顧客サービスと収益は紙の表裏
第一話
B社は、パンと洋菓子のメーカーである。販売は直営店とフランチャイズ方式によるチェーン店であった。
B社長の悩みは、売上げがいま一つ不足していることであった。B社長は、ご多分にもれず「穴熊社長」だった。私のすすめでチェーン店巡りをした社長は、思ってもみなかった数々のことにぶつかったのである。
まず第一には、どの店でも口を揃えて言われたことは「配送時刻を一時間早くしてもらいたい。できなければ三十分でもいい」ということだった。
セールスマンに何十回となく言っても、どうしても聞いてもらえないのだ、という。
社長にとっては全くの「初耳」だったのである。創立以来二十年にもなろうというのに、その間大勢のセールスマンが、何百回となく言われたことなのに、誰一人としてこれを社長に報告するものはなかったのである。
これがセールスマンの生態の一つなのである。セールスマンの頭の中には、いろいろなフィルターがあり、このフィルターに引掛った情報は社長に報告されないのである。
この場合のフィルターは「お客さんはそうしてもらいたいだろうが、我社には我社の都合がある。夜勤は何時までで、昼勤は早朝何時からだ。
製品の出来上がるのが何時で、それから配送車に積込んで出発は何時になる。だから、そんなことをいってもムリだ一というのである。
第二には「配送用の箱がきたない」といわれた。空箱を店先に積んでおくより外ないのに、これが汚なくては不衛生だとお客様に思われるからだ。
これもセールスマンに何十回となく言っているが、いつまでたっても直らないということであった。これも社長には初耳であった。
例のセールスマンのフィルターは「空箱を回収して帰るのは夕方になる。時間がなくて洗っているひまはない」というのである。
第二には、一つの箱に何種類もの菓子を入れるので「配送中にくっつき合って、別の菓子の色がついて商品価値を落す。何とかしてくれ」ということであった。これも勿論初耳であった。
まだあった。土曜日や日曜日にはよく売れるので、「追加注文を出しても、全部断わられる」というのであった。社長はこんなことがあるとは夢にも思っていなかった。
これは、追加注文を製造部門にもっていっても「一升マスに一升五合は入らない」と断わられるからであった。B社長はビックリの連続であった。
これが、私が繰返し何百回となく言い続けている「社長はお客様のところへ行け」という理由である。
お客様のところでは、社長が思ってもみなかったことが起っており、これが我社の信用を大きく落し、業績の足を引張っているものなのだ。
B社長は直ちに手を打った。夜勤を充実して昼勤の負担を減らして配送時刻を早め、空箱は夜勤のパートを雇って洗浄した。
種類の違う菓子を詰め合せる時は仕切紙を用いた。土曜、日曜の追加注文は、予め月曜から金曜まで作りだめして冷蔵庫に入れておくことによって応じられるようにした。効果はテキメン、売上げは力強い足取りで上昇しだしたのである。
第二話
L社は、ふとんのメーカーである。数年来業績が低迷していた。調べてみると、主要得意先のスーパー社への売上げが、この二年で半減していたのである。
三年前に、競合他社に割込まれ、その会社に喰われていたのである。事情を調べてみると、それは配送サービスの違いであった。
L社では、配送効率を重視していたため、I社からの注文では満車にならないと、積合わせや次回の注文待ちで、配送納期に遅れることが、しばしばであつた。
競合会社では、たとえふとん一枚でも直ちに納入した。どちらの会社もI社の配送センターまで百キロなのである。
配送サービスの悪さが、売上げを半分とられる結果となったのである。このままいけば、あと二〜三年で全部とられてしまいかねないのである。
私は、配送効率を一切無視し、配送納期を厳守しなければならないことを説いた。幸いにもL社長は、自らの間違った態度を反省し、配送納期厳守の方針を打ちだした。
半年後のI社の年末大売出しに、納期を一日も遅らせずに完納した。I社では喜び「L社の態度が変ったから安心して注文できるようになった」ということになり、春物の注文がゴソッと来た。途端に工場は大忙しである。その春物も、納期をたがえず完納した。夏物の注文が増大した。そしてその年の秋に、大手のスーパIN社から、突然「L社のふとんを買いたい」という話が舞いこんだ。N社に対しては営業活動を行なってはいないのにである。
N社のバイヤーがI社のバイヤーと知り合いで、L社のことを聞き、「そんなサービスのよい会社なら」ということになったのである。
売上げは大幅に増え、業績も目に見えて向上したのである。配送効率など、よくしようとしなくとも、自然によくなってしまったのである。
第三話
G社は、プロパン販売業で、売上げは伸び悩みであった。
プロパンだけでは足りないので、高額商品ということでガス機器類に力を入れたが、売行きは芳しくなかった。
必死の新規得意先の開拓も、少し動けばすぐに同業他社から横槍が入るという始末で、思うにまかせなかったのである。
私のセミナーに参加したG社長は、私の話を聞いて、顧客サービスを忘れていたことを反省し、「顧客サービス第一主義」に方針を切換えたのである。
ガス機器の販売は受身の受注だけとして、積極的売込みは中止した。新規得意先の開拓もやめた。ただ一途に現在のお客様に対してのガス器具や機器の修理と、軒残らずの点検サービスを行なったのである。
その結果は、徐々にではあるが確実にガス器具や機器の売上げが増大していった。その上、新規得意先が増えだしたのである。
新規得意先が増えるのは、お得意先から電話がかかり「知人宅でガス器具の故障で困っている。業者に頼んでもなかなか来てくれない。お宅の得意先ではないが、修理をしてやってはくれまいか」という依頼が増えてきたからである。
早速お伺いして修理をすると、感謝されるだけでなく「こんなにサービスのよい会社なら安心だ。プロパンはお宅から買う」ということになるのだった。
企業の任務は「顧客サービス」であり、これ以外の何ものでもない。それにもかかわらず、企業本来の任務を忘れてお客様を無視し、「我社の都合」ばかりを考えている会社が多すぎる。
戦後、民主主義のはき違いによる「エゴ」と自己主張の風潮に加えて、高度成長による人手不足のための社員の機嫌とり、内部管理中心のマネジメントの思想などが、顧客無視に拍車をかけたのであろうか。世はまさに、恐ろしいほどの「サービス不在時代」に入ってしまったのである。
そのために、正しい姿勢―つまり正しいサービスをする会社は、お客様から圧倒的な支持が得られる。
そのために、サービスのよい会社は業績がよいし、サービスをよくすれば収益は増大するのである。サービスのよい会社は、ある意味では過当競争の圏外に立つことができるのである。
T社などは、 一割から二割くらい他社よりも高く売りながら、他社の追随を許していない。流通業者は「高いけれど、何といってもサービス抜群だから買う」というのである。
「我社の売上げが思うように上がらないのは、サービスが悪いのではないか」という疑問を、社長は持ち続けなければならないのである。
そして、我社のサービスはどこが悪いのか、どうしなければならないのかを知るためには、社長がお客様のところへ行って教えてもらえばいいのだ。そして、お客様の要求するサービスを行なうことによって、会社は繁栄するのである。
顧客サービスというのは、人的サービスだけを意味しているのではない。その最も基本的なものは「お客様の要求している商品又は商品群を揃えている」ということである。
こうした考え方をする会社はけして多くはない。多くの会社では、自分だけの考え― 「天動説」の命ずるままの商品に力を入れて、お客様は忘れられているのである。
婦人服問屋のM社では、あまり力を入れていなかった「ミセスもの」に対して、お客様は強い要求を持っていたことを、社長の顧客訪問で思い知らされたのである。
A社の販売不振は、高度成長時代の単品販売にあった。お客様の要求は「物件購入」に変っていた。土産物問屋のK社では、甘味品に力を入れていたのに、気がついてみると塩味が大きく伸びていたのである。
お客様の要求を知らずにいて、売上げが上がるわけがないのに、この何とも当り前なことが、業績不振の会社には分っていないのである。
だからこそ、私は、社長自らお客様のところへ行って教えてもらうことが大切だと、声をからして叫び続けているのである。
営業部門に任せていて(実は「任せる」という怠慢)はダメなのである。
営業部門では、現在ある我社の商品を懸命に売ってはくれるが「お客様の要求に合った商品構成はどんなものだろうか」というようなことを考えてはくれないのである。それは、社長の役割だからである。
市場戦略をもて
たくさんの会社にお伺いして、いつも感ずることは、販売体制の弱体である。販売なくて増収も増益もあり得ないのに、この点の社長の認識不足がそうさせるのである。
年商四十億円の雑貨メーカIS社で、セールスマンが十名しかいない、という例さえあった。
私は、年商一億円に一人のセールスマンが必要だと説いたが、社長としては全く思ってもみなかった勧告だった。(年商一億円に一人のセールスマンというのは、 一般的な基準ではなく、この会社でとりあえず必要な人員という意味である)
S社長は、それでも私の勧告を入れてセールスマンを増員していった。二年後に四十名のセールスマンを確保した時には、年商は七十億円に達していたのである。
今度はセールスマンを七十名にしたいのだが、生産体制が整わない、ということになってしまった。
セールスマンは何人いたらいいかということは、いろいろな状況――特に市場によってさまざまであるが、ごく大まかな基準としては、メーカーの場合に、年商五千万円〜一億円に一人、というところであろうか。流通業の場合には、この二〜三倍というところであろう。
とはいえ、細分化した戦略地域では、必要な場合には年商五百万円でも一人専属投入するということがあることを忘れてはならない。
この市場戦略がまた社長族にはよく分らない。競争社会には、競争原理がある。その代表的なものが「ランチェスターの法則」である。
社長たるものは、このランチェスターの法則をよく知り、この法則に従い、有効に利用してこそ、市場における成果を期待できるのである。そして市場戦略の樹立は社長の役割である。
ランチェスターの法則を知っていれば、セールスマンの活動は、セールスマンの自由意思にもとづいて行なわれるのではなくて、 一貫した戦略にもとづく「用兵」であることが理解できる。
そして、社長の「采配」によって状況の変化に対応し、戦を勝利に結びつけるのである。
ランチェスターの法則とその戦略については、「販売戦略・市場戦略篇」に述べているので参照していただきたい。
最近は、かなりこの法則が理解されては来たが、これが実戦への展開となると、まだまだ理解が浅い会社が大部分である。
その理解をはばむものが「天動説」である。我社を中心にして物を考え、お客様の立場を忘れてしまうからである。
ランチェスターの法則といえども、けしてお客様の要求に優先しないのである。お客様の要求を、よりよく満たすためにランチェスターの法則を使うのである。
企業というものは、顧客サービス以外には何もないのである。 一にお客様、二にお客様、三にお客様、十にお客様、百にお客様……なのである。お客様に正しいサービスを行ない、正しい報酬を受けるのである。
もしも、正しい報酬を受けないならば、それは、正しいサービスとは言えなくなってゆくのである。
というのは「こんなに安いのだから、少しくらい品質が落ちても……」「サービス品だから、配送が多少遅れても……」ということになってしまい、正しいサービス精神が損なわれる危険が大きいのである。
正しいサービス精神が失われれば、やがてはお客様から見捨てられるのである。
経営計画をもて
私にも、実務の経験が十五年ほどある。その経験の中で、私が最も困ったことは、社長が自らの方針を明らかにしないことであった。
懸命になって、自らの職責を果そうと、いくら考えても、社長の意図が分らないでは、どうにもならないのである。
仕方がないので、自分なりに社長の意図を推察して、行動に移そうとすると、必ずといっていいほど、関係部門からの批判や反発が出るのである。
そして「一倉の点数かせぎだ」というのである。
懸命になればなるほど、浮き上がり、孤立してゆくのである。本当のところ、やりようがなかったのである。
もう一つ、最も不安だったのは「我社の将来はどうなるのだろうか」ということである。
会社の将来が、自分の将来を決めるのに、社長は何も将来について語ってはくれなかったのである。これは、私だけではなかった。先輩や同僚の言葉の端はしに、この不安が感じられたのである。
そして、コンサルタントになってからは、さらにそのことを思い知らされることになったのである。それは「経営計画」である。
私自身の経験からして、私は経営計画の樹立を社長に勧めた。社長自らの姿勢と方針を、経営計画に明文化して社員に協力を求めることの必要性を痛感していたからである。
私が驚いたのは、経営計画発表会である。会に参加する幹部社員は、経営計画とはどういうものか知らずに、「集まれ」と言われたから集まったというような顔をして会場に入ってくる。
その社員が、社長の説明を聞いているうちに、次第に真剣な表情となり、しまいには喰い入るように社長の顔を凝視しながら、社長の一言一句も聞きもらすまいとするように変っていったのである。
それは、社員が最も待ち望んでいた社長の言葉だからである。
この説明会を境として、社員が変ってしまった例を、私は数多く見せつけられて来ているのである。
R社長は『こんなに驚いたことはない。会社の空気がすっかり変り、すごい意欲の盛り上がりです。私の新たな心配は、このムードをどうやって持続するかです』と私に語った。
しかし、社長の心配は不要だったのである。
経営計画は、社員を変える前に社長自身を変える。というのは、経営計画によって社長は初めて我社を知るからである。(経営計画以外に、会社全体を知る手段はない、というのが、私の経験を通しての実感である)
経営計画によって、社長は自ら何をしなければならないかを知り、同時に増収増益の道を知るのである。迷いは吹っ切れ、自信をもって事業を経営することができるようになるのである。
事業の経営は社長一人ではできない。得意先、仕入先、銀行など、外部の信用と、内部の社員の信頼と協力あってこそである。
そのための要件として、まず第一には、経営計画によって自らの姿勢と方針を明らかにすることであり、第二には、この計画実現のために、社長が陣頭に立って奮闘することである。
そして、事業経営の全体を通じて、片時も忘れてならないのは「お客様」である。お客様以外には何も考える必要はない。
お客様に対して正しいサービスをしている限り、増収増益は自然に実現できる。増収増益こそ、社会に奉仕し、会社を安泰にし、株主に報い、社員の生活の安定と向上を実現するものである。
まとめ
○ 収益に関する計算法として、伝統的に用いられている手法―「売上から売上原価を引く」という「全部原価計算方式」は、真実の姿をゆがめてしまう。これを信用することは危険である。
○ 正しい計算法は「直接原価計算方式」でなくてはならない。そして、この計算法は名称は原価計算であっても、その本質は収益計算であることを認識しなければならない。収益(売上から外部仕入を引いたもの)から費用を引いた残りが真の利益である。
○ ある決定によって、それがどれだけの増収。増益又は減収・減益になるかを正しく計算する方法は、直接原価計算方式による「増分計算」である。変る部分のみを計算することによって、正しい答が得られるのである。そして、それは「単位当り」ではなくて、「会社全体」でどうなるかでなくてはならない。
○ 「数字による経営」とは過去の数字を研究することではなくて、マーケッティング分析をはじめとする各種の外部情報を総合し、「経営計画」「増分計算」などを駆使して、前向きに正しい戦略的決定を行なうことである。
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