我社の安全を図る
企業存続の最高責任者である社長は、存続をおびやかす危険を絶えずチェックし、危険から遠ざかる手を打ってゆかなければならない。
企業の危険というものは、多岐にわたっている。社長は、それらの危険とはどのようなものであり、どうチェックし、どぅ対処してゆかなければならないかを、知っていなければならない。それは、単に我社のみならず、得意先についても監視を怠ってはならないのである。
そして、 一般的には、バランスシートと損益計算書の分析を行なうにしか過ぎないのであるが、企業の危険度チェックは、それだけで事足りるほど簡単なものではないのだ。
そこで、本章では、バランスシートと損益計算書以外に、チェックしなければならない危険について、その主なものをのべてみることとする。それは次のようなものである。
- 一、占有率はどうか
- 二、年計はどうか
- 三、季節変動はどうか
- 四、市場の危険分散の度合はどうか
- 五、内外作区分はどうか
- 六、支手回転率はどうか
- 七、賃率はよいか
というのが主なものである。
一右の分析は「事業構造」を、いろいろな角度から分析したものであることに気付かれると思う。社長の最も大切な役割は、まず我社の事業構造を安全なものにし、この基盤に立って経営を行なうことなのである。
占有率はどうか
占有率こそ企業存続の絶対条件であることは、すでに何回ものべている。占有率に関する関心は、優秀会社の社長ほど強い。優秀社長の条件を、あなたは備えているだろうか。
私がお伺いする会社で、しばしば見られる例は、自らの企業規模を考えずに、ひたすら「たくさん売れるもの」を追い、「大消費地域」を狙っていることである。
「大消費地だから売れる」という単細胞的発想であるが、大消費地こそ、業者がひしめき合って力と力のねじり合いが行なわれている。小規模企業の割込む余地はないのである。当然のこととして、販売実績は上がらず、自らの企業を自らの手で危険に追いやっている姿である。
競争社会である限り、占有率という市場原理が厳然として存在し、この原理に支配されるのである。自らの企業の力だけで、この原理の支配をのがれることは不可能なのである。
それなればこそ、社長は占有率の原理をよく知り、この原理に従って、まず我社の安全を図り、次には、この原理を積極的に利用して我社の発展と業績の向上を図らなければならないのである。
社長の、占有率に関するまず第一の関心は「占有率はいくらか」であり、次には「占有率は上がりつつあるのか、下がりつつあるのか」でなければならない。
これを知るには「ランチェスターグラフ」が便利である。このグラフは競合他社の状況も同時につかめるのである。そして、当然のこととして「どうすべきか」である。
占有率は、何%を占めるかによって市場の危険が違ってくる。くわしくは「販売戦略・市場戦略篇」を参照していただくとして、簡単にのべてみる。
一、独占的占有率70%以上
圧倒的な強味を持ち、容易に他社を近づけない。とはいえ、反面の危険がある。知らず知らずのうちに独占の上にあぐらをかき、顧客サービスが悪くなってゆく。そこを他社に突かれると、意外なほど弱いのである。
二、主導的占有率:40%以上
市場のリーダーシップがとれる。他社と同程度の努力で占有率は高くなってゆく。
三、不安定な一流:二五%以上
一応の市場の知名度があり、収益をあげられる状態にある。しかし、上位からは頭を叩かれ、下位からは足許をすくわれて、いつ占有率低下に見舞われるか分らない不安定な占有率。
四、限界的占有率:一〇%以下
市場において生き残ることができない占有率。と思えばよい。一〇%以上二五%以下の占有率は、一流でもなく、といって限界生産者ともいえない中途半端な占有率で、強いていえば「過渡的占有率」ともいうべきである。
占有率は、まず我社の総売上高の占有率を知り、その次には細分化した占有率である。細分化した占有率には、さまざまあって、自らの会社の必要性から考えるのである。一般的には「商品別占有率」と「地域別占有率」であろう。
さらに、商品別占有率は大分類、中分類、小分類というように、細分化が可能であり、地域別占有率は、地方ブロック、府県、市町村から、売場の占有率まで細分化して考えられるのである。そして、その、それぞれの占有率について、占有率の原理が作用するのである。
まず第一には、対象業界の占有率であるが、業界が、我社の規模に比較して大きすぎれば、必要な占有率を手に入れることは難しく、小さすぎれば、大きな占有率を確保しても収益の絶対額が小さすぎる、ということになる。
一般に、中小企業は大きすぎる市場を狙いすぎる。たくさんの会社が狙うために、当然のこととして過当競争になってゆく。そして、その中で苦戦し、低業績に泣くことになるのである。
賢い社長は自らの規模に合った市場を狙う。そこには強敵は少なく、弱小会社を相手に有利な戦を進められるのである。「小さな市場で大きな占有率」こそ、優良会社になる近道なのである。
大きすぎる市場の場合には、市場の細分化を行なって、細分化した市場の中で必要な占有率を確保してゆくのである。占有率の高い、細分化された市場を一つずつ増加してゆくのである。いいかえると、自らの手で対象市場を小さくし、その中で大きな占有率を確保する、ということなのである。
だから、中小企業の占有率の考え方は、いついかなる場合にも、「小さな市場で大きな占有率」なのである。
優秀会社になるための条件は、まず第一には、大きな占有率を確保できる市場の選択であり、第二には、正しいサービスを行なうことであり、第二には、他社に優る市場戦略を展開することである。
そして、その総ては社長の決定で基本的に決まってしまうことを忘れてはならないのである。
年計はどうか
年計こそ、我社の長期的な傾向を正しくつかむために最も便利なものである。優秀な社長は、いったん年計を見ると「絶対に離せない」と必ず言う。
私は、毎日違う会社にお伺いしている。同じ会社にゆくのは、一カ月に一回くらいであり、ニカ月に一回、三カ月に一回の会社も多い。
久しぶりにお伺いした会社で、必ず年計グラフを最初に見せてもらうことにしている。そして、年計グラフを見た途端に、その会社でお手伝いしたことの「総ざらえ」が瞬間的にできるのである。そのくらい、年計はその会社の状況を雄弁に物語っているものなのである。
総売上げをはじめ、商品別、地域別、得意先別などの年計を検討するわけであるが、検討するまでもなく、見ただけで上昇、横ばい、下降が一目瞭然であり、打った手の効果の測定ができ、手を打たなければならないものは何かが分るのである。
考え方の順序は、まず売上高の大きなものから順に着目し、上昇傾向ならばさらに伸ばす手を考える。横ばい、または下降の場合は「放置するか何等かの手を打つか」 であって、何でもかでも「何か手を打たなければ……」ではないということである。
というのは、売上げが伸びないのは、我社の力が足りないのか、売上げを伸ばす方法が分らないかであり、そのどちらも簡単には解決できる問題ではないからである。
次は、特定の商品又は得意先の売上高の、総売上高に対する比率が三〇%を超えているものがあるかないかである。もしあるとすれば、それは偏りの危険である。
その商品又は得意先の売上げが落ちないという保証は何もないのである。たとえば、0社では「円高」によって売上げの三〇%を占める商品の輸出が全滅して一挙に赤字転落してしまった。
このような偏りは、それ以外の商品又は得意先の売上げを増加する手を打つことによって偏りを修正するのである。
特定地域の総売上高に対する売上比率が高いのは、危険な偏りではなくて、それは、その地域における我社の市場戦略が効果的な証拠であり、これが上昇傾向を示しているならば、我社の安全性の上昇を意味しているのである。
そして、それが必要な占有率を確保しているならば、我社のク強味クなのである。その地域の占有率の確保を図りながら、次の地域の占有率増大作戦を進めるのである。
第二には、グラフの月々の上下が大きい場合である。普通の場合には、年計は緩やかなカーブを画く。それが上下が大きいというのは、事業の不安定を意味しているのである。
多くの場合に、個々の売上物件の金額が、企業規模に対して大きすぎるのだ。(業種とすると、土建業、プラント又は大型機械、貿易などにこうした会社がしばしばある)
そのために、仕掛期間が永く、資金が寝る、入金は不安定、次の仕事とのバトンタッチのタイミングが合わず、場合によると受入態勢が間に合わないために受注をのがすなどの、いろいろな支障を来す。
このような会社では事業の転換を図る必要がある。
転換の目安としては、一物件当りの売価又は受注金額を、従業員一人当り一万円に零を一つつけた十万円と考えればよい。従業員百人ならば百万円から一千万円である。
輸出業ならば輸入を考える。土木請負業ならば、小型物件に受注を絞る。プラントメーカーなら、プラントの一部の専業メーカーになるとか、中小型の産業機械に進出する、というような方策をとるのである。
以上は年計に対する一般的な見方であって、個々の会社のさまざまな年計の見方については「経営戦略篇」に実例をいくつものせてあるので参照されたい。
半年計の見方と、季節変動に対処する考え方については、すでにのべてあるので、ここではふれないこととする。
市場の危険分散の度合はどうか
市場に対する危険は、常に我社の事業構造の偏りにある。偏りは変化に対して弱いからである。
高度成長時代には、何をやっても、どんな事業構造でも喰えた。石油ショックで高度成長が終ってからすでに五年、いまだに高度成長時代の甘えを改めずに、自らの企業の危険な事業構造をそのままとしておく社長が少なくない。
これは社長の怠慢といわれてもいたしかたがないのである。社長以外に、いったい誰がこれをやってくれるのか、を考えるべきである。
「経営戦略篇」ではこの偏りの危険について、
- 一、単一業界
- 二、単一商品
- 三、単一得意先
- 四、内外作区分
の四つをあげて解説した。本篇でも、断片的にいくつかの危険をあげておいた。(四)については後述するとして、右の(一〉〜(三〉については、その危険度の判定として、
一、トップを占める業界、商品、得意先に対する売上げが総売上げの六〇%以上を占める場合は極めて危険である。
二、〈一〉の場合の数字が、三〇%までならば安全度が高い
三、最も安全度が高いのは、三つ以上の業界にまたがり、その一つ一つの業界について、高い占有率を確保しているか、ランクの高い得意先をもっているということである。
右の基準は、ごく一般的なものであるから、あとは自らの業種業態に応じた安全度基準をもち、これが実現を図ることである。
一つの業界では危険だといっても、食品メーカーやアパレル産業などでは、簡単に他業界に乗りだせるわけではないから「強い商品を三つ以上持ち、占有率の高い地域を一つ一つ実現してゆく」という戦略をとることになろう。
印刷業などは、技術そのものが商品であるから、あとは「優良得意先を多数持ち、特定得意先の売上高を総売上げの一〇%以上にしない」ということになるかも知れない。
右のように、我社の安全度については、自らの事業の業界、商品、得意先について、明確な安全目標をもち、 一歩一歩この目標に近づいてゆくことこそ大切なのである。
このような目標がないと、やり易い業界、売り易い商品、行き易い得意先、抵抗の少ない地域などに偏ってしまう危険が大きいのである。
私は、右のような状態におちこんで、苦しんでいる会社に数多くぶつかるのである。それは、自然の成行きとはいえ、会社というものは自然の成行きでは破綻するのである。
自然の成行きを、社長自らの意思と努力によって逆転し、会社の安全を実現しなければならないのである。
内外作区分はどうか
さきに「経営戦略篇」で、「設備を持たないメーカー」の利点を強調し、本書では外注比率増加の有利性を数字の面から説明した。
いま、ここで三たび内外作区分についてふれるのである。それほど外注を利用することは会社にとって重要なことなのである。
外注利用ほど、会社の安全性と収益性を同時に向上させるものはないのであるから、社長は自らの会社の内外作区分についての、明確な方針と目標を持たなければならない。
本書では、内作「一」対外作「二」をすすめているが、これは「少なくとも」という最低の基準と思っていただきたい。自動車とか家電とかの組立メーカーは、内作「こ対外作「四」くらいになっている。
外作比率はいくら大きくてもいいのだ。外注が100%になって内作がなくなったのが「流通業者」であることを考えてみればお分りいただけると思う。
とはいえ、メーカーが流通業者になる必要はない。メーカーとしての自主性を持ち、安全と収益の向上のための外作比率を高めればよいのだ。だから、内外作比率の目標を決め、長期的な外注工場整備計画をつくって、これが実現を期するのである。
外注工場整備についての留意点としては、外注工場は大型がよい、ということである。
どの会社を見ても、外注工場に対する明確な方針などはなく、外注担当者が「内作で間に合わない部分だけ外注する」「小型外注のほうが安い」という程度のことしか考えていない。
T社の場合を紹介しよう。
むろん外注工場に対する方針などなかった。増大する売上げを賄うために、外注品も増加していった。 一方、競争の激化によるコストダウンの方針が社長から出ている。
外注係としては、外注工場を増加するのは当然として、コストダウンの方針にそうためには、小型外注工場のほうが「ネット」が安いという理由から、小型化を進めたのである。そのために外注工場の数は加速度的に増加し、規模は小型化、零細化していったのである。
結果は、品質は低下し、納期は混乱し、材料部品の支給や集荷の手数は増加し、社内の管理人員、受入検査の人員を増加しなければならなくなっていった。
私がお伺いした時には、混乱はその極に達していた。私は、内部のことにはタッチしない主義であるが、見かけは内部のこととはいえ、お客様に対して品質と納期で大きな迷惑をかけているので、本質は「顧客サービス」に関することであるので、タッチしなければならなかった。
私の勧告は「外注を大型化する」ということであつた。大型化すれば「ネット」は上がる。しかしその反面、技術力や管理力はあるのだ。しかも、思いきった大型化を推進することを強調したのである。それは「自分の会社より大型の会社」ということである。
折からの石油不況のために、この外注大型化の方針は大きな成果を納めた。新たに獲得した外注は、T社の三倍の規模一社、三倍一社、同等三社というものであった。
これらの会社は、図面をやっておき、商品説明書とラベルを支給するだけで、包装梱包までして納入されるようになった。
納入品の中から抜取り検査をするだけで、「万事OK」となってしまつた。
むろん、「ネット」は高いけれども、管理費が激減し、結局は三〇%の費用減が実現したという「嘘のような本当」が実現したのである。
さらに、もう一つのメリットとしては、従来の小型、零細外注は、外注とはいえ「オンリーさん」か、これに近いために、本当の意味でのクッションにはならなかつた。
それが今度は大型のため、相手の能力の一部を利用するだけなので、売上げの変動によるクッションの役割まで果すようになったのである。
というのは、相手の能力の二〇%しか利用していなければ、こちらの二〇%の発注減も、相手にとつては、たったの四%減にしかすぎないからである。
外注は大型とし、利用度はあまり高くしない。というのがよいのである。しかし、あまり低すぎると、相手から「上得意」扱いしてもらえないから「一〇%から三〇%くらいの間で、ナンバーワンの得意先になる」のが理想的である。
外注政策は、我社の生き残る条件として、最も重要なものの一つであることを、よくよく心して、取組まなければならないものなのである。
繰返すが「間に合わない分だけ外注する」「安いから外注する」というような安易な態度は絶対に許されないのである。外注増加は「企業防衛」なのである
支手回転率はどうか
企業にとっては、支手がなければ不渡手形の出しようがない。つまり倒産はないのである。この簡単な認識が、現実には意外なほど薄いのである。
これは、いったいどうしたことなのだろうか。一つには高度成長による支手不感症であり、もう一つは、多くの取引業者が簡単に支手を受けとる、過当競争の落し子― 決済条件をあまり主張すると買ってもらえない―である。
そのために、支手回転率が受手回転率(この場合の受手とは、手持と割引と廻しの合計)より悪い会社はけしてめずらしくない。経営が順調な時には別に危険でないかも知れないが、これこそ潜在する大きな危険なのである。
というのは、会社がピンチに陥った時に、支手決済が如何に重荷になっているか、ということを、私のお伺いする赤字会社で痛感するからである。
ピンチに陥った会社に対しては、銀行はなかなか金を貸してくれないのだ。
銀行というところは、雨が降っている時には「傘はありません」といい、天気の時には「傘をお貸ししましょう」という習性をもっている。
その習性を利用して、会社が順調の時に借金して支手を減らすのである。ところが、会社が順調の時は資金繰りに苦労がないために、つい経理担当者に「任せっきり」という怠慢に陥り勝ちである。
経理担当者で、社長から言われもしないのに「我社の将来の安全のために、この際支手を減らさなくてはならない」というようなことは、まずやらない。
それどころか、資金が余ってくると、支手を減らさずに単名の返済に当ててしまう例が多いのである。
だから、社長が支手退治の方針を明らかにし、これに執念を燃やすのである。そして、業績のよい時、資金繰りの楽な時こそ好機なのだ。
社長自ら銀行に交渉し「支手をなくして会社を安全にするために、金を貸してほしい」くらいのセリフは言うべきである。
銀行によっては「何故支手を減らすのですか。利息のつかない資金調達をせずに、利息のつく借金をするのはおかしい」という、全くトンチンカンな反間をしてくることがある。
支手はけして利息のつかない資金調達法ではない。購入価格の中に金利が織りこまれているのだ。そんなことが分らない社長では話にならない。
金利だけではなく、会社の信用を落し、会社を危くしているのだ。「サイトが百五十日」で新規取引を承知する会社などは、まずないし、現金支払いときけば、どんな会社でも喜んで取引きしてくれる、という分りきったことが何故分らないのか、全く不思議である。
支手は、最もやさしい資金調達法である。手形用紙に金額を書きこむだけでいい。誰にも頭を下げずに、何の手間もかけずに資金調達ができるのである。やさしいことには必ず「危険」という見返りがつく。
その危険は、さきにのべた信用低下や倒産だけではない。社長自身の経営態度それ自体が甘くなり、知らず知らずのうちに怠慢が重なって、業績を低下させてゆく。
これが昂じると、融手を発行しながら平気でいる、という全くの腐り果てた社長になる。私はこういう社長にも数人出会っている。こういう社長は全く救いようがないのである。
賃率はよいか
賃率というものは、「単位時間当りの直接工の生みだす付加価値」と定義されているが、業種によっては、これを「単位当り工賃」として使っている。(以下、単位当り工賃も、賃率として表示してゆく)
たとえば、溶接では、溶接長で(一センチ当りいくら)、塗装では面積で(坪当りいくら)、染色では長さで(一メートル当りいくら)、プラントなんかでは、トン当りいくらというような、ちょっと考えると不合理な積算が行なわれている。
これらは、多少の不合理よりも、実用性を重視しているわけである。だから、それはそれでいいとして、問題は別のところにあるのだ。
というのは、分っているようで分らないのがこの賃率なのである。間違った認識としてあるのが、まず第一には、付加価値率が高いものが有利だという考え方で、これはかなり根強いものがある。
第二には、売上高だけで見るということである。売上高の大きさに目がくらんで、収益性が忘れられてしまっている。
「付加価値率一〇%で、必要賃率の五分の一以下」という極端な例にぶつかったことさえある。
右のような間違った考え方は改めてもらうより外にないのだが、賃率の意味を知っていながら、これと取組む姿勢の甘い社長はかなりの数にのぼるのである。
自社商品を持っている会社では、なんだかんだといいながらも、ある程度の自主的価格決定が可能であるが、加工専業となるとそうはいかない。価格は得意先によって決められてしまうからだ。
それが、過当競争によって「低い賃率でも我慢しなければならない」という、種の宿命観をもっている。この宿命観が会社を赤字に陥れ、ついには倒産に追いやるということになってゆくのである。
これを防ぐ道は、合理化、能率化、コスト逓減、不良僕滅というような、低次元の労多くして功少ない対策しかとれない社長が多いのである。やっと黒字にした時には次の「値下げ要求」を呑まなければならない、というようなことになるのである。
「この値段でできないのなら、よそへ廻す」という脅迫には極端に弱いのが、加工業者なのである。これでは、全くの「賽の河原の石積み」である。
このような状態に追いこまれている原因は「販売」―加工業者の場合には受注活動― という、企業経営にとって最も重要で、最も難しい活動を放棄しているところにある。これは、社長として全くの怠慢である。
その怠慢の代償が「親企業からいじめられる」― これは加工業の社長の実感― ことなのである。親企業にいじめられても、親企業を恨むのは明らかに間違いである。
引合わない仕事ならば受けなければよいのである。
加工業の会社の社長の正しい経営態度は「引合う仕事を自らの努力で探しだす」ということなのである。営業活動に必要な人的資源を配分し、社長自らその長となって、必死の受注活動を展開するのである。
そして、たくさんの引合いの中から、引合う仕事を選択してゆくのである。その時の選択の物差しが「賃率」であることはいうまでもない。
この場合の経済計算に必要なのが、増分計算による「外注増加」と「セールスマン増員」の可否である。
そして、我社の事業構造の目標として、内作「一」に対して外作「二」以上を狙うことである。
こうして、受注量の増減に対応してゆく弾力性をもち、企業の安全を確保するのが社長の役割なのである。
会社をピンチに陥れる社長は「外注を引上げて内作に切換え、収益性を高める」「セールスマンの増員は人件費、経費の増大をもたらす」という考え方をするものであることを、よくよく肝に銘じてもらいたいのである。
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