企業経営で最も重要なことは何でしょうか。
売上?利益?経営戦略?経営計画?人材戦略?どれもこれも重要なことばかりですが、会社経営でいちばん重要なことは、「会社を潰さないこと」です。
売上があって利益があれば会社は潰れない、というのは大きな間違いです。
損益計算( PL)が黒字であっても、手元の資金が足りなければ、それを何らかの方法で補填しないと会社は倒産するのです。いわゆる黒字倒産というのはよくあることです。
逆に、赤字経営でも、手元に資金があれば倒産しないのです。
その意味からすれば、会社経営のキモは「資金繰り」です。
極論すれば、経営者は資金繰りだけ見ておけばいいのです。
本章では、この資金繰りの重要性を見ていきますが、多くの中小企業はその重要性についてあまり意識が高いとは言えないようです。
このままでは日本の中小企業は危うい!
資金繰り表を作成しない・できない会社がじつに多い:資金繰り表作成は令和時代の必須スキル
多くの中小企業の経営者は、資金繰り表は銀行融資のために作成するものだと考えています。銀行から求められる資料なので、仕方なく適当に作成しているのが実態でしょう。
ところが、融資を審査する銀行は、過去の融資について資金繰り表を稟議書に貼り付けていて、それと今回提出された資料を見比べています。
いわば点(過去の状況)と点(現在の状況)を照合しながら、線(過去と現在の連続性)で見ているのです。
直近 1年間に 2回の運転資金の融資を受ける際に、過去の資金繰り表と現実との間に大きなブレがあったら、必ず指摘されます。
私(篠﨑)が銀行員時代はよく、「これはいい加減に作成したものじゃないですか?」と会社の社長に詰め寄りました。
「今回作成したものと前回作成したものの連動性が全くないですね。多少のブレはあるのはわかりますが、これは相当の違いがあります」こうして、前回作成してもらったものを見せて連続性がないことを指摘します。
一目瞭然です。
年 2回、返しては借りる中小企業はだいたい年 2回銀行から運転資金を借ります。そのほとんどは長期の 5年以上の返済です。
融資案件が 10件あれば、年に 2件返済が終わります。けれども、返済が終わる頃には運転資金が必要になります。
すると、返しては借りる、返しては借りる、ということを年 2回ずつ繰り返しているのが現実なのです。
経営は連続しているのに、銀行融資を受けるためだけに資金繰り表をいい加減に作成していると、「その場限りのもの」になってしまいます。
会社経営にとってすごく重要なことは、「お金が回っていく」ことであるのに、事業を継続していくために資金繰り表を作成するという概念があまりない。
中小企業の多くはこの概念や意識が抜けているのです。
売上が増えていけば、自動的にお金が増えていくと本気で思っている経営者がいまだに多いようです。
年商規模が 10億を超えて、経理体制ができている会社はこのことをわかっていて、自己流で資金繰り表を作れます。
年商が 30億円ほどの製造業などでは有能な経理担当者がいます。
職位が課長であれ部長であれ。
社長が「資料を持ってこい」と言えば出てくる体制がとれています。
しかし、年商 1 ~ 3億円ぐらいの企業だと、資金繰り表を作成している会社はかなり少ないのが実態です。
Check!
- □銀行は過去(点)と現在(点)を結んで連続性(線)で経営を見ている
- □資金繰り表を作成していないのは、資金管理ができていないことと同じ
- □資金繰り表の作成は、令和時代の経営者の必須スキルである
試算表と資金繰り表は融資のマスト要件:銀行も信用保証協会も必ず要求する
信用保証協会保証付き融資を受ける際、「試算表と資金繰り表を出してください」と保証協会から要求されることが多くなりました。
通常、 5年の運転資金を借りる、 7年で借りるとなったら保証協会は求めてきます。
リスケなどをしている重点管理先の企業については、四半期ごと( 3か月ごと)に試算表を求めてきます。赤字かつ多重債務傾向になっている要注意先についても重点管理先と同様の取り組みをしています。
試算表と資金繰り表は、融資に際してのマスト資料です。
年一決算しかしない会計事務所の場合、基本的に月次の試算表を作成することを忘れています。
自分の仕事と考えない。
こういう会計事務所では、お金を借りるときだけ試算表の作成を依頼されても、「すぐにはできません」となります。
そんな場合、私は「すいません。これ銀行融資で使うものだから、私の仕事ではないので、出てくるのが遅ければすべてあなた方が悪いということになりますよ」と会計事務所の担当者に言います。
私は経営者に依頼されて財務コンサルタントとして関与しているので、融資のマストアイテムを会計事務所が作成せず、それが原因で融資ができないとなったら……どうなるでしょうか。
会計事務所は、毎月上げる報告も忙しいときは手を付けていません。
12月から翌年5月は出てくるのが遅いのです。
7割の企業が 12月とか3月決算なので、この期間は多くの企業の決算が集中して、会計事務所はどこも多忙にしています。
試算表作成に必要な経理資料を渡しているにもかかわらず、試算表がなかなか出てこない、 2週間以上も日数がかかる、そういう会計事務所は会社をしっかり防衛するためにも、いずれ切り捨てられても仕方がないでしょう。
Check!
- □決算後 3か月以上経過していれば、試算表が必要である
- □試算表の作成にすぐに対応しない会計事務所は、退場してもらうしかない
資金繰り表を作成しないのは経営者の怠慢:中小企業に財務畑の社長はいない
資金繰りについて無関心、あるいは軽視する会社の諸悪の根源は経営者にあります。
資金繰りの重要性を認識していない経営者の責任が 51%。そして、 24・ 5%は会計事務所にあり、あと 24・ 5%は銀行にあります。
会社経営に最も責任がある経営者、企業会計代行を生業にしている会計事務所、そして資金を融資しても資金ショートしたら返済してもらえないことがわかっている銀行、つまり当事者のだれもが会社経営のキモである資金繰り表に関心を示さないのはいったいどういうことでしょうか。
これには1つの理由があります。
資金繰り表を作成するときに必要なのは簿記の知識です。簿記の仕訳のイメージがわからない人は、資金繰り表や経理のことをまず理解できない。中小企業の経営者は、とにかく売上を上げることだけは強いです。
そこに一日の長がないと事業が成り立ちませんから。
財務畑の人が社長をやることは上場企業ではあることですが、中小零細企業ではほとんどが営業畑です。中小企業の経営者はそもそもお金についてのリテラシーが低い。
事業に関しての数字は多少強いとしても、財務に関する数字についての仮説(未来予測)を立てる習慣がないのです。
会社を潰さないために、翌月、翌々月、 3か月先、 6か月先に、会社の資金がどのようになっているかを把握しておくことはとても重要であるし、経営者が第一につかんでおかなくてはならない最優先の指標でしょう。
先行きがわからなければ、夜も眠れないというのが経営者というものです。
Check!
- □資金繰りの重要性を認識していないのは経営者の責任が 51%
- □中小企業の経営者はマーケティングに強いが、財務に弱い
- □経営者が第一につかんでおかなくてはならないのは資金繰りの数字
通帳と主要な指標をチェックするだけでも、過去の経営状況はイメージできる:通帳の月末残高が会社のキャッシュフロー
私は難しいことを言っているのではありません。
預金通帳に毎月、月末に線を引いて見ているだけでも資金が増えたり減ったりはわかります。
それを過去 3年 ~ 5年で棒グラフや折れ線グラフにします。
それに加えて、売上、経常利益、現預金の残高、借入金残高を月ごとで 3年 ~ 5年間くらい見るだけでも、会社が過去どういう状態であったか視覚的にわかります。
資金繰りを具体的にイメージするために、実際に通帳と試算表を使って、見える化(グラフ化)してみましょう。
見ていく数字は次の4つです。
「売上」「経常利益」「借入金残高」「預金残高(現金含む)」。
これらの数字を例えば過去 3年( 36か月)グラフ化します。
すると、前の図のようなグラフであれば、会社は目立って大きく成長してはいなものの、経営は安定していることがわかります。
売上、経常利益は微増で、順調に借入金を返済できています。また、資金繰りは潤沢ではないけれども、キャッシュフローを毎月増やしています。
Check!
- □過去 36か月の売上、経常利益、借入金残高、預金残高をグラフ化する
- □これらの数字をグラフにすると、過去の経営状況が一目でわかる
まず「過去の(実績)資金繰り表」を作成してみる:過去のお金の流れで経営の特性がわかる
最初に経営計画・損益計画があって、資金繰り表はそのあとに出てくるものです。
いちばん最初にあるのが、どういうことをして事業運営するのかという経営計画です。
その計画によって、あるいは経営計画がないとしても、予定の損益の計画を立てます。
予定の損益計画で売上を立てる、仕入を予定する、経費を支払う、差し引いて営業利益、利息を払って経常利益が出ます。
それを中期では 3 ~ 5年分作成します。
これが普通の手順ですが、これらの計画を作る前に、実績の損益を直近 3年だったら 36か月、それと実績の資金繰り表を 36か月分作成して、実績の損益と実績の資金繰り表を照合して見ていくことをお勧めします。
前項の預金通帳と試算表の主要数値だけのグラフが過去の経営実績の「簡易版」とすれば、これは「過去における本格的な資金繰り表」ともいうべきものです。
この「過去の資金繰り表」を見ると、過去の経営の詳細がすべてわかります。
なぜこのタイミングで資金不足になったのか、季節変動要因はどこにあったのか、そのときの市況はどうだったのか、原油価格はどうだったのか、さまざまな要因が思い出されるでしょう。
それこそ SWOT分析(内部要因の「強み」「弱み」、外部要因の「機会」「脅威」を分析して経営戦略や戦術を抽出)や PEST分析(マクロの経営環境を政治、経済、社会、技術の4つのフレームで分析)をしてみる。
中小企業でこれらの分析ができるのは経営者しかいません。
それをしていく中で、売上が上がっていったところでは、どうしてここで売上がドカンと上がったのか、特需があったのか、そのときの外部環境はどういうものだったのかというのを振り返って考えるのです。
売上が大きく下がったときの要因分析も当然行います。同様に仕入や経費についても検証していきます。
私たちのような財務コンサルタントは、経営分析についてはこれくらいのことはやっていきます。
過去を見ればだいたいのことはわかります。
売上は 6 ~ 7割は既存顧客で、あとの 3 ~ 4割は特殊要因である、といったことがわかってくるのです。
お金の流れをどうつかむかお金の特徴をつかむときに留意しておくことは、経営の三要素、人・物・金です。
- 「人」は人件費。
- 「物」は売上と仕入、及び設備の購入と売却です。
- 「金」は銀行の借入と返済です。
損益を見る前にお金の流れだけを見ていく中で、自分たちの経営がどう回ってきたのかという検証をしておく必要があります。
それを検証するためには、前提として経営計画がなくてはなりません。
計画がなければ検証ができない。
資金繰り表と経営計画は連動させていくものです。
損益計算書と資金繰り表を照合したあとに、月ごとの実績の貸借対照表で比較していくと、計画と合致しているか乖離しているかがわかります。
過去の実績に基づく資金繰り表ならば会計事務所も着手しやすいと思うのですが、これをあまり作りたがりません。
この作業は手間がそれなりにかかりますから、 1年分作るのであれば 1か月分(例えば 3万円 ~ 5万円)、 3年分であれば 3か分、顧問料を上乗せして払ってあげればいいと思います。
過去のものですから数字は拾えるはずです。
難しいことは何もありません。
それでも実績の資金繰り表を作れないのであれば、前項のように、簡易版を作成して数値をグラフ化していけば、過去の資金の動きが視覚的にわかります。
令和時代の会計事務所はこういうことに寄与していくことが重要です。
この作業は、物理的には 3か月分の顧問料をもらっても割に合わないかもしれません。しかし、それをやらないのであれば、会計事務所の存在理由がないのです。
これからの会計事務所は、資金繰り表を作れるようになるためのアクションをしていかなければ生き残れません。
その第一歩として、会計データを資金繰り表が出るような設定にしておくことも必要でしょう。資金繰り表は、単に近未来のキャッシュフローの状況を把握するためにあるのではありません。
過去のお金の流れを分析して、経営的特徴(特性や問題点)をあぶり出していくためにあるのです。
資金繰り表は本来、会社が作るものです。社長が作ればいいのですが、それでは社長の仕事ができなくなってしまいます。
これからの会社経営は、経営計画と連動して資金繰り表を作成して管理会計ができる会社とそうでない会社に峻別され、そして前者のみが生き残ることができるのです。
Check!
- □経営計画がなければ経営の振り返り(検証)ができない
- □実績の資金繰り表ならば会計事務所も比較的作成しやすい
会計ソフトでは資金繰り表は作成できない:経理は発生主義、お金は実証主義である
資金繰り表を作らない経営者、作れない経営者は、令和の時代では完全にアウトです。
消えてしまいます。
会計事務所も然りです。
そこで A Iや ITがあるからと、「マネーフォワード」などのようなクラウド系の会計ソフトを導入する会社が生き残ると言われていますが、会計ソフトでは資金繰り表は作成できません。資金繰り表というものは自動化できない仕事の最たるものです。
経理社員に指示してすぐにできるものでもありません。
多くの会社は、基本的に「発生主義」で仕訳をしています。
「現金主義(実証主義)」といって、現実に現金が出ていった、入ってきたという基準で仕訳をやっているのだったら、資金繰り表はすぐに出てきます。
しかし、発生主義だと、例えば 100万円の売上の場合、それが全額現金入金なのか、翌月入金なのか、あるいは 3か月後か、 6か月後かはすぐにはわかりません。
会計ソフトで仕分けして計上するときは、単に「売上」のみです。
多くの会計事務所が使っている TKC(税理士・公認会計士の全国組織)が提供している会計ソフトでもそうですが、会計ソフトで出てきている実績で資金繰りを照合すると数字の突合がデタラメで、ピッタリ正確な資金繰り表になりません。
本書の発行元である株式会社マネジメント社(出版社)のケースだと、同じ図書の売上であっても、取引形態が 5種類ぐらいあって、それぞれに入金サイトも違うといいます。
講演会などでの現金入金、問屋にあたる取次会社からの注文は原則翌月入金、アマゾンなどのネット書店は 3か月後、新刊の委託は 6か月後、そして「常備」という取引形態では 12か月後の入金だといいます。
100万円の売上を細分化すれば、こうしたことも資金繰り表に反映させなくてはなりません。
同じように、仕入や経費もそれぞれの取引形態で支払サイトが違うはずです。
文具や消耗品などは現金で支払うことが多いでしょうし、給与や家賃、融資返済金などは当月または翌月、材料費や外注費は 3か月後などさまざまです。
だから発生主義の会計ソフトをベースに実証主義の資金繰り表は作成できないし、無理に作成しようとすると、時に資金が大幅にプラスになったりします。
実際にプラスならいいのですが、多くの場合、入金は遅れてくるものです。そして、実際にはマイナスになったりします。マイナスになったらアウトです。
会計ソフトをベースに作成するとこうしたことが起こりうるのです。会計ソフトなどで自動化された状態でマイナスになっていると、なぜマイナスになるのかすぐにはわからない。
請求書を発行する段階の発生主義で処理しているからです。しかし実際には、翌月以降に入金されることがほとんどです。
請求書を発行しても、入金されるのは翌月とか翌々月、 3か月後、 6か月後だったりします。
そこで、 ■販売先取引管理表(例)にあるように、売上や仕入の管理表を作成しておく必要があります。
大企業のように専用の会計システムを構築している場合は別として、中小零細企業が使っている会計ソフトでは、資金繰り表の作成までは不可能でしょう。
経営者が問題意識をもって、経理担当者を育成するか、会計事務所に委託して、資金繰り表を作成するようにしないと経営の実態を把握できないのです。
Check!
- □資金繰り表は、基本的に自動化できない
- □会計ソフトで資金繰り表を作成すると、時に資金がマイナスになる
※「販売先取引管理表」や「仕入先取引管理表」に加え、諸経費の支払についての「販売管理費の取引管理表」も作成しておくとよい。
この場合、相手先や金額欄に加えて、「勘定科目」の欄を設けておき、科目を記入する。
例えば、「広告宣伝費」「会議費」「旅費・交通費」「接待交際費」など。
辻褄が合っているように見せかけている資金繰り表は N G:発生と現実の数字は合わないのが普通
ときどき、損益計算書と資金繰り表の同月末の数値がピッタリ合っているのを見ることがあります。
損益計算書では当月末「経常利益」、資金繰り表では当月末「資金残高」の数字を合わせてしまっている。これは明らかに辻褄合わせをしています。
損益の予定から見た月次決算の数字と資金繰り表の数字はズレていて当然です。損益計算は発生主義、資金繰り表は現実主義です。これが月次でピタリと合うほうがおかしいでしょう。
資金調達も同じことです。
必要資金は 500万円か 1000万円か、返済期間の 3年間でどういう効果があるか、ということを仮にでも検証してからです。
ところが現状はどうでしょうか。
お金を借りる側も貸す銀行側も、前の融資の期日が終わったから、継続して融資しましょう、となんとなく継続している場合が多い。内部資金が心配だからでしょう。
融資 1本終わってからまた 1本借りるわけです。
私の銀行員時代のことですが、お客さんから電話がかかってきて「前任者のときに借りたものが 3か月後に終わるから、また借りたいのだけれど」と言われたことがあります。
そのとき私は難色を示しました。
そして、なぜ借りようとするのかと聞くと、会社の資金残高が減るのが嫌だからというのです。
最高の経営というのは、極論すれば、決算を 〆たときに手持ちのキャッシュがゼロの企業がいちばん強い。つまりお金が余すところなく回っているということです。
大企業とは違って中小企業は自分たちを評価してくれる第三者がいません。
だから銀行に頼るしかないわけですが、その銀行が融資をいい加減にしているのが実態なのです。
実際の資金繰りでいえば、中小企業は何があっても 3か月分の支払いがまかなえるだけの残高があったほうがいい。けれども、多くの中小企業は 1か月分しか余剰がない状態で経営しているのが現実です。
Check!
- □発生主義の損益と現実主義の資金、月末でピッタリ合うはずがない
- □中小企業、何はなくても 3か月分の運転資金が必要
44資金繰り表は 3 ~ 6か月先を予見する:数か月先の資金状況がわかれば安心できる
その会社が生き残れる会社かそうでないか、社長と面談しているとわかります。経営に真摯に向き合っている社長は、「必死になっている」ということがはっきり言動や態度に表れます。
自分たちの会社の売上と利益を上げるとき、赤字になるとき、それが予見できていれば、例えば、今までかけていた貯蓄性の保険を解約するタイミングがわかります。
お金を借りるタイミングもわかります。経費を削減して資金効果でどれだけ改善できるかという止血のタイミングもわかります。
今日の明日では何もできません。
最低でも 3か月先のことまでが見えていなければなりません。収益を改善したいのであれば、 6か月先を予見しなければなりません。6か月前から動いていれば収益は改善していきます。
2 ~ 3か月くらいでは難しい。
資金繰り表はまた、短期・中期の経営計画と連動させるということも頭に入れておいてください。
資金繰り表を資金繰り表としてしか考えないと、「木を見て森を見ず」ということになってしまいます。資金繰り表というのは、木であり森でもあるのです。
資金繰り表は、経営計画の大切なアウトプットの1つです。
次の表は、年商 2億 5000万円程度の物品販売会社の資金繰り表を単純化したものです。
実際の資金繰り表は 41項に掲載したようにもっと細かいものです。
●9月 ~ 11月は過去の実績を示しており、 12月、1月、2月までは予定の資金繰りです。
振り返りができるので、過去もそのまま残しておくことが重要です。
●それぞれ月初の現金・預貯金残高は、前月末残高と同額になっています。
●最初に売上の入金が予定されています。
これはすべて月末入金です。
●次に出金ですが、毎月 10日の支払と月末の支払に分けています。
大口の仕入先や給与などは毎月 10日支払、小口の外注費や家賃、その他は月末、融資返済も月末です。
●まず、大口の支払がある 10日に資金が足りているかどうかです。
潤沢とは言えませんが、ギリギリなんとか間に合っています。
● 11月まで少しずつ資金残高が増えていきますが、 12月に賞与を支払うとかなり目減りします。
資金繰り表の作成にはコンサルタント料を払うべし:会計事務所に別途料金で作成してもらう
結局、自分たちの会社のお金の流れをつかむには、一度自分たちの手で資金繰り表を作成する経験をしておかないと、どんなに会計ソフトで自動化しようとしても限界があります。
そこで、資金繰り表を作成できる経理社員が必要になりますが、そういうプロ経理パーソンを採用しようとすれば、東京都内であれば年俸 700万円くらいはかかるでしょう。
最低でも 600万円は必要です。
加えて社会保険料などの法定福利費もあります。
ところが、中小企業で 600万、 700万を経理社員に払える会社はあまりない。
年商 50億円を超えている企業でないとプロ経理の採用は難しいのです。
経理というのはバックオフィスですから、そこにお金を払うということは、経営者にとっては、コスト面でマイナスという発想になります。
しかし、売上と利益を上げるための過去の数字を使った振り返りの道具として使うのが資金繰り表であり損益計算書です。
そこにある程度のコストをかけることは必要なのです。
経営者自らが資金繰り表を作成するのは大変いいことですが、経営者にはさまざまな仕事があります。
会社の利益源である売上はどうなのか、それに見合った利益があるのか、顧客満足、社員満足は?実際のところ、翌月末までの資金繰りを把握するのがせいいっぱいです。
そこで、年俸 700万円の経理社員は採用できないけれども、会計事務所に資金繰り表の作成を依頼し、その分のコンサルタント料を払うことが現実的ですし、会社の事業内容を数字で把握している会計事務所に依頼することは理にかなっていることです。
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- □中小企業では年俸が高いプロ経理パーソンを雇えない
- □会計事務所には報酬をプラスして資金繰り表を作成してもらう
早く試算表がほしいなら、自計化するしかない:経理を自計化する企業は強くなる
経営者で資金繰り表を作れる人はあまりいません。
ところが、それを会計事務所に委託しようとすると、「資金繰り表を作るのは社長の仕事ですから」と断られます。この断り文句は名言かもしれませんね。
会計事務所は経営のことはわかりませんし、もっと言えば事業のことは自分たちには一切関係ないと言っているようなものです。
会計事務所というのは、出てきた数字を仕訳するだけだと思っています。
このような意識のままでいたら、会計事務所の仕事はコンピューターに取って代わられます。
令和の時代の会計事務所は、経営者に資金繰り表の作り方を教えてあげるくらいのことでないと、経営者が会計事務所をリスペクトしません。
会計事務所を 1か月 3万円の代行業者としてしか評価しないでしょう。
会計事務所に毎月の試算表を早く出してもらいたいのならば、「自計化」といって、自社でさまざまな数値を会計ソフトに入力して作成するほかありません。
会計事務所を間に通すということは、会計データがオンタイムで出てこないことがわかっていて依頼しているからいいのですが、会計データをオンタイムでリアルに見たいのであれば、身近な人間(経理社員)が入力して、資料の作り方、組み立て方、見せ方を含めて、社長が見たいと思ったときに見せられるようにします。
会計事務所も何十社というクライアントを抱えていますから、オンタイムで見ることができるはずはありません。
ならば自計化して自社で計算すべきなのです。
そして会計ソフトを使い、補助科目を付けて細分化できるようにしていけば、試算表くらいは出てきます。
こうなれば、会計事務所はいつ切り捨ててもいいでしょうが、会計事務所はここで専門家としての監査機能を発揮することができるはずです。
仕訳がきちんとできているか、勘定科目に間違いはないか、(製造業の場合)人件費を製造原価と一般管理費に分けて計上しているかなどは、専門家でないとできないことです。
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- □自計化すると経営のスピードがアップする
- □自計化した場合、会計事務所には監査機能を担ってもらう
社員にお金の流れを意識させる:お金を知れば、生きた社員教育ができる
経営者はよくアクセルである売上のペダルは踏みまくりますが、ブレーキである経費の管理をされると嫌がる人がいます。できる経営者はお金の使い方について自ら従業員にレクチャーします。
「A君、君の売上はいくら?」と聞いてみて「 5000万円です」と返ってきたら、「粗利は?」と聞いてみます。
「目標は達成できているかもしれないけれど、君の人件費や交通費や接待交際費もあるね。それらをすべて原価に入れてごらん」と。
そういう形で実態の粗利で見たときに、「君が手掛けている仕事の粗利の額と率を教えてくれ」と訊いて、それに答えられないとなったら、「それじゃマズイね」と教えていきます。
さらにそこから資金繰りまで落とし込んでいきます。
「実際に君はこの 1年間で売上はトップで、粗利の額はそこそこあるが、粗利率は低い。これを資金繰り表に落とし込んでみると、 1年間で残るお金は君がいちばん少ないよ」こういう教育をしていかなくてはなりません。
社員 1人ひとりが経理意識を持ち、自分がやっている仕事を数字で語れなくてはなりません。その意味でも、前項で述べたように、会社の経理を自計化すると生きた社員教育ができます。
経理社員は単に数字を会計事務所に伝えるだけでなく、自分で仕訳して会計ソフトに入力していくと、自然と「経営の数字」を把握できるようになります。
令和時代の中小企業は、経営者も社員も数字に強くなければなりません。
常に数字を意識した働き方が求められます。
資金繰り表の作成は、一部を会計事務所に委託するとしても本質的に経営者の最重要の仕事です。
会議のときなどは、経営者は数字で語れないと説得力がないし、社員からリスペクトされないでしょう。
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プロ経理パーソンの養成が急務:プロは発生と現実を同時にウォッチする
私は今後「プロ経理」という言葉を世の中に広めようと思っています。
会計事務所の職員に資金繰り表を作るという概念がなく、それを学ぶ機会もないのであれば、その実務をしっかり教える。
資金繰り表には、その企業のお金の流れの癖が出ます。
直近 3年間で季節変動要因があるのか、変動要因がある直前でお金の増減がどのように変化しているのか。
資金繰りの場合でいえば、残高が平均して一定しているのがいい状態です。
売上も利益もいきなり上がるのではなく、微増でゆっくりと上がっていくものでないと、銀行融資は増えていかない。なぜなら、銀行にとっては融資した会社のキャッシュフローがどうなのか、返済能力があるかどうかが重要だからです。
プロの経理パーソンはそれを知っています。
また、資金繰り表を作成するにあたって、留意しなければならないポイントも知っています。
先に紹介した年商 2億 5000万円規模の物品販売会社の例は単純化した資金繰りですが、実際にはさまざまな要素を取り込んだものにしなければなりません。
まず、売上金の回収条件と外注費や経費の支払条件、この2つがきちんとわかっていなければなりません。
回収条件とは、物品を納品したりサービスを提供し、請求書を出してお金が入ってくるまでのリードタイムですが、これは当然短いほうがいい。
リードタイムが長くなっているケースでも、利益率の高いものであれば、先に仕入れたりする費用は先出しになり資金不足となっても、銀行からお金を借りることができるかもしれない。
しかし、そのリードタイムが長くなればなるほど、期間損益は赤字になります。
お金を借りれば、その間の金利が発生するし、売掛金の管理コストや物品の管理コストもかかります。
プロ経理パーソンは、このような「発生」と「現実」の情報や数字を示して将来をシミュレーションし、それを経営者に提言できる人材です。
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資金繰り表を作れない元銀行員を経理社員にしてはいけない:銀行員は資金繰り表を精査できない
銀行員も、銀行から「通信教育などで学びなさい」と言われますが、銀行業務の中で資金繰り表を作るための教育はありません。
これは驚くべきことなのですが、銀行業務の教育の中に「資金繰り表の作成」という科目自体がなく、研修でしっかり取り組んでいないのです。
また、これも驚くべきことですが、融資先企業から提出された資金繰り表が正当なものであるかどうかの精査もしていません。
この場合の精査というのは、例えば、売上の相手先ごとに回収条件までチェックしているかどうかということです。
実際に企業に作らせている資金繰り表の中にある、取引先ごとの入出金の状況を銀行はまず見ません。
回収条件ごと、例えば売掛金回収、手形の割引、手形の期日など、そういったことしか見ていないのです( 42項の表参照)。
支払についても、支払手形、買掛金、仕入高、外注、人件費くらいでしょう。あとは「その他」になっています。
銀行員は精査できないし、していないから、意識しているか無意識かは別にして、粉飾的資金繰り表かどうかを見抜くことができません。
1年間の資金繰り表の経常収支を作成したとします。
経常の収入から支出を引いたものが 1000万円だとして、これを経営計画と照合すると、予定経常利益は 1000万円ではなかったりします。
これは明らかに粉飾の資金繰り表です。そんな資金繰り表を作成する元行員もいたりするのです。
そのような人には手厳しく指摘したほうがいいでしょう。
事は会社経営の根幹にかかわることなのですから、こんなところで粉飾されては困るのです。
中小企業の経営者は、銀行員は経理のプロ、財務諸表の数字に明るい、と思っています。それはある部分正しいし、ある部分間違った評価をしています。
財務諸表の主要な数値の意味はわかるけれども、資金繰り表は作れないし、精査できる行員は少ないのが実態です。
そういう元銀行員を経理社員として採用しないほうがいいでしょう。前述したように、自計化するか、会計事務所に有料で依頼するほうがよいのです。
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- □銀行員は実際のところ財務に明るいとは言えない
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