資金調達法である。ただし、信用調達はこちらに会社としての信用があっての話だ。いつ潰れるかわからないような会社に買掛金でモノを売るなどということは、まずありえない。
次に「引当調達」は貸倒引当金、納税引当金、賞与引当金、退職給与引当金など諸々の引当金で、これらはいますぐ払う必要はないが、将来に備えて引き当てておくカネである。結局は利益の変形というか、要するに利益の一部繰り延べであるから、引当調達は金融費がかからない資金調達方法ということになる。
そして、「負債の部」のなかで唯一金融費がかかるのが、「金融調達」である。金融調達は短期借入金や長期借入金、割引手形など、文字通り金融機関から調達する資金のことだ。
以上、「負債の部」を大きく3つの資金調達別に分けて、あとは「純資産の部」の資本金やら諸積立金やら、当期利益を「自己調達」に集約する。言うまでもなく、これらは返済が不要な自己資本であるから、金融費はもちろんゼロである。
このようにB/S右側を大きく4つの資金調達に区分し、第54表のように過去の推移を出してみると、余計な借金をして儲けを減らしていないか、もし儲からない体質となっているのならば、B/S総資本に対して金利を払わなければならないカネがどのくらい占めているのかということが見えてくる。
第53表のA社はどうだろう。直前期、A社は総額24億9,100万円の総資本のうち、信用調達が10。2%、金融調達が39。9%、引当調達3・7%、自己調達46・2%という資金調達をしている。
金融調達が39。9%というのは、危険水域に入っているといっていい。50%なら瀕死の重症だ。おそらく今後、銀行に借金を返すだけのために、あくせく仕事をしなければならないだろう。ちなみに、この金融調達を総資本で割った比率、つまり資金調達のうち金利を払うカネが何%あるかという数値を「有利子負債比率」という。もし自社の有利子負債比率が過去3期分30%以上ならば、今すぐ借入金を減らす策を講じていただきたい。
会社は、金利を払うために仕事をするわけではないし、銀行のために仕事をするわけでもない。当たり前のことである。ところが世の中の好。不況のはざまで、必ず5年も10年も金利を払うためにだけ仕事をする会社が後を絶たない。
A社にしても、P/Lでどの経費が利益を食っているのかチェックしてみると、やはり営業外損益の金融費が過去増加傾向にあり、直前3期に付加価値の6%だったものが毎年1%ずつ増加して、直前期には8%を占めるようになってしまった。そのような会社の社長は、「強気が裏目に出た」と言い訳するのが常であるが、B/Sをしっかり読み込んでおけば防げたことも多いのではないだろうか。
さて、A社の利益が減少傾向にあるのは、銀行からの必要以上の借入が原因ということはわかったが、こういう体質はP/Lだけ見ていたのでは直らない。B/Sを社長の目で読みこなさなければ、下降気味の業績を上昇に向かわせる手は打てないのだ。
そこで今度はB/Sをどう読むかということになるが、第53表のA社の直前期の総資本は24億9,100万円である。したがって、まずは税引前利益1億3,600万円をこの総資本で割ってROAを算出してみると、5・5%と出た。ROA5・5%ならば、合格ラインだ。だが、このまま利益が下降傾向をたどり続けたら、ROAが国債利回り以下の会社になるのは時間の問題である。
とはいえ、今のところROAはなんとかなっている。問題は健全性の比率だ。第53表で算出すると、流動比率が509%もある。前項で書いたように、流動比率は120〜150%が適正値である。509%はあまりに多過ぎる。すなわち、無駄が多過ぎるのだ。また、当座比率は323%、現金比率は70%と、いずれもやはり多過ぎる。こういう常識を外れた数字になるというのは、おそらくB/Sを社長の日で読まなかったからだ。 一度でもB/Sを社長として読んでいれば、いかにB/Sに無駄があるか、 一目瞭然である。
よってA社が取るべき手は、まず流動資産のスリム化を検討し、その分資金の調達を減少させれば、それは即、利益の向上となる。たとえば、現預金と売掛債権と在庫を10億円程度減らして6億5,000万円にしても、流動比率は200%で健全性は十分だ。よって、流動資産を10億円減らし、その分を長期借入金9億9,400万円の返済に充てれば、こ
の会社は無借金経営となり、何もしなくても金利が減って利益が増加するというわけだ。要するに、結論から言えば、この会社は銀行から資金を導入する必要が全然なかったのだ。
こんな簡単なことに社長が気づいていないのは、社長としてのB/Sの押さえ方に関心を持たずにいたからだ。その結果、いつの間にか儲ける体質を悪くしてしまった。
したがって、この無駄をなくすことによって体質転換を図っていくことが、A社を最も即効的かつ確実に立て直す対策ということである。そういう点を目玉として、5年先までの経営の方策を考えていけば、A社は5年後には今より高収益かつ健全性の高い会社に生まれ変わるであろう。第53表のB/Sはそのことを教えてくれているのである。
このように、知恵を絞って自分が使いやすいB/Sに加工しておけば、B/Sのもっている意味がよくわかるし、経営者としての発想も浮かんでくる。よって、社長専用のB/Sをつくることが、会社を絶対に潰さない定石であるとご理解いただきたいのだ。
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