新規事業に最適な体制をつくる2つの策
企業が手掛ける新規事業の成功失敗の分かれ道は、アイデアの良さや市場の有望性などと同じくらい、あるいはそれ以上に、「本業の汚染」をいかに免れるかにかかっている。
「本業の汚染」というのは、現在の稼ぎの柱である既存事業をもっている企業特有の問題であると同時に、すべてがベンチャーより圧倒的に有利なはずの企業がベンチャーに劣る、唯一にして致命的な弱みである。
企業は本来、ベンチャーに負けるはずがない。なぜなら本業によるキャッシュフローが回っていて、優秀な人材をフルタイムで抱えていて、取引先も多数で信用もある。しかし、あらゆる条件が有利なはずなのに、 一転、本業があるためにあらゆるものが不利に働くことで、実際には新規事業というフィールドでベンチャーに負けてしまうことがある。
その原因の根本が「本業の汚染」なのだ。たとえば、事業をつくる基本姿勢ひとつとっても、一番大事なことは、「顧客の立場に立って、顧客のニーズを起点に、従来にない新しい価値を生み出す」というマーケットアウトであるが、企業は本業のしがらみをすべて捨てて、純度100%のマーケットアウトを貫くことは難しい。
工場には稼働率があり、営業には販売ノルマがある。そしてなにより、「今期の業績」の重圧がある。
つまり、自社都合を押し付けてしまう構造となっているために、企業は、「顧客を見る以上に、自社を見る」クセがついているのだ。
一方のベンチャーは、本社や本業の余計なノイズに煩わされず、純粋に、主役である顧客だけを見て事業を立ち上げられる。この企業とベンチャーの「事業に向き合う姿勢の違い」が、事業創出の成否に致命的な影響をもたらしてしまうのである。
したがって、企業が新規事業をやるときには、必ず本業の汚染を回避する策をとらねばならない。もちろん、企業それぞれ汚染度には差があるが、共通してやるべきことは第6図のとおり、大きく2つある。
1.本業の汚染を回避する「31211」の施策
2.2種類のプロを巻き込んだ創業体制
これら2つについて、1つずつ、その具体的な施策を考えるポイントを述べていく。
本業の汚染を回避する「3121 1」の施策
まず、企業の中で新規事業を立ち上げようとしたときに、切り離したほうがよいものが3つ、付加したほうがよいものが2つ、選んだほうがよいものが1つある。過去に私が見てきた事例でうまくいかなかった新規事業は、この3点について明確に失敗していることが多い。これを「3つの切り離し」、「2つの機能」、「1人の戦士」と私は呼んでおり、「31211」の施策として、1つずつポイントを解説しよう。
【3つの切り離し】① 資金
まず本業から切り離したいものは「資金」だ。企業は、税務会計はもちろん、管理会計も「年度」で締めて管理している。上場していればその単位はさらに短く、四半期開示のサイクルだったりする。
この当たり前におこなっている「会計」の仕組みが、新規事業の惨敗を致命的に構造化しているのである。
よくある新規事業の惨敗シーンとしては、たとえば、こうだ。期初に、「よし、今期は新規事業に力を入れて新たな柱を生み出すぞ!」と方針を立てて、そのためのチームを発足、本業時間の一部を充てることで検討を開始する。
ところが、下半期に差し掛かるころに今期の着地が厳しそうだとわかり、「新規事業の予算をちょっと削ろうか…」となる。または、逆に本業が好調な場合だと、「戦力を増強しよう!」となり、どちらに転んでも新規事業が調整弁にされてしまう。
どうにかして今期の決算を目標どおりに着地させようとすると、「今期中に利益貢献するものは是で、今期中に利益貢献しないものは非」となるのは当然のことだ。
しかし、考えてほしい。自社の新規事業が世界初前人未到の新規事業であることは、まずない。つまりその事業は、どこかの会社の本業であるということだ。
あなた自身が、自社の本業に会社のリソースすべてを突っ込んで全力でやっているのと同様に、既存事業者もその事業を全力で守っている。
そういった既存事業者を相手に、「今期は業績が厳しいから新規事業はいったん止めよう」
「今期は本業の調子がいいから新規事業のメンバーを本業にいったん戻そう」と新規事業を軽んじて勝てるわけがないのだ。
また、そういった中途半端なことを繰り返すと、「どうせ社長は、本気で新規事業をやることはないだろう」「結局、ハシゴを外されるんじゃないか」ということになり、新しいことに挑戦する社風がいつまでたっても築かれることはない。
したがって、たとえば新規事業の予算は投資勘定として切り分け、本業のP/L(損益計算書)にヒットさせない策をとるなどして、本業の影響を受けないようにしてほしいのだ。
新規事業は5年先、10年先の自社の収益の柱となるものだ。ここに継続的に資金を投じる決断は、未来の会社の数字をつくっていく社長にしかできない。したがって社長は、「なんとしてでも新しい事業を生み出す」という覚悟をもって、しっかりと資金を切り離していただきたいのである。
【3つの切り離し】②意思決定
2つ目は、「意思決定」の切り離しだ。企業には現場での会議、上司との会議、上司の上司との会議…と、ミルフィーユのように何層にも重なる会議体がある。
あるいは、毎月1回や四半期に1度のペースで、今期の目標と実績を振り返る予実会議をやっていたりする。ましてや大事な意思決定ともなれば、社長以下、幹部揃っての場でおこなうというのが、企業における一般的な意思決定のやり方であろう。
一方、新規事業は、その事業が初期段階であればあるほど、顧客のそばにいる最前線の人間が、その時その場の意思決定でどんどん動いていくべきである。つまり、本業の意思決定のペースと新規事業の意思決定のペースは、まったく違うものなのだ。
さらにいえば、会議体の格が上がれば上がるほど、社内向け作業の負担は大きくなり、新規事業を担当する部署みずからの判断だけでなく、事前の関係部署への根回しや、経理や財務への確認など、起案の前段階での実質的な承認の取り付けが必要となる。上司への報告や、上司の上司への報告をするために、丁寧なパワーポイントを用意する必要もある。
しかし、そこまでして準備しても、会議出席者はその事業の顧客でもなければ、新規事業の経験者でもない。
つまり、「やったことのない人が、やったことのない人に、やったことのないことを、やらせるかやらせないか決めるために、入念な準備をさせる」という、およそ費用対効果の合わない惨状が広がっているのだ。
そもそも、厳密なチェック機能は、新規事業においてはあまリメリットにならない。ディフェンシブな役回りを担当している役員であれば、リスクを洗い出すことが思考のクセになっているし、そもそもそれが責務である。
そうした人が意思決定の場にいると、本業に比べて明らかに粗削りで不確実な新規事業は、突っ込みどころが満載で黙っていられないはずだ。
たしかに、会社として致命傷を負ってしまう訳にはいかないが、課題ばかりを指摘してブレーキを踏みっばなしでは、新規事業はなかなか前に進まない。より大事なことは、課題を指摘することではなく、勝機を見出し、勝ち戦へのシナリオに導くことなのだ。ゆえに、意思決定の体制は最低限必要な社長と担当責任者、つまり「承認する側」と「付議する側」だけでミニマムに進め、迅速に動ける「意思決定体制」にする必要がある。
ちなみに、新規事業の意思決定は、本業よりもかなり細切れにおこなう必要がある。なぜかというと、半年後、1年後まで突っ走るだけ突っ走ると、「いまさら引けない」という事態に陥る可能性が非常に高いからだ。
それまでに費やした労力やおカネや時間を惜しんで、それが今後の意思決定に影響を与えることをサンクコスト効果というが、戻れないくらい遠くまで行ってしまうと、戻ったほうがよい場合でもロスが大きすぎて戻れなくなってしまう。
まして、1、2年先くらいまでだいたい見通せる既存事業と違って、新規事業は1年先どころか数か月先も不透明で、 一番最初に机上で考えていた事業構想はほとんど事実と違っていたというようなことが当たり前に起きる世界である。
そのため、たとえば1つの施策を30日ほどで振り返って、「15日目で右に曲がったのがよくなかったから、次は左に曲がってみよう」という具合に、細かく関所を設けてしょっちゅう前進か後退か判断をする、ということが基本の作法となる。
こうした理由からも、本業の意思決定とは切り離し、独自の最適なタイミングでの意思決定ができる体制が必要なのである。
【3つの切り離し】③評価
3つ目は「評価」の切り離しだ。本業における評価は、今期の売上や利益の予実達成、遅延のない業務計画の遂行などでおこなわれる。つまり、短期的な目標を達成するための予実精度と失敗回避が求められる、ということである。
目標数字ははじめから決まっており、失敗は許されない。もし大幅な未達に終わってしまえば失格の烙印を押される。そういう世界である。
一方の新規事業は、誰もやったことのないことに挑戦するわけだから、本業と同じ評価基準で評価されたら、それこそ、チャレンジしたものが損をする構造になってしまう。
したがって、新規事業の評価は、「失敗しても手を挙げた時点でマル」、「もし事業を成功させたら花マル」というくらいにしなければ、挑戦に向けた前向きな風土はつくれない。
それに、新規事業の評価は、社長にしかできないはずである。なぜなら、今期の売上利益やシェア獲得という誰にでもわかる指標ではなく、「5年後に20億円を稼ぐ新規事業のク芽´を育てた」、あるいは「自社の新規事業の勝ちパターンを定める重要なノウハウを、″失敗´から導き出した」などの功績は、長期的な視点で会社の数字をつくっていく社長にしか判断できないからだ。
さらにいえば、社長は、事業の成功度合いに応じた利益分配的な報酬制度など、新規事業に最適なインセンティブ(賞与)設計も併せて検討していただきたい。
もちろん、評価や賃金体系を本業の基準から切り離し、新たな社内規定を公式につくり始めるとなれば、大変な時間と労力が必要となってしまう。ゆえに、まずは運用面での「特例扱い」で始めてみるのも一考だ。
そして、将来的には軌道に乗った新規事業はカーブアウト(自社の事業の一部を切り離して、新会社として独立させること)したうえで、担当した社員には株式保有させるなど、創業経営者であれば当たり前のインセンティブを設計していただきたい。なんのインセンティブもないローリスク・ローリターンでは、新しいものを生み出す原動力としては迫力不足だ。
独立起業のようなハイリスク・ハイリターンでは、わざわざ社内起業という選択肢をとっている意味がない。だから、わが社なりのミドルリスク・ミドルリターンを設計することで、企業における新規事業の加速につなげるのである。
【2つの機能】支援と型化
3つの切り離しと併せて、新規事業の開発部署には2つの機能を付加したほうがよい。それは、新規事業の最前線で戦っている外戦部隊が、内戦に手間をとられないようにするための「支援機能」と「型化機能」である。
「内戦」というのは、少しでも本業に競合する可能性がある事業はご法度とか、これはどこどこの部署の管轄だから…というような社内調整であったり、根回しであったり、それこそ社内の利害対立、足の引っ張り合い、弱い者いじめまで、ベンチャーには存在しない、社内への配慮や既存部署との調整が発生することの比喩である。
たとえるならば、事業を開発する担当者はボールを持ちながら、ひたすら前を向いて走っているようなものだ。ボールを持ちているから両手はふさがっている。そこに、横から矢が飛んできたり後ろから切りつけられたりしたら、ほぼ無抵抗でやられてしまう。
企業の規模が大きくなってくると、部署が違うと互いに何をしているのかが見えにくくなり、ましてや本業とは違う新しい事業は、試行錯誤の真っただ中にいると、先週、今週、来週で言うことが変わってしまうことが当たり前に起こる。
そうした状態の中では、新規事業はともすると「単に知らない」ではなく、「一体、あそこは何をやっているんだ」「どうして見込みもないのに、あんなにリスクをとるんだ?」「頼むから本業の邪魔だけはしないでくれ」…と、社内に不満を含んだ声が上がる可能性がある。
さすがに面と向かって「お前らは数字もつくらずに遊んでいる」と言う人はいないかもしれないが、社内にそのような心の声を少しでも感じてしまったら、事業に一意専心、100%没頭、というわけにはなかなかいかない。
こうしたことを回避するためにも、新規事業の現場で何が起こっているのかを、適時適切に本業のみんなに知ってもらい、「新規事業で私のもっているノウハウが必要なら協力するよ!」というように、力を貸してもらうための「本業と新規事業との接着剤」のような機能が必要となるのだ。それが、「支援機能」である。
また、その事業がうまくいってもいかなくても、その事業創出活動から「何を学び、何を得て、次にどう生かすのか」、新規事業に関するノウハウの蓄積と可視化が必要だ。
なぜなら、せっかくの経験値も、放っておけば個人にしか蓄積されない。それを、「組織の経験値」とするために頑張る担当者が必要ということだ。それが、「型化機能」である。
「ボールを持って走る人」が止まらずに全力疾走できるような支援機能ならびに、これからボールを持って走る人が同じ転び方をしないようにする型化機能を、新規事業開発部署には付加しておくことをおすすめする。
【1人の戦士】
「1人の戦士」とは、新規事業開発を担う人材のことだ。新規事業を形づくるうえで、担当者個人の力は非常に大きな意味をもち、どんな担当者を選ぶのかが事業の成否を分ける。
というのも、企業によく見られるような、悪い意味で「業務」と割りきってしまい、その事業を「自分ごと」として捉えることのできない新規事業担当者を配置しては、他にどんなリソースがあろうと、その事業は朽ち果てていくのが関の山だからだ。
そもそも、給料日は給料が振り込まれる日だと思っている企業の担当者と、給料日は給料を払う日であり、売上をつくらなければ来月の生活がままならないかもしれない独立起業家とでは、「覚悟ベース」で大きな違いがある。
そして、この事業にかける想いや切迫度合いの大きさは、事業の生死を分ける決定的な違いとして表れてくるため、ここにこだわりをもつ必要が大いにあるのだ。
では、最適な人材を社内から発掘するためには、どのような工夫が必要かといえば、まずは大前提として、社長自身が当事者意識をもってやるということだろう。
そもそも、新規事業はわが社の将来の収益をつくるものであり、だとすれば会社の未来を部下に創らせるというのは、社長の責任放棄以外の何ものでもない。だから、社長みずからがやるという当事者意識をもち、そのうえで社長直轄で専任者を置くことだ。
間違っても、営業部や技術部などの既存事業に責任をもっている事業部長に兼任させてはならないし、その事業部に新規事業の責任を負わせてはならない。なぜなら、事業部に今期の既存事業の利益責任を負わせているかぎり、その収益を優先するのは当然のことだからである。
今期の収益を生まない新規事業活動に人と費用を投入すれば、今期の収益を喰ってしまう。
たとえ5年先に自社の収益の柱になるといっても、足元の利益責任を負っている立場の人間にすれば、今期の赤字は許容できない。だから、新規事業はあくまで社長直轄とし、その責任は社長が負うしかないのである。
さらに、専任の担当者には、経営者候補となる社内のエース級人材をつけることだ。たとえ、その人間が抜けることによって大きな打撃を受ける部門ができても、である。
トップ人材を既存事業に縛りつけておきたくなる気持ちはわからなくもないが、それでは新規事業を軌道に乗せることはできない。それに、 一軍を投入することは、「この新規事業を絶対に成功させるんだ」という、社長の強い意志を社内に浸透させるうえでも効果的である。そのうえで、前述したように評価を本業から切り離し、減点主義ではなく加点主義でモチベーションを与えるようにする。
まずは手を挙げた時点で評価する。そして事業の成功度合いを見ながらさらに加点していく。そうやって、社内のトップ人材が迷うことなく、新規事業に挑戦できる環境を整えていってほしいのだ。
「立ち上げ」のプロを育てる
また、新規事業を「継続的」に生み出せる組織づくりを望むのであれば、1人の戦士を「新規事業のプロ」に育てるべく、連続して新規事業だけをやらせておくという人事戦略もあり得る。
かつて、私がミスミに入社したときに創業社長の田口弘さんから、「新規事業だけを延々とやっている人は誰もいない。うまくいくとその事業の責任者になって出ていってしまい、失敗すると二度とアサイン(任命)されなくなってしまう。だから、先人の失敗が引き継がれず、いつまでたっても同じ失敗を繰り返すから、新規事業は死屍累々なんだ」と言われ、田口さんのもとで2社にわたり20年間も新規事業だけをやり続けたように、とにかくバッターボックスに何度も立たせて、長期的な戦略として社内に新規事業のプロを育てるのだ。
社長はたしかに経営のプロであるが、新規事業のプロではない。下手をすると、事業を起こしたのは創業の1回だけ、あるいは後継社長なら0回の場合もある。
つまり99%の経営者は新規事業の「量稽古」を積んでいない、ということである。これでは、そうそう上手くいくわけがない。
もちろん一朝一夕に新規事業のプロが社内に育つことはあり得ないが、自社のモノサシを定め、量稽古を積ませていくことで、新規事業の成功確率は必ず上がっていくことになる。
「本業と新規事業は違う」ということを全社で理解する
以上、本業の汚染を回避する「31211」の打ち手は、「本業と新規事業は別物である」という前提に立てば、なんでもない当たり前のことである。
そして大事なことは、こうした仕組みをつくるのは大企業のほうがずっと難しく、中小のオーナー企業ならば、社長の一言で一気に変えることができるということだ。
まず社長が「絶対に新しい事業を生むのだ」と覚悟を決め、そのうえで全社に「なぜ新規事業をやるのか、どんな新規事業をやるのか」というモノサシや方針をはっきりと示すこと。そして、社長直轄体制のもとに専任者を置けば、中小企業の多くは本業の汚染を回避できるのである。
一方、大企業は、こんなシンプルにはやれない。私の経験でいえば、3年同じことを言い続けて、ようやく一歩前進という感じだったりする。
そうした重篤な病を患っている大企業に対する処方箋としては、法人を分け、物理的にも隔離する「出島戦略」をおススメすることが多い。出島組織をわざわざつくるということは、管理も含めダブルコストになるので、必ずしもベストだとはいえないが、本業の汚染から逃れるには有効な手段だと思っている。
社内起業なのだから、まっさらからの起業でないことは明らかである。だとしたら、その企業の強みを最大限に生かすべきで、本業の社員たちと対立せずに協力してやれる体制を、「31211」の施策を参考にして築いてほしい。
本業と新規事業は違う。その前提に立ったうえで、本業があるからこその新規事業、というものを、創り上げてほしい。
■コラム■ ミスミの革新組織
新規事業に一番必要なものは社長の「意志」ということを、本文中では何度も強調してきたが、かつて田口弘さんのもとで私が新規事業をやっていたころのミスミでは、 一風変わった人事制度を敷いていた。
人事部は存在していたのだが、「人事異動」は人事が決めることではなく、社員の「みずからの意志」を基軸に異動先を決めていたのである。
その仕組みは、こうだ。毎年年度末に、各役員が来期も担当したい事業や新たに手掛けたい事業について、日標やそれを達成するために必要なことをまとめ、取締役会に起案することで討議、検討し、どの役員が何の事業を管掌するかが決まる仕組みとなっていた。
もちろん、新規事業は起案すればなんでも通るわけではなく、会議で時期尚早と見送られることもあれば、ミスミとして取り組む意味がないとボツになる場合もある。既存事業も取りつぶしになったり、合併や分割することになる場合もある。
さらに、1つの事業に複数人の手が挙がって競争になることもあり、負ければ役員は「失業」することになるので、みずからの起案が受け入れられるように必死で努力することとなる。
担当する役員が決まったら、その事業の実務を実際に手掛けるチームリーダーを社内外に公募し、チームリーダーが決まるとメンバーを募ってチームをつくるのだが、メンバーも人事が異動をさせるわけではなく、リーダーの事業プレゼンを聴いて「面白そう、やりたい」「この事業は将来性がある」と自分で考え、納得して参画を決めていた。
評価・賃金も独特で、チームの業績評価をもとに、メンバー個々の貢献度に応じて儲けを山分けという仕組みをとっており、私の在籍期間中にはボーナスー億円というツワモノもいたほどだ。
このように、ミスミは会社全体で目標を設定し、 一致団結、そちらヘグイグイ社員を引っ張っていく企業ではなく、「会社へ行けば、好きな仕事が自由にできて、それを追求しやすいインフラが揃っていて、しかも成果に見合うリターンが獲得できる」という、いわば個人と企業が対等な関係にある会社だった。
だから田口さんは、いつからか「社員」を「参画者」と呼ぶようになり、つまり、リーダーとメンバーという階層はあっても、上からの命令で動くのではなく、対等な立場で事業に参画してもらうことで、社内に起業家を育てようとしたのである。社員が起業家精神をもち、新しい商売を設計するためには、繰り返しになるが、やはりみずからの意志が大事になってくる。
みずからが手を挙げるわけだから、業績が上がらずに利益配分が少なくても文句は言えない。逆に、なぜ業績が良くなかったのかを自分自身の問題として考え、対策を練ることとなる。
一方、人事異動でその仕事をさせられたのなら、なんで自分は運悪くこんなところへ配属されてしまったんだと、上司や社長に責任を転嫁しがちで、なぜうまくいかなかったのだろうと自責で考えたりはしない。責任逃れや逃げ道をつくってしまうだけなのである。こうした「セルフマネジメント」を軸とした事業や人事の仕組みは、参画者に高度な自立と自律を求めるため、すべての企業において適切である、とまではいえない。
ただし、新規事業を立ち上げるということは、まさに第二創業という創業であり、担当する者には、経営者としての立ち振る舞いを求めることは、やむを得ないものでもあるのだ。
組織は永遠不滅ではないし、不変でもない。その企業がとる戦略に基づいて、アメーバーのようにどんどんカタチを変えながら進化していくことを、社長は追求し続けていただきたいと思う。
2.2種類のプロを巻き込んだ創業体制
どういうメンバーでやれば成功するか
次に、「31211」の施策と併せて、企業が99%の再現性で失敗するのが「組織編制」である。
よくあるのが、期首にまず事業開発室みたいなものが組成されて、社内から人事異動できる人が入ってきて、年功が上の人がトップに据えられる。そしてそのハコに、「今期中に何かしらを立ち上げる」という目標が与えられる、という流れであろう。
しかし、この流れは根本的に間違っている。本当に勝ちにいくなら何の事業をやるのかによって適任者を集めるべきであり、目指すことに対して自社に欠けているパーツがあるのなら、自前で揃えるのではなく、成し得るために最適なリソースを「外部」も含めて獲りにいくべきである。
これも本業の汚染のひとつといえるのだが、なぜか企業では自前主義が根強い。しかし、現状のリソースは本業のためのものである。
いまだ手掛けたことのない新たな事業のためのリソースではないはずだ。つまり、適切なタイミングで外部の「プロ」を巻き込む必要がある、ということである。
とりわけ、同質性の高い集団の中で、根本的な考え方や発想の差異が少ない企業にとっては、新規事業に外部のプロを入れることは非常に大きな意味をもつ。なぜなら、社内人材だけで新規事業をやると、どうしても同じ価値観、同じ思考パターン、あるいは本業の成功体験に縛られるからだ。
企業にある統一性や同質性は、本業をやる分には効率性に優れているし、本業とベッタリ地続きの新規事業、あるいは新たな事業ではなく既存事業の新商品。新サービスを開発するのであれば、このうえない強みとなるだろう。
しかし本業とは違う新規事業をやる場合には、前例の踏襲や本業の常識は時に大きな阻害要因であり、新規事業をミスリードしてしまうことになる。
ゆえに、同質性だらけの中に、異質かつその事業に合った能力や経験を有したプロを意図的に投入していただきたいのである。
では、新規事業に必要な「プロ」とは何かというと、「新規事業のプロ」と「対象市場のプロ」、最低限この2つの人格を揃えることが新規事業の「型」なのである。
まず「対象市場のプロ」というのは、自社の新規事業が参入しようとしている業界のことを知り尽くしている人のことである。
規制やしがらみも含めて、顧客の困りごとや顕在化しているニーズ、儲けのキーポイントを押さえており、業界内の人脈も豊富なため、 一気に事業開発のスピードが上がるのだ。
かつて起業専業企業エムアウトにいたころ、訪問歯科の事業を驚異的なスピードで成功させた事例を3章で述べたが、この事業は「対象市場のプロ」とがっぷり四つに組んだことが成功の大きな要因であった。
そもそも、事業のアイデア自体も私が見つけたものではなく、当時、東京郊外のとある歯科医院に勤務していた歯科医師A氏にもち掛けられた話であった。
私が一人で悶々と考えたり、社内でいくらブレストをしても、おそらく一生思いつくことなく、たとえ思いついたとしても、A氏という対象市場のプロの知見や人脈なくしては、地に足のついたサービスやオペレーションを短期間で構築することはできなかったはずだ。
ただ一方で、対象市場のプロだけでは既存事業の慣習や経験に邪魔されて、業界を再定義するような新しい事業は生まれにくくなる。
その業界の既成概念を打破できないから今の姿があるわけで、そこをブレイクスルーするには、「新規事業のプロ」の力を加えることが必要となるのだ。
訪問歯科の例でいえば、その役割を担ったのは私である。当時の私が新規事業のプロであったかは兎も角、A氏と私のコンビは事業を垂直立ち上げし、組織化して一気呵成に水平展開することで、急激な成長を実現したのである。
新規事業のチームに新規事業のプロが入ることの価値は大きい。とりわけ、社内で選んだ「1人の戦士」を新規事業のプロに育てようとするならば、プロを身近に置くことが重要だ。
なぜなら、新規事業の視点、経験、熱量に直に触れさせることで、成長の早さと確度を向上させることができるからだ。人間とは身近な人間に影響を受けるものだから、プロのやり方や考え方に触れれば、それが当たり前になって、勝手に混血になってゆく。
たとえば私が、「事業構想は3か月で100回くらい更新するのが当たり前です」と言うと、これまで新規事業をやったことのない人は、「自分の想定していた回数と桁が違う」とビックリしてしまう。
しかしながら、ともに活動する中で、日々事業が進化するのが当たり前となってくると、日々進化するのだから、3か月もあれば100回くらい進化するということになり、桁の感覚が合ってくるのである。
ほかにも、「守屋さん、全然勝ち筋が見つかりません。この事業は難しいかも…」と相談を受けたときも、「それ、思いきって制約条件の○○○を取っ払ったら、まだやり様はいくらでもあるのでは?」と言うと、「なるほど!」となる。
このように、新しいことをやったことがないところに、「新しいことをやるときには、こういう考え方でこういう行動をすればいい」ということをわかっているプロを入れることで、事業の成功確率は格段に上がるはずだ。
ちなみに、新規事業の「組織の型」のもうひとつのルールとして、対象市場のプロより新規事業のプロの声が最終的に優先されるような意思決定をすること、というのがある。
新規事業として既存プレーヤーの中に入っていくのだから、既存のプレーヤーが考えもつかない、やりたくない、やれないことをやるべきで、むしろそれをやらなければ新規事業の成功はない。
したがって、新規事業のプロがたとえ2、3回判断をミスしたとしても、それでも対象市場のプロの声でなく新規事業のプロの声を選択し続けることが重要となるのだ。
これらをまとめると、「新規事業のプロ&対象市場のプ回の布陣」。かつ「新規事業のプロの声v対象市場のプロの声」、これが新規事業を生み出す組織の型である。
事業に最適なプロをどう招集するか
では、どうすれば対象市場のプロなり、新規事業のプロなりといった外部のプロに自社の新規事業に参画してもらえるかというと、探すこと自体はそんなに難しくない。いまは、各分野の専門家と企業を最適にマッチングするプラットフォームビジネスが存在するので、インターネットで簡単に検索できるし、私に相談してもらえば、対象市場のプロや新規事業のプロを紹介することもできる。
ただ、大事なことがひとつあって、自社がなぜ新規事業をやるのか、どんな事業をやりたいのかという解像度が不明瞭な場合には、最適なマッチングは実現しない。
私に対する企業からの依頼にも、「とりあえず今期中に、何か新しいものを生めるようにしてほしい」といった不明確な依頼がたびたびあるが、「何か」が「何なのか」を誰一人として解像度を持っていなかったから、いくら現場が頑張って提案しても、「それは我が社でやるべきなのか」、あるいは「本当に儲かるのか」と、往々にして車内から横槍が入り、新規事業がことごとく死んでいく。
プロと呼ばれる人間は、特定の分野については磨き込んでいるわけだから、どのような成果やアウトプットを期待しているのかを明確にして、球を投げることが重要なのである。
たとえば、私がラクスルの事業に参画したのも、創業者の松本恭掃さんが、「印刷業界の抱えている課題は、ミスミのようなビジネスモデルで解決できるのではないか」「だから、ミスミモデルに精通したミスミ出身者に力を貸してほしい」という明確な青写真があったからこそ、実現したマッチングである。
もし松本さんが、「何かやりたいので、誰か一緒にやりませんか?」とぼんやりした事業構想のままで呼びかけをしていたら、私は反応できなかったはずだ。
なお、外部のプロに参画を呼びかける時点で、精緻なパワーポイントやエクセルの事業計画をつくる必要はまったくない。細部の形式を整えるより、「なるほど、そういうことをやりたいのか」と思えるくらいのカタチにまとまっていれば十分だ。
精緻に資料をつくり込むことに時間を使うくらいなら、意志を語り、語ることで意志をさらに強くすることに時間を使ってほしい。表面的な形式よりも、本質的な熱量のほうが、雄弁に物事を語るものである。
だから、私個人の事業参画の決め手は、経営者が本当にその事業を自分ごととしてやりきる覚悟があるか、ということで、それが感じられない企業とはご縁がないと思っている。
本書で何度も強調していることだが、新規事業は、どんなに量稽古をしていても百発百中とはいかない。想定していた顧客が買ってくれないとか、勝ち筋が見つからないとか、事業を開発する過程では本当に苦しむことになるので、これを乗り越える意志や熱意をもっている人とではないと、 一緒にやれないし、やりきれない。
結局、極端なことをいえば、ビジネスモデルに関しては前人未到、前代未間のビジネスモデルというのはない。だから、新しいビジネスの出現は、そういった世紀の発見的なものではなく、いるんな人が手掛けているけれど、それをとことんやり尽くして、やりきれた人がいたときに生まれるのだと私は思っている。
こういう考えから、私が新規事業に着手するときの基準は、ビジネスモデルの優劣以上に、ましてや自分への報酬などの条件などではなく、人の意志。熱意を見ているのである。
■ コラム■
スピーダ エキスパート リ サ ー チ「∽「mmU> mX「mコH コ田∽田>コ0工」を活用して最適なプロを見つけよう
「新規事業のプロ」と「対象市場のプロ」を巻き込むことが大事だということに触れてきたが、そのような話をする度に、「新規事業家の守屋さんは繋がることができるかもしれないが、我々にはそんな伝手はない」というようなことを言われることがある。
もちろん、新規事業ばかり30年余、つまり1万日以上身を投じてきたので、いくぶんは、人より伝手はあるのかもしれない。しかしながら、それは所詮個人レベルである。法人として活動している専門のプレーヤーに敵う訳がない。
そして、その専門プレーヤーは、「新規事業 エキスパート 紹介」などで検索すれば、1秒もかからずに、数百万件の情報がヒットする。たったこれだけのこと、時間にすれば、検索ワードの入力時間を含めて、10秒もあればアクセスできるのである。
今回は、そうした検索で上位に表示される、「∽『同国∪>国x「国”『卿国∽国>”o〓」をご紹介しよう。
∽『国国∪> ”Xヽ国”弓”国∽国>”o〓は、「最高峰のエキスパートの経験知を集結し、事業創出と意思決定をサポート」するサービスである。知見を求める企業に向けて、その案件に最適な知見をもつエキスパート(個人)を紹介するプラットフォーム、ということである。
これまでは、企業が新規事業創出や海外進出、M&Aなどの重要な意思決定に際して情報を収集しようとする場合、まず四方八方と手を尽くし、自社が求める情報や知見をもった専門家探しから始めなければならなかった。
これには膨大な時間がかかり、さらには時代の進歩が速いため、必要とする情報は日々変化してしまう。
しかし∽「国国∪> 国x「国卿弓”日∽国>”o〓を活用すれば、独自のデータベースから瞬時に最適な専門家を選び出し、質の高い情報や知見を得ることができる。つまり、情報収集にリソースを割かなくてもよくなった分、考えることやアウトプットすることに時間を充てられるようになったのである。
∽「国国∪> 国X「国卿日”国∽国>”〇〓の誕生の背景には、エキスパートである個人と企業、双方の意識の大きな変化がある。
個人については、2018年に事実上国内での「副業」が解禁を迎えたこともあり、これまで自分が積み上げてきた経験や知識、スキルを「転職」ではなくプロジェクトベースで、もっとオープンに社会に還元したいというニーズが、個人の働き方の意識として生まれている。
∽『国国∪> 国X『問”『”国∽国>”〇〓のデータベースに登録している専門家の8割は、560業界にわたる企業の管理職クラスだ。そのほか、現役の経営者やコンサルタント、技術者。アナリスト・研究者なども登録していて、自動運転やヘルステックなどの最先端領域の登録者が最近ではとくに増えているという。
一方で企業としても、事業寿命の短命化や顧客ニーズの多様化が加速度を増す中で、柔軟に事業を変えていけるよう、終身雇用を廃止し、人材の流動化を図りたいというニーズが高まっている。
こうした双方のニーズによって、必要なタイミングで必要な人材をスポット的に登用する∽『日国∪>国X『国”弓”国∽国>卿〇〓のようなプラットフォームが誕生したのである。ちなみに、私も新規事業のエキスパートとして∽「国国∪> 国X『国卿日卿国∽国>”〇〓に登録しており、わが国の事業創出に私の知見をぜひ活用してほしいと思っている。
いずれにしても、ヒトの場合は相性がとても重要だ。もし一度相談してピンとこなければ、他のプロに打診をすればいい。こうしたエキスパートのプラットフォームサービスをフル活用することで、リスクを最小限にしながら、プロの知見を得てほしい。
「わが社には伝手がない」などということは、まったくの言い訳である。伝手がないのではなく、たかだか10秒程度しかかからない「行動が足りない」のである。ぜひ、意志をもった新規事業の滑り出しに、うまく活用してもらいたい。
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