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高収益事業をつくる逆転の視点
新市場づくりの基本思想
新規事業に共通する一番重要な成功要因は、すべからく「マーケットアウト」ビジネスになっていること。これが、「新規事業を再現性をもって成功させる基本の型」の一つだ。
2章でも少し述べたが、マーケットアウトとは、顧客の立場に立ち、顧客の視点で真の顧客ニーズを理解し、マーケットの利益を最大化するビジネスを創造し続けることである。マーケットアウトは、マーケティング用語の「プロダクトアウト」の逆を意味する造語だ。
ご存知のとおり、企業がモノをつくり、その後にどのマーケットに投入するかを決定することをプロダクトアウトというが、戦前戦後から現在にいたるまでのビジネス、つまり既存のビジネスは「モノありき」のプロダクトアウト型で成功してきた。
売るモノ。つくるモノを決定するシーンにおいては、自社開発の技術を生かすとか、自社工場を活用するとか、機能を増やして高価格のものを売りたいなど、往々にして生産(供給)側の都合が優先され、顧客ニーズは二の次となる。
そして、売リモノができて初めてマーケット(顧客)に目を向けて、「商品をどこに売るか、使ってくれそうなのは誰か」を考え、そのターゲット層に対してコミュニケーションを仕掛けていくのだ。
つまり、考える順番はあくまでも商品・サービスありきで、すでにでき上がったものをどんなユーザーに訴求するか、というのがマーケティングの中心にあった。
この傾向は製造業にとどまらず、商品を売る流通業界も例外ではない。メーカーが決めた価格、可能な納期で商品を供給する、というのが流通のおもな役割であり、ユーザーが必要とするものを先取りして開発し、「ユーザーが買いたくなる価格、期待している納期で商品を供給する」という発想がなくても十分に商売はやっていけた。
なぜなら、モノがまったくなかった時代、あるいは高度経済成長のもとでみんながモノを求めていた時代には、モノを供給することこそが最重要課題であったため、企業主導で大量生産の仕組みを確立し、スケールメリットを生かして製造コストを低減、同一規格のモノを大量かつ価格を下げて供給することは、マーケットにたしかな価値を提供することそのものだったからだ。
それが、モノが充足されてくると、プロダクトアウトでは消費者のハートをつかむことができず、マーケットインヘとシフトしていく。
マーケットインとは、顧客の声を聞いて商品をつくって売っていこう、顧客満足を重視しよう、という考え方で、「時代はプロダクトアウトからマーケットインヘ」というのが、マーケティングの教科書ではしきりにいわれるようになった。
しかし、時代は、さらにその先に移っていると私は考えている。モノの充足は粗方満たされ、もはや顧客の第一選択肢は「要らない」となったいま、プロダクトアウトはもちろんのこと、すでにマーケットインも通用しない、ということだ。
理由は簡単で、所詮マーケットインも生産者(供給者)の都合を起点にしているために、顧客のニーズを聞くといっても、生産(供給)側が先入観をもって聞いたり、自社に都合のいいことしか聞かないからだ。
マーケットアウトビジネスは先にマーケットが決まる点で、マーケットインとは決定的に違う。マーケットアウトもマーケットインも、どちらも顧客に近づく方法としては同じだが、構造的に近づけるのがマーケットアウトなのである。
また費用の面で見ても、総じて需要よりも供給力が上回り、需要喚起コストが供給獲得コストを上回る不等式社会に突入している。
であれば、顧客の欲しいものを探って、そのニーズに応えるマーケットアウト型で商売をやるほうが、高い収益性を生み出し、ひいてはビジネスの持続的な成長が可能になるのである。
もちろん、実際のビジネスにおいては現実の都合があり、数々の制約の上での勝負となるので、顧客や市場の都合だけを考えた「純度100%のマーケットアウト」は難しい。
そういう意味で、マーケットアウトは、事業および企業にとってビジネス倫理を規定する基軸であり、また、事業および企業の理念や方向性を示すものであるから、トップのコミットメントがその成否に大きく影響するのである。
零細企業を上場させたマーケットアウトの威力
ただし、マーケットアウトを事業として成立させるためには、ひとつ重要な条件がある。それは、競合にはない絶対的な価値を顧客に提供すること。そして、絶対的な価値を提供するためには、長期的なビジョンをもったうえで、ビジネスモデルといつたレベルからしっかりと設計しなければならないということだ。
では、どうすれば絶対的な価値が生み出せるのかとなると、やはり大事なことは、顧客の利益と自社の利益という相反するものを同列に置いて考えないということだ。
これは、言うは易しおこなうは難し、簡単なことではない。たとえば、あるレストランが顧客に喜んでもらうために手間暇かけて手づくりで、できたての商品をより安く提供することを追求すると、それを具現化するためには通常の飲食店と比べて人件費、教育費、水道光熱費、調理機械への投資など多くのコストがかかる。
このように顧客満足のために手間暇(コスト)をかけると利益が減る一方で、「利益を出す」ことを追求するためには手間を省いたり価格を上げたりしなくてはならない。つまり、顧客の利益と自社の利益は二律背反の関係にあり、2つを同時に追うことは難しい。
しかし、簡単にできないゆえに、この矛盾を乗り越えれば、大企業や既存の業者がやろうとしてもすぐにマネできない、絶対的な価値を生み出すことができる。これがマーケットアウトという発想の真髄なのである。
このマーケットアウトの威力を皆さんに深くご理解いただくために、私の古巣・ミスミを事例を、もう少し詳しく解説したい。
前述したように、ハーフメイドの金型部品を、たとえ1個からでもユーザーの指定するサイズに加工し、納期を守り、しかも、どこよりも安い価格で提供するという絶対的な価値を生み出したミスミは、 一介の部品流通問屋から時価総額1兆円を超えるプラットフォーマーに成長を遂げている。
「ロット単位でなく少量の部品を、短納期かつ廉価で欲しい」というニーズは、当時の金型部品メーカーや特約店にすれば、「そんなことしたら、ウチの儲けが出ない」と即座に断る注文である。
しかし、金型市場にほとんど最後発で参入する、しかも頼る資金も、流通業に欠かせない営業ノウハウも、得意先も販売ルートも、既存業者や大手企業と大きな格差があったミスミとしては、持たぎることを逆に強みにして、ゼロから顧客の利益を最大化できる仕組みをつくれば逆転できると考えたわけだ。
そもそも、ミスミ創業者の田口さんには、「モノ不足の時代はもうすぐ終わる。そうすれば、いまは生産者優位である生産財の市場にもユーザー優位の時代が来る。従来のやり方で商売をやっていては間屋は淘汰される」という確信ともいえる読みがあった。
そこで、「ミスミは生産財の流通革命を起こす。必要なものを、必要なとき、必要な量だけ、安い価格で、納期を守っていち早く提供する」というビジョンを掲げ、その具体的な戦略として「部品の標準化」や「ハーフメイド(半加工)製法」、「営業マン不要のカタログ通販」など、革新ともいえる手法を考えたのである。
まず「部品の標準化」については、従来、金型はユーザー各社であるメーカーがそれぞれの規格でつくっていたため、自社の設計者が部品の一つ一つをイチから図面を引いて内製するか、特注品を外注するかだった。
これには膨大な時間とコストがかかるため、標準部品に切り替えてもらえば設計工程が不要となり、コストダウンと製品開発スピードのアップにつながる。
ただし、標準化するといってもユーザー企業が欲しい金型部品は多種多様であるため、ミスミがそのための膨大な種類の標準品を抱えておけない。なにより、流通が在庫をたくさんもてば、そのコストはお客様に転嫁することになる。
そこで知恵を絞って編み出したのが、半製品の段階で止めておいて顧客の注文があってから最終消費地の工場で加工をおこなう「ハーフメイド製法」だ。これなら共有できる半製品を在庫するだけでよく、金型メーカーもミスミも製品在庫をもつ必要がない。
ハーフメイドの標準部品ならばサイズ展開ができるし、価格も安くできる。そうやって顧客に必要な商品を聞き出して、要望に合う商品をどんどん開発していけば、金型部品の流通市場は大きくなるに違いないと田口さんは見込んだのである。
一方、多品種少量のニーズに応えるためには、従来のように特約店の営業マンがユーザー企業に一社一社訪問する人的取引スタイルも革新せねばならない。営業マンに頼る販売方法では、どうしても一カ所での受注金額を大きくしないと割に合わないからだ。
よって、ミスミは金型の世界はもとより生産財でもおそらく初めて、カタログによる通信販売を開発した。部品1個からでも定価販売というのがウリで、カタログには取り扱い品目とその商品の数量別、納期別、追加工別の価格と納期をすべて載せた。
カタログにはお客様ニーズを吸い上げる仲立ちの役割もあり、「こんなことで困っている、こんな不便や不満がある」という声を集めて製品を開発し、それをカタログに載せて売る。
この繰り返しで、現在のミスミでは800咳(1兆の800億倍)種類の部品を、注文からわずか2日目には出荷できるのだが、この圧倒的な価値はマーケットアウトを志向してビジネスを設計していったからこそ生まれたものである。
もちろん、ハーフメイド生産もカタログ販売もすべてが画期的であったため、最初は金型メーカーも顧客企業も、なんならミスミの社員すらも田口さんの言っていることを理解できず、協力者を得るためにかなりの労力を要したという。
田口さんは、「流通システムが整備されていない生産財市場を革新すれば、5年後にはこれだけ売上が伸びて、君たちにはこれだけの給料が払える」とビジョンを語ったうえで、標準化の考え方、標準化のメリット、標準化の進め方を講義して理解してもらったそうだ。
そして社員に標準化のク宣教師クとなってもらい、「本当に標準部品なんか売れるのか」と話しむ金型メーカーを、「必ずや需要が拡大しますから」と説き伏せて一緒に生産体制をつくり上げ、顧客であるユーザー企業には、「標準部品を使えば生産を合理化できます」とカタログ通販の普及に邁進した。
その甲斐あり、ボルトやナットのように大量に使われるものではなく、そもそも部品自体は発明品でもなければ実用新案でないにもかかわらず、ミスミの標準部品は大きな市場性をもつようになり、事業立ち上げから10年ほどで100億円規模へと一気に成長したのである。
もちろんその成功には、景気が好調で設備投資が活発になっていたこと、人手不足のために生産現場の自動化が進んでいたこと、消費者ニーズの多様化でモデルチェンジのための金型需要が伸びたこと、情報化技術が進んでコンピューターによる膨大な商品管理や顧客データベースの管理がしやすくなったこと、ファクシミリが普及して受注が便利になったこと、宅配便のネットワークが発達して輸送が確実になったことなど、たくさんの追い風があった。
とはいえ、市場創造力に関していえば、 一番のキメ手であり、絶対に外せない基本の型として、マーケットアウトの発想でマーケティングとマーチャンダイジングをしてきたことである。
市場環境が味方したとはいえ、「ユーザーの立場で商売を設計し商品を開発すれば、必ず売れる」という信念のもとに、既存業界より構造的に有利なやり方にビジネスを転換したことが、ミスミを急成長させた原点といえる。
繰り返しになるが、もちろんこれは一朝一夕にできることではなく、ビジネスの構想段階から、プロダクトアウトからマーケットアウトヘと、視点を逆転して考えていかなければならない。
ゆえに、読者の皆さんには、「ユーザーの立場で商売を設計し、商品を開発する」という基本姿勢を念頭に置いたうえで、この非常に重要な概念を実業へと結びつけるために、まずはマーケットアウト型の事業構想のやり方を述べていこう。
絶対的な価値づくりの3ステップ
マーケットアウト型のビジネスをどうやって構想しカタチにするか。そのポイントを、
(1)参入のモノサシの考え方
(2)筋の良いアイデアの見つけ方
(3)アイデアを事業計画に磨き上げる12の手順
と、ステップごとに解説していく。
(1)参入のモノサシの考え方
(2)筋の良いアイデアの見つけ方
(3)アイデアを事業計画に磨き上げる12の手順
と、ステップごとに解説していく。という「新規事業のモノサシ」を定めることをおすすめする。
企業の新規事業で散見される風景に、社内公募や社外公募でアイデアを集めても、「それはわが社でやるべきなのか」「もっとわが社の強みが生かせる事業はないのか」と、延々と決められないということがある。
こういうケースに遭遇するたびに、私は、「新規事業なんて十中八九はうまくいかないんだから、たくさん試してみて、試して確度が高まったら高まった分だけ、リソースを突っ込んでいけばいいんですよ。スタートラインでいつまでもグズグズしていても、事業は生まれません」といつも進言しているのだが、実際に、新規事業に明確なモノサシをもっていないばかりに、なかなか動き出せない企業が多い。
こうした事態を回避するために、最初に新規事業のモノサシをトップが示すことで、速やかにクはじめの一歩クを踏み出すことができる。そして、モノサシをもって試しまくることで新規事業の経験値が効率よく溜まり、成功確率が上がるのである。
モノサシを別の言葉に言い換えると、自社の「勝ち方」のパターン、あるいは、他社にはマネできない自社の「強み」と捉えていただければいいだろう。
私自身も、どんな事業を手掛けるかという点においては、自身の強みが生きる事業にフォーカスを利かせているため、まったく分野の違う新規事業においても、知見を生かして成功確率を上げることができている。
たとえば、私がもっているモノサシは2つで、ひとつは「ビジネスモデル」。もうひとつは「事業ドメイン」である。
ビジネスモデルのモノサシから説明すると、私の勝ちパターンを大きな枠組みでいうと、「旧来型のサプライチェーンをデジタルの力で変革する」というもので、図式化すると第9図のように表せる。
一般的に、既存産業におけるビジネスモデルは多重下請けのピラミッド構造になっていて、大企業を中心に、製造機能から販売機能までを自社で抱える垂直統合型だ。
すなわち、銀行からたくさんおカネを借りて、大きな設備を自社で抱え込み、セールスマンをたくさん置く。セールスマンをたくさん置けばたくさん仕事を取ることができるので、自社のキャパシティ以上の仕事を取ってきて、これを下請けに投げるという構造である。この多重下請けを大手1社、2社を中心に形成されるカタチが、明治。大正。昭和からスタートして、いまも多くの産業が同じような構造で成り立っている。
ここにインターネットなどのITをもち込んで全国の小さな会社をネットワークし、その小さなキャパシティをダイレクトにお客様にお届けしていくのが、私の得意とするB2Bの「シェアリングプラットフォーム」というモデルだ。
このシェアリングプラットフォームの役割のひとつは、取引にかかるたくさんの中間マージン、トランザクション(ひとつの売買取引をおこなうために必要な処理の手数料)のコストをなくすことにある。
また、生産量。品質。決済といった不安があって、なかなか小さな会社と直接取引できないというところをプラットフォームがしっかりと保証し、「品質の良いものを、安く、早く、確実にお届けする」というような仕組みを提供することができる。
ここまでの説明で、すでにおわかりかと思うが、このシェアリングプラットフォームというビジネスモデルは、ミスミの勝ちパターンが原型になっている。
ミスミモデルはインターネットがまだ登場していなかった1977年にその骨格が固まったため、当時は「持たざる経営」と呼ばれていたが、このビジネスモデルは全国の金型工場を束ねて空き時間を活用し、製品をつくってもらうものであった。
標準部品のプラットフォームを構築し、フロントエンドでは、当時、営業マンが1社ずつ訪問して販売をする営業方法を、紙のカタログ通販に変革。
同時に、そのバックエンドではフロントエンドの革新に合わせ、部品ごとに
あらかじ
つ ど
都度生産して
いた商品の標準化をおこない、中間工程まで予め製造しておくハーフメイドの製造方法を導入することで、単品。即納・低コストで安定品質を実現。このビジネスモデルはまさしく「シエアリングプラットフォーム」である。
ちなみに、ミスミモデルを最新のビジネス用語で近いものを挙げると、フロントエンドの革新、すなわち取引のあり方を変えてコストの効率化を図るモデルは「マーケットプレイス」や「Eコマース」などが該当し、バックエンドの革新、すなわち製造プロセスや在庫管理などの業務コストの効率化モデルは∽田∽ (∽oF〓”お”∽”∽①コ一8)などが該当する。
こうしたビジネスカタカナは流行り廃りがあって、毎年のように「これからの時代はだっ!」みたいな感じで盛り上がるが、それらの多くは前人未到の誰もやったことがないようなものではなく、すでに誰かがその価値を証明していて、成功事例もたくさんあり、汎用性があるものだったりする。
実際、1章でご紹介したラクスルは、ミスミモデルを印刷業界にもってきて大成功したビジネスである。
いままで大手からの下請け、孫請けで仕事をしてきた全国の中小規模の印刷会社をつないで仮想的に大きな印刷会社をつくり、印刷したい人と最適にマッチングできる場をつくる。
そして、バックエンドでは業務の非効率を解消することで、500枚のチラシを刷って配るといった、これまで人がやっていると絶対に収益が出なかったところを、デジタルを使うことで収益が出る仕組みをつくり、小さな仕事をたくさんつくる。
つまり、印刷業界という垂直統合型の古い産業の非効率に目をつけ、マーケットプレイスと∽8∽によって取引コストと業務コストの効率化を実現したことで、これまで小ロットだと利益が出なかった案件をたくさん受けることができるようになり、ラクスルは一気にビジネスを広げていくことができたのである。
このように、印刷と金型は産業としては違うが、私にとってラクスルの事業は八百屋をやったあとに果物屋をしているようなもので、「キャベツとイチゴは違う。でも、生産者がいて、そこから仕入れて店で売る」というように、サプライ構造という点では夕同じ´ビジネスと捉えられる。
同じモデルに携わり続ければ、どんどん精度は上がっていく。1回目の事業と10回目の事業とでは、10回目のほうが明らかに知恵がついている。
事実、ここ10年の間にも、ミスミモデルとデジタル技術の掛け合わせによって、アパレルやデザイン、障がい者活用支援、自動車整備業界など、 一見するとてんでバラバラの産業において多くの事業を生み出すことができた。これを私は、「複利の恩恵」と呼んでいる。複利の恩恵とは、初見でも既視感を得られるということだ。
たとえば、初めて心臓手術をする医師に比べて、世界一心臓手術をおこなってきた医師は圧倒的に成功させるための勘所をわかっている。
同様に、皆さんの会社には本業があり、キャッシュフローが回り続けている。ゆえに、この本業のビジネスモデルをモノサシにして横展開していけば、なんの手がかりもない状態で新規事業に突っ込んでいくよりも、成功の可能性は格段に上がるはずだ。
したがって、「どんな事業を手掛けるか」を考える際には、自社のビジネスモデルをいま一度見直してみて、その強みや特徴を図式化したり箇条書きにしたりと可視化・言語化し、社員誰もが理解できるようなモノサシを定めていただきたい。
新規事業が成功しやすい事業領域とはもうひとつのモノサシは、「事業ドメイン」だ。
私は、医療・介護。ヘルスケア領域で事業の立ち上げを何度もおこなってきたので、土地勘や人脈がある。
なぜ、医療。介護・ヘルスケアの領域なのかと聞かれると、30年前に私が最初にミスミで手掛けた新規事業が、たまたま診療所や動物病院など医療業界で、そのときに業界の課題や顧客の解像度が上がったから、という単純な理由である。
ひとつ事業をやると必ずその事業のそばに、何かしら他の課題も見えてくる。見えてきた課題の中から、挑戦したいと心から思えるものが出てきたら手掛けていく。結果、医療・介護・ヘルスケアの領域では複利の恩恵が得られるようになった、というわけだ。
「どのドメインが新規事業としては狙い日ですか?」と聞かれることも多いが、これは社長のポリシーやわが社の経営理念などをもとに、各社それぞれの「自社が手掛けるべき、やりたいと強く志向する領域はどこか」を定めていただくほかない。有利な業界、不利な業界があるのではなく、あなたが人生を賭けて挑戦できる業界と、できない業界がある、ということなのである。
ただ、着眼点としては、医療・介護・ヘルスケア、金融、教育、行政など、規制や古くからの慣習に縛られた「岩盤市場」は狙い日である、といえるのではないかと思っている。
たとえば、医療・介護。ヘルスケア領域は、巨大かつ伸び盛りという、超がつくほどの有望市場であるにも関わらず、規制に守られてきたために、なんの戦いも起きておらず、「効率性をもち込んでコストダウンを図る」というような、他の産業で当たり前にやっていることをやるだけで、圧倒的に勝てることがある。
もちろん、既得権益や規制などのしがらみはたくさんあるが、その障害をうまく切り抜けて抜け道を見つけていくと、競争の少ない状態でいくつもの新規事業を生むことができる領域だ。
そこで、非効率な分野に効率をもち込むことで成功した事例として、医療。介護・ヘルスケアの領域で私が参画している3つの新規事業をご紹介する。この事例を参考に、狙い定める岩盤市場を自社で選定してみてほしい。
介護と医療の連帯を図るプラットフォームビジネス
最初に紹介するのは、すべての人に医療アクセスを、というコンセプトで、高齢者の介護施設に対して、「日中の医療相談」と「夜間オンコール代行」という2つの事業を展開している「ドクターメイト」だ。
同サービスに登録されている看護師や医師は、施設からの医療相談にチャットや電話で対応することができるため、子育てや介護で休職中の看護師や、普段は研究活動に従事している医師なども活用でき、24時間対応を可能にしている。
ご存知のとおり、少子高齢化と人口減少が進むわが国では、医師や看護師などの医療者不足が深刻化しているが、じつは人口に対して医療者の数は足りている。
ただ、ドクターは地域偏在で首都圏に集まってしまっているから、地方都市にいないだけだ。また、ナース資格をもつ人は多いけれど、医療現場で働いていない潜在看護師が約70万人にものぼっている。
そうした「首都圏に集まるドクター」と「現場にいないナース」をIT技術を使ってうまくネットワークさせる仕組みを構築することによって、ドクターメイトは、どの地域にいてもリアルタイムで最適な医師にリーチできるサービスを提供しているのだ。もちろんオンライン診療にはデメリットもあり、当然、直接診察するほうが情報量も多い。
ただ現実には、受診するほどではない病状で不安を抱えている人がオンラインカウンセリングで安心してもらうことができるし、経過観察ならオンライン診療を挟んでも問題ない。また、地方に住む人にとっても、受診は労力が要ることだ。家から遠いと病院から足が遠のき、重い病状になってから来院するので回復が遅くなり、医療費もかさみ手もかかることになる。
ゆえに、軽度のうちにオンライン相談することで、病院に行くべきタイミングがわかり、不要な受診もスクリーニングできる。ドクターメイトが提供するサービスには、そうした大きな価値があるのだ。
こうした事業が生まれた背景には、高齢化により介護施設がどんどん病院化し、施設での医療的な対応が増えてきている、という問題がある。
高齢化社会が到来している日本では、高齢者の長期入院を減らすような診療報酬制度をとっており、その結果、従来では病院で入院治療を受ける程度の傷病であっても、退院により介護施設でのケアが求められるよう変化しているのだ。
そうした中、創業者の青柳直樹さんは、臨床医として介護施設から来た高齢者を診察するうちに、驚くほど悪化した状態での来院で即入院になる患者が来たと思えば、施設でも処置できそうな軽傷で来院する患者もいる…といった「極端な症例」に非常に多く遭遇し、「介護施設には医療のプロフェッショナルがいるはずなのに、なぜこんなことが起きてしまうのか」と怒りにも似た感情を抱いていたという。
しかし、あるとき、「私が思い描いている介護現場と実際の姿は違うのではないか」と思い至り、介護施設を訪問して現場を見せてもらったところ、予想と全く異なっていることがわかったのである。
たしかに医師は連携しているが、施設に来るのは週に1回程度、半日だけ。介護施設の職員も医療的なことが聞けずに困っている。そんな課題を各所から聞いたのだ。これは怠慢ではなく、そうした仕組みがないことが要因だと青柳さんは理解した。
そのころ、ちょうどオンライン診療が盛り上がりはじめた時期だったため、テクノロジーを活用して介護と医療の連携を図れば、この課題を解決できるのではないかと考えた青柳さんは、すでにこの問題に取り組んでいる企業があれば医師として参画をしようと考えたが、市場調査をおこなっても、「介護施設における医療対応の負担軽減」に取り組む企業を見つけることはできなかったのだ。
先行企業がいなかった理由は複数ある。ひとつに、新型コロナウイルスによる感染拡大後、感染防止の観点から規制緩和が進んでいる遠隔医療だが、当時は対面診療と比較して診療報酬が著しく低いために、 一部の医療機関でしか実施されず、また、初診からのオンライン診療は不可、服薬指導も不可など規制も厳しかった。
また、介護現場という非IT系の世界でITサービスを導入してもらい、かつ日常的に使ってもらうのはハードルが高く、まさに「労多くして功少なし」という状況だったのである。
しかし、青柳さんは、「この社会課題を誰かが解決しなければ」という強い想いから、ならば自分で起こすしかないと起業に向けて突き進んだ。
医療者がどこにいても医療を提供できる未来。すべての人が安心して医療にアクセスできる未来。社会全体がムリなく、持続的に支え合える未来。そこに到達したいというビジョンに共感してくれた仲間が次々と参画してくれ、さまざまなトライ&エラーを重ねた末、専門の医師に相談できる「日中医療相談」や、夜間に看護師に相談できる「夜間オンコール代行」など、介護現場がいつでも医療にアクセスできるサービスに行き着いたのである。
2017年に、青柳さんが自己資金200万円で立ち上げたドクターメイトは、わずか3年あまりで全国550施設へ導入され、継続率は97%と、多くの支持を集める事業へと成長した。
将来的には、医療人材が足りていない地方含め、すべての介護施設でサービスが利用されるようなインフラ的サービスとなるよう、直近では10億円の資金調達を成功させている。
ドメインを絞ると、さらなるニーズが見えてくる
次にご紹介するのは、介護業界の人手不足問題に挑んでいる「カイテク」だ。
介護職は定着率が低く、資格をもっていても働いていない、潜在化してしまった介護職の方も多い。介護職の定着率が低い課題は、職場の人間関係の要因が大きい。その人間関係には2種類あり、ひとつが介護職同士で、もうひとつが介護職と利用者とのものだ。
こうした人間関係の相性は、実際に施設で働いてみないと自分に合うかどうかがわからない。そこで、この人間関係のミスマッチを防ぐために、介護。看護有資格者が空いた時間で仕事ができるワークシェアリングサービスを立ち上げたのが、「カイテク」である。
カイテクを利用すれば、介護職の方は「1日お試し働き」ができるので、人間関係に問題がなさそうなことがわかれば、長く働き続ける決断もできる。また、フルタイム勤務がかなわない介護職の方もスキマ時間で働ける。
一方の雇用する介護施設としても、即戦力の有資格者に実際に現場で仕事をしてもらい、相性を見たうえでスカウトできる。
さらに、紹介手数料も通常の人材紹介業者の4分の1程度で、採用コストを大きく改善できるという魅力も相まって短期に大きくスケールしている。
創業者の武藤高史さんは祖父の介護経験から「介護業界の人材不足」という社会課題に注目し、そこに挑戦する人が少ない状況を見て、テクノロジー活用が進んでいないこの業界に商機を見出したという。
カイテクは、介護資格をもっている人をアプリ上で確認し、その人が働きやすい位置にある介護施設を自動でリストアップ、打診する仕組みとなっている。オファーを受け取った介護職の方は、自分が働ける日時をタップすると、予約が入り、そこで働くことができる。支払いはカイテクが代行しておこない、「介護資格証の認証←仕事探し←仕事確定←勤怠管理←事業所。ワーカーヘの評価←給与受取」という一連の工程が、アプリ上で一気通貫でできる便利なサービスなのだ。
ちなみに、2022年、コロナ第7波で施設内クラスターなどにより臨時的に介護スタッフの人手不足に苦しむ介護施設の不安解消をすることを目的に、前述のドクターメイトとカイテクは業務提携をしている。
これにより、ドクターメイトと契約している介護施設は、カイテクのサービスまでをワンストップでできるようになり、24時間医療サポートの活用と合わせて、スタッフが回復して戻って来るまでの間など、抜けてしまったスタッフ分をスポット的に即戦力となる有資格者で人員補充することができるようになったc
この2社の提携から、自社の新規事業の拡大性という観点にも注目していただければと思う。
事業の横展開による成長
もうひとつ、ドメインというモノサシにおける事業の拡大性を考えるうえで参考にしていただきたい、「おうちに帰ろう。病院」「おうちでよかった。訪看」「ごはんが食べたい。歯科」を紹介したい。
一風変わった名称ばかりだが、これらはすべて「自宅で自分らしく死ねる、そういう世の中をつくる」という理念のもとに、日国>〓∞rC国(医療法人社団焔)代表で医師の安井佑さんが、東京都の板橋区で展開している事業である。
もともと安井さんは、この理念に則り2013年に在宅医療を主体とする「やまと診療所」を開院、新規患者数並びに自宅看取り数を年々伸ばし続け、年間看取り数は全国でもトップクラスであつた。
ただ、脳卒中や肺炎などで入院を余儀なくされた高齢者が、退院時には心身機能が弱まり、日常には戻れなくなってしまう現状を見て、その人らしい生き方を最期まで支えるための包括的な地域医療システム構築が必要だと考えた。
少し大きな視点で解説すると、現在の医療システムというのは、病を治癒して元に戻すことにすべての設計が向いている。その理由は、戦後一番かかる病が外傷や感染症だったので、そういう人が医療機関にかかれず亡くなってしまうのを防ぐことが、最大の目的だったからである。
しかし、その医療システムはすでにエラーを起こしている。なぜなら、医療費の大半を使っているのは高齢者で、高齢者はケガをして治すというよりも、「病気と共に生きていく状態」になっているからだ。
多くの高齢者が自宅で最期を迎えたいと望むが、現在の病院はそのニーズに応えることができない。ゆえに、「おうちに帰ろう。病院」は病を治すことだけを目的とせず、退院して自宅に戻ったあとの生活を見据えた医療サービスを提供するのである。
たとえば、転倒リスクがあるのであれば、病院にいるうちから転倒リスクのあるような行動をしていただき、自宅に帰られた際に起こり得る転倒リスクを管理できるよう、入院中に練習する。
栄養管理が必要なのであれば、入院中から自分で管理できるような食事を指導し、薬を管理できるように入院中に練習して帰る。
また、一日中、病衣で過ごすのではなく、服を持参してもらって朝は普段着に、夜はパジャマにと1日2回着替えてもらう。食事の支度や服薬もできるかぎり自身でやってもらう。リハビリも通常の機能訓練もおこなうが、隣接するスーパーに買い物に行って調理してもらう練習もする。入浴はそれぞれの自宅に近い入浴環境を再現するなど、一貫して自宅に戻ったあとの生活を見据えた医療サービスなのである。
この「おうちに帰ろう。病院」と同じコンセプトでつくったのが、通常の訪問看護業務に加え、基本動作練習や歩行練習などのリハビリテーション指導にも対応する「おうちでよかった。訪看」だ。
さらに、患者が最後まで「食べる」を実現できるよう、訪間で摂食廉下や口腔ケアをサポートする「ごはんが食べたい。歯科」も展開し、安井さんは「自宅で自分らしく死ねるにはどうしたらいいか」という顧客のニーズを深掘りしていくことで展開を広げていったのである。ここでもうひとつ注目していただきたい点は、同様のニーズは、東京都の板橋区特有のものではないということだ。
であれば、安井さんに学び、「おうちに帰ろう。病院。静岡市」や「おうちに帰ろう。病院・北海道」のように、別のエリアで展開させてもらうという方法もある。
あるいは、この事業展開パターンを自社の産業に置き換えて、なにか同様の展開ができる事業がないか、という探し方をしてもよいだろう。
このように、継続的な事業成長という視点も合わせて、自社が狙うべき事業ドメインを考えてみていただきたい。
■コラム■ 垂直思考と水平思考
突然だが、クイズをひとつ考えてみていただきたい。
「テーブルの上に10個のリンゴがあります。そのリンゴを3人で均等に分けることにしました。さて、どうやって分けたでしょうか?」
おそらく多くの方が、「1人につき3個ずつ分けたあと、余った1個を3つに切り、合計3個と3分の1ずつに均等に分ける。そんなの当たり前だろ」と答えるだろう。
だが、こうした答えもある。
「リンゴをジュースにすれば、簡単に3等分できる」。
ちょっとひねくれた回答に感じるかもしれないが、新規事業にはこうした「当たり前だと思っている前提を変えて考えてみる」ことで、課題解決の突破口になることが多々ある。
こうした思考法を「水平思考」という。水平思考は、ある問題設定の支配的な枠にとらわれて考える「垂直思考」を離れ、さまざまに思考をめぐらして、その問題についてのより良いアイデアを見つけるための手法である。
もちろん、垂直思考が全部悪く水平思考が全部良いとは思っていないが、硬直化傾向が強くなりすぎて柔軟性を失うと、経年劣化が進化成長を上回り、凋落の一途をたどることとなる。
とくに、本業をもっている会社あるいは経営者は、「本業の戦略をトコトンやりきった。結果うまくいった。この成功体験は宝であり糧である。自身の必勝パターンだ」という強固なク前提´にとらわれて、思考の幅が狭まり行動の幅が狭まり、結果、硬直に至る傾向にある。
そこでぜひ、努めて考え方の可能性を広げるために、従来の「前提←仮説←行動←結論」というプロセスを、「前提を疑う←前提を変える←前提を変える←前提を変える」というように、そもそもの前提を、多様に考えてみることをおすすめする。
たとえば、顧客の側から、競合の側から、他の業界の側からと立場を変えてみたり、当該商品が供給者都合であるときは、プロダクトアウトからマーケットアウトヘと視点を変えて、ゼロベースで「あるべき姿」を模索すると、まったく新しい価値を生み出すことができる。
(2)筋の良いアイデアの見つけ方
アイデアはいくらでも転がっている
ビジネスモデルや事業ドメインなど、自社の新規事業のモノサシを定めたら、そのモノサシをあてがいながら事業アイデアを着想し、これを磨き上げていくことになる。
この段階でよく受ける質問に、「事業アイデアが思いつかない」というものがある。私が「新規事業は必ず生み出せます」と話をすると、必ずといっていいほどこの言葉が返ってくる。
これに対する私の回答も決まっている。「アイデアを生み出せないと、悩む必要はありません。アイデアはいくらでも転がっています」「アイデアを磨く手順もあります」と返答するのだ。かなり乱暴な言い方をするが、私は「事業を生み出すのに創造力は不要」と思っている。なぜなら新規事業のアイデアは手の届くところにいくらでもあるからだ。
だから、「画期的なアイデアを生み出そう」と、延々と机上でアイデアを考えるのは無駄だとさえ思っている。これは、訪問歯科事業の立ち上げに至った道のりの部分で、何度も話をさせてもらったとおりだ。
本当に時間をかけるべきはそのあとで、「腐るほどあるアイデアから、わが社が本気でやるべきはどれか」を決めることであったり、実際に考えたアイデアを実現するために動くことなのだ。
新規事業はアイデアだけで成功することはない。顧客に仮説をぶつけながら商品・サービスを磨いていくこと、アイデアをきちんと磨ききることで事業は拡大していくのだから、アイデアを自力で悶々と考えるよりも、いろんな人が一所懸命考えた珠玉のアイデアがたくさんある場所に行って、そこから自社のモノサシに合うもの、自分が課題に共感して、心からやりたいと思えるものを選べばよい。
そこで、有力なアイデアのたくさん埋まっている場所として、①「日常の不」、②「挑戦者からの学び」、③「国が示す方針」という3つをお教えしよう。
①日常の不
日々の活動、暮らしの中で、「困ったな、もっとこうなったらいいのにな」と思うことがあるだろう。
たとえば、オンライン会議で使うマイクは、本人の声以外にもまわりの雑音やインターホンの音など、明らかに不要な音まで拾ってしまう。であれば、マイクが音源の方向や距離を自動測定して、話者の声以外をカットする機能がついたマイクが私は欲しい。
コロナ禍によって発生した不便や不足、不利益、不安はだいぶ解消されてきたが、それでも「日常の不」は、こんなふうに尽きることなく湧いてくるものだ。だから、こうした日常の不を書き留めていくと、100個や200個はすぐ貯まるはずである。
ただ、これは新規事業家という職業の性というもので、皆さんに「日常から事業アイデアが100個は見つかりますよ」というのは、少々ハードルが高いのだろうとも思っている。
私が思うに、本業一筋でやってきた経営者というのは、それこそ寝ても覚めても本業に関する情報にアンテナを張っているがゆえに、逆に本業に関係ないことはアンテナにひっかからないように、脳が調整をしている可能性がある。そこで、別のヒントとして、②挑戦者からの学び、③国が示す方針というのも挙げておこう。
②挑戦者からの学び
日本では、毎年13万社程度が会社登記をし、2千社のスタートアップが資金調達に成功している。この2千社は、日利きの投資家が、「この事業には資金を入れたい」と選別した案件ということになる。だとすれば、その事業計画は大いに参考となるはずだ。こういった企業はオープンにされているので、インターネットで検索すれば、起業家たちが寝ずに頑張ってピカピカに磨き上げた事業計画が簡単に閲覧できる。
また、さまざまな団体が主催しているビジネスプランコンテストを聴講するのもよい。注目を集めているスタートアップのピッチ(事業のプレゼンテーション)動画はユーチューブにあがっていることも多いので、視聴してみるといい。
とにかく、検索サイトに「ピッチ イベント」と単語を打ち込めば、1秒もかからずに1千万件近くのコンテンツがヒットする時代である。事業の概要から資金調達の内容、ビジネスモデルの解説やピッチ動画も無料で見放題だ。モノサシを先に定めているなら「ヘルスケア」や「シェアリングビジネス」などのワードも入れれば、より絞り込まれる。
こうした中から、心が動いた事業をいくつか選定して、「ここが気に入った」というプラスの点と、「ここがイマイチ」というマイナスの点をあえて書き出して、気に入った点はどう磨いたらさらに良くなるか、イマイチな点は改善できる方法はないかと、妄想してみるのだ。そして、いくつかの改善事業案を統合したり分割したり取捨したりと加工すると、オリジナルの事業アイデアがひとつ完成するというわけだ。
また、こうした中で「良いな」という事業や事業家に出会ったら、ジョイントベンチャーというカタチで一緒に事業を立ち上げるという方法もあることを、覚えておいていただきたい。
③国が示す方針
「国が示す方針」も大いに参考になる。
たとえば、国が示す方針は「経済財政運営と改革の基本方針」にまとまっていて、重点投資先として、グリーントランスフォーメーション(GX)や、デジタルトランスフォーメーション(DX)、AI、医療などのキーワードが挙げられている。
また、社会課題の解決に向けた取り組みとして、少子化対策。こども政策や女性活躍、孤独・孤立対策、多極化・地域活性化の推進といったものもあって、事業開発の着眼点となる。他にも、内閣府の「規制改革実施計画」には、いつどんな規制緩和がおこなわれるかが事細かに記載されている。いうまでもなく、法改正や規制緩和のタイミングには、事業のタネが埋まっているものだ。
なぜなら、これまでおこなうことができなかったことが「できる」ようになるため、新規事業の可能性が広がるからである。
たとえば、法改正のタイミングを利用して飛躍した事例として、生花の直取引プラットフォームビジネス「キャビン」がある。
花丼、つまり花の流通には卸売市場法という法律があり、従来はすべて卸売市場にもち込んで取引するのが原則だった。
全国の花農家がつくった花がいったん卸売市場で競りにかけられ、競り落とした大国の仲卸に仕入れられ、小日花屋の店頭に並ぶ。当然のことながら、花は時間が経てば枯れる。このシステムでは、売れなかった花が再販・転売を繰り返す間にどんどん廃棄され、その損失は年間1500億円相当に及んでいた。
これはJリーグ全体の規模と同程度である。すなわち、花丼業界の既存の仕組みでは、Jリーグと同じくらいの花を捨てることになっていたというわけだ。
しかし、法律が2020年に改正されて、花農家から花屋に直接納入できるよう、規制緩和されることに決まった。
直販の機会をうまく利用できる人もいれば、できない人もいる。そこで、どんな生産者も、どんな花屋も活用できるB2Bのデジタルプラットフォームが必要になると考えたのが、私が参画したキャビンである。
キャビンは、法改正の施行日からすぐにサービスを開始できるように、1年半前から拠点を置く福岡県内の花農家と花屋を回り、現場の課題解決に即した仕組みを構築しようと準備を進めた。
そして、ユーザーである花屋がキャビンのサイトで「田中さんがつくったユリを10本」と注文すると、キャビンと提携する物流業者が生産者に引き取りに行き、中間業者をはさまずに注文主の花屋へ届けるという仕組みを構築したのである。
このシンプルなデジタルシステムによって、生産者も花屋もこれまでのやり方を一切変える必要がなく、そのうえで双方のコミュニケーションが活性化し、最終消費者のニーズに合った生産・仕入れが可能になった。
これにより、花農家と花屋双方に売上。利益の向上をもたらし、産業構造が立ち遅れていた花業界にキャビンは革命を起こしたのである。
ここで注目していただきたいのは、キャビンの成功の大きな要因が「タイミング」であることだ。規制緩和の情報をつかみ、先回りして準備を進めていたのはキャビンだけだったため、オンリーワンを謳歌しながら、ピーク時には前月比45%で成長。1年で全国展開するまでに急成長を果たしたのだ。
いうまでもなく、キャビンのような規制緩和は、前代未間、百年に1度の法改正というものではない。こんなことはしょっちゆう起きることであり、法改正がいつから実施されるのかなどの情報はすべて公開情報なので、誰でも、いつでも知ることができる。
よって、自社の新規事業のモノサシでいくつかの産業に目星をつけておいて、その産業の法改正に注目すれば、いくらでも事業のアイデアを見つけることができるのである。以上、3つを手がかりに新規事業のアイデアをたくさん集めていただきたい。
繰り返しになるが、新規事業のアイデアは、集めるよりも絞るほうがはるかに難しい。ご紹介したとおり、アイデアはいくらでも手に入るので、その中から何か一つに絞り、その他は捨てるという決断をしなければならない。
もちろん、リソースが十分にあるなら、同時に複数を立ち上げればよいが、現実問題として、たとえばキャビンとドクターメイトの2つのアイデアを思いついたとしても、どちらか一方に絞らぎるを得ないと思う。
だからこそ、いたずらにアイデア探しにばかり時間を使うことなく、「この事業をやりきる!」と腹を決め、商品・サービスを磨いていくプロセスに時間を使っていただきたいのだc創造力よりも、決断力や行動力のほうが大事なのである。
(3)アイデアを事業計画に磨き上げる12の手順
守屋式ビジネス構想のフレームワーク
自社の新規事業のモノサシを定め、事業アイデアを見つけて絞り込んだら、次はその事業アイデアを事業計画に落とし込んでみよう。
ただし、完璧な事業計画をつくるわけではなく、この段階では高い確率で修正する「たたき台」をつくればよい。
たたき台だから、時間を割いてまとめる必要はない。いわば、「いまの段階でベストと思われる仮説」、すなわちプランAを立ててみるのである。
アイデアをビジネスモデルに落とし込む際に使われるフレームワークは世の中にたくさんあるので、最終的には自分に合ったものをお使いいただければいいのだが、本書では私が使っている「守屋式。12項目で考える事業構想のフレームワーク」(第13図)をご紹介する。図のとおり、①から順番に⑫までを考えることで、事業構想に必要な項目を網羅できる。それでは、この12項目を考えるポイントを、ひとつずつ述べていこう。
① 満たされていない顧客のニーズを探る
まずは顧客、とにかく顧客のニーズから始める。繰り返しになるが、「これを誰に売るか」ではなく、「この人が欲しがっているものは何か」を起点に商品・サービスを抜本的に変えていくというのが、マーケットアウトビジネスで一番重要なことだ。
その場合、最初にターゲットをしっかりと絞り込むことが肝となる。なぜなら、ターゲットを絞り込んで特定しなければ、汲み取るべきニーズも曖味なものになってしまうからだ。ニーズが曖味だと、従来の延長線上のターゲット向けに、デザインを少し変えた商品や、サービス内容を若千変更しただけの、新規事業というには程遠い姿となってしまう。
② 顧客のニーズを満たす商品サービスを考える
①が定まれば、おのずL②も絞られてくる。ターゲットを絞り込んだうえで、そのターゲッ卜層にのみ特徴立って見られるニーズを抽出し、そのニーズに応える商品やサービスを考えるのだc
③ どうして①がこれまで満たされないまま放置されていたのかを考える
①、②と順調に定まったら、ここでいったん立ち止まってほしい。①の「満たされていない顧客のニーズ」が本当に満たされていないのかを確認してほしいからだ。
つまり、その商品・サービスに対して「おカネを払う価値があるか?」をきちんと把握する、ということである。
よくある間違いは「あったらいいな」だ。ニーズが有るか無いかでいうと、有る。あったらいいかと聞けば、「いい」と答えてくれる。しかし、本当に買うかといえば否となる。要するに、「無くても困らない、おカネを出してまで欲しくない」という失敗である。
「あったらいいな」の失敗を回避するには、ヒヤリングで「そのサービスいいですね」と答えてくれた顧客に対して、「では、この仮注文書にサインしてください」とやってみることだ。
2章で述べたように、私も一番最初の新規事業でそういう失敗をしたが、ここでほとんどの人がサインをためらうようだったら、その商品・サービスには経済的な価値がないということになるc
④ どうしてこれまで②が提供されてこなかったのかを考える
③のステップと近い話だが、もうひとつ、「その課題解決の方法が提供されてこなかった理由」も考えてほしい。
「これなら経済的に存在しうる、筋のいいニーズを発見できて、それを満たす良い打ち手だ!」となれば、すぐにでも商品・サービスのつくり込みに取りかかりたくなるが、あなたが前人未到の領域の一番の開拓者である可能性は低い。
たとえば昔、ペット向けの健康保険ビジネスの創業に参画したことがあるのだが、その事業には数十の先行プレーヤーがいて、そしてそのすべてがうまくいっておらず、死屍累々の市場となっていた。
しかしながら、最後発の我々は、もがき苦しみながら東証プライムに上場した。何が言いたいのかというと、それらの死屍累々の理由をしっかり調べておけば、同じ轍を踏むことなくワープできるということだ。
その課題が解決されずに残っていた理由は、「多くの顧客が購入できる価格にはなり得ない商品」かもしれない。あるいは、「技術的にあまりに高いハードルがある」かもしれない。なにかしらの、既存の業者ではどうしても解決できなかった、なにかしらの理由があるはずだ。
そういう「できない理由」を自社のカネと時間とヒトを使ってわざわざ追体験しなくても、「じゃあ、どうすればよいか」を一足飛びに考えることができるのである。したがって、「なぜこのニーズは満たされていないんだろう」「なぜ、この商品は存在していないんだろう」「良い商品のはずなのに、なんで売れていないんだろう」など、③と④の項目にはかなりの時間を配分して調べることで、絶対的価値を生む突破口を見つけるのである。
⑤ 商品やサービスを顧客にとって便利な方法で届ける
国が成長期で産業が未熟であった時代であれば、「手ばなれがよく、効率的な方法で届ける」でよかった。しかし、いまはそれではダメだ。
皆さんは、この考え方の何がダメなのか、すでにご理解いただいていると思う。それは主語が「自社」だからである。
いまは、自社都合では顧客のニーズには到底応えられない時代である。だから、物流費やサービス提供費というコストをかけてでも、顧客を主語にした方法、つまり、「商品やサービスを顧客にとって便利な方法で届ける」ことを考えなくてはならない。
主語は「顧客」だ。顧客にとって一番便利な方法を考える。そのうえで、どうやって収益性をもたせるかを考えていくプロセス以外に、絶対的な価値を生み出す術はない。
⑥ 商品やサービスをより良くするためのフィードバックをもらい改善する
多くの事業計画には、当たり前のように、「顧客の声に耳を傾けて商品・サービスの改善を図る」と耳障りのいい文言が記載されている。しかし、それが実現されている例はそう多くはない。
本当に顧客の声を改善につなげていこうと考えているならば、「どう声を集めるか」、「吸い上げる体制をどう構築するか」、「具体的に声をどう商品・サービスに落とし込むか」、「それらにかかる費用を計画に練り込んでおく」ということまで事業計画の中に盛り込まれているはずである。
⑦ 新たな顧客のニーズを探る
③ そのニーズを満たす商品サービスを考える
最初にターゲットをしっかりと特定し、そのターグットに提供するサービスを多角化することで事業を成長させていく。これが、マーケットアウトビジネスの特徴だ。
①から⑥を回し、ビジネスを展開すればするほど、そのターゲットに対する情報が蓄積されるため、ターゲットが他に困っていること、不満なこと、新たなニーズを発見する可能性は高くなる。
コンビニエンスストアがその好例だが、「便利」という付加価値の提供をコンセプトに、物販だけでなく公共料金の支払いや銀行機能など、次々と領域を拡大していき、事業を継続的に発展させてきた。
ただし、ここで注意してほしいのは、「新たなニーズ」を探る中で、広がり薄まってしまうことである。
最初の商品・サービスは、顧客のニーズの中でもっとも強い「中心ニーズ」のはずだ。しかし次の新たなニーズに応える商品は、どうしても「周辺ニーズ」となってしまうため、顧客にとっての価値が小さくなっていく現象が必ず起こる。
だからこそ、安易に広げてはならない。新たな⑦③も、最初の①②のごとく、同じ熱量で懸命に考える必要がある。
⑨ 他社との競争に備える
ここまで進むと、あるいはここまで進まなくても、後発企業が攻めてくる。マネされないビジネスなど、ほぼ存在しないといってもよい。マネされないとすれば、特許でガチガチに固めたビジネスか、単純に儲からない事業しかないだろう。
いうまでもなく、後発企業のほうが競争には有利だ。したがって、我々はその有利さに負けないために、「他社から追いかけられても問題ない」、あるいは「追随されることを前提とした備え」を構築していく必要がある。
では、そんな競争優位はどうすればつくれるのかというと、それは⑤L⑥の高速回転である。顧客の欲しがるものを顧客の都合に合わせた提供方法で提供してみて、顧客の反応を見て、また改善して提供してみる。
もしも、「すごく満足!」と言ってもらえたとしても、やがて顧客は「慣れ」の域に達し、当初ほどの満足を抱いてくれなくなる。だから、常に期待値を上回れるように⑤と⑥をわき目もふらずに懸命に回し続けるのである。
そうすると、たとえ競合が本日参入してきても、我々のほうが圧倒的に顧客を深く理解しているので、1年後はもっと引き離している状態になるのだ。
こういう状態がつくれれば、競合がどんどん入ってくれることで市場も広がり、「でも結局、A社さんのサービスが一番いいよね」ということで、わが社に顧客が流れてくる。つまり、すそ野が広がることで頂きが高くなる好循環を獲得できるのである。
⑩ これらを実現するための最適な体制を考える
⑪ これらを実現するための必要な資金を考える
大きな課題解決を狙えば狙うほど、必要となる組織も資金も大規模になる。「最適な体制」とは必要なときに必要なメンバーが必要なだけ揃っていることで、「必要な資金」とは必要なときに必要な資金が必要なだけ揃っていることである。
なお、①から⑨を実現するための最適な体制を考えるときに、多くの場合は「社内の人材だけ」で立ち上げがちであるが、「その事業にとって最適な役割を担える人材」が社内だけで賄えない場合は、外部からの調達を検討する必要がある。
また、企業における新規事業ならではの「本業の汚染」という大きな課題があり、これを回避する体制を築かないかぎり、いくら新規事業をやろうがことごとく死んでしまうことになる。この課題については、4章「新規事業に最適な体制を整える」にて具体策を詳述した。
また、経営者としては、いつどれくらいのヒトやカネを手配すべきかという見通しをもっておくと同時に、新規事業の予算軸と時間軸を決め、たとえば「わが社の体力から考えて、参入から1年以内に継続の是非を判断する。3年目には単年度黒字を達成し、5年目には累損一掃ができる必要がある」などの基本的な方針を定めておくことが重要だ。怖いパターンとしては、鳴りもの入りで始めた新規事業がズルズルと赤字を垂れ流し続けているのに、初期投資をムダにしたくないばかりに損切りできないという状況に陥ることだ。
そうならないために大切なのは、新規事業の投資ルールについて「最初に決めておく」ことだ。いぎ事業を動かしはじめると、さまざまな外部要因も手伝って、見通しのきかない中で決断をしなければならない状況に追い込まれる。そのときに、基本的な方針があったうえでの経営判断と、ない中での経営判断では、大きな差分が生まれてしまうからである。
⑫ ①〜⑪を経営計画としてまとめる
これらの項目を頭の中にとどめておくのではなく、経営計画に落とし込んでおく。日々改善をしていくためには、見える化してまとめておくことは欠かせない。また、外部。内部から協力者を集めるときに、この経営計画が説明の資料にもなる。
プロの極意は「一筆書きの高速回転」
以上の12項目が、アイデアを事業計画に磨き上げる一連の手順である。これをすべて埋めて、筋の良いストーリーに仕立てられたら、次は、この構想が現実的にうまくいくかを実証実験してみるフェーズヘと進む。
次のフェーズのノウハウについては次章で詳述するとして、ここでは12項目の考え方、仮説の磨き方の注意点を述べておきたい。それは、とにかく雑でもいいので、12項目全部を一周して考えてみるということだ。
「だいたい、この辺りに顧客がいて、こういう困りごとがあるはずだ。そうすると、こういう解決方法でやってみると、値段はこれくらい、原価はこれくらい。仕入れをこうすれば間に合うし、キャッシュフローもどうにかなるぞ」というように、大雑把でもいいのでビジネスモデル全体を描いてみて、「これはどうにもならない」というノックアウトポイントがなかったらもう一周考えてみる、という具合である。
①から順々に時間をかけてやらない理由は、シンプルだ。①から順々に時間をかけて、③くらいで苦しくなって⑨で行き止まりだということに気づいて、いままでの苦労が全部ムダになりました…というのでは、いくら時間とカネをかけても新規事業を生み出すことができないからだ。
そして、⑩「体制」、①「資金」、⑫「経営計画」などは、①〜⑨の要素が変動すれば変わってしまうことなので、本当に粗くて構わない。当初であればあるほど、狙いは、「ノックアウトポイントがあるかないかの確認」だからである。
最初は10分程度で一周考えてみて、2周、3周と回していって想定金額の桁を外さないくらいまでの精度となったら、さっさと実際の顧客のもとを訪ねて仮説をぶつけてみる。
そうして机上で考えた仮説が間違っていたら、また新たな仮説を立てて検証し、12項目目をアップデートしていくのである。
これらを繰り返していく中で、とくにオススメなのは、ベンチャーキャピタルなどの投資家に話してみることだ。なぜなら、彼らのもとには毎月数十件、数百件の事業計画が寄せられているので、「その事業なら、数年前にも誰かがやったけど、こういう理由で2年で撤退したよ」というような情報をもらえることもあるからである。
当然、プロである彼らの時間をもらうわけであるから、 一定以上の完成度がないとアポさえ叶わない現実があるが、大いに参考となるアドバイスをもらえる可能性があるので、ぜひチャレンジしていただきたい。
これらの一連をイメージとして描くとしたら、第14図のようになる。らせん状のループで「一筆書きの高速回転」を繰り返して、最終的に「勝ち筋」を見つける、というものである。
勝ち筋というのは、その事業が成長・成功するための戦略ストーリーを物語と数式で表したものだ。詳しくは次章で述べるが、事業開発のプロセスは、勝ち筋をつくり上げるプロセスであり、勝ち筋が見えれば、あとは資金を入れて一気呵成に攻めることとなる。
とにかく、試して、試して、試しきること。そうしなければ勝ち筋は見えてこない。そのために、100周でも200周でも、 一筆書きの高速回転をぐるぐると回し続ける必要があるのだ。
最初のうちは、仮説は毎日書き換えるくらいでちょうどよい。顧客のもとに毎日訪ね、訪ねた分だけ仮説を更新する。そして、 一カ所つまずくポイントがあれば、全体に影響が出るので全体を俯腋して全体を更新する。
この「一筆書きの高速回転」を毎日ぐるぐるとやると、たとえば3か月なら100回程度は更新することになる。
ちなみに、「一筆書きの高速回転」は、毎回転ごとに精密にキレイなパワーポイントの資料をつくっていては間に合わないため、手書きで十分だ。
それよりも早く回すことに重点を置いて、事業の解像度が高まっていく中で、必要に応じて資料化していくことだ。
ここで皆さんにプレゼントがある。l億5千万円の資金調達に成功し、立ち上げ初月から黒字化を果たした実際の新規事業の、いわば生のの読者限定で公開する。
事業計画書(守屋の映像解説付き)を、本書
ただし、専用のURLからアクセスしていただき、専用のクーポンコードを入力していただいた場合のみ閲覧できるよう、クローズドな方法での公開とさせていただきたい。
一筆書きの高速回転でどこまで事業を磨き上げて、それをどのように事業計画書にまとめればよいのか、読者の皆さんが実務の要諦をつかむ参考になればと思っている。
閲覧方法は、PC ・スマートフォンより左記の二次元バーコードを読み取るか、URLからアクセスして、マイページ会員登録(無料)をしていただいたうえで、左記のクーポンコードを入力してください。(*資料のダウンロードはできません)
r仲仲●0”ヽヽヨゴ00」0ヽ00Q0
クーボンコード ヨo『でヽoNωoヽ
■ コラム■ ひとリディベートのススメ
「守屋さんは、いつも徹底した顧客視点ですね」
「いや、顧客視点は常に一部でしかないですよ」
という会話を先日した。とはいえ、じつはこの会話、そこそこな頻度で交わしている。
「マーケットインでは足りない。マーケットアウトだ」「顧客視点の欠落したビジネスに未来はない」「我々の仕事は顧客に価値を生むことだ」…、私はそういったことをいつも言っているので、「顧客視点原理主義者」に見えるのかもしれない。
もちろん、顧客視点は大事だ。心からそう思っている。ただ、だからといって「他の視点はなくていい」とは一度も言っていない。複雑に利害が絡む現実社会の中で、唯一の一方的なモノの見方でいいわけがない。当たり前である。では、どんな視点が必要なのか?
モノを仕入れて売る事業であれば、買ってくれるお客、仕入れさせてくれるメーカー、そして自社の「3つの視点」は必要だ。直接販売・直接仕入れでないビジネスならば、販売代理店や仲卸の視点も必要かもしれない。
規制の強い業界であれば、監督省庁の視点、業界の視点、そして社会の視点が必要となる。そして、前人未到、唯一無二の事業はないので、直接の競合、代替物、果ては将来の新規参入者など、その事業において必要な視点は、その濃淡強弱含め多々あるのだ。
そういったことを含み置いたうえで、「とりわけ顧客視点は重要である」ということを言っているわけで、ときに買い手となり、つくり手となり、敵になり、味方になり、社長や部下の立場、そして株主の立場にもなってみたりと、いかに自在に多様な利害各関係者に人格を憑依させることができるかが、新規事業の立ち上げに大きな意味をもつ。
事業は人間が起こすものだから、事業の最小単位は人間関係である。相手が何を求めているかがわかれば、自分がどのカードを出せばいいのかがわかる。その積み上げが事業であり、それが無ければ事業は形づくられない、ということである。
では、どうやって相手が求めていることを想像するか?。私のおススメは「ひとリディベート」だ。
早朝や深夜、自分が一番フラットで前向きなディベートができる時間帯と場所を選んで、立場を入れ替えながら、視点を変えながら、相手のニーズをつかんで事業を構想してみるのだ。これを、身につくまで来る日も来る日も繰り返す。
そうすれば、多様な視点で考えることができるようになり、新たな価値を生み、事業をどんどん磨いていくことができるようになるはずだ。
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