これまでは企業経営の立場から会計事務所や顧問税理士の業務の在り方について述べてきましたが、第 3章では、これらの実態を内側から見ていくことにしましょう。
そうすることで、自社に適した会計事務所・顧問税理士への依頼内容を検討する際の参考になるでしょう。
一般的に税理士と聞くと、読者の皆さんはどんなイメージを抱くでしょうか?「難しい試験に合格した人」「数字に強そう」「キチンとしている」等々いろいろあると思いますが、日本にどれくらいの税理士がいて、どういう経歴で税理士になっているか、これらを知る人はあまりいません。
また、会計事務所・税理士事務所の内実はどのようになっているのか、主たる収入源は何なのか、それらの実態も知っておくとよいでしょう。
全国にいる税理士の人数は? 総数 7万 9300人、税理士法人 6300
まず、日本に何人ほど税理士が存在して、どうすれば税理士になれるかを見ていきます。
次の表は、令和 2年5月現在の全国の税理士数をまとめたものです。
令和 3年2月末の時点で、税理士は日本全国に約 7万 9300人います。
個人事務所の正確な数はわかりませんが、税理士が 2名以上で設立される税理士法人は、全国に約 6300余り(本店、支店含む)あります。
大手税理士法人ですと、所属税理士が数百人に及ぶところもあります。
また、個人事務所ですと税理士 1名とスタッフ数名で運営しているところもあり、大小さまざまな事務所があります。
税理士資格を取得して、税理士として活躍する方法には大きく分けて3つあります。
いちばん多いのは、税理士試験に合格して税理士登録した税理士です。これが全体の約 45%を占めます。
次に多いのが、いわゆる試験免除組で全体の約 38%を占めます。この試験免除組には、 ①大学院で税法科目、会計科目について、博士課程または修士課程を修了した者、 ②税務署等に 10年もしくは 23年以上勤務し一定の要件を満たした者の2つが含まれます。
三番目が公認会計士の兼業で全体の 13%を占めます。
この3つで税理士の全体の 96%を占めます。
どの種別の税理士がよいとかではなく、それぞれに特徴があります。
例えば、税務署出身のいわゆる OB税理士は、過去の経験を駆使して税務署に広い人脈を有し、また税務調査に強いと言われています。
しかしその反面、民間企業での活動が少ないので、経営的なアドバイスには弱い傾向があるようです。
また、大学院を卒業して税理士資格を得た税理士は、親が税理士事務所を運営しており、創業当初から豊富なコネクションがあることが多いようです。
また、独立開業するまでの間、一般民間企業に就職している場合も多く、その経験をふまえて、経営者としての感覚を持ち合わせているといいます。
しかしながら、税法の知識は試験合格税理士に比べると弱いかもしれません。
さらに、試験合格税理士(公認会計士含む)は、税法の知識は豊富で、一般的に独立までに複数の会計事務所で実務経験を積むので、会計処理、申告業務などの実務面は強いと言えるでしょう。
一度、顧問税理士にどの制度で税理士になられたのかを聞いてみるとよいでしょう。
なお、近年の傾向として税理士の平均年齢が少しずつ上昇してきています。
60代が全体の 3割を占めていますが、これは税務官を定年退職または定年間近になって税理士になる人がけっこういるからです。
もっとも、世の中全体でも人口構成は 60代以上は約 3割ですから、全体的な傾向とも言えます。
Check!
- □税理士試験に合格した税理士は全体の 44.5%
- □税務署 OB税理士は税務調査には強いが、経営のアドバイスは弱い
- □大学院卒の税理士は経営感覚はあるが、税法の知識は比較的弱い
会計事務所にはどんなスタッフが何人いる? 最低 2名以上の税理士で税理士法人に
御社の顧問会計事務所には何人の税理士が在籍しているでしょうか?前述のように日本には 6300余りの税理士法人が存在し(本店、支店含む)、税理士法人の成立には最低 2名以上の税理士が必要です。
とは言うものの、多くの事務所が所長税理士 1名に、職員 2 ~ 5名程度の規模というのが実状で、個人のカンバンを掲げて開業している会計事務所が全体の 9割を占めています。
つまり、ほとんどが個人事業主ということです。しかし、個人事業主とはいっても、その事業規模はさまざまです。
私の知り合いの税理士事務所は、顧問先が約 400社あり、従業員は 20名いますが、税理士は所長先生 1人だけです。
また、別の税理士事務所も顧問先が約 200件で従業員が 11名いますが、税理士はこちらも所長先生 1人です。
所長先生 1人の事務所は他に比べて劣っているかというとそうではなく、大規模な事務所と比較してもよい点がたくさんあります。
例えば、月次処理を含めたすべての対応を税理士資格を有する所長が行うことになります。
一方、大規模な事務所だと、所長税理士が実務を担当することはなく、担当者は税理士資格を有していない場合も多く、また、担当者が 3 ~ 5年の頻度で変わることが少なくありません。
会社が創業間もなく、また将来的にも規模拡大を目指さないのであれば、個人事務所のほうがよいかもしれません。
逆に、規模の拡大を考えているのであれば、当初から大規模税理士法人を選んだほうがよいでしょう。
もちろん、税理士資格を有してはいないけれども、長年補助者として申告業務に携わり実務能力の高い会計事務所職員はたくさんいます。
ただし、最終的に何か問題が発生した時に対応できるのは税理士のみなので、この点は注意が必要です。
Check!
- □税理士法人、全体の 9割は税理士 1人
- □スタッフ 1人で 20社程度を受け持っている
会計事務所の職員は税理士を目指している!? なかなか税理士になれない職員もいる
会計事務所で働いている人は大きく分けると、外勤と内勤に分かれます。
外勤者は、顧問先を訪問して会計資料の回収、不明点の確認、税額、試算表の説明、決算の打ち合わせ等を行います。
一方、内勤者は、外勤者が顧問先から預かってきた資料を整理、会計ソフトに入力して外勤者の業務をサポートします。
私(西川)が勤務していたときは、外勤者の多くが将来税理士になろうと考え、週末、もしくは業務終了後に専門学校に通っていました。
仕事が終わってから専門学校の授業を受けるのは結構きついものです。昼間の疲れが出て眠気が最高潮に達します。
専門学校では週に 2 ~ 3日、夜の 10時頃まで勉強します。しかも、税理士試験は 5科目の合格が必要なので、 3年 ~ 10年程度、このような生活が続くのです。
この点からも会計事務所の職員は、真面目で頑張り屋さんが多いと想像できます。しかし、ほとんどの人が税理士試験を突破できないで、そのまま職員として働いていました。
なぜか?もちろん個人の能力の問題もありますが、それ以上に事務所での仕事のやり方が関係しています。
会計事務所でも勤務年数を重ねると、現場作業から管理に重点が移ってきます。また、担当者は顧問先の経理処理や業務内容、家族関係も把握しており、長期間顧問先に関与します。
そのため、顧問先は担当者の変更を嫌います。その結果、従来からの関与先を他人に任せることができず、現状の業務を維持したままで部下の管理をすることになります。
すると必然的に税理士試験にかける時間が少なくなってきます。
また、ある程度実務経験を積んで、学問的にも知識が蓄積されてくると、事務所の中でも複雑な案件の担当が回ってきて、さらに自分の時間を圧迫します。
そうこうしているうちに年齢も 45歳を過ぎてくると、「今から独立しても、それほど稼げないなあ」と業界内の事情も把握してきて、徐々に税理士試験に対する情熱が覚めてきて、モチベーションを維持できなくなるのです。
Check!
- □昼間仕事が忙しく、夜勉強を続けるのは大変である
- □モチベーションを維持できず税理士をあきらめる職員も多い
会計事務所の担当者はどんな人ですか?:担当者がコロコロ変わるのは要注意
会計事務所と顧問契約を締結すると、多くの場合、所長税理士以外の担当者が付けられます。
この担当者は、税理士資格を有している場合もあるし、そうでない場合もあります。
20代 ~ 30代の若手事務所職員の多くは、税理士資格の取得を目指していて、前述のように平日の夜間、もしくは土日に専門学校に通って頑張っています。
だから、いかに時間内に仕事を終えるかを重視しているので、与えられた業務以外に時間をとられるのを嫌う傾向にあります。
また、所長税理士にもよりますが、一般的に会計事務所の職員は、給与が低く、申告前には長時間残業もあるので、税理士資格を取得するという明確な目標がない人は続かないようです。
事務所職員個々人は、レストランで修行する料理人のようなイメージで、将来の独立に備えてたくさんの経験を積み、各事務所での経験値がある一定になった時点で、他の事務所に転職することもよくあります。
そのような職員が多い事務所であれば担当者が 3年に一度ぐらいで代わるので、顧問先の企業側としては、新しい担当者との引き継ぎやコミュニケーションなど手間がかかります。
一方、税理士資格取得をあきらめた 40代以降の職員は、事務所内で番頭のような立ち位置になり、所長先生に代わって実務を取り仕切ったりします。
この担当者は資格こそ保有していませんが、所長税理士の代理で税務署の対応もしますし、長い期間勤務しているので、顧問先としても安心して任せることができます。
会計事務所に勤めている職員は、基本的には真面目な人が多いようです。
Check!
- □担当者が変わると、それだけでコミュニケーションのリスクが高まる
- □税理士資格取得を目指している職員は大変忙しい
- □税理士資格取得を諦めたベテランは、じつは使える
税理士資格は 1種類でも、税法は複数ある:税理士にも得意分野・専門分野がある
皆さんが足を骨折したとき、おそらく整形外科を受診するでしょう。コンタクトレンズを購入する際には眼科、出産するときは産婦人科に行きます。
しかし、医療行為を行うことができる医師免許はすべて 1種類です。
法律も「医師法」が根幹にあり、科目によって法律が細かく規定されているわけではありません。
税理士資格も 1種類ですが、その業務に密接している税法は多数存在します。税理士試験の試験科目は、法人税法、所得税法、消費税法、相続税法、国税徴収法、酒税法などです。
例えば、相続税の科目に合格していなくても過去の経験から相続税の申告をすることはできるでしょう。
しかし、実際に相続税の科目を合格したうえで実務経験のある税理士と、単に実務経験のある税理士では、やはり違いが出てきます。
「毎年の決算をしてもらっているから、自社株の贈与の相談を」というのもわかりますが、贈与税には贈与税のプロがいますので、自社の目的に応じた税理士を選択したいものです。
税理士業界の大きな問題の1つは、自らが不得意、もしくは経験したことのない案件でもこれを請け負ってしまう傾向にあることです。
医師であれば、「この骨折は自院では対応できない。すぐに救命救急センターに連絡を!」ということで人命を救います。
しかし、税理士は、毎年法人税と消費税の申告を行っている顧問先会社で相続が発生した場合、仮に相続税申告の経験がなかったとしても経営者個人の相続税の計算も請け負ってしまうことが多いのです。
もともと相続は人の死亡が原因として発生し、相当の遺産がないと申告義務が発生しません。
これを専門に行っている税理士以外は、実際には生涯で数件しか経験していないことが多いのです。
ところが、法人の顧問税理士は、税務に関することはすべて自分のものだと考えているので、簡単に対応してしまい、その結果、不要な税金を納付することになったりします。
これではクライアントはたまったものではありません。
Check!
- □税理士にも専門分野がある
- □相続を経験していない税理士は多い
顧問契約を締結する際に気をつけること:経営者と会計事務所の間にはギャップがある
会計事務所と顧問契約をした際、税理士とどのような話をしたでしょうか?
通常、どなたかの紹介、もしくはネットで検索した候補の税理士に連絡を入れ、会計事務所を訪問すると、会社の業種、所在地や資本金、前年の年商、従業員数、社長の経歴等をヒアリングされ、「記帳代行費用として月額 ○ ○万円、決算申告が ○ ○万円、年末調整が ○ ○万円です。
試算表は、翌月末までに前月分を提出します。御社をご担当させて頂くのは、弊社の ○ ○です」といった提案がなされます。
初めは、会計事務所に何を要請してよいかわからず、また、どのように業務を進めるかもわからないので、多くの場合、会計事務所の提案どおり契約を締結します。
その後、時が過ぎて「ウチの会計事務所は、税金の計算しかしてくれない」などと不満の声が上がるのです。
これは、契約当初にそれぞれの期待が十分に一致していないことから生ずる期待ギャップが存在しているので仕方ありません。
このような期待ギャップを発生させないためには、まずは、自社が会計事務所に何を求めるのかをはっきりとさせることが大切です。
(1)記帳は自社で行い、決算のみ会計事務所に委託する
記帳代行の AI化が進んでいる今日においては、簿記の専門的な知識がなくてもある程度日々の記帳代行はできるので、記帳代行については自社で行い、決算のみ関与してもらうというのも1つの考え方です。
(2)経理のすべてを会計事務所に委託する
他方、自社で日々の経理業務を行うには不安があり、また社内に人員がいない場合には、思い切ってすべてを会計事務所に委託するのも1つの方法です。
あまり能力の高くない経理担当者を雇用し、かつ、会計事務所に月次関与して 3万円 ~ 5万円の顧問料を支払うのであれば、思い切ってすべての経理業務を外注したほうが会社全体でのコストは安くなる場合が多いのです。
(3)財務に関するアドバイザー、コンサルタントになってもらう
さらに進んで、日常の経理業務に加えて、金融機関対応、資金繰り対応などのアドバイスまで依頼するのもよいでしょう。
このあたりになると顧問税理士に経理部長のような役割を担ってもらい、経営会議等にも参加してもらうとよいでしょう。
どの考え方も一長一短ありますが、当然、それぞれ依頼する仕事のレベルで報酬が決まるので、この点を会計事務所と共有しておかないと後でトラブルの原因になります。
会計事務所との付き合いは、一度顧問契約を締結すると長期間契約を継続する傾向にあります。
また、大きな事務所と契約しても担当者はさまざまなので、この点も確認する必要があります。
担当者は時間にルーズでない、質問した内容にスピード感をもって対応してくれる、税額や会計処理についてキチンと説明してくれる、担当者だけでなく税理士とも都度連絡がとれる、人柄にストレスがない等も考慮すべき点になるでしょう。
Check!
- □会計事務所からの提案どおりに契約を締結しているケースが多い
- □経営者が考えている内容と会計事務所のそれは一致しない
- □依頼する仕事の内容を吟味して契約すべし
報酬(顧問料)の相場を知っておこう:報酬は下降気味(月額平均 3万円)
会計事務所は、毎月の記帳代行報酬(月次顧問料)、決算報酬、年末調整報酬、相続報酬の4つが大きな収入源です。
「月次顧問料」とはどういうものでしょうか。
そもそも中小零細企業において、毎月税務に関して顧問報酬を支払って税理士に確認すべき事項がそれほど発生しているでしょうか?
税務調査での指摘事項も 80%が経理処理の問題で、 20%が税務に関する問題と言われています。
つまり、月額顧問料という名のもとに、記帳代行フィーを取っている会計事務所が多いのです。
しかし、その記帳代行フィーも近年は低下傾向にあると言われています。
顧問先の高齢化による廃業、顧問先の業績悪化、 A Iによる記帳代行業務の進行、顧問料の削減依頼等によって会計事務所を取りまく環境は厳しさを増しています。
この月次顧問料について、私が会計事務所に在籍していた約 20年前には 1か月 4万円前後であったものが、今では 2万円前後まで落ち込んでいます。平均 3万円前後といったところです。
今後も、記帳代行フィーで月額顧問料をもらっている会計事務所は、その他の決算報酬、年末調整手当についても同様に、経理ソフトや A Iの進展によりさらに下落することが予想されます。
決算報酬は、毎月の顧問料の 3か月 ~ 5か月分という感じです。金額にすれば 10万円 ~ 20万円程度でしょうか。
年末調整は、 1人につき 3000円 ~ 5000円程度。
相続税の申告は、それこそピンキリです。
このように顧問料の単価が月額 4万円から 2万円に下がっているということは、昔と同じ仕事であっても倍の仕事をこなさなければならないことになります。
しかも、同じ事務員が継続して雇用されていれば、年々人件費は増加していくわけですから、多くの職員を抱え、旧態依然とした経営をしている会計事務所は経営が厳しい状況にあります。
顧問契約を締結するに際して重要なことは、 ①何をどこまで依頼するか、 ②顧問料はいくらか、という 2点です。
①はある程度明確にできるとしても、 ②については、それぞれの事務所に相場観があり、どの程度が適正かはわかりにくい。
昔は税理士法によって報酬がある程度規定されていたので、どこの税理士に依頼しても金額はほぼ同じだったのですが、平成 13年の税理士法改正によって、税理士報酬規程自体がなくなり、各税理士が報酬を自由に決めることになりました。
したがって現在は、事務所によって独自の報酬体系があります。
報酬の高い低いは顧問契約を締結する際に大切な要素ですが、それのみをもって契約を決定することは危険です。
仮に顧問料が高くても、毎月の試算表は翌月 15日までに提出してもらい、また取締役会にも参加して財務に関する意見を述べてもらい、金融機関の対応もして、会社の資金繰りに関する相談もしてもらうのであれば、月額 20万円を支払っても安いと思います。
なぜなら、これだけのスキルをもって仕事ができる人材を自社で雇用するのは難しいでしょうし、雇用できた場合でも月額 20万円以上の費用が発生するのは間違いありません。
報酬額の大小ではなく、会計事務所から受けるサービスの内容との兼ね合いを十分検討すべきです。
Check!
- □安い顧問料は、安いなりの業務内容である
- □月次報酬は、 20年前の半分に下がっている
- □高度な業務をやってもらうには、それなりの報酬を支払うべきである
税理士の年間スケジュールを知っておこう:会計事務所の業務には季節変動がある
私(西川)のクライアントが個人商店から法人化する際に、決算月をいつにするかを税理士に相談しました。
税理士の返答は、「特にこだわりがないのであれば、3月と 12月は避けてほしい」ということでした。
なぜでしょうか?じつは、税理士の業務には大きな季節変動があるのです。
日本においては3月末決算の会社が全体の約 70%を占めます。
3月末決算の会社が多いのは、
- ●国や地方公共団体の予算編成期間が4月 ~翌年3月であるため、公共事業にかかわりのある事業をしている会社は、決算書と各種提出書類との整合性をとりやすい
- ●税法の改正が4月 1日からの適用が多い
- ●上場企業では、3月決算に集中することで株主総会の時期を合わせ、株主総会等のいわゆる反社会的勢力対策になる
- ●教育機関の年度区切りが3月であり、新入社員の入社と合わせることで事務処理の効率化を図るという理由があります。
次に多いのは西暦にあわせた 12月末決算で、これが全体の 10%程度となります。
これによって、会計事務所は3月末決算 ~5月末の申告書提出までが最も忙しく、その後 12月下旬までは時間的に余裕があります。
そして 12月末頃から年末調整がスタートして、 12月末決算の2月末申告書提出をこなし、3月 15日の個人所得税の確定申告、そして、再び3月末決算 ~5月末申告書提出という流れになります。
つまり、 12月から5月末までの半年が会計事務所の繁忙期ですので、この時期に自社の決算がある、もしくは何らかの事業計画策定依頼等を行うと、動きが遅いことが多々あります。
そのため、特に会計期間にこだわりがないのであれば、会計事務所の閑散期に決算日を持ってくることも、税理士から有効なサービスを受ける一手かもしれません。
Check!
- □日本の法人、 70%は3月決算
- □税理士のホンネ「3月と 12月は決算月にしないでほしい」
税務申告以外の業務をどこまで依頼できるか:会計事務所はもっと多様な仕事ができる
税理士の独占業務は、言うまでもなく税務申告に関する代理ですが、経理に関する周辺業務を請け負っている税理士も散見されます。
会社からすれば、ワンストップで対応してもらったほうが事務処理の効率化になりますので、このほうが望ましいのです。
以下、それぞれの項目について見ていきます。
(1)給与計算業務
会計事務所が給与計算業務を請け負うケースはよくあります。
給与計算は会社の経理処理でも重要な部分であり、また、個人情報にかかわることもあるので社内の従業員に任せるよりも、一括して外注することも多い。
給与計算は、締め日から支給日までの間に給与計算を終わらせ、その数値を会社に通知する、もしくは振り込みまで会計事務所が行う場合もあります。
また、その性質上、間違いは許されず、計算締日から振り込みまでの日数が少ないことから、これらを正確にこなす体制が会計事務所側に備わっているかを確認することが大切です。
(2)事業承継に関するアドバイス
経営者の高齢化が進み、事業を次世代の経営者に承継させられない状態があります。
政府もさまざまな支援策を打ち出していますが、当事者の意識は低く、ここ 10年はあまり進んでいないのが現状です。
事業承継は大きく分けて2つの問題があります。
1つめは会社運営の問題、もう1つが自社株移転に関して発生する税金の問題です。
事業承継対策を行わずに経営者に万が一のことがあると、遺産分割で今まで円満であった親族が「争続」を繰り広げ、会社経営に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、ふだんから自社株について発生する税金の件だけではなく、事業承継時の会社運営についても税理士にアドバイスをもらい、準備しておく必要があるのです。
(3)資金繰りに関するアドバイス
中小企業の経営者が、会計事務所にいちばん求めていることは、資金繰りに関するアドバイスです。
言うまでもなく、会社が存続し続けるためには、資金が不足しないようにする必要があります。
通常の会社であれば、運転資金(売掛債権 +棚卸在庫-買掛債務)が発生するので、会社の規模が大きくなればなるほど、資金繰り管理が重要になってきます。
資金繰り表の作成については第 4章で詳述します。
(4)補助金・助成金申請に関するアドバイス
補助金・助成金とは、国や地方公共団体が事業者に対して、原則返済不要なお金を支給してくれる制度です。
一定の条件や申請、審査が必要になりますが、この申請の際に、例えば「売上が前年同月比で 50%以上減少している」「設備導入に際して付加価値率が 3%向上する」などの財務数値や事業計画の添付が必要になることがあります。
この補助金は各省庁や自治体でさまざまなものがありますから、少し工夫すれば、いろんな補助金や助成金をもらえるのです。
これを利用しない手はありません。
Check!
- □会計事務所に依頼したほうがよい業務はたくさんある
- □会計事務所にはさまざまなアドバイスを求めるべし
これからの会計事務所のビジネスモデル:専門分野や特徴のある事務所が伸びている
こうした厳しい環境にあって、売上をどんどん伸ばしている会計事務所も存在します。
どういう会計事務所でしょうか。
大別すると次の3つに分けることができます。
(1)低価格路線の会計事務所
税理士事務所の仕事の 80%が記帳代行なので、これに特化して低価格でサービスを提供している会計事務所です。
最近は、月間仕訳 100本まで月額 5000円で請け負うという事務所もあるようです。
料金体系は仕訳 1本いくら、原則として質問等はメールでのみ対応、税務相談は別途有料面談といったように、非常に細かく設定されています。
経営者に多少経理の知識がある会社や、創業直後の会社にとってはこの価格は魅力です。
ただ、会計事務所としてはこれを継続することを望んでいるわけではなく、会社が成長してくれば、以下に挙げる追加的なサービスを提供して売上を増やすことを考えているようです。
(2)業種の専門化何でも対応する
今までの会計事務所とは異なり、富裕層の贈与税や相続税の相談、申告を専門的に行う会計事務所、国際業務に関する税金の相談、申告を専門的に行う会計事務所が該当します。
会計事務所にとってのあるべき顧客(ペルソナ)を明確にし、その顧客に対して高い付加価値を提供することによって、他の会計事務所との差別化を図り収益を獲得しています。
こうした差別化した事務所にするには、税法の高度な知識が必要になる場合が多く、優秀な人材確保が必要不可欠です。
そのため、資本力がないとなかなか難しいようです。
(3)コンサルティング業務の提供
税務の申告は通常どおり行うとして、会社がよりよく発展するためのアドバイス業務を重視する会計事務所が該当します。
近年、中小企業を巡る経営課題が多様化・複雑化する中、中小企業支援を行う支援事業の担い手の多様化・活性化を図るため、平成 24年8月 30日に「中小企業経営力強化支援法」が施行され、中小企業に対して専門性の高い支援事業を行う「経営革新等支援機関」を認定する制度が創設されました。
この経営革新等支援機関の構成員は、税理士がおよそ 65%、税理士法人が 10%と合計で 75%となっています。
この点からみても、税理士がこの分野に進出しようとしていることがわかりますし、実際に金融機関対応などをしている会計事務所も増えています。
ただ、現状では、多くの会計事務所は旧態依然とした形態で業務を行っています。
私の感覚ですが、日々の記帳代行業務が定型化されており、ある程度収益の基盤ができている会計事務所がいちばん厳しい経営状態ではないかと思います。
なぜなら、ある程度の収益を獲得していると、それを維持するために、今までのやり方を踏襲するしかなく、新たな収益を獲得するために経営資源を振り分けられないのです。
Check!
- □低価格路線の会計事務所が増えている
- □自社の都合にマッチした路線の会計事務所を選ぶ
税務調査における税理士の関わり方:税務調査は怖くはなく、お土産もいらない
「税理士を変更したら、税務調査に入られやすくなるって聞きました。だから、今の税理士さんに不満はあるけれど、変更できないんです」といった話をまことしやかに聞くことがあります。
本当でしょうか?結論からすると、顧問税理士自体の変更を理由として税務調査があるということはありません。
顧問税理士の変更自体は、申告書に顧問税理士の名前が載りますし、税務代理権限証書にも記載されますので、前年度の申告書と比較することで税務署が税理士変更の事実を知ることは可能です。
しかし、税理士の変更があったからといって税務署は何も意識しませんし、行動もしません。
もちろん、顧問契約後に顧問契約を解除されたからといって税務署に元顧問先の情報を税務署に提供することも守秘義務に反しますので、そのような税理士もいません。
ただ、一点だけ注意しておきたいのは、顧問税理士の変更によって決算書の作り方が変わる場合です。
税理士は一定のルールに従ってさえいれば、決算書の項目(勘定科目)を自由に設定し、どの勘定科目に何を集計するかもある程度の裁量があります。
例えば、前の顧問税理士は、正社員の給与もパート、アルバイトの給与もすべて「給与」で処理していました。
ところが、新しい顧問税理士は、オフィスに勤務する正社員は「給与」、オフィスに勤務するパート・アルバイトは「雑給」で処理し、さらに製造現場で雇用している正社員分は「製造原価報告書の工員給与」、パート・アルバイトは「製造原価報告書の雑給」に振り分けました。
ここで税務署は、税務調査に入る前に KSKシステム( Kokuzei Sougou Kanri国税総合管理:全国の国税局と税務署をネットワークで結び、申告・納税の実績や各種情報を統合して、国税債権などを一元的に管理・分析して、税務調査や滞納整理に活用している)を活用します。
KSKシステムには、会社の申告情報が記録されているのですが、その際に、この例でいうと、前期の給与と当期で計上される給与、雑給の合計金額は同じであっても、科目が異なるため、比較すると部分的に「異常値」として判断されることがあります。
その結果、その会社が調査選定され、税務調査を受ける可能性が高まります。
税務調査に強い税理士は、このあたりの事情をよく知っているので、新たに顧問契約を開始したとしても、いきなり自分の事務所のやり方にするのではなく、時間をかけてゆっくりと対応していきます。
税務調査とはどういうものか税務調査とは、国税庁が管轄する税務署が、納税者の申告内容を帳簿などで確認し、誤りがないかどうかを調査することです。
創業して 5年を超えると一度は経験している経営者も多いでしょう。
誰が調査に来るかというと、所轄税務署の調査部門の担当者です。
調査部門は通常、統括官(一般企業でいうところの課長)、上席調査官(同じく係長)、調査官(同じく主任)、事務官(同じく一般職員)というふうに 6 ~ 8名程度で構成されています。
最近では、調査に来る人のうちいちばん多いのが上席調査官です。税務署も昔は人員が豊富にいたのですが、職員数が少しずつ減少しています。
国税庁が発足した 1949年6月の人員は 6万 495人だったのが、 2017年度は 5万 5667人と、 4828人も減っています。
上席調査官と聞くと、いきなりベテランが出てきてビックリしますが、人手不足の事情もあって、上席調査官が現場調査を担当するケースが増えています。
ちなみに、税務署の事業年度は通常の役所の4月 1日スタートではなく、7月 1日からスタートし、翌年6月 30日までとなっています。
そのため、大部分の調査官は、7月から年末までに数字を上げることを目標としています。その上げるべき数字とは、計画した調査件数を達成することを意味します。
調査官の仕事において、追徴税額に関するいわゆる〝ノルマ〟はありません。
よく「税務調査にお土産(売上の帳端計上もれ、契約書の収入印紙貼り忘れなど何らかの課税が発生する事象)が必要」などと言われますが、そんなことはなく、すべて適正に処理されていれば、是認されることになります。
必要以上に税務調査を恐れることはありません。そのためにも日々の記帳、毎年の申告を適時適正に行うことが大切です。
Check!
- □税理士の変更があったからといって税務署が動くことはない
- □適正な申告をしていれば「お土産(税金)」は必要ない
IT化、電子申告が進んでいる:電子申告は利便性を向上させる
近年の ITの進歩は目を見張るものがあります。
税務申告においても例外ではなく、平成 30年度税制改正により、一定規模の法人が行う法人税等の申告は「 e- T a x」により提出しなければならないこととされました。
また、従来から使用されていた国税の電子申告・納税システム( e- T a x)の普及も浸透してきていて、 2017年度の申告や申請における「法人税申告」オンライン利用率は 80%となっています(次のグラフ参照)。
こうした中、企業と税理士の負担軽減と行政手続コストを削減するため、申告データを円滑に電子提出できる環境整備を進めつつ、まずは大企業について、電子申告の義務化が行われることになりました。
中小企業は義務化されていませんが、利便性向上施策については適用されるので、その点もぜひ確認してください。IT化、電子申告は、税務申告の利便性を向上させます。
記帳代行の AI化と相まって、中小企業でも、将来の申告業務をすべて自社で行う日が来るかもしれません。
また、会計事務所には規模の大きなところと小さなところがありますが、電子申告を積極的に着手しているのは比較的規模の大きい会計事務所のようです。
ここで、規模が大きい事務所と小さい事務所のどちらがよいか比較してみましょう。
まず、規模の大きい事務所は、多数のクライアントを抱えているため、事務所内に経験値が蓄積され、イレギュラーな問題が発生しても自社で対応できることが多いのが特長です。
また、事務所が組織化されているので、仕事が担当者の属人的になることが少なく、担当者が離職しても顧問先企業の業務に影響を与えないようにしてくれます。
ただし、顧問料などは高くなる場合が多いようです。
一方、小さい事務所は代表税理士との距離が近く、必要に応じてすぐに税理士が対応してくれます。規模の大小一長一短ありますが、自社の事情を考慮して選択されるとよいでしょう。
Check!
- □法人税の電子申告は 8割近くになっている
- □規模の大きい事務所は組織で対応、小さい事務所は所長税理士の個性で対応
意外と多い会計事務所の保険勧誘:保険加入は会社にとって本当に得なのか
会計事務所から生命保険の加入を勧められたことはありませんか?おそらく一度や二度はあるかと思います。
2019年2月に損金性の生命保険の販売に関して国税庁から指導が出ましたので、今は該当する生命保険商品はないのですが、それ以前は、利益を繰り延べる手段として生命保険が活用されていました。
なぜ、会計事務所が生命保険を販売するかと言うと、
- ❶かつては利益を繰り延べることのできる保険商品があり、これが決算前に節税を求める経営者のニーズに合致した
- ❷会計事務所は、顧問先の経営成績や財政状態をタイムリーに把握しているので、試算表や決算書から本当に必要な保障額を計算できる立場にあった
- ❸経営者に万が一の事態が起きた場合、受取保険金をどのようにすべきか?発生する相続税はどれくらいか?を総合的にアドバイスできる立場にある
これらに関しては、正しくもあり、正しくもありません。
まず、 ❶については、前述したように、そもそも節税ではなく、単に利益の繰延に過ぎません。
経営者が節税を求めるのは、納税額を少なくし、社内に資金を留保することが目的ですが、時間をかけて保険料を積み立てるよりも、その資金を自社の設備投資、事業に投資したほうが結果として会社が得る利益は多くなるのではないでしょうか。
また、解約時に発生する保険解約益を消すための損金(通常は退職金)が必要ですが、これもその時に適切に発生するわけではありません。
❷については、正直、会計事務所がそこまで把握していることは少なく、どちらかと言えば、 ❶の決算対策のために保険加入を勧めることが多い。
❸については、そのとおりです。
死亡保険金を会社が受け取ったほうがよいのか?個人で受け取ったほうがよいのか?その際の死亡退職金はいくらにするか?会社存続のために、退職金を支払った後にどの程度の運転資金が必要か?など多方面から考慮すべき事項があります。
これこそ顧問税理士にしかできないことです。
話はそれますが、会計事務所は保険会社と提携していますから、会計事務所が紹介した保険会社から一定の手数料が入ることになります。
これは結構「オイシイ収入」になるといいます。
保険加入が会社にとって得なのか、会計事務所にとって得なのか、よくよく検討したほうがよいでしょう。
ついでに言えば、保険会社についても指摘しておかなくてはなりません。
決算書も読めない保険会社の営業担当者が義理人情、プレゼントで、節税(の保険商品)だけ売っていればいいんだということでやってきたから、日本の中小企業の資金繰りがおかしくなった、というのは言い過ぎでしょうか。
経営がしっかりしていて不況でも生き残っている企業は、積立型の保険をゼロにしたり、不要な保険には入らないものです。
しっかりした経営者はわかっています。
日本の法人税は約 35%です。利益が 800万円以下なら 25%です。
節税のために(本当は節税になっていませんが) 800万円の保険料を支払えば、手元に残るキャッシュフローはゼロです。
節税のための保険には入らず税金を支払えば、手元には 600万円残ります。
どちらが会社経営にとってよいでしょうか。
Check!
- □保険加入は一時的な節税にはなるが、キャッシュフローを悪くする
- □保険での節税は、節税でなく利益の繰延にすぎない
- □税金を払って現金を残すほうがはるかによい
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