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設備投資計画立案の具体例


序モデルケース・神奈川食品機械

食品機械製造業のい神奈川食品機械工業(以下、神奈川食品機械)を取り上げケースに即して設備投資計画を立案していこう。

神奈川食品機械は製麺関連食品機械製造業として、現社長が約30年前に創業した。その後新しい加工食品の台頭、インスタント食品の急展開などに乗り、社業を伸ばしてきた。製パン機械を始めとして比較的安定した受注を獲得してきているが、長期的には単なる単一機能の食品機械製造から脱皮して、原料搬入から製品出荷に至る全工程の連続化を実現する食品加工機械製造業に脱皮することを目指している。

現在、活発な受注量の増加に対応するため、新工場の建設を計画している。これまで増産に追われて生産することしか念頭になかったが、今回は十分に検討したい。

食品加工機械製造業の特色

①多くの食料品があることから機械がきわめて多種多様であ

る。多品種少量の受注生産型産業であり、中小企業が大部分である。当然、国内産業的特性を持つ。

②食料関連のため、不況に強く、需給が安定している。新規

参入がしにくく、市場規模の小さい専用機が多いため、成長性の低い業界である。

(2)設備投資計画の概要

受注量の増加に対応するため、本社。第1工場の隣地に新工場(第3工場)を総投資額240百万円で建設する。

中長期経営計画の中で検討されているか

(1)中長期経営計画の中の重要項目

まず企業ではどのような形で経営戦略が打ち立てられるのか考えてみよう。

それぞれの企業には、企業体質と呼ばれるものがあり、品質第一の手堅い企業、成長指向が強く多少の危険はあっても新規展開に積極的な企業など、人間でいえばいわゆる気質に当たるものを持っている。個別の企業が持つ独特のカラーというものは、経営者、従業員、製品、工場、店舗などに何らかの形で浸透しており、全体としてその傾向が判別されるものである。そのような独自の企業体質を持った個々の企業は、自社を取り囲む外部環境に対応しながら変革の努力をすることになるが、この努力を怠ると次第に衰退していく。

企業の外的変化にはいろいろなものがあるが、最も基本的なものは需要構造の変化と技術革新ではないかと思われる。この外的変化に対処する時点で、企業の戦略が打ち立てられなければならない。個別企業を特徴づけている企業体質を生かしながら、明確な経営戦略を計画化したものが中長期経営計画である。

中長期経営計画を作成していく手順は、次頁の図表の通りである。この中で設備投資計画は、経営目標に沿って、販売計画、研究開発計画、労務計画などと一緒に総合的に作成され、最終的には利益計画、資金計画にまとめ上げられる。設備投資計画は、企業の成長と安定を目的とする中長期経営計画の重要な位置を占めるので、あらゆる見地から総合的に、慎重に検討されるべきである。なお、中長期経営計画の目標としては売上高、プロダクト・ミックス、シェア、総資本利益率、自己資本比率などをよく使う。

プロダクト・ミックスとは、どの製品をどのくらい生産するかということで、生産面のみならず販売および利益の観点から決定される。シェアとはいうまでもなく当該製品に対する全市場売上高中の自社売上高の比率のことで、自社シェアが高ければ価格を含め市場への影響力が大きく、自社にとり優位な条件が整う。

(2)神奈川食品機械における強み。弱みの分析

神奈川食品機械では従来業務に追われ、中長期経営計画の立案を実施したことはなかった。

しかし、今までのようにただひたすらに顧客から受注を獲得し、期日までの納入に努力するのみでは、今後の生き残りは難しいことは社長も認識している。

そこで、設備投資計画を単なる増産投資として片づけるのではなく、今後の当社の経営計画の柱として位置づけ、自分なりに大きな方向づけを検討することにした。

まず業界環境であるが、食品機械については、食品そのものが基本的な個人消費に支えられているものであり、その業界を顧客層にしているため、需要そのものについては比較的安定しているし、大きな落ち込みはあり得ない。

しかし、食品機械そのものはそれほど品質精度の厳しいものではなく、小回りのきく中小企業向きの製品であり、単にコストのみであれば、今後アジア諸国からの製品に競合できないことも予想される。さらに、単品機械のみではユーザー・ニーズに対応できず、システムとしてソフトも含めてユーザーヘ提供することが要求されている。

したがってユーザー・ニーズを先取りした開発能力、さらには中小企業といえど単なるハードの生産のみでなく、ソフト作成能力も要求されることになろう。

一方、当社側の体質としては、今まで受注に恵まれ、ひたすら作ることのみに集中してきたため、システム化の意識も乏しく、コスト意識さえも十分ではなかった。従業員もやや高齢化しており、今後のことを考えると、若手の技術者の育成が急がれる。

また、人手不足が中長期的には大きな問題となることは明らかで、さらに今後の労働環境の整備、労働時間の短縮などを考えると、省力化、合理化された職場が必要とされてくるだろう。

しかしながら、現在の会社の体力では、大企業と同じフルライン政策はとても無理であり、自社の優位性を生かせるところへ集中する差別化戦略を取る必要がある。

今後の中小企業の生きる途としては、自社の経営資源を生かした差別的優位性を確認し、それを伸ばすことが大切である。そのため、自社の強みをまず列挙してみた。

①強み

食品機械業界での業歴の長さ

安定した顧客層

個別のユーザー・ニーズに対応できるきめ細かさ

まずまずのレベルの真面目な従業員

比較的勤勉な経営陣

中小企業としては、一応の財務体力

②弱み

あいまいな経営戦略

弱体な経営管理体制

設計を含めたシステム対応の開発力

手薄な技術陣

そこで、経営戦略をつぎの如く求めた。

・特に従来から得意な製パン機械では、他社の追随を許さない技術力を養う。

。そのため、技術陣、生産体制の強化を図る。

。大規模な設備投資は、今次計画をもって当分行わず、今後4~ 5年は、財務体力の強化に専念する。

。今後5年間で、製パン機械売上の比率を、現在の25%から35%にまで伸ばす。

。売上増は5年間で毎年5~ 6%とし、むしろ収益力の向上を目標とする。このような経営計画の中で、第3工場設備投資計画をつぎのように位置づけた。

すなわち、今後の生産能力の中心とすること、製パン機械の主力工場とし、ショー・ルームも併設すること、省力化を極力図ること、職場環境に十分配慮したものとすること、研究開発もできる工場とすること等である。

(3)神奈川食品機械の経営分析

前述の検討に関連し、自社の経営分析を中小企業庁方式に基づいて行ってみた(次頁の経営比率表参照)。

①収益力

まず指標として、経営資本営業利益率を利用して、ROAを時系列および同業他社比較の2点から分析してみた。

収益力の基本的指標である経営資本営業利益率は、この3年間上昇し、収益性は好転している。その要因として、経営資本回転率が向上していること、売上高営業利益率が上昇していることが挙げられる。

一方、同業他社と比較すると、28期経営資本営業利益率は、業界水準よりやや高い。売上高営業利益率、経営資本回転率いずれも優れている。ついで売上高利益率と回転率に分けて検討してみる。

売上高営業利益率がよくなっているのは、売上高総利益率が上昇しているからである。業界平均に比べると売上高総利益率はかなり低いが、販売管理費の負担が少ないので営業利益率段階では同業他社よりよくなっている。

これは、製品の販売を原則として代理店や商社に依存し、販売管理費を軽くして、生産に注力しているためだと思われる。

一方、経営資本回転率は業界平均より高く、効率的な経営を行っている。その理由は、固定資産の回転が早いことが主因とみられる。当社は、過剰な設備負担を避け、中小企業の特徴を生かし、身軽な経営をしている。

②安全性

総資本自己資本比率は、業界平均を大幅に上回り健全な状態である。固定比率も74.7%と低く、自己資本の厚さに比べ設備投資に消極的であることがうかがわれる。

独立案・代替案は十分に検討されたか

設備投資を行う時に大切なことは、できるだけ多くの案を考え出し、それを独立案ないし代替案として検討することである。

(1)投資の分類

①独立的投資と代替投資

まず、独立的投資と代替投資について説明しよう。これは投資案を評価する時に有効な分類である。いくつかの投資案を評価する場合に、各投資案相互の関係を知ることは大切である。今、仮にある企業が食品機械の新工場投資(A案)とスーパーマーケットヘの進出(B案)の2つの投資計画案を検討していたとする。

この場合、この両者は互いに全く関連がない。採算にのれば両案とも投資を実施してもよいし、あるいは片方だけ採用してもよい。それぞれ別々に独立して検討するであろう。このようにA案の投資から生じる投資効果がB案の実施のいかんを問わず全く影響されない時、AはBから独立しているといつ。

ついで、仮にこの企業が食品機械の新工場建設案のみを実行することにしたとしよう。この中で、当社は投資規模、立地、投資機械の個別仕様などさまざまな代替案を考えては検討することになる。場合によっては、子会社に製造させる案も出てくるだろう。この中から当社は、 1つだけ最適と思われるものを選択することになる。このように代替投資とは、いくつかの投資案の中でいずれか1つしか実行できない場合をいう。なお、ある投資案(B案)を採用すると、別の投資案(A案)と相まって全体の投資効果が高まる場合、B案をA案に対し補完的であるとし、これを補完投資という。

さて、それではなぜこのような分類を行うのであろうか。それは分類を行うことにより、経営者が投資案についての意思決定を行いやすくするためである。

まずプロジェクトごとの独立投資に大きく分ける。ついで、その独立投資ごとにいくつかの代替案を検討することが大切である。

例えば2つ以上の補完的投資は、これを一緒にまとめて1つ
の投資案として提案し、提出される各投資計画は互いに独立か
代替的なものにする。 2つの補完的投資案である「工場」と「空
調装置」を、それぞれ別々に提案する代わりに、代替案

「 空
調装置を備えた工場」と「備えない工場」のいずれをとるかという形にして提案した方がよいわけである。経営者が非常に有利と判断して投資案件を承認したあとから、その投資にかかわる追加投資が提出されてくるような場合には、設備投資を効果的に意思決定することは不可能である。

以上の例としてつぎのような計画を検討してみよう。

化成品製造A社で新製品生産を計画し、既存生産設備では新製品を生産する余力がないので、新工場建設の設備投資計画案をトップに提案した。 トップはこれを検討した結果、その案につき、
・必要な運転資本の見積りがなされていない
。新製品に必要とされる原材料の1つは、社内調達が可能であるが、その増産のため追加投資が必要となる
。この新製品に対する需要は季節変動が大きい。一定の生産水準の維持を図るためには、保管のため新規に倉庫が必要になる等の問題が明らかになり、これらの結果、この投資案は否認された。

この事例はまさに、設備投資案を検討する場合には補完的投資をひとまとめにして提案すべきであるというよい教訓である。設備計画の承諾後にズルズルと追加投資が生ずるようでは、計画は成功しない。

②投資効果把握の違いによる分類

なお、設備投資の評価を行うためには、その効果を測定する必要がある。

投資効果はキヤッシユ・フローという形で測定されるため、その発生の形に応じて取替投資(更新投資)、合理化投資、能力増投資、新製品投資、戦略投資に大別できる。

取替投資(更新投資)とは、基本的にはコストを節約することを目的としており、現在の旧設備をこれと同一の新設備に取り替えることである。物理的に減耗した旧設備を取り替えることで、運転が現在よリスムーズになり、コストの節約が図れることに投資のメリットが求められる。

合理化投資とは、1日設備が陳腐化したため、これを機能のよりすぐれた新鋭設備に取り替えることである。この場合は、前述の同機種の取り替え以上の能率の向上が見込まれる。

合理化投資の場合も、取り替えにより生じたコストの低減が投資の利益として考えられる。原単位の削減や省力化投資なども含まれる。

能力増投資とは、現在の製品を増産するなどのために行うもので、工場の増設とか新店舗を設置することなどである。例えば、紳士服のディスカウンターが好調だが、そのために新規出店を行うのは能力増投資に当たる。

取替投資と能力増投資では、投資効果の算定基準が異なる。

取替投資の場合は現在使用中の設備も含め、いくつかの投資案を比較してコストの節約が最も期待されるものを選ぶ。一方、能力増投資の場合は、現在の設備と比較して増産あるいは拡販を行った結果、売上増と費用増が生じるが、その差額の利益の増加額をもって判断する。

新製品投資とは、現在の製品を改良した製品や、新製品を生産するために設備投資を行うやり方である。この投資の場合も、能力増投資同様、売上増と費用増が発生し、その差額が投資効果として測定される。

戦略投資とは、投資効果の測定が難しいものをいう。すなわち、戦略投資はその利益の測定がはっきりと計算できず、キャッシュ・フローを明確に確定できない。しかし、企業存続のためにはせざるを得ない投資であり、長期的には当然利益を生む。

例えば、福利厚生投資を怠って労務倒産を招いた場合は、その企業のすべての利益が失われるので、投資を行わないことにより機会利益を失うことと同様に考えられる。このように戦略投資とは、短期的にはその投資効果の測定が難しく採算計算を行いにくいが、企業存続のために長期的観点からはどうしても実施せざるを得ないものと定義することができる。戦略投資として研究開発投資、公害防止投資、福利厚生投資などがある。研究開発投資を行い、競争力のある自社製品を開発することは、企業の将来のビジネス・リスクを少なくする最も有効な方法である。福利厚生施設への投資は、生産の重要な要素である人材の確保のためには欠かせないものである。

公害防止投資についても、現在、企業は地域社会の環境保全、改善という社会的責任を避けては企業活動を維持できなくなっており、公害防止投資は福利厚生投資などとともに、コンスタントかつ積極的になされるべきである。

このように戦略投資とは、比較的投資効果の測定が難しいものや場合によっては全く投資採算が計算できないものをいい、防衛投資と呼ばれることもある。

(2)神奈川食品機械における独立案・代替案の検討

当社は、まず事業機会を求めて、いくつかの独立案を考えてみた。

既存事業としては、今次食品機械の増産投資が、また一方では高齢社員と遊休土地の活用を兼ねて、商業・サービス業への新規投資も挙げられている。

また、現在はともかく、将来は海外への直接投資もあり得ないわけではない。1社のみでは不可能であれば、業界の同規模の企業と組んで共同投資ということも考えられる。さらに、新規事業としては、現在の食品機械生産のノウハウを生かす製品もいくつか検討したが、現在の経営資源や、当業界での業歴の長さから、中長期経営計画の方針に基づき、食品機械一本にしぼることにした。したがって、当社の独立案を挙げれば、食品機械生産への設備投資と遊休土地を利用した商業への設備投資の2つとなる。独立案の場合は、これら2つの投資をそれぞれ個別に評価して、投資採算に乗るものを採用すればよい。その結果、両案とも投資することもあるし、採算に乗る片方だけ、あるいは、両案とも採用しないこともある。後述のように、個別の採算計算を実行して判断する。

つぎにそれぞれ代替案を検討した。

代替案をできるだけ多く考え出し丁寧に検討することにより、よりよい投資案が見出せる。したがつて、この代替案の考案にはできるだけ時間を割き十分な検討を行う。

食品機械の増産については、現在の立地が市街化が進んでいることから、地方あるいは海外も含め検討した。

しかし、数少ない技術者の分散、ユーザーとの打合せ、工程の一部が既存工場にあること、まだ工場敷地の一部に余裕があることなどから、今回は現在地における能力増を計画することにした。

特に、今回は工場の一角に、食品機械のショー・ルームも併設する予定なので、現在地の方がよいと判断された。一方、商業の計画については、コンビニエンス・ストア、ミニ・スーパー、レストラン、ベーカリー・ショップ等、多くの可能性がある。

食品機械のノウハウを得るためにはオープン・フレッシュ・ベーカリー・ショップがよいと思われたが、計画場所のすぐ隣がパン屋であるためこの計画は断念した。また新事業に対するノウハウがないため、ボランタリー・チェーンやフランチャイズ・チェーン形式で運営できる業種を選定し、近辺の競合店の状況から判定してコンビニエンス・ストアを念頭において事業計画を進めることにした。

3.製品の市場性と販売力は十分か|

(1)販売計画の検討

設備投資計画の立案に際しては、販売の可能性の検討は必要不可欠のものである。以下販売の可能性を検討する方法を述べる。

①受注の確認

その販売について具体的な計画がある場合は、確認が大切である。例えば、大口納入先に受注の確認をする等の危険回避策である。大手石油会社の排煙脱硫装置の清掃を請け負っていた会社が、超大型クレーンを購入した年に、例年予定していた石油会社からの発注がなく、クレーン購入の設備投資が空振りに終わった事例がある。この確認作業は、ただ口頭の約束のみでは不安定であるし、さらに仮に確約書をもらってもそれだけでは無意味である。大切なことは、単なる形式の確認でなく、本当に相手が自社の製品。サービスを望んでいるかという実質的なつながりである。

仮に書類をもらっていても、事情の変更などにより簡単に反故にされることもあるし、先方も需要激減などにより業況が悪くなると約束を守りたくても守れなくなる。

さらに大切なことは、発注者側の話をうのみにせず裏をとることである。例えば、部品業であれば完成品の末端、すなわちユーザーの声まで聞き、本当の需要ニーズを捉えておかなければ、中間の発注者が需要を見誤った場合はとりかえしがつかないことになる。本当の情報は末端のユーザーにあり、ここから直接に情報を入手する原則を常に心掛けておくべきである。特に、2次下請けなどになると、なかなか本当の情報が入らず困惑するが、エンド・ユーザーからの生の情報を確認せずに、大投資を行うと命とりになることがあるので十分に注意されたい。

②競合メーカーの動向調査

つぎに、同業他社の動向も大切である。業界としては確かに需要増が見込まれているものでも、その増加部分をすべて自社で独占できるものではない。

安値攻勢、サービスの向上、支払い条件の切り下げ等の対抗手段をもって同業他社が競争を仕掛けてくる。その結果販売予想を下回り、収支計画に大きな影響を与えるので、その動きを織り込んだ販売。収支計画を作成しておく。一方、安ければどこからでも買うという不安定な納入先は徐々に削減していく努力も必要である。

③販売計画の作成

生産能力拡大投資や新製品の場合、販売計画を特に念入りに
作成する必要がある。販売計画を本格的に作成するには市場調
査、需要予測等、相当丁寧な作業が必要である。しかし中小企
業の場合は最終的に、簡単な売上見通しにまとめ上げることで
十分である。銘柄別に販売量、単価の推移などを一覧表に作成
する。

④販売計画作成フローチャート

参考までに販売計画策定のステップを次頁に図示する。

⑤ 自社開発製品の販売

従来、下請け中心の形態で経営してきた企業が、新たに自社製品を開発し販路を開拓するのはなかなか難しいものである。ここではうまくいったケースを見てみよう(出所:佐々木甲一『企業審査ハンドブック』第五章)。

自動車部品メーカーE社は、かねてより自社製品の開発に取り組み下請け企業からの脱皮を志向してきたが、ようやく商品化の目途もつき生産を開始することになった。

E社が開発した商品は、自動車用品専門店やホーム・センターなどアフター市場向けの自動車用品であった。E社においては初めての自社製品であったため、市場調査や業界関係資料等を収集し、市場規模とその成長性、既存の競合商品の販売動向、商品の機能。価格・デザイン等、種々の観点から検討したところ、既存商品に対し十分競争力を持ち、市場への参入可能性が高いものを開発できた。

ついで販売のチャネル設定と取引先の確保に努力した。主要なチャネルとして自動車用品専門店、ホーム・センター、ガソ

社外情報

販売目標の決定

トップの判断

リンスタンド等があり、最近はディスカウント・ストアもシェアを伸ばしつつあった。将来自動車用品以外の関連商品を開発していく予定があるため、それを考慮して取引拡大の期待できるホーム・センターをメインのチャネルとし、それに取引が内定している自動車用品専門店をサブのチャネルとして設定した。

自動車用品専門店については、初めての自社製品開発のリスクを軽減するため、OEM生産を前提に業界の有力店S社に開発段階から参画してもらい、取引についてもまとまった量を安定的に引き受けてもらうことも内定している。一方、ホーム。センターについては、ホーム・センターに強い有力卸のK社、M社と代理店契約の締結を終えた。K社、M社との代理店契約については、自動車部品の納入先である大手自動車部品メーカーの支援も得られた。また、営業スタッフについては、早い時期から人材確保の手をうった。

一般に、下請け企業が自社製品の開発を手掛けるケースは多いが、失敗するケースも多い。それは、販売体制を一から構築しなければならず、困難を伴うからである。E社のケースでは、親会社の支援も得られ、開発と並行して早い時期から販売体制の構築に取り組めたことが最大の成功要因である。このようにリスクの大きい下請け企業の自社製品開発には、販売計画の整合性・妥当性の検討と計画作成のみでなく、どこまで具体的に着手しているか、リスクを軽減するための対策にどのように取り組んでいるかが重要なポイントとなる。

⑥商品のライフ・サイクル

また、大切なことは、自社製品のライフ・サイクルを常に把握しておくことである。

商品のライフ・サイクルは次頁の図に見る通り、通常は導入期。成長期。成熟期・減退期の4段階に分けられる。導入期とは、商品が市場に新しく導入され、物珍しさを好む一部の革新者が顧客となるが、まだ売上高は低く、利益は赤字となることが多い時期である。

成長期とは商品が市場に受け入れられ、普通の購買層が顧客となってくるので、売上高は大きく伸び、利益も出てくる。成熟期とは市場に行きわたり、顧客も広がるが、売上高は横ばいとなり、総利益もピークに達し、その後低下していく。

減退期には商品が減退し、やがて市場から消えていく。売上高、利益とも低下し、顧客は一部の保守層だけとなる。このライフ・サイクルを伸ばす努力はさまざまな形でなされる。

例えば、モデルチェンジをしたり、カメラの全自動軽量化のように新機能を付加したりすることもある。また、新しい用途や別の分野でのユーザーを開拓するなどの努力もある。

商品のライフ・サイクルを検討する時に、単純に減退期の商品だからといって力を入れるのをやめるという戦略は勧められない。

例えば、あるカメラシャッター・メーカーは、特に高級品では業界のトップで、他社の追随を許さない競争力を有している。

その理由としては、最新鋭の一貫自動ラインをいち早く投資し、コストでも品質面でも他社を圧倒していることが挙げられる。衰退期にある商品といえども、独占的地位を保つにはそれなりの投資を必要とする。

企業の製品戦略上、1つの製品のライフ・サイクルが生きており、企業体力も十分なうちに次世代の主力商品を開発しておくことが大切なのである。

⑦量産型商品か高付加価値商品か

最後に、自社製品の性格づけが必要である。量産効果のある商品と、付加価値が高く高収益の商品を同一視して扱うのは危険である。

とうもろこしから澱粉をとる工程で、きわめて優良な微生物用培養液が得られ、その利益率も高い。しかしこの培養液を単独に抽出し、その他の部分を外部に売却すると、この工程すべてでは赤字になる。またこの培養液を量産化したところで、全需要には限度があるので採算に乗らない。このように、固定費をカバーする量産商品と、量的には多くないが付加価値の高い高収益商品については、明確に異なった戦略が必要とされる。設備投資を行う時に、製品戦略を明確にしてそれぞれの製品の性格づけを見きわめて実行すべきである。

(2)神奈川食品機械の市場と販売力

①市場環境調査

当社としても、まず製パン業界の状況を調査し、つぎの結果を得た。

パン。菓子製造業の事業所数については、小規模事業所は減少してきているが、販売高や雇用者数では若干増加しているので、大手。中堅は十分に存続する余地がある。

この中で、パン製造業では大手企業が約6割のシェアを占め、食パン・菓子パンを中心に大手への集中が進んでいる。また技術面では、冷凍生地技術が急速に導入され、取扱い量も急増している。冷凍生地技術の利点は、工程の短縮、労働力節約、職人離れなど多くのメリットがあり、パン屋の経営形態の変革に大きく寄与した。オープン・フレッシュ。ベーカリーの隆盛は、この冷凍生地の普及によるところが大である。なお、パンの生産量は年間約120万トンと頭打ちであるが、比較的安定している。

パン・菓子企業も国際化の中に組み込まれており、需要を海外へ求める一方、原料面でも海外依存が高い。食品機械メーカーとしても、ユーザーの国際化に対応する必要がある。これらの調査の結果、需要が比較的安定しているので、ユーザー・ニーズに対応できる製品開発力を有する限り、同社も中堅ながら大手に十分に伍していけるとの結論に至った。

②販売促進体制

チャネルとしては、従来販売は主として代理店。問屋に依存していたが、今次増設に備えて販売支援チームを3名で新規に編成することにした。これは、まず従来のユーザーを訪問し、そのニーズを汲み上げると共に新製品の売り込みを行い、間屋のみでは対処できない技術的なノウハウの提供もする。また、今次投資で製品のショー・ルームを設置し、そこでユーザーが新しいパンの試作もできるようにして、その連絡係も受け持たせることにした。これらの努力の結果、中堅ながら急成長しているKパン製造業に新規に成約できるメドがついた。現在、大手R社が業界では圧倒的にシェアが高いが、今後、他の中小メーカーのシェアを蚕食することも可能と判断し、設備投資による増販を見込んでいる。

効率的でコスト競争力のある生産は可能か

(1)生産面における検討事項

①機械の選択

中小企業の場合、自社に不適切な高級機械や、開発直後の1号機をメーカーに勧められて購入することが時々ある。これらの場合、自社の技術力を十分に評価して行わなければ設備を使いこなすことができず、その結果、遊体化して投資が無駄になることがある。また、開発直後のこなれていない機械だと、よく故障し、最悪の場合、試作機の実験台になることさえもある。このようなケースは、技術に偏った技術系の社長などが陥りやすい過ちであり、設備投資が大好きで過剰投資を招くのも同じタイプの人である。

ある建設機械部品の鍛造メーカーは、鍛造はもちろん、機械加工からアセンブリーまでの最新鋭一貫工場を投資し、その設備の質量ともに日本で最高のものであった。取引先を始め関係者からも、これらの設備はきわめて高く評価され、社長の自慢であった。しかし鍛造業は本来きわめて収益的に厳しい製品であり、過剰投資を負担できるほどの高収益はまず期待できない。むしろ、やや古い機械でも改善を重ね、稼働率を上げることにより、ようやくペイラインに達する業界である。このような業界において設備に資金をふんだんに投じた結果、当社は最新鋭工場を残したまま倒産してしまった。

この種の教訓は数限りなくある。『日経ベンチャー』93年6月号に、森清氏が「土台を無視した投資は技術発展を阻害する」と題してきわめて有益な直言をしているのでここでその一部を引用しよう。

効率的でコスト競争力のある生産は可能か

「低金利のバブル時代、中小企業はこぞって高価なハイテク設備を購入した。『隣の会社が買ったのだから、うちも買わなくては一』という経営者の`横並び意識″と、『ハイテク投資を導入すれば、自社の技術力は必ず向上する』という`錯覚″が後押しした。

投資というのは、将来を見据えた具体的な目的のもとに進められなければ効果は期待できない。しかし、ここ数年はこの投資の基本が経営者に欠けていた。

また、高度な設備を導入すればヾそれを使いこなすだけの人材の育成が必要になるが、経営者の頭は「設備投資=省人化」という考えしかなかった。人材を育成して技術力を高めるかわりに、経営者が進めたのは、中高年技術者から既存の職人技術を奪い、ハイテク機械を操作する仕事に就かせることだった。『技術は積層である』とよくいわれるが、こうして基礎技術を失った企業に技術発展はないだろう。

例えば、これまでドラフトマシン(製図機械)を使って設計していた企業が、CAD(コンピュータ援用設計)を導入してもドラフトマシンの作業は残すべきである。CADだけしか知らず、線一本を自分の手で引くこともない若手社員には、創造的な仕事は期待できない」と忠告している。

技術の源流と積み重ねを軽視し、設備万能主義の企業に将来性は期待できない。

なお、新鋭機でなくても、設備を従来と別のプロセスに置き換える時などは十分に注意した方がよい。自社の製法に機械がなじまないことも多く、思わぬトラブルが発生することがある。

これに関連するが、自社で生産設備を開発ないし改善できるか否かは設備効率、競争力ある製品の生産、投資コスト低減などさまざまな面で影響を及ぼす。

ユニオン・ツールは生産設備をすべて内製し、精度の高い超硬ドリルを生産し、国内シェア・トップの地位を保っている(『日経ビジネス』93年3月15日号参照)。同社は、60年、歯の治療用ドリル(デンタルバー)メーカーとして出発し、71年に国内のハイテク産業の成長による需要拡大をにらみ、超硬(PCB)ドリル中心に転換した。その後、大手3社の参入を受けながら、国内外でトップ企業の地位を保っている。

PCBドリルは特殊な商品で、ユーザーも限られており、生産技術で一歩先を行けば、販売力の強い大手にも十分対抗できる。同社は生産設備を内製し、独自の加工技術を磨き上げることで、大手の攻勢を跳ね返した。ドリルの製造は3つの工程に大別できる。まずドリルの溝を彫る。つぎに削った屑を取り除く。最後に先端を磨く。同社はそれぞれの工程向けの専用加工機械はもちろん、原材料の前加工をする自動段付け機や、製品検査用のデジタル測定器など周辺機器まで生産設備を100%内製している。というのは、PCBドリルはミクロン単位の精度での加工技術が必要であり、汎用の工作機械では対応できないからである。

自前の工作機械により、超硬合金(タングステンカーバイド)とステンレスの結合技術を実現させている。他社はPCBドリル全体を超硬合金で作るが、同社は刃先だけに使用し、シャンクと呼ばれるドリルの柄部分はステンレスで作る。ステンレス製のシャンクに穴を開け、超硬合金製の刃先を差し込み、加熱し、瞬間冷却して結合するので、きわめて難しい加工技術となっている。全体を超硬合金で作る方が技術的にははるかに簡単だが、超硬合金は銀と同じぐらい高価であり、競合メーカーはグループ内や社内で調達できるが、ユニオン・ツールは素材メーカーから仕入れなければならず、コスト面で圧倒的に不利になる。

超硬合金の使用を自社機械による加工技術により相当抑えることで、 ドリル1本当たり10%近いコストダウンを達成した。溝彫り、屑の除去、先端研磨の3工程を全自動でこなす「AD-2」も同社独自の加工機械だ。3工程を別々の工作機械で行うと約2分かかるが、AD-2だと40秒。人手も10分の1で済む。大手に負けない量産体制を築くことができるのはAD-2によるところが大きい。

生産設備の内製化は、技術面以外にもメリットをもたらしている。

PCBドリルは、家電やパソコンなど末端でヒット商品が出ると、需要が急増する。そんな時、加工機械を内製していれば3カ月で増産体制を整えられる。大手のように工作機械メーカーに発注すれば、稼働まで1年はかかる。また内製すれば安く作れるので、設備投資負担も小さいため、会社全体の利益率が高くなるとのことである。

②システム・レビューの用意

情報化・システム化に関する留意点である。現在の経営者は、情報化。システム化の必要性は十分聞かされているが、自分のものとして本当に認識している人は少ないようだ。物作りについては、長年自分の手で携わってきただけによく理解している。

しかし情報化については、コンピュータのハード面からは理解するが、ソフト面からのアプローチは不得意であり、むしろハードを設置すれば情報化投資を完了したものと思い込むことが多い。

その結果、つぎのようなことが起こってくる。工場で生産管理や物流管理、受発注管理に用いられるソフトは、パッケージ・ソフト(汎用性のある出来合いのソフト)とは異なり、オーダーメイドのソフトである。したがって、ソフトを納入すれば即座にシステムが円滑に動くことはあり得ない。個別の手作リソフトであるから種々の欠点なリミスがあるのは当然で、その問題を数力月かけて修正していく時間が必要である。これはシステム・レビューと称して少なくとも1カ月、通常3カ月は必要とされる。計画の中にシステム・レビューの期間を織り込まなかった結果、設備がスムーズに稼働に至らないケースもかなり生じている。

一般に、システム・レビューが不十分なため安定した生産が確保できない場合に、納入された機械が悪いのではないか、などの反応が多いものと思われるが、本当の原因は実は別の点にあることもある。

深田祐介著『新・新東洋事情』の中に、日本の某社が韓国に納入した機械の性能が劣ると訴えられたケースがあるが、その後の調査によれば、A級の製品ができなかったのは第1に鋼材の品質が悪かったこと、第2に使用する側が指定されたオイルや洗浄剤を使用しなかったこと、さらに、使用する側の技術水準が低く機械を使いこなせなかったこと、が挙げられている。やや事情は異なるが、ハードのみを重視することの誤りが分かる。

③エンジニアリング会社の活用

エンジニアリング会社とは、プラント建設などの設計から資材調達・施工まで一貫して引き受ける企業のことである。変化の激しい今日の経済情勢では、いわゆる業界の常識があてはまらないことが多くなつてきている。こうした点を補うために、さまざまな業界を見ているエンジエアリング会社を利用することも1つの方法である。

ある機械部品メーカーの例だが、今後の労働力不足、賃金コストの上昇を前提とすれば、いずれ現在の生産体制では行き詰まるものと考え、エンジニアリング会社の支援を受けて相当なFA工場化に踏み切った。これに対して、同業の中小メーカーからは異口同音に、そんな投資をするとこの業界ではとても回収できず、下手をすればつぶれるのではないか、という反応が戻ってきた。一方その業界の大手企業の反応は、むしろこのような投資を早く自社の系列企業にやらせなければならないというものだつた。

エンジニアリング会社のコンサルタント機能を十分に活用して、将来を見据えた設備投資に踏み切ったこの企業の方針は、おそらく正しいものであろう。ただし、エンジニアリング会社を利用する場合に注意すべき点として、

・投資の目的ないしコンセプトを明確に示さなければ何も出てこないこと、むしろ使わない方がよいこと

。エンジエアリング会社も得意、不得意があるのでその点、十分見きわめて利用すること

などが挙げられる。例えば石油精製対象と石油化学対象では、すべての条件設定において要求スペックが異なることになる。このようにエンジニアリング会社により特徴があるので、注意が肝要である。

(2)神奈川食品機械の生産面の検討

当社の場合も、当初は技術者中心に、CAD、CAM(コンピュータ援用製造)も利用できる最新鋭工場を作ろうという案が先行した。しかし、種々検討するうちに、要求される精度もあまり高くない食品機械の生産に、新鋭設備を設置して多額の資金を投下する意味もなく、むしろ自分たちの使い勝手のよい機械を購入し、自社で一部仕様変更を行うことにした。

その際、念頭に置いたのは、従来でも外部から購入した機械をそのまま使用せず、自社の生産現場の特性(加工内容、生産品種、ロットサイズなど)に合わせて自社内で改善を施してきたが、その担当者が高齢になってきたため、この機会に若手にノウハウを残すことであった。

さらに、原価低減のポイントを変えることにした。従来の改善活動は、目ざましい成果を上げてきたのは事実であるが、この製造段階に限った活動のみではコストダゥンに限界があり、製品開発から販売活動を終えるまでのトータル・コストの観点からコスト逓減が必要となってきた。従来の製造段階を中心としたコストダウンは、うまくいって数パーセントの削減であるが、製品開発から検討すればコスト半減も夢ではない。

特に設計の段階で、トータル。コストの7割が既に決定されているという説が主流となつている。このため、当社としてもいたずらに高性能機械に投資するより、製品開発チームの働きやすい職場環境作り、CADの導入、開発陣の教育・訓練など、今までとはやや異なった観点から投資を行うよう考え方を切り換えている。

このように、設備投資も単に生産工程のみでなく対象範囲が広がりつつあり、 トータル・コスト節減を目的とする戦略的な思考が要求される。

要員計画・工場計画ぼ

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配慮しているか

(1)組織・要員計画の作成

①適切な運営責任者の選定

設備投資を行う時、特に新設工場等の場合は新しい運営組織を作らなければならない。新製品の場合は、新しい事業部という形をとることも考えられる。

組織計画の作成上最も大切なことは、組織の形態そのものよりも、新設備の運営責任者にはその重要度にふさわしい人物を配置することである。

また、その責任者が働きやすい環境作りも行わねばならない。そのためには、適任者を十分吟味して選任し、その人に全面的に任せ支援することが必要である。

あるケースだが、戦略上きわめて大切な地域で倉庫運輸業務を行うため、子会社を設立し新規事業に進出した。社内に人材が不足していたため、新規事業の実質的な運営責任者を社外からスカウトしたのはいいのだが、わずか半年でその人材を放逐し、プロジェクトもたちまち行き詰まって中止のやむなきに至った。

この会社の失敗の原因は、なんといっても新規事業の必要性をトップ以下全員があまり理解しないまま、うやむやのうちに走り出したことにある。加えて`助っ人″に対して、仕事の内容を十分に知らせず、方針も明示せず、放置したことなどが挙げられる。

その人物がいなくなると、既存事業に支障をきたすほどの優秀な人を選び、あとは口を出さずに任せて、問題の生じた時にはその人を全面的に支援するという原則が大切である。

②要員計画作成の2つの方法

要員計画とは、事業を遂行すために労働力を質と量の両面にわたって割り当てていくことである。ここでは量の面から見ていきたいと思う。

要員計画については、一般に経験上ある程度の基礎数字を各社とも保有している。ここでは要員計画作成のため、労働分配率や人件費総額を目安にする方法について触れておきたい。要員計画を適正に作成するには、業務内容、業務量、組織と業務システム、平常時とピーク時の業務量などを知っておく必要がある。これらの事実に基づいて、業務遂行に必要な要員を個別に積み上げて作成するのが一般的な方法である。

他方、企業の生み出した付加価値に着目し、そのうちから負担できる人件費枠を決めていく方法もある。

企業の生み出す付加価値総額に占める人件費総額の比率を、労働分配率という。一般的に労働分配率は50%を超えないことが標準的指標になつているので、労働分配率の上限として50%をメドに要員計画を立てていくのがよい。付加価値とは、企業活動を通じて社内で付け加えられた価値、すなわち人件費、労務費、金利、減価償却費、利益などをさす。

このように、労働分配率などから算出された人件費枠を念頭に置きながら、前述の個別積み上げ計画を修正していく方法を探るとよい。

(2)工場計画の作成

工場計画とは、工場を経済的、能率的な生産活動ができ、しかも快適な働き場所にするため作成されるものである。工場計画は、新工場の計画と既存工場の拡張に大別される。新工場を計画する場合には、製品計画、工場立地、生産形態、工場建物、生産設備などを総合的に検討する。

工場計画作成の手順としては、立地選定、レイアウト決定、建築設計、工事となる。立地についてはすでに触れたので、そのほかの事項について説明していきたい。

①工場用地の広さ(将来の展望)

工場の立地を決める時に、どのくらいの土地の広さが必要か検討する。

工場は土地、設備、労働力を使用しながら、材料を加工し、製品を生産する場所である。これら生産要素の中で土地だけは弾力的な調達が不可能である。したがつて、当初から土地の広さに十分余裕を持たせて、将来の拡張に備えておく必要がある。

しかし一方では、地価が高い場合には、余分な土地の購入を行うことは投下資本が大きくなり、投資採算の低下をもたらすことになる。これは難しい問題だが、企業体力と採算面で許せる限りは、将来の拡張用地は手当てすべきである。拡張用地の広さを決定するためには、将来の販売計画、生産計画を立案し、工場の最終完成図を描くことが必要である。

この時に、製品のライフ・サイクルも考えておく必要がある。化学製品、機械などは5年以上のサイクルだが、半導体などは約3年という短いライフ・サイクルになっている。また、技術の向上により高性能の生産設備が開発され、工場スペースが少なくてすむことも考えられる。

業種により工場スペースは異なるし、またユーティリティなどの共用部分はそれほど増設スペースを必要としない。これら種々の要因を勘案しながら拡張スペースを予測することになるが、おおまかには、生産が2倍になれば拡張用地としては現在の面積の約半分が必要といわれている。

② レイアウトの作成
ついで工場配置の全体のレイアウトの作成を行う。レイアウトの作成は具体的にはつぎのように進めていくが、最適案を作るまでには何度も修正することが大切である。

イ)物の流れの決定

原料や製品の搬入・搬出経路を決める必要がある。

口)主要建物・設備の場所を決定

機械設備などの配置方法を決定する時には、作業員の動作・モラール(士気)、材料・製品の運搬距離、管理。監督の効率などの観点から検討する。

設備配置の形式は、大きく分けて機種別配置と製品別配置になる。設備配置については、従来の量産から多品種少量生産への移行に伴い、かなりの変化が見られる。例えば、 トランスファーマシン等を利用した連続生産から、汎用機の組み合わせによる弾力的な生産システムを採用する企業が増えている。

ハ)工場内の物流設備の決定

物流設備は、運搬設備と保管設備に分かれる。

運搬設備は、非常に重要なものである。 トヨタのカンバン方式(海外では、リーン・プロダクト・システムとして、フォード・システムなどと同格の生産方式という扱いで高い評価を受けている)も原材料・部品供給をスムーズに行うことを起点として確立したものである。

保管設備も運搬設備同様、工場の物の流れのシステムの1つとして検討されるべきである。生産ラインは、できれば一貫して流れていくのが望ましいのだが、どうしてもいくつかの生産システムの中で一時的な滞留が生じる。

これまでやや合理化が遅れていたが、コンピュータ利用の立体自動倉庫などの利用が一般的になってきた。

二)生産・管理区画と幹線道路の決定

工場用地を使用目的により生産・加工、原材料保管、動力・メンテナンス、厚生などセクションごとに分ける。

ホ)その他の工場施設の決定

そのほかにユーティリティ施設、サービス施設、公害防止施設などを決める必要がある。

ユーティリティ施設は、電力、水などを主な対象にする。電力の受配電設備は、工場のすべての動力源であるから、信頼度が高く、運転保守が便利なものを選ぶことである。

公害防止施設としては、工場排水処理、大気汚染防止、騒音防止などが主なものである。工場排水については、工場内の水を給水から排水までシステム的に循環させて、できるだけ水の有効利用を図る方向で検討していくことが大切になってきている。

大気汚染についても、単なる大気汚染を超えて世界的にC02などの削減を行おうとする動きが大きな流れになっている。公害防止施設は、設備計画の中に当初から組み込んで計画しておく必要がある。

(3)スケジュールの作成

設備投資計画を実行する場合に、スケジュールを立てて進行管理をすることは、意外に行われていない。工場建設のスケジューリングについては、丁寧な検討が加えられることもあるが、投資全体の準備段階や構想段階では成り行き任せの場合が多い。

もちろん、設備計画を漠然と構想している段階では、まだ日程を作成できる状態ではない。スケジューリングは経営者が、プロジェクト・チームあるいは企画担当者に設備投資計画を具体的に検討するように指示を行った時点から始まる。その時トップは担当者に対し、設備投資にかかわる検討項目についてそれぞれ調査するよう指示するが、この時に検討期限を明示することが大切である。

検討事項としては、前述のように市場調査、社会的経済的影響、技術的調査、立地、環境、資材購買、労働力、設備の内容、設備費用、資金調達、投資効果などである。お互いに複雑に影響し合っているので、大きな案件であればプロジェクト・チームで進めるのがよい。

設備計画の構想が固まった段階では、まだ不確定要素が多く、すべて十分に確定するのを待っていると、スケジューリングはいつまでも作成できない。そこでむしろ不確定要素を含みつつも、一応マスタープランを作成し、その後、走りながら軌道修正していく。

要約すると、まず設備投資構想の本格的検討を、経営者が意思決定した後にすみやかに作成すること、および検討期限を明らかにすることが大切である。

(4)更新投資の考え方

企業内で多いケースとして、設備の更新投資がある。この考え方を簡単に説明する。

設備の更新は、経済的耐用年数に達した時点で行うのが普通である。経済耐用年数は2つの要因から決定される。1つは設備の取得価額から算出される年額原価(設備の減価償却費を時間の価値を入れて修正したもの)であり、使用年数が長くなるほど、取得価額に資本回収係数を掛けて求める年額原価は少なくなる。一方、修繕費などの操業費は、当初は安定的な数字を示すが、設備が古くなると年を追って上昇する。この両者のコストを併せて計算し、トータルコストが最も低くなる使用年数を経済的耐用年数とする。

また、新鋭機械の出現などにより、1日設備の経済的耐用年数の到来前に設備の更新を検討する場合はどうだろうか。この場合は、新鋭機械の年額原価(経済的耐用年数で算出)と新鋭機械の採用により節約される操業費用を比較することになる。コスト節約額が年額原価より大きければ更新すればよい。この際大切なことは、1日機械の設備投資は、なんら考慮する必要がないという点である。既に支出された投資額は過去の支出であり、今後の投資については考えなくてよい。そのため、特殊原価用語で埋没コストといわれている。また、この更新投資を適切に行うためには、過去のデータを蓄積しておかねばならない。

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