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絶対に会社を潰さない定石

目次

定石43:創業以来の会社の体質、体力、すなわち自社の実態はB/Sにすべて集約されている B/Sを大事に経営すれば絶対に会社を潰さない

会社を絶対に潰さない定石というものがある。その第一は、バランスシート(B/S)を大事にする経営に徹するということだ。

我が社が2008年秋のリーマンショックに端を発した大不況により、わずか2年で売上が一気に3分の1に激減、最終利益にいたっては85億円の赤字を出しながら、人員削減、給与カットは一切なし、現預金や自己資本比率も好調期と変わらない強い経営体勢を維持しながら、2011年2月期に黒字転換を果たしたのも、なによりB/Sを大事にする経営を推進してきたからにほかならない。

ところが、 一般にP/L (損益計算書)に関心のある経営者は多いが、B/Sに関心を示す経営者は多くない。私の経営塾に来られる方に聞いてみても、P/LとB/Sのどちらが大事か、どちらに関心をもっているかといえば、100名中90名はP/Lと答える。

要するに、たいていの経営者は「いくら儲かったか」「経費はどれだけかかったか」といった目先の損得が気になり、すぐにP/Lに目がいくものなのである。人情としてそれも理解できないわけではないが、しかしよく考えてみていただきたい。P/Lというのは、わずか一年間の経営の結果をあらわしたものにすぎない。つまり、この一年間でどれだけ儲けたか、あるいは損したかを示しているのがP/Lである。

しかし、世の中の景気が悪くなると原則的に売上・利益は減っていくものだ。逆に、景気が回復すれば、それはすぐもとへ戻る。このように簡単に変わりやすい数値がP/Lの数値だ。

それに、時と場合によっては損が出てもいいケースすらある。本書の序でも述べたが、2010年の我が社は、近い将来赤字になる事業を捨てて、さらに値崩れを防ぐために意識的に売上を抑えて大赤字を出した。

しかし、それによる固定資産の減少、在庫の削減、売掛債権の減少によりB/Sを圧縮し、ROAを高めて収益性と健全性を改善した。おかげで市場の回復に伴い自然と売上が伸びるに従って、赤字前よりさらに儲かる体質となった。だから、わずか一年の損益など、決して無視していいとは言わないが、社長はそんなことでいちいち一喜一憂する必要はないのだ。

これに対して、B/Sというのは、会社創業以来の蓄積の結果をあらわしたものである。言ってみれば、創業以来10年も20年もかけて蓄積してきた会社の力量、会社が現在有している体力のすべてを示しているのがB/Sなのである。

そこには、事業の歴史と社長の折々の判断が、良いも悪いも含めて、すべて凝縮されたカタチであらわされている。例えば、B/Sの右側は、その会社がもっている自分のカネ、利益、それと信用の累計であり、結局はこれだけの資金を使って会社経営ができるという「資金の調達力」をあらわしている。いわば、何十年もかけて蓄積してきた、会社の現時点における体力をあらわしているといっていい。

このように、B/Sの右側は資金の調達力をあらわしたものだが、それだけではない。さらに、どういうところから資金を調達しているのか、自分のカネなのか銀行からの借金なのか、信用によって仕入先から買掛債務として調達しているカネなのかといった「資金の調達先」もあらわしている。

一方のB/Sの左側は、右側で調達した資金をどのように使っているか、「資金の使い道」「資金の使途」をあらわしている。つまり、調達した資金を売掛金や手形でもっているとか、機械設備や土地でもっているとか、あるいは投資勘定でもっているといったことをあらわしている。そして、必要以上に在庫が多いとか、売掛債権が多いとか、自己資本以上に固定資産をもっているとか、万一不渡りをくらったときに、手元にすぐ金になるものがいくらあるとか、創業からこれまで資金をどう調達して、どう使ってきたか、いわば会社の体質、体力、もっといえば社長の性格、経営のやり方そのものが、B/Sには示されているといっていい。

だから過去3期分なり5期分なりのB/Sを拝見すれば、「売上の割に儲からない体質」とか「万一のときにどの程度の抵抗力があるか」だとか、その会社の実態が読み取れるのだ。

こういうことはP/Lだけ見ていても、決してわからない。基本的にP/Lで出る利益というのは、つくられた数字、いわば帳簿上の数字であって、利益が上がったからカネが増えるわけではないからだ。はっきり言ってしまえば、実際のカネと利益というのは直接関係がないのだ。

もちろん、P/Lで利益を出すことは非常に重要であるが、その利益を出すためにも、B/Sが必要なのである。詳細はこれから述べていくが、利益を出す方法の一つには売上を伸ばすことがある。ただ、本書で繰り返し述べているとおり、低成長時代を迎えた日本で、高度成長期と同じように毎年毎年売上を10%、20%の勢いで増やし続けていくことは難しとすれば、売上が伸びない中で利益を増やすには、コストを下げてマージンを増やす必要が出てくるが、これについてはP/Lだけを見ていたのではわからない。B/Sを数期にわたって分析し、B/Sの左側、資金の使途をよく検討して、必要のない無駄な借金はどんどん減らしていく。

すなわち、儲かる事業を伸ばして斜陽化していくものを捨てる、儲けに貢献しない無駄な固定資産を処分する、設備投資は減価償却費の範囲内で行う、過剰在庫を抑制する、日々の決済支払いと回収に1カ月の差をつくる、固定費比率を下げて減収しても増益する体勢を築くなど、これまで本書で述べてきた経営の定石を守った事業経営をすれば、B/S左側「資金の使途」がスリムで筋肉質なものとなり、同時にB/S右側の余分な「資金の調達」も不要になるため、無借金で収益性と健全性の高い財務体質が築けるというわけだ。

すなわち、企業の体質を強くしていくのは、社長の意思、社長の戦略として将来のB/Sをどう作り上げていくかにかかっているといってもよい。いわゆる目標B/Sをきちっと作って、それに向かってどうすればいいのかを考えていかなければならない。

B/Sの体質が良くなったのかどうか、経営としてはそれが重要である。利益は出たがB/Sが良くないというのでは、優れた経営とはいえない。利益が出て、なおかつB/Sが良くなり、効率のいい会社に生まれかわる、ここにこそ、経営の定石を守る意義があるといえよう。

そしてB/Sが良くなった会社というのは、確実にP/Lの利益も良くなる。逆に言えば、悪いB/Sのままでは、P/Lの利益も出てこないのだ。

ゆえに、P/LよりもB/Sを重要視した経営をする。これこそ、会社を潰さない一番大事な原点なのである。

定石44:総資本収益率は国債利回り以上、総資本回転率は一回転以上、この2つの基準を満たす経営がこれからの中小企業にとって最善の方法である

会社の収益向上について、B/Sのどこに注目すれば経営の方向性がみえてくるか、これについて述べたい。会社の収益性・事業の効率は、B/Sの総資本の合計額で、税引前利益を割ってみればいい。

これは、「自社の元手を使って、どれだけの利益を生み出したか」という収益性を判断する指標であり、「総資本利益率」(ROA=”①言ヨo●>∽∽①一)と呼ばれている。そもそも、何のために会社を経営するのか、何を目的に利益を上げるのか、などといったことを抜きにすれば、これが最もシンプルにとらえた経営の姿であり、経営の原点とも言える。当然、少ない元手で多く儲けられる方が経営者として優秀である。

ちなみに、ROAについては本書の序で、我が社のV字回復の軌跡を述べたときに簡単に触れたが、ROAの向上というのが、佐藤式経営の定石における「会社の体質を儲かる体質に方向づけ、同時に絶対に潰れない体質に育てる」という収益性と健全性の2大テーマの一つであるため、説明を割愛することなく、さらに詳述していく。

まずは読者の皆さんも過去5年分の自社のROAを算出し、自社の儲ける実力の程をチェックしていただきたい。そして、計算の結果、自社のROAが日本の長期国債の利回りを下回っていたら、言い方は悪いが、社長の経営能力は家庭の主婦以下だと大いに反省すべきである。

なぜなら、国債といえば、日本が破綻しない限り元本と利回りが保証されている、いわば日本で一番安全な金融商品である。たとえは悪いが、家庭の主婦でもヘソクリで20年国債を買えば、確実に2%の金利は稼げる。

まして、事業というものは、会社という看板を背負い、土地や工場を使い、大勢の人を使い、資本家や銀行など多くの協力を得て行うものである。その結果が「ROAが国債金利以下」だとすれば、その社長の経営能力は家庭の主婦以下といっても過言ではなく、経営者として恥ずかしいことである。事業を展開する意味があると言えるだろうか。

もし、自社のROAが国債の利回り以下だったら、会社を処分して残ったお金で20年国債を買えばよろしい。そうすれば、何もしないで寝ていても今より儲かるのだから、その方がよっぽどマシであろう。したがって、ROAは、せめて長期国債の利回り以上、これは業種。業界に関わりなく、どの企業にも共通する経営の最低合格ラインと心得て欲しい。経営に逃げ道はない。不況だ、好況だ、儲かる、儲からないと抽象的なことを言っている

暇に、まず自社のB/SからROAを弾き出してみることだ。もしもそれが銀行金利に満たなければ社長業をやめて、銀行に資金を預けた方がいい。簡単といえばこれが最も簡単な経営の原則ではないだろうか。

すなわち、ROAというのは、企業としての存在価値と、社長の経営力が問われるひとつの大事なチェックポイントなのである。

ところで、ROAを上げるにはどうすればよいのか。自社の何が、経営効率を悪くしているのかを見るために、ROAを分解してみる。するとROAは、税引前利益を売上高で割った「売上高利益率」と売上高を総資本で割った「総資本回転率」の積だということがわかる。前にも載せた図であるが、もう一度、第50表をご覧いただきたい。

ROAを上げるためには、税引前利益を上げて売上高利益率を高めるか、総資本一単位あたりの売上を多くして総資本回転率を高めるか、あるいは両方高めるかの3パターンということになる。

なにやら難しげな専門用語ばかりだか、要するに、経営とは「利幅を増やすか、または調達した資金を効率よく使うか、あるいはその両方をすれば儲かる」ということである。

そして方法論でいけば、売上高利益率を高めるよりも、総資本回転率を高める努力の方がはるかに楽だということに気づかれるはずだ。

もちろん、利幅を増やして売上高利益率を上げる努力は重要だ。これまで何度も強調してきたことだが、高付加価値を目指して将来の方向づけをすることが大事なのは言うまでもない。時の流れを読んで良くなるものを増やし、悪くなるものを除く。この当たり前のことが最も重要である。

もちろん多くの読者にとって、このことは十分に心得ているはずだ。

商品、サービス、マーケットの絶え間ない強化によって、次の主力となる事業や商品を追加し、新たな成長マーケットヘ進出することは、事業のまさに原点だ。高付加価値のとれるものを求めて、あらゆるツテを使い、試行錯誤を重ね、何としてでも売上を伸ばす策を講じ、利幅を広げる商品やマーケットを開拓しなければ、会社の将来はない。

しかし、そうそう簡単にうまくいくことではないこともまた事実である。したがって、利幅のとれるものが容易に見つかることを前提に、3年先、5年先の経営計画を立てるわけにすなわち、新たな方向づけが功を奏して大幅な利益率の改善を実際に見るまでは、利幅、すなわち付加価値率は年々減っていくものと考えるべきである。そして、もしも予想よりも早く利幅のとれる商品やマーケットが手に入れば、そのときに改めて、さらにその分大きく儲かるような計画を立て直すべきである。それが現実的な考え方であり、社長としての取るべき姿勢だ。

そうなると、総資本の回転率を上げることが、儲かる体質づくりの重要な実務着眼点ということになる。というのも、総資本回転率を高めるには、分子の売上高を伸ばさなくても、分母の総資本を小さくすればいいからだ。

売上を上げる努力は取引相手あってのことだが、自社の資産を減らす努力は、社長が自らコントロールできる要素が多く、無駄な在庫、設備、土地、建物、売掛金、これらを減らせば、回転率は向上する。分母の総資本が大きくなれば効率は悪くなり、分母が小さくなれば良くなる。経営とは、たったこれだけの単純な仕組みで、良くも悪くも決定してしまうのである。

ところで、総資本回転率の合格ラインは1回転以上とみて欲しい。つまり、総資本よりも売上高が多くなければいけない。現在、日本の企業の平均は0・88である。これは上場企業を含む数値であるが、上場企業は1回転することがなかなか難しい。なぜなら、売上高の大きい会社というのは、在庫も、従業員も、設備や土地・建物も多く抱えなければならないから、総資本が必然的に膨張するのである。

じつは、我が社も総資本回転率は1回転していない。ただ、スター精密の場合は、当期利益がどんどん溜まって、それがB/Sを大きくしてしまっているからだ。私は売上規模を拡大して利益を増やすという発想は持たないから、総資本回転率の分子である売上高はそのままで、利益が増える分、左側の現預金がどんどん増えてしまうために、分母の総資本が大きくなりすぎて、比率が下がってしまうのである。

正直、投資家からは「もっと回転率を上げてくれよ」とリクエストをもらうこともあるが、スター精密がこれまで幾度の好不況の波を乗り越えてここまでこれたのも、景気が良かろうが悪かろうが、ROAは国債の利回り以上、総資本回転率は1回転以上という指標を守り、B/Sを重視した経営に徹してきたからに他ならない。

前述したと思うが、そもそもスター精密の創業の原点は、「小資源、少人数、省輸送」、すなわち、ヒト・モノ・カネのない一介の町工場が繁栄していくには、少ない元手で多く稼ぐしか手はないというやり方である。

日本は資源がないために戦争に負けたのだから、これからは材料の要らないような仕事をやるべきだということから、「材料をたくさん使う仕事はだめ」。

静岡という田舎の中都市で事業を行う以上、東京、名古屋、大阪といった大都市に取引先を求めるしかないから、「輸送コストのかからない事業を選ぶ」。

そして、戦後の復興に伴って必ずや賃金も飛躍的に高騰するだろうから、「人を大勢使う仕事はダメ」。

それから現在まで、創業の原則に外れるもの、つまり「小資本で高い付加価値を生む事業」以外のものには、たとえ儲かりそうなものでも一切手を出してこなかった。現在、4つある事業はすべて、この精密加工技術をコアとして展開してきたものである。

創業からこれまで60数年間、常に時の流れを読んで良くなるものを増やし、同時に悪くなるものを除く。とくに、不況時は売上高利益率を上げることが難しくなるので、B/Sを徹底的にスリムに保ち、総資本の回転率を高めることに注力する。こうすることで確実に利益を増やしてきたのである。

経営では、この「確実に」というところが肝心であり、売上という極めて不確実なものをあてに成長拡大を追ってはいけないのだ。結局、経営の原則を外れた成長拡大は長くは続か

だから、もしも本書の読者の二代日、三代目の経営者で、自社の創業の理由、つまり、なぜその商売を選んだかという理由をご存知ない方がいらっしゃったら、 一度きちんと調べておくことをお勧めする。というのも、創業の精神とは不変であり、この経営の原点を忘れたときに、会社はおかしくなっていくからだ。

とくに、世界的不況となったこの時代、中小企業こそ、少ないヒト・モノ・カネでいかに効率よく儲けるかという経営の原点に徹していくことが非常に重要といえる。

中小企業は、資本金が少なくて、ヒトが少ない。ヒトが少なくてカネがないからモノがない。要するに、ヒト・モノ・カネが少ないから中小企業なのであり、言い方を変えれば、ヒ卜・モノ・カネの集まりであるB/Sの総資本を小さくすることが、中小企業の良さを活かす経営なのである。

すなわち、皆が一致団結、社長と心を合わせながら少ない原資で多く儲け、少ない人数で多く分けるのが中小企業の良さであり、強みといえる。

この中小企業の良さを忘れて、大企業と同じやり方で規模の拡大を図っていけば、とても生き残ることはできないと肝に銘じるべきなのだ。

スター精密には、常にこの危機感があった。現在だって、東証一部上場とは名ばかりの規模であり、こんな規模の小さな会社が赤字部門を抱えていたら、とてもではないが利益は残らない。規模が小さな会社が利益率が悪ければ、本当に潰れてしまう。そういう危機感を常に持ちつづけていたからこそ、道を誤らずにこれまでやってこれたと自負している。

ゆえに、くどいようだが「ROAは国債の利回り以上」「総資本回転率は1回転以上」、これが売上の伸びない時代に、中小企業が中小企業の良さを活かして、しっかりと利益を出していくための守るべき経営指標と心得ていただきたいのだ。

定石45:経営の最重要は健全性である とくに短期の健全性は当座比率70%〜100% 長期の健全性は固定比率100%以下を厳守せよ

会社を儲かる体質にするために、資金の効率面からB/Sをどうみるべきか、そして守るべき2つの指標について説明したが、このほかに、いや、この2つ以上に、現在の経営環境において絶対に守るべき経営指標がある。それが健全性の指標である。

たとえば、得意先から予測もしていなかった不渡りを食ったとする。小さい手形ならまだいいとして、これが大きい手形だったら大変である。自分も仕入先に支払手形を切っており、もう今月にはそれを落とさなければならない。もし落とさなかったら、そのときはこちらが倒産してしまうから、「困った」と、ただ頭を抱えている訳にもいかないだろう。さて、常識的にいって、こういう場合にまずやるべきことは、手元にあるお金をかき集めて支払いに充てることだ。しかし、全額現金でそろうことはまずありえない。

そこで、手元にあるだけの現金を持って、支払手形を切っている仕入先に駆け込んで、「実は、受取手形が不渡りになってしまいました。それで、今月末に御社宛ての手形を切っているのですが、ここに今うちにある現預金を全部持ってきました。大変申し訳ないが、これを内金として受け取っていただき、今月は一度ジャンプしていただけませんでしょうか。どうか取り立てに出さないでください」とお願いする。

そして、「うちに今これだけの売掛債権があります。これを一所懸命回収し、来月には手形の決済に回すようにします。それでも足りないときには、今うちにある在庫を処分して、とにかく御社に切った手形については決してご迷惑をかけないように決済します」と約束する。

これが定石である。これ以外の方法はないだろう。つまり、会社の健全性が高いかどうかは、手元にすぐにお金になるものがどれだけあるかということに尽きるのだ。

そして、会社が健全な体質かどうかをつかむ指標は、第51表のとおり、流動比率、当座比率、現金比率の3でつある。

経営分析の本にはよく出てくる指標なので、おそらく大半の社長がご存知かとは思うが、 一応簡単に説明しておく。

もし、この3つの指標を初めて聞いたという読者がいたら、はっきり言って勉強不足であると反省していただきたい。それほど経営の初歩であり、また非常に重要な指標なのだ。

まず、「流動比率」であるが、これはB/S左側の「流動資産」を右側の「流動負債」で割って算出する。「流動」とは、1年以内という意味である。

したがって、流動資産とは1年以内に回収される資産、流動負債とは1年以内に決済する負債をいう。

もう少し詳しくいえば、流動資産とは、現預金、売掛債権、在庫など1年以内に回収される資産であり、一方の流動負債は、買掛債務、短期借入金、未払い金など1年以内に決済しなければならない負債である。

そして、この「流動比率」は120〜150%が守るべき指標となる。つまり、分母にある「1年以内に支払わなければならない負債」よりも、支払いの原資となる資産が20〜50%多くなければいけないということだ。

次の「当座比率」は、分母の流動負債は変わらないが、分子は流動資産から棚卸在庫を除いた残りとする。当座比率は70〜100%、つまり、流動負債に対し、流動資産から在庫を引いた残りが常時70〜100%なければ、企業経営は健全とはいえないということだ。

そして最後の「現金比率」は、文字どおり、流動負債に対して現金、いわゆるキャッシュが30〜50%あればよいという意味である。

さて、流動比率120〜150%、当座比率70〜100%、現金比率30〜50%、この数値がそれぞれ何を意味するか、わかりやすくするために、もう少し具体的な話をする。資金が詰まるような不渡りを食らった場合、先に述べたように、とりあえず現預金を持って、支払手形を発行した仕入先へ真っ先にお願いに行かなければならない。それが常識である。

その場合、負債の1割に相当する現預金を持って行き、残りはすべてジャンプして欲しいと依頼したら、果たして相手は承諾してくれるだろうかといえば、よほど人の良い経営者でなければ、まず無理だろう。

では、負債額に対して何%の現預金ならば聞き入れてくれるだろうかと考えると、常識的にいって30%だ。これなら、相手が鬼でない限り、願いを聞いてくれるはずである。だが、もちろん話はそれで終わらない。

「わかりました。でも、30%はいいとして、後の残りはどうするつもりですか?」

相手は必ずこう聞いてくるに決まっている。要するに、残りの決済をどうするかという問題だ。 一刻も早く現預金を確保したいところだが、あいにく在庫を処分するには若千時間がかかる。したがって、流動資産から棚卸在庫を除いた分を残りの決済に充てなければならない。具体的には、売掛債権、受取手形、仮払金、前渡金など在庫よりも現金化しやすいものだ。そこで、こうお願いする。

「残りはあと1カ月お待ち下さい。売掛債権を回収して現金にするなり手形にするなりしてお持ちします。あるいは他の受取手形を銀行で割り引いてもらい、現金化します。それで何とかひとつお願いします」すると、必ず相手はこう突っ込んでくるはずだ。

「それでは、1カ月待ったらあといくら入れてくれるんですか?」その入れ方によっては考えてもいい、という話であるが、これはもっともである。では、一体いくら入れたら相手は納得してくれるだろうか。もちろん全額完済がベストであるが、そうもいかないことだってある。

その最低ラインが今日返済した現預金を加えて70%なら、これまた相手が鬼でない限り、これまでの長い付き合いを考慮して了承してくれるはずだ。むろん、残りは在庫を処分して全額完済するという確約は絶対に必要である。

これが、各指標の根拠である。とくに学問的裏づけがあるわけではないが、実際の経営現場で通用してきた数値であるから、非常に現実に即した数値と思っていただいてよい。

ところで、この3つの指標はすべてをクリアしていることがベストであるが、中でも私が一番重要視しているのは当座比率と現金比率だ。これはおそらく、経営分析の本にも書いていないだろうが、私独自の基準として、これからの時代は流動比率はもう見ていない。

なぜなら、在庫は非常に評価性の低いものだからである。在庫というのは自社で勝手に評価している金額であって、それが市場に出回ったときに実際にその金額で売れるとは限らない。

しかも、現在はデフレであり、モノの値段がどんどん下がっていく。それに、メーカーの場合は完成品以外のカタチ、つまり仕掛品や原材料などそのままでは販売できない在庫も評価に含まれている。たとえば、ボールペンを作っている会社は店頭でキャップだけを売ることができなくても、B/Sには在庫の評価として勝手な自己評価で何円と計上できる。

したがって、「どんなことがあっても潰れない体質」の指標は、流動資産から評価減される在庫を引いたもので、流動負債が確実に賄えるかを判断の基準にするべきであり、当座比率は100%、最低でも70%、現金比率は30〜50%なければ、企業の体質は健全とはいえない。その証拠に、ここ1、2年の間に倒産した上場企業のB/Sをチェックしてみればよい。

流動比率が200%を超えていても、保有資産の半分以上が在庫、なかには7割が在庫というめちゃくちゃなB/Sがゴロゴロある。ちなみに2008年度に倒産した上場企業30社を私独自の健全性基準、つまり、当座比率100%と現金比率50%の指標でチェックしたことがある。結果は、30社のうち26社は不合格である。

さらに、もう一つ注意点を申し上げるならば、健全性は高ければ高いほどいいというものでもない、というのが世間一般で言われていることも事実だ。先ほど「ROAは長期国債の利回りが最低合格ライン」と述べたが、現預金などを貯めて流動資産を増やすと総資本も大きくなるから、健全性を高めると同時にROAの分母が大きくなり、収益性が悪くなる。

スター精密がまさにそのとおりで、2011年度2月の時点でB/Sの合計が490億円ほどあって、うち現預金がその3割を占めているから、流動比率は350%、現金比率は100%を超えてしまい、総資本回転率も1回転を割ってしまっている。すると投資家から「この眠っているカネをもっと効率よく使ってくれ」とリクエストが入るというわけだ。

しかし、これは私の経営哲学ともいえるのだが、企業の永い繁栄を築くなら、どうか収益性よりも健全性を重視した経営に徹して欲しい。ましてや成長性、つまり売上規模拡大などは考えてはダメだ。とにかく、会社は潰れたら終わりである。皆さんの肩には従業員とその家族の生活がかかっている。その責任を考えれば、経営の優先順位はおのずと決まってくるはずだ。

つまり、第一に健全性、二番目に収益性、成長性は最後である。これはバブルの頃と真逆の順位だ。大体、バブルまではまずは成長性ありきだった。成長性を高めれば収益性も健全性もついてきたから、毎年売上が伸び、従業員数が増える会社が良い会社と評価されていた。

しかし、今はまず会社を潰さないことを念頭に置く。人間の突然死は確率的には少ないが、これからの時代、企業の突然死は十分有り得る。ある日突然資金繰りに詰まって潰れてしまうのだ。

赤字で一晩で潰れる会社はない。しかし、約定返済日に銀行にカネを返せなくて一晩で潰れる会社はたくさんある。

だから、とにかく倒産の最大要因となる借金をなくして健全性を高めるのだ。すると、B/Sが小さくなり、総資本回転率が上がる。このやり方で健全性を高めれば、収益性も同時に上がってくるのである。

ところで、会社が守るべき健全性指標には、ほかにもう一つ、「固定比率」がある。固定比率は、B/S右側の自己資本残高を分母に、B/S左側の固定資産残高を分子にした計算式で表される。

分子の「固定資産」とは、長期に渡って使うことを前提に取得した資産という意味だ。具体的には土地や建物や機械設備などの「有形固定資産」の他に、商標権や特許権など会社が利用する権利などで物理的に存在していない「無形固定資産」や、長期保有の有価証券などの「投資その他の資産」なども含まれる。

さて、いざというときの、いわば短期的な健全性は、流動資産の流動負債に対する比率をみたが、長期的な健全性をみる固定比率は、固定資産の固定負債に対する比率ではなく、分母には自己資本を用いる。

なぜなら、固定資産に投下した資金は、長期に渡って拘束される資金であるから、土地や設備を買う場合、健全性の観点である「支払い義務」から見て、どのような買い方が安心できるかを考えれば、全額返済義務のない自己資金で買うということになる。

すなわち、固定資産を返済不要の資金源である自己資本でどれだけ賄っているかを、企業の健全性を図る指標としているのだ。

そうすると、分子の固定資産を分母の自己資本が上回っている状態が健全であり、100%以下が守るべき基準値となる。つまり、平坦に表現すれば、自分のお金で固定資産は買いなさいと言っているのだ。

以上に述べてきた健全性の4つの指標、すなわち現金比率、当座比率、流動比率、そして固定比率が、なぜ大事かおわかりいただけたと思う。

要するに社長は、常にB/Sから、我が社の体質を正しくつかみ、実態が効率のいい経営となるように、なおかつ同時に、万全の健康な体質となるように、必要な手を逐次打っていかなければならない。そのためには、これまで述べた指標のうちで、少なくともROAと健全性の指標は、常時、我が社の数値を社長の頭にいれておく必要がある。

つまり、

oROAは国債の利回り以上

。流動比率は120〜150%

。当座比率は70〜100%

。現金比率は30〜50%

。固定比率は100%以下

という具体的な数値目標に対して、自社の現実との落差を埋めることこそ、経営の基本方策となるものなのだ。

社長はB/Sに目をやったときに、大まかな暗算でいいから、これらの指標がたちどころにパッパと数字で出てくるようにしておくことが大事なのだ。

つまり、過去の数字を読みながら、現在の我が社の実態を経営の定石から客観的にとらえて、どこを改善すべきか、なにを伸ばすべきか、その明確な根拠を頭にしっかりたたき込むことが必要なのである。

それが会社を絶対に潰さずに高収益体勢を築くために、社長自身が会社の方向づけを迷わない急所といえよう。

定石46:P/Lは見るものだが、B/Sは読みこなすものである B/Sを社長の日で読きために、「社長専用のB/S」をつくれ

P/Lは見るもの、そしてB/Sは読むもの、というのが私の持論である。

P/Lは一番上にある売上高から下に目をやっていくだけで、いくら経費を使って最終的にいくら儲かったか、単純な引き算である。したがって、見ればすぐわかる。

一方、B/Sをただ眺めていても、会社の実態は一向に見えてこない。しかし、会社の実態というのはB/Sにこそ示されているものであり、B/Sの体質が良くなったのかどうか、経営としてはそれが重要である。利益は出たがB/Sが良くないというのでは、優れた経営とはいえない。利益が出て、なおかつB/Sが良くなり、会社が効率のいい会社に生まれかわる、ここにこそ、経営の定石を守る意義があると、前頁で申し上げたとおりだ。

たとえば、A社は売上は順調に伸びていても、なぜか利益が減っている。この場合、最も即効的かつ確実に体質改善を図るには、P/Lだけみても的確な方策は見えてこない。そこでまずは、第53表のB/Sを同表右図のように加工してみる。つまりB/S右側を、どういうところから資金を調達しているか、自分のカネなのか、銀行から借りてきているカネなのか、信用によって仕入れ先から買掛金として調達しているカネなのか、資金の調達先別に大きく4つに分けてみるのだ。

通常、 一般的なB/Sでも、資金を取引先や銀行など第二者から調達した資金、すなわち他人資本である「負債の部」と、株主や自社で調達した資金、つまり自己資本である「純資産の部」の2つに分けてあるが、この2つのうち「負債の部」の方をもう少し細かく分類して、自社の資金調達の良否を分析してみる。

要するに、金融費を払わなければならない資金調達がどれくらいあるかを見るためであり、「負債の部」の流動負債と固定負債を「信用調達」「金融調達」「引当調達」に振り分けていくのだ。

まず「信用調達」とは、流動負債の買掛債務と未払金のことである。モノの決済というのは、現金で行われるのが本来のあり方だが、会社の商い高が増えてくると、いちいち現金をもって買い物に行くわけにはいかない。

そこで、月末一本にまとめて請求書を出してもらい、そのときに一括して支払ったり、あるいは手形を発行して支払いを3カ月先、6カ月先に延ばしてもらう。

こういう決済の形態で調達するのが「信用調達」であり、信用調達は金融費がかからない良い資金調達法である。ただし、信用調達はこちらに会社としての信用があっての話だ。いつ潰れるかわからないような会社に買掛金でモノを売るなどということは、まずありえない。

次に「引当調達」は貸倒引当金、納税引当金、賞与引当金、退職給与引当金など諸々の引当金で、これらはいますぐ払う必要はないが、将来に備えて引き当てておくカネである。結局は利益の変形というか、要するに利益の一部繰り延べであるから、引当調達は金融費がかからない資金調達方法ということになる。

そして、「負債の部」のなかで唯一金融費がかかるのが、「金融調達」である。金融調達は短期借入金や長期借入金、割引手形など、文字通り金融機関から調達する資金のことだ。

以上、「負債の部」を大きく3つの資金調達別に分けて、あとは「純資産の部」の資本金やら諸積立金やら、当期利益を「自己調達」に集約する。言うまでもなく、これらは返済が不要な自己資本であるから、金融費はもちろんゼロである。

このようにB/S右側を大きく4つの資金調達に区分し、第54表のように過去の推移を出してみると、余計な借金をして儲けを減らしていないか、もし儲からない体質となっているのならば、B/S総資本に対して金利を払わなければならないカネがどのくらい占めているのかということが見えてくる。

第53表のA社はどうだろう。直前期、A社は総額24億9,100万円の総資本のうち、信用調達が10。2%、金融調達が39。9%、引当調達3・7%、自己調達46・2%という資金調達をしている。

金融調達が39。9%というのは、危険水域に入っているといっていい。50%なら瀕死の重症だ。おそらく今後、銀行に借金を返すだけのために、あくせく仕事をしなければならないだろう。ちなみに、この金融調達を総資本で割った比率、つまり資金調達のうち金利を払うカネが何%あるかという数値を「有利子負債比率」という。もし自社の有利子負債比率が過去3期分30%以上ならば、今すぐ借入金を減らす策を講じていただきたい。

会社は、金利を払うために仕事をするわけではないし、銀行のために仕事をするわけでもない。当たり前のことである。ところが世の中の好。不況のはざまで、必ず5年も10年も金利を払うためにだけ仕事をする会社が後を絶たない。

A社にしても、P/Lでどの経費が利益を食っているのかチェックしてみると、やはり営業外損益の金融費が過去増加傾向にあり、直前3期に付加価値の6%だったものが毎年1%ずつ増加して、直前期には8%を占めるようになってしまった。そのような会社の社長は、「強気が裏目に出た」と言い訳するのが常であるが、B/Sをしっかり読み込んでおけば防げたことも多いのではないだろうか。

さて、A社の利益が減少傾向にあるのは、銀行からの必要以上の借入が原因ということはわかったが、こういう体質はP/Lだけ見ていたのでは直らない。B/Sを社長の目で読みこなさなければ、下降気味の業績を上昇に向かわせる手は打てないのだ。

そこで今度はB/Sをどう読むかということになるが、第53表のA社の直前期の総資本は24億9,100万円である。したがって、まずは税引前利益1億3,600万円をこの総資本で割ってROAを算出してみると、5・5%と出た。ROA5・5%ならば、合格ラインだ。だが、このまま利益が下降傾向をたどり続けたら、ROAが国債利回り以下の会社になるのは時間の問題である。

とはいえ、今のところROAはなんとかなっている。問題は健全性の比率だ。第53表で算出すると、流動比率が509%もある。前項で書いたように、流動比率は120〜150%が適正値である。509%はあまりに多過ぎる。すなわち、無駄が多過ぎるのだ。また、当座比率は323%、現金比率は70%と、いずれもやはり多過ぎる。こういう常識を外れた数字になるというのは、おそらくB/Sを社長の日で読まなかったからだ。 一度でもB/Sを社長として読んでいれば、いかにB/Sに無駄があるか、 一目瞭然である。

よってA社が取るべき手は、まず流動資産のスリム化を検討し、その分資金の調達を減少させれば、それは即、利益の向上となる。たとえば、現預金と売掛債権と在庫を10億円程度減らして6億5,000万円にしても、流動比率は200%で健全性は十分だ。よって、流動資産を10億円減らし、その分を長期借入金9億9,400万円の返済に充てれば、こ

の会社は無借金経営となり、何もしなくても金利が減って利益が増加するというわけだ。要するに、結論から言えば、この会社は銀行から資金を導入する必要が全然なかったのだ。

こんな簡単なことに社長が気づいていないのは、社長としてのB/Sの押さえ方に関心を持たずにいたからだ。その結果、いつの間にか儲ける体質を悪くしてしまった。

したがって、この無駄をなくすことによって体質転換を図っていくことが、A社を最も即効的かつ確実に立て直す対策ということである。そういう点を目玉として、5年先までの経営の方策を考えていけば、A社は5年後には今より高収益かつ健全性の高い会社に生まれ変わるであろう。第53表のB/Sはそのことを教えてくれているのである。

このように、知恵を絞って自分が使いやすいB/Sに加工しておけば、B/Sのもっている意味がよくわかるし、経営者としての発想も浮かんでくる。よって、社長専用のB/Sをつくることが、会社を絶対に潰さない定石であるとご理解いただきたいのだ。

定石47:会社を絶対に潰さないための10の指標を守れこの経営指標すべてをタリアすれば、どんな経営環境にもビクともしない会社を築ける

これまでのまとめとして、絶対に守るべき経営指標を10に厳選し、その理由を挙げてお

皆さんが守るべき指標は、これから挙げる10個で十分である。これ以外に必要ないと言ってもよい。 一般の経営書に出てくるような、ROEやらROIやらのアルファベットで3文字程度の用語など、中小企業にはまったく必要ないのだ。

ただし、この10の指標だけは絶対にクリアして欲しい。これをクリアしない限り、会社は絶対に良くならないからだ。よく、人間の病気のなかで虫歯は自然治癒力ではどうにもならないから、放置していると悪化するばかりだと言われるが、この10の経営指標もいわば虫歯のようなものだ。皮膚が切れて血が出ても、人間のカラダは自然治癒力で治してしまうが、虫歯は治らない。

同様に、たった10であるが、この指標を守らずに売上規模拡大に走っても、会社が伸びることは絶対にない。たとえあったとしても、それは一時の繁栄をもたらすだけである。それが第55表の指標である。

《収益性分析》

①ROA

会社が儲かる体質かどうかの指標である。判定値は20年国債の利回りを超えているかどうかだ。

②総資本回転率

いかに効率よく資本を回転させたかの指標である。ROAを向上させるためには、総資本を圧縮して、回転率を上げるやり方がこれからの低成長時代には向いている。

③健全性分析

不測の事態が起きても潰れない体質にするための指標である。

指標は、流動比率、当座比率、現金比率の3つをクリアするのがベストであるが、合格ラインとしては、この中で最も重要な当座比率を含めて2つが基準値をクリアしていればよい。判定値は、流動比率120〜150%、当座比率70〜100%、現金比率30〜50%である。

《生産性分析》

④労働生産性

少ない人数でいかに生産性を高めていくか、 一人あたりどのくらいの付加価値を生み出しているかという指標である。この労働生産性の向上なくして、企業の発展も社員の待遇改善もありえない。

ところで、なぜ生産性の分析指標が絶対に守らなければならない10の指標に入っているかというと、収益性を上げるためには、生産性の向上が不可欠だからである。言い換えれば、収益性が高い会社ほど、非常に効率の良い生産性の高い会社ともいえる。そういう意味で、生産性の指標を入れてあるのだ。

それと、通常の企業分析では、収益性と健全性の分析のほかに、成長性の分析をやるのが主である。しかし、成長性の分析はあえてこの10の指標からは外してある。なぜなら前にも述べたとおり、現在は第一に健全性、二番目に収益性、成長性は最後だからである。

これはバブルの頃と真逆の順位だ。大体、バブル期までは成長性ありきだった。成長性を高めれば収益性も健全性もカバーできたから、毎年売上が伸び、社員が増える会社が良い会社と評価された。

しかし、今はまず会社を潰さないことを念頭に置くべきだ。これからの時代、企業の突然死は十分にありえる。だから、とにかく倒産の最大要因となる借金を減らして健全度を高めることを、第一に考えて経営して欲しい。するとB/Sがスリムで筋肉質になり、総資本回転率が上がる。このやり方で健全度を高めれば、同時に収益性も上がってくるのだ。

さて、話を生産性の指標に戻すが、労働生産性指標の判定値は、以下の4つである。

・製造業で、臨時社員が全従業員の50%以下の場合、労働生産性は1,000万円以上

・製造業で、臨時社員が全従業員の50%以上の場合、労働生産性は800万円以上

。非製造業で、臨時社員が全従業員の50%以下の場合、労働生産性は800万円以上

・非製造業で、臨時社員が全従業員の50%以上の場合、労働生産性は600万円以上

この指標の意味は、コストの安い臨時社員が少ない会社は、臨時社員の多い会社よりも一人当たりの儲け(付加価値)が大きくないといけないし、設備投資費用の大きい製造業はその設備機械を使用することで、非製造業の会社よりも一人当たりの儲けが大きくないといけないという意味である。したがって、自社の業種や社員構成に合わせて、合格ラインかどうかを判定して欲しい。

⑤設備生産性

設備一円あたり、土地を除く償却資産一円あたり、いくら稼ぐかの指標である。すなわち、100万円の設備投資をして、100万円付加価値が稼げない設備には投資してはいけないということだ。

ここで一つ補足すると、なぜ設備生産性を労働生産性と合わせて10の指標に選んだかといえば、労働生産性の向上は、設備生産性の向上によるものでなければならないからだ。

理由は「設備投資の定石」で詳述しているので簡略するが、要するに労働生産性は「設備生産性」と「労働装備高」との積であると申し上げれば、理解が早いと思う。

労働装備高というのは、社員がどれだけの設備を装備しているかの指標だ。すなわち装備高を高めれば、当然、生産性の向上に役立つことはいうまでもない。つまり、戦争をするのに兵隊が竹やりで戦うのと、ピストルや戦車などで重装備するのとでは、重装備した方が勝つに決まっているということだ。

しかし、労働装備高を年々上げることは、収益性の面からも健全性の面からもあまり望ましいことではない。なぜなら、固定資産がどんどん大きくなると、その分リスクも高くなるからだ。よって、これからの時代はとくに、労働装備高は横ばい、あるいは微減で推移し続けるようにコントロールすべきである。

それよりも、もう一方の設備生産性を高めて労働生産性を上げることの方が望ましい方法だ。そういう理由で、この設備生産性が合格ラインかどうかを、必ずチェックして欲しいのだ。

《資金調達分析》

⑥金融調達

企業の資金調達の健全度を表す指標で、金融調達が30%以上は不合格である。ちなみに、現在の日本の企業の平均も30%である。89年のバブル最盛期は40%だった。しかし、金融調達が40%、50%になると、付加価値の7%も8%も金融費を払わなければならなくなる。

日本の金利はこれ以上は下がらないところまできている。震災からの復興の状況など、いろいろ要因はあるが、今後間違いなく金利は上がっていく。そうなると、金融費が2倍、3倍になるのはあっという間だ。

そう考えると、金融調達が30%ある会社というのは、会社の規模によって若千は変わるが、だいたい営業利益の1割、2割を金融費でもっていかれてしまう。規模が小さな会社ならば、3割以上が利息の支払いになることもあるだろう。

社員が汗水たらして一所懸命稼いでくれた営業利益を3割も4割も銀行に支払うのは、社長として心が痛むだろう。いや、痛まなければ嘘である。社員は銀行に利息を払うために働いているのではない。よって、社長は何としてでも借入依存の体質から脱却しなければならないのだ。

《運転資金分析》

⑦売掛債権の回収率と買掛債務の支払率

日々の決済の回収と支払いに一カ月の差をつけるという指標である。先ほど述べた借金依存からの脱却というのは、この運転資金のコントロールにかかっている。よって、運転資金を効率よく回すには、とにかく運転資金の「入り」を「出」よりも1カ月早めることが重要だ。

最低でも1カ月の資金余裕ができれば、カネ回りは格段にラクになる。つまり、売掛債権の回収を買掛債務の支払いよりも1カ月早める目標を立てればよいのである。いま、短期の借入金で運転資金を賄っている会社はおしなべて、モノを売っても回収にはルーズで、しかも仕入れたものにはしっかり律儀に支払うような、のんきとしか言いようのない商売をしているはずだ。

③在庫回転率

在庫が月間付加価値の何力月分あるかの指標である。

いまのようなデフレの時代はとくに、過剰在庫が経営の命取りになる。しかし、そう言うと「でも先生、在庫がないと販売機会を損失してしまいます」と不安がる社長が未だに多い。しかし、品切れして倒産する会社はない。在庫が多くて運転資金がショートして、倒産する会社は星の数ほどあるが、その逆はない。

したがって、在庫は極限まで減らす。もちろん、理想は在庫ゼロであるが、残念ながら在庫ゼロというのは普通の商売をしていたら有り得ない。そこで現実的な目標として、在庫は付加価値の4カ月以内まで減らしなさいということだ。

それでも、在庫の削減というのは、社長が強い意思をもって全社共通の目標値を掲げて取り組まない限り、なかなかうまくいかない。よくある例だが、たとえばメーカーの場合、営業部門はお客様からの注文が入ったらすぐにでも納品したいから、在庫を持ちたがる。 一方の製造部門も、営業サイドから欠品のクレームをつけられたくないから多く造りたがる。同様に、資材の調達部も現場が欠品になるのを恐れて多く買う。

そうすると、全セクションでそれぞれ在庫過多が起こるから、在庫のコントロールというのは、本当に全社が一九にならないと成功しないのだ。

とくに製造部だ、品質管理部だ、調達部だと組織がやたら分かれている会社、あるいは営業拠点を多くもっている会社ほど在庫過多の悩みが深いと思う。私の問下生のなかにも、静岡の沼津、静岡、藤枝、浜松に合計で物流の拠点を6カ所ももっている商社の社長がいるが、あまりに在庫が適正値をオーバーしているので、私のアドバイスでこれを4カ所まで減らさせた。

商社にとって営業所の数が多いほどステイタスが高いというか、4カ所よりも6カ所の方が立派な会社に見えるという社長の気持ちもわからないではなかったが、立派な東名高速が走っている静岡で、どう考えても営業所は6つも必要ないと説いて、結局4つまで減らさせたのだ。

大手でさえ、営業所の統廃合、あるいは物流センターそのものをなくしてしまって、アウトソーシングに切り替えたりする時代である。中小企業が見栄で5つも6つも拠点をもっていたら、とても生き残ってはいけないのだ。

したがって、在庫の削減というのは、営業所の閉鎖や部署の統廃合など、ドラスティックな改革も辞さないという、社長の強い意思が必要なのである。

《付加価値配分分析》

⑨内部留保比率

⑩営業経費比率

この2つは対になる指標で、内部留保を付加価値の5%は最低でも確保しなければならない。そして、内部留保5%を確保するためには、営業経費を付加価値の87%に抑えなければならない、という指標である。

内部留保とは、売上高から原価以下、様々な経費を差し引いて、最終的に会社に残る利益であり、 一般的なP/Lの税引後利益から、株主への配当や役員賞与など社外流出を除いたものである。そして、毎期の内部留保が「諸積立金」という勘定科目としてB/Sの自己資本の部にどんどん蓄積されていくのだ。

いかなる環境になっても、健全性と収益性を維持しながら経営するためには、少ない原資で確実に利益を出し、その利益を内部留保に回して、しっかりと自己資本を増やす。これが企業経営の本質と述べたが、要するに内部留保というのは個人における貯金と同じで、皆さんが家庭で毎月の収入から将来のために貯金をするように、企業もまた設備投資、あるいは天災や事故など予期せぬ事態に備えた蓄積というものを計画的に行わなければならない。そして、これまで20年近く様々な会社の決算書を見て指導してきた私の経験から、この内部留保を付加価値(売上総利益)のだいたい5%確保できる企業体質であれば、将来の倒産の危険は少ないものと判断している。

そして、内部留保率5%を確保する経費構造には定石があって、だいたい営業経費を付加価値全体の87%未満にとどめる体勢を築けば達成できる。もちろん内部留保の源泉である付加価値を高められればよいが、これからの時代は企業の生み出す付加価値率が上がることはないと、厳しめに見通しておいた方が賢明であろう。

ゆえに、そのなかで確実に内部留保を確保していくには、やはり経費を定石の比率に収めるしかない。すなわち、営業経費比率を常に87%未満にコントロールしていれば、無理な売上拡大に走らずとも、確実に5%、10%の内部留保を確保できるのだということをご理解いただきたいのだ。

さて、いかがであろう。上場企業はIRの関係でいろいろ複雑な指標を発表しなければならないが、非上場の中小企業の社長が押さえるべき経営指標はこの10でよい。これ以外は必要ない。いずれも、足し算、引き算、掛け算、割り算のみで計算できる。難しい横文字も出てこないし、経済の専門知識も必要ない。

本書で定石の一つに「経営を難しくしてはならない」というのを挙げたが、とにかく、この10の指標を自社がクリアしているのかを分析してみていただきたい。もちろん分析は過去3期分するように。1期だけでなく、3期分の過去分析をする理由は、言うまでもなく、自社のトレンドを把握するためである。たとえば、直前期に在庫回転率が合格ラインの付加価値4カ月以内だとしても、過去3年において、数値が上昇しているようなら、それは経営状態が悪化しているということだ。そのまま放置していれば、近い将来、必ず基準値を下回るだろう。

そして、悪い部分を直していくのだ。すなわち、「会社の良いところを伸ばし、悪いところを直す、この繰り返しで会社は必ず良くなる」というのも既に述べた定石の一つだ。ただし、1年や2年で急激に改善しようとしてはならない。たとえば在庫が付加価値の9力月分も10カ月分もある会社が、翌年に半分に減らせるかといえばそれは無理である。現場が混乱して疲弊するだけだ。よって、毎年2日分でも3日分でもという執念をもって、全社で在庫を減らす社風を育んでいけばよい。

ところで、採点の結果、8点以上の会社はおられるだろうか。8つ以上の指標が判定値をクリアしていれば一応の合格ラインであるが、じつはこれら10の指標というのは全て相関関係にあるから、1つの指標が非常に良い会社というのは大抵ほかの指標もクリアしていることが多く、逆に1つがダメな会社は、それが他に悪い影響を与えて、すべての指標をクリアできないことが多い。ということは、別の言い方をすれば1つを直していけば、自然と2つ、3つと良くなるということだ。たとえば、在庫を減らせばその分の資金調達が減るから借金を返せる。すると金融調達が減って金融費が減るから、税引前利益が増える。すなわち、在庫の削減で総資本が減って、金融費の減少で税引前利益が増えれば、ROAが向上する…。

このようにすべて繋がっているのが、10の経営指標なのだ。よって、この10の指標をクリアする財務体質を築く、これを絶対に会社を潰さない定石として必ず実行していただきたい

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