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運転資金の定石

目次

定石30:売掛債権の回収の良否は資金繰りの原点である 社長はその回収率に最大の関心をもて

収益向上の定石において、無駄な支払利息は誰も喜ばない、そのために資金繰りに細心の注意を払うようにと申し上げた。

ところで、資金繰りの主要な部分を占めているのは運転資金であり、 運転資金をうまく回すためには、売掛債権の回収と買掛債務の支払いのタイミングを上手にコントロールする必要がある。すなわち、日々の営業活動において、カネの「入り」を必ず「出」よりも先にすることが、運転資金の定石なのである。

それでは、まず初めに、そもそも運転資金とはなにか、なぜ運転資金が資金繰りに重要かを述べておく。

会社の資金の状態を表すのは、決算書のなかのバランスシート(B/S)である。B/Sの右側は「資金の調達」を表し、左側がその「使途」を表している。すなわち、会社のカネをどこから調達し、これを何に使っているかを一覧にしたものがB/Sであり、そういう見方をするのが社長としてのB/Sの見方なのだということを、よく覚えておいていただきた

さて、もう少し詳しく説明すると、右側の「資金の調達」は「負債ならびに純資産の部」で、買掛債務や支払手形や長期。短期の借入金など、取引先や銀行など株主以外の第二者から調達した資金を「負債」、資本金や利益剰余金、自己株式など、株主や会社が稼いだ利益を「純資産」と、大きく2つに分けてある。

また、左側の「資産の部」は、右側で調達した資金をどう使ったか、つまり売掛金や現預金でもっているとか、棚卸在庫でもっているとか、土地や建物や設備を買ったというように、右側で調達した資金の使い道を表している。だから、B/Sは右側の合計と左側の合計が合っているのであって、まさにバランス(ω』留8 =均衡)しているというわけだ。

このことは同時に、B/Sの左側の数字を小さくすれば、右側の数字も小さくなるということを示している。つまり、売掛金や在庫を減らせばそれだけ資金調達は減ってくるし、その分のお金を借入金の返済に充てられる。要するに、B/Sの左側の資産内容をよく見て、無駄な要素を削り、スリム化を図ると、右側の借金が減る。それで自然と利益が上がっていくようになるというわけだ。

さて、それでは運転資金の状態は、B/Sの何を見ればわかるかというと、流動資産と流動負債の部分に表されている。まず、「流動資産」とは1年間で回収すべき資産のことで、だいたいの会社は、売掛債権や在庫、現預金の3つで流動資産の9割を占めている。

そして、この流動資産の資金調達は、1年以内に決済する「流動負債」で賄われる。流動負債の主なものは、銀行など金融機関からの短期借入金と、支払手形や買掛金、未払金などの、いわゆる「買掛債務」だ。

とすると、資金の使途を増やせばその分調達も増えるのだから、金利の発生しない資金調達である買掛債務の支払い以上に、売掛金や在庫が増えれば、その分金融機関からの調達が必要になり、借金が増える。

反対に、買掛債務以下に売掛金や在庫や余分な現預金を減らせば、その余裕分を短期借入金の返済に充てられ、健全性も収益性も高められる。

さらに、短期借入金のない会社ならば、運転資金から捻出したキャッシュで設備投資に充てた借金の返済ができる。もし借金もなければ、減価償却費を大幅に上回るような設備投資をする場合でも、運転資金から捻出したキャッシュを使って、無借金で設備投資をすることも夢ではない。

要するに、運転資金をいかに効率よく回すかというのが、盤石な財務基盤を築く上で非常に重要なことであり、その主要を占めている売掛債権の回収率向上というのが経営の定石なのである。

そこで社長は、運転資金の定石のまず第一として、売掛債権の回収を良くしてB/Sの資金の使途を減らす手を打たなければならない。ところが不思議なことに、売掛債権の回収が資金繰りにおいて非常に重要な要素であるにも関わらず、売掛債権の増加にさほど危機感をもたない社長が非常に多いように思う。要するに、売上が立っていればそれで満足してしまっているということで、そういう社長はP/Lにしか関心を示さない。

しかし、売掛債権は本物のカネではない。売上が伸びて利益が出て、P/L上ではいかにも儲かっているように見えても、回収されないものはB/Sでは売掛債権として計上される。売掛債権はカネが寝ている状態であるから、これがいつまでも現金化されないと、どこからか資金を調達してこなければならない。

そうすると、この余計な借金のために支払利息がかさみ、結局、利益が残らないばかりか、しまいには運転資金が足らなくなり、黒字倒産という末路を辿ることになるのだ。

それではここで、過去の自社の売掛債権の回収率を算出してみていただきたい。回収率は第31表のとおり、当期回収対象額を分母、当期回収高を分子にした計算式で表される。

分母の「当期回収対象額」は、期首売掛債権(つまり、前期に回収できなかったもの)と、当期に回収すべき「当期売上高」の合計である。そして、分子の「当期回収高」は、「当期回収対象額」から「期末売掛債権」を引いた額だ。

ちなみに、売掛債権は、自社のB/Sのなかの受取手形と売掛金を合計して出す。そのほか、B/Sの欄外に割引手形や裏書手形が脚注されているなら、それもすべて合わせて「売掛債権」とする。

さて、第32表A社の例で説明すると、A社の直前3期の当期回収対象額は、期首の売掛債権5億7,100万円+売上高20億1,300万円=25億8,400万円である。

そして、実際に回収できたのは、この回収対象額25億8,400万円―期末売掛債権5億7,100万円=20億1,300万円である。

そうすると回収率は20億1,300万円■25億8,400万円で、77・9%と算出できる。

直前2期、直前期ともに同様の計算をした回収率の算式を第33表に載せておくので、計算の要領を覚えていただき、ぜひ社長自身で自社の回収率を求めてみていただきたい。さて、A社の過去3期分の売掛債権の回収率はどうであったか。なんと、直前2期75・7%、直前期72・4%と、悪化傾向にあることがわかる。

A社長は、77・9%から75。7%へ落ちたときに、すぐにアクションを起こすべきであったのに、起こさなかった。その結果、直前期に回収率がさらに落ちて、72・4%になってしまったのだ。

これは、A社長の怠慢以外のなにものでもない。

なぜなら金利が300万円も余計に増える勘定になるからだ。

もし回収率が77・9%を維持していたら、直前期の回収対象額29億2,400万円の5・5%、1億6,000万円がさらに回収できていた。

ところが5・5%分、B/Sの左側の資産増加となって、その分だけ右側の資金調達が増えてしまった。仮に金利2%とすると、320万円も余計に負担していることになるのだ。

そこで、回収率を維持する、向上させるという定石に従った場合、この3年間で運転資金にいくら余乗が捻出できるのかを、実際に算出してみよう。

直前3期の77・9%を維持した場合、直前2期の回収高は回収対象額27億2,500万円×回収率77・9%=21億2,300万円となる。

すると、直前2期の期末売掛債権は、回収対象額27億2,500万円から、回収高21億2,300万円を引いて、6億200万円になる。

続いて、直前期を計算してみよう。直前2期の回収率が上がると、直前2期末(直前期・期首)の売掛債権が減るので、直前期の回収対象額が「現状実績」よりも減ることになる(直前期・期首売掛債権6億200万円+売上高22億6,200万円=28億6,400万円)。

そうすると、直前期の回収高は回収対象額28億6,400万円に直前3期と同率の回収率77・9%を掛けて、22億3,100万円になるから、直前期末の売掛債権は回収対象額28億6,400万円122億3,100万円=6億3,300万円である。

つまり、売上は同じ推移でも、売掛債権の回収率を維持するだけで、現状の8億700万円の売掛債権が6億3,300万円に減るということであり、すなわち差額1億7,400万円も資金繰りが楽になるということだ。

ところが、回収率が3年の間に下がってしまったことにより、1億7,400万円分がB/S左側のムダな資産増加となって、その分だけ右の資金調達が増えてしまい、金利負担増につながった。

つまり、回収遅れが前期より多くなれば、それだけB/S右側の資金調達が増え、結局、金融のための金利が増えることにつながる。すなわち、「資産勘定の増加は、いつも金利に結びつけて考える」、これが社長としてのB/S把握の大事なところである。そして、売掛債権の回収率悪化は、その分、付加価値配分のうちの「金融配分」の比率増加となる、そういう捉え方を、社長ならして欲しいのだ。

もし皆さんの会社の回収率が前年、前々年と比べてだんだん下がってきているようなら、前年から下がってしまった回収率を、当期の回収対象額に掛けた金額分が余分な借金として増えてしまったということだ。社長の怠慢で、社員が一所懸命稼いだ利益を無駄な金利支払いで減らしてはならない。

ゆえに社長は、常に売掛債権の回収率が下がらないように注意を払い、もしも過去3年で下降傾向にあるならば、なんとか向上するよう、計画的に手を打っていただきたいのである。

定石31:在庫適正は、業種業態にかかわりなく付加価値の4ヵ月分以内に抑えよ

運転資金の重要な定石のもう一つは、棚卸在庫の保有量についてだ。これからは、粗利がどんどん低下していく時代である。粗利が下がってくれば、在庫を減らさない限り、在庫で寝てしまう資金の調達にかかる金利で、少ない粗利を取られてしまう。

したがって、在庫を減らす努力が大切であることは言うまでもないが、その具体的な目安は、月間の付加価値(売上総利益)に対して、4カ月分というのが在庫の定石である。ここでご注意いただきたいのは、売上高ではなく、付加価値を基準に判断すべきということだ。というのも、多くの社長が自社の在庫の保有基準を、「年商の何力月分」とか「仕入高の何力月分」という見方をしているからだ。

これは大きな間違いである。なぜなら、売上の2カ月分、3カ月分までの在庫だったら、持っていても安全だという考えには根拠がない。ましてや、毎月の仕入高の何力月分などという基準など、それこそ説明できる根拠がないではないか。

もちろんこれは、在庫のみならず、人件費とか一般経費などのあらゆる経費についても言えることだ。よく、経営分析の本に「売上高対人件費比率」とか「売上高支払利息率」という用語が広く使われているからであろうか、どうも社長の多くは「自社の売上に対して人件費は何%、一般経費は何%」と、売上高を基準にして経費についてあれこれ考える傾向がある。

しかし、これからの企業経営を考えると、社長にとって、売上高基準は百害あって一利なしと言えるほど、経営の実務では意味を成さないのである。

考えてみていただきたい。今後、付加価値が次第に下がってくるのだから、売上に対する経費を何%とやっていたら、そのうち黒字倒産ということになりかねない。社長が経費を考えるときは、すべて付加価値に対して何%というように頭を切り替えてもらいたいと申し上げたのは、そういう理由からである。

よって、保有在庫についても付加価値を基準にして欲しいのであるが、その具体的指標は、付加価値の4カ月分である。これは業種業態、規模の如何に関わらず守るべき指標だ。学問的に検証されている数字ではないが、私の経験則から、付加価値の4カ月分在庫があれば、商売に支障はないと断言できる。

ただし、建設業だけは例外だ。建設業は「未成工事支出金」という特殊な勘定科目があり、まだ完成していない工事にかかる材料費・労務費・外注費・経費などを在庫として計上する決まりになっているため、4カ月基準の範囲外となる。

しかし、それ以外は製造業も流通業もサービス業もすべて、付加価値の4カ月以上の在庫は過剰だ。そして、この基準に従うと、付加価値率の高いメーカーに比べ、付加価値率の低い商社などは、在庫をたくさん持てなくなる。

ところで、自社の在庫が付加価値の何力月分あるかは、月間の付加価値額を分母に、期末の棚卸在庫を分子にして算出してみればわかる。これを「在庫回転率」と言う。算式は第35表のとおりだ。

何度も繰り返すようだが、経理や会計の解説書で述べられる在庫回転率は年商を基準としているが、これは実務的ではない。在庫回転率についても、第35表のように求めるべきである。

さて、それでは自社の在庫がどのような傾向にあったか、まずは過去3年分の在庫回転率を算出していただきたい。皆さんの会社の在庫はどれくらいだろうか。

ちなみに、在庫額は自社のB/Sに計上されている製品(商品)、仕掛品、原材料、貯蔵品の科目の総額である。建設業で「未成工事支出金」という科目がある会社は、これも棚卸在庫に含むこと。

そして、付加価値の求め方を忘れた方は、「2、会社の方向づけのための定石」に詳述してあるので、そちらをもう一度ご参照願いたい。さて、第36表A社の場合は、直前3期の期末棚卸在庫が3億6,000万円で月間付加価値が6,000万円だから、3億6,000万円■6,000万円で、在庫回転数は6カ月と求められる。同様に、直前2期、直前期も計算してみると、それぞれ付加価値の7。2カ月分、8・5カ月分の在庫を持っていた。つまり、A社は在庫が増加傾向にあるということだ。

月間付加価値が年々下がってきたにも関わらず、在庫を減らさなかったから、回転率が在庫の適正基準を大幅にオーバーしてしまったのである。

無駄な在庫を増やし、その分余計な資金負担があるということだ。社長がこの事実に気づかないでいると、運転資金がいくらあっても足りない。

そこで、定石に沿って3年間で在庫を付加価値の4カ月分に抑えると、どのくらいの資金が捻出できるかを計算してみる。

まず直前2期で5カ月分に減らす。とすると、月間の付加価値は現状実績と変わらず5,900万円、在庫回転率が5カ月なので、5,900万円×5カ月というように逆算すると、期末在庫は2億9,500万円に抑えなければならない。続いて、直前期には在庫を適正額である4カ月分に減らすと、期末の在庫は2億2,800万円となる。

つまり、定石に従って直前期までに在庫を月間付加価値の4力月に減らせば、直前期の在庫は2億2,800万円、現状は4億8,500万円であるから、もし定石に従ったとすれば、これで2億5,700万円分の資金繰りが楽になるということだ。

そこで、皆さんも自社の過去の在庫回転率を算出してみて、もし付加価値の4カ月分をオーバーしているようなら、今後5年の売上利益目標の見通しに合わせて、回転率目標を明確に設定してしっかりと手を打っていただきたい。

ただし現在、回転率が10カ月分も20カ月分もあるような会社が、5年後に4カ月分にまで落とすのははっきり言って不可能だ。だから、そういう会社はとにかく、直前期の回転率の半分を目指して、どうすれば在庫を減らせるかを考えて欲しい。焦ることはない。1年や2年で急激にやっても現場の負担が増えるだけだ。5年のスパンで確実に進めればよい。

しかし、社長の決意があれば、必ず4カ月に収めることは可能である。そもそも、売掛金の回収は相手があってのことだが、在庫の削減は自社だけでできることだ。そう考えれば、在庫を減らす努力が一番簡単だと言える。だから、社内の誰よりも社長が執念をもって、在庫削減に取り組んでもらいたいのだ。

本書の冒頭で申し上げたとおり、我が社が85億円もの大赤字を出しながらも、現預金の減少をわずか6億円に抑えられたのは、在庫の圧縮が大きな要因である。社員が一九となり、1年間で40%、数字でいえば64億円の在庫を圧縮したからこそ、今回の危機も乗り越えることができた。在庫を極限まで減らすということは、やはり経営の一つの定石なのである。

定石32:買掛債務の支払率が売掛債権の回収率を 常に5%下回る支払いサイクルを築け

これまで、売掛債権と在庫を減らすこと、すなわち運転資金の「使途」についての定石を述べてきた。そこで続いては、運転資金の「調達」についての定石を述べたい。

運転資金の「調達」は先ほど説明したとおり、短期の借入金と買掛債務である。そして、資金の使途が増えればその分調達を増やさなければならないのだから、買掛債務の支払い以上に売掛金や在庫が増えれば、その分借金が増え、その支払金利で利益が減る。

しかし反対に、買掛債務が売掛金や在庫を上回れば、借金をしなくてもカネが回り、調達が使途を上回った分を借入金の返済に充てれば、会社の収益性と健全性も高められるというわけだ。

買掛債務の支払い状態は、第38表のとおり「期首買掛債務」と「当期仕入高」(売上原価十一般経費の70%)の合計である「当期支払対象額」を分母にして、「当期支払対象額」から「期末買掛債務」を引いた「当期支払高」を分子にした、支払率というもので把握する。

ところで、「買掛債務」とは自社のB/Sに計上されている買掛金のほかに、支払手形、欄外脚注の受取手形裏書高を一括したものだ。ちなみに、割引手形や未払費用は買掛債務に含めないのだが、こういう経理的な細かい説明は本書では割愛する。もし、どうしても疑問に思うようであれば、会社の経理に聞いていただきたい。

さて、「当期仕入高」について説明すると、売上原価と一般経費の約70%を合計して求める。売上原価は、商社では仕入原価、製造業ならば、外注費や原材料費が売上原価になる。これは当然、買掛で買っているものだから、当期の仕入高に該当する。

さらに、売上原価以外にも一部の経費は当然買掛で計上していると思う。たぶん、皆さんの会社でも事務用品や細かい消耗品というのは、いちいち現金決済せずにツケで月末決済の買掛払いとか、あるいは手形決済をするとか、とにかく一般経費の中でもだいたい7割くらいは買掛だろうから、当期仕入高に一般経費の70%と入れているのはこういう理由からである。

ところで、先ほどから述べているとおり、この回収率より支払率がよかったら、売上が増えるに応じて、運転資金がどんどん膨らんでくる。つまり、回収率は常に支払率を上回っていなければいけない。もし回収率が80%や70%のままで、支払いだけはきっちり全額、つまり支払率100%というのでは、必ず運転資金が詰まる。

いま、短期の借入金で運転資金を賄っている会社はおしなべて、モノを売っても回収にはルーズで、しかも仕入れたものにはしっかり律儀に支払うような、のんきとしか言いようのない商売をしているはずだ。

試しに、皆さんの会社のカネの「入り」と「出」が過去どうだったかを確認してみればよい。

第39表A社の直前3期の支払率は、分母の当期支払対象額が、期首の買掛債務2億2,000万円十当期仕入高14億7,300万円=16億9,300万円で、分子の支払高は、当期の支払対象額16億9,300万円―期末の買掛債務2億4,800万円=14億4,500万円である。

したがって直前3期の支払率は、14億4,500万円■16億9,300万円で、85。35…%となり、四捨五入で85・4%と求められる。同様の計算で直前2期、直前期の支払率も求めてみると、どちらも87・8%である。

ただ、ここで先ほど計算したA社の売掛債権の回収率を思い出していただきたい。直前3期の回収率は77・9%、対する支払率は85・4%だ。要するに、回収率よりも支払率の方が高いのである。本来ならば、77・9%しか回収しなかったならば、支払いはこれ以下に抑えなければならない。このままでは資金繰りは厳しくなる一方だ。

しかもA社は、直前2期、直前期と回収率はどんどん下がっているにもかかわらず、支払率は直前3期よりも増加している。大方、銀行から「社長さん、支払いを短くしてその分値引きなさい。いくらでも有利な条件で融資をするから」とアドバイスされて、言いなりになってしまったのだろう。確かに支払いを短くした当初は値引くかもしれないが、すぐに何だかんだといって、もとに戻してしまうのが商売の常道である。

さて、ここで回収率と支払率の別な読み方をしてみよう。現状の直前期実績、回収率72・4%とはどういう意味なのであろうか。

72・4%の回収で8億700万円の売掛債権が期末に残っている。直前期の売上は22億6,200万円だから、期末の売掛残高8億700万円が売上の何力月分かは、期末の売掛債権残高を月の売上高で割れば求められる。

すなわち、8億700万円■ (22億6,200万円■12カ月)の計算で、だいたい回収できなかった売掛債権が4・3カ月分、つまり売上が発生してから4カ月ちょっと、おおざっぱに言って月末締めで3カ月、90日の手形をもらっていることを意味している。

では、支払いの方はどうか。こちらは月の仕入高で買掛債務の期末残高を割るのだから、期末の買掛債務2億4,500万円■月間支払対象額(17億6,900万円■12カ月)で、現状、直前期の支払率87・8%というのは、約1・7カ月の支払いサイクル、つまり月末に締めて翌月には支払っているということである。

払う方は、ほぼ現金払いのような状態で、貰う方が90日の手形では、資金が詰まってくるのも当たり前だ。そこで、A社が定石に従った場合の運転資金を計算してみる。

回収率は77・9%を3期維持するように設定しているので、支払率はこれを下回るように設定する。目標は5%の差を設けることであるが、回収率77・9%を5%下回る支払率72・9%を直前2期、直前期の2年間で達成することは、いささか無謀である。

現状の直前3期の支払率は85。4%であるから、じつに12・5%も支払率を下げなければならない。よって、直前期までに毎年5%ずつ下げて、とにかく回収率を下回る数値にまでもっていくようにしてみる。

まず直前2期には80%まで支払率を下げる。そうすると、直前2期の支払額は支払対象額18億9,300万円×支払率80%=15億1,400万円となる。

ゆえに、直前2期の期末買掛債務は、支払対象額18億9,300万円から、支払額15億1,400万円を引いて、3億7,900万円になる。

続いて、直前期の支払率をさらに5%下げて計算してみる。これでやっと支払率が回収率77・9%を下回ることになる。

直前2期の支払率が下がると、直前2期末(直前期。期首)の買掛債務が増えるので、直前期の支払対象額が「現状実績」よりも増える(直前期。期首買掛債務3億7,900万円十仕入高17億6,900万円=直前期支払対象額21億4,800万円)。

そうすると、直前期の支払額は支払対象額21億4,800万円に回収率75%を掛けて、16億1,100万円になるから、直前期。期末の買掛債務は支払対象額21億4,800万円― 直前期支払額16億1,100万円=5億3,700万円である。つまり、支払率を毎年5%ずう下げていくと、直前期の買掛債務が現状実績よりも約3億円増えるのだから、要するにこの3億円分が調達できるということだ。

このように、毎年毎年、1%でも2%でも回収率を上げて支払率を下げていき、カネの「入り」が「出」よりも常に早くなるサイクルを築くことが、運転資金の一つの定石なのである。

日標は、先ほどから述べているように、回収率が支払率を5%上回ることだ。というのも、5%の差ができると、カネの「入」が「出」よりも1カ月早くなる。すなわち、1カ月分の資金余裕が生まれるからだ。

たとえば、A社が直前期に回収率が80%、支払率が75%に改善できたとする。回収率が80%になると、直前期の回収高は回収対象額28億6,400万円×0・8=22億9,100万円だ。ということは、直前期末の売掛債権残高は回収対象額28億6,400万円122億9,100万円=5億7,300万円だから、これを月間売上高で割ると、売上が発生してから3カ月、月末締めで2カ月後にはカネが入ってくることになる。一方の支払率の方は75%だから、期末の買掛債務残高5億3,700万円■ (直前期仕入高17億6,900万円■12カ月)を計算すると、仕入れてから約4カ月、月末締めで3カ月後の支払いでカネが出ていく。

すなわち、回収率が80%、支払率が75%に改善できた場合、A社はカネの「入」が2カ月後で、カネの「出」が3カ月後となり、要するにこの1カ月分の差ができれば資金がショートすることはなくなるというわけだ。

ちなみに、回収率が支払率を5%上回ると、カネの入りが出よりも1カ月早くなるという法則には、学問的裏づけは一切ない。ただ、自身の経営経験と指導実績から自然と導き出した、いわば実務の目安であるから、読者の皆さんが自社の回収率と支払率の改善を計画する目安としていただくのに、十分お役立ていただけると思う。

こういう、回収率や支払率の適正値を社長が知らずにいると、いつまでも自社の支払いと回収のサイクルの誤りに気づけないから経理にも別段注文をつけられない。

これを放漫経営という。読者のなかにも、自社の回収率と支払率をいま初めて計算してみて、これまでいかに無駄な資金の使い方をしてきたかとびっくりされた方もおられるのではないか。

ここで一つ注意を申し上げておくと、回収率がよくて、支払率が低ければそれでいいのかといえば、そうともいえない。

支払いをあまり遅らせると、「あの会社は危ないのではないか…」と取引先から信用不安が起きる可能性もあるし、規模の小さな取引先の場合、相手先の負担を大きくしすぎてはいけない。そういう、どちらかが損をするような関係は、結局、永くは続かないからだ。

そもそも、回収率や支払率というのは、業種業態によって大きく違うものなので、絶対的な適正値があるわけではない。ゆえに、とにかく回収率が支払率を上回るようにすること、目安は5%、それが運転資金の一つの定石だと思っていただきたいのだ。

もう一つの理由は、小売業がその典型だが、飲食店などは日銭で現金が入って、支払いは月払い、手形もあるというような商売だと、売上が増えれば増えるほど流動負債が増えて、会社の健全性が悪くなるという間違いに陥りやすいからだ。

確かに、回収率と支払率のどちらを改善する努力がラクかと言えば、商売の力関係の上では客の立場なのだから、支払いを遅らせる方が優位に進められる。したがって、これまで手形を切っていなかった会社も手形を切って支払率を下げて、その分のカネでさっさと短期借入金を返済した方が収益性は高まるのだが、同時に、健全性についても社長は手を打っておかねばならない。

資金の無駄遣いを徹底して省き、これ以上ないというほど効率よく回したとしても、突然、取引先に不渡りが起きたときに会社が潰れては元も子もない。社長は効率のいい経営をすると同時に、不測の事態が起きても会社を潰さないということを考えておかないといけないし、そのために守るべき健全性の経営指標というものがある。

とにかく、会社を絶対に潰さないために守るべき健全性の経営指標については、後で詳述するが、健全性の指標を遵守した上で支払率を下げる、という具合に、ほどほどを心がけていただきたい。つまり、「経営とはバランス」ということである。

定石33:運転資金の効率化により、自力で資金を捻り出す「現金創出力」を高めよ

運転資金不足の回避は会社の健全性と収益性を高めるのに、極めて重要なことである。これからの経営ではとくに、銀行頼みで資金を調達するのではなく、運転資金をコントロールして自力でカネを生み出せるかどうかが企業の生死を分ける。それもいかに早く、いかに多くのキャッシュを生み出せるかが、世界的な基準で企業の優劣を決める指標にもなっている。

「キャッシュ化速度」という言葉をご存知だろうか。キャッシュ化速度とは、材料調達などの代金を支払ってから、販売して代金を回収するまでの日数を表す指標であり、このキャッシュ化速度が速いほど潤沢なキャッシュを確保している。アップルやIBMなど独自性の高いヒット商品を生み出している企業は、このキャッシュ化速度がマイナス、すなわち材料費の支払いの前にすでに製品の代金回収をしており、運転資金の管理により捻出された潤沢なキャッシュを戦略商品に投資して、激しい競争を勝ち抜いてきている。

つまり、この厳しい時代を生き延び繁栄し続けている企業は、資金管理の効率化を高めてキャッシュを確保している。そしてそのカネを資金として、成長事業へ思い切った投資をして、さらなる発展を遂げているのだ。

要するに、キャッシュ化速度を速めて、現金を自力でつくり出す力をつけることは、企業競争力を高める重要な経営戦略なのである。そのため私は、この経営戦略を幹部以下、社員全員が常に意識して各自の仕事に取り組んでもらうよう、わかりやすい言葉で「現金創出力」と名付け、加えて、「仕入れと支払いのサイクル」、「在庫の削減」に明確な数値目標を掲げた。

そして、世の中の流れを読んで、これから良くなるものを伸ばし、悪くなるものを迷わず捨てる。社長として、会社の方向性を全社に指し示すことによって、全社一丸となって現金創出力の向上に注力してきたのである。

そういう社風が根付いていたからこそ、このたびの世界的不況による大赤字を、わずか一年でV字回復させることができたと、自負する次第である。そこで、これまで述べてきた運転資金の「使途」である売掛債権・棚卸在庫と、「源泉」である買掛債務の全てを一覧にして、運転資金の定石をすべて実行した場合に、資金繰りがどう変わるか、いくらの資金が自力で捻出できるのかを、みなさんにも算出してみて欲しい。

第42表をご覧いただきたい。これが会社の運転資金の流れを一覧にした表である。本書の「5、設備投資の定石」で、設備投資と減価償却の要諦を説明するために会社全体の資金の流れを一覧にして説明したが、要するに、その運転資金の部分だけを抜粋したものが第42表である。表は大まかに上下三つの区分で、上が「所要運転資金」、下が「調達運転資金」となっている。

「所要」は、「必要」とか「使用」などと同意である。要するに、通常の業務で必要となる資金のことで、B/S左側の「流動資産」の主な科日である売掛債権と在庫である。そして、一方の「調達運転資金」、つまり運転資金の源泉は買掛債務である。

さて、第42表をもう一度よくご覧いただきたい。要するに、所要運転資金よりも調達運転資金を多くする、すなわち資金の「出」より「入」が多ければ、運転資金が足りなくなることはないことがおわかりになるだろう。

第42表に照らし合わせて説明すると、売掛債権と棚卸在庫それぞれの期末残高と期首残高の差額が1年間の増減で、これらの総和(増減①)から買掛債務の期末と期首の差額である

1年間の増減(増減②)を引いた「差引所要運転資金」がマイナスならば、所要運転資金が足りている状態、プラスならその金額分の運転資金が不足している状態で、不足分を銀行からの短期借入などで調達しなければならない。調達できなければ、資金がショートする。この表はそういう見方をして欲しい。

以上、表の見方を簡単に説明したところで、A社を例に、これまで計算してきた売掛債権、在庫、買掛債務それぞれの数字を入れて、現状実績と定石に従った場合それぞれの差引所要運転資金を確認してみよう。

第43表のとおり、 現状の実績では、A社の直前3期の所要運転資金の増減は5,400万円、 一方の調達運転資金の増減は2,800万円なので、差引所要運転資金は2,600万円、つまり2,600万円も運転資金が不足しているということだ。

さらに、直前2期、直前期と売掛債権の回収率が下がり、在庫の回転率は上がり続けている一方で、買掛債務の支払率は上がっているので、所要運転資金はどんどん増加し続けて、直前2期は1億7,300万円の不足、直前期に至っては1億9,100万円まで不足額が膨らんでしまっている。先程も述べたように、この運転資金の不足を補うために銀行から借入をすれば金利支払いが増え、貴重な付加価値が減る一方である。

しかし、運転資金の定石どおりに売掛債権の回収率を買掛債務の支払率以上にして、在庫も計画的に減らしていくと、直前3期には運転資金が2,600万円も足りていなかったのに、直前2期には1億6,500万円の資金余裕が生まれ、直前期にはさらに増えて、1億9,400万円も余裕資金が捻出できることとなる。3期分の差引所要運転資金の合計で見ると、現状実績は3億9,000万円も運転資金に不足が出るのに対して、定石に従えば、逆に3億3,300万円も資金繰りに余裕ができるのだ。

考えてみていただきたい。仮に金利2%で計算すると、この差額7億2,300万円分無駄な借金をしたおかげで、1,400万円分の利益が金融費として減ってしまうということだ。反対に、運転資金の定石を守れば、A社はさらに1,400万円の利益が生み出せたのである。

いずれにせよ、こういうシミュレーションをしてみると、運転資金運用の定石の重要性を痛感すると思う。現在は日本の大企業でさえも、何とかキャッシュをひねり出そうと、非常に泥臭い地味な改善を重ね、運転資金の効率化を進めている。それだけ経営環境が厳しいということだ。

そんな中で、資金力の乏しい中小企業がなんの手も講じず、生き延びていけるわけがない。もはや、キャッシュフローを犠牲にして売上を伸ばす経営が通用する時代ではないのである。

だからこそ、銀行頼みの資金調達ではなく、自力でキャッシュを捻出し、健全性と収益性を損なわずに成長拡大していくよう、運転資金の定石を遵守して現金創出力を高める策を早急に講じていただきたいと思う。

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