はじめに
私は二〇年以上にわたり、全国の工場の現場を指導してきた改善コンサルタントです。本書は、ニッポンの企業、とくにモノづくり企業を元気にするために書き下ろしました。私の持てる改善ノウハウの中でも、とくに重要な実務ポイント皿項目を、ぎゅっと詰め込んだ、《現場改善の虎の巻》です。
「改善(カイゼン)」とは、単なる作業効率を上げるアイデアや、利益を捻出するための合理化策といったものではありません。むしろ会社全体の方向性を変えたり、体質を変えていく《考え方や思想》活動です。
良い考え方や良い発想が根付くようになると、行動が変わり、チエやアイデアもどんどん湧くようになり、行動的になります。会社や工場は必ず良くなっていきます。社員やスタッフの皆が笑顔になり、利益も大きく上がるようになります。原理原則だからどこで誰がやっても同じ成果が望めます。
ただし、全社をあげて行なうことが肝心です。現場のスタッフだけでなく、社長や経営陣も含め全員で行なうことが何より大事です。体質そのものを変えていくことが重要だからです。全員の知恵と工夫を形にしていき、生産革新や経営革新につなげていく、これこそが「改善活動」なのです。
このとき重要になるのが、軸になる考え方や指標です。同じ言葉でも人によって違う意味で使っていれば動きはバラバラになってしまいます。本書は、現場改善について経営層から現場作業者に至るまで、同じ考えによる一つの軸を通すことで、全社をあげて改善活動を推進しやすくすることを目的としています。
「モノづくり〈基本の基本〉」から始まり、徐々にその幅を広げて深さを増すように項目を展開し、最後の第七章では「これからのモノづくり」と将来への展望も示しています。
(基本の基本)は、会社では入社したての若手作業員や、パート・アルバイトで作業を始めたばかりの方に、まず覚えてもらいたい基本中の基本を集めています。作業監督者やマネージャーといった若手スタッフに仕事を教えて率いていく立場の方には、〈作業を改善する基本)や〈仕組みを改善する基本〉などを、そして工場長や経営層の方には〈強いモノづくり〉や〈これからのモノづくり経営〉などを確認し、実践していただくことを想定しています。
本書を軸に、自社に合わせて改善を実行してみてください。改善には時間が必要な場合もあり、すぐには出来ないことも多くあるでしょう。しかし、もし最後までお読みいただいた上での改善実行であれば、途中で方向を間違えることもなくなるでしょう。
本書は、いつも持ち歩けるハンドブック型にし、日々の改善活動の参考にしていただけるよう、できるだけ端的で分かりやすい解説を試みました。また、各自で気づいた点をメモできるように工夫しました。本書が、ニッポンの強いモノづくり経営に寄与できること、そして多くの工場で活用されることを願ってやみません。
【急所1】改善は誰のために行なうか
工場でのあらゆる活動は、お客様からのご要望にたえるために行なっている。
工場では、たくさんの部品や製品が造られ、性能アップや機能・品質の向上、また生産性を上げるために様々な取り組みが行なわれている。
どれもモノづくりにおいて非常に重要なことだが、絶対に忘れてはならないことが一つある。それは「工場でのあらゆる活動は、お客様からのご要望に応えるために行なっている」ということだ。
「ウチは下請けだから」とか「部品だから」という人がいるが、納入先のその先や、その先の先には必ず一人のお客様がいる。血の通ったお客様からのご注文なのだ。
モノを削ったり、組み付けたり運んだりすることが仕事ではない。掃除や清掃、片付けることが仕事ではない。性能を上げたり精度を高めることは結構なことだが、それ自体は決して仕事ではない。それらの作業は、すべて取引先やお客様に製品をお届けするための部分的な活動である。
「何のためにいま作業しているのか?」「何のためにこのコトを行なっているのか?」…。いま行なっていることには必ず何かの理由があり、目的があって行なわれている。考えるクセがついていないと目の前のことが全てになり、作業のしやすさだけを考えるようになってしまう。仕事を教えたり教わるときも、お客様に良いモノを届けるために行なっているのであって、手順を完璧に覚えることが目的ではない。
お客様に良いモノをお届けすることを真剣に考えるとき、いま現在行なっている作業自体が不要なこともある。逆にもうひと手間かけることでもっと良いモノにすることができるかもしれない。作業改善してもお客様に不利益が発生するならまったく意味がない。だからこそ自分たちの手元だけを見るのではなく、全体を見ることが重要なのだ。
モノづくりの工程が多く複雑になればなるほど、 一つの製品を完成させるまでに多くの作業者が関わり、出来上がりに時間もかかるようになる。そして、原材料から製品になるまでがひと目で見えなくなればなるほど、作業の部分だけを見てしまいがちだ。
ご注文いただいた製品を、自分たちができることを総動員して、ご満足いただけるようにお届けすること、これこそが仕事であり、チームプレーなくして達成することは決してできない。改善とは、その総合力を引き上げる全社的な活動なのだ。
【急所2】基本の大切さ
基本キの基本を徹底せよ。
工場で使う工具は電動化や自動化が進んだ。硬いボルトも電動工具を使えば、非力な人でも簡単に締めたり緩めたりを一動作でできるようになり、生産性を大きく上げた。
しかし、工具の扱い方には基本があり、その原点は手動の工具だ。ネジやボルトを締めるときはサイズに合ったドライバーやレンチを選び、力が直角に当たるようにする。そうしないと頭をなめてしまい、ネジやボルトをダメにするだけでなく、場合によっては設備を壊してしまう。
新しく買った設備が短期間に故障したり壊れてしまったりする原因に、作業者がこれらの基本を知らずに見よう見まねで設備を使っていたということが多い。仕事には何でも道理があり、基本を知らなければ本物の熟練に至らない。基本の徹底は重要なのだ。
【急所3】動作経済の四原則その一―‐距離
みじか距離を短くする。
生産性の高いモノづくりには「距離を短くする」ことが欠かせない。必要なモノは近くに置くこと。資材でも機械でも工具でも、遠くにあれば、わぎわざ動かなくてはならない。その時間も労力もムダである。作業する人ができるだけ移動しないで済む配置こそ理想だ。
工程間の距離も可能な限り短くすることだ。距離があればそれだけ運搬の時間も労力も要する。人でもモノでも、移動距離を縮めることができれば、それだけ必ず、効率が上がる。
しゅうのう
資材の置き場所と置き方、機械の配置、工具の収納方法、運搬道具…、現在の状態は本当に最短距離か。広いスペースがあるから広々と使いたいというのは、自宅では個人の自由だが、仕事現場ではご法度だ。距離を短くする。これが動作経済四原則のその一である。
【急所4】動作経済の四原則その二― 両手
両手を同時に使う。
作業を観察していて気づくのだが、軸を中心とした左右均衡や左右対称の動きというのは、シンプルでバランスが良く身に付きやすい。
例えば多くの工場が毎朝行なうラジオ体操を思い浮かべてほしい。様々な動きの連続で構成されているにもかかわらず、誰でもこのラジオ体操を難なく実行することができる。なぜこのようなことが可能かというと、ラジオ体操の動きは左右対称でシンプルでバランスが良いからだ。
人間の体は見ての通り左右対称であり、この構造をモノづくりにフルに活用すべきだ。左右対称で両手が同時に付加価値を生むように治具をつくり、モノを配置し、訓練をすると、動作の数は半減しリズムが出て疲れないのでミスも減る。そのような条件を経営者はもちろん、皆でチエを出し合ってつくってほしい
【急所5】動作経済の四原則その三― 動作
動作の数を減らす。
効率の良い作業、効率の良い動きを考えるとき、最も忘れられがちなのが、「動作の数そのものを減らす」ということだ。しなくていい動作は、動作改善をするのでなく、なくすべきだ。
無秩序に置かれたモノを、ウロウロして探すというのは無意味でムダそのものの動作であり、なくさなければならない。また、暗くてよく見えないので「目をこらす」、熱いものが近くにあるので「気を付ける」、あるいは音がうるさいので「気にする」といったことも、作業効率を下げるだけの動作であり、本来しなくていいはずの動作だ。
いっしょうけんめい
大変なだけで意味がない動作を徹底的に減らすことだ。実は一生懸命働いている作業者本人が最もそこに気付きにくい。そこで第二者の日で作業者の動作を観察して改善してあげることが必要だ
【急所6】動作経済の四原則その四― 負担
楽にする。
モノを近くに取りやすく置き、手を左右対称で同時に使えるようにし、余計な動作の数を減らすとどうなるか。当然だが作業者は楽になる。いかに素晴らしい品質をつくり出す作業工程でも、身体に負担の生じる動きが必要であれば、長く品質を維持して製造することはできない。作業が楽かどうかは、大きなチェックポイントなのだ。
同じ作業でも楽になれば作業効率が上がり、品質も上がる。すべて当たり前のことだ。だから原則と言う。原則だから誰がどこでやっても変わらない。動作経済の四原則を、すべての作業者はもちろん、全社をあげて理解して、その通りの作業環境、レイアウトをつくって維持することだ。そして経営者は、最後にもう一回、本当に楽になったかを見てほしい。姿勢は、照明は…というように。
【急所7】合理的なモノの造り方
一口つかんだら離さない
合理的なモノづくりとは、「モノを造るための動作以外、行なわない」ことだ。ムダがなければ、それだけスピードもあがるしミスも減る。当然、コストにも品質にも影響する。
小さい頃から「分担作業」を習ってきた我々は、作業を人数分に分けることを正しいと考えがちだ。そして、何人もで手分けしていると、それぞれ意味のある仕事に見えてしまう。だが、作業の大半は取ったり置いたり、次の人に渡したり、数えたり、前の人のを待ったり…だ。
同じことを一人で行なうとき、人はできるだけ自分の近くにモノを置き、動かずラクに造ろうとする。手にしたモノをわざわざ作業ごとに取って置いてを繰り返さず、最短でモノづくりしようとする。運搬も在庫も管理も要らない。ここに「セル生産」という考えが出てくる。
【急所8】生産性の高め方
手は使っても、足は動かすな。
生産性が高い工場かどうかは、ひと日で分かる。作業員がムダに動き回っているようなら、生産性は間違いなく低い。基本的に、足を動かしても付加価値が上がることはない。足を使うということは、移動や運搬が行なわれていることであり、これらは何らモノづくりとは無関係だからだ。工場では、立って作業する場合もあれば、座って作業する場合もある。
しかし、いずれにしても「作業者の移動を最小限にする」ことが原則だ。作業者が動かざるを得ないのは、工具や器具、作業場などの配置やレイアウトにムダがある証拠だ。動いている間は手も止まっている。一歩は一円。 一時間に、 一〇〇歩移動しなくてはならない作業者が五〇人いるなら、年間一千万円の損が発生しているくらい大ごとなのだ。
【急所9】繰り返し作業のポイント
ああ合わせるな当てろ。
もし、狭い駐車場で車輪止めがなかったらどうなるか。よほど車両感覚のある人でない限り、後ろの壁や車にぶつけないようにと、ゆっくり何度も確認しながら車を停めることになる。
車輪止めは「丁度いい停車位置」を、コツンと、タイヤが当たることで瞬時に分かるようにしてくれるチエの産物だ。慎重になんども合わせることなく、当てれば誰でも簡単にぴたっと最適な場所を得られる。
工場では、何度も段,収り替えが行なわれているが、職人技で金型やパーツを「合わせている」ことが非常に多い。車止めのように丁度いいところが即座に分かる「当てる」仕組みにすれば、合わせる時間は不要になり、誰もが正確にできるようになる。その結果、段取り替えに要する時間を飛躍的に縮めることができるようになる。
【急所10】繰り返し作業の事前準備
繰り返しの作業にこそ、チエのレベルが現れる。
仕事の多くは、実は「繰り返し作業」である。AからBの型に交換する作業があっても、再び同じ作業をするなら同じことをすればいい。必要なモノはすべて前もって分かっているから、近くに全部準備しておけるはずだ。もし段取り替えで作業者が何かを探したり動き回っているなら、繰り返しのための学習、準備、手順化が出来ていないわけだ。
段取り替えを一分でも一秒でも縮めるには、動き回らないで済む仕組みを考えることだ。例えば、取り付ける金型だけでなく、取り付けに必要な工具、外した金型を置くスペース、その他のあらゆるものを使いやすく載せられる自社オリジナルの「段取り台車」を用意することだ。段取り台車を近くに置くだけで、すべてが揃うようにする。繰り返しの作業にこそ、工場のチエのレベルが現れる
【急所11】訓練の重要さな習らうより慣れろ。
簡単な作業はもちろんだが、もっと高度なことでも、会社の中のすべての仕事は「習うより慣れろ」が重要だ。しかし、これを知らないか、または無視しているとしか思えない会社を多く見かける。
仕事は、頭で覚えただけでは上手くいかない部分がある。理論理屈だけでは実戦では使えない。身体を動かしての訓練による「慣れ」があってこそ理論が活きるのだ。
作業は慣れるまで徹底して訓練する。正しい手順でやっても、それでも不良が出ることがある。不良やクレームが出た時に理由を探したり分析するのは後回しだ。間髪をいれずに現場に行くのも「習うより慣れろ」である。立場や役職によりすべきことは違うが、理論理屈は、慣れた後にこそ活きてくるということを忘れてはならない
【急所12】最も注意すべきムダ
ムダにはセ
種類あるが、最も注意すべきは造り過ぎるムダである。
効率の良いモノづくりを行なうには、ムダを減らすことだ。 一口にムダと言っても七種類あり、分類することで改善の手が打ちやすくなる。
す てま うんばん
具体的には、「造り過ぎのムダ」「手待ちのムダ」「運搬のムダ」「加工そのもののムダ」「在庫のムダ」「動作のムダ」「不良を造るムダ」の七つである。
「不良を造るムダ」は言うまでもないが、特に注意すべきは「造り過ぎのムダ」だ。この危険性に気づいている工場が少ないからだ。
早めに多めにまとめて造ると、在庫が増え、管理が増え、運搬が増え作業量が増える。そしてキャッシュは減る。作業者の、在庫を持てる安心感と満足感はあるとしても、経営的には何一つ良いことはない、最も罪深いムダであることを知らなければならない
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