夫婦の間に未成年の子どもがいる場合は、離婚に際して子どものことについても決めなければなりません。この問題の中でもっとも重要なのは、今後どちらが子どもと一緒に暮らすのかという点です。これは一般に、どちらが親権を持つかという問題とかかわってきます。
子どもがどちらの親と暮らすのかが決まったら、次に、一緒に暮らせない親が子どもと会う機会をどの程度確保するのかという面会交流の問題が出てきます。
子どもの生活費である養育費の問題もありますが、これについては第 3章で詳しく説明しています。
1 親権
◉親権の有無が子どもとの関係を決める
親権とは、未成年の子どもを監護、教育し、その財産を管理するため、子どもの父母に与えられた権利と義務の総称です。
父母が婚姻関係にあるときは共同で行使するものですが、離婚する場合はどちらか一方を「親権者」として定めなければなりません。
「親権」を持つか持たないかは、離婚後の子どもとの関係を決めるもっとも重要な要素です。
協議離婚の場合は、離婚届に親権者の記載欄があり、この欄を埋めなければその離婚届は受理されません。受理されると、親権者が戸籍に記載されます。
なお、離婚後に子どもが父母いずれの姓(苗字)を名乗るかという問題と、親権者の問題は別なので、たとえば父親の姓のままで、親権者は母、ということもあります。
また、仮にあなたが親権者でなくなっても、親子関係が切れるわけではありません。
なかには、「離婚したのを機に、子どもとも縁を切って出直したい」と考える人もいるかもしれませんが、日本の法律上では、子どもと縁を切ることはできません。
親子関係が残るからこそ、親として子どもを扶養する義務、具体的には養育費を支払う義務が残るのです。それと同時に親としての権利も残ります。
これは親が子どもを扶養する義務とは反対に、親が子どもに養ってもらう権利です。普段は問題になりませんが、将来子どもが立派になって、あなたが生活に困ったようなときには、子どもに養ってもらう権利があるわけです。
◉親権と監護権
親権者は子どもの監護や教育をする権利、子どもの住む場所を決める権利、子どもの代わりに契約などをする権限などを有しています。そのため、親権者は子どもの面倒をみて、子どもと一緒に暮らす権利を持ちます。
親権のうち、子どもの監護や教育をする権利のことを、特に「監護権」といいます。これは、子どもと一緒に生活する権利と考えてもいいでしょう。
先ほど、離婚後は父親か母親のどちらか一方を親権者として定めなければならないと述べましたが、父親を親権者、母親を監護権者というように分け、子どもは監護権者の母親と一緒に暮らすということも一応は可能です(図 4‐ 1)。
親権と監護権を分ける場合、親権の中心は法定代理権となってきます。法定代理権とは、子どもの代わりに契約などをする権利のことです。具体的には、子どもの名義で裁判をしたり遺産分割をしたり不動産を売ったりする権利を指します。
交通事故などのもめ事で子どもが損害賠償を請求したり、賠償を請求されたりというような際に、法定代理権を持つ親が諸々の手続きを行います。
法定代理権は、法律上はとても重要なものなのですが、実際に行使する場面に遭遇することは多くないと思われます。
その一方で、親権と監護権を分けると、親権者と監護権者の意見が対立したときなどに、子どもが生活するうえで何らかの支障が出てくる恐れがあります。ですから、親権と監護権を分けることはあまり行われていません。
実際には、「父母のどちらが子どもを育てるか」という、監護権を含めた親権(広い意味での親権)の問題となってきます。
そこで、これ以降に本書で「親権」という場合は、監護権を含めるものとします。
なお、親権と監護権を分離することについて裁判所は消極的な姿勢をとっていますが、「父母による共同子育てが望ましい」という観点から、分離を支持する見解もあります。
◉親権者をどう決めるか
親権者をどちらにするのかが話し合いですんなり決まれば、その通りに離婚届に記入して終わりです。
しかし、お互いに親権を要求して譲らない場合はどうなるのでしょうか? 離婚届には親権者の記入欄があり、記入しないと受理されません。
そのため、親権者が決まらない限り、協議離婚や調停離婚を成立させることはできないのです。
この点が、決定を先延ばしにして離婚届を出すことができる慰謝料や財産分与などの離婚条件とは大きく異なります。
協議や調停でまとまらない場合、最後に行き着くのは訴訟です。訴訟になれば、最終的に親権者を決めるのは裁判官です。判決書の中に、どちらが親権者になるのかが明記されます。
裁判官が親権者を決める場合は、「父母のいずれを親権者とするのが子どもの利益及び福祉になるか」という観点から判断します。
一般的には、諸事情を比較して総合的に判断するといわれていますが、多くの裁判例で挙げられているいくつかの基準があります。
その中でも大きいのは、「現状維持の原則」と「母親優先の原則」の 2つです。現状維持の原則とは、「いま現在子どもの面倒をみている親を親権者とする」という原則です。
離婚訴訟にまで進んでいる夫婦は、通常は別居しています。そのため、子どもは母親か父親のどちらか一方と一緒に生活していることになるのですが、その状況で問題なく暮らせているのであれば、子どもを混乱させないためにも、現状を維持させようという考え方です。
母親優先の原則とは、その言葉通り、子どもが乳幼児のうちは、母親と一緒にいたほうがいいという原則です。
◉親権者となるための基本戦略
本書の読者のみなさんにとってはたいへん酷な話ですが、図 4‐ 2を見てもわかるように、離婚件数は大きく増加しているにもかかわらず、夫が子どもの親権者となった離婚の数はこの 50年近くほとんど変わりません。
絶望的な気持ちになるかもしれませんが、こういった現状を踏まえたうえでの具体的な対策をいくつか紹介しますので、決して希望を捨てず、最後まで戦い抜いてください。
①妻による子どもの連れ去りに注意
妻と別居している状況で、妻が子どもの面倒をみている場合は、あなたが親権を取得することは、事実上不可能に近いといえます。
妻が子どもを虐待しているといった深刻な問題があれば別ですが、たとえ妻が一方的に子どもを連れて別居したとしても、そうした事情はほとんど考慮されません。
これでは単に「先に連れて行ったもの勝ち」ということになり、納得しかねると思う人がいるのも当然です。
しかし、これが現在の日本の司法運用の状況です。
そのため、あなたが子どもの親権者となることを望んでいる場合は、妻が一方的に子どもを連れて別居を始めてしまわないように注意しなければなりません。
とはいえ、日中外で働いている男性にできることは限られていますが、妻が子どもを連れて家を出ていく気配を察知した段階で、以下のような対策をとることはできるかもしれません。
ひとつは、自分の親を自宅に呼び、妻の行動に注意をはらってもらうこと、もうひとつは、保育園に事情を話し、妻による子どもの連れ去りの危険があることを伝えておくことです。
また、妻の実家に受け入れを拒否するように申し入れておくこともできるかもしれません。
その場合、「子どもの奪い合いになることを避けるために、別居する前にきちんと話し合いたい」と言えば、妻の親の理解も得やすいでしょう。
②ハーグ条約締結の影響を注視する
2 0 1 4年、欧米諸国が加盟しているハーグ条約にようやく日本も加盟しました。
ハーグ条約は、あくまで国際間の離婚に適用されるものですが、その基本には、「夫婦が一緒に暮らしている状況で一方の配偶者が勝手に子どもを連れ出して別居するのは違法である」という考えがあります。
このような価値観に基づく条約が日本にも入ってくることで、現状維持の原則が見直しを迫られる可能性は高いと思います。
つまりハーグ条約の影響により、日本国内の離婚でも、親権をめぐる裁判所の運用が大幅に変わっていく可能性があります。
たとえば一方的な連れ出し別居に対して現状維持の原則が適用されなくなり、双方の監護状況を慎重に比較検討し、どちらが親権者としてふさわしいかを判断するという方向に変わっていくことが期待できます。
ですから、妻が一方的に子どもを連れ出して別居した場合は特に、ハーグ条約加盟以前の裁判所の運用を前提にして「親権者となるのは無理だ」とあきらめるのではなく、子どもの監護についての具体的な計画を説明して、自分が親権者になることが子どもにとってより適切である旨をしっかり主張していくことをおすすめします。
実際、裁判官や弁護士向けの専門書では、現状維持の原則及び母親優先の原則について、裁判官がより実質的に考えるようになっているという記載もあります。
「母親だから」「現状維持だから」ではなく、主たる監護者はどちらか、主たる監護者と子どもとの関係はどうか、子どもの監護環境を変えることによる影響を重視すべきか、などを実質的に考えるのです。
もちろん裁判官は各自の考えに従って判断するため、直ちに状況が劇的に変わるという期待はできないかもしれませんが、考え方が変わり始めていることは確かでしょう。
③親権者となることに固執しない
そもそも、あなたが親権を望む本当の理由はなんでしょうか。
親権を失ったら子どもと会う機会がほとんどなくなってしまうのではないか、ということが重要な問題なのであれば、親権がなくても、充実した面会交流(次節)の約束をとりつけることで、子どもと会う機会をある程度は確保できる可能性があります。
親権者となることばかりに固執せず、面会交流を積極的に要求し、子どもと接する時間をできるだけ長く確保できるように交渉することもひとつの方法です。
面会交流の要求のしかたについては、面会交流の基本戦略の項(次節)で詳しく説明します。
また、子どもの教育方針について妻に任せきりにすることが不安なのであれば、進学先の決定、通塾などの教育方針については父親と協議のもとに決める旨を、離婚協議書に書いておくという対処法もあります。
まとめ
- 未成年の子がいる夫婦が離婚する際には、どちらか一方を親権者に定める
- 親権の争いは父親にとって不利だが、今後変わっていく可能性もある
- 親権を持つことに固執せず、面会交流を積極的に要求する手もある
column子どもが妻の再婚相手と養子縁組したら?
別れた妻が浮気相手と再婚し、その相手と子どもとが養子縁組したら、子どもの親権はどうなるのでしょうか。この場合、養父(浮気相手)が親権者になります。
あなたとしては、子どもまで浮気相手にとられてしまうようで、二重のショックに見舞われるかもしれません。
では、別れた妻の再婚相手と子どもが養子縁組するのを防ぐことはできるでしょうか? ここで親権と監護権の話になります。
日本の司法運用の下では、親権と監護権は分けないのが一般的です(本章前出)。
ただし、妻が浮気相手と再婚する可能性があるような場合には、離婚の際に子どもの監護権を妻に委ねたとしても、親権だけはあなたが手放さずに持っておくことを検討してください。
なぜなら、子どもが 15歳未満の場合、親権者の承諾がない限り、子どもと養親となろうとする者の合意のみで養子縁組することはできないからです。
つまり、あなたが親権を持っていれば、勝手に養子縁組されてしまう事態は防ぐことができます。
また、養父が子どもの親権者となってしまったら、離婚の際に約束されていた子どもとの面会交流についても、養父の意向によっては、その機会が失われてしまうようなことも考えられます。
これについても、あなたが親権を持っていれば「養子縁組を認めるかわりに、子どもとは従来通りに面会させてほしい」などと、養父と交渉する余地が残ります。
2 面会交流……子どもと会うためにはどうすればいい?
◉面会交流とは?
面会交流(面接交渉ともいう)とは、父親と母親が別居や離婚によって別々に暮らしている場合に、子どもと一緒に暮らしていない親が、子どもと会うことをいいます。
民法では面会交流について、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」と定めています。
離れて住む親とも継続的な交流を保つことで、子どもはどちらの親からも愛されていると感じ、親の離婚というつらい出来事から立ち直ることができると考えられているからです。
面会交流では、離婚後に親権者となった親がもう一方の親に子どもを会わせようとしない場合や、離婚前でも別居が始まっている場合が問題となります。
たとえば母親が子どもを連れて別居したため、父親が子どもに会えないということで、離婚調停中に別途、面会交流の調停を申し立てることも増えています。
◉面会交流の実際
法律で面会交流の重要性をうたっているにもかかわらず、私たちの事務所がこれまでに扱った案件をみる限り、子どもと離れて暮らしている父親が、母親と同居している子どもとすんなり会えるケースは多くありません。
人それぞれに事情はありますが、大方の母親は子どもを父親に面会させることに消極的です。まず、「離婚でもめている相手に子どもを会わせたくない」と思う人は少なくありません。
また、実際に面会させるとなった場合、子どもが小さければひとりで会いに行かせるわけにもいかず、別居中または離婚した夫と顔を合わせなければなりません。
顔を合わせたくないといっても、半日から 1日、母親に代わって子どもの付き添いをしてくれる協力者をみつけるのは難しい人もいます。
そのため、まだ離婚が成立していない場合は、母親側から「面会交流は離婚が成立してから」と提案されることがあります。
この提案には調停委員も同調することが多く、夫側は「離婚するまでの辛抱だ」と渋々同意してしまいます。
しかし実際に離婚してみると、「別れた妻はまったく子どもに会わせてくれない。だまされた!」というケースもよくあります。
しかし、それまで一緒に生活してきた父親に「会わせない」とか「 1ヵ月に 1回くらいなら会わせてやる」というのはずいぶんとひどい話ではないでしょうか。
離婚前であれば、その時点では共同親権者なわけですからなおのことです。妻が子どもを連れて一方的に別居を開始したケースであれば、なおさら不当な扱いといわざるを得ません。
さらにいえば、親の都合で父親と離ればなれにされてしまった子どもにとっても、その後、父親とほとんど会えなくなるのはよいこととはいえないでしょう。
面会交流の実施に、母親にとって前述のような負担があることは、子どもと父親との交流に消極的になる理由にはなりません。
親権者として子どもの面倒をみる責任を引き受けるのであれば、面会交流にともなう負担も当然引き受けなければなりません。
また「子どもが父親に会いたくない」と言っているという理由で面会交流を拒むとなれば、子どもを強い葛藤に追い込んでいる疑いが濃厚といえます。
いずれにせよ、親権者としての適格性に疑問を持たざるを得ない対応といえます。このような夫側の理屈は、子どもの情緒の安定などを理由に、裁判所ではなかなか汲んでくれないこともあります。しかし、理屈自体は決しておかしいわけではないので、堂々と主張していきましょう。
ただし、夫側の面会交流に対して裁判所側が冷淡な姿勢をとることがあるのにも理由があります。
なかには、本当に子どもに会いたいのではなく交渉材料として会うケース、母親(妻)に会う口実として利用するケース、嫌がらせとして面会交流を要求しているケースなどもあるからです。
そのように思われないためには、あなたも「子どもとの面会が実現できるなら多少の面倒や苦労はいとわない」という姿勢を示す必要があります。
「子どもを交渉材料にしているのではなく、心から子どもに会いたい、一緒に過ごしたいと望んでいるからこそ面会交流を希望している」ということを積極的に訴えていくことが大切です。
◉面会交流の基本戦略
ここでは現在の裁判所の運用を踏まえて、面会交流を実現するための基本戦略を説明します。
①面倒なことをいとわない
「本来なら普通に会えるはずの子どもに会うために、苦労をしなければならないなんておかしい。親権は譲っているのだから、面会のための送迎などの面倒は母親が負って当然」という考えももっともだと思います。
ただ、面会交流を実現するためには、妻側との協議や面会日時の具体的な調整など、さまざまな手続きをいとわないことも大切です。
もともと面会交流に消極的な妻側は、面会交流を先延ばしにしようとします。
ですから、ただ要望を伝えるだけでは子どもに会えない期間が長くなり、父と子が交流しない状態が恒常化してしまうことになりかねません。
そうなると子どもは、少なくとも表面上は「お父さんに会いたい」と言わなくなってしまう場合もあり、面会交流の機会はますます遠のいてしまいます。
②面会交流の調停を申し立てる
妻側が面会交流の要求になかなか応じない場合は、面会交流の調停を申し立てるのがいいでしょう。調停を申し立てた場合、仮に当事者間で合意が成立しなくても審判に移行し、最終的には裁判所が判断します。
現在の裁判所は、基本的に面会交流が子どものためになると考える傾向があるので、面会交流が認められる可能性は大きいのです。
また、離婚が成立する以前の別居期間中の場合は、面会交流の調停を申し立てることがより重要な意味合いをもちます。そこまでしないと、裁判所や妻側に「本当は子どもに会いたいわけでもないのに、揺さぶりをかけるために子どもを利用している」などと思われかねないからです。
さらに、あなたが親権を求めている場合は、面会交流の調停を申し立てることで、離婚訴訟に進んだときにも、「本気で子どもに会いたい、子どもと暮らしたい、そのためには多少の苦労もいとわない」という姿勢が裁判所に伝わる可能性があります。
仕事との兼ね合いで負担になることがあるかもしれませんが、多少の犠牲は覚悟しましょう。
なお、離婚後であっても、親権者変更の余地は残されていますから(本節後出)、あなたの子どもに対する姿勢を裁判所に伝える必要性に、変わりはありません。
③調停委員や裁判所の意見にひるまない
いざ面会交流の話になると、「月に 1回、ファミレスで数時間」「会えるのは父親だけで祖父母はダメ」など、厳しい制限をつけられることが少なくありません。
「毎週会いたい」「泊まりがけで一緒にすごしたい」「祖父母にも面会させたい」など、ごく普通に思える要求も、相手の弁護士、調停委員、裁判官から難色を示されてしまうことは珍しくありません。これが現在の司法の実情です。
しかし、調停委員や相手の弁護士のそのような考えにひるまずに、「毎月 2回の泊まりがけの面会交流は妥当なものであり、社会通念に照らしても過分な要求ではない」といった訴えを続けていくことが大切です。
④面会交流を求め、それに対する相手の行動を記録する
再三にわたって面会交流を拒否されたり、約束はしたものの実際は会えなかったりという状況が続くようであれば、そもそも母親の親権者または監護権者としての適格性に疑問が生じます。その場合は、そういった事実を記録に残しましょう。
ただし、漠然と「何度も面会交流を要求しているのに会わせてもらえなかった」というのでは説得力がありません。何月何日にどのように要求し、それについて母親側はどういう対応をしたのか、という事実を詳細に記録してください(図 4‐ 3)。
そうしておけば、母親が親権者・監護権者としてふさわしくないことを証明する資料として説得力をもちます。そのうえで、親権者・監護権者変更の調停の申立をすることも考える必要があります。その結果、親権者や監護権者の変更がかなえば、それに越したことはありません。
そこまでいかなくても、こうした一連の手続きの過程を経ることで、確実に面会交流が実現する可能性が高まります。
⑤面会交流の方法を詳細に決めておく
面会交流は、父母双方の都合や、子どもの状況に照らして臨機応変に行う必要があるため、調停では、「月 1回程度」「日時、場所、方法などについては子の福祉にかんがみ双方で協議して定める」といった取り決めにすることが多いです。
しかし、その後相手方がこの約束を守らなかった場合、この程度のざっくりした取り決めでは後述する間接強制という方法をとることはできません。間接強制が認められるためには、相手方がすべき行為の内容が明確になっていなければならないからです。
ですから、面会交流の日時、場所、子どもを引き渡す方法などを、事前に具体的に決めておく必要があります。
相手方と信頼関係が築ける場合や、予定を決めかねる場合には、融通のきく取り決めで十分ですし、あまり細かく定めるとかえって不都合が出てくる場合もあります。
しかし、面会交流の実施に不安がある場合には、方法を詳細に取り決めておくことが、面会交流の不履行を防ぐことになります。
⑥約束が守られないときは、親権者・監護権者の変更を申し立てる
そこまで頑張って面会交流の約束をとりつけたにもかかわらず、面会交流の約束を相手が守らないときはどうしたらいいのでしょう? 1つ目の手段としては、「間接強制」という強制執行を申し立てることです。これにより、「もし約束通り子どもに会わせなかった場合には制裁金を科す」という圧力を裁判所からかけてもらいます。
ただし、この手段は、面会交流の方法が具体的に決まっていないと使えないこともあるので注意しましょう。
2つ目は、約束をしたにもかかわらず子どもに会えなかった、という精神的苦痛の損害賠償を求めて慰謝料請求訴訟を起こすという手段です。
いずれの手段も、直接子どもに会える方法ではなく、お金を利用して間接的に圧力をかけるという方法なので、妻側が本気で開き直った場合には限界があります。
3つ目は、最終手段として親権者・監護権者の変更を求める調停を申し立てる方法があります。
こちらが子どもの面倒をみることができる状況にある場合、「面会交流をする気がない母親は親権者(監護権者)としての責任を果たしていないから、自分が親権(監護権)をもつべきだ」として、変更を求めるのです。
その際、先述したように、あなたが面会交流を要求した際の相手の対応を詳細な記録として残しておくと、母親が親権者・監護権者として適格でないことを裏づける資料となります。
こうした努力の結果、あなたが望んだ通りに親権者(監護権者)の変更が認められた場合、今度はあなた自身の手で、子どもが父親と母親の双方と自然に交流できるような面会交流の形を、ぜひ実現させてください。
まとめ
- 面会交流は、親だけでなく子どもにとっても重要と考えられている
- 面会交流を実現するには、心から子どもに会いたいという姿勢を示す
- 事前に面会交流の方法を詳細に決め、拒否されたらその経緯を詳細に記録しておく
離婚のリアルストーリー [ケース 9
別居後 2年以上子どもと会えずにいる Ⅰさん :33歳/結婚歴 7年/妻はパート社員/子ども 1人 ある日、会社から帰ると妻子が消えていた。
どうやら妻が子どもを連れて家を出て行ったらしい。なんてことだ。こんなドラマのようなことが、僕の身に起こるなんて。何回か妻の携帯電話に連絡して、ようやくつながった。
「君が出て行くのはしかたがない。でも、子どもには会わせてくれ」と伝えるが、妻からは「いまは無理」の言葉しか聞けなかった。
そのうち妻の弁護士から連絡があり、調停が始まった。
調停でも僕は「まずは子どもに会わせてほしい」と伝えたのだが、調停委員は「離婚の話が続いている間は、子どものためにも会わないほうがいい」と言う。それでも要求を続けていたら、調停委員がこんなことを言った。
「お子さんはお父さんとは会いたくないそうですよ」 ……そ、そんなはずはない! 自慢じゃないが、僕は仕事よりも子どもが優先、会社では「社内一のイクメン」として社内報に取り上げられたほどだ。
事実、子どもは自分になついていた。妻が噓をついているか、子どもに無理に言わせているに違いない。そのうち妻が、「自分と子どもの生活費を支払ってほしい」と言い出した。
僕は「子どもと会えたら支払ってもいい」と答えたが、調停委員からは「婚姻費用と面会交流は別問題」と強く言われ、支払う約束をさせられた。
結局、子どもとは会えないまま、生活費だけ支払わされていたが、そのお金が本当に子どものために使われたのかどうかもわからない。
結局、調停では離婚の交渉はまとまらず、離婚訴訟になった。訴訟では自分が子どもを育てられる環境にあることを強調した。僕の実家はいまの住まいの近くにある。
もし子どもがこちらに帰ってくることができたら、実家の両親に助けてもらいながら子どもを育てる自信は十分ある。僕にとって、子どもと会えなくなるのは到底耐えられることではない。親権だけは譲れない。
しかし訴訟には敗れ、子どもは母親と暮らすことになった。日本の現状では、これがごく普通の結末らしい。
判決書には、「子どもと月に 1回程度の面会はできる」と書いてあったが、母親は何かと理由をつけて子どもを僕に会わせないようにしている。
養育費はしっかり支払っているが、妻が出て行ったときから 2年以上経っても未だに子どもと会えない状況が続いている。子どもは現在 5歳。この子が大人になったとき、僕に会いに来てくれるだろうか。
僕がお父さんだと気づいてくれるだろうか……。どうすればよかった? 妻が突然子どもを連れて出て行った場合、現状では夫が親権者となるのは難しい状況にあります。
ただ、「連れて行ったもの勝ち」という現状の問題点については、マスコミでも取り上げられ始めていますし、このような問題点を裁判官も徐々に理解し始めています。
うまくいく可能性が高いとはいえませんが、いくつか対策をとることはできます。
①すぐに保全処分を申し立てる
妻が子どもを連れて出て行ったことが判明した場合は、「子の監護者指定」「子の引き渡し」の調停または審判と保全処分を、早急に家庭裁判所に申し立てましょう。
ここでいう「保全処分」とは、「最終的に親権者が定まるまでの間は父親である自分が子どもの面倒をみるのが相当なので、そのように定めてほしい」ということを裁判所に求めるものです。
「勝手な連れ去りは許さない」ということを、裁判所に毅然とした態度で示す行動でもあります。
日本の裁判所が、妻による子どもの連れ去りに寛容な背景には、「子どもだけ置いて出て行かれても困る」という父親が多いという事情があります。
ですから、「自分はそういう父親ではない、子の監護を妻に任せた覚えはない」ということを裁判手続きで明確にする必要があります。全処分がうまくいけば、子どもは戻ってきます。
そのまま子どもと暮らせば、「現状維持の原則」を主張することができます。また、仮にうまくいかなくても、そのような行動をとったことが、今後親権を決めるうえで、あなたに有利な要素として働くでしょう。
②面会交流を求める調停を申し立てる
保全処分がうまくいかなかった場合は、面会交流を求めます。できるだけ形に残る方法で行ったほうがよいので、場合によっては離婚調停とは別立てで、新たに調停を申し立ててもいいでしょう。
面会交流がうまくいけば、子どもと会って良好な関係を作ります。
Iさんのように積極的に育児にかかわってきた場合には、これまでと同じように接していれば、すぐにいい関係に戻れるでしょう。
その関係を続けていけば、裁判などで親権を主張しやすくなります。ただし、面会した後にそのまま子どもを連れ去ってはいけません。それをした時点で親権取得は絶望的になります。
なぜ妻は連れ去ってもよくて、自分はダメなのかと思われるかもしれません。
それはもっともな意見ですが、現在の日本の司法運用上は、最初の連れ去りだけが大目にみられ、奪い返すような行為をした場合は裁判官の心証が非常に悪くなるどころか、場合によっては誘拐事件として刑事告訴されることにもなりかねないのです。
③面会交流に応じられない理由を書面でもらう
相手が面会交流に応じない場合は、それをできるだけ記録に残る形にします。具体的には、「 ○月 ○日電話で交渉するも ○ ○という理由で断られる」といった記録を自分でつけるのです。
相手に弁護士がついている場合には、書面で回答をもらってください。弁護士がついていない場合には、「書面での回答には応じられない」と言われる可能性が高いです。
その場合も、できればメールでの回答を求めてください。その回答には、子どもが会いたくないと言っているからなど、面会交流に応じられない理由もしっかり書いてもらいましょう。
これらの面会交流拒否の資料は、離婚訴訟の際に提出します。あなたが親権者となるうえで有利な材料になるからです。
離婚は子どもにとって大きな負担であり、片親と会えなくなることはつらく悲しい出来事です。その悲しい出来事をしっかりフォローできるかどうかが、親権者の適格性についての重要な判断材料となります。
ですから、あなたの「子どもに会いたい」という要望に対して、
- 誠実に回答しない →子どもの気持ちをフォローできない親は親権者として失格
- 「大きな負担となるから避けたい」と回答 →面倒だからといって子どもにとって重要な面接の機会を奪う親は、親権者としてふさわしくない
- 「子どもが会いたくないと言っている」と回答 →虐待もないのに、子どもが実の父親に会いたくないと言っているというのはおかしい。
母親が子どもの意に沿わないことを言わせている、または、母親が父親を嫌うように仕向けている、と考えられる。いずれにしろ子どもを監護する立場としてふさわしくないという反論ができます。
つまり、書面で回答をもらうことによって、相手に親権者としての適格性がないという証拠をそろえることができるのです。このような証拠があれば、親権をめぐる裁判でも有利になってくる可能性があります。
仮に親権がとれなくても、妻側がこのままの対応では親権を失いかねないと思うようになれば、面会交流については積極的な対応をせざるを得なくなります。その結果、土日は子どもと一緒にすごせるなど、頻繁な面会交流を実現できる可能性も高まります。
あとがき
私たちの事務所のホームページに「特集! 男の離婚」を掲載して以降、離婚問題に悩み、失望している男性がいかに多いかということを改めて認識しました。
妻が子どもを連れて突然実家に帰ってしまい、子どもと会えなくなった Sさん、妻から離婚訴訟を起こされ、関係修復の道を求めて法律相談に行ったら「離婚したほうがよい」と説得された Fさん、自分の親の資金援助で購入した自宅まで、妻に財産分与を主張されていた Tさん……。
それぞれにさまざまな悩みを抱えて相談に来られました。
また、すでに離婚が成立した後に問題が生じたり、訴訟の判決が出てから相談にいらした方も少なくありませんでした。
私たちの事務所では、少しでもそんな方々の力になりたいと男性側の離婚案件を多く扱ううちに、ノウハウを獲得するとともに現在の離婚司法の抱える問題点を認識するようになり、法律相談に来られた方々には、私たちが獲得したノウハウや問題点を伝えることで、解決の力添えもできました。
こうした経験を生かして、離婚問題に悩んでいるひとりでも多くの男性に希望を見出してほしいと考えているとき、本書を出版する機会をいただいたのです。
本書には、現時点で私たちの事務所が考え得る離婚問題への対応のしかたを、可能な限り網羅しました。もちろん、今後も離婚問題に関する男女の格差を少しずつでも解消すべく努力を惜しまないつもりです。
数年後には、本書の内容や『男の離婚術』という本書の題名が「古臭い」といわれる状況にしていければと考えています。読者のみなさんの中には、本書で例に挙げたケースと同じような状況に陥っている方もいることでしょう。
ただ、当然のことではありますが、夫婦や家族のあり方は、これといった正解のないものですし、同じ離婚案件はこの世に二つと存在しません。
そのため、本書に書かれていることだけでは、あなたの悩みをすべて解決することはできないかもしれません。そのようなときは一人で悩まず、私たち弁護士にいつでも相談してください。悩むのであれば、私たちと一緒に悩みに悩んで、あなたにとって、より良い解決を目指しましょう。
最後になりますが、離婚にかかわるあなたの悩みが解決し、幸せな日々がやってくることを祈っています。
2 0 1 4年 11月弁護士法人マイタウン法律事務所 所属弁護士を代表して「男の離婚」主任弁護士 柳下明生
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