まえがき
コロナ禍で多くの企業が苦境に立たされています。
非常事態宣言などで直接大きな損害を被っている飲食業、旅行業、イベント業のみならず、これらに直接的・間接的にかかわる業種にも影響は及び、いわゆる卸小売業・サービス産業全般が厳しい経営状況に陥っています。
政府は手をこまねいているわけではなく、雇用調整助成金、休業補償、持続化給付金という現ナマを撒き、銀行融資については、保証協会の保証料免除、金利3年間無利子あるいは低利、返済は最長 5年間猶予といった金融支援、さらには g o t oトラベルという旅行業界向けの支援策などを次々に打ち出しました。
こうした施策などで、「これで一段落するだろう」と期待していたのも束の間、第三波、第四波の感染拡大が訪れました。
こうなるともう打つ手に限りがあります。
赤字国債を乱発するわけにもいかないでしょうから、どこかの時点で「あとは自助努力で」ということになります。
潤沢にあった東京都の財政も底をついたようです。
こうして、コロナ禍がいつまで続くのだろうかと国民全員が将来に不安を抱えているのが現在の世相でしょう。
景気が悪化し始めたのは、じつはコロナ禍が原因ではありません。
コロナ禍が拍車をかけたのは事実ですが、 2008年に起こったリーマンショックによる不況から回復し始めて、すでに 10年以上も好景気が続いていました。
景気循環のセオリーからしても、 2019年末に日本経済はピークを迎えていたのです。
さらに、人口減少により、日本経済全体がシュリンク(しぼむ)しています。
国立人口問題研究所の推計では 2020年の日本の人口は 1億 2557万人でしたが、 20年後の 2040年には 1億 1092万人、 2065年には 8808万人にまで落ち込むとされています。
経済活動は人口がベースとなるものです。とりわけ内需は人口がすべてといっても過言ではありません。
人口減少の影響はあらゆる業種に及び、日本経済全体の景気低迷が今後も続いていくのは間違いありません。
それをカバーするには、国際化や情報化の進化と高度化によって外需で稼いでいかなくてはなりませんが、この点について、日本は先進各国から遅れをとっています。
人材の国際化は進んでいませんし、A Iを始めとする情報技術は GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)やマイクロソフト等の世界的企業の後塵を拝しています。
加えて、コロナによって世界規模の製薬会社はワクチンで未曽有の利益がもたらされるでしょうが、日本企業にはこうした明るい材料は何もありません。
このようにマクロの経済を俯瞰して見ると、日本経済の将来は正直明るくないと言わざるを得ません。
この大きな潮流を把握したうえで、われわれのような中小企業はどのように生きて行けばよいのか、です。
ダーウィンの進化論によれば、「生物は、(環境の)変化に対応して進化できたものしか生き残れない」といいます。
企業が生き延びることができるかどうかは、これと全く同じです。
マクロ経済がシュリンクしている、コロナ禍はしばらく続く、政府の金融支援策には限界がある、という環境にあって、さまざまな創意工夫によってそれらの難関を潜り抜けていくことが求められているのです。
つまり、企業経営にも進化が必要なのです。
そのためには人材育成(人)や技術革新・製品革新・販売革新(物)などの革新が必要でしょうが、これらは口で言うほど生易しいものではありません。一朝一夕にはできないものです。
筆者(篠﨑啓嗣と西川佳德)が本書で述べていくのは、主として財務戦略(金)についてです。
これも簡単なものではありませんが、経営者の学びと努力、そして会計事務所のサポートによって、さまざまな財務戦略上の工夫ができます。
企業はお金を稼ぐところです。
「世のため人のため」という社会的な存在かもしれませんが、そのためには何はなくても資金が必要です。
売上で稼いだ資金、支払う資金、投資する資金、借り入れる資金、多種多様な資金をマネジメントしていかなくてはなりません。
かつてのように事業はどんぶり勘定、経理や決算は会計事務所まかせ、資金は銀行がなんとかしてくれる、といった経営では立ち行かないのです。
しかし、程度の差はあっても、このような中小企業がけっして少なくないのが現実なのです。
人、物、金、これらすべての経営資源は経営者が何とかしなくてはなりません。このうち人と物は社内でやっていくしかありません。
経営者は人と物に対して具体的手段を講じ、売上確保に奔走していくのが使命です。
そして金も経営者マターですが、これについては、会計事務所が自らを進化させ、経営計画や損益計画、資金繰り表の作成支援等をすることができれば、経営者の大きな味方になります。
A Iの進展で、企業経営を取り巻く環境は今後も大きく、早く、進化していくことは間違いありません。
そんな時代に旧態依然とした経営では、企業は早晩淘汰されるでしょう。
そして、会計事務所が単なる入力作業代行・税務申告代行のままであれば、やがて A Iに取って代わられてしまうでしょう。
A Iでなくても、企業の自計化や有能な財務ソフトを活用すれば、今の会計事務所の多くの業務はほとんど可能になります。
中小企業や会計事務所がそうならないために、どうすべきかを解説したのが本書の主題です。
本書の第 1章 ~第 3章、第 7章は主として西川佳德が執筆し(第 7章の一部は篠﨑)、第 4章 ~第 6章は主として篠﨑啓嗣が執筆しています。
西川は会計事務所、コンサルティング会社勤務を経て、財務コンサルタントとして独立、さまざまな中小企業の財務改善に心血を注いでいます。
篠﨑は地銀勤務の後、事業再生会社等を経て独立、同じく財務コンサルタントとして事業再生や経営改善支援などを手掛けています。
本書においては歯に衣を着せず、会計事務所(本書では会計事務所 ≒税理士事務所)にも厳しい指摘をしていますが、根本的な目的は、企業経営者も会計事務所も「脱皮」しなければならないことを理解していただくことです。
そしてそのために、企業の経営改善の方途としての財務改革について、筆者の経験とノウハウの一端を明らかにしました。
これらのことが読者の皆様のお役に立つことができれば、筆者として幸いこの上なく思う次第です。
篠﨑啓嗣 西川佳德
さまざまな企業の財務コンサルテーションをしていると、「こんなことが実際に行われているのか?」と驚くことがよくあります。
私(西川)は苦境に立っている企業の事業再生のお手伝いをしていますが、事業再生を財務面でサポートする際、経営実態を把握するために、経営者とその企業の顧問である会計事務所の税理士や職員にヒアリングをします。
その際に、事業再生が必要となる会社の顧問会計事務所( ≒顧問税理士)には多くの共通点があります。
どのような共通点があるか、パターンを見ていきましょう。
断っておきますが、以下に紹介するのは、事業再生のフェーズに移行した企業の顧問会計事務所の例ですが、実際に事業再生までいかなくても多くの企業でも散見される事象です。
あなたの会社にも当てはまる事象が2つ以上あれば、経営状況はすでに黄信号になっているかもしれません。
01法律違反の意識がなく、当然のように粉飾決算書を作成する:粉飾は企業会計原則に反している
個人であれば、 12月 31日、法人であれば、年に一度、決算を行う必要があります。
その際に、経営者が税理士に対して
「いやぁ、先生、銀行の手前、赤字決算はマズイんですよね。何とか黒字にしてもらえませんか?」
あるいは税理士から経営者に対して「社長、赤字決算にしたら銀行は融資をしませんよ。黒字にしておきましょうか?」
などという話はよく耳にします。
税理士は、その使命から脱税に加担することはしません。ところが、悪い業績をよく見せる「粉飾」については、意外と多く行われています。
いちばん多いのは、減価償却費を計上しないことです。
これを言うと「法人税法上は、減価償却費の計上は任意だから、そもそも適法だ!」という税理士がいます。
本当でしょうか?
法人税法を含むすべての会計制度の前提になっている決まり事として、企業会計原則というものがあります。
その企業会計原則の第二損益計算書原則に、「費用及び収益は、その発生源泉にしたがって明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない」(費用収益対応の原則)と記載されています。
そのため、実際には保有する有形固定資産(工場や機械工具、車両など)を使用して企業活動を行っているにもかかわらず、これを使用していないことにして減価償却費を計上しないことは、法人税法云々という前に、明らかに粉飾なのです。
企業会計原則に反して作成された決算書は、企業の実態を表しているとは言えません。
また、本来、翌期に計上すべき売上を今期に早期計上したり、そもそも実在していない売掛金を架空計上したりします。
さらに、発生経費の一部を除外して、相手勘定科目を社長貸付金や仮払金で処理する粉飾も散見されます。
このようにすれば、その期は確かに見栄えのよい(黒字の)決算書ができるかもしれません。
しかし、損益計算書は一期でクリアされますが、貸借対照表は今期と来期を繋ぐ連結環としての役割を有しますので、これを元に戻すのは大変な労力が要ります。
そもそも、会計事務所のあるべき姿は、顧問先企業が赤字に陥った場合には、今までの経験を基にその原因を、例えば、外部環境である「機会」と「脅威」、内部環境である自社の「強み」と「弱み」の四つの要因から検証し、分析したうえで、これを来期以降、どのようにして克服していくかを経営者と一緒に考えることが必要なのです。
本来の税理士のあるべき姿と私は考えますが、いかがでしょうか。
事業継続を第一義に考えるのであれば、粉飾決算によって作成された「その場限りの見栄えのよい決算書」など、百害あって一利なしです。
Check!
- □粉飾は違法行為である
- □資金繰りの厳しい会社が粉飾決算で税金を余分に支払えば、資金繰りはさらに悪化する
- □粉飾は税務署からお咎めがなくてもやってはいけない
- □粉飾決算、銀行はすぐに見抜く
提出先に応じて決算書を複数作成する:企業会計原則「単一性の原則」に反する
当然ですが、会計帳簿はこの世に1つだけです。
決算書は利用目的(例えば、税務署提出目的、株主総会提出目的等)によって異なる表示形式で作成されることはあります。
しかし、それらはすべて単一の会計帳簿から作成されることを要請されています(企業会計原則「単一性の原則」)。
そのため、複数の決算書を作成しようとすれば、会計帳簿を改ざんする必要があります。こうなるとかなり重症で、元に戻すことが難しい。
私が過去に相談を受けた会社で、決算書が 5通作成されているケースがありました。
借入金融機関毎に別々の決算書が 3通、建設業を営んでいたので、経営事項審査(経審)の点数維持のために 1通、税務署に提出したものが 1通です。
すべて損益計算書の数値は同じなのですが、その内訳がそれぞれ異なり、貸借対照表に至っては、本来存在しない定期預金の計上がなされており、悪質なものでした。
相談の内容は、「これを一本化したいがどうしたらよいか」というものでした。
私は「関係各位に正直に現状を情報開示し、そのうえでどうするかを検討すべき」とご返答申し上げたのですが、経営者と顧問税理士に決心してもらえず、相談のみで終わりました。
後日、その経営者から連絡がありました。
「(経営者がうっかり) A銀行に提出していた決算書を B銀行に提出してしまい、そこから不正が発覚。借入金の一括返済を求められたが、どうしたらよいでしょうか?」
こうなると、今までの経緯と現状をすべて開示して、今後の改善計画を提示し、金融機関と交渉する必要があるのですが、そこでも会計事務所が自分の責任追及を恐れてこれを拒否、最終的にその会社は法的に整理されることになりました。
そもそも会社の決算書を複数作成する段階で、会計事務所がそうなった原因を追究し、その改善策を経営者とともに策定し、実行していけば、会社が法的整理されることにはならなかったのではないかと思われ、残念でなりません。
Check!
- □一度改ざんした経理資料は、なかなか元に戻せない
- □複数の決算書を作成する企業は、銀行から二度と信用されない
棚卸資産、有形固定資産を繰越損失の貯金と考えている:会社の経営実態が反映されない
普通の会社には、多かれ少なかれ原材料、製品、商品などの在庫があります。
ある会社では、実際に物理的なモノとしては存在しているけれども、販売価値はすでにない原材料在庫がありました。
私は「貸借対照表は企業の財政状態を適正に反映したもの」との考えを持っているので、その期の決算が赤字でも黒字でも「廃棄処分しましょう」と経営者に助言し、経営者もそれに同意してくれました。
そこで、決算時期になって、会計事務所が利益を計算すると、その在庫を廃棄する前の段階で、税引前当期純利益が赤字となりました。
そうすると、担当税理士は「処分して繰越損失にするよりも、原材料のまま持ち越して、利益が出た段階で除却してはどうですか?そのほうが期限で繰越損失が消えることもないですし」と言ってきたのです。
ここで、会社は、利益( ≒課税所得)が出れば、法人税を支払う義務が発生します。
一方で、損失が計上されれば、その損失は次期以降の利益と相殺できるため、繰越損失という形で翌期以降に損失という〝貯金〟として繰り越されます。
これは、現在の税法で最長 10年間繰り延べることができます。
逆に言うと、今期で計上された損失は 10年の間でその分の利益が確保できなければ、法人税法上は消えてしまうことになります。
一方、棚卸資産については、モノが存在している限り取得価格で帳簿に計上されているので、これを処分せずに、将来利益が出た時まで待っておき、利益が獲得できた時に廃棄損失を出して費用化するということになります。
結論としては、税理士の助言のほうが無駄な納税を回避することができるかもしれません。
しかし、その方法だと、今後販売される見込みがない原材料、つまり換金価値のないモノが決算書に計上されたままになり、会社の実態を反映しないことになります。
また、実務的にも在庫は、倉庫のかなりの部分を占拠しています。
適正在庫であればまだしも、将来使用される事も販売される見込みもない、いわゆる不良在庫を維持しておくことで発生する倉庫の賃料、電気代、保険料、決算時の棚卸計算費用等のランニングコストが発生するので、会計事務所が主張する方法には経済的合理性がないのです。
適切な範囲で利益の繰延を行うことも大切ですが、健全経営を行っていくほうがより大切だと思いますが、如何でしょうか?
Check!
- □資産価値のない不良在庫には余分な費用がかかる(倉庫代、電気代ほか)
- □資産価値のない不良在庫を資産計上すると余分な税金がかかる
- □資産を時価で算定しないと、企業の本当の資産状況がわからない
減価償却を正しく計上せず、利益調整をしてしまう:実際の損益がわからなくなる
会計事務所が利益を調整するいちばん簡単な方法が「減価償却費」の計上です。
本来は、法人税法よりも上位概念である企業会計原則に、「その有形固定資産を使用して売上を上げたのであれば、その分の費用(減価償却費)も計上しなさい」という費用収益対応の原則が記載されているので、有形固定資産を使用したのであれば、必ず月割で計上すべきものです。
ところが、実際はその一部を通年で使用しているにもかかわらず、使用していないこと(遊休設定)にして、減価償却費の計上をしないのです。
これは、企業の正しい損益状態を示しているとは言えません。しかし、多くの決算書にこれは見られます。また、耐用年数についても検討が必要です。
減価償却費を計算する際に用いる法定耐用年数は、国税局が「だいたい、この機械は平均的に 5年ぐらい使えるから、 5年で取得原価を各会計期間の費用としなさい」などといって定めているものです。
ところが、同じ機械であったとしても、 5年までしかもたない会社もあれば、 10年以上もつ会社もあるので、それぞれの企業の実態に即した耐用年数を用いるべきなのですが、税法上は、課税の公平を図る観点から、「この機械は 5年間使えるので、耐用年数は 5年」と全国均一に定めています。
しかしこれでは、会計処理上は正しくても、企業の実態を示しているとは言えません。
このように決算書が税法の規定にしたがって適正に作成されていても、必ずしもその数値が企業実態を示しているわけではないのです。
この点については、企業実態に合わせた減価償却費を計上し、税金の計算をする別表で加算する方法があるのですが、多くの会計事務所はこれを行いません。
具体例で見てみましょう。
例えば A社と B社で営業活動に使用する 300万円の車両(普通乗用車:新車で 10万 ㎞以上走れる車)を 1台購入したとします。
A社はバリバリの営業会社ですので、過去の実績から年間で 2万 ㎞の走行が見込まれます。
一方で B社は本社近場のルート営業ですので、年間の走行距離は 1万 ㎞と推定されます。
そうすると、 A社の耐用年数は 10万 ㎞ ÷ 2万 ㎞= 5年、同じく B社の耐用年数は 10万 ㎞ ÷ 1万 ㎞= 10年となり、 1年間で計上される減価償却費(定額法と仮定)は A社では 300万円 ÷ 5年 = 60万円となり、 B社では 300万円 ÷ 10年 = 30万円となります。
一方、各社が自社の個別事情に応じて自動車の耐用年数を決めると公平に課税することが困難になるので、法人税は新車の普通車は耐用年数を 6年と定めています。
そのため、 A社も B社も 300万円 ÷ 6年 = 50万円が年間減価償却費計上額となります。
本来であれば、決算書は企業の財政状態と経営成績を適切に開示すべきものであるので、会計としては A社の減価償却費は 60万円、 B社の減価償却費は 30万円と計上したうえで、 A社については別表 4で ▲ 10万円減算処理(法定耐用年数 6年・ 50万円との差額)するのが正しいのです。
つまり、 A社のように会計上の償却費 >税務上の償却費のときに、超過した会計上の償却費を減価償却超過額として別表 4で損金不算入にします。
この減価償却超過額は翌事業年度以降に累々と繰り越されていきます。
これで、決算書は車両の実態を開示することができ、同時に課税の公平も確保されることになります。
一方、 B社は何も処理をしません。
B社の場合は、 A社と異なり実際に使用できる期間が法定耐用年数よりも長いので、その時点で決算書上に車両の実態を示していることになります。
また、法人税法上も会計処理した減価償却費を税法上の手続きにしたがって計上された分だけ認めるということになっていますので、何も特別な処理をしません。
このように、本来なら企業実態に即した耐用年数で会計上は減価償却を計上し、その差額分を別表 4で加減算すべきですが、多くの会計事務所は法定耐用年数を使用します。
私に相談にこられた方は
「実際は約 5年で入れ替える機械なのですが、法人税法上の法定耐用年数が 10年なので、税理士が減価償却費を 10年で計算している。
経営者としては、設備投資分を 5年で回収したいと考えているので、それを基に売価設定等を検討したいが、製造原価の減価償却費が実態の半分しか計上されていないため、意思決定が正確に行えない」
ということでした。
そこで、会社の会計事務所に私から話をしたところ、「言わんとすることは理解できるが、それをすべての設備に行うと膨大な手間がかかるし、また、税務調査の時に説明が必要なので、対応できない」と言われました。
これには経営者もがっかりした様子で、最終的には、この会計事務所との顧問契約を解除されました。
読者の皆さんも自社の減価償却費の計上がどのようになっているか、一度、会計事務所の税理士に確認されるとよいでしょう。
Check!
- □有形固定資産があれば、減価償却費は必ず計上すべきもの
- □減価償却額は法定基準よりも経営実態で計上する
課税所得に関係ないからと、すべて「雑費」で処理している:経営実態がわからず、分析ができない
決算書がわかりにくい理由の1つとして、勘定科目の内容が不明確である点が挙げられます。
勘定科目は、会社の経理処理方針によって、継続使用することを前提にある程度自由に設定することができます。
販売費及び一般管理費のなかで、「交際費」「寄付金」「給与」などは法人税法と密接に関係するので区分が必要ですが、それ以外はある程度会社の裁量にゆだねられています。
例えば、ボールペンを購入した場合、「事務用品費」と「消耗品費」のいずれの勘定科目を使用しても特に問題になりません。
私が相談を受けた会社では、「交際費」「寄付金」「役員報酬」「給与」以外はすべて「雑費」で処理してある決算書でした。
さすがに、これでは企業実態がわからないと思い、すぐに経営者に確認したのですが、「この点については金融機関からいつも指摘を受けますね。
さすがにこの決算書はよくないと思うのですが、会計事務所は税法上問題ないと言うし、社内管理は、自社のソフトで行っており、試算表を見ることはないので、それでよいかと思って今までそれできています」とのことでした。
会計事務所にも電話で確認したところ、「勘定科目を詳細に区分しても、税金の計算に関係ないから、まとめて処理しているんです」というのです。
これでは、例えば「広告宣伝費」の対売上比率とか年次推移を見るとかといった分析ができません。
また、別の会社では、販売費及び一般管理費を非常に細かく分類し、毎年、勘定科目が増えていました。
こちらも、年次推移を分析することが難しく、決算書を経営の意思決定に資する資料として使用することができません。
経営の実態を知るには、勘定科目をいい加減にするのはまずいと思うのですが、実際にそんな会計事務所もありました。
Check!
- □販売費及び一般管理費の勘定科目の設定は自由だが、いい加減にしない
- □「雑費」での計上は、他の勘定科目に該当しないものに限定する
債務免除益を活用して、赤字を黒字化することを勧める:銀行は債務免除益での黒字を評価しない
本当は違うのですが、会計事務所は「赤字決算になったら銀行の融資が受けられないので、黒字化しておきましょう」とよく言います。
その方策の1つとして「役員からの借入金を返済しなくてよいこと(債務免除)にして、利益を出して黒字にしましょう」というアドバイスがなされます。
一見、粉飾をするわけではないので、これでよいようにも思えますが、どうでしょうか?
まず、金融機関は、債務免除益での黒字は評価しません。
そもそも債務免除などしなくても、決算書にその他の借入金と区分して記載した上で、決算書提出時に「この役員借入金は、当面の間は返金しないので、資本金としてみなしてほしい」と金融機関に説明するのです。
これだけで OKです。
また、役員借入金は、過去に所得税も社会保険の負担もしたうえで個人に入ったお金を会社に貸し付けているのですから、これを免除して、また儲かった時に取るというのは、再度、所得税と社会保険を支払うことになり、経済的合理性を欠きます。
したがって、役員借入金はよほどのことがない限り、これを免除して利益化する必要はないのです。
Check!
- □当面の間は返済しない役員借入金は、実質的に資本金とみなしてよい
- □役員借入金は、よほどのことがない限り、免除しないほうがよい
貸借対照表( BS)に関心がない:資産と負債の状況がわからない
税金の計算は、損益計算書の税引前当期純利益を基に計算されます。
正しい法人税を計算することを第一とする税理士(第 2章で解説)は、損益計算書は正確に作成するのですが、税金の計算に関係のない貸借対照表には気を配らないことがあります。
例えば、期中に支出された使途不明金は、その発生原因を詳細に調べることもなく、すべて社長貸付金で処理したりします。
また、同じく使途不明金を仮払金で計上しておいて、数期間もそのままの状態で放置していることも多い。
金融機関は損益計算書も見ますが、それよりも貸借対照表を重視します。
社長貸付金は、いつ返ってくるかわからないお金なので、金融機関は原則として純資産の部から控除します。
また、仮払金は将来、返金を受けるか、もしくは将来費用化されるお金なので、こちらも貸借対照表の純資産から控除します。
これらは、損益計算書で利益は出ていても、銀行からの融資を獲得できない会社に多いパターンです。
そして、この役員貸付金や仮払金を消すために、翌期以降の役員報酬を引き上げ、決して安くはない源泉所得税と社会保険料を負担した残りのお金で、徐々に返済していくという方法をとって、社長貸付金と仮払金を消していきます。
この方法に経済的合理性はあるでしょうか? 損益計算書は一会計期間( 1年)でいったんクリアになりますが、貸借対照表は会計期間と会計期間を繋ぐ連結環としての役割がありますので、いったん計上された社長貸付金はなかなか消し去ることができないものです。
これをクリアにして企業実態に合致するまでには数年を要することも珍しくありません。
したがって、資金使途がわからないからといって安易に社長貸付金や仮払金にするのではなく、決算時に内容をキチンと確認し、会計事務所に適切な処理を依頼したほうがよいでしょう。
Check!
- □金融機関は損益計算書よりも貸借対照表のほうを重視して見る
- □「資産」に計上されている社長への貸付金や仮払金は資産評価されない
- □使途がわからない資金を安易に社長貸付金や仮払金にしない
節税に生命保険を勧める:キャッシュフローを著しく悪化させる
会社が利益を上げているとき、経営者は必ず税理士に聞いてきます。
「先生、いい節税法はないですかね?」 もちろん、合法的に、です。
これは、決算 6か月前であればいろいろ知恵が出てくるでしょうが、経営者が言ってくるのはだいたい決算月とか直前月です。
あるいは決算月を過ぎて言ってくることもあります。
こういう時期では打つ手は限られています。
売上の繰延、経費の前倒しは常套手段ですが、これは節税ではなく、明らかに脱税です。
ほかにも外注費とか販売費や一般管理費の水増しをしたりすると、数年後の税務調査で発覚し、追徴課税になることが多いのです。
そこで会計事務所は「生命保険を使いましょう」と、年払いの生命保険に加入することを勧めたりします。
もちろん、これは合法です。
しかし、生命保険の年払いは、会社経営で最も重要な「キャッシュフロー」を著しく悪化させるのです。
以前は節税として有利な生保商品もありましたが、現在はそういった商品もなく、節税目的での生保加入は有利でもなんでもないのです。
生保の加入による節税がいかによくないことか、第 3章で詳しく説明しますが、会計事務所が節税に生命保険の加入を勧める理由は、他にもあったりします。
会計事務所自身が生命保険会社の代理店になっていたり、特定の代理店からのキックバックがあるからです。
Check!
- □決算期前後の売上や経費を調整するのは、節税ではなく脱税である
- □年払いの生命保険に加入するのは、キャッシュフローを悪化させる
- □会計事務所が保険加入を勧めてきたときは要注意
経営者の言うことをそのまま聞く:信頼できず、企業参謀になりえない
税理士は、会社の経営成績、財政状態を適切に把握することができる立場にあり、また、企業会計などに幅広い専門的知識を有していますから、経営者のよき相談相手であるべきです。
そして、相談された事項について、自分が持っている知識、経験、あるいは人脈によって、最適解を提示することが会計事務所としてのあるべき姿です。
しかし、経営者との摩擦をおそれ、自らの意見に反していてもそれを言うことなく、経営者のイエスマンになっている税理士が少なくありません。
税理士の収入は定期的な顧問料なので、顧問契約を継続してもらうためには、経営者の言うのをそのまま聞くことも理解できますが、それでは会社の発展もないし顧問料が上がることもありません。
経営者は、専門的知識と経験によって的確・誠実に返答してくれて、場合によっては苦言を呈してくれるのであれば、その顧問税理士は離してはいけません。
そういう税理士は、参謀として、御社の発展成長に寄与してくれます。
逆に、経営者が「赤字なら仕方がない」とあきらめていても、なんとか経理操作で黒字決算にしようとする会計事務所もあります。
「黒字化するために減価償却費を計上しない」「次期の売上を今期に前倒し計上する」「決算月の費用を計上しない」など、いろいろな方法で黒字化します。
このような処理をして黒字化してもそれだけ税金を払うことになるので、税務署は何も言いません。
果たしてこれはよいことでしょうか。
この点を私が会計事務所に問いただすと、「黒字でないと金融機関からの融資が止まります! だから黒字化しておきますね」と返答してきます。
いまだに赤字 =融資が止まる、と考えている会計事務所が多いことに驚きます。
赤字であることは融資実行に有利には働きませんが、赤字の事実を受け止め、「どうしたら黒字化できるか」を経営者とともに考える。
知恵も出す。もちろん、それに対する対価も受け取る。これこそが本来、企業参謀としての会計事務所のあるべき姿でしょう。
Check!
- □苦言を呈してくれる税理士は大事にすべし
- □黒字決算にこだわる税理士は真に会社のことを考えていない
顧問料の更新を申し入れない:能力のなさ、やる気のなさを示すもの
会計事務所が顧問料の更新を申し入れないことは、経営者にとってよいことかもしれません。
しかし、逆に言うと、「今以上のサービスの提供はない」ということを会計事務所から提示されているようなものなのです。
経営者は、会社からの支出はすべて費用対効果を考慮していると思います。
仮に顧問料が上がったとしても、毎月 10日までに前月の試算表を提出してくれる、資金繰りに関する相談も乗ってくれる、経費節減の方法や売上向上についてのアイデアも出してくれるというのであれば、相応の顧問料を支払うでしょう。
そうしたことがなく、前年と同じことを行っていれば、そのまま推移すると思っているから、会計事務所からは顧問料の値上げ提示もないのです。
そもそも会計事務所(税理士)の報酬は、以前は法定されていたので、全国どこでもほぼ同一の報酬額でしたが、今は違います。
各事務所が自社の報酬額を提示することができます。
したがって、報酬額も提供するサービスにも差があるのは当然のことです。
経営者が最も重視するのは、事業が提供する付加価値を増加させ、企業を存続させることです。
そうであるならば、会計事務所から顧問料の値上げを言われる前に、逆に経営者の側から「毎月試算表は翌月 15日までに提出してほしい。
6か月後までの資金繰り表を作成してほしい。金融機関対応をしてほしい。これらを月額〇〇万円でやってほしい」と言ってみてはどうでしょうか?
きっと会計事務所も前向きに対応してくれると思います。
この経営者からの提案に二の足を踏むような会計事務所だったら、要求するレベルの仕事ができないと判断したほうがよいでしょう。
Check!
- □付加価値サービスを提案してくる会計事務所は顧問料の値上げを要望する
- □何も新しい提案をしてこない会計事務所は顧問料据え置きは当たり前
- □会計事務所のやる気と能力を見るには、新しいサービスを求めてみる
契約以外のことは一切やらない:向上心がない、意欲がない
会計事務所が顧問先から業務委託で請け負う内容は当初の契約で決定するので、契約以外の仕事を行わないというのは正しいとも思えます。
しかし、向上心のある会計事務所は、契約範囲の仕事しかせず、件数をこなすことで生産性を上げるよりも、「ここまでやるから顧問料を上げてくれ」という交渉をしてきます。
会計事務所の基本給はだいたい低い。私が今から 17年前に会計事務所に入所した頃、日給 8000円でした。
データを見ると、平均年収は初任給で 250万円程度、 40代で 450万円程度とのアンケート結果が出ていますが、自社の企業価値を高めてくれる会計事務所であれば、 1000万円の顧問料でもよいのではないかと考えます。
社内経理か社外経理か入金、出金の管理、記帳代行は自社で行うとして、より高度な財務の仕事、例えば今後の資金繰り管理、金融機関対応、税務署対応等を行う経理部長を自社で雇用するのか、それともその役割を財務顧問として会計事務所が行ってくれるかをコスト面から比較したとき、仮に後者を選択した場合、会計事務所への報酬を引き上げてもよいのではないでしょうか。
契約以外のことを一切やらない会計事務所には望めないことですが、これからはこうしたことを視野に入れたほうがよいでしょう。
Check!
- □会計事務所にはより高度な財務の仕事をサポートしてもらうべき
- □そのための報酬は高くてもよい
- □社内で財務管理できる人材を採用しようとすれば年俸は高額になる
威厳を保ちたがるが、対応が遅く、スピード感がない:顧問先企業の事情を考えていない
決算書の打ち合わせ時にいつも難しい専門用語を使い、経営者が質問しようとすると「あぁ、それはいいです。こちらで処理しますので」といった具合に話を遮る税理士がいます。
そういうとき、私はあえて、その会社の業界の話や金融機関の話をしてみます。
そうすると、「うんうん」とわかったような返答をしますが、さらに突っ込んだ質問を続けると、「専門外なので、わかりません」と答えるのです。
経営者の多くは税法に関しては詳しくありません。
理解しやすい言葉で話をしてもらわないと、内容がわからないまま間違った理解をしたのではお互いの利益になりません。
会計事務所は、税務代理というサービスを提供して顧問料をもらうわけですから、立派なサービス業です。
それを忘れて、専門家として偉そうなものの言い方をしたり、威厳を保ちたがるのは、お門違いもいいところです。
また、会計事務所は、昔から自社のペースで仕事を進める傾向にあります。
「銀行から試算表を求められているので、すぐに作成してほしい」と要望してもなかなか試算表が送られてこない。
やっと来たと思ったら 3か月前のもの……なんてことを経験されたことはないでしょうか。
毎月の顧問契約をしているものの月次処理は重視せず、決算申告にさえ間に合えばよいと考えている会計事務所も多いのは事実です。
そのため、常識ではあり得ないぐらい反応スピードが遅い会計事務所は普通にあります。
これは、顧問先経営者の側にも責任があります。
記帳代行の月次契約をしているのであれば、試算表は毎月会計事務所に請求すべきです。
税の専門家としての知識を活用してもらうために税理士と顧問契約を締結するわけですが、あくまで主導権は会社にある点を忘れてはいけません。
Check!
- □会計事務所は企業に税務代理サービスを提供するサービス業である
- □主導権は会社にある
会社の IT化を積極的に提案してくれない:時流に適合していない
平成 30年( 2018年)の国税局レポートによると、平成 29年( 2017年)時点で、法人税については 80%、個人の所得税については 54・ 5%が e- Taxで申告されています(※ 35項のグラフ参照)。
これからの企業や会計事務所は、より高度にIT化していくことが必須になります。
会計事務所にとっても、本来であれば記帳代行は自計化してもらい、自らは内容のチェックのみを行ったほうが、経営者に有益なアドバイスを行う時間が確保できるので、両者にとってよいことなのです。
現実には、中小企業が会計事務所に依頼している事項の多くは作業です。特に記帳代行業務は今後 A Iの進展にともない、 AIが処理するようになってきます。
例えば、領収書や伝票をスキャンすると、そこに書かれている内容から AIが「〇〇〇〇費」と判断して仕訳してくれるわけです。
しかし、記帳代行の自計化で顧問料の削減を要求されるのをおそれて、あえて顧問先での自計化を勧めない会計事務所もあります。
また、仕訳の入力も申告書の提出もネットで行うこの時代に、いまだに手書きの決算書、内訳書もあります。
明らかに外部環境に適合していません。
そのような会計事務所と付き合うのは自由ですが、会社の利益に何ら貢献しないばかりか、将来の成長の足かせになる可能性が高いでしょう。
Check!
- □企業も個人も今後は e-Taxが主流になる
- □仕訳作業はAIで自計化できる
- □ IT化を提案してこない会計事務所には未来がない(会社も同様である)
コメント