価格戦争
1話
B社は自動洗車機の販売会社で、業界のナンバー1である。
私がお伺いした数カ月前から、ナンバー2のT社が半値というムチャクチャな価格でB社に攻勢をかけていた。
さすがに強力なB社も苦戦を強いられ、売上年計はジリジリと下降線を辿っていた。
B社長は苦慮してはいたが追従値引きを行なっていなかったのは冷静であった。
B社長と私との状況判断は『半値で引合う筈がない。これは売行き不振というだけの理由ではない。恐らくは「換金売り」であろう。それならば、何も慌てて追従値下げをする必要はない。そのうちにカタがつく。何よりもT社の内情を探ることが先だ』ということであった。
といっても、敵の内情がそう簡単に分る筈がない。僅かにもれてくる情報は、最近社長がヒステリックになっているとか、トップ層の意思不統一とか、退社する社員が多くなっているらしいとか、決め手となるような情報はなかなか手に入らない。
まさかT社のメインバンクにT社の資金繰の状態を問合わせるわけにもいかない。
とはいえ、T社の社員の動きから「臭い」という感触は感じられたのである。とすれば、問題はB社側のほうにある。先ず第一には、「どれだけの売上げをT社に喰われるか」である。これを冷静に判断することである。いくらT社が半値だといっても、お客様は更新の必要もないのに繰上げ更新をする筈がない。B社の製品でなければダメだというお客様もあることは間違いない。T社の半値販売に危慎ると、急激にB社の売上げが下がることはない。その証拠には、T社が半値を打出した後でもB社の商品は売れているし、売上年計の下降もそれほど急激ではないのだ。
を感じて敬遠する会社があることも考えられる。というようなことを総合して考え
B社としては、十分に警戒しながら、蛇口訪問とフォローを十分に行なって防戦につとめ、T社の情報を懸命に集めて分析は行なうが、いつでもできる値下げはやらずに事態を見守ることにした。
年計の下降状況からの売上げ減少の予測を行ない、資金繰に万全を期すことにした。資金繰はナンバー1の強昧もあり、いざという時の対策を用意することにして様子をみることとした。
結果は、あっけなかった。一年ほどで相手は「不渡り」 を出してしまったのである。半値というようなムチャな値引きは、資金繰をつけるための手段にしか過ぎなかったのである。
安値攻勢というものは、相手に与える心理的効果は大きいかもしれないが、成功したとしても同時に自らに大きなダメージを与えることになる。成功しなければ何にもならない。
だいたい、大幅値引きや長期にわたる安値販売は、見掛けは価格攻勢であってもハ同JV実際は資金繰に火のついた苦しまぎれのアガキの場合が殆どであって、敵を攻めているのではなくて自らの苦悶なのである。
このような状態におちこんでしまったなら、業績回復はまず不可能である。行きつく先は破綻しかないという救いようのないものなのである。
「酒悦」が、謝恩大売出しというダンピングを行なってきた時に、競合会社のN社長に対して、私はしばらく事態を見守るように勧めた。それが四カ月も続いているので『謝思のための大売出しなら期限付の筈だ。この特売には期限がない。明らかに換金売りだ。間もなくご臨終だ、放っておけばよい』というのが私の社長に申しあげた主旨である。間もなく三越の傘下に組みこまれてしまったのである。
第二話
U社は建具の専業メーカーである。パテント構造の機能が好評で、業績はよかった。
そこに、突然大手L社の殴込みがあった。価格は二割安で、しかもU社より二十倍以上も大きく、主力商品は独占的で収益性が高く、そのために膨大な内部留保を持っている。敵の意図は明らかにU社抹殺である。
U社長は真っ青になってしまった。追随値下げをすれば赤字転落は必至、値下げしなければ売上げ激減で赤字転落、進退窮まったといえよう。下手をすると赤字どころか倒産である。
抵抗しようにも相手が強すぎるのだ。U社長はどうしていいか全く分らなかった。私にどうしたらいいかという相談である。L社の営業報告書により、先にふれたような優良会社であることを知った。尋常一様の手段ではダメである。どこかに弱点を見つけて反撃しなければならないのだ。
ふと気がついたのは、「敵の強昧で膨大な蓄積のもとである主力商品に弱昧はないか」ということである。そこで、その商品にパテントがあるのかどうかをきいてみたら、「ない」という。そこで、売価と、U社でオlル外注したらいくらでできるかを調べてもらった。この調査で分ったことは、ベラ棒ともいえる高付加価値商品であるということと、そんなにも儲かる商品を既に数年売っていながら、L社以外にはどこも製造も販売もしていないということである。完全な。盲点。なのである。その商品が小型で見栄えしないためであろうが、これだけ真似好きの日本の企『un『uqd業の何たるウカツさだろう。
私は「しめた」と思った。高付加価値自体が市場戦略的には大きな弱点だからで←のすQ。U社で安値で売りだせば、相手に大きな打撃を与える可能性があるのだ。平山中品、1l U社長にこの商品をメーカー価格でL社の三割安で売り出す乙とをすすめた。それでも十分に儲かるのである。
販売先は相手を撹乱するのが目的だから、L社の主要ディーラーを五社ほどでよい。目立つほどよいのだ。『敵の強いところに近よるな』というのは、それが占有率争いの場合であって、この作戦のように撹乱が目的ならば逆に敵の強いところを狙うのである。目的によって作戦が違うことを心得ていなければならない。それらのディーラーは、U社の商品にとびついて来た。売れて売れて仕方ないほどだった。
結末はタッタ二カ月でついてしまった。L社はU社の競合商品から手を引いてしまったのである。L社にも智者がいたとみえる。
ところが、調子づいたのがU社長である。L社の三割安でも収益性がよく、飛ぶ私はこれを止めた。『調子づいて深追いし、L社を怒らせたらどうなるか。今度ように売れるので、『もっと拡販したい』というのである。こそ本格的にあなたの会社の商品をつぶしに来る危険がある。絶対に深追いしてはならない。ただ牽制のために少量に限定して販売継続をする。「いざとなったら、いつでも拡販するぞ」ということをL社に見せておくのだ。L社には智者がいるらしいから、こちらの意図を察し、あなたの会社の商品には二度と子を出さないだろう』と。これで戦いは終ってしまったのである。
価格というものは、それが高収益を得られているならば、パテントでもない限り必ず新規参入の会社が出てくることを覚悟していなければならない。そこに難しさがある。低付加価値ならば新規参入を防げるが、今度は収益が落ちる。そこをどの程度にするかが社長の腕のふるいどころであることを心得ていなければならないのだ。
第三話
N社は大型機械のメーカーである。QU 主力商品の一つである特大機械の採算性が、業界の価格競争のために悪く、社長の頭痛の種だった。
業界陥1のA社は大企業であり、ぬ2のB社は中堅企業で、N社は地3、陥4のC社は地1の系列会社であった。
狭い業界なので、殆どの場合に競争入札で、トン当り千円のものが七百円にまで下がってしまっていた。そのために採算に乗らず、他の機械の収益によるカバーがなければやっていけないような状態だった。
やめてしまえば簡単だが、社長は何とか採算に乗せて継続したいというのである。それでは、ということで価格競争の実態を少し突っ込んできいてみると、次のことが分った。
A社とB社は共同戦線を張っており、その情報網は強力だった。どちらか一社にしか引合いがこない場合には、『私ども一社だけでは適正価格かどうかお分りにならないでお困りになるかとも思われますので、同業の、こういう会社がありますので、そちらにもお声をかけて下さるように』というふうに持ちかける。何のことはない、両者はツlツ!なのだ。A社・B社・C社という連合軍を向こうに廻して、N社は苦戦を強いられていたQdつdのである。
N社には特別のセールスマンはいない。代理店である大商社からの引合いだけに頼っていたのである。営業無視というよりは無知な中小企業の典型だった。私のいうク職人会社。である。
『営業活動を行なわない事業経営は経営ではない。まずセールスマンを持たなければならない。そして、業界の情報、特にA社とB社の営業状態を調べた上で、ちらの営業方針を立て、それに基づいての営業活動を行なわなければならない。帳合いは商社を通しても営業活動は自分でやらなければダメだ』とハッパをかけた。情報収集で分ったことは、N社の市場は西日本だけだったのだが、東日本ではA社・B社の共同作戦により、何とトン当り千八百円もの高価格で売られているということであった。そこで儲けておいて西日本ではN社を叩くための低価格政策をとっていたのである。職人会社の儲からない理由がここにあったのだ。私の勧告は次のようなものだった。
『セールスマンが二名できたのだから、このセールスマンを東日本のA社・B社の市場に投入する。エンドユーザ!は調べればすぐ分るのだから、そこへ「うちで巧tは千三百円です」と云って廻らせる。むろんセールスマン任せだけではなく、肝腎なところは社長が訪問するのだ』と
これには、A社・B社、がピックリしたり大あわでしたりしたことは聞かなくとも分る。トン当り五百円も安くしたのは、エンドユーザlに強い印象を与え、A社B社に大きなショックを与えるためだった。それでもN社にとっては好収益なのだから・・・・・・。ところが「敵もさるもの、引っ掻くもの」だった。,eゃ’’」P「J -」中JゃJ中υvdyv (これで敵の情報収集力が強いという乙とが分った) C社を使って西日本での競争入札にトン六百円を出してきた。敵ながらあっぱれである。
この反撃にN社長は震え上がってしまった。敵を攻めようとしていたら足もとに火がついてきたからである。六百円以下に値下げしなければ売れなくなる。これではこちらが干上がってしまうというのである。だから敵を刺激するようなことは止めたいような口ぶりである。
私はおかしさをこらえながらN社長に申しあげた。『何をあわてているのだ。敵Qd が六百円できたら、敵にとらせたらいい。それはあなたの会社にとって大きなプラスだ。何故ならば、それはC社をいためつけ、C社のうしろにいるA社に作戦失敗を思い知らせることになるのだ。六百円はC社に任せ、あなたの会社は千三百円の受注をするのだ。こんなよい乙とはない。何のために営業力を強化したのだ』と。この戦いのケリは、タッタ三カ月でついてしまった。六百円の反撃作戦が失敗した敵は、もう打つ手がなかったからである。A社の社長がN社長に会見を申込んできたのである。N社の勝利である。
『どうしたらいいか』というN社長の相談である。私は『二1三カ月口実を設けて敵をジラシなさい。あまり長くなると相手の顔をつぶすから、それはいけない。相手の申入れは聞かなくとも分っている「狭い業界で無用の競争をしても、お互いにプラスにならない。どうだろうか、我社は情報網もあり、我社で受注して、あなたの会社にも立派に採算に乗るような価格で作ってもらうから、我社と手を組まないか」これにうかつに乗ってはいけない。無用な競争を避けたいのということだ。は同様だと、まず相手の主張に賛成し、価格協定をニオワセながら、決定的な言質を与えてはいけない。そして、敵の出かたを見ながら、競争するような、協定するような態度を当面とり、その結果を見て次の作戦を立てるのだ。これを有利にするためには、あなたの会社でセールスマンの蛇口巡回を怠らないことだ。これで、あなたの会社の決意を敵に思い知らせるのだ』と。
第四話
N社は、U県のプロパンガス販売業者である。
N社長は最近起った価格戦争に大きな不安を感じていた。というのは、県外の某社が大きなガス詰替基地をつくり、ベラ棒な安値でU県にも拡販に乗りだしてきたからである。攻撃をかけられた業者は、一社また一社と倒産や転業に追いこまれていった。
攻撃をうけている業者は結束してこれに対抗していた。詰替基地の傍に待機していて、敵の車が出てくると尾行をする。敵は尾行を振切ろうとスピードをあげて走る。信号無視や、あわや事故というようなことは日常茶飯事だった。
そのうちに敵は反撃作戦をあみ出した。市街地を外れた淋しいところへ尾行車を誘いこみ、停車する。尾行車もとまると、待伏せていた敵が背後からハサミ打ちで
N社長は、遠からず攻撃にさらされる危険を感じて、どう対処したらよいか分らある。あわや血の雨というようなことが起る始末であった。なかったのである。
「尾行などしても効果がないことは実証された。それは敵の弱点だから、敵の弱点を見つけだしてこれを衝けばよい。社長自身で先ず考えてもらいたい』と申しあげただけで別れた。N社のテリトリlに攻めこんでくるには、まだかなりの時間があると見たからだ。ヒントは申しあげたのだから、考えてもらいたかったのである。
しばらくしてN社長から、『相変わらず連合軍は苦戦している。遠からず我社も攻撃にさらされる。対策を考えても分らないから、是非教えてもらいたい』という重ねての頼みである。あまり放っておくのも失礼なので解答を申上げることとした。それは次のようなものだった。
『敵の武器はベラ棒な安値だ。これは攻めるには強いが同時に大きな弱点である。というのは、敵の従来からのお客様に売っている値段より安いのは調べてみなくとも分る。そこで、敵が攻撃に使う安値を、何でもよいが敵の会社自らが記載したもの記載したものでなくてはダメだ。(手に入れる可能性をN社長にきいてみたら、ハUA- のーー価格表でも見積書でも納品書でも請求書でもよいから子に入れることだ。敵そんなことならできるという返事である)これをコピーして、敵の従来の得意先の郵便受けに投げ込む。それで終りだ』とN社長は、『そうか、分った。これで安心だ』ということになってしまった。それから半年ほどたっても何の音沙汰もないので、N社長にきいてみると、私の作戦を使うまでもなく、いつの間にか戦いは終ってしまったということであった。
私としたら、使ってみたかったとも思わなかった。いままでに、この作戦を使って、アッという聞に敵を撃退した経験を私はいくつも持っていたからである。
では、それはどんな業界なのだろうか。この作戦は、総べての場合に有効だというものではない。特定のいくつかの業界だけで有効なのだ。そして、その業界では絶大な威力を発揮するのである。では、その業界とはどんな条件を備えた業界なのだろうか。頭の体操として考えてみていただければ幸いである。
K社は建材のメーカーで、主力商品は鋳造品である。
第五話
建築業界の低迷によって価格競争が激しかった。そんなある年に、ある会社がK社の主力商品と同様な商品を、何と市価の四割安で発売してきたのである。それは、連続鋳造機の導入による生産力増強があったからである。
K社長も専務も真っ青になってしまった。逆立ちしてもかなわないからである。追従値下げをすれば赤字、やらなければ売上げ減で赤字だという。
進むも退くもできない全くの進退窮まったかの状況だと、社長と専務には思われたのである。『このピンチを知何に乗り切るか』という藁をもつかみたい心境での相談であった。
1hH十品、1l 『まず落着きなさい。そして冷静に事態を見極めることが先だ」と申しあずた。
まず、そのメーカーの生産能力はどれだけかをきいてみた。連続鋳造機の能力をK社で知っていたので、これは簡単に分った。それは従来の二倍で、占有率にして1h十品、1l 『たった一%の占有率増加ではないか。その一%も、あなたの会社だけを内《dAq 一一%である。
狙い打ちするわけではない。これを考えたら、あなたの会社への影響など知れたものだ。全く恐れることはない。困るのは、流通業者はこれをタ値切り。の口実に使うごとだ。これに乗せられてはいけない。相手の感情を損わないように断ればよい』というものだった。
K社長と専務は、ホッと胸をなで下ろした。これで一件落着である。と思いきや、そうではなかった。というのは同業他社が一斉に大幅値下げをしてしまったのである。もっとも、四割もの値下げではなかったが:::。私は驚くやらあきれるやらであった。よくも揃いも揃って状況判断のできない社長ばかり集まったものだ。
四割安で売出す社長も社長なら、それに追随して慌てて値下げする社長も社長である。このような連中が集まっているから、市場に無用の混乱が起るのである。このような混乱は、いったい誰の利益になるのだろうか。口では販売戦といってはいても、タ戦いψ の研究など全くといっていいほどなされてはいないのだ、とう現実の証拠として役立つだけでは、どうにもならないのである。
こちらから価格攻勢をかける
いままであげた例は、すべて先方から価格攻勢を受けた時の対応策であるが、かけられるばかりでなく、こちらからかけることも戦いとして当然のことである。
いままであげた例の知く、簡単に対応策をとられてしまうような不用意な価格攻勢などは、「やらぬが花」 である。こちらが損害をこうむるだけだからである。
やるからには、敵が対応に窮し、有効な反撃ができないようなものでなくてはならない。
これも実例をあげて解説したいのだが、これをすると、私がお手伝をしている多くの会社で行なっている作戦の手の内を相手に知られてしまうおそれが多い。
仕方がないので、作戦のヒントだけにしてご容赦願うより外にない。それは、私の「社長学シリーズ」の中に述べてある。
S生その第一は「増分計算」である。この作戦は、相子にこちらの意図や作戦を見抜かれる公算が低い。「ムチャをやっている」というような印象を与える場合も多い。
増分という考え方は、全部原価しか知らない人にとっては夢にも考えられないことだからである。
それだけにかなり有効な作戦が考えられる。それは、本体に影響のないところで敵を叩くことができるのである。特に、それが敵の主力商品の場合には効果絶大である。といっても、そんな都合のよい戦いがそうそういつもあるわけではないのだ。調子に乗り過ぎないように気をつける必要がある。
第二には、流通業者に対するマージン作戦である。最終価格については多くの会社で考えるが、「安ければ有利である」ということだけで、流通業者のマージンを忘れてしまうケlスが非常に多い。これが大きな盲点になっている。この点については、「販売戦略・市場戦略」篇でふれているので参照していただきたい。乙の作戦も敵は戸惑って、なすところが分らないというケlスが多い。私の得意とする作戦の一つである。
第三には「限定」である。商品を限定する、得意先を限定する、テリトリーを限定する、期間を限定する、というようなととである。
限定するからこそ思いきったことができるのである。それでいて、敵にとっては必ずしも限定では済まないような作戦も可能なのである。それは、こちらの作戦の妙によるのである。
以上の三つを組合わせて、変にのぞみ、機に応じて作戦をたて、これで敵に勝つことは一に社長の手腕にかかっているわけだが、それも状況の分析力もさることながら、何といっても敵状・流通業者・エンドユーザー、そして最も大切なお客様の要求がハッキリと分っていてこそ、効果的な作戦がたてられるのである。
情報こそ勝利への道をひらいてくれるものであり、それは社長自らの外部活動あってこそなのである。
同盟作戦
第1話
久しぶりに私のセミナーに参加されたJ社長は、『いま、大手二社が手を組んで私どもを叩きに来ています』とその状況を話してくれた。
J社には、五年ほど前にお伺いした。まだ年商十億円にも満たなかったが、社長の立派な人柄に加えて強力な商品を持っていた。二年ほどお手伝をし、短期計画だけでなくて長期計画まで持つようになったのである。
この経営計画は、かくされていたJ社長の力量を引き出して、快進撃が開始され、占有率が年々上がっていった。そして、業界三位の地位を手に入れ、なお上位二社にジリジリと肉迫していったのである。
J社の進撃に脅威を感じたのは上位二社である。そこで、この二社は手を結んでJ社を叩きにかかったのである。今にしてJ社を叩いておかなければ、悔いを将来に残すことになるというところである。
その作戦というのは、J社のナンバー1のドル箱商品と形も色も包装も全く同じ商品を二割安で売出したのである。
それから数カ月ほどたった現在、矢面に立たされているドル箱商品の売上げは横這い状態だが、まだ下がるまでにはなっていないという。対抗値下げはしていないのにである。
J社長は、苦しいけれど品質も値段も下げずに頑張るという。まことに立派な態度である。
実は、J社はこれと同様の経験を既にしているのだ。私がJ社にお伺いした時期の二年ほど前に、隣県の数社が大ダンピングをしてきた。この時はJ社だけを狙つたわけではなかったが、当時のJ社は、まだ力がなかった。
つまり限界企業だったために大きな打撃をうけて売上げ激減し、赤字転落してしまったのである。市場の断層ー急性の異常事態のことーは常に限界企業に大きな影響を及ぼすのである。
J社は、この大ピンチの中で品質を落とさず値段も崩さなかった。非常識な安売りがいつまでも続く筈がない、という状況判断だったからである。
一年ほどで、ダンピングを行なっていた会社はつぶれたり、中止したりで、この戦争は終ってしまった。業界が常態に戻った時に、J社の姿勢と品質が見直されて売上げが伸び、黒字転換をしたのである。
J社長が大手二社の攻撃にさらされながらも動じなかったのは、この経験があったからであろう。
果たせるかな、一年足らずで敵の一社は子を引いてしまった。品質が悪いために僅かしか売れなかったからである。それからしばらくして残った一社も効果のないことを思い知らされて、兵を引いてしまったのである。
第2話
U社にお伺いしていた頃のことである。
ある時の訪問時に、会長が『一大事出来」という。それはU社の躍進に歯止めをかけようと、『競合のY社がU社の主力商品と同様のものを二割安で発売する』ということだった。会長はどうしてよいか分らずに、ただオロオロするばかりである。
既に発売しているのかを聞いてみると、まだだということである。私は会長に強く申しあげた。『何をオロオロしている、幽霊はまだ出ていないのだ』と。経営者というのは「まだ出ないバケモノ」を怖がるという習性を持っている人がかなりいる。
いわゆる取越苦労というやつだ。それは、備えがないからである。
私にいわれてやや落着きを取戻したが、やはり不安そうだつた。そのくせ『社長のやることは、危なっかしくて見ていられない」というようなことをいう。
おかしなものだ。その社長から『いよいよ相手が乗りだしてきた』といって相談を持ちかけられたのは、それから間もなくだった。
相手は一社とばかり思っていたら、Y社がほぼ同規模の一社と共同戦線を結成して攻めてきたのである。
U社長は冷静だった。敵は二割安だが、品物を子に入れて調べてみると、品質はU社製品より劣るということが分ったという。
そして、『なるべくなら値下げせずに戦いたい』というのである。主導的占有率をもっている商品だからこそである。
私はU社長の考えに賛成した。『値下げはいつでもできる。だから、値下げせずに頑張るのだ。高価格の不利な面はサービスと誠意で補うのだ』と。
半年ほどで、Y社と共同戦線を張った会社は下りてしまった。後に残されたY社も一年余りで引っ込んでしまった。U社の勝利だ。戦いがおさまってから、U社長は流通業者から「よく値下げせずに頑張ってくれた』と感謝されたという。
流通業者にしたところで、メーカーの値崩しは、結局は自らに跳ね返ってくるからである。
ちょっと考えると、この流通業者の考えはおかしいようだが、そうではないのだ。冷静に考えてみれば、メーカー価格の崩れは流通業者にも不利をもたらす。そして値崩れを起した商品は、たとえムチャをやるメーカーが手を引いても価格はなかなか元に戻らないのである。
ムチャなメーカーの値下げは、流通業者も歓迎しないのだということを知ってもらいたいのである。
同盟作戦というものは、第一話・第二話に共通して見られるように、同盟する側に大きな弱点が必ずあるとみてよい。
それは「同床異夢」ということである。もともと競合関係にある会社が同盟作戦をとるところにムリがある。
敵を叩くためとはいえ、意に沿わない相手と手を組むのでは、お互いに敵よりも子を組んだ相手の出かたのほうが気にかかるかも知れない。
しかもその作戦たるや、成功してもそれは自らの収益減となり、失敗したら何をやったのか分らない。
なるべく自社の損害を少なくして相手にオンブしようとするにきまっている。
そのような身の入らない同盟作戦など恐れる必要はないのだ。一時的な売上げ減は我慢していれば、相手の方から崩れてくるのだ。冷静に相手を観察することこそ第一の心構えなのである。
「戦い」 のいろいろ
デマ作戦
D社長から緊急の相談だということで電話が入った。それは『D社が不渡りを出したというデマが流されているが、どうしたらよいか』ということだった。
D社は、支払手形は一枚も振出していないのだ。D社のバランスシートにも資産表にも支払手形という勘定科目がないのである。それを調べもしないでデマを飛ばすのでは不用意もいいところだ。D社長が比較的平静でいられたのもこのためであろう。
私の返答は『放っておけばよいでしょう。下手に否定などしなくとも、そのうちに消えてしまいますよ。もし、間合わせの電話でもあったら、その時に説明すればよい。黙殺が一番ですよ』というのであった。七十五日たたないうちに、このウワサは消えてしまった。
取るに足らない小人の仕業とはいえ、卑劣なやり方である。もっと男らしい戦いができないのかと思うのである。
T社へお伺いした時にも、「二カ月ほど前に、うちが倒産したというデT社長はマが飛びましたが、私は相手にしませんでした』と平然としていた。事実が証明するのだから、騒ぎ立てることはないというのである。
社長たるものが、こんなク子供だまし。のようなデマに慌てたり騒いだりすることはない。しかし、デマを飛ばすような社長など社長の風土におけないというべきである。
そんなことをいくら苦しまぎれとはいえ、やるべきことではない。もっと正々堂堂と戦うべきである。
特売撹乱作戦
E社長いわく、「先生、この間、面白いことをやりました。敵の特売企画をキヤツチしたので、敵の特売をやる地域に私共の得意先の店があったので、敵の特売日の十日ほど前に先手を打って特売をやり、敵に一泡吹かせました。』と。
この作戦は、やり方によってはかなり効果的である。敵の出鼻を挫き、敵をアワテさせる。敵の催事の情報をキャッチする情報収集力は、戦いを有利に進めるための大切な要件であるのはいうまでもないが、そのためにはそれが得られるだけの占有率の確保と得意先との親密度が必要である。
撹乱作戦もさることながら、それができるだけの情報収集力を持っているということは更に重要である。戦いに勝利をおさめるための必須条件というよりは、むしろ前提条件と考えるべきではないか。私も会社へお伺いしてお手伝いをする時にも、社長から必要な情報を提供してもらわない限り、本当のところ、どうしょうもないのである。
私の場合には、こちらから質問し、社長がそれを持っていない場合には「すぐに調べてくれ』とお願いするからよいが、社長たるものは、「どんな情報が必要か」だけではなく「どんな情報でもよいからほしい」という態度こそ重要である。
しかし、そのような社長は極めて少ない。その証拠には、営業日報のところで述べたように、営業日報にセールスマンの行動を書かせるというようなムダをしながら、敵に関する情報を報告させようとはしないという、何とも勿体ないことをしているのである。
イミテーション作戦
これはもう例をあげる必要はない「よくもこんなものまで:::」と思われるとこ、、、、、、ろまで、恥も外聞もあらばこそクまねまたまねψ の氾濫である。a斗企そのことへの批判など、事改めていう必要もない。そんなことよりも、これ程まねとまがいものが堂々とまかり通るのは、先進国の中では日本だけであろう。日本にはまだまだ乙のような後進性が残っていることは情けない気がするのである。もういい加減にして卒業してもらいたいものである。
大人になっ、た日本では、自らの独創でなければならず「人まねはしない」という、ソニ!の創始者である井深大氏、本田技研創始者である本田宗一郎氏その他の立派な社長に学んでもらいたいものである。
独創というのは、何もメーカーだけではない。流通業者にも、サービス業者にもあるのだ。
宅急便を創始したヤマト運輸、その宅急便にギフト商品を乗せたフットワーク、自社でパッケージを行なう関西スーパー、「桜宿膳」を開発した京都嵐山の料亭錦など例はいくらでもある。一方、まぎらわしいブランド名、そっくりの包装、瓜つのチラシなど、社長の無定見というか便乗精神というか、話にならないことが多すぎる。このようなイージーゴーイングでは、いつまでたっても敵に勝つことなどできるわけがないのだ。
乗っとり
A社は、大企業B社の専属下請けで、社員数は三百名ほどだった。百%B社のオンリーさんだった。私がお伺いした時には、相次ぐ値下げの定期便のために赤字転落していた。
A社長は技術者肌で、自らの会社の加工技術には詳しく、しかも研究熱心で次々と新加工法を開発していたが、それでもあまりにも値下げ要求が厳しく、それを補いきれなかったのである。
また、非常なワンマンコントロールのために、管理者層の社長への信頼感は薄く、仕事にも熱が入っていなかった。管理職にいわせると「うちは大将と兵隊しかいない』という有様だった。
社長の下に常務が二人いるのだが、一人は技術が分らず、一人はおとなしすぎて、ともに影は薄かった。そのうちの一人は、管理職の前でも私にも、公然と社長批判を行なっていた。私はA社長に「何故その常務を誠にしないのか」と何回も申し上げたけれどもA社長は何故か見て見ぬふりをしていた。
A-
値下げ要求はますます厳しくなり、それは常軌を逸するものだった。ここで私に「もしや」という疑問が少しずつ強くなっていった。もしやはいうまでもなく「乗っとり」である。といっても、私は二カ月か三カ月に一回の訪問では、ハッキリしたことをつかむことはできなかった。
そんなク生臭い。話を、確証もないのに、やたらと持ちだすわけにはいかなかった私は、このピンチを切抜ける方策として、ω社長自ら親会社に出向いて窮状を訴え、値下げ圧力の緩和どころか逆に値上げをお願いするo
qL
qd
オンリーさん脱却のために新規得意先を開拓する。
自社商品を持つ||これは、A社独自の商品でなくともよい。いや、そのほうが手っ取り早い。ということであった。
しかし、A社長は自ら値上げ交渉にはいかなかった。そして、それを常務にもやらせずに、営業課長にやらせた。常務を全く信頼していないことがこれでハッキリした。そんな乙とよりも、社長が我社の危急存亡の時に自ら乗りだして値上げ交渉をしないのでは、どうにもならない。A社長にいくら強硬に勧告しても、それは営業課長の役割だというのだ。私は、「課長に交渉させるのでは、相手は課長レベルの問題ととる。課長の能力の問題ではない。それは経営レベルの問題だから社長が自ら交渉すべきだ』と強硬に勧告するのだが、社長は絶対にこれをしなかった。新規得意先開拓も営業課長の役割で、社長は何もしなかった。
自社商品は、社長自ら取組んだが、それは試作や製造のことだけだった。いくつかの物にならない企画はいたし方ないが、やっと売れる商品を開発したのに、それの販売はこれまた営業課長にやらせるだけで、売上げは微々たるもので、私の「営業員を増員し、それを社長自ら率いて販売活動をやれ、それが社長の仕事だ』とう勧告など全くの馬耳東風である。
こんな阿呆では、私もやりょうがないので辞退したいのだが、のつ引きならない人からの依頼を受けてのことなので、それも簡単にはできない。
そうこうしているうちに、資金繰はますます厳しくなり、ついにA社長は資金繰44についての援助をB社に申し出たのである。
B社は資金援助を承知した。それをク株券買取り。という形をとったのである。それは十%ほどではあったが、その代償として専務存二人送りこんできた。
その専務が、着任後しばらくたってから、『こんなヒドイ状況とは知らなかった。これはB社が悪い。私が値上げ交渉をする』といってB社と交渉してチョッピリ値わな上げを獲得してきた。これが畏だったのである。
A社長は『こんな話の分る人がB社にいるとは思わなかった』とスッカリ専務を信用し、何もかも話をするようになった。その中にはB社批判があった。そして、それは全部B社に流れたのはいうまでもない。役員会の様子は、一一1三日後にはB社が知っていた。専務が流すのでなくて誰がいるというのだ。
リぬ斗品、1l A社に頼んで、B社がA社と同じものを作らせているC社の価格を調べてもらったら、A社よりもかなり高いことが分った。以上の状況を総合したら、B社が何をたくらんでいるのかは明白である。
私はA社長にB社のたくらみを警告したのだが、A社長は取合わない。あるいはnu円LA生そうしたふりをしていたのかも知れないが:::。また、知っていたとしても、もうどうにもならないのである。
いくら忠告しても取合わないA社長に、私はお手伝を辞退するより外はなかった。もう私の出番は終ったと判断したからである。それから一年もたたないで、A社は不渡りを出したということが私の耳に入った。その事情というのは次のようだつた。これは私がある人からきいたのである。
私が辞退後も、資金繰は大ピンチを続け、A社長はとっておきの個人資産を全部銀行の担保に入れて金を借りていた。しかし、それでもどうにもならなかった。銀行はもうA社に見切りをつけて融資をしなくなった。B社がそれとなく銀行にA社の内情をもらしたらしいということである。
そしてA社は倒産した。再建を引受けたのはB社であった。B社はA社の債務の大部分を切捨てという再建の定石を債権者に承知させたのはいうまでもない。そして、九割減資後十倍増資を行なってA社長の持株比率を限界的に低下させ、あとは簡単にA社長を放り出してしまったのである。
これには後日謂もあるが、これは本節に関係ないので省くこととするが、この乗っとりの手口を分析してみると、
狙った会社に高値発注の好餌を与えてオンリーさんとする(私がお伺いした時はれが終った時点である強引な値下げを強要し、苦境に追いこむ(どんなにいじめられでも反撃ができない。一社依存度の大きな会社の危険がここにある。販売力がなく、加工技術しかない会社は狙われ易い) 。
mw 資金繰をピンチに追いこんでおき、資金援助を行ない、持ち、役員を送りこみ内情をスッカリ調べあげる
その代償として株を
(大手に株を持たれたらそれでもう終りである。五%の持株でも、これは五十一%と実質的には同じである) 。
(8) (7) (6) (5) (4)
ける社長の個人資産を全部担保として吐き出させてしまう。場合によっては銀行にそれとなく情報を流して、銀行が手を引くように仕向値下げ要求をさらに厳しくし、倒産に追いやる。倒産後は再建を引受け、減資←増資で社長の持株比率を大幅に引下げる。法律の手続きを踏んで社長を放りだす。というパターンである。
何とも簡単な手口だが、職人社長には恐ろしく有効であり、殆ど何の抵抗もできないのである。狙われたらそれで終りである。
乗っとりをする会社は、ク悪どい。限りだが、私にいわせたら、乗っとられる社というのが私の見解である。乗っとられるには、長のほうがなお悪い、それだけの弱点とスキがあるからだ。
その弱点とスキとは何であるか、どうしてこれをなくすかということは、私の長学シリーズ」で随所に強調している。それは乗っとり防止だけでなく、倒産の危険をも同時に回避するものである。事業の経営とは、文字通り喰うか喰われるかの死闘なのだ。そのことを喰い殺されるす前になって知っても、打つ手はないのだ。まだ来ない危険を事前に回避してこそ社長なのである。
乗っとりというのは、何も右のような外部からのものだけではない。内部からのものがある。それが。お家騒動。というような争いならまだ話が分るが、社長が知らないうちに乗っとられるという信じられないことさえ起るのである。T社は、ある民生機器の付属品のメーカーで、業界陥1の地位を得ていた時に、私がお伺いしてお手伝をした。
一通りの交通整理を行なって、お手伝は一段落し、『何かあった時には声をかけて下さい」といって辞し去ったのである。そのT社長が十年ぶりに相談したいことがあるといって訪ねてきた。
用件というのは、『不渡りを出したのでどうしたらいいか』というのである。それは、数日前に突然税務署から、「会社更生法適用の申請書を受理した」としてタ財産保全命令ψ がきたというのである。全くの寝耳に水だったのである。冗談じゃない。会社更生法申請の書類には、代表者印がいるのだ。社長は代表者印を持っていなかったのだ。何たることだ。
「社長、あなたは代表者印を持っていなかったですね。私が十年前にお伺いした時に、社長は代表者印を持っていなかったので、経理担当者を呼んで、私の目の前で社長に返させたではありませんか。そして、どんな事があっても、この印を放してはいけませんと、よくよくその重大性を申し上げたではありませんか』と叱ってA斗aaAT はみたものの、あとの祭りである。私が辞去してから、再びハンコは経理担当者に返されていたのである。
「?」れには必ず陰謀がある」というのが私の第六感だった。弁護士がグルであることは聞かなくとも分る。グルでなければ、社長に知らせないでこんな重要な書類をつくる筈がない。
社長に問い質してみても要領を得ない。分ったことは、「経営計画書」は私の辞去後は作らず、数字は全くつかんでいなかった。T社長の見た決算書は、社長用に粉飾したものであろう。O億円の赤字だというが、それが突然生じたわけではないのは聞くまでもない。しかもそのうちの半分は経理のク使い込みψ だった。
驚いたT社長が弁護士に相談すると、『不渡りを出し財産保全命令が出ているから、社長は一切の権限を停止されている。会社に出ても何もできない」といわれたという。これで弁護士がグルであることは明白である。財産保全命令が出ょうと、財産管理人がきまるまでは社長が責任者の筈である。念のために知合いの弁護士に聞いてみたら、その通りだという。
私は腹が立って仕方がなかった。私の勧告を最小限守っていてくれたら、こんなそれはそれとして、会社がつぶれたら、あとは裁判所と債権者と銀行の出番であっ
ことは起らなかったからである。て、コンサルタントの出る幕ではない。死人を医者にかつぎ込むのと同じだ。といっても、かつてお手伝した会社であり、社長から相談を受けているのだから、ムゲに断るわけにもいかない。あとは、この陰謀と戦うことである。何も分らない社長の尻を叩いて情報を集めてもらった。
債権者会議の議長は、最大の債権者で下請けの協力会の会長であるE社社長である。そして、委員会の委員長である。
会議に提出されたT社の財産目録を見ると、何と会社の資産は負債の八割もある。こんなパカなことがあるわけはないのだが、それは棚卸資産がかなり多額なのである。ここにカラクリを感ずるとともに、私には陰謀の疑惑を強く感じとれるのである倒産会社の棚卸資産というものは、実際の価値はタスクラップ値。なのである。
絶対に帳簿価格ではないのである。ここにあげた金額は、帳簿価格に先ずは間違いない。疑ってかかれば、旧型のデッドストックや旧型部品なども減価はされていないかも知れないのだ。nhU
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さらに驚くべき情報があった。債権者会議議長は、ク白紙委任状。を債権者に求めているというのである。こんなバカげたことはない。
これだけ揃えば、もう陰謀の主謀者も、そのシナリオも明らかに読みとれるのである。
それは誰であるかは、読者にはもうお分りのことと思う。E社長である。
その主謀者が乗っとりを策したのは、それだけの魅力がT社にはあるのだ。その高収益性である。それが赤字転落したのは、ボンクラ社長なるが故だ。多額の使い込みがその一つであり、もう一つは、何等かの工作をE社長がしたためである。
その工作が何であるかは私には想像がつくが、購買の数字を見るわけにはいかないので明言できない。しかし、九分通り間違っていないであろう) 。
そして、経理担当者に乗っとり後の好処遇を約束し、弁護士には多額の裏報酬を出すことで一昧に引入れたのであろう。
こうなれば、もう後は簡単である。会社を赤字に追込み、機を見て不渡りを出す。最大の債権者であり協力会の会長であれば、自然の成行きとして債権者会議の議長になれる。
債権者会議では、簿価で棚卸資産を計上した財産目録で債権者を安心させて白紙委任状をとりつけてしまう。こうなれば、あとは煮て喰おうと焼いて喰おうと思いのままである。そしてそのあと、どう進めるかも私には想像がつくのだ。以上が私の想像したシナリオである。
こんな乗っとりを許すわけにはいかない。これはT社長への応援ではなく、不正への挑戦である。敵の手のうちが分っているのだから、これは簡単だった。そして相手は乗っとりをあきらめたのである。
この事件での悪者は、明らかにE社長ではなくてT社長である。私はT社長に腹が立つてならないのである。社長としての責任感があれば、こんなことは起らないからだ。代表者印を自分で持ち、会社の数字を、それも私が社長に勧めた経営計画書を持ち、チェックをしていたら絶対といっていいほどこんなことは起らないのである。会社をつぶすという社会的罪悪を起さなくとも済んだのである。
私がぶつかった内部乗っとりのケlスは、右の外に専務が主謀者だったことが一つ、実弟が一つある。そして、右の三つの例の総べては、社長が代表者印を自分で持たずにそれらの人にあずけていたのである。
代表者印は必ず社長が持たなくてはいけないという私の主張の裏には、こうした事件があるのだ。
右以外の乗っとりのケlスに、私は三つぶつかっている。それらは、社長の責任だけとはいいきれない外部圧力であった。乗っとられた社長には、お気の毒というしかないような気がしているのである。しかし、遠因はやはり社長にあるのだといえるのである。
また、旨い話を持ちかけられたら要注意である。共同出資で新会社をつくり、「長く共に手をつないでやろう」というような場合である。世の中に旨すぎる話などあるわけがないのである。
旨い話に乗り易いのは、人のよすぎるだけではない。迷っている時、あせっている時は危険である。苦しくても自分だけでやりとげようという心構えを持ってもらいたいのである。
市場戦争に勝ちぬけ
事業経営のあるところ、そこには常に市場戦争がある。その戦争に敗れれば会社はどうなるか分らないのである。
それにもかかわらず、市場戦争に関する研究は殆どなされていないのは、どういうわけなのだろう。
だから、いったん戦争を仕掛けられると、どうしていいか分らず、いたずらに右往左往するしかない。殴られればただ頭をかかえてうずくまり、敵のなすがままといったところである。これで敵に勝てる筈がない。全くの戦争音痴である。この戦争音痴から脱出するにはどうしたらいいのだろうか。
まず第一には、ク穴熊社長ψ からの訣別である。ジッと穴の中にうずくまり、外部のことは穴の出入口から見えるところだけというのではどうにもならないのであずQ。
それと同時に、総力をあげての情報活動によって「敵を知る」ことから始めなけ戦いに臨んでは、それが仕掛けられた場合でも、また仕掛ける場合でも、まずは
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A生ればならないのは、「孫子」をまつまでもないのだ。
冷静に敵を観察することである。市場戦というものは、それがどんな激戦であろうと、三カ月や四カ月で勝敗がつくことはないのだ。あわてふためくことはない。仕掛けられた場合には、敵の意図は何なのか、本気なのか、陽動なのか、偵察なのか、それとも苦しまぎれのモガキなのかというようなことを見抜くことである。こちらから仕掛ける場合には、十分な準備が必要である。
戦いというものは、攻守何れの場合であろうとも、「敵の弱点を衝く」のだ。これこそ戦勝への道を開くものである。
どんな優れた会社であろうと、大きな会社であろうと、弱点は必ずある。敵の攻撃が激しければ激しいほど、その弱点も大きいのである。その弱点の主なものをあげてみると、
8 市場戦争考
(1)
社長が外に出ない
これは、最も大きな弱点の一つである。社長が外に出ないのでは、敵どころか、我社の弱点さえも社長は認識していないと思って間違いはないのだ。
つd
aせ
(6) (5) (4) (3) (2)
占有率が低い
業績が悪い
商品構成に偏りがある
主力商品の収益性が低い
主力商品の収益性が高い
これは強昧であると同時に大きな弱点である。これを崩されると致命的な打撃を受けるからである。
(7)
商品の品質が悪い
8)
得意先構成に偏りがある。また、一社依存度が異常に高い
得意先に限界企業が多い
納期・配送・フォロー-クレーム処理などのサービスが悪い
営業部門が弱体
セールスマンにベテランが多い
ベテランは勝手な行動が多く、個人プレlは強いが、作戦に従った行動を
占CAごっ。
セールスマンの定期訪問が行なわれていない
過剰投資
過剰在庫
内作中心主義
などなど、まだいろいろある。さらに、社長の年齢が七十歳以上であれば、反撃力は弱い。社長が長男、だとク甚六。かもしれないし、末っ子だと意気地なしということも考えられる。姉が多いと自主性が弱くないか、などのことを注意したい。役員の中に社長の兄弟がいれば、意思不統一ということも考えられるのだ。
にとっとである右のような様々な点をよく調べ、さて「この弱点をどう衝くか」ということにな「自分が先方の会社の社長であったなら、どんな点を衝かれたら相手の立場で考えることは、いついかなる場合にも極めて有効な思考法なのである。むろん、本書にあげたランチェスタl戦略に数々の示唆を求めたり、応用問題として考えなければならないことはいうまでも
敵の弱点を衝けば、敵は意外なほど脆いものである。というのは、敵とても大し反対に、自分の会社が攻められたときには敵の幼稚な作戦に慌てふためくことのた準備がある、わけではなし、作戦とても幼稚で単純な場合が殆どだからである。ないように、社長自身の不断の努力乙そ肝要なのである。そうすれば、敵の攻撃恐るるに足らずである。
また、別の意味で恐ろしいのは、むしろク乗っとり。である。
ある日突然に、文字通り青天の露震の知くそれは襲ってくる。知らない聞にワナにかかっている。気がついた時には自分の会社は他人のものになっていた、〉」い、っような事態が起こるかも知れないのだ。
それは、油断の一語に尽きる。そんなことのないように、不断の心掛けこそ大切である。そして、未然にこれを防がなければならない。これごそ企業の最高責任者である社長の大責任なのである。
まめと
戦いというものは、単に闘志だけ燃やしてメチャクチャに動き廻ったところで、これは戦果に結びつかない。戦いには戦いの法則がある。
「ランチ工市場戦における法則は、その最も優れたものの一つとしてスタlの法則」がある。
ランチェスタlの法則は、局地戦における数量法則であり、第一法則ーー一騎打の法則、第二法則ll集中効果の法則の二つがある。
この法則は、限られた我社の資源を知何に有効に使用して敵に勝っかを教えてくれるものであり、強者が弱者を傷めつけるものであると同時に、弱者が強者に挑戦してこれに勝つ道を教えてくれるものでもある。
戦いの成否を大きく左右するものは情報である。これを知何に収集するかを、社長は十分に考え、実行しなければならない。
市場戦略には、市場戦略構想書を社長自らの意思と責任において樹立し、先頭に立って推進しなければならない。
とはいえ、戦いには単なる物量法則だけでなく、様々な質的要因や数数の謀略がある。それらの諸要因の総合の上に立った作戦指導が成否を決めるものである。
あとがき
故田岡信夫氏に捧ぐ
私が本書を書くことができたのは、ひとえに故田岡信夫氏のお陰である。
同氏は昭和五十九年十一月二十三日永眠されたが、田岡氏、が自らの一生をかけて研究された「ランチェスター戦略」は、我が国の企業における市場戦略のバイブルともいうべきもので、その功績は永く特筆大書されるべきものと私は確信するものである。
私は氏と一度の面識もない。氏の著書を通じてのみの師弟関係である。私がコンサルタントになった当時は、ランチェスターの法則については全くの無知であった。その私にランチェスターの法則を教えて下さったのが、氏のランチェスタl戦略に関する一連のご著書である。
私は氏の著書をむさぼり読み、自らの経験と照らし合わせながら研究した。私の蒙は次々に啓かれてゆき、実戦への応用ができるようになったのである。これもすべて氏あってのことである。
本書に、読者諸兄のご参考になることがあるとするならば、お陰である。
それはひとえに氏のここに巻末ながら氏に感謝の意を表し、あわせてご冥福をお祈りする次第である。
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