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第 2章ダークな性格とリーダーシップ・仕事・社会的成功

第 2章 ダークな性格とリーダーシップ・仕事・社会的成功

1 ダークな性格とリーダーシップダークな性格の代表的な悪徳経営者/カリスマ的リーダーに多いダークな性格/カリスマ的リーダーの代表、ジョブズとマスク 2 職場の中のダークな性格企業の中でよく見られるサイコパシーな人々/組織での心理的安全性の重要さ/職場の逸脱行動とはどういうものか/ダークな性格と非生産的職務行動/サイコパシー要素がもつ意味 3 ダークな性格が得意なこと学部専攻に見られるダークな性格の特徴/ギャンブルとダークな性格/他者操作が役立つ仕事 4 ダークな性格は、社会的成功につながるのかダークな性格のどんなところが成功につながるのか/ダーク・トライアドと職場の雰囲気

1 ダークな性格とリーダーシップ ダークな性格は、人間関係の中でその特徴があらわれてきます。特に、集団や組織の中で特徴が表面化することがあります。 他の人を自分の思い通りに利用する、他の人の気持ちを考えない、いいか悪いかを気にせず自分の思い通りにことを進めようとする、自分の利益を最優先に考えて他の人の負担があっても気にしない……このように、ダークな性格は人間関係でその特徴が如実に表現されます。それは、企業の中でも同じです。†ダークな性格の代表的な悪徳経営者 ダークな性格の事例としてよく取り上げられる人物に、アルバート・ジョン・ダンラップがいます( 46)。 ダンラップは、一九九〇年代にアメリカの経済界で有名経営者として知られる人物でした。日本でも会員制の倉庫型巨大スーパーのコストコに行くと、アメリカのスコットというロゴがついたティッシュペーパーやペーパータオルなどを目にするのではないでしょうか。私自身も、少しだけアメリカ合衆国に滞在していた経験があるのですが、比較的安価で量も多いスコット印のトイレットペーパーをよく購入していた記憶があります。 一九九〇年代半ば、ダンラップはいくつかの会社で経営者として経歴を積んだ後に、当時もアメリカ最大の衛生紙製品の製造・販売会社であったスコット・ペーパー社の最高経営責任者( CEO)となります。一九九五年に彼はすぐにスコット・ペーパー社を紙おむつや衛生紙用品を世界中に展開するキンバリー・クラーク社に売却します。ストックオプション(自社の株を予め決められた価格で購入できる権利)と株価の上昇もあり、その売却に伴ってダンラップも多くの資産を手にすることになりました。 一九九六年、ダンラップはサンビーム社の会長兼 CEOに就任します。サンビーム社は、アメリカの一九六〇年代から七〇年代を彷彿とさせる、トースターやミキサーなどの家電品を製造する会社でした。アメリカの古い映画に出てくるような、シルバーで大きめのトースターを思い浮かべるとよいのではないでしょうか。ダンラップはこの会社でも、短期間でなんとか利益を積み上げ、どこかの会社に丸ごと売却することを画策します。しかし結果的に、うまくいきませんでした。 ダンラップの経営手法は、次々に従業員を解雇して、不必要(だと無理やり判断させるのですが)な工場を閉鎖し、ダウンサイジングしてコストを圧縮することで、結果的に利益が積み上がっているように見せる、というものでした。あまりにも誰かれ構わず解雇していくことから、電動のこぎりのように首を切るという意味で「チェンソー・アル」というあだ名がつけられたほどです。しかも、ダンラップ自身が部下のクビを直接的に宣告するわけではありません。自分ではほとんど手を下さず、部下を使って解雇の宣告をしていくのです。可能な限り自分の手は汚さず、部下を悪者にしていく点も彼の特徴です。 ダンラップのサンビーム社の様子は、アメリカのジャーナリスト、ジョン・ A・バーンによる『悪徳経営者──首切りと企業解体で巨万の富を手にした男』(日経BP社、二〇〇〇年)に詳しく描かれています。たとえば、ダンラップは自分自身のイメージをよくすることを優先し、ゴタゴタして問題の多い私生活についてはほとんど公にしていませんでした。また、過去の実績や経験、経歴を捏造したり誇張したりして吹聴する場面も多かったようです。そして支配欲が強く、短気で、いったん怒りに火がつくと手がつけられなくなることを、一緒に働く誰もが知っていました。 このような上司の下で働く部下たちは、どのような思いだったのでしょうか。このことも本の中に描かれています。 ダンラップの前では部下たちは誰もが膝が震え、胃が痙攣したそうです。部下たちはいつかダンラップの逆鱗に触れるのではないかと怯え、重圧に耐えなければいけません。まるで、どこかに地雷が埋まっていて、いつ踏んでしまうかがわからないような状態です。部下たちは、「重圧を感じる」という生やさしいものではなく、「残忍」といってもよいくらいだと報告しています。またあるサンビームの幹部は、「きつい人間と悪意のあるダーティな人間は違う」と述べています( 47)。ダンラップは、部下に夜中まで仕事について心配をさせるようなきつい人間ではなく、相手を恐怖で縛り付けるようなことをする悪意のある人間だというのです。相手を脅し続け、暴力的で、骨の髄までしゃぶり尽くそうとする人物だということです。 さらに、ダンラップは使えると判断した部下に対して、並外れて高額の報酬を提示することもしています。部下たちはそのために、通常はしないような不正に手を染める状況に追い込まれていきます。幹部の中には、数百万ドル規模の報酬のために、自分自身の良心を裏切る行為を正当化する人もいました。ダンラップは、アメとムチを使い分けて、自分の思い通りに人を使うことを繰り返していたのです。 一方で、先にも述べたように、ダンラップは自分自身では実際に部下をクビにするなど直接的な手を下さず、自分の手を汚そうとはしませんでした。その背景には、「ダンラップほど傷つきやすく、それでいて巨大なエゴをもつ人物は稀だった」という特徴が隠れていたと考えられます。自分自身が傷つくことは避け、レイオフや工場閉鎖など人から恨まれるようなことはすべて人に任せ、自分の業績を誇張することで賞賛を集めることを目指していたのです。 ダンラップの行動パターンを見ていると、まさにダークなパーソナリティの特徴にぴったりとあてはまってくるのではないでしょうか。†カリスマ的リーダーに多いダークな性格 フォロワーに心理的な影響を与え、感情を揺さぶり、信念や価値観など内面から影響を与えてフォロワーの自己成長を促すようなリーダーシップのことを「変革型リーダーシップ」と呼ぶことがあります( 48)。それに対して、成功や失敗に対して報酬や罰のフィードバックを与えることで、行動を引き起こそうとするリーダーシップを「交換型リーダーシップ」と呼びます。またもう一つのリーダーシップのスタイルとして、リーダーがあまり関与せずメンバーの自主性や創造性を促そうと試みる「放任型リーダーシップ」もあります。リーダーシップには、その他にもさまざまなパターンが考案されており、多くの議論が行われています。 そもそもリーダーシップというのは、特定のグループまたは組織の目標達成に向けて他者に影響して支援を与え、努力を促し動機づけるなど、他の人々を導くことに関連するプロセス全般を指します( 49)。そしてリーダーシップには、リーダーとフォロワーが相互に影響を与えあう互恵性、リーダーとフォロワーがともに報酬を増やしていくために時間やエネルギーやスキルを交換する交換性、リーダーがフォロワーの感情を揺さぶり価値観に影響を与える変革性、フォロワーが自発的にリーダーの意向を受け入れる協力性など、多くの要素が含まれます。 ダークな性格の持ち主としてイメージされるリーダーは、カリスマ的なリーダーではないでしょうか。先に紹介したダンラップも、周囲の人々(ただし直接的にダンラップの部下にはなっていない、投資家や一般の人々)からはカリスマ経営者だと評価されていました。 社会学者のウェーバーは、権力者が社会を正当に支配する基礎として、伝統的支配、合法的支配、カリスマ的支配という三類型を示しました( 50)。伝統的支配は、以前からのしきたりや血筋、家柄などを根拠にするもので、世襲制に基づく支配が代表的です。合法的支配は、手続きや規則、法律などに基づくもので、法治国家における支配関係のことを指します。そして、カリスマ的支配は、超人的で非日常的な資質やスキルに基づく支配のことを指します。神の啓示に基づいて支配関係が成立したり、預言や超人的な奇跡に基づいたりする場合に、カリスマ的支配が成立します。 カリスマ的リーダーは、非凡な才能をもつ、あるいは非凡な才能をもつ人物だと認識され、その才能に魅了された人々に受け入れられるリーダーのスタイルです。そして、変革型リーダーシップの一部に、カリスマ的なリーダーの行動が含まれることがあります。

†カリスマ的リーダーの代表、ジョブズとマスク カリスマ的リーダーとして思い浮かぶ代表的な人物に、スティーブ・ジョブズ( 51)やイーロン・マスク( 52)がいるのではないでしょうか。 ジョブズは友人のスティーブ・ウォズニアックとともに、一九七六年に米アップル社を設立した人物です。途中でアップル社を退職する(させられる)のですが、今ではアニメーション映画で誰もが知るピクサー社を設立したり、一九九〇年代に業績不振に陥っていたアップル社に戻ってから iMac、 iPod、 iPhone、 iPadと立て続けにヒット商品を生みだしたりしたことも、カリスマ経営者のイメージを決定づけたと言えるでしょう。 そして「もうジョブズのような経営者は現れないだろう」と人々が思っていたところに登場したのが、イーロン・マスクです。マスクは南アフリカ出身で、母親がカナダ出身だったことからカナダの大学に進学します。その後アメリカの大学に進学し、スタンフォード大学の大学院にも進学するのですが、一九九〇年代半ばにネット企業を設立します。 その後、マスクはオンライン決済で知られるペイパル、宇宙開発企業であるスペース X、衛星インターネットアクセスのスターリンク、電気自動車のテスラなど、多くの企業を立ち上げていきます。 Twitter社の買収も行い、 Xと改名しています。マスクは息子に「 X Æ A-XII」(エックス・アッシュ・エートゥエルブ)と名前をつけていますし、「 X」の文字を好んでよく使うようです。このように見ると、マスクはジョブズよりも精力的に多方面で起業しており、現代の超人的なカリスマ経営者だとも言えます。 何年前だったでしょうか、時期も内容も記憶は曖昧なのですが、就職活動をする学生向けに「目指せ、スティーブ・ジョブズ」といった内容の広告を見かけたことがあります。しかし、ジョブズの伝記や記録を読む限り、彼のもとで仕事をするというのは本当に大変なことだったのだろうと思わされます。 彼は、とても実現できないような目標を達成するために、彼自身の魅力やカリスマ性、虚勢や誇張などを使いながら、あたかも最初から実現可能であるかのように部下たちに思い込ませる能力をもっていたと言われます。これをアップル社の副社長を務めたバド・トリブルは、「現実歪曲フィールド」と呼んだそうです。そしてジョブズにもたとえられる革新的な起業家イーロン・マスクも、同じように現実を捻じ曲げ成功に導くような一面があることが書籍の中に描かれています。 伝記などを読む限り、ダンラップのもとでもジョブズのもとでもマスクのもとでも、部下として働くことは並大抵のことではないと思わされます。この三者の誰のもとで働いても、身の縮むような思いを繰り返すことでしょう。 しかし、ジョブズやマスクよりも、明らかにダンラップのさまざまな特徴が、ダークな性格に一致するように見えるのです。ダンラップとジョブズやマスクとで決定的に異なるポイントは、「自分の利益を最優先するかどうか」にあると考えられます。ジョブズやマスクの原動力は「世界を変えること」にあり、ダンラップは「自分の利益を最大にすること」にあるように見えるのです。この点が、ダークな性格かそうではないかを分ける一つの重要なポイントではないかと思います。 2 職場の中のダークな性格†企業の中でよく見られるサイコパシーな人々 企業の中でダークな性格の持ち主が適応しやすい様子は、産業・組織心理学者のポール・バビアクと、サイコパスの研究者ロバート・ヘアの共著『社内の「知的確信犯」を探し出せ』(ファーストプレス、二〇〇七年)にも描かれています( 53)。 ヘアが著者となっていることからも、この書籍で描かれているのは、特にサイコパシーの高い人々です。ここまでに述べてきたように、サイコパシーの特徴は他のダークな性格にも共通する部分が多数あります。また、書籍の中で描かれるさまざまな特徴を見ていくと、サイコパシーよりも他のダークな性格に近いのではないかと思わせる部分もあります。 さて、どうしてサイコパシー的な人々が、企業の中でよく見られると考えられるのでしょうか。 第一に、サイコパシーの中核的な特性が、企業にとっては魅力的な能力に見えることから、その性格の特徴が採用の決め手になってしまう可能性です。サイコパシーの高い人物は冷静で自信にあふれた振る舞いをするため一見魅力的で、巧みな話術で自分のペースに巻き込む傾向があります。魅力的な人物に映るというのは、サイコパシーだけの特徴ではありません。ナルシシズムの高い人物は自信満々で整った外見をしていることが多く、初対面の人からは信頼できそうな人物に見えるかもしれません。また、マキャベリアニズムの高さは、採用場面でもさまざまな手段や戦略を用いて、採用という目的を達成するために画策する傾向につながると考えられます。結果的に、ダークな性格の持ち主は一定の確率で企業の中に入り込んでくると予想されるのです。 第二に、企業の採用担当者は、サイコパシー的な態度を「リーダーとしての適性がある」と考えてしまう可能性です。これは、一見冷静で、物事に動じないような態度をもっている人物であるようにみえるからです。人を巧みに操り、はっきりと決断を下し、上の立場から人々を動かすという特徴は、リーダーや経営者に求められる特徴です。この望ましい経営者の特徴は、サイコパシーの特徴と部分的にではありますが重なってくるのです。しかしこれも、サイコパシーだけに限った話ではないように思います。ダークな性格が関連する、他者を支配したいという欲求、周囲の人々よりも優れているという感覚、自分の欠点をうまく隠し有能に見せる行動などは、少し見方を変えるとリーダーに向いているかのように見えてしまう可能性があります。 第三に、ビジネスそのものがもつ特徴が、サイコパシーをはじめとするダークな性格にフィットしてきているという点です。特に二〇世紀後半以降は先に述べたように、強いカリスマ的なリーダーシップを発揮して、従業員の考え方に影響を与えるような変革型のリーダーがもてはやされる時代になりました。先に紹介したダンラップの例のように、他社からの見え方にも気を配るダークな性格の持ち主は、カリスマ的なリーダーであるかのように見えてしまう可能性があります。 そして第四に、特定の企業はダークな性格の持ち主に好かれる可能性があるという点です。特にスタートアップ企業のような比較的若い企業の場合には、既存のルールや価値観にとらわれず、他の経営者や企業を出し抜こうとする志向性が強くなります。ダークな性格の持ち主にとって、このような企業はとても魅力的に映るのです。衝動的で競争心の強いダークな性格の持ち主にとって、スタートアップ段階の企業は拘束や縛りも少なく、自由に振る舞えるように感じられますので、魅力的に映ることでしょう。さらにスピーディでハイリスク・ハイリターンなビジネス環境にも、ダークな性格の持ち主は惹きつけられます。ダークな性格の持ち主は、特定の職場に集まりやすい可能性があるのです。 もちろん、このような職場にダークな性格の持ち主が大挙して押しかけるようなことはないでしょう。しかし、ときには先にみたダンラップの例のように、トラブルを引き起こす可能性の高い人物が、上司やリーダーとして上の立場に君臨することがあるかもしれません。†組織での心理的安全性の重要さ あなたが働いたり、活動したりしているグループは、どのような特徴をもつでしょうか。次の特徴があてはまるかどうかを考えてみてください。 ・このグループでは、安心してリスクを取ることができる。 ・このグループでは、他のメンバーに支援を求めやすい。

・このグループでミスをしても、咎められるようなことはない。 ・このグループのメンバーは、私の努力を認めてくれる。 ・このグループでは、自分の能力が評価されている。 ・このグループのメンバーは、互いに難しい問題について議論しあうことができる。 どうでしょうか。皆さんが、自分が所属するグループについて考えたときに、これらのことをどのように思うでしょうか。 これらの文章は、心理的安全性と呼ばれる特徴や、実際に心理的安全性の研究で用いられる質問項目をもとに、独自に作成したものです( 54)。 心理的安全性とは、自分の意見を述べても、間違いを指摘しても、正直に自分の気持ちを表明しても、罰せられたり辱めを受けたりすることなく、安心して意見を表明できる状態のことであり、あるいは自分が所属する組織がそのような状態であるという信念をもつことを意味します。心理的安全性が保たれている状態というのは、自分があるグループに所属しているときに、安心してそのグループの中でふるまうことができるだろうと予想することができる状態のことを指します。 グループのメンバーがこのような信念を共有していれば、メンバーたちはお互いに自由に意見を言い合うことができます。すると、隠し事が少なくなり、グループ全体の透明性が高まることが期待されます。逆に、「こんなことを言ったら、変な風に捉えられてしまうのではないか」と疑心暗鬼になるような状況が、心理的安全性が低い状態です。心理的安全性が低ければ、自由な意見交換が妨げられてしまいます。 心理的安全性をうまく構築するためには、リーダーの役割が重要だと考えられます( 55)。明確なルールと期待を作り出し、予測可能性と公正さをメンバーに感じさせることが大切です。そしてオープンなコミュニケーションを奨励し、従業員の話に積極的に耳を傾けるようにします。グループのメンバーたちが支援を受けていると感じられるようにすること、メンバーたちが発言したときには感謝と謙虚な傾聴を示すことも重要です。 仕事でミスをしたとき、そのミスについては触れずに黙っていることが「安全だ」と思ってしまいがちです。しかし、このようなありがちな反応をうまく打ち消すことが、心理的安全性の構築には求められます。心理的安全性が高まるようなグループの雰囲気をうまく作り出すことができると、メンバーたちは自由で活発な意見交換を行い、ミスがあっても謝罪とともにその内容を明らかにし、隠し事をしないようになると予想されます。†職場の逸脱行動とはどういうものか ダークな性格の持ち主が職場の中に入ってくると、心理的安全性が脅かされるのではないかと予想されます。その理由の一つは、ダークな性格の持ち主たちが、非生産的職務行動( counterproductive workplace behaviors: CWB)と呼ばれる行動をとる可能性が高いという点にあります。 非生産的職務行動とは、特に理由なく頻繁に遅刻をしたり、休みを取ったりすること、法律やルールを逸脱すること、不正を隠すことなど、職場において非協力的な行動のことを指します。ただし、この行動群の中には多様なものが含まれます。田中堅一郎は、職場における非生産的行動に関連する行動を、次の四つの内容に整理しています( 56)。 第一に、組織における反社会的行動です。これは、組織や組織成員、管理者に対して、害を及ぼしたり害を及ぼそうと意図されたりするすべての行為のことを指します。放火、恐喝、贈収賄、差別、スパイ行為、強要、詐欺、暴力、ピンハネ、訴訟、虚偽、怠業、セクハラ、窃盗、機密性の侵害、内部告発など、組織内の広い行動が網羅されています。 第二に、職場攻撃性です。これは、組織や協働者に害を及ぼそうと意図された、個人によるあらゆるかたちの行動のことを指します。ここには、破壊的行為を意図したり実際に破壊的行為に関与したりするという攻撃性と、実際に同僚を身体的に傷つける暴力が含まれます。また、身体的な攻撃だけでなく、言語的な攻撃や心理的な攻撃も、攻撃性の中には含まれます。 第三に、職場の逸脱は、組織のメンバーによる自発的な行動で、組織の規範に著しく背くものであり、組織やメンバーの福利が脅かされるものを意味します。この中には、機器備品の破壊や窃盗など所有の逸脱、セクハラや言語的な虐待など個人攻撃、勝手な早退や休息など生産の逸脱、えこひいきや噂話など政治的逸脱という多様な行動が含まれます。 第四に、職場の無作法です。これは、職場における相互関係の規範に反し、他者に危害を加えようとする曖昧な意図をもった低い強度の逸脱行動のことです。「曖昧な意図」と説明されているように、職場の無作法は、意図的に行われるというよりも、配慮を欠いた行動と言ったほうがよいものです。しかし、無作法は時に相手の感情を逆なでし、人間関係のやりとりの中で互いに問題がエスカレートしてしまうケースも予想されます。 このような人物が職場の中に入ってくれば、職場の人間関係やモラルがダメージを負い、心理的安全性が脅かされるというのは当然のことのように思えます。†ダークな性格と非生産的職務行動 スペインの心理学者フェルナンデス・デル・リオらは、サディズムも加えたダーク・テトラッドについて、職務遂行能力との関連を検討しています( 57)。この研究では、職務内容に直接関連する課題パフォーマンス、追加的な仕事やチームワークなど職務に付随的な文脈的パフォーマンス、そして非協力的で非生産的職務行動が取り上げられています。 ナルシシズムは、どの職務パフォーマンスの高さにも関連していました。マキャベリアニズムは、課題パフォーマンスには関連していましたが、文脈的パフォーマンスには関連していませんでした。一方でサイコパシーとサディズムは課題パフォーマンスの低さに関連しており、サディズムは非生産的職務行動の多さに関連することが示されています。サディズムを加えたダーク・テトラッドの枠組みで考えると、職場の中でもっとも問題をもたらす行動に結びつく可能性があるのは、サディズムだと言えるかもしれません。 このような研究は、どこで調査を行うかによって調査対象の違いも大きく、研究によって結果が異なってくる可能性があります。そこで、結論を下すためには、複数の研究結果を統計的に統合するメタ分析という研究方法が役に立ちます。ただし、サディズムがダークな性格として研究され始めてからまだ日が浅く、メタ分析で統合するほど多くの研究知見が報告されているわけではありません。そこでここでは、ダーク・トライアドについて行われたメタ分析の研究結果を見ていきましょう。 アメリカの産業組織心理学者オ・ボイルらは、一九五一年から二〇一一年までに公表された二〇〇以上の研究結果をレビューし、メタ分析で結果を統合することによって、ダーク・トライアドと非生産的職務行動との関連を検討しています。結果から、全体的にダーク・トライアドは、あらゆる種類の非生産的職務行動との間に関連が認められました。一方で、ダーク・トライアドは職業上のパフォーマンスにはほとんど関連しないことも明らかにされています。 ただし、この研究では少し変わった現象が見られることも報告されています。それは、ダーク・トライアドの三つを同時に用いて非生産的職務行動を予測すると、マキャベリアニズムとナルシシズムはプラスの関連を示すのに対し、サイコパシーだけはマイナスの関連を示すという現象です。マキャベリアニズムとナルシシズムの要素を取り除くと、サイコパシーはむしろ仕事において生産的な行動へと結びつく可能性があるのです。

この結果については、統計的な説明の可能性、方法論的な説明の可能性、そして理論的な説明の可能性が考えられています。 統計的な説明は、ダーク・トライアドの三つの性格特性が互いに関連することに起因します。サイコパシーは、マキャベリアニズムともナルシシズムとも関連します。そして、マキャベリアニズムやナルシシズムに比べると、サイコパシーは非生産的職務行動と非常に弱い関連しか示しませんでした。このような時に、ダーク・トライアドの三つを同時に用いて非生産的職務行動を説明する分析をすると、関連が弱い変数からの説明がマイナスになってしまうことがあります。 方法論的な説明は、分析に含められた対象者の問題です。この研究のメタ分析に含められた先行研究の中で、ダーク・トライアドのうちサイコパシーだけについて検討された研究では、警察官や軍人、刑務官など権威的な地位を対象としたものが多かったそうです。権威や上下関係の明確な組織に所属する労働者の場合、サイコパシー的な冷淡さが非生産的職務行動をむしろ抑制する方向に機能する可能性があると考えられます。このような組織では、サイコパシーの高い人物が望む組織内の地位の上昇が、真面目な勤務の中で明確にもたらされる可能性が高いからかもしれません。 そして、理論的な説明です。†サイコパシー要素がもつ意味 理論的には、マキャベリアニズムの操作性とナルシシズムの自己中心性の要素が取り除かれたサイコパシーが、どのような意味をもつのかという議論がポイントとなります。 物語の中では、サイコパシー的な特徴をもつ登場人物が、魅力的に描かれることがあります。その代表的なキャラクターとして、シャーロック・ホームズを挙げることができるでしょう。多くの場面でシャーロックは、他の人の気持ちを考えず、自分が思ったことをずけずけと口にしていきます。たとえば服装や持ち物などの些細なヒントから相手がどこにいたのか、その人がどのような特徴をもっているのか、また本人が隠していそうな部分まで、相手が不快に思っていようが初対面の相手であろうが、お構いなしに指摘していきます。 イギリスの俳優ベネディクト・カンバーバッチは、ドラマシリーズ「シャーロック」で、現代版のシャーロックを演じています。その中で、「 I’ m not a psychopath, I’ m a high functioning sociopath.(私はサイコパスではない。高機能ソシオパスだ)」というセリフを発しています。小説の中のシャーロック・ホームズが活躍したのが一九世紀末だとすれば、サイコパスやソシオパスという単語を使うこと自体が考えられません。このセリフ自体、非常に現代的なものだと言えます。 いずれにしても、ソシオパスはサイコパスとほぼ同じ特徴に対してつけられた用語ですが、理論が提唱された背景や時代から、より環境によって形成されることが仮定される概念です。カンバーバッチ演じるシャーロック自身が「高機能な」と述べているように、自己の利益を追求したり、他者を傷つけたりすることを目的としないサイコパシー的要素は、有能で仕事もでき、時に魅力的にすら映る人物となる可能性があるのです。 ちなみに、ある日私は自分の子どもたちと一緒に、シャーロック・ホームズの妹が活躍する『エノーラ・ホームズの事件簿』という映画を観ていました。この映画に登場するエノーラの兄シャーロック・ホームズは妹を献身的に助ける役回りを演じており、サイコパシー要素がとても薄いキャラクターとして描かれていました。その様子を見たときに思わず、「これはホームズらしくない性格だなあ」と思ってしまったのを覚えています。 他の人を自分の思い通りにあやつるマキャベリアニズムの要素と、過剰に自分自身にたいして特別な感覚を抱く自己中心的なナルシシズムの要素を取り除いたとき、サイコパシーに残された特徴は、利己的な要素が薄く物事に惑わされない、冷静な判断を下す人物像になります。このことが、仕事については一流のシャーロック・ホームズのように、条件によってはサイコパシーが生産的な行動へと結びつくという結果をもたらしていると考えられるのです。 3 ダークな性格が得意なこと†学部専攻に見られるダークな性格の特徴 そもそも、ダークな性格の持ち主は、大学の学部選びの段階から独自の特徴が表れてくるようです。心理学者ヴェデルとドーセは、デンマークの大学に新しく入学してきた四八七名を対象に調査を行っています。年齢は一七歳から四五歳まで、平均年齢は二一歳でした。大学新入生といっても、日本の大学に比べると年齢範囲が広い印象です。 アンケートに回答した学生たちは、心理学専攻、経済学・経営学専攻、法学専攻、政治学専攻に分かれていました。ちなみに論文には、お礼として「くじ」を引くことができたと書かれています。当たりは一〇枚だけですが、好きなショップやカフェで使うことができる、アメリカドルで一四五ドル分の商品券が用意されたそうです。 さて、ダーク・トライアドのうちサイコパシーについては専攻間で違いは見られていません。しかし、ナルシシズムとマキャベリアニズムについては、専攻によって違いが見られました。心理学専攻の学生はナルシシズムもマキャベリアニズムも低い傾向が見られています。その一方で、経済学・経営学専攻の学生はほかの専攻の学生たちに比べて、ナルシシズムもマキャベリアニズムも高い傾向が見られました。法学や政治学を専攻する学生の平均値は、心理学と経済学・経営学専攻の学生とのあいだに位置していました。 この調査が行われたのは、新学年が始まったばかりの九月です(デンマークの大学では、八月半ばくらいから新学年が始まるようです)。大学に入学した直後の学生たちであるにもかかわらず、すでに専攻間でダークな性格の平均値に違いが見られていることになります。 ナルシシズムについては、仮想通貨(暗号資産)や株式に対する態度との関連を検討した研究も行われています( 58)。この研究では「仮想通貨についてどう思うか」という質問に対して、「好ましくない」から「好ましい」まで、また「悪い」から「良い」までそれぞれ七段階で回答が求められています。加えて同時に、「株式についてどう思うか」という質問への回答も求められました。 分析の結果、ナルシシズムは仮想通貨を「望ましい」と肯定する態度と関連を示しましたが、株式を肯定する態度とは明確な関連が認められませんでした。仮想通貨も種類は多いのですが、株式ほどではありません。株式に関しては選択しなければいけない銘柄も多く、個別の株式の売買によって結果は変わります。 そして仮想通貨と株式を比較すると、全体的な価格の変動の幅が異なります。このような変動の激しさのことをボラティリティと呼ぶのですが、両者の違いはここにありそうです。株式投資にもギャンブル的な要素はあるとは思うのですが、これまでの価格変動を見ると、仮想通貨のボラティリティのほうが大きく、投資に対する大きなリターンも期待されます(もちろん、価格が大きく下落する可能性もあります)。従って、この研究結果は、ナルシシズムの高さがより「一発大もうけ」を狙う選択につながる可能性を示しています。このように考えると、ダークな性格の持ち主が、危険な投資やギャンブルに魅力を感じる様子が思い浮かびます。†ギャンブルとダークな性格 ある行為がギャンブルかどうかを分ける境目は、どこにあるのでしょうか。刑法の解釈によると、賭博(ギャンブル)とは、偶然の勝負に関し財物の得喪(得ることと失うこと)を争うことだとされています( 59)。とはいえ、競馬や競輪、ボートレースなどの公営ギャンブルを楽しむ人たちは、自分の賭けが「完全に偶然」だとは思っていないのではないかと思われます。 たとえば競馬の場合には馬の血統、個性、調教の様子、レースの距離や馬場の状況との兼ね合いなど、多くの情報を考えながら賭けを行っていく様子が思い浮かびます。しかしこれは投資ではなく、賭博だとされています。一方で、宝くじは完全に偶然で当選が決まることから、賭博の条件をみたしているように思われます。しかし、宝くじを買っている人は、自分の行為を「ギャンブルをしている」とは認識していないかもしれません。 ギャンブルを考えるときの一つの大きなポイントは、射幸心です。射幸心というのは、思いがけない利益や、降って湧いたような幸運を望む心のことであり、努力なしに偶然の利益や成功を願うことです。スポーツくじや宝くじがギャンブルではなく「くじ」だとみなされるのは、当選の確率があまりに低いので、射幸心が生じにくいだろうと判断されているところからきています。一方でギャンブルはそこまで当たる確率が低くなく、何回か試みると偶然当たりが生じます。すると、射幸心が刺激されて、「もう一度、もう一度」と何度も繰り返す行動へとつながってしまう可能性が高くなります。 さて、ではダークな性格はギャンブルをすることにつながるのでしょうか。 ポーランドのセクシンスカらは、二つの宝くじのうちどちらを選択するかという課題を実施して、性格との関連を検討しています( 60)。これら二つのくじは当たりの金額が操作されていて、片方は当たる確率が高くて当選金額が低いリスクが低いくじ、もう片方は当たる確率が低く当選金額が高いリスクの高いくじでした。少しずつ金額が異なるくじが示され、一〇回選択が行われます。リスクの違いから、どちらを選択するかによって回答者がどの程度リスクをとるかが評価されました。 この研究では多岐にわたる性格の要因が検討されており、その中にはダーク・トライアドも含まれていました。そして結果から、ダーク・トライアドの中ではサイコパシーが、よりリスクの高いくじの選択をすることが示されました。 ギャンブルは射幸心を刺激します。そして射幸心から「ついもう一度」が繰り返されることで、日常生活に問題が生じるようになると、「依存」や「問題」だと判断されるようになります。常にギャンブルのことが頭の中を占めていて、ギャンブルのことばかりを考えてしまい、仕事や勉強、生活に支障が出てくるようになると、ギャンブルの行為そのものが問題だとされるようになってくるのです。このような状態に陥ることを、問題ギャンブリング(プロブレム・ギャンブリング)と言います。 アフリカのナイジェリアで、ダークな性格と問題ギャンブリングとの関連を検討した研究があります( 61)。調査の対象となったのは平均年齢二二歳のナイジェリアの大学生ですが、問題ギャンブリングを測定する基準から、低リスクのギャンブラーが約二割、中程度のリスクのギャンブラーが約三割、問題のあるギャンブラーは約五割という割合になっていました。 これらの数字を見ると、この大学ではギャンブルをする学生が多い、という印象を抱きます。論文に書かれている内容によると、調査が行われたナイジェリアは、アフリカ大陸のギャンブルビジネスの普及率では南アフリカに次ぐ第二位に位置しており、さらに現在も急激に成長しつつあるそうなのです。また、ワールドカップで日本と戦ったこともあることからも想像できるように、熱狂的なサッカーファンが多いナイジェリアでは、スポーツへの賭けも盛んに行われているようです。この調査は、スポーツ関連の賭けをした経験がある学生に対して、調査協力を依頼したのでした。 さて調査の結果によると、ダーク・トライアドの中ではサイコパシーが問題のあるギャンブルの多さに関連し、ナルシシズムは問題のあるギャンブルの少なさに関連することが示されています。特に、同じ大学生の中でも年齢が高くなると、サイコパシーの高さとナルシシズムの低さが、より明確に問題のあるギャンブルに関連していくことが示されています。 宝くじの研究でも問題のあるギャンブルの研究でも共通しているのは、サイコパシーの高さです。自分の利益を優先する傾向としては、マキャベリアニズムにもサイコパシーにも共通する部分があるのですが、マキャベリアニズムはギャンブルにはあまり関係しないようです。マキャベリアニズムの高さは、成功の見込みや確率を高める方法を戦略的に考え、他の人々を利用していくことに関連します。一方でサイコパシーの高さは、たとえ利益の確率が低くても、あとさきを考えず衝動的に行動していく特徴があるとされます。この点が、サイコパシーの高い人がリスクのある選択を行い、ギャンブルにも惹かれていく理由なのかもしれません。†他者操作が役立つ仕事 ずいぶん昔、『永田町の掟──「欲望渦巻く町」の超ぶっとび事情( 62)』(光文社、一九九五年)という本を読んだことがあります。この本の著者は豪徳寺三生となっていますが、国立国会図書館のデータベース上でもこの名前がペンネームであることが示されています。そして、このペンネームの持ち主は、もと総理大臣である小泉純一郎氏の秘書であり、安倍政権で内閣官房参与も務めた、飯島勲氏です。 この本の中で描かれているエピソードは、どれも非常に面白いものです。 選挙ではいかに他陣営を出し抜き、自陣営に有利に事が運ぶかを予測しながらさまざまな作戦を練って実行していく様子が描かれます。もちろん、どこまで本当のことなのかはわからないのですが……たとえば、選挙が終わると、必ずと言っていいほど選挙違反で摘発されるニュースが流れます。 選挙が始まると、各都道府県の警察本部が選挙違反の摘発に備えるようなのですが、経験を積んだ秘書はそのことを十分に頭に入れた上で、事務所を設置して運営するそうです。自分が捜査員だったらどこで見張るのかを考え、他陣営からの監視も考えます。入り口を見張りにくい場所に設置したり、周囲に身を隠す場所がないような空き地の真ん中にプレハブ小屋を建てて事務所にしたりする様子が書かれています。相手の出方を先に読んでいかに出し抜くかが、必要とされるスキルの一つになっています。 また、こんな話も載っています。選挙運動の期間中、ひとりの選挙スタッフに、毎朝出勤したら指定された場所から段ボールの箱をもって二階に上がり、夜遅くもとのところに戻すように伝えます。段ボールの中には、特に重要なものは入っていません。他のスタッフには、「誰かに何か聞かれたら、彼は口が固くて凄く信頼されているとだけ答えるように」と徹底しておきます。その一方で、警察には「動きのおかしいスタッフがいるので見張ってください」という連絡を入れておきます。当然、連絡を受けた警察は、毎日朝晩かならず段ボールを運んでいるスタッフを、重要人物としてマークすることになります。 さて、投票が終わると警察の捜査が入り、段ボールを運ぶ怪しい行動をしていたスタッフも取り調べを受けることになります。しかし当然、そのスタッフは段ボール箱の中身を知りません。そして周囲のスタッフも、「彼は口が固く信頼されています」と供述しますので、拘留は長期間に及びます。しかしいつまで経っても、何日過ぎても、その男性は口を割ることはありません。何も知らないのですから、それが当然です。 さて、なぜこんなことをするかというと、スタッフの拘留が長期間に及んでいる間に、当の選挙事務所では、本当に選挙違反をしていたことの証拠をすべてきれいに処理して、安全を確保するという作戦になっているからです。 その間にも、秘書は何度も拘留されているスタッフのもとに差し入れを携えて面会に行き、「出られるようにしてやるから、もう少し我慢しろ」と慰め励まします。無事、拘留期間が終わって警察から出てきたスタッフは、何度も訪問してくれた秘書に感激して、本当は作戦のために一つのコマとなって動いていただけであるにもかかわらず、末永くこの秘書に忠誠を誓うようになるというのです。 いや、本当にこういうことがあるのかどうかはわかりません。本の中でも「聞いた話です」と書かれていますので……。しかし、このエピソードを読ん

だとき、「自分には、とてもこんなことはできない」と強く感じて印象に残っています。 もちろん、この本に面白おかしく挙げられているエピソードは極端な例だとは思うのですが、うまく全体の図式を描いて自分の思い通りに動かし、他の人たちもその作戦の中で動いていく、まさに「他者を操作する」という能力が、社会の中で有利に働く場面があることは間違いないと言えるのではないでしょうか。 4 ダークな性格は、社会的成功につながるのか†ダークな性格のどんなところが成功につながるのか イギリスの心理学者ダットンは、外科医、弁護士、企業のトップなど非常に成功する人々の間にも、サイコパシーの高い人々がいると述べています( 63)。リスクを回避しないという特徴と、良心の呵責をあまり感じないという特徴は、犯罪においても、ビジネスにおいても、状況次第で有利に働く可能性があるというのです。 確かに、ダークな性格の持ち主の特徴の一つである冷淡さ、他者の感情を切り離して捉えること、自分自身の感情をコントロールすることは、ときに仕事の上で重要な要素となります。 たとえば、ダットンが挙げている例の一つが、外科医です。絶対に失敗することができない細かく慎重な作業が必要となる手術に臨むときには、緊張するはずです。少し手元が狂えば、目の前の患者さんの命が失われてしまう可能性があります。加えて、患者さんの家族が涙ながらに手術の成功を訴え祈る姿が、頭をよぎるかもしれません。このような状況の中で集中力を高め、手術を成功へと導いていくためには、優しさや共感といった要素というのはむしろ邪魔をしてしまうかもしれないのです。 また、株式などで大きな金額の投資にかかわる仕事も、大きく感情を揺さぶられることがありそうです。マーケットで株価が乱高下するときに、気持ちをかき乱されずに冷静に次の一手を指すことができるディーラーであれば、長期にわたって活躍することができるかもしれません。 さらに、圧倒的に不利な証拠を突きつけられたとしても、その論理の隙を突き、陪審員の心証を大きく変えることに成功する弁護士も、うまく自分自身の感情をコントロールする特性を最大限に発揮することができる職業として例に挙げられていました。日本の場合は陪審員制度ではありませんので、海外のテレビドラマで見るような弁護士の姿はないでしょうけれども、ハードな交渉をする仕事には必要な資質と言えるかもしれません。 加えて、戦地の最前線で戦闘状態になり、窮地に陥ったとしても、一瞬のうちに的確な判断を下すことで皆の命を救うことができる司令官も、同じような特徴をもつと書かれています。このような司令官も、多くの映画やドラマで描かれる姿ではないでしょうか。 ダットンは、次の七つの要素の程度を調整してミックスすることで、サイコパシーの特徴をうまく利用して成功へとつなげることが可能になると述べています。 ❶非情さ ❷魅力 ❸一点集中力 ❹精神の強靱さ ❺恐怖心の欠如 ❻マインドフルネス ❼行動力 なおこの中でマインドフルネスというのは、いま目の前にあることに意識を集中して、他のことに気をとられないようにすることを意味しています。 これらは、すべてを同程度に兼ね備えるのがよいというわけではありません。目的に応じて色を混ぜ合わせるように、強弱を変えながら適切に調整するのがよいようです。皆さんが活躍する場面では、どのような配合がよさそうでしょうか。とはいえ、その一方で、自分自身でこれらをうまく調整するのも難しそうです。となると、自分の特徴を把握した上で、うまく活躍できる場所や解決できる課題を探していくのがよい、ということになるのでしょう。†ダーク・トライアドと職場の雰囲気 ダーク・トライアドの三つの性格特性が、職場の雰囲気をどのように認識することに関連するのか、またどのような職場の認識を介して仕事上の満足度を抱くのかについて検討する研究があります( 64)。 この研究では職場の雰囲気を、「高い評判(プレステージ)」「競争性」「自律性の低さ」という三つの側面から測定しています。まず「高い評判」は、所属する職場が社会から高く評価されており、地位が高い職場だと認識する傾向のことで、「社会の人々は私の組織を高く評価している」などの質問項目で測定されています。 次に「競争性」は、激しい競争が職場の中で繰り広げられていると認識することを意味しており、「私の会社の競争は激しい」といった質問項目で測定されています。そして「自律性の低さ」は、職場の中での活動に制限があり、何をするにも常に許可が必要だと認識する傾向を表しています。これは、昼休みや休暇を取るのにどれくらいの頻度で許可を取らなければいけないか、また職場で他人から命令される頻度などで測定されました。 ダーク・トライアドと職場の雰囲気の認識との関連をみると、マキャベリアニズムとサイコパシーはともに「高い評判」とマイナス、「競争性」とプラスの関連が見られています。またナルシシズムは、「高い評判」とも「競争性」ともプラスの関連が見られました。ダーク・トライアドは全体的に、職場の雰囲気を競争的だと捉える傾向に関連するようです。 もう少し詳しく分析を進めていくと、マキャベリアニズムが高い労働者は、自分が社会からの評価が高い職場で働いており、制限が少なく自律的な職場で働いていると認識するときに仕事の満足感を強く抱く傾向があり、離職しようとする意図が少なくなる傾向が見られています。一方で、サイコパシーが高い労働者は、競争が激しい職場で働いていると認識するときには満足度が低くなり、離職への意図が見られるようになります。サイコパシーが高い労働者は、自分の職場を競争性が高いと認識しがちなのですが、そのような認識があると満足度が低下してしまうようです。そしてナルシシズムが高い労働者は、自分自身が働いている職場が社会からの評判も高く、地位も価値も高いところだと認識するときに、仕事に満足し離職の意図がみられないという結果も示されています。 ダークな性格のそれぞれは、職場の雰囲気をある特徴を伴って捉える傾向が見られるのですが、それぞれの特徴をもつ人物がどのような職場で働くかによっても、仕事への満足度や適応の程度が変わってくるようです。特に重要なのは、その職場がどれだけ社会から評価されているのか、地位が高そうなところであるのかという要素と、どれだけ自由に活動できる職場であるかという要素であるようです。

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