MENU

1章 虚言者たち

目次まえがき

1章 虚言者たち

Case 1 嘘ばかりの夫 Case 2 自分を守ろう、よく見せようとして大量の嘘をつく Case 3 異常なプライド Case 4 美容整形を繰り返し、演技ばかりの私 Case 5 同僚が嘘ばかりついて周りに心配して貰おうとします Case 6 一人の異常な嘘で職場がめちゃくちゃです Case 7 パワハラだという事実無根の密告 Case 8 結婚詐欺 Case 9 同僚の信じ難い虚言で酷い目にあった Case 10 一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまう Case 11 自分の嘘を本当だと思ってしまう Case 12 彼が自分の記憶を書き換えます Case 13 怒って誤魔化す(?)虚言者 Case 14 私は小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます Case 15 虚言癖と浪費癖のある姉 Case 16 とても嘘を言うような人には見えないが、実は虚言だらけの彼女 Case 17 虚構の世界に生きる彼女 Case 18 嘘ばかりの妹、ところが自分は被害者で、絶対に正しいと思っている Case 19 正義のためだなどと言って平気で嘘をつく姉 Case 20 嘘の多い母に育てられた自分の虚言癖を治したい Case 21 私につきまとう虚言男 Case 22 森口尚史氏「 iPS心筋を移植初の臨床応用」 Case 23 佐村河内守氏「全聾の天才作曲家」 Case 24 野々村竜太郎氏「政務費で 1年に 195回出張、記者会見で号泣」

3章 虚言の精神医学

Case 27 嘘を繰り返し、刑務所にも 3回入った父 Case 28 前科、前歴、虚言癖のある弟 Case 29 お金を盗む、嘘をつき続ける、小学校 6年男子Case 30 嘘が異常に多く、窃盗もした息子 Case 31 懲りない詐欺の繰り返し Case 32 ミュンヒハウゼン症候群 Case 33 明らかに嘘をついているのに自覚がない夫 Case 34 夫は覚せい剤をやめたのに、他人から貰った普通の薬を飲むと精神症状が出ます Case 35 相談に乗っていると、明らかな嘘がたくさん出てくる Case 36 兄からの性的虐待の夢。

いろいろな記憶が曖昧。

現実感がない。

Case 37 私は本当に虐待されたのでしょうか Case 38 たとえそれが解離であっても、嘘は嘘なんですか Case 39 自分の正体がわかりません Case 40 私の症状は全部嘘なんです Case 41 どれが本当か嘘か自分でも分からない

まえがき 嘘つきを非難する本ではない。

本書は、虚言者、または虚言者かもしれないケースの実例集である。

だが彼らを非難する本ではない。

そういう意図は一切ない。

嘘はいけない。

嘘は悪。

それが人間社会の普遍ともいえる道徳律だ。

嘘つきは泥棒の始まりという言葉もある。

それでも本書は、嘘つきを非難しない。

記載はする。

分析もする。

だが非難はしない。

かと言って、嘘つきを擁護もしない。

あたり前? 擁護なんてあり得ない? もし嘘つきを擁護したら、それは非道徳的なことだろうか? いやしかし、本書のタイトルは『虚言癖、嘘つきは病気か』だ。

答えが「病気だ」となったらどうか。

「虚言症」という言葉もある。

非難を浴びていた人々が、ひとたび病気だということになれば、見方は一転、彼らに向けられるのは非難から擁護に転ずるのが常である。

その「常」も、採用しない立場を本書は取る。

嘘つきが病気であったとしても、擁護しない。

記載はする。

分析もする。

だが擁護はしない。

非難もしなければ、擁護もしない。

嘘つきに対して、中立。

それが本書の基本姿勢である。

『虚言癖、嘘つきは病気か』 その答えは本書には記されていない。

虚言についての医学的研究は驚くほど少ない。

虚言は精神医学の死角にある。

もとより、精神の病とは病気か病気でないかの境界が曖昧なものだ。

境界は揺れる。

時代によって。

文化によって。

社会によって。

個人の考えによって。

そして、時代も文化も社会も、個人の考えの集合から成り立っている。

だから、一人ひとりのお考えが何より大切である。

虚言癖、嘘つきは病気か。

それは本書の 44のケースを通して、読者の一人ひとりにお考えいただく問いである。

病気か病気でないか。

そこに明確な答えはない。

病気だと考える人が多ければ、それが病気になるのだ。

1章 虚言者たち

Case 1 嘘ばかりの夫 Q:夫( 30代)の嘘が度を超していると思えるのですが、それは性格なのか、それとも何かの病気なのか、教えていただければと思います。

夫はたとえば、最近まで自分は外科医であると言い張っていました。

実際は金融関係のサラリーマンです。

自分が医者になろうと思い立った経過から親の猛反対を押し切って医学部へ入学し、医者の家柄出身でないため学生の頃苦労して、成績は何年に 1度出るか出ないかのかなり優秀な成績で卒業し、世界の優秀学生名簿なるものに記載されている、等、かなり細かな話を作り上げいつも私に話していました。

彼の父親は今までで 2度死にました。

でも実際は健在です。

一度目は心臓発作で急死し、家族の嘆く姿、葬式のやり取りを兄弟が自分だけに押し付ける等の不満までリアルに語りました。

その後、実は最初に死んだ父親は育ての父親で実の父親と母親が最近また一緒に暮らし始めた、でも、その父親もまた心臓発作で死んだと言いました。

落ち込んで一日ソファーで寝込んでいました。

でもこれらもすべて嘘でした。

父親はまだお元気に生きていますし、もともと育ての父も本当の父も同一人物です。

あるときは自分はガンを患ったと涙ながらに告白。

最初は肺ガンだと言っていたのに、睾丸ガンへ、そして脳ガンへ話が移行しました。

実際医者にも数度行っていて、検査しても何ともないのに自分はガンだとまた繰り返します。

放射線治療を受けると言って実際に病院まで行き、実際は受診さえしていないのに治療を受けたかのように家に帰ってきてトイレに駆け込み吐くしぐさもしていました。

外科手術も何度も受けた、自分の睾丸は今ひとつしかない、子供はもう作れない等事細かに嘘をつきます。

上記は夫の嘘のごくごく一部で、夫は文字通りありとあらゆる事で嘘を繰り返します。

実際涙を流し、気を失って倒れたりもします。

それで入院したこともあるのですが、そのとき医師からは、精神が不安定のようなので精神科を受診したらと勧められました。

私が医師に、夫には酷い虚言の傾向があることを告げるとそれには全く気付かなかったと言われました。

そのように、普段はいたって普通の人にしか見えません。

小さな子供が 2人いるので、このまま結婚生活を続けていく上でどれだけの覚悟が必要なのか、もしくは子供にとっては有害な環境で離婚が望ましいのか悩んでいます。

ちなみに本人は虚言の症状に自覚があり(と言っても嘘を言っている瞬間は無自覚なように見えます)自分の精神に異常ありだと認めて虚言癖を治したいと言っています。

医者にも通って症状を改善し家族を取り戻したいと言っています。

でも、まだ医者の診察を受けていません。

すぐに精神科を受診して通うと言ってから何週間も過ぎて、「医者が休暇旅行へ出かけている」「保険会社が手続きを間違えて予約が取れない」等の嘘を相変わらず続けます。

実際は保険料を払っていなかったため予約が取れなかったようです。

もう虚言癖が露見しているのだからありのままに事情を話してくれても今更驚かないのに、このようにいちいち手の込んだ嘘をついて物事を隠そうとします。

「正直に事実を話す」のがかなり困難な様子です。

最近再就職したので、また医者に普通にかかれるようになって今度こそは予約を取るそうですが、本当に受診するかどうかはまだ分かりません。

私が代わりに予約をとっても、自分の思ったように何でもやりたがるので本人が自分から進んでしなければ実現しないのでしょう。

こんなふうに、虚言だらけの夫ですが、これは性格の問題でしょうか。

それとも何かの病気なのでしょうか。

解説 この夫は嘘ばかりついている。

ここまで嘘ばかりだと、単に「嘘つき」という言葉で呼んでいいのかと躊躇される。

「虚言癖」という言葉もある。

「虚言症」という言葉もある。

だがいずれも、医学的に正確な定義があるわけではない。

本書ではとりあえず、「病的な虚言」という言葉を使うことにする。

「たくさんの嘘をつく」「普通では考えられないような嘘をつく」、それが「病的な虚言」だ。

病的な虚言のある人は、世の中には想像以上に多い。

そして外見からはそれとわからないことが多い。

まさかこの人がそんなひどい嘘をつくとはと、人は驚く。

まさかこの人がそんなにたくさんの嘘をつくとはと、人はさらに驚く。

まさかこの人が、ばれてもばれても嘘をつき続けるとはと、人は重ねて驚く。

そして、これはもしかすると病気なのではないかと考える。

「これは性格の問題でしょうか。

それとも何かの病気なのでしょうか」、この妻も言っている。

病的な虚言の人に接すると、誰もが持つ疑問である。

病気だとすれば、精神科で扱う病気ということになる。

だがこれは現代の精神医学では容易には答えられない問いである。

本書を通して考えていきたいと思う。

嘘つきが病気か否か、これは実は精神医学の根本にかかわる問いでもある。

考えていくためには、たくさんの実例を見なければならない。

最初に紹介したこの Case 1、特徴を確認してみよう。

もちろん最大の特徴は、嘘をつくことである。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく これが、病的な虚言に共通する特徴である。

さらにこの Case 1を見ていくと、いくつかの点が目につく。

ありとあらゆる事で嘘を繰り返しますかなり細かな話を作り上げる

これらも、病的な虚言の人の多くに見られるが、すべてに見られるとは限らない。

単純な嘘だけのケースもあれば、特定の事柄についてのみ嘘をつくというケースもある。

医師に酷い虚言の傾向があることを告げるとそれには全く気付かなかったと言われました。

そのように、普段はいたって普通の人にしか見えません 病的な虚言のある人は、しばしばこのように、外見的には病的に見えない。

話す内容が嘘にまみれていることがわかって初めてそれとわかる。

逆に言えば、嘘だということに気づかなければ、普通の人なのである。

逆に言えば、普通に見える人の中にも、病的な虚言の人が必ずいる。

ちなみに本人は虚言の症状に自覚があり(と言っても嘘を言っている瞬間は無自覚なように見えます)自分の精神に異常ありだと認めて虚言癖を治したいと言っています 病的な虚言がある人の中には、このように自分の虚言に自覚があり、治したいという意思を見せるケースもあるが、本人も自分の言っていることが虚言なのか真実なのかわかっていないのではないかと思われるケースも多々ある。

Case 1のキーワード ◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつくこれらは、病的な虚言に共通する特徴である。

だから ◎をつけた。

○かなり細かい話を作り上げる ○ありとあらゆる事で嘘を繰り返す ○外見は嘘つきに見えない ○虚言の瞬間は無自覚 ○後からは虚言だという自覚あり Case 1のこれらの特徴は、病的な虚言者のすべてに見られるわけではなく、ケースごとに異なる。

だから ◎でなく ○をつけた。

病的な虚言とひとことで言っても、様々なパターンがあるのだ。

本書「 1章 虚言者たち」は、そんな様々な虚言者の紹介である。

Case 2 自分を守ろう、よく見せようとして大量の嘘をつく Q:私は 20代の女性です。

実は私は何らかの精神障害があるのではないかと感じ、一体どうすれば良いのかわからずにおります。

もしよろしければご意見を伺えればと思います。

まず、私は現在、医学生物学系の博士課程に在籍しておりますが、研究が思うように進まない悔しさから、ストレスが強い中で生活しています。

私が自分を精神障害ではないかと疑ったのは、自分にあまりに嘘が多いという点です。

私は非常にプライドが高く、自分を守ろう、よくみせようとするあまりに嘘をついているように思います。

嘘が多いのは昔からで、あいつが悪口を言っていたよ的な嘘は日常茶飯事でした。

今は、そういう嘘をつくことのデメリットを認識したのと、そんなこと言いたくないという思いが強く、悪口の類はできるかぎり自制しています。

でも嘘を完全にやめることはできないでいます。

非常に恥ずかしいお話ですが、たとえば先日は、無意識に実験データの改ざんをしようとしていて、自分でも非常にショックを受けました。

少なくとも、ショックを受けたような気がしています。

虚言癖は自覚しているので、記憶の中の自分の感情が、本当にショックを受けたのか、それとも自分をかわいそうに見せるためにショックを受けたことにしているのか区別ができず、今ここで言っていることも、誇張して書いているのではと不安です。

このように、自分の言っていることが嘘かどうかもよくわからなくなってしまうのです。

嘘をつかないよう、誇張しないよう、何とか自分でもがんばっているのですが(例えば情報源を引用する癖をつけるとか)、それでも嘘をついたりつきそうになったりするので、人と話すのが恐ろしいです。

私は子供のころから母と仲が悪く、フライパンで殴られたり、裸で正座させられたり、ずいぶん口論をして、母のことを理不尽なやつだと思っていました。

塾には行ってないと言いなさいって、他人に嘘をつくようおこられたこともあります。

しかし今、虚言をはじめとする自分の症状を自覚して振り返ってみると、もしかすると何らかの障害が自分にあり、そういう私を何とかしつけようとして母は私を叱り、結果として家族の輪を壊してしまったのではないかとも思っています。

また、虚言癖やコミュニケーションの下手さなどを自覚するにつれ、戦々恐々としながら生きなければ生けないのではないか、もはや私はこの先ずっと気持ちよく生きることができないのかと思い、ときどき悲しく思います。

がんばって直して幸せになりたいと思います。

解説 自分を守るため。

自分をよく見せようとするため。

そういう動機で嘘をつくことは、誰にでもある。

だがそれも度を超せば病的と言わざるを得ない。

Case 2は、そういう嘘があまりに多いと自覚している。

そして博士課程に籍を置く研究者である Case 2にとっては、「データを改ざん」は大罪である。

それを無意識に行おうとしていた。

思いとどまったから良かったものの、もし行ってしまえば、自己の存在意義を脅かすことになったであろう。

彼女がショックを受けたのは当然である。

だが彼女は言っている。

非常に自分でもショックを受けました。

少なくとも、ショックを受けたような気がしています。

虚言癖は自覚しているので、記憶の中の自分の感情が、本当にショックを受けたのか、それとも自分をかわいそうに見せるためにショックを受けたことにしているのか区別ができず、今ここで言っていることも、誇張して書いているのではと不安です このように、自分自身でも、自分の言っていることが真実か嘘かわからなくなってしまうということが、病的な虚言のある人の中にしばしば見られる。

私は子供のころから母と仲が悪く、フライパンで殴られたり、裸で正座させられたり、ずいぶん口論をして、母のことを理不尽なやつだと思っていました。

塾には行ってないと言いなさいって、他人に嘘をつくようおこられたこともあります。

このような母親の干渉が、現在の虚言に影響しているかもしれないが、そこまではわからない。

また、本人の言うように、そもそもこのような母親の干渉の原因が本人にあったという可能性も否定できない。

幼児体験と、成人になってからの症状を因果関係で結びつけることは、精神医学や心理学ではしばしばなされることであるが、それは仮説としては尊重すべきであっても、安易な結びつけは危険であり非科学的である。

また、 Case 2は、病的な虚言を自覚し、「嘘をつかないよう、誇張しないよう、何とか自分でもがんばっている」。

このような努力をしている人もいれば、虚言で構築された虚構の世界に安住を決めたように見える人もいる。

病的な虚言者の、自らの虚言についての姿勢には、人によって大きな幅がある。

Case 2のキーワード ○自己顕示この人の虚言には自分をよくみせようという動機がある。

つまり、虚言の根底には自己顕示欲がある。

○虚実の混乱自分の言っていることが真実か嘘かわからなくなることが、病的な虚言ではしばしばある。

○後天性?育った環境が虚言の遠因にあると思われるケースもある。

もちろん仮説であり、断定には慎重を要するし、たとえ環境に問題があったとしても、かといって先天性の要素がないとは言えないので、キーワードは「?」のついた「後天性?」になる。

この Case 2も、母

の育て方のため子が虚言者になったのかどうかは「?」である。

○自己改善努力 Case 2の「がんばって直して幸せになりたい」という気持ち、そしてそこから生まれた自己改善努力が報われるように願いたい。

Case 3 異常なプライド Q: 30代前半の女性です。

現在の会社で 6年ほど勤めているのですが、同僚の女性( Aさん)との付き合いが苦痛です。

ひとことで言うと、 Aさんはあまりにプライドが高いのです。

本で調べてみて、 Aさんは自己愛性パーソナリティ障害に違いないと思っています。

たとえば、前もってスケジュールを伝えておいた仕事を手渡しても、 Aさんは、「無理!」とヒステリックに怒鳴り、文句(自分がいかに忙しいかという説明など)を言った挙句にひったくり床に投げつける、などは毎日のことです。

また自分のメリットになることなら些細なことでも平気で他人の手柄を奪うのですが、自分に都合が悪いことはごまかします。

仕事上「こういうのはどうでしょう?」という提案にも逆上し、相手が折れるまで執拗に攻撃します。

常に他人の揚げ足を取ったり意地悪してやろうと奮闘している感じで、まともな仕事になりません。

自分が不快に思う他人の行動には異常に敏感なのですが、自分が他人を不快にさせることは何とも思っていないようです。

嘘をつくことに対しても罪悪感が全くないようで(そして以前自分の言ったことを覚えていない)、まるで呼吸するように嘘をつきます。

当事者がそこにいなければ「 ○ ○さんがそう言っていたからやったのに」などと平気で嘘をついたり、わかりやすいところでは、入社した時には「専門卒」と言っていたはずが、いつの間にか「短大卒」になり、最近では「四大を出てから ○ ○の研究をしていた」と言っていました(正直、仕事がスムーズに進むのであればこんな嘘はどうでもいいのですが…)。

小さい会社ですし仕事上付き合わないわけにいかないため、今までずっと我慢してきたのですが、最近は彼女の虚言はどんどん悪化しているように感じます。

また、以前は同僚が多かったために私が直接のターゲットになっていなかったのですが、現在は従業員が減り、また私が Aさんを相手にしなくなってから( Aさんの自慢話をおだてるのをやめたりとか)、 Aさんの攻撃のほとんどが私に向かうようになってしまいました。

社内で Aさんの異常性に気づいている別の社員もそう言っています。

Aさんの直属の上司(男性・ Bさん)もコントロールされてしまっているため、誰も注意する人がいません。

Bさんが指導をしても、 Aさんにキツく言い返されると「…じゃあいいよ」と妥協してしまうため、仕事のクオリティも下がっています。

これまではどうにか我慢できていたのですが、最近私の悪口(主に下品で侮辱的な発言)を同業の知人たちに言い回っていることがわかり(同業の知人であり Aさんの飲仲間である方が、自分の SNSに Aさんの発言を書き込んだものを偶然見てしまいました)、絶望しました。

ここ 2年くらい、 Aさんと接するのが苦痛で対人恐怖気味になっていたのですが、仕事の質を下げないよう自分を奮い立たせてやってきました。

でも誰もが見ることができる SNSに根も葉もないことを書かれ、それを信じている人がいると知り、生きているのも嫌になってきました。

一日中気持ちが晴れません。

最近は「 Aさんの発言を信じる人の方が幸せなのかも」と思ったり、鬱々として頭がおかしくなりそうです。

正直退職したいと思っているのですが、ここで退職してしまったら「弱い自分が悪い」と自分を責めてしまいそうです・・・。

解説 質問文中に出てくる「自己愛性パーソナリティ障害」とは、次のような特徴を持つ人々を指している(精神医学の公式の診断基準より。

1.から 9.のうち 5つ以上を満たすことが必要条件)。

自己愛性パーソナリティ障害 自我肥大的で人からの賞賛を求め、人への共感性に欠けるというパーソナリティ。

1.自分の価値を誇大的に評価している(才能、業績、潜在能力など)。

2.夢想にとらわれている(無限の成功、権力、美しさ、理想的な愛など)。

3.自分は特別な存在だと信じている。

そんな自分を理解できるのは特別な人だけだと信じている。

4.過剰な賞賛を求める。

5.特権意識を持っている(自分は特別扱いされるべきだとか、人は無条件に自分の命令に従うべきだと思っている)。

6.自分の利益のために巧みに人を利用する。

7.人への共感性に欠ける。

人の人格や気持ちを無視する。

8.嫉妬する。

または人が自分を嫉妬していると思い込む。

9.尊大で傲慢な態度や行動。

「ひとことで言うと、あまりにプライドが高いのです」、 Aさんは確かにそういう人物である。

自我が肥大していると言い換えることもできる。

自己愛性パーソナリティ障害はひとことで言えば「自我肥大の人」だ。

Case 3の Aさんが自己愛性パーソナリティ障害と診断できるかどうか、そのためには精神科医が Aさんを診察することが必要で、この表にある項目をチェックするだけで診断を確定することはできない。

だが Aさんが自己愛性パーソナリティ障害の特徴を持っていることは確かである。

そして、自己愛性パーソナリティ障害の中には、病気な虚言がある人がいる。

自分をよく見せようとする気持ちが病的なほど強いことが、自分をよく見せるための病的な虚言を生むのであろう。

Aさんの虚言は、まさにそれである。

「呼吸するように嘘をつきます」、 Aさんは自分の嘘で構築した虚構の世界に生きている。

虚構に異を唱える人に対しては激しく攻撃する。

だから直属の上司も「 Aさんにキツく言い返されると「…じゃあいいよ」と妥協してしまう」という姿勢になっている。

「 Aさんの発言を信じる人の方が幸せなのかも」と思いたくなるのも無理はない。

しかし、これは異常事態である。

嘘はいけない。

それが社会のルールだ。

小さい子どもはよく嘘をつく。

そして叱られる。

叱られて、嘘はいけないことを学ぶ。

叱られることがなければ、嘘は続くであろう。

悪いことを悪いと言ってくれる人がいなければ、悪いことは増幅し続ける。

子どもでも大人でも同じだ。

Aさんの職場の今の状況がそれである。

そしてこれは、病的な虚言に歯止めがきかず、どんどん増悪する典型的なパターンでもある。

Aさんにとってはこの状況が心地よいのかもしれない。

だがこの状況がいつまでも続くはずはない。

職場の外では通用しないことも言うまでもない。

Aさんを監督すべき立場にある直属上司、そして Aさんを取り巻く職場の人々は、結局は Aさんにとってよくないことをし続けている。

Case 3のキーワード ○自我肥大 Case 3の異常なプライドの高さは自我肥大と描写できる。

○自己愛性パーソナリティ障害 Case 3は、この診断名の特徴を有している。

○増幅促進嘘であることを本人につきつけ、罰するという環境がなければ、虚言の増幅は促進される。

Case 4 美容整形を繰り返し、演技ばかりの私 Q: 20歳の女です。

私は小さい頃から太っていて顔もかわいくなく、でも見た目を気にしたことがない人でした。

中学生までずっと優等生でとても努力家で、同年代の女の子たちが見た目ばかり気にすることを馬鹿らしいと考えていました。

しかし目立ちたいという欲求はすごくて、でも自分の外見には諦めていたので勉強をがんばることで目立とうとしていました。

そして高校生になって気持ちに変化が出てきました。

私は県内で最も偏差値の高い高校に合格し、同じ中学からは 5人しか合格しなかったので、高校からは変わろうと思ってしまったのです。

アイプチで目を二重にし、社交的にふるまいました。

最初はそれだけで満足していたのですが高校卒業したら整形しようと強く思うようになりました。

その頃ある SNSを始めてトップ画をあまり有名でないけど自分が好きなモデルにしたところ、知らない男の人たちから綺麗とかかわいいとか言われ、その画像が私ではなくモデルだと言い出せなくなってしまったことをきっかけに、なりすましのように自分とは違う、綺麗で人気者の演技をしました。

それ以来芸能人など綺麗な人を見るのがすごく好きで自分でも異常だと感じます。

異性に全く興味がもてず、ただ綺麗になって異性からチヤホヤされたいと思ってしまいます。

それはモテて愛し合いたいというのではなく単にモテたいだけ、異性を振り回したいだけのような気がします。

実際、異性に触れるのは嫌なのに性的に誘惑したいと思ってしまいます。

そして整形依存です。

目を二重にし、鼻に注射、脂肪吸引もしました。

しかしまだまだ不満で、将来的には全部変えて完璧な美を追求したいです。

それしか考えられません。

普通の生活はいらない、綺麗でいられないなら死んだほうがマシです。

今の見た目に満足していないのでたまに自殺したくなります。

ストレスがすごくてツライです。

でも家族や友達にはそんな瞬間を全く見せたことがないです。

整形して綺麗になって毎日鏡を見ていたい。

芸能人の綺麗な人の画像を収集してしまいます。

整形のことを考えるとワクワクしてたまりません。

手術中の痛い瞬間さえも快感です。

また大学での自分を偽っています。

すごく性格の良い、でも天然でちょっと変わってる方で目立つ子という自分をつくっています。

高校の卒業式などで一言話すときなど絶妙なタイミングで言葉をつまらせて泣いて周りを感動させ泣かせました。

しかし、正直そんなに友達との別れはつらくなくどうでもいいと思っている冷酷な自分がいます。

実際卒業してから友達との連絡を絶ちました。

それは整形したせいもありますが。

私自身、こんな自分が怖くてたまりません。

私は何かのパーソナリティ障害ではないでしょうか。

解説 この Case 4は、演技性パーソナリティ障害の可能性が濃厚である。

「演技性パーソナリティ障害」とは、次のような特徴を持つ人々を指している(精神医学の公式の診断基準より。

1.から 9.のうち 5つ以上を満たすことが必要条件)。

演技性パーソナリティ障害 人との情緒的な繋がりと人からの注目なしではいられないパーソナリティ。

1.自分が注目の的になっていないと気がすまない。

2.異性の誘惑・挑発が目立つ。

3.表に出る感情が変わりやすく浅薄。

4.常に外見に気を配って人の気を引こうとする。

5.大袈裟で中身のない話し方。

6.自己をドラマチックに見せる。

芝居がかった態度。

感情表出が大袈裟。

7.暗示にかかりやすい(人や環境に影響されやすい)。

8.自分と人との関係を実際以上に親密だと考える。

演技性パーソナリティ障害はひとことで言えば、「自己顕示欲の人」だ。

Case 3の自己愛性パーソナリティ障害(「自我肥大の人」)と、 Case 4の演技性パーソナリティ障害(「自己顕示欲の人」)には似たところがあると感じられるであろう。

現代の精神医学では、パーソナリティ障害は 10種類あり、 A群、 B群、 C群の 3つに分けられている。

自己愛性パーソナリティ障害と演技性パーソナリティ障害は似ているのでどちらも B群パーソナリティ障害に分類されている。

なぜ人はパーソナリティ障害になるのか。

仮説はいくつもあるが、答えは出されていない。

だが互いに似ているパーソナリティ障害には、おそらく成り立ちにも共通点がある。

この Case 4、プライドの高さ(自己愛の強)が、自分を実際よりはるかによく見せるという演技を生んでいると解釈することができる。

その演技の一環として、虚言が生まれている。

Case 4のキーワード ○自己顕示 ○演技性パーソナリティ障害

Case 5 同僚が嘘ばかりついて周りに心配して貰おうとします Q:私は 20代女性です。

一緒に働いている同年代の女性が、嘘ばかりつきます。

自分はいじめられているとか、悪口を並べた手紙が自転車のカゴに入っていたと言って職場に持って来ることがたびたびあり、見かねた店長が監視カメラで駐輪場を確かめても自転車に近づく人はおらず、自作自演に間違いありません。

職場で財布のお金を盗まれることが頻発し、この人も盗まれたと言いながらもみんなにご馳走ばかりしており、証拠こそないものの、彼女が犯人だとみんな思っています。

仕事中に心臓が痛いと救急車で運ばれ、子供がいるので保育園に連絡しなきゃと思い(一人は保育園、一人は骨折で入院で姉が付き添っていると聞いていた)が、保育園は骨折のことは知らなくて、携帯のメモリーにも姉らしき番号はなし。

病院到着後、すぐに治ったと職場に戻ってきてそのまま仕事。

たまたま前の職場で一緒に働いていた人がいたのですが、その時も、お金がなくなる、弁当がなくなるといったことがよくあったそうです(私も弁当がなくなりました)。

よく元旦那が暴力を振るうと言って、腕に切り傷、足に青アザなど作っていたのですが実際は離婚していて夫はおらず、自分で自分に傷をつけているとしか考えられません。

仕事をクビになり、次は産婦人科で働いていて、院長と付き合い出したとか、産婦人科をやめて塾の講師になったなどの誰もがわかるような嘘を繰り返します。

この人は病気なのでしょうか?それとも構って欲しいだけなのでしょうか?解説 このケースも一つ前の Case 4と同様、演技性パーソナリティ障害の特徴が見られる。

その一つの症状として、病的な虚言が見られている。

Case 4に比べると、「我こそは被害者なり」と言っているかのごとく、被害者のふりが目立ち、また、演技と言ってもいかに幼稚で、性格が未熟であると思われる。

B群パーソナリティ障害(自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害など)ではこのように幼稚、未熟といった特徴が認められることがよくある。

Case 5のキーワード ○我こそは被害者なり ○未熟

Case 6 一人の異常な嘘で職場がめちゃくちゃです Q:私の会社の同期の 27歳のある女性 Dさんは、コミュニケーション能力が高く、周囲に非常に気を使う性格だとみんな思っていました。

私たち同期に対しても、気を使いすぎて私たちが反対に気疲れしてしまうほどでした。

その Dさんが、この 2年間周囲を巻き込んで大変な嘘をついていたことがわかったのです。

Dさんの職場の先輩に、 29歳女性がいます。

私たち同期は Dさんから、入社当時からずっとその先輩にいじめられていると相談を受けていました。

私たちは Dさんを信頼し、いじめは真実だと信じて疑いませんでした。

しかし、最近その先輩から食事に誘われ、驚くような事実を告げられました。

実は、その先輩は Dさんから、私たちがその先輩の悪口・文句・嫌がらせ等を行っていると聞いていたそうなのです。

しかも、 Dさんは私たちにいじめられているので相談に乗って欲しいと先輩に頼んでいたりもしていたと言うのです・・・。

私たちはそんなことを言ったこともなく、同期の友人たちは誰もが驚くばかりでした。

2年間にわたって私たちは、 Dさんの虚言を信じていたのです。

事はそれだけではなく、先輩にそんなことを言って取り入ろうとしている反面、先輩にはストーカーまがいのメールや電話を一日に何回も行っていました。

先輩が、「こんなことは止めて欲しい」とメールをしたところ、すぐに電話がかかってきて「死んでやる死んでやる」と何回も電話口で叫ばれたそうです。

また、職場の上司などには、同じ職場にもかかわらず先輩にいじめられていると嘘をつき、また私たち同期も仲が悪く困っているなど、全くありもしないことを言っていたようです。

先輩、同期の私たちも我慢の限界となり、ある日 Dさんを交えて話し合いをしました。

そのときには、「先輩にいじめられた事実はなく、同期の皆に対しても悪いことをした」とぶっきらぼうに言っていました。

言葉の内容は謝罪でも、言い方はとても謝っているようには聞こえないものでした。

それまでの Dさんは、同期の中でも姉御肌で世話好きで全員をまとめる役でした。

しかし、冒頭にも書きましたとおり、非常にと言うか異常なまでに気を使う性格で、私たち全員に無理に合わそうとするのが感じられていたのですが、あれは何だったのでしょうか・・・。

また、彼女は既婚者ですが、夫にはかなり秘密があるようでした。

家事を一切しない夫にかわり完璧な主婦を演じていたようです。

Dさんはその話し合い後、療養休暇をとっています。

そして、夫に「先輩にいじめられているから仕事にいけない」とまたしても嘘をつき、夫が職場の上司に怒鳴り込んできたそうです。

上司は、先輩の話を一切聞かず Dさんの側についてしまい、これでは休んだ者勝ちのようになっています。

また、先輩は無理やり見舞金を巻き取られ、 Dさんはそれを当たり前のように受け取ったそうなのです。

また、 Dさんは精神科を受診しうつ病と診断されたようです。

Dさんが医師にどのように話をしたか、私たちには目に見えるようです。

それとも精神科の先生は、 Dさんの嘘を見抜いたうえで、うつ病と診断しているのでしょうか。

周囲に非常に気をつかうという仮面の下に隠された Dさんの恐ろしい素顔。

もはやそれがありありとわかった私たちは、実は話し合いの内容を彼女には内緒でテープに録音しています。

嫌がらせメールもすべて保存しています。

これを公表すれば、彼女を追い詰められることはわかっていますが、このままでは私たちは納得いきません。

彼女はどうしたいのでしょうか?何を求めているのでしょうか? それともうつ病の人は、みなさんこのようなことをするのでしょうか? 彼女一人のおかげで、私たちはめちゃくちゃです。

彼女にどのように接すれば良いのでしょうか?解説 もちろんこの Dさんはうつ病ではない。

診断をつけるとすれば、境界性パーソナリティ障害である。

英語名はボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー。

「ボーダー」と通称されることもよくある。

「境界性パーソナリティ障害」とは、次のような特徴を持つ人々を指している(精神医学の公式の診断基準より。

1.から 9.のうち 5つ以上を満たすことが必要条件)。

境界性パーソナリティ障害 対人関係、自己像、感情が不安定で、衝動性が目立つパーソナリティ。

1.見捨てられ不安としがみつき(見捨てられないようなりふり構わず努力する) 2.めくるめく信頼と罵倒(人に対する評価が急に 180度変わる) 3.アイデンティティ障害(自己像が定まらない) 4.自己破壊的行為(衝動的。

セックス、薬物乱用、やけ食いなど) 5.自殺リピーター(自殺未遂、自殺のそぶりや予告を繰り返す) 6.ムードスイング(不安や不機嫌が数時間・数日単位で来る) 7.うつろなこころ(慢性的な虚無感。

自分をうつ病だと称することも多い) 8.キレる(怒りの感情をコントロールできない) 9.一過性「精神病」(ストレスに反応して幻覚や解離症状が出る) Dさんのように、表面的には非常に「いい人」でありながら、実は相手によって巧妙に言動を使い分け、他人を操作する、というのは、境界性パーソナリティ障害の人によくみられる(境界性パーソナリティ障害の人すべてがそうだというわけではない)。

そのため結果としては、この Case 6のように、「彼女一人のおかげで、私たちはめちゃくちゃです」ということになることもある。

また、本人の非を指摘するなど、本人の意にそぐわないことを周囲がすると、「「こんなことは止めて欲しい」とメールをしたところ、すぐに

電話がかかってきて「死んでやる死んでやる」と何回も電話口で叫ばれた」というように自殺のポーズをすることによって自分の要求を通そうとするのも、この障害の人の典型的な行動パターンである。

そして、周囲の人の中には、その人の言葉を完全に鵜呑みにしてしまい、悪いのはほかの人のほうだと思い込んで正義感に燃えて攻撃に回る人が出てくるのもよくある。

「夫が職場の上司に怒鳴り込んできた」という、 Dさんの夫の行動はまさにその典型に見える。

「先輩の話を一切聞かず Dさんの側についてしまった」という上司の方も、それに含まれよう。

同じようなことは病院でもよくある。

つまり、境界性パーソナリティ障害の人の言葉を鵜呑みにしたご家族や友人が怒鳴り込んでくるのである。

これはたとえば、野村総一郎著 「「心の悩み」の精神医学」にも、「お助けおじさん」として、かなり似た例が出ている。

以上のように、 Dさんの言動に周囲の人が右往左往させられている様子は、境界性パーソナリティ障害の「対人操作性」に振り回されている、非常にありふれたよくあるパターンと言える。

「その Dさんが、この 2年間周囲を巻き込んで大変な嘘をついていたのです」、それがわかったとき、周囲の人々は驚愕したであろう。

境界性パーソナリティ障害に伴う病的な虚言の一例である。

なお、境界性パーソナリティ障害も、自己愛性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害と同じ、 B群パーソナリティ障害の一つである。

この Case 6にも、プライドの高さや演技的な行為が見られ、境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害という診断名の相互の区別は実のところ曖昧である。

Case 6のキーワード ○対人操作性 ○境界性パーソナリティ障害

Case 7 パワハラだという事実無根の密告 Q:会社の部下の扱い方に苦慮しており、ぜひ先生のアドバイスをいただけたらと相談申し上げます。

わたくしはある外資系メーカーで営業部長を務めており 20人ほど部下がいます。

そのうちの一人がわたくしに対して大変反抗的で苦慮しています。

わが社は外資系ということもあり、セクハラ、パワハラには大変敏感な会社です。

その問題の部下を Xと呼びますが、 Xは、わたしが部下全員に対してのパワハラを行っているという密告を人事部に対して数度行っています。

わたしの言葉に傷ついたというのが Xの主張で、 Xだけでなく、他の部下もわたしのパワハラに対して悲鳴をあげているとも言っています。

人事部から調査が入りますが、パワハラなど事実無根で誰も同調しませんので、それでわたしの立場が危うくなるわけではありませんが、 Xは仲間を募ったり組織の転覆をはかったりし、営業部の雰囲気はきわめて悪化しています。

彼がなぜそのような密告を行うかと言うと、それはわたしから指示や指導を受けることへの拒否と反撃です。

わたしとしては、こんな言われもない密告をするような Xを営業部から放出してしまいたいのですが、実はそう簡単に行きません。

わたしの上司の営業本部長 Aは Xとわたしのどちらにも加担するわけではありませんが、一見 Xには好意を見せています。

というのも営業部でこのようないざこざが起きていることが社長や米国本社に知られると自分の立場が危うくなると考え、感情的な Xを懐柔しようとしているのです。

Aはわたしに対しても、ことを荒立てず Xとうまくやれと言っています。

しかし、わたしにはどうやって Xとうまくやりながら業務を円滑に遂行できるか、その方法がわかりません。

Xの行動の特徴を以下に記してみます。

上位者で自分を評価して肯定してくれる相手に対しては極めて従順な態度を示します。

わたしの上司の本部長である Aと同僚の一人 Bのみに対しては Xはきわめて素直で協力的です。

この二人から指示、依頼されたことは最優先で行われます。

またこの二人にはよく相談をし協調的な態度を示します。

Xは、営業本部内では Aと Bだけが自分の本当の価値を理解してくれていると考えているようです。

ただ協力的行為そのものについては、自分を肯定してくれるから自分も協調するという意識ではなく、あくまでも Aと Bの言うことは正しくそれに同意するから協調するのだ、と X自身は考えている節があります。

ただ Aも Bも、実際は直接の上司、部下の関係は Xとはありませんので(わたしが Xの上司)、実際の業務で難しい判断をすることはなく、したがって意見の違いが顕在化することはあまりないと思われます。

意見の差が顕在化するのは、会社での彼の業務の性格上、わたしとの間だけです。

一方彼は、自分が批判されたり、誤りを指摘されることを激しく嫌悪します。

彼は、実はわたしがそのエネルギッシュな営業ぶりを見込んで別事業部からスカウトしてきた部下です。

最初は自信満々で積極的に仕事に打ち込んでいましたが、やはり慣れない商売で間違いも多いのです。

上司や同僚が肯定的な態度であるうちは上機嫌ですが、仕事の進め方が間違っているなどと上司であるわたしから指導されたりすると、しばしば感情的に激しく抵抗し、時には業務放棄も辞さない勢いで、「俺の言うとおりにさせてくれないなら、俺は降りる」などという発言も飛び出します。

報告相談をすればするほど、余計批判を浴びて自分が好きなようにさせてくれないのではないか、という恐怖感を持っているかのようです。

誤りを指摘したり、自分の意に沿わない指示をする上司に対しては、報告や相談を行わなくなり、独断でものごとを進めるようになります。

上司であるわたしについては、自分の本当の価値をわかっていない奴だと考えていると思われます。

本人には上司に無断で物事を進めるのは会社組織の中でよくないことであるという認識はあります。

以前取引先から来た出向社員の管理を数ヶ月お願いした時期があり、その場合、部下とか後輩に対しては、わりと厳しく管理を行い、相談なく独断でものごとを進める部下は許しません。

一方、自分については、「自分が正しいことを行おうとしているのを、上司が理解できず止める以上、こうするしかない」、とむしろ正義感に燃え、それは自分の場合は正当化される、と信じていると思われます。

Aや Bにはいろんなことをよく相談しています。

Aや Bから見ると、わたしに対する態度との落差はおそらく信じがたいものかと思われます。

同僚に対しては、自分のほうが立場が上であると認めた場合は、自分の結論を伝え従うように求めます。

しばしば同僚の(時には上司の)職分に踏み込んで、勝手な発言をしたり、アクションをとったりします。

本当はそんなことはしたくはないのだ、、と口では言いますが・・・。

それでもそうする理由は問われると、同僚が力不足で充分機能していないから、自分が助けてあげているのだという答えになります。

陰口とか告げ口という方法を常態的に使用します。

上司や同僚でも自分を批判したり、意に沿わない考えを持つものには攻撃の手段を選ばない傾向があります。

ただそれも、本人としては、やむにやまれず致し方なく取った手段であると考え、一般に卑怯な手法も、こと自分については許容されるべき正当なものだと考えているようです。

密告を行う場合も、会社をよくするためとか、同僚を守るために、あえて密告も辞さないのだ、と正義感が自分内部にまず醸成されているようです。

そのため仲間を募るということにはわりと熱心です。

ただそれに乗る仲間はあまりいませんが、同僚ものらりくらりと適当にあわせるので、自分ではみなから同意を得ていると思い込んでいるようです。

会社での規則や決まりごとを遵守するという考えがあまりありません。

規則を否定するというのではなく、自分は会社の規則で縛られるような存在ではなく、もっと大きな器であると考えているように思われます。

交通費や接待費の精算の際、あきらかに過大な請求を平気で行ってきて、何度も何度も同じことを注意されます。

ただ自分自身は倫理観は高いと信じています。

自分を好いてくれる人からに依頼に対し、一生懸命(時には異常なまで)にその期待に応えようとします。

お客さまなどから頼まれると、会社での合意や方針などさておき、まずその期待に応えるのが最優先となります。

そのため到底実現不可能なこともしばしば約束してしまい、それを上司から止められてまた窮地に陥ることがよくあります。

ただ自分がしていることは正しいと信じていますので、その場合は、それを止めた上司に対しての強い不満が残ります。

あるお客さまとは短期間で信じられないほど親しくなることがあり、そのお客さまには徹底して仕え、また接待を行いますが、結果として通常では到底得られないような極秘情報を持ち出させたり、聞き出したりします。

お客さまの前では、徹底的に下手にでるが、お客さまのいない社内などでは、「あの客は俺の奴隷だ」などと豪語したりもします。

ただその密接な関係もそう長続きせず、しだいに疎遠になっていくようです。

物事がうまく行かなかったときには、それは自分の責任であると認める気持ちはあっても、その失敗の原因を自分に求め反省、改善するということは本人にとってでき難いもののようです。

反省して改善するということは、今までの自分が間違っていたことを自ら認めることになるからと思われます。

確かに失敗はしたが、それは他の要因が絡んだ結果であり、自分自身の仕事に関して言えば、自分以上にうまくは誰もできなかったはずだと考えていると思われます。

物事がうまく行ったとき、またそうでなくとも、他人からの賞賛には非常に関心があります。

特に経営陣と呼ばれる偉い人たちからの賞賛はかけがえのないものと感じている様子です。

上司を飛び越して、さまざまなインプットを役員レベルに直接入れます。

ただ本人は、「自分はきわめて会社にとって重要な仕事をしているのだから、必要に応じて偉い人たちに自ら必要な情報を入れるべきである」と考えているようです。

その際しばしば直属上司への報告は忘れられます。

だいたい、このような部下です。

Xは、果たして何かの病気と言えるのでしょうか? それともけっこう変わっているという程度なのでしょうか? わたしとしては、 Xと表面的にうまくやるためには、思い通りやらせて肯定して賞賛すれば、関係は簡単に改善することは理解しています。

しかし、あいにく彼は決して業務に精通した優秀な部下というわけではないので、すべてを認めれば業務上支障がでます。

さらに彼だけを特別扱いすれば、組織としてけじめがつきません。

他の社員から不満がでてくるに決まっています。

それとわたしも、 Xに対して心にもないお世辞を言うなんて性格上もしたくもありません。

実は一時、肯定することも試したのですが、どんどん増長してくるのがわかり、余計ひどい状態になってしまいました。

解説 この上司の方はとても困っている。

部下 Xのふるまいに困っている。

ただし元々はこの部下 Xの「エネルギッシュな営業ぶりを見込んで」、この上司自身が「別事業部からスカウトしてきた」人材である。

そして部下 Xは、ある一定の条件の下では一生懸命働く。

その条件とは、「自分を評価して肯定してくれる人からの依頼」である。

顧客や、他の上位者が、自分を自分の思っている通りに評価してくれれば、一生懸命働く。

だがこの条件が満たされないと態度は一変する。

どころか、陰口、告げ口、中傷という手段を駆使して立ち向かってくる。

その一つが、パワハラだという事実無根の虚言(密告)である。

部下 Xは、自己愛性パーソナリティ障害の診断基準( Case 3の解説)にある、「自分の価値を誇大的に評価している」「自分は特別な存在だと信じている」「過剰な賞賛を求める」「特権意識を持っている」などの特徴を明らかに持っている。

そして外見としては「尊大で傲慢な態度や行動」が見られ、「自分の利益のために巧みに人を利用する」の一手段として虚言を用いていると解釈できる。

虚言・陰口・告げ口・密告による他人の迷惑はかえりみず、「人への共感性に欠ける。

人の人格や気持ちを無視する」。

部下 Xをめぐる問題を表面的に解決するには、上司も、「思い通りやらせて肯定して賞賛すれば、関係は簡単に改善することは理解しています」。

だがそれは単にさしあたって波風を立てず問題を先送りにするだけであり、「すべてを認めれば業務上支障がでます」「彼だけを特別扱いすれば、組織としてけじめがつきません」。

ところがその組織の上の方はどうかと言えば、「わたしの上司の営業本部長 Aは・・・営業部でこのようないざこざが起きていることが社長や米国本社に知られたら自分の立場が危うくなると考え、感情的な Xを懐柔しようとしています。

」という姿勢で、「 Aはわたしに対しても、ことを荒立てず Xとうまくやれと言っています」というように問題に直面化することを避けている。

Xの同僚も「のらりくらりと適当にあわせる」ため、 X本人は「みなから同意を得ていると思い込んでいる」。

四面楚歌で手段に尽きた上司は、「実は一時、肯定することも試した」が、当然ながら、「どんどん増長してくるのがわかり、余計ひどい状態になってしまいました」という結果になっている。

増幅促進である。

Case 3と全く同じ状況だ。

嘘はいけない。

それが社会のルールだ。

小さい子どもはよく嘘をつく。

そして叱られる。

叱られて、嘘はいけないことを学ぶ。

叱られることがなければ、嘘は続くであろう。

悪いことを悪いと言ってくれる人がいなければ、悪いことは増幅し続ける。

子どもでも大人でも同じだ。

Xの「悪いこと」は虚言だけではない。

数々の不正もある。

そしてあろうことに、自分では自分は倫理観が高いと思っている。

このままでは病的な虚言にも歯止めがきかず、どんどん増悪する。

周囲が抑止力を発動しなければならない。

誰もがそれをわかっている。

しかし実社会ではそう単純にいかない複雑な事情が多々ある。

本人にもそれなりに優秀な点もある。

だから擁護する人もいる。

事を荒立てるのも厄介だ。

だから少々の嘘は容認してもいいのではないかと周囲は考える。

実は少々というレベルの嘘ではないことに、なかなか気づかれない。

こうして虚言は増幅する。

病的な虚言が、モンスターのように成長する。

Case 7のキーワード ○自我肥大 ○自己愛性パーソナリティ障害 ○増幅促進 ○独特の倫理道徳観

Case 8 結婚詐欺 Q:私は 30代女性です。

今はおだやかに暮らしているのですが、たまに以前の恋愛を思い出して、とても苦しい気持ちになります。

8年前に付き合っていた男性(以下 A)のことです。

彼は虚言ばかりの人間で、私だけでなく、ほかに 4名以上の女性がだまされていました。

虚言の内容ですが、・妻とは離婚している(実際は結婚継続していました)・離婚原因は妻の暴力(暴力の有無は不明です)・子どもは妻によってコンドームに穴を開けられたからできた・父親はすい臓がんで母親は境界性パーソナリティ障害(嘘でした)、だから親には会わせられない・父親側の祖父の家をぜんぶ相続する予定(嘘でした)・仕事は某外資系エリート営業マン(派遣社員でした)・激務なので会社に泊まっている(嘘でした) etc.です。

1つ 1つは些細な嘘で、荒唐無稽のこともしばしばあります。

しかし彼の言動はそんな嘘だけで固められています。

彼には真実が 1点もなく、これらの嘘だけの人生なのです。

私を含む女性たちにプロポーズをして、それを信じた数名は会社までやめてしまっていました。

私は精神的打撃が大きく、仕事どころではなくなり、会社を辞めさせられました。

結局、両家の親、ほかの女性を巻き込む大騒動になり、調停をして、慰謝料を貰って別れました。

明晰な弁護士さんの助けもあったので、私に悪い点はないということは証明されたと思います。

今 Aがどこで何をしているか知りません。

その後私は社会復帰して、今の夫と出会い、結婚しました。

私をだました Aは、何かの精神病だったのでしょうか。

もう 8年も前のことですが、今でも気になっています。

解説 彼の発した数々の嘘。

病的な虚言である。

いずれも自分をよく見せようという意図が読み取れる。

自己愛性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害の特徴が見て取れる。

多くの女性が被害を受けている。

虚言はこのように周囲に甚大な被害を、苦しみをもたらすことがある。

虚言を駆使して次々に女性を騙す結婚詐欺師。

ひどい奴だ。

と言いたくなるが、やや不可解なところがある。

彼は虚言のリスクに見合った利益を得ているだろうか。

それぞれの女性から、何らかの利益(女性にとっては被害)を得ているであろう。

しかし、たとえば Case 8の女性をめぐっては結局大騒動となり、慰謝料まで取られている。

虚言によって詐欺を繰り返すことにメリットがあるとは考えにくい。

嘘をつくこと自体は、誰でもする、正常な行為である。

だが人が嘘をつくのは、メリットがあるからだ。

メリットがない嘘、つまり、嘘をつくことそのものが目的であるような嘘、それも病的な虚言のある一群の特徴である。

Case 8の「彼には真実が 1点もなく、これらの嘘だけの人生」は、嘘そのものが目的であると思わせるものである。

こういう嘘に接したとき、人は「 Aは、何かの精神病だったのでしょうか」と考えずにはいられない。

Case 8のキーワード ○メリット欠如――虚言のための虚言「欠如」と言い切れるかどうは難しいが、少なくともリスクに見合ったメリットはない。

○懲りないメリット欠如と密接に関連しているが、ばれてもばれても、痛い目にあっても、懲りずに嘘を繰り返す。

○甚大な被害

Case 9 同僚の信じ難い虚言で酷い目にあった Q:私は 20代女性です。

私の後輩 Aなのですが、本人はある老舗のご令嬢だと称し、毎食犬にウナギを食べさせている、父の誕生日には毎年東京のホテルで芸能人をたくさん呼んで何日もかけてパーティーをする、父はやくざと繋がっており、難関国家資格を持っている、毎日タクシーで帰っているなどと言っていました。

また、バレンタインデーには「父からです」と言い、ビロードでできた高級店のチョコレート箱を持ってきました。

私が騙され易いのもあるかもしれませんが、違和感に気付いたのは、母にその後輩のことを話したところ、嘘だろうと言われたことがきっかけでした。

けれど、本当に細部までできた話で、その子の口調を聞いていてもとても嘘とは思えず、その時点でもまだ少しは信じていました。

ある日、その子が皆のいる前でぼろぼろ泣き始め、「何でもないんです」と言いながらトイレに行きました。

そのあと、その子から、別の後輩 Bについて「 Bさんに酷い扱いを受けている、助けて」と泣きながら相談され、私は Bさんを注意しました。

その後も、「 Bさんが私さんのことを悪く言っている、こんなことをしている」などと Aが言ってきたのと、 Bさんからの態度も急速に悪化したため、もともと性格の合わなかった Bさんと私の間の亀裂は決定的になりました。

その後、私の財布がなくなりました。

状況から言って、職場でなくなったとしか考えられないものでした。

Aに相談したところ、「 Bさんが私さんの鞄の近くでごそごそしていた」と言っていました。

浅慮でしたが、私は Bさんが盗ったのかな…と言いました。

また、 Aはお嬢様にしてはとても口が悪く、お客さまのことを「あのおばはん」などと言い、笑い方もとても品の無いものでした。

「私の父に言いつければ家が更地になる」などと冗談にしても言う Aが耐えきれず、私の親戚に警察がいることを話すと、皆の前で故意に無視されるようになりました。

また、 Aの泣きつきを聞きさえしなければ Bさんもそんなには悪い人には思えなかったので、私からもだんだんと Aを遠ざけました。

すると Aが先輩 Cさんに向って、私のことを名指しにして「私は何も悪いことをしていないのに無視する!」と泣きながら訴えました。

皆の前でです。

それを主任が見つけ、私と主任と Aでの話合いになりました。

その話し合いで Aがボロを出し、なんと私には Bさんの悪口、 Bさんには私の悪口を言い、お互いを喧嘩させていたことが分かりました。

私と Bの間に入り、私には「 Bさんには言っておきましたからね」 Bさんには「私さんには言っておきましたからね」職場の皆には「二人に挟まれてつらい」と言っていたんです。

また、私が「私の財布、 Bさんが盗ったのかな」といったことも Bさんに言っていたそうです。

涙ぐみながら切々と語っていた Aですが、矛盾点を指摘されると、ひきつったような恐ろしい顔をしていました。

それがばれても尚、 Aは真剣な顔で泣きながら「私にも悪いところがありましたけど、二人の間に挟まれてつらかった私の気持も考えてください!!!」と言っていました。

でもそういうつらい状況に Aが陥ったのは、すべて Aが原因です。

けれど、 Aは全く自分が悪いことだという感じではありませんでした。

自分こそが被害者であるような面持ちで、真剣な顔をしながら、涙ぐみながら。

その場だけを見た人は、まるでか弱い Aをみんなでいじめているように感じたと思います。

それから色々あり、結局 Aはクビになったのですが、今だに私はどうすれば良かったのか、何かできることがあったのではないかと悩んでいます。

Bさんともっと連携をとれば良かったのか、でも Aは、 Bさんに言われたら酷い目にあわされると泣きついてきていました。

ここまでではなくても、こんな風な人に相談されることがままあるのにも思い当りました。

Aの相談に乗った私は何だったのでしょうか。

解説 職場という社会で、一人の虚言のため複数の人が大変な迷惑を被った例である。

本当に細部までできた話で、その子の口調を聞いていてもとても嘘とは思えず Case 1にも見られた、病的な虚言の、あるタイプの特徴である。

内容が非常に具体的であること、それだけでも嘘とは思えない。

普通の人が嘘をつく場合、そこまで手のこんだ作り話をすることはまずない。

ところがそれをするのが病的な虚言者である。

そして、嘘の雰囲気はかけらもないように堂々とした口調で話すので、聞いている人は全く疑いを持たない。

違和感に気付いたのは、母にその後輩のことを話したところ、嘘だろうと言われたことがきっかけでした 間接的に話の内容を聞いた母親は、すぐに嘘だと感じ取った。

確かに「毎食犬にウナギを食べさせている」や「父の誕生日には毎年東京のホテルで芸能人をたくさん呼んで何日もかけてパーティーをする」は、いくら何でもそれはないだろうという内容である。

けれども、本人から直接、細部まで具体的にできた話をすらすらと聞かされると、そんな話でも本当だと信じてしまいがちなのである。

外見は嘘つきに見えない。

Case 1でも指摘した特徴である。

この Case 9はそれに加え、嘘と思わせないようにする、いわば舞台設定が巧みであるのだと思われる。

舞台設定とは、口調や話のタイミングなどすべてを指す。

そうでなければ Case 9のような荒唐無稽とも言える話を人は信じない。

なお、 Case 9は、自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害など、 B群パーソナリティ障害の特徴を持っていることが読み取れる。

こうした特徴を持つ虚言者の中には、すぐばれる嘘をつく Case 5の「同僚が嘘ばかりついて周りに心配して貰おうとします」のような人もいれば、巧妙だったり細部まで精密に作り上げられた嘘をつくこの Case 9や Case 7「パワハラだという事実無根の密告」のような人もいる。

また、虚言であるという事実を周囲からつきつけられた時、「私にも悪いところがありましたけど、二人の間に挟まれてつらかった私の気持も考えてください!!!」と言っていました。

という反応は、自らの虚言を認めてはいるもののすべてを認めたわけではなくいわば部分承認であり、あわせて自分こそ被害者であると自己を正当化するのも、病気な虚言のあるタイプの人が、嘘がばれたときに示す典型的な反応である。

ところで、この人は最後に「 Aの相談に乗った私は何だったのでしょうか。

」と言っている。

Aさんのためを思って相談に乗ったのに、裏切られた。

裏切られて酷い目にあった。

そういう気持ちがこめられている。

お察し申し上げたい。

この程度の被害ですんで良かった・・・という言い方は失礼にあたるが、病的な虚言によりもっと悲惨な被害を受けた方も膨大に存在することからすれば、この程度の被害ですんで良かったと考えていただくしかない。

そして、 Case 9のように病的な虚言をする人が、世の中には実は驚く程たくさん存在することを意識することで、今後より甚大な被害に遭うことを避けられるであろう。

Case 9のキーワード ○かなり細かい話を作り上げる ○外見は嘘つきに見えない ○巧みな舞台設定 ○甚大な被害 ○部分承認 ○我こそは被害者なり ○自己正当化

Case 10 一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまう Q:私は高校一年生の女です。

私には虚言癖があります。

中学に進学したころから少しずつですが周りに嘘をつくようになりました。

嘘というのは例えば、・昨日 ○ ○さんとメールした( ○ ○さんは友達でもないのに)・こういう幼馴染がいてクリスマスに会う・彼氏ができた・過去にこんな彼氏がいた・昨日母と夕飯を作った・部活はやりがいがあって楽しい・今日の弁当は自分で作った・こんな洋服を買った ・○ ○のライブに行った・近所の人がこんなおいしいものをくれた などといったことです。

自分のメリットになるようなこともありますが嘘をついてまで言う必要のないこともあります。

しかも、出来事を具体的に細かく作りだしてしまいます。

メールしたという嘘をついた時は、どういう内容が送られてきて、どういう内容をかえしたのか。

料理をつくったという嘘をついた時は、何時どこのスーパーで買い出しをしてどういう手順で作って、母が何と言った、というように。

中学の時、一番仲の良い子とは、キャンパスノートで交換日記をしていて、卒業するまでに 11冊書きためました。

きっと、友達のほうは全て本当の出来事を書いてくれているだろうけど私は書いたことの 9割が嘘です。

駄目だとわかっていても、一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまうのです。

学力はもともと低いほうではなかったし、生徒会長などもしていて内申も良かったので有名な進学校に割とすんなりと進学することができました。

進学先の高校では、彼氏ができ、たくさんの良い友達もできて対人関係には苦労していません。

彼氏とは今月で 9ヶ月になりました。

今まで、何度か男の人とかかわったことや、好きになったことはあったけれど彼ほど好きになった人はいません。

もちろん、彼の欠点も知っているし、喧嘩もたくさんしましたが、いつも根気よく話しあってきました。

良い付き合い方ができていたと自負しています。

だけど、 9ヶ月目の記念日を迎えた昨日、ふと、自分が彼についている嘘のことを考えました。

わたしは、数えきれないほどの嘘をついていました。

居もしない中学時代の友達や、家族のこと。

彼は、料理のできる女が理想だと言っていたので料理もできて、毎晩家族の食事をつくっているとまで嘘をついていました。

私は、今まで 彼に好かれるためなら何でもできる、と思って嘘をつき通すつもりだったけれど、考えてみれば、それは本当の私ではなくて。

彼にはこれ以上嘘をつきたくないし、本当の自分を知って貰いたいと思いました。

自分自身も、臆病で卑怯な自分を変えたい、強くなりたい、と思いました。

同時に、今まで嘘をついてきた親友にも申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

そこで、昨日彼に会いました。

このメールで書いたような中学時代のことや、今までついてきた自分のことを正直に伝え、謝りました。

彼はすごくショックを受けていたようだったけど、抱きしめてくれました。

「今は一度別れよう。

だけどこれからも学校生活は続くからそこで、本当の君を見せて。

本当の君をもう一度好きになりたい。

僕は強く、新しくなった本当の君を守りたい。

」と言ってくれました。

今は、親友という位置付けだけど昨日の帰り道は二人で手をつないで帰ったし、彼も私も、二人の写真やキーホルダーは捨てずにとってあります。

そして、昨日の午前彼と別れて、午後はそのまま親友に会いにいきました。

彼にした話を同じように友達にしました。

友達も、「馬鹿だねーあんたは!」と言いながらも一緒に泣いて、「打ち明けてくれてありがとう」と言ってくれました。

残り二人の親友にも、今後同じように話をして、落着するか・・・と思ってほっとしていました。

しかし、家に帰ったその夜、タイミング良く祖母に昔話をされました。

「昔っから、あなたの嘘によくだまされてたわ ~、かけっこが一位だとか、縄跳びが何回飛べたとか、そんなこと嘘ついてもしょうがないことなのにねえ」と。

祖母は笑い話にしていたけど、私はショックでした。

自分はそんな幼いころから嘘を躊躇いもなくついていたのか、と。

そして、本当に自分のしてきたことの重大さに焦り、パソコンで虚言癖のことについて調べました。

すると、演技性人格障害(演技性パーソナリティ障害)といったものにいきあたりました。

注目されないと嫌だとか、性行動が著しいだとか、すべて自分のことにあてはまります。

昔から、周りに相手にされないと態度には表わさないものの内心ではすぐに辛くなって不安になるタチでしたし、彼とも高校一年にしては早すぎるほどの性行為をしていました。

振り返れば、私のほうが彼を許し、煽っていたと思います。

本当に人格障害(パーソナリティ障害)なのでしょうか?直したいと思う気持ちと、それに見合った行動ができている今でもわたしは病気なのでしょうか?もう治ったということですか?それとも、これはただの見栄っ張りで、病気なんて深く考えすぎなのでしょうか・・・。

彼に話したところ、病気だからしょうがない、と逃げ道にしてはいけないけれど、本当のことを知るために、精神科の病院に行ってみたら?と言われました。

しかし、近くにある、評判のいい医者に電話してみたところ、未成年の受付はできないと言われました。

大きな病院に行ってみては?と言われました。

学校生活がありますし、土日は家に親がいるので外出しにくいです。

受診をするためには親の同伴や同意書がいると知りましたが、病気かどうかもわからないのに親に相談するのは嫌です。

それに親自身、仕事に追われていて、最近精神的に調子がよくなさそうですし、自分の力でできるとこまでは自分でどうにかしたいのです。

それに、親に彼の話はタブーといった雰囲気ですし・・・。

私はどうしたらいいのでしょうか。

解説一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまうのです

細部まで非常によくできた病的な虚言をする人から、こういう告白を聞くことがある。

一種の才能である。

これは決して皮肉ではない。

想像力が人一倍豊かでなければ、このように話を湧き出させることはできない。

Case 3の「異常なプライド」や Case 4の「美容整形を繰り返し、演技ばかりの私」のように、自己愛が強いことや演技的な傾向があることは虚言をする危険因子と言えるが、そういう人のすべてが病的な虚言をするというわけではない。

自分をよく見せようとする嘘は、早晩ばれて、かえって自分の評価を落とすことになるから、嘘をつくという行為には歯止めがかかるのが普通である。

しかし巧妙な嘘はなかなかばれないから抑制がかかりにくい。

「一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまう」という才能があることが虚言者になるための条件かもしれない。

そして、そのわいてきたストーリーやセリフが巧みなものであれば、虚言だとばれにくく、したがって嘘だと非難されにくく、その結果虚言はどこまでも増幅しやすい。

この状況は、才能という持って生まれた内的要因による増幅促進ということができる。

さらにこの Case 10では、自分のメリットになるようなこともありますが嘘をついてまで言う必要のないこともあります。

という特徴も見られる。

メリットのない嘘、つまり虚言のための虚言である。

「メリット欠如」すなわち目的のない嘘が「湧き出るストーリー」という形で「かなり細かい話を作り上げる」というパターンは、「自動虚言症」とでも呼ぶべき状態である。

Case 1と似たタイプの病的な虚言と言える。

この Case 10はまだ高校生であり、そして自分の虚言を自覚し、何とか治したいと考えている。

また、自分が演技性パーソナリティ障害にあたるのではないかとも疑っている。

確かにその傾向はあるようだが、 Case 10はまだ「パーソナリティ障害」というレベルではない。

虚言にしても、パーソナリティ障害の傾向にしても、このように本人に自覚があれば、かつ、改善に向けて周囲の協力(協力とはすなわち虚言を許さず歯止めをかけることである)があれば、改善していくことは十分に期待できる。

だが自覚や周囲の協力がなければ、本章に紹介した他の病的な虚言者のようになっていくことが危惧される。

Case 10のキーワード ○湧き出るストーリー ○メリット欠如――虚言のための虚言 ○かなり細かい話を作り上げる ○増幅促進(内的要因による)

Case 11 自分の嘘を本当だと思ってしまう Q: 10代女性です。

私は昔から、自分の不幸なことについて人に大げさに説明してしまうところがあります。

ネガティブなことを誇張し、人に説明して可哀想と言われたり、えー!って言われてびっくりさせようとしてしまいます。

それが友達ならその程度で済むのですが、親にも同じようにすると、親はとても悲しみます。

しかし、悲しむのを分かっていてもそれを繰り返すのです。

こないだは、友達に昔いじめられていた話をしました。

幼稚園の頃、蹴られたりプールに突き落とされたりしたと話しましたが、実際には、ただの女の子の「いじわる」をされていた程度で、そんなひどいことはされていません。

しかし、その話をしていた時の自分は、それを本当にあったことだと信じていました。

心のどこかではそんなことはなかったと思いながらも、ひどいことをされたと信じたいと思いながら話していました。

このように、私は自分の嘘を本当だと思ってしまうのです。

また、お母さんが悲しむようなことをわざとしてしまいます。

母の日のプレゼントを買って喜ばせようと買ったのですが、家に着いて、お母さんが喜ぶ姿を想像すると、やっぱり渡さないでおこうかなと計画してしまいます。

お母さんのことは大好きです。

でも、お母さんに見えない場所でも、ひどいことをしています。

お母さんの誕生日に内緒で学校をさぼり、お母さんがくれた 1万円を意味なく使いました。

意味のない、ひどいことをやりたくなるのです。

そして、人と話すのが苦手になりました。

こういうのはわたしの年齢ではよくあることなのでしょうか。

それとも病気ですか。

解説 自分の嘘を本当だと思ってしまう。

これもまた、病的な虚言の人に見られる特徴の一つである。

ただし、この Case 11のように、それを本人の口から告白されることは稀なので、多くの場合、正確には、「本当と思ってしまっているように見える」ということになる。

本人は頑なに本当だと主張する。

その言い方は、本当だと信じているようにしか見えない。

そういうとき、第三者は、「彼/彼女は、自分の嘘を本当だと信じているのではないか」と推定する。

普通はその推定から先に進むことはできないものだが、この Case 11のような告白が聞かれることもある。

ばれにくい嘘とはどのようなものだろうか。

一つはもちろん巧妙な嘘だ。

細部までよくできていて、矛盾が見つかりにくい。

そんな巧妙な嘘を、嘘だと見抜くことは難しい。

だが人は、嘘かどうかを判断しようとするとき、話の内容だけでなく、人を見る。

その人は信用できそうに見えるか。

話し方はどうか。

時には話の内容よりも、そうしたことが嘘かどうかのより強い判断根拠になる。

人が話す。

自分の体験を話す。

誠実な態度で話す。

並々ならぬ熱意をこめて話す。

その体験に伴う怒りや、悲しみや、喜びを、迫真的に話す。

怒りに震える。

目に涙をためる。

全身で喜びを表す。

いかにも信用できそうだ。

だが客観的情報からは虚言の疑いがどろどろになったチョコレートのように濃厚な時。

あなたの話は嘘だと周囲から指摘された時。

涙を流して否認する。

本当なんです。

信じてください。

誓って嘘はついていません。

そんな姿を目の当たりにすると、この人は虚言の冤罪を着せられた気の毒な人なのではないかと人は考えがちである。

ここに陥穽(かんせい)がある。

私は自分の嘘を本当だと思ってしまうのです そういうことが、病的な虚言ではあり得るのだ。

本人は嘘でないと確信しているから、話し方にはどこまでも迫真性がある。

これも一種の才能だ。

もちろんこれも皮肉ではない。

結果として、周囲からの嘘だという指摘の矛先は弱まる。

時には疑いが消滅し本当だということになってしまうこともある。

嘘に対して、本来ならかかるべき歯止めがかからない。

本人の才能という内的要因による、増幅促進の一型である。

Case 11のキーワード ○虚実の混乱「自分の嘘を本当だと思ってしまうのです」という言葉は、「虚実の混乱」ではなく、「虚を実と確信する」にあたるとする考え方もあろう。

だがこの Case 11は、自分には自分の嘘を本当だと思ってしまうことがあるというそのこと自体を自覚している。

病的な虚言者の中にはこの自覚がないケースもあり、それはまさに「虚を実と確信する」にあたると言えるが、 Case 11全体像のキーワードとしては「虚実の混乱」のほうが適切だ。

○外見は嘘つきに見えない嘘をついているという自覚が本人になければ、外見上は真実を語っているように見える。

本人にとっては真実なのだから当然である。

○増幅促進(内的要因による)一つ前の Case 10では、この内的要因は「湧き出るストーリー」であった。

この Case 11では、「虚実の混乱」である。

ただし虚言しているまさにその時は「虚を実と確信している」ので、「嘘はいけない」という倫理道徳観による歯止めは利かない。

Case 12 彼が自分の記憶を書き換えます Q:私は 20代女性です。

交際中の彼( 30代後半)がおかしいんです。

・嘘をつくが、嘘をついているという自覚がない。

・私が教えたことを後日、「俺、テレビで見たんだけどさぁ」と同じ内容を語り出す。

それは私が教えたことだと言うと、「あれ? そうだっけ? 俺、テレビで見たと勘違いした」と言う。

このように、よく記憶を書き換える。

他にも私が置いた物を、「俺が置いた」など…頻繁にこのようなことがあります。

・彼が発言したことを「前に △ △(彼にとっては都合が悪いこと)って言ってたじゃん」などと言うと、「俺は言ってない」とムキになり、言ってないの一点張り。

証人は複数います。

本当に発言したことを忘れているのか、嘘をついているのかわかりません。

喧嘩をしたときなど、上記のような奇妙な発言(虚言?記憶の書き換え?)を繰り返すので、全く話し合いになりません。

特に記憶の書き換えが尋常ではありません。

彼の発言どれが真実なのか、わからなくなります。

彼は病気でしょうか?解説 自分の記憶を書き換える。

一つ前の Case 11、「自分の嘘を本当だと思ってしまう」という現象の、別の表現であると言える。

Case 12のキーワード ○虚実の混乱「彼が自分の記憶を書き換えます」、その通りだとすれば「虚実の混乱」どころか、「虚を実と確信する」ということになるが、本当に記憶が書き換えられているのか、自覚して嘘をついているのかは厳密にはわからない。

あるいは Case 11のように、虚言の瞬間だけは嘘という自覚がないのかもしれない。

これら可能性を含めて、「虚実の混乱」とするのが適切であろう。

Case 13 怒って誤魔化す(?)虚言者 Q:私は 20代女性です。

同年代の従姉妹は非常に怒りやすい性格です。

彼女は 1年近くまともに仕事をしていませんが、職業の話題になり、無職と本人に言えば(それが蔑む意味でなくても)怒ります。

怒りやすいだけならまだいいのですが、怒りをなだめるためや、解決のための話し合いをしてみると、私の記憶と彼女の記憶がかなり異なっていることが分かります。

それがほんの 10分前のことだったりしてもそんなこと言っていない/説明されてない/していない、とかたくなに主張し、話の順序を説明しても聞く耳持たないどころが、私の事を自分を貶めるために作り話をする変な人扱いします。

例えば最後にトイレに入ったのが彼女だとしてトイレのドアが開きっぱなしになっていたから閉じて、と言っても「私じゃない、そんなことしていない」と怒りだすなど、明らかに彼女がしたとしかあり得ない状況でもかたくなに認めず、途中から私が因縁つけてるというような話になります。

最近では自己弁護のために嘘をついているのではなく本当に記憶を書き換えてしまっているのだろうと思えてきています。

また、彼女はガンに対して非常に恐怖心をいだいていて、男性との性交渉は子宮頸がんなどのガンの発病の元、ガンは遺伝性のものでガン家系(ガン発病者が家族にいる人)とは付き合いたくない、ガンは発症したら助からないのだから発症したら自殺する、などと極端かつ医学的に疑問符がつくことを主張し他人の意見には耳も貸しません。

なのに一方、彼女は喫煙者で一日に一箱以上吸うこともままあるようです(上記の理由から男性をガンを撒き散らすなどと軽蔑する一方、密室の中で非喫煙者の前で煙草を吸うことには無頓着です)。

前述のように働いていないため昼頃または昼過ぎまで寝ていますが夜寝られないからと薬(頭痛薬や睡眠薬)を過剰摂取し、過剰摂取のせいで昼間になっても朦朧とするため寝て過ごし、さらに夜眠れないという悪循環の中で、自分は薬を飲まなきゃ寝られない体だから、と真剣に思っているようです。

自分が悪く言われるのを極端に嫌い、上記のガンや煙草、睡眠や仕事についてやんわりとでもまたは別に本人に対する意見でなくても彼女の主義と異なる意見を言うと怒りだします。

仕事ができない理由についてはコミュニケーションが苦手だと言います。

また仕事に行く事自体が他人が「仕事行くの嫌だな」と思うのと比較にならないほど自分には辛いんだと主張します。

コミュニケーションについては会社の人と友達になることすらあり得ないと言い張ります。

私がどうこうできる問題ではないのですが従姉妹と会ったり話したりするたび、これは性格の問題なのか病気なのかいつも気になります。

単に性格悪いだけなんでしょうか?解説 嘘をついているのではなく、本当に記憶を書き換えてしまっているように見える。

一つ前の Case 12と同様である。

本人に嘘の自覚があるのか、それとも本当に記憶を作り替えてしまっているのかは、最終的には主観的な判断しかないので、永遠に不明というのも Case 12と同様だ。

この Case 13にはさらに、「私の事を、自分を貶めるために作り話をする変な人扱いします。

」というように、嘘を指摘した人に対し、憤慨し、逆にその人を嘘つきであると攻撃するという傾向があり、周囲はむしろこの攻撃性に困らされているようである。

こうした顕著な攻撃性を持っているケースが、病的な虚言をする人の中に見られる。

「笑って誤魔化す」という言葉があるが、虚言者が自分の嘘を指摘されたときに時に見せる怒りは「怒って誤魔化す」かのようである。

しかしこれはもしかすると本人的には決して誤魔化しているのではなく、やはり本人は本当に記憶を書き換えてしまっているからこそ、本人の記憶の誤りを指摘する人こそが嘘つきであると本気で信じ、攻撃しているのかもしれない。

また、この Case 13の虚言が、細部までよく作られた虚言ではなく、むしろ内容がころころ変わる行き当たりばったり的な虚言であることも、記憶の書き換えが本人の中で本当に起きているのではないかと思わせる事実であると言える。

Case 13のキーワード ○虚実の混乱 ○攻撃性顕著な攻撃性。

これは、虚実の混乱から二次的に発生しているのかもしれない。

すなわち、自分では自分の虚言を真実と思い込んでいるため、それを否定する人こそが嘘つきだと激しく攻撃するのかもしれない。

○撤回拒否客観的な反証を示されても、嘘だと認めない。

これもまた虚実の混乱から来ている可能性がある。

Case 14 私は小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます Q: 30歳の主婦です。

結婚してから 8年、子供はいません。

夫婦仲は円満です。

今日ご相談したいのは、私の虚言癖と依存症についてです。

私は小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます。

しかも、保身とか虚栄とかそういうあからさまなものではなく、本当に日常のささいなことから、大きなことまで。

嘘をついて隠すようなことがない場面でもついてしまいます。

例えば夫に「今日の食事は何?」と聞かれて「もう ○ ○を作ってる」という程度のささいなものです。

が、一回嘘をついてしまうと、その嘘がばれないようにしなきゃ、とあせり、嘘に嘘を重ねてしまいます。

始まりは小さな嘘だったのに、嘘を重ねることで大きな嘘になってしまったことがよくあります。

たとえば、夫から「そろそろバイトを探したら?」と言われたのに対し、仕事が見つかったと嘘をつき、更にそれがばれるのが怖く、サラ金から借金をして給料を貰ったように見せかけてしまったこともありました。

他にも数えきれないくらいのどうでも良いような嘘ばかりついてしまいます。

やめよう、やめよう、と思うのに、癖というか、無意識的に気付いたら嘘をついている、という感じで、嘘をついている瞬間はそれが嘘だという自覚もあまりありません。

とても苦しいです。

自覚なくやってしまって、上塗りをしなくちゃいけない状態がとても苦しいです。

本当の自分が一体どういう人間なのかわからなくなっています。

人に構われたいというより、何も目的がないのに嘘をつき続けている気がしてなりません。

また、私には依存症気味の傾向もあり、結婚前はサラ金からの借金を重ねて買い物をしていました。

今はセックス依存(というのでしょうか)の傾向があります。

セックスが好きなわけではないのに(むしろしたくない)、しないといけないような気分になり、出会い系サイトで相手を探してセックスする、ということをしてしまいます。

終わったあとは罪悪感だけが募り、とても苦しいですが、会うまでの状態は、どっちかというと夢の中にいるような、すごくふわふわした感じです。

昔サラ金で借金をして買い物していた時も同じ感覚でした。

やめなくちゃいけないと思って、家事などを一日いっぱいやり続けると、多少はおさまります。

最近は一日数時間出会い系サイトを使ってメールをやり取りして、具体的に会う日まで決めてから、そういう自分が嫌になって、家事に没頭する、という毎日です。

虚言と、セックス依存と、もしかしたら人格障害なのではないかと疑っております。

これは病的なことなのでしょうか。

医師にかかった方が良いのでしょうか。

解説 一つ嘘をつくと、その嘘をカバーするためにさらに嘘をつかなければならない。

こうして雪だるま式に嘘が拡大していき、最後はどうしようもなくなる。

「嘘をついてはいけません」と子どもに教育するときによく出される話が、まさにこの Case 14に現われている。

すると Case 14は、「よくある話」の範疇に入る例だろうか。

「嘘をつくとこういうことになりますよ、だから嘘はやめましょう」というお説教のときに持ち出す好例だろうか。

そういう単純な話に解消できないのではないか、そうやって責めるのは本人が気の毒ではないか、と思わせる事実が、 Case 14にはいくつかある。

一つは、「嘘をついている瞬間はそれが嘘だという自覚もあまりありません」という点。

嘘をやめたいと思っていても、嘘をついている瞬間に嘘という自覚がなければ、いつまで経っても嘘がやめられないというのは理解できることである。

Case 2の「自分を守ろう、よく見せようとして大量の嘘をつく」、 Case 12の「彼が自分の記憶を書き換えます」、 Case 13の「怒って誤魔化す(?)虚言者」などにも共通すると思われる事情である。

それから、メリットの欠如である。

本章でこれまで紹介してきたように、病的な虚言をする人も、やはり普通の嘘つきと同様、嘘をつくことで自分のメリットになることを目指しているように見えることが多いが、この Case 14は、はたしてそうかどうかかなり疑問がある。

なるほど嘘をつく瞬間には何らかのメリットがあるかもしれないが、嘘をつけば結局は自分の損になることを Case 14ははっきりと自覚し、だから嘘はやめたいと強く願い、それでも嘘をついてしまう。

「何も目的がないのに嘘をつき続けている気がしてなりません」という本人の言の通りで、文字通り呼吸をするように自然に嘘をつくこの Case 14のような例が、病的な虚言の中にはある。

いわば虚言のための虚言。

Case 10の「一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまう」などと共通点がある。

そしてこのことは、 Case 14のもう一つの悩みである、依存症と思われる症状に結びつく。

買い物やセックスを、これもまたやめたいと思っているのにやめられない。

依存症についての一つの学説は、自分の衝動をコントロールすることができない、というメカニズムが脳内にあるというものである。

やめたいと思っている嘘をやめられない。

やめたいと思っている買い物をやめられない。

やめたいと思っているセックスをやめられない。

Case 14の悩みには、衝動をコントロールすることができないという共通点がある。

すると、彼女の病的な虚言は、依存症と同じ範疇に入るものなのかもしれない。

衝動コントロールの障害としての依存症をどこまで病気と認めるかということもまた、虚言をどこまで病気と認めるかということと同様、様々な角度から考えなければならない難しい問題である。

「わかっているけど、やめられない」

ものをすべて病気と名づければ、人の行為の中のたくさんのものが病気ということになり、さらには犯罪もすべて病気ということになりかねない。

Case 14のキーワード ○虚実の混乱 ○メリット欠如――虚言のための虚言 ○衝動コントロール障害 ○先天性?「私は小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます」という本人の言葉からは、少なくともある程度までは先天性の要素があることが示唆される。

Case 15 虚言癖と浪費癖のある姉 Q: 28歳の姉のことです。

虚言に関して思い当たる、もっとも古い私の記憶は、約 10年前、姉の大学時代のはじめの頃でした。

その頃姉は運転免許を取得するために両親がお金を出して教習所に通っていたのですが、それとも教習所で教官から「運転に向いてない」といわれたらしく、もともとプライドの高い姉はその言葉で教習所に通うことを止めてしまったようです。

ただ、親がお金を出していることもあって、通っていると嘘を言ったことをきっかけに引き返しがつかなくなり、結局 1年以上通っているふりをして教習期間が過ぎてしまい、まだ免許を取れていないことが親に知られて厳しく叱責されたようです。

また、パチンコなどへの浪費の側面もあり、家族に隠れて借金をするようになったのもこの頃です。

数十万円という、学生としては信じられない額の借金の請求が自宅に届いたのを父親が発見し、発覚しました。

それまでは届く請求書などを姉が家族に見つからないように保管もしくは破棄をしていたようです。

そして、徐々に大学へも通っているフリをするようになり、授業も受けずに当然試験も不可判定を受け、そのたびに家族で理由を問い詰めていました。

「半年の間、努力を続けることがどうしてもできない」という姉の意見を聞きだし、家族で何とかフォローしていたのですが、それでも状況は好転せずに最終的に大学に 8年間通うことになりました。

さすがに最後の 8年目は勉強をしているように家族には見せていたのですが、結果から言えばそれもしているフリだったらしく、それで卒業できなければ退学という最後の最後の試験でも全く話にならない成績だったようです。

その事実を隠すために、あろうことか姉は成績表と卒業証書を自分で捏造して家族を騙しました。

卒業式の案内が届かないことを不審に思った両親が大学に確認したところ、姉の嘘が発覚して、もうその段階ではどうすることもできなかったのですが、母親は泣き崩れ、父親も叱る方法を失い、私も、そして姉本人も相当のショックであったと思います。

大学を辞めて、父親の勧めを受けて就職が決まり、姉は現在実家を出て一人暮らしで働いています。

が、それでも虚言癖と浪費癖は全く治る気配がありません。

かなり前の、それこそ教習所の出来事があった頃から「嘘だけはやめてくれ」という話はずっとしているのですが、今でもすぐに嘘だとバレるような嘘をすぐ言ってしまうようです。

そのたびに叱責され、反省のそぶりを見せるのですが、改善の様子は見られません。

父親は「浪費も嘘つきも、意思の問題だ」と言いますが、私としては、姉は何らかの病気ではないか?と思い始めています。

それは次のような理由からです。

・すぐ嘘をつき、嘘がばれないようにまた嘘を重ねる・欲しい物を計画なくすぐ購入する(絵など)・家賃、電話代などを滞納してまで浪費する・物を捨てられない性格(一人暮らしの部屋はゴミ屋敷のようでした)ので、要らないものは捨てろ!と言っても、捨てたと言って結局捨てていない・・などです。

解説 一つ前の Case 14の「小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます」と同様、衝動コントロールに問題があると思われる例である。

嘘の上塗りとしての嘘。

浪費。

Case 14のように、本人に自覚があって悩んでいるかどうかは、この Case 15ではわからない。

叱責されると「反省のそぶりを見せる」と弟は言っているが、それは「反省のそぶり」なのか「本当に反省している」のかは、主観の領域であり、はたからはわからない。

結果的に行動が全く改善されていないので、周囲の人の目には「反省のそぶり」と映ることになるのだが。

Case 15のキーワード ○衝動コントロールの障害 ○懲りない

Case 16 とても嘘を言うような人には見えないが、実は虚言だらけの彼女 Q:付き合って 2ヶ月ちょっとの彼女に関して、質問させていただきます。

彼女とはネットのサイトで知り合ったのですが、しばしば自作自演を行います。

第三者になりすまし、自分が他の男からちょっかいを受けているように装ったり、彼女の友達や幼馴染を演じて私にアクセスし、彼女の事を心配したり、持ち上げたりというような事です。

また会話をしていても、架空の友達や幼馴染の話が出てきたり、時には車に轢かれた、痴漢にあったというような嘘の被害の話をします。

当初は嘘をついているとは夢にも思わず、心配したり怒ったりしていたのですが、どうも話の端々に辻褄の合わない点が多々見受けられ、彼女が話す出来事が起こった時刻には、他の事をしていたことが確実だったりと、明らかに嘘と見破れるような事柄が次から次へと出てきました。

もちろん、寂しくてかまってほしいというような気持ち自体は理解できますが、あまりにもいきすぎのような気がします。

今では、彼女がどのような話をしようとも、本当の話なのだろうかと疑ってしまいます。

彼女は仕事でネットを扱うせいもあってか、ネットへの依存度も強く、携帯のメールも一日に 100通をこえることもよくあります。

人に対する好き嫌いが激しく、嫌いになった人の事は徹底的に嫌いになって批判するという傾向もあるようです。

また「絶対」という言葉が好きで、私がこういう可能性もあるのでは?というような事を言っても、受け入れようとはしません。

普段話しているときは、思いやりもありますし、優しさもあって、とても嘘を言うようには思えませんし、様子からも別段変わったところはうかがい知れません。

ですが、話の矛盾点などからみて、嘘をついていることは間違いありません。

彼女は精神的な病気なのでしょうか?このようなタイプの人に出会ったのは初めてで、少なからずとまどいや恐怖を覚えております。

解説 とても嘘をつくような人には見えない。

思いやりもある。

優しさもある。

友人は彼女の話に同情する。

彼女を虐げて来た人々に対して憤る。

ところが彼女の話の大部分は虚言だった。

「このようなタイプの人に出会ったのは初めてで」と友人は言う。

しかしそれは、虚言だとわかったからそう思ったのである。

実はこれまでもこういう人に何人も出会っていて、しかし虚言だと気づいていないだけかもしれない。

症状の性質上、信頼するに足る統計データは存在しないが、病的な虚言をする人は、現実にはかなり存在するのかもしれない。

この Case 16、インターネットへの依存もある。

Case 14の「小さい頃からしょっちゅう嘘をついてしまいます」、 Case 15の「虚言癖と浪費癖のある姉」と同様、衝動コントロールの障害も背景にありそうだ。

それはそうと、インターネットは、虚言が増幅する空間である。

嘘をつく。

年齢を偽る。

性別を偽る。

職業を偽る。

他人になりすます。

他人を中傷する。

人を不安にさせる嘘の情報を流す。

人を喜ばす嘘の情報を流す。

閲覧する人にできるのは、閲覧することだけである。

事実かどうか確認することは非常にできにくい。

年齢や性別を偽るくらいはネットではよくあることだから、本人も虚言への罪悪感が希薄になる。

インターネットは虚言者を育てる。

Case 16のキーワード ○外見は嘘つきに見えない ○衝動コントロールの障害 ○増幅促進(外的要因)インターネットは、虚言を増幅させる外的要因の一つである。

インターネットの持つ「検証困難性」「嘘についての罪悪感の希薄性」という性質が大きい。

Case 17 虚構の世界に生きる彼女 Q:私は 30代女性です。

以前、会社に勤務していた頃の部下 Aの言動について、今でもあれは何だったのか、と不思議に感じております。

彼女は私より年齢が上でした。

入社時期としては同期であり、同職種での勤務経験があることから、入社当時は新人の教育にともに携わり、問題ない関係性が築けていたと今でも思います。

ただ、付き合い始めから、不思議な言動をする人だと感じていました。

なんと言うか、「そんなわけないだろう」と誰もが感じる事を、本当のことであるとして話し、なぜか誇らしげなのです。

例えば、小学校で 6年間 1度も給食を食べずにいた(詳細を聞くとハンストしていた、理由はまずいからと。

食べてないのに)とか、生まれてから一度も電車のシートに座ったことがない、気持ち悪いから(と言いつつ、後日共に電車で帰宅した際に私と一緒にシートに座っていたのです)等です。

周囲の人たちも、彼女の明らかな嘘、しかも嘘をついても何のメリットもないであろう内容を聞き、何となく驚嘆した反応を返さなくてはならない、そんな予定調和でもあるのか「本当!? すごいねえ!」といった、矛盾の指摘や否定をしない反応を返すのです。

他にも A自身が、以前言ったことと全く反対の行動を、それが最初から彼女の普通の行動だったとして振舞うこともありました。

例として、ある男性職員が煙草を吸っていたら、大げさに「臭い臭い」と大騒ぎし彼を責め立てたのに、後日その職員に貰い煙草をして吸っているのです。

自分が煙草のことで彼を不快な思いをさせていたことについては何一つ釈明せず、昔から煙草を吸っていたようなことを声高に話すのです。

もちろんその男性職員も不思議そうにしているのですが、そのことに言及してはいけないような、変な雰囲気でいるのです。

あとは、職員間の飲み会では、「こんな店選んだのだれ ~」とか「おいしくなーい」等、幹事や店員の前で言います。

この記述だけ見ると、ただの気遣えない人のように思えるのですが、彼女はあらかじめ誰が幹事でどうしてその店になったのか知っていて、そういう事を言うのです。

まるでそういったことを言われた周囲の反応を愉しんでいるような、私としては大変不快な気持ちになる言動が他にもいくつもありました。

そういったことについて後日注意をすると、彼女なりの論法なのか、嘘を交えたまとまらない話を流暢に話し、こちらが理解できずにいるまま、論点の外れたところで帰結してしまいます。

その後、私が昇進し実質彼女の上司となった後、徐々に彼女と私の関係が変わってきました。

私の指導に対し思うところもあったと思うのですが、反発が過剰でかつ筋が通ってないのです。

例えば、彼女が提案してきたことについて、上司内で検討し OKを出し、彼女の提案の通りに事を進めていたら、急に激昂し、なんでそんなことをするのだと声をあげます。

あなたの提案がこれこれこうだったから、それにそって、今この段階を行っているのだと説明すると、まさしくその通りなので、いったん怒りを納めるのですが、その後私の職場内の些細なミス(水道の蛇口の締めがゆるかった等)を声高に他職員にふれまわり「あんなこともできずに、何が上司か」と言いまわります。

不思議なのは、それでも彼女は職員内で孤立することなく、一定の者とは、表面上かどうかはわかりませんが、仲良くすることができているのです。

かといって彼女と仲良くしている職員が、私をともに糾弾するということもなく、私との関係も良好に保てているのです。

他にも「友人が死んでしまって、月の明かりを見ていたら朝になり、朝日をみて放心していたら、もう出勤時刻がすぎていた」という理由で遅刻をし、その日は急に大声で泣き出したりするので、早く帰宅させると、さっきまでの緩慢な動作とはうってかわって、すばやく身支度し飲みに行ってくると言うのです。

何だか信じられない話なのですが、他の職員は彼女には何だか何も言えないという雰囲気が共通してあり、彼女の早退や欠席には何一つ苦情が来ません(他の者の病欠や、私事の休みには不満が聞こえてくることも少なくないのに)。

私への彼女の反応や反発に、私自身当時はかなり参っていたので、リアルタイムで意識できなかったのですが、他の職員にも私と同様に、いわれのない無視や、過剰な叱責を受けていた職員がいました。

その子たちを上司として助けてあげられなかったことは、今でも悔やみきれないのですが、その子たちと私に共通点があったことに最近気づきました。

Aの虚言に対し、「へえ、すごいねえ」と驚嘆せずに、矛盾を指摘したことや、彼女の勧めるやり方に意見をしたことがある者は、軒並み妥当でない仕打ちを受けているのです。

例をあげきれなかったので、あの時の不思議な雰囲気を、正確にお伝えできないのが、大変もどかしいのですが、私なりに表現すると、彼女は虚構の世界(彼女が演じたい彼女像と言ったほうがいいのでしょうか)で生きていて、その世界を壊す(矛盾を指摘するなど)者を徹底的に排除していたと感じるのです。

質問させていただきたいのは、以下です。

(1) Aの不思議な言動は病気でしょうか。

性格的なものとするには、あまりにもエキセントリックに思えます。

(2)私が攻撃された理由としてあげている仮説は「 Aの世界に付き合わなかったこと」かと考えています。

他の攻撃された職員も共通しています。

この仮説は正しいでしょうか。

正しかった場合、「 Aの世界に付き合った人」が本当に不思議でなりません。

揶揄でなく、なぜあんなに突拍子もない嘘に、微妙な雰囲気を醸しながらではあったけど、普通の会話のテンポで、付き合う反応を返すことができるのでしょうか。

Aのような方には、否定せず受け止めて彼女の世界に付き合った反応を返すということが世の中では実は暗黙のルールとして普及しているのに、攻撃されている私たちだけが知らなかったのかと、本気で悩みました。

今はその職場を離れ久しいのですが、当時攻撃されなかった職員たちに彼女の言動について、どう思っていたのか質問したところ、私同様に虚構の世界ととらえていたと返答がありました。

長文失礼いたしました。

あの不思議な現象を解明できたら救われます。

よろしくお願いいたします。

解説 Aさんは虚構の世界に生きている。

周囲の人々はそれに付き合っている。

なぜか付き合っている。

付き合わないといけないような不思議な雰囲気を、 Aさんは持っている。

だから Aさんの嘘を受け入れる。

反駁しない。

それが繰り返され、 Aさんの虚言はますます拡大する。

虚言を受け入れない人は、 Aさんの激しい攻撃を受ける。

そして引き下がる。

Aさんの虚言への歯止めはもはやない。

Aさんのこれまでの人生で、このようなことが繰り返されてきた結果、彼女の虚構の世界が強化されてしまったのであろう。

入社後の経過を具体的に振り返ってみよう。

「そんなわけないだろう」と誰もが感じる事を、本当のことであるとして話し、なぜか誇らしげなのです。

たとえば「小学校で 6年間 1度も給食を食べずにいた」などは、虚言をしても本人に何のメリットもなさそうに見える虚言である。

そして、これがある意味より重要なことだが、本人にメリットがないことの裏返しとして、周囲に実害がない虚言になっている。

だから周囲もあえて非難しようとか止めようとか思わない。

歯止めがかからない。

だから虚言はどんどん増幅される。

増幅促進(外的要因)である。

もちろんそれでも嘘を指摘する人もいるのだが、そういう人はどうなるかと言うと。

Aの虚言に対し、「へえ、すごいねえ」と驚嘆せずに、矛盾を指摘したことや、彼女の勧めるやり方に意見をしたことがある者は、軒並み妥当でない仕打ちを受けている 攻撃性だ。

虚言を指摘する人を攻撃して抑え込むことによって、虚言の増幅は維持される。

増幅促進(内的要因)である。

おそらく入社前の生活の中でも、同様のパターンで虚言に歯止めがかからないまま増幅してきたのであろう。

その結果、 Aさんは虚構の世界に生きている。

そんな Aさんにとって、もはや虚言は生活必需品である。

虚言をやめることは彼女のアイデンティティの喪失にほかならない。

もう後戻りはできない。

ところで、 Aさんの攻撃性は、自ら作り上げた虚構の世界を守ろうとする意図によるものか。

つまりアイデンティティを死守しようという意図によるものか。

そうとも考えられるが、 Aさんはその虚構こそが事実であると信じ込んでいるため、否定する人こそが悪人であると純粋な気持ちで確信しているのかもしれない。

Case 13の「怒って誤魔化す(?)虚言者」と共通点がありそうである。

Case 17のキーワード ○生活必需品虚構の世界に生きるようになると、もはや虚言なしではその人の生活そのものが成り立たなくなる。

そのほか、虚言で人を欺いて得た利益で生計を立ているようなケースもあり、その場合はいわば虚言が現世的生活必需品になっている。

○メリット欠如――虚言のための虚言 Case 17にとって、現在は「虚言のための虚言」ではない。

逆だ。

虚言で構築された虚構の世界に Case 17は生きている。

Case 17にとって虚言は生活必需品になっている。

メリットという言葉では表現しきれないほど、本人にとって虚言は大切なものになっている。

しかし元々の虚言にはメリット欠如の傾向があったようである。

だからこそ歯止めがかからずモンスターのように成長してしまったのであろう。

○増幅促進(内的要因)上記、元々のメリット欠如がこれに当たる。

○増幅促進(外的要因)攻撃された周囲の多くは沈黙する。

だから本来あるべき外的な歯止めがかからない。

Case 18 嘘ばかりの妹、ところが自分は被害者で、絶対に正しいと思っている Q: 30代の女性です。

私には二卵性の双子の妹がいて、幼少期から、人や事象への理解し難い攻撃性がありました。

具体的にはたとえば、一緒の部屋で私が勉強するのが気に入らないと、私が部屋を移らなければならないほど怒り続ける等がありました。

他にも、自分勝手で言う事がコロコロ変わる等多々あったのですが、私が親に助けを求めてもかけあってもらえないし、異常とも思わず、姉の私が折れてやらなければという思いもあって、そのままでした。

妹は 20歳頃、教習所に行ったのに通えなくなって運転免許が取れなかったりして、自分はうつ病だと言い出しました。

けれども薬漬けにされると言って病院には行かず、それ以来、自分本位な言動や行動がさらに目立つようになって行きました。

外に出られないからという理由をつけて、まだ高価だったパソコンを買って貰ったり、当時、私が学校に通うため家を出ていたのをズルいと思い込んで、私の稼いだお金で買ったものも、家のもので自分のものだと思ったり、敵視するようにもなったようです。

そして昨年、妹が自分の猫だと言い張っている猫ががんになり、それと同時期に長年好きだったミュージシャンの貴重なコンサートがあり、そのストレスか、興奮状態と判断力の欠如が目立つようになりました。

猫に関しては、医師の提示する治療を否定して次々他の医師に行くものの、前の医師のありもしないミスをでっち上げて同情を得ては満足し、そのうちに、猫のストレスが心配だからと急に全く医師に見せなくなり、私には、お前は変な事をするから猫に近づくな、と言い出しました。

抗がん剤はがんを治すものじゃなく薬ではなく毒、そうじゃない薬も全部腎臓を悪くするからダメ、それを勧める医師も私も、鬼で悪魔、という主張でした。

そうして、怪しげな効果を謳うサプリメントをたくさん与え出しました。

話が通じないし、何より病気の猫が可哀想なので私は引っ込んだのですが、かわいい猫に最後の半年ほどほとんど接せられず、とても悲しかったのに、それでも猫が死んでしまった後も、私の辛さを想像もできないらしく、普通に生活できてて悲しんでないから冷たい、等言いたい放題でした。

そして今年、今度は祖父ががんになり、それがまたストレスなのか、妹はおかしな声を出して怒ったり、親に絡んだりするようになりました。

猫のあたりから私には特に強く暴力を振るうようになったので、なるべく関わらないようにしていたのですが、少し会話してしまったら、私がやってもいない事をあれこれ作り出して非難され、また暴力でした。

寸前の言動も、こちらの返答いかんで 180度変わってしまいます。

暴力を振るった事も含めた記憶がなくなってしまうようで、自分は被害者で、絶対に正しいと思っています。

そしてそのように、強く困っているのは妹についてなのですが、父と母も元々まともでない気がしていて、ずっと妹の事も放置しているし、不思議と妹の挙動があまり気にならないようで、私ばかり非難して来ます。

父は、状況と関係のない悩み事に常に逃げていて現実に向き合わず、昔から興奮しては家財を壊したり、煙草を火のついたまま樹木に乗せたり、物を誰かが移動したから見つからなくなった、と人のせいにしたりします。

母は、作り話を真に受けて私が妹を殺そうとしたと信じています。

妹が私の頭がおかしいと言っているからお前がおかしいんだ、と言い、私は私の話が筋道が通っていることをよく説明すれば、筋道が通っていればいいというわけじゃない、と反論してくる始末で、もうお話になりません。

言い争った時には警察を呼んでしまい、同情して欲しかったのか、昔の家の傷まで引っ張り出し、私が暴れてやった、と言い出す始末でした。

嘘だしどう考えてもやり過ぎなのに、数ヶ月後の今も自信満々です。

私としては妹に精神科を受診させたいのですが、実現しそうにありません。

解説 幼少時から異常性が認められていることから、先天性の要素が強いと推定されるケースである。

両親にも異常性がありそうなことは、先天性(遺伝性)という推定を強いる根拠になる(そういう両親に育てられるという環境の影響ではないかという推定も当然考えられるが、同じ環境で育った姉には異常性が認められないことから、妹については先天性の要素のほうが強いであろうという推定になる)。

そしてこの Case 18には攻撃性が顕著である。

その攻撃性は、「自分は被害者で、絶対に正しいと思っています」と、自己正当化に基づいているようである。

そして「暴力を振るった事も含めた記憶がなくなってしまうようで」というように、これまで見てきた攻撃性のある虚言者と共通点がある。

さらに Case 18には、極端に自己中心的な性格があるように見える。

この性格が虚言を生んでいるとも解せるが、虚言を事実と思い込んでしまうために結果として極端に自己中心的な性格になっているとも解することも可能で、どちらがニワトリかタマゴかは不明である。

Case 18のキーワード ○先天性? ○攻撃性 ○虚実の混乱 ○自己正当化 ○我こそは被害者なり ○自己中心的性格

Case 19 正義のためだなどと言って平気で嘘をつく姉 Q: 50代女性です。

私の姉は小さいころから大変気が強く、ガキ大将でした。

そして、大人になってからも、あちこちで争いを続けてきました。

たとえば姉の長男が学校で級友から顔つきをからかわれたことで、姉は担任に怒鳴り込み、相手に謝らせましたが、その謝り方が不十分だからと校長まで談判しに行きました。

その際には「この学校は人種差別をするのか」と言いがかりのような追及までしたようです。

長男卒業後、学校からいくらかの文房具代が未納であると連絡を受けた時に、「領収書がない」との理由で争って、結局払わずに済ませました。

向かいの家とは「車を傷つけられた」とかで調停まで発展させ、姉は中途半端な妥協は嫌だと言い、普通は 3回の調停を十数回まで引き延ばして、最後は相手から「詫び状」を取って決着させました。

このような例は枚挙にいとまがありません。

姉はささいなことでも自分に嫌なことをされると許せず、また「自分は正しい」と絶対にゆずりません。

「正義をなすためだ」みたいな言い方をして、争いが大きくなるのは平気で、むしろ周りをどんどんまきこんで、問題を大きくしてしまいます。

また、勝つためには手段を選ばず、問題をすり替えたりこじつけたりするのも上手、嘘も平気でつきます。

私はずっと、姉は争いが好きで、しかも争い上手な、はた迷惑なキャラクターだと思っていました。

人と争っているときは生き生きしているからです。

しかし 4年ほど前、父が亡くなり、私が故郷に帰ることに決めたことで(それまで私は、姉と姉の子供たちの世話をずっと手伝っていました)、姉は私や主人や、母を攻撃するようになりました。

これでもかこれでもか、という嫌がらせが 1年くらい続いて、いくら何でも姉はおかしいのではないか、と思い始めました。

電話でののしられることから始まって、姉は親戚に私たち夫婦の悪口を言ってまわり、私の友人や、仕事関係の人にまで、私を中傷する手紙を書きました。

その内容は、私が精神病だとか、父の看病が嫌で、早死にするように画策したとか、父のお金を盗んでいたというものでした。

姉は父の日記を黙って持って帰り、父が私のプライバシーを書いた部分や、姉の主張を裏付ける部分(「裏付ける」というのは姉の解釈と言うか言いぶんです)をコピーして、手紙に添えてありました。

私の夫にも、私が浮気しているという手紙を書いてきました。

また、子供たちをたきつけて、私に「あやまれ」だの「嘘つき」だのと責めさせました。

私は、とうてい姉とは争えないので、ひたすら逃げ回っていましたが、父の法事などで会わないわけにはいかず、そんなときには殴られたり、持ち物を壊されたりしました。

母は大変世間体を気にする人なので、そこにつけこんで姉は「(いろんなことを)世間に言いふらす」と言って母を脅したり、また、母の留守に実家に行き、父の遺骨を盗んで帰りました。

「孫たちが祖父を慕っている」とか、「(私や母は悪人なので)父の供養をまかせられない」とかいろんな理由をつけて返却を拒み、今も遺骨は姉のところにあって、納骨が済んでいない状態です。

姉は私の主人にも敵意をむき出しにしていて、十数回主人の職場に電話をかけたようです。

どういう内容であったのかは教えてもらえないのですが、担当官が上司と相談して「もう電話をかけてくるな」と姉に言い、「まともじゃない」と漏らしていた、というのは人づてに聞きました。

今は姉とは絶交状態が続いています。

しかし、今後どうなるかはわかりません。

姉は単に争い好きで、性格に問題があるだけでしょうか? それともパーソナリティ障害とか、そういった病気なのでしょうか?解説 自分は絶対に正しいと思っている。

自分こそ正義だと思っている。

正義の味方を標榜し、ところが実は極悪人だったというのは、昔も今も世間によるあるパターンである。

それによく似ている。

というより、そのよくあるパターンとは、実はこういう人なのであろう。

Case 19のキーワード ○攻撃性 ○自己正当化

Case 20 嘘の多い母に育てられた自分の虚言癖を治したい Q:私は 30代、現在一児の母、外国人の主人と結婚して現地に住んでいます。

実は私は、思春期からずっと「見栄を張るために嘘をついてしまう」事で悩んでおり、精神科にかかったほうが良いレベルなのかどうか、迷っております。

まず、私の成長過程で濃く影響しているだろうと思われる母との関係を書きたいと思います。

私には二人の兄がいて、姉妹はいません。

母は私と自分を同一視する人で、私が母と違う意見を言うと、兄たちは許されても私は折檻される、という事が何度かありました。

また、私の実家は一般に比べて裕福なほうなのですが、母自身がかなり見栄っ張りで、自分の都合の悪い事は隠す・嘘をつく、等を様々な形で見てきました。

そして、恐らく男兄弟には話していないと思うのですが、私にはいかにその嘘が必要なものであったかという正当性を説いてくる事が多々ありました。

私は、うまく言語化できなかったものの、幼い頃から兄弟との待遇の違いと母自身にかなりの不満がありました。

子供の時はずっと男の子になりたいと思い続け、小学校 4年生くらいから登校拒否が始まりました。

4 ~ 6年生まで欠席が非常に多く、両親も私を学校に行かせるのにとても苦労していました。

学校の成績が非常に良かったため、中学校では受験をして、いわゆる地元の有名私立に通い始めました。

登校拒否に関しては根本的に何も問題が解決していなかったため、中学校でも同じように登校拒否が始まりました。

一、二、三年生とかなり休んでいます。

二年生では年上の彼氏ができたため、逃げる場所もできて、やはりなかなか学校に行きませんでした。

その時は、どうして学校に行きたくないのか、と聞かれる度に、自分でもよくわからず困りました。

学校では成績も良く、遅刻や欠席は多いものの、何かの代表に選ばれる事もあるし、生徒会にも推薦されるなど、友達も普通にいて、学校生活に問題があったわけではありません。

根本的に学校には行きたくなく、何かあればすぐに理由をつけて休むか、抜け出す、遅刻する、という感じでした。

下校してからも寄り道ばかりしていました。

高校はエスカレーターだったので、そのまま入学。

それからも問題行動は変わらなかったのですが、彼氏からいろいろな企業に内定を貰った話を聞くなどするうち、私も将来について考えるようになりました。

高校一年の間はずっと登校拒否気味だったのですが、二年生からはさらに多くの友人もでき、何かあれば休みたい、言い訳して学校に行かないという行動は多少あったものの、大体は普通に学校に行きました。

三年では担任やクラスのメンバーにも恵まれ、学校生活もそれなりに高校生らしく無事に終える事ができました。

その彼氏とは高校一年の時に別れてしまい、その後は大学に入るまで彼氏らしい人は誰もできませんでした。

なのですが、今振り返ると、ちょうど高校二、三年生の頃から(それまでも嘘をつくことはありましたが、それらは自分にメリットになることを計算しての嘘だったので、普通の嘘だと思います)虚言が始まったと思います。

「人気者の自分」「忙しい自分」「人格者な自分」など、少しずつ実際よりも良い自分に見せるための嘘をつくようになり、それが今でも続いているように思います。

そして、それを隠すためにさらに嘘をつく、という感じです。

高校の時は、小さな資格(簿記二級など)を取った、とか、自分には珍しい持病がある、等の嘘をついていました。

大学では、首都や関西のレベルの高い大学に合格した事もあり、実家から離れたところに引っ越したかったのですが、反対され、実家に残りました。

それまでの行いが悪かった事もあり、その時は従いました。

また、私が大学生になった頃には、母の環境が変わった事が大きく作用し、母と私の関係は少しずつ改善されていきました。

就職時も地元に残るように言われたので(地元は地方都市です)、このままでは一生大きなチャンスをものにできないと思い海外留学をする事にしました。

ずっと家から離れたかったので、日本に帰る時には東京で就職するつもりだったのですが、縁あって現地人の主人と結婚する事になり、子供ももうけました。

大学を卒業して、会社で働くようになってから自分の病的な嘘の量、また平然と嘘をついている自分が恐ろしくなり、留学先で痛い目にあった事もあり、嘘をつきそうになったら、嘘ではない文章にして言う練習をしてみたり、ついてしまった嘘を書き出して、後で訂正する練習をしてから実際に訂正したり・・・という事をしてきました。

こうした実践的な行動の後、ずいぶん改善したと思います。

なのですが、実はまだ、主人についている大きな嘘があり、その事を言い出せずにいます。

そのため、それに近い話題では話をあわせるために嘘をついてしまいます。

そして、また全然違う場面でも、小さな見栄を張って嘘をついてしまいます。

まだ家にいたのと言われると、電話で会議に出席していた、とか、そういう感じです。

つく必要のない嘘をつく自分が嫌でたまりません。

まだ子供は小さいのですが、大きくなれば母親が細かく嘘をついている事もわかってくると思います。

どうしてこうなってしまうのか自分でもよくわからないので、自分で改善するにしても、限界があるのではないか・・・と不安になっています。

また、主人に相談してみたいとも思うのですが、それも怖く、嘘を正直に訂正する勇気がまだありません。

精神科にかかったほうが良いのでしょうか、それとも、何か違う方法で改善できるのでしょうか。

ぜひアドバイスをお願いします。

解説 元々は自分を実際よりよく見せるための嘘。

高校生の頃から始まった虚言の習慣が増幅していった様子が読み取れるケースである。

本人には虚言の自覚があり、治したいという意思も持っている。

本人は、自分の虚言癖には、母の影響が大きいと感じている。

その可能性はある。

だが証明することはできない。

虚言を直したいという気持ちは、大学を卒業してから強くなった。

これは、母と離れることができたことが大きかったのかもしれない。

虚言が母の影響という推定は、ある程度までは正しそうである。

そして Case 20は、治したいという意思を行動に移している。

大学を卒業して、会社で働くようになってから自分の病的な嘘の量、また平然と嘘をついている自分が恐ろしくなり、留学先で痛い目にあった事もあり、嘘をつきそうになったら、嘘ではない文章にして言う練習をしてみたり、ついてしまった嘘を書き出して、後で訂正する練習をしてから実際に訂正したり・・・という事をしてきました。

こうした実践的な行動の後、ずいぶん改善したと思います。

ご自分で工夫されたと思われるこの方法は、認知行動療法と言われるものとかなり共通点がある。

今後も継続することで、さらなる改善が期待できるであろう。

Case 20のキーワード ○後天性?

○メリット欠如 ○自己改善努力

Case 21 私につきまとう虚言男 Q:私は 30代女性です。

私が 10数年前に 2年ほど交際していた、現在 40代前半男性 Xの事で相談させてください。

私と Xは、現在も親交のある共通の友人 Aを介して知り合い、当時はその他男女 10名前後と頻繁に集まったりしていました。

その当時から Xは、他人との距離感が掴めず仲間内の人間の私生活から仕事に至るまで、一方的に「アドバイス」と称して上から目線で自分が全く経験のない分野まで口を出したり、しばしばその相手の人格や仕事のスキルを全否定するような言い方もしていました。

更に数回飲み会などで会っただけの Aの友人にまで仕事中に顔を出して上記の様な行動を繰り返していました(相手により発言の度合いや威圧感の程度は多少変えていたようです)。

相手が不快感を顔に出しても「図星だから感情的になるんだ。

」と言ったり、その頃から他人の感情に気を配るという考えそのものが欠落していました。

当然上記のような行動は程度は違えど私に対してもあり、ある時、 Xは面識もない私の友人との件に関して「おまえ(私)は、お前の友人にとっては友人としての価値がない」と言われた事が決定打となり、別れる事となりました。

もちろん「 Xには関係のない事。

何も知らないのにそんな事を言う人とは友人としてもやっていけない」とはっきり Xにはその場で伝えましたが「謝っているのに許さないおまえ(私)が悪い」と責めて来たりと、事の重大さや問題の本質は全く理解できなかったようです。

その後も頻繁な電話( X自宅にある私の私物を取りに来いなど、猫なで声や泣きながらでした)、自宅前での待ち伏せ(私を見つけると泣きながらどれだけ私が必要かなどを訴えてくる)、私の姉にも電話などしばらくつきまとい行為が続きましたが、 Aの「またいつか会いたいなら、相手(私)を怖がらせるような行為は今すぐやめた方がいい」という言葉で、自分の極端な行動を客観的に認識できたかどうかは不明ですが、ようやくつきまとい行為が止んだという経緯があります。

そして今回こちらで相談させて頂くに至ったきっかけですが、数日前に Aから「 Xが私の実家(交際時の自宅です。

現在は私は海外にいます)に行った」と聞いた事です。

実際にインターフォンを鳴らしたりはしなかったようですが、「震災後からずっと心配だった。

10数年前からずっとそこは危ないから家族全員引っ越すべきだとあれだけ言ったのに。

」と言ったそうです(実家は震災で結構な被害はありましたが、 Xからそんな事を言われたことは一切ありません)。

その時 Aは、単に Xは私との復縁を考えているだけと思い、私は海外にいると告げ、居場所としてカモフラージュとして別の国の地名を伝えると「実は俺は去年そこへ行って事業を興そうと考えていた。

これは運命だ。

」などと言い出し( Xは日本語以外話せず、事業を興した経験は一度もありません)、その時から現在にわたる約 3週間ほど、それまで殆ど連絡もせず、 5年以上も会っていない Aに電話をかけてきては過去の私との交際時の話や別れの原因などについて延々と語っているのですが、その内容は彼にとって都合の良いもの、むしろ彼の理想と言っていいもので実際の話とは酷くかけ離れています( Xは、「別れの原因は、 Xが私との結婚を早く決断しなかったために私を幸せにする事ができなかったから」等と説明するのですが、事実無根です)。

私の性格などに関してもまるで全てを知っているかのように語るようですが、それについても実際の私とは全くかけ離れており、彼の中で別人のような像ができているようです。

更にその後 Aに電話をする頻度はどんどん増して、話の内容は主に私に関するものですが「俺が守ってやらないと」と言ったり、彼の都合のいいように塗り替えられた同じ話を何度も繰り返したり、むしろどんどん細部まで詳しくなっている上( Aいわく一貫性があり、まるで昨日、今日の出来事のように語る)、他にも当時の友人関係に片っ端から連絡したり当時の友人たちの居住地にふらっと行って見たりしていると話しています。

そして最近になって、 Aに対して去年秋ごろあたりに「共通友人 Bは裏の世界にどっぷりはまって連絡がつかない。

B母の葬儀にすら参列しなかった」と言っていた事が、 Xが作り上げた全く嘘であった事( B母が亡くなったことだけは事実)、 Xが共通友人 Cに電話をして「 Aは今人生の岐路に立たされており、精神的に余裕がないので連絡はしないでやって欲しい。

Aの一番の親友である俺からのお願いだ。

」( Aが一時的に問題を抱えていたことだけは事実)などと人間関係を操作するような嘘までついていたことまで発覚しました。

加えて、 X(独身)は Cに対してそれ以外にも頻繁に連絡して Cの結婚生活に関して口を出し否定し続けた事などにより Cは Xからの電話には出ずにいたのですが、 Xは Aに「 Cは面倒臭いから、関係を切ってやった。

携帯のメモリからも削除した。

向こうから連絡が来ても俺は出てやらない」と、全く正反対の事を言っている他、昨日は Aに対して「共通友人 Dが結婚前提で交際していた彼女を、 Aが奪ったと知っている。

相変わらずだねぇ。

」( Aと彼女は面識すらなく、過去に友人の交際相手を奪った事はない)などと、まるでチンピラが誰かに絡むような口調で( A談)言い出しています。

こうした際限のない Xの虚言――それだけでももちろん大問題ですが、最大の問題は Xがこれら自分の虚言を事実と思い込んでいる様子である事です。

最初に Aから私が連絡を受けた時は、今更復縁を望むなんて不可解であるといったような印象でしたが、彼の妄想とも言うべき事実誤認がどんどんエスカレートしている状態は、「極端な性格が更に極端になった」域を超えており、 Aも Xをこれ以上刺激しないように、実害がない限りは彼によって記憶を塗り替えられた話をただ聞いている状態です。

私が海外にいる事を Aが話してからは、 Aが Xのために私に関する情報収集をしており、むしろ私と未だにつながりを持っているのは情報収集のためだとさえ思っているとの事です。

ちなみに私は 5年以上前に結婚しましたが、復縁を考えているなら一番重要と思われる「私が結婚しているかどうか」については一度も Aに聞いていません。

Xはここ数年無職で現在は住むところもなく、一度はほぼ絶縁となった父親の経営する会社の片隅に寝泊りしている状態な上に、上記のような一連の行動で友人知人から敬遠されてしまい孤独な生活を送っています(もはや Xから電話をしても出ない人が殆どで、その事について Aに「あれだけよくしてやったのに恩知らずだ」といった内容を話す)。

その父親も名義上は現役ですが実質他人に会社を任せているので、 Xと顔を合わせていないはずです。

この状態では事実かどうか疑わしいですが Xの話によると、 X母はその再婚相手と共に刑事事件で逮捕されてしまい、「俺( X)が弁護士をつけてやっている」と言うことです。

(一方で Aに、お金がないからどうしても行きたいコンサートのチケットを買ってほしいとも言っていますので、弁護士をつけるお金の余裕があるとは思えません。

そもそも X母の逮捕というのが疑わしいです。

単に人の興味を引く話を作っているようにも思えます) Aは、チンピラのような口調で言いがかりをつけられた事のほかに、 Aが Xの話が真実ではないと告げた時に執拗に謝罪を要求された事などから、攻撃性が見え隠れしているようにも思われるので、実際に Xが特定の誰かに攻撃的な行動を遅かれ早かれ取るようになるのではないかと危惧しています。

Xはほぼ全く心の拠り所のないとても厳しい状況故に一時的に迷ってしまっているのか、それとも何か病気のサインなのでしょうか。

先ほども申し上げたように、 Xに私が直接コンタクトを取ると刺激してしまい余計に彼の状態を悪化させるような気がするのでできませんが、連絡先を調べられるなら Xの父に面識のある Aか私が連絡を取って現状の説明だけでもした方がいいのか迷っています。

解説 別れた女性へのつきまとい行為。

現代社会でしばしば深刻化している問題である。

その女性との関係をめぐって嘘をつくのも、このような人にはありがちと感じられる。

だがこの Case 21、詳しい情報が得られるにつれて、単なるストーカー男としては語れないことが明らかになっている。

まず第一に、虚言が広範囲にわたっている。

「たくさんの嘘をつく」「普通では考えられないような嘘をつく」という、病的な虚言者の基本特徴を満たしている。

そして、これまでのケースでキーワードとして挙げた特徴がいくつも認められる。

順に見ていこう。

上から目線で自分が全く経験のない分野まで口を出したり、

○自我肥大が認められる。

「しばしばその相手の人格や仕事のスキルを全否定するような言い方もしていました。

他人の感情に気を配るという考えそのものが欠落していました」など ○共感性欠如である。

自我肥大と共感性欠如は、いずれも ○自己愛性パーソナリティ障害の特徴である。

Xがこれらを事実と思い込んでいる様子である ○虚実の混乱が認められる。

病的な虚言の特徴のうち、特に異常性が感じられる事項の一つである。

Aは、チンピラのような口調で言いがかりを付けられた事のほかに、 Aが Xの話が真実ではないと告げた時に執拗に謝罪を要求された事などから、攻撃性が見え隠れしているようにも思われる ○攻撃性が明らかで、周囲の人は危険を感じている。

虚言の指摘に対する攻撃性は、本人の中で虚実の混乱があるためかもしれない。

本書はまえがきに記した通り、病的な虚言を非難する意図を持つ書ではない。

非難するか否かは読者の、そして社会の役割であり、非難する資格があるのもまた読者や社会である。

ただしそれはそれとして、病的な虚言は時に犯罪に結びつく場合があることは否定できない事実である。

この Case 21、表面的には別れた女性につきまとうストーカー男である。

現代ではありふれた事例の一つにすぎないように見える。

だが詳しい情報が明らかになるにつれ、病的な虚言者であることが見えてきた。

平凡に見える事件の中での病的な虚言の占める割合は、意外に多いのかもしれない。

Case 21のキーワード ○自我肥大 ○共感性欠如 ○自己愛性パーソナリティ障害 ○虚実の混乱 ○攻撃性 ○犯罪性

虚言キーワード一覧 虚言者たちと題した 1章、ここまで 21のケースを紹介してきた。

続く 3ケースは、社会を騒がせた有名人であるが、ここまでで出て来た虚言キーワードの一覧と、関連の深いパーソナリティ障害をまとめて示しておこう。

虚言キーワードのうち、 ◎を冠した最初の 2項目は、病的な虚言のすべてに共通する特徴である。

○を冠した項目は、ケースによってあったりなかったりする特徴である。

この一覧は暫定的なもので、これからのケース検討に伴い増減することを前提としている。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく ○かなり細かい話を作り上げる ○ありとあらゆる事で嘘を繰り返す ○外見は嘘つきに見えない ○巧みな舞台設定 ○検証困難性 ○虚言の瞬間は無自覚 ○後からは虚言だという自覚あり ○自己顕示 ○自我肥大 ○対人操作性 ○自己中心的性格 ○我こそは被害者なり ○未熟 ○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○衝動コントロール障害 ○虚実の混乱 ○湧き出るストーリー ○メリット欠如――虚言のための虚言 ○懲りない ○増幅促進(内的要因による) ○増幅促進(外的要因による) ○攻撃性 ○撤回拒否 ○部分承認 ○自己正当化 ○独特の倫理道徳観

○生活必需品 ○先天性? ○後天性? ○自己改善努力 ○甚大な被害 ○犯罪性虚言と関連の深いパーソナリティ障害 ○自己愛性パーソナリティ障害 自我肥大的で人からの賞賛を求め、人への共感性に欠けるというパーソナリティ。

1.自分の価値を誇大的に評価している(才能、業績、潜在能力など)。

2.夢想にとらわれている(無限の成功、権力、美しさ、理想的な愛など)。

3.自分は特別な存在だと信じている。

そんな自分を理解できるのは特別な人だけだと信じている。

4.過剰な賞賛を求める。

5.特権意識を持っている(自分は特別扱いされるべきだとか、人は無条件に自分の命令に従うべきだと思っている)。

6.自分の利益のために巧みに人を利用する。

7.人への共感性に欠ける。

人の人格や気持ちを無視する。

8.嫉妬する。

または人が自分を嫉妬していると思い込む。

9.尊大で傲慢な態度や行動。

○演技性パーソナリティ障害 人との情緒的なつながりと人からの注目なしではいられないパーソナリティ。

1.自分が注目の的になっていないと気がすまない。

2.異性の誘惑・挑発が目立つ。

3.表に出る感情が変わりやすく浅薄。

4.常に外見に気を配って人の気を引こうとする。

5.大袈裟で中身のない話し方。

6.自己をドラマチックに見せる。

芝居がかった態度。

感情表出が大袈裟。

7.暗示にかかりやすい(人や環境に影響されやすい)。

8.自分と人との関係を実際以上に親密だと考える。

○境界性パーソナリティ障害 対人関係、自己像、感情が不安定で、衝動性が目立つパーソナリティ。

1.見捨てられ不安としがみつき(見捨てられないようなりふり構わず努力する) 2.めくるめく信頼と罵倒(人の評価が急に 180度変わる)

3.アイデンティティ障害(自己像が定まらない) 4.自己破壊的行為(衝動的。

セックス、薬物乱用、やけ食いなど) 5.自殺リピーター(自殺未遂、自殺のそぶりや予告の繰り返) 6.ムードスイング(不安や不機嫌が数時間・数日単位で来る) 7.うつろなこころ(慢性的な虚無感。

自分をうつ病だと称することも多い) 8.キレる(怒りの感情をコントロールできない) 9.一過性「精神病」(ストレスに反応して幻覚や解離症状が出る)

Case 22 森口尚史氏 iPS心筋を移植初の臨床応用ハーバード大日本人研究者 心不全患者に 2012年 10月 11日、読売新聞一面に大きく出た見出しである。

以下、 Case 22の記載は基本的に一連の読売新聞記事に基づいている。

すなわち、すべての記載は新聞記事が正しいという仮定の下にある。

この 3日前の 10月 8日には、京大の山中伸弥教授のノーベル賞受賞というニュースがあった。

やった、次は iPS細胞の臨床応用だ、という時期。

iPS細胞の難病への応用が期待されていた時期。

そんな時期、日本人の研究者が世界に先がけて臨床応用を行ったという、華々しいニュースである。

だが翌日の新聞に、早くもこのニュースが疑わしいことを示唆する記事が出た。

そして、翌々日の 13日には、誤報であったと読売新聞に公式に発表され、以後、話は急転開する。

この見出しにある「ハーバード大日本人研究者」が Case 22、森口尚史氏である。

読売新聞は「誤報」と言った。

結論としてはその通り誤報であるが、この誤報は Case 22の虚言に基づくものであった。

その Case 22とはどのような人物か。

この記事には、「ハーバード大客員講師。

肝臓がん治療や再生医療の研究をしている。

東京大学客員研究員」と紹介がなされている。

同じ日の別の面には、 iPS実用化へ加速 という未来への期待 120%の見出しの下に、次のように記されている。

iPS細胞(新型万能細胞)を使った初めての人間への治療が米国で行われた。

米ハーバード大学の森口尚史客員講師らのチームは、今年 2月に、世界初となる iPS細胞から作り出した心筋細胞の注入治療を男性患者( 34)に対して実施した。

世界が次の段階として一番乗りを目指してきた臨床応用が早くも実現したことになるが、今回は緊急避難という側面もある。

そして以下、具体的な方法の説明が記載されている。

今回の治療に用いられた心筋細胞の精密な写真もあり、「森口客員講師提供」というキャプションが付けられている。

治療を受けた患者についてもかなり具体的なプロフィールが記されているが、上記に「緊急避難という側面もある」とあるように、現在の米国のルール上はこの治療を行うことは難しかったところ、弁護士立会いのもとでの患者自身の同意、ハーバード大の倫理委員会からの「暫定承認」という手続きを経て実施されたとある。

記事の中ほどには大きな文字で「暫定承認 日本は制度なし」という見出しがあり、我が国の制度の硬直化を批判すると読めるトーンになっている。

この日の読売新聞はこのニュース満載である。

さらに別の面には「 iPS心筋移植 森口講師の一問一答」というインタビュー記事がある。

今回治療を行った患者、安全性の確認、チーム構成、日本と米国の違い、資金調達、日本再生のヒント、倫理委員会の構成など、 Case 22の回答はすべて具体的で信頼できそうに感じられる内容だ。

この 2012年 10月 11日の読売新聞での Case 22は文字通り輝いている。

紙面からは明るい希望が溢れ出さんばかりだ。

だが前述の通り、早くも翌日の記事ですでに疑いが投げかけられ、翌々日にはほぼ虚偽だったというニュアンスの記事に変化した。

希望は紙面から文字通り溢れ出し消え去った。

輝いていた紙面は虚言の証拠を記す惨めな紙面となって残された。

そして読売新聞社等による事実関係の確認が急速に進み、 2012年 10月 17日には読売新聞本社社長が、これら一連の誤報について「新聞の信頼を傷つけたことを読者や関係者におわびしたい」と謝罪するに至った。

同日、東京大学も Case 22の発表を虚偽と断定し、「大学の名誉を傷つけた」として懲戒解雇している。

解説 iPS心筋移植をめぐる Case 22の一連の話は、上記、読売新聞等の結論が正しいと仮定すれば、虚言である。

すると Case 22は病的な虚言者であろうか。

虚言キーワードと照合してみよう。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく 病的な虚言の必要条件であるこの 2項目を満たすことは明らかと言よう。

○かなり細かい話を作り上げる iPS細胞心筋移植の新聞記事を見れば、 Case 22がいかによくできた細かい話を作り上げたかがありありと読み取れる。

先に紹介した「 iPS実用化へ加速」記事には、 Case 22がこの治療を行った患者第一号について、「幼い子どもの父親。

肝がんになり生命の危機を迎え、臓器移植による回復してから約 3年後に重症心不全で再び危機を迎えた。

iPS治療後は退院し社会復帰を果たした。

定期的に心臓の経過を確認しているが、これまでのところ問題は起きていない」と、その患者が目に浮かぶような生き生きとした描写がなされている。

しかも周到にも治療に用いた心筋細胞の写真が準備され、信憑性を印象づける演出効果となっている。

○ありとあらゆる事で嘘を繰り返すこれはおそらく当てはまらない。

Case 22の虚言は、医学・科学分野の自己の業績に限定されている。

その範囲においてなら、「ありとあらゆる」とみなせるという見方もあろう。

だが少なくとも報道されている限りでは、 1章のいくつかのケースのように、あたかも呼吸をするように嘘をつくというタイプとは異なる。

○外見は嘘つきに見えない記事は数時間に及ぶ取材に基づいたものだと読売新聞は発表している。

新聞記者はプロである。

人を見る目は職業的に鍛えられている。

ガセネタを見抜くのも重要な仕事だ。

そんな読売新聞記者が完璧に騙された以上、外見からはとても嘘つきには見えなかったと思われる。

その後マスコミに登場した彼の外見からはどう判断できるか。

これは読者の叡智に委ねたい。

ただし、虚言者であるということがわかってから見るのとわかる前に見るのでは、印象は大きく違うはずである。

わかってからの外見評価には大きなバイアスがかかることになる。

○巧みな舞台設定実に巧み、いや、最高度に巧みであったのであろう。

そうでなければ一流新聞の記者がまんまと騙されることはなかったはずである。

Case 22取材の詳細が 2012年 10月 13日の読売新聞に、検証「 iPS心筋移植」報道 と題された紙面 1ページ全面を占める記事に詳述されている、本社取材・報道の経緯論文・動画 記者にメール という見出しの下に書かれたこの記事によれば、 Case 22は東大病院会議室で取材を受け、海外の一流科学雑誌に論文を投稿予定だと記者に語ったと言う。

記者は決して Case 22の話を鵜呑みにしたわけではない。

医学担当の上司や、再生医療の第一人者の大学教授にも意見を聴いている。

それでもなお虚言を見抜くことはできなかった。

Case 22が東大やハーバード大に実際に籍があったことも(本人の説明とは異なる形であるが、籍があったことはあった)、話を信用する方向に大きく傾けたのであろう。

虚偽の中に一部事実を混入させるのは、人を欺く時の常套手段であるが、 Case 22の巧みな舞台設定が、慎重で聡明な記者をも欺ききったのである。

○検証困難性最先端の医学・科学についての虚言は、常にこの性質を持っている。

検証できるのは再先端の医学者・科学者に限られており、それ以外の人には全く不可能である。

だからこの分野の虚言はばれにくいという強味がある。

○虚言の瞬間は無自覚これについては不明である。

○後からは虚言だという自覚ありこれについても不明。

Case 22が行ったと主張していた病院から、そんな事実はないと正式に声明が出されたという事実が突きつけられると、それについては嘘だったと認めたが、虚言の自覚に基づいて認めたか否かは不明である。

○自己顕示マスコミを通しての一連の言動からみて、自己顕示の傾向は明らかである。

○自我肥大不明。

自分は優れた科学者であると本気で言っていることを示唆する報道もあるが、その報道の信頼性の有無は不明である。

○対人操作性結果としては虚言によって多くの人を操作している。

ただしこれは、一義的に対人操作性という傾向を持っているのか、虚言の結果としてそうなったにすぎないかは不明である。

○自己中心的性格 ○未熟いずれも不明。

○我こそは被害者なりそのような発言はないようである。

○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○衝動コントロール障害これらは診断名であり、報道された情報だけから判断することは不可能である。

ただし、「障害」という診断名でなく、「傾向」というレベルで言うならば、演技性パーソナリティ障害の傾向ありと言えるであろう。

○虚実の混乱虚言が病的であるか否かの判定のための重要な項目であるが、 Case 22の主観において虚実の混乱があるか否かは不明である。

○湧き出るストーリー Case 22の作り上げた精密な虚偽が、時間をかけて慎重に構築したものか、それとも彼の頭脳から湧き出るように出てきたものかは不明である。

しかし細胞の写真を準備するなどの周到さがあることから見ても、単に自然に湧き出てきた虚言だけでないことは確かであろう。

細心の注意と相当な労力をかけた形跡は確かにある。

○メリット欠如――虚言のための虚言虚言が病的であるか否かの判定のための重要な項目である。

メリットのために嘘をつくのは人間の正常な行動だが、メリットがない嘘は動機の理解が困難である。

そういう嘘、すなわち虚言のための虚言からは、病的という雰囲気が非常に強く感じ取れるものだ。

Case 22では、瞬間的に自己顕示欲を満たすというメリットは確かにあった。

だが読売新聞をあれだけ完璧に騙すまでには、舞台設定、小道具(細胞の写真等)などを含め、相当な努力をしたはずである。

それだけの努力に見合うメリットがあるかどうかは大いに疑問である。

だから相対的という意味ではメリット欠如に該当する虚言である。

Case 22は高い知能を持っており、もっとメリットになる知能の使い方はいくらでもあったのではないか。

○懲りない東大の懲戒解雇、読売新聞本社社長の謝罪、普通はこれで事件は幕引きである。

だが Case 22はその後も iPS細胞による治療は本当にやったと主張しており(具体的な病院名などは言えないとしている)、それ以外にも発言を続けようとしている。

○増幅促進(内的要因による) Case 22は、頭が良い。

おそらくかなり高い知能を持っている。

だからこそほころびのない見事な虚構を構築できたことは間違いない。

普通の嘘つきであれば、もっと前のどこかで見破られて挫折するところ、 Case 22は優れた知能によって、数々の障壁をクリアして来たのであろう。

まえがきに記した通り、本書は虚言を非難する目的は一切有さない書である。

かといって賞賛する意図も毛頭ないが、本書に収載した多くの病的な虚言者の、いわば頂点に位置する見事な虚言者として、 Case 22を認定する気持ちを禁じえない。

もちろん賞賛はしないが。

○増幅促進(外的要因による) Case 22の話に乗った読売新聞を虚言の増幅を促進した外的要因とみなすことができる。

マスコミが発達し劇場と化した現代社会では、話題性には無限大とも言える価値がある。

話題性さえあれば、内容が真実か虚偽かは二の次、、、そういう不謹慎な姿勢が読売新聞にあったなどと私は露ほども考えないが、スクープとして話題性を利用し、社としての利益を得ようという意図があったことが、 Case 22にまんまと騙された一因であることは否定できまい。

これは批判ではない。

現代の虚言の増幅を促進する外的要因の指摘にすぎない。

iPS細胞の臨床応用への世の中の期待感も、外的要因の一つと言えるであろう。

Case 22の虚言が、 Case 22本人にとってのメリットがあったかどうかに疑問があるのは前述の通りであるが、逆に周囲には彼の虚言によるメリットがあった人々が少なからず存在し、これも外的要因になったと推測できる。

○攻撃性認められないようである。

○撤回拒否 ○部分承認客観的な反証をつきつけられた物については嘘であったと部分承認しているが、それ以外になお本当に治療を行った症例があると主張している。

外国のことで、しかも事の性質上(つまり患者のプライバシーなどの問題があるから)、詳細を明かせないという説明はそれ自体は理にかなっており、先に指摘した「検証困難性」を利用した撤回拒否の形になっている。

○自己正当化その要素は見て取れるが、 1章の他のケースのように、自分の虚言を事実と思い込むことによる自己正当化とは異なるように見える。

○独特の倫理道徳観不明である。

○生活必需品 Case 22は虚言人生を送っている。

しかし、虚言によるメリットの相対的な小ささや、虚言が生活の糧になっているとは言えないことから、 Case 22の虚言は現世的な意味での生活必需品にはなっていない。

虚言のための虚言、ないしは自己顕示のための虚言という色彩

色彩が強い。

○先天性? ○後天性?これらは不明である。

○自己改善努力しているようには見えない。

○甚大な被害あったことは言うまでもない。

最大の被害者は読売新聞であったか、難病に苦しみながら新しい治療を切望し、偽りの希望を聞かされた人々であったか。

○犯罪性刑事告訴されていない以上、犯罪性があるという判定はできない。

以上、すべて拠って立つ報道資料が正しいという仮定のもとでの論考である。

Case 23 佐村河内守氏「全聾の天才作曲家」 彼は自伝を出版しており、その文庫版のカバーの次の記載が、そのまま Case 23の要約になる。

すべてを擲って音楽のためだけに生きてきた被爆二世の作曲家は、三十五歳で両耳の聴力を失う。

絶望と虚無の淵から立ち上がらせたのは盲目の少女との運命の出会いだった。

深い闇の中にいる者だけに見える“小さな光”に導かれて ――。

全聾の天才作曲家、奇跡の大シンフォニー誕生までの壮絶なる半生。

感動のドラマ。

ただしこの要約が有効だったのは、 2013年までであった。

その後は無効になり、現在に至る。

そこで Case 23の人生を、第一期 2013年まで、第二期 2014年以後の二期に便宜上分けることとする。

第一期 1963-2013【虚像期】 先に紹介した自伝『交響曲第一番 闇の中の小さな光』は、 2007年 10月に講談社から発刊された(文庫版は幻冬舎から、 2013年 6月)。

同書、及び他の信頼できる報道に基づき、 Case 23の略年譜を作成すれば、次のようになる。

1963年生まれ 1988年 結婚 1990年 シンセサイザーで作曲を始める 1993年 左耳の聴力を失う 1996年 映画「秋桜」の音楽担当 1998年 残る右耳の聴力を失い、全聾となる 2001年 米国 TIME誌「現代のベートーベン」として紹介記事 2002年 身体障害者手帳の交付を受ける 2003年 交響曲第 1番完成 2005年 交響曲第 2番完成 2007年 自伝発売 講談社 2012年 NHK『情報 LIVEただ今!』で「日本が涙!耳聞こえぬ作曲家・奇跡の旋律」として放映。

2013年 NHKスペシャル 「魂の旋律 ~ 音を失った作曲家」として放映 以上の第一期は、『新潮 45』 2013年 11月、野口剛夫『「全聾の天才作曲家」佐村河内守は本物か』で、虚偽の疑いを突きつけられてから、急速に終焉に向う。

第一期の【虚像期】に対し、 2014年からの第二期は【実像期】である。

第二期 2014-【実像期】 Case 23は全聾ではなかった。

Case 23が作曲したと称していた曲はすべてゴーストライター作曲だった。

これらが 2014年 2月に暴露された。

第一期の Case 23の人生は、虚言によって作られていたのである。

以後の年譜は次の通りである。

先の虚像の年譜ではなく、今度は実像の年譜である。

2014年 2月 6日 「全聾の作曲家佐村河内守はペテン師だった」の記事を掲載した週刊文春が発売された。

2014年 2月 6日 上記ゴーストライター新垣隆氏(当時桐朋学園大学非常勤講師)による記者会見が行われた。

同氏は、 Case 23の曲はすべて自分が作曲した、 Case 23の耳は聞こえていると述べた。

その他、 Case 23のこれまでの発言の数々の嘘を指摘した。

2014年 2月 13日 文春 e-books 『堕ちた“現代のベートーベン” 「佐村河内守事件」全真相 神山典士 +『週刊文春』取材班』が発売された。

2014年 3月 7日 Case 23による記者会見が行われた。

その他、 Case 23については、マスコミやネットには、信憑性の判定困難な情報が膨大に存在する。

解説【虚像期】から【実像期】に至る Case 23の言動を、虚言キーワードと照合してみよう。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく彼のたくさんの虚言はどれも、自ら作り上げた虚像である「全聾の天才作曲家」に合わせて熟慮されたものであるが、大胆不敵という意味では、「普通では考えられないような嘘」である。

Case 23がこの「たくさんの嘘をつく」「普通では考えられないような嘘をつく」の二つに当てはまることは間違いないが、その他のキーワードについて検討しようとすれば、 Case 23についての相矛盾する膨大な情報の中から、信頼性の高いもののみを抽出するという作業が必要になる。

これは困難を超えて不可能というべきであるから(いかに精密に検討しようと、その検討結果が正しいという保証はどこにもない)、本書では、ゴーストライター新垣隆氏の発言、及び『堕ちた“現代のベートーベン” 「佐村河内守事件」全真相 神山典士 +『週刊文春』取材班』(文春 e-books)に基づくこととする。

すなわち、これらから得られる情報が正しいという仮定の下での検討である。

新垣隆氏の発言の中心は 2014年 2月 6日の記者会見で、直後に Case 23の代理人はその内容を否定しているが、ここでは新垣氏と Case 23代理人の主張のいずれが正しいかは吟味しない(なお、同代理人はその数日後、 Case 23への不信感を述べて辞任している)。

○かなり細かい話を作り上げる第一期の Case 23の虚構の膨大さと、 NHKのような一流の報道機関が欺かれ、かつ、 Case 23を主役とする番組が作成・放映されたという事実だけから見ても、かなり細かい話を作り上げていたことは明らかである。

自伝にも、自らが受けた音楽教育や、新垣氏との出会いのことなどが具体的に記されているが、新垣氏によれば、これらもすべて嘘である。

Case 23は楽譜もろくに読めないのだと言う。

ただし、虚言として「かなり細かい話を作り上げる」ケースには、大きく分けて二つのタイプがある。

第一は、 Case 10の「一度嘘をつき始めると、ストーリーやセリフがどんどんわいてきてしまう」のように( Case 1「嘘ばかりの夫」や Case 8「結婚詐欺」などもこのパターンかもしれない)、どんどんストーリーが湧き出て来てしまうケースで、メリット欠如の「虚言のための虚言」タイプである。

第二はこの Case 23のように、明らかに利得目的があって、そのために周到に細かい話を作り上げるという「自己利得のための虚言」タイプである。

精神医学的にみてより病的なのは第一の「虚言のための虚言」タイプである。

○ありとあらゆる事で嘘を繰り返す虚言は自らの音楽をめぐる事柄に集中しており、その他の虚言の有無は明らかでない。

○外見は嘘つきに見えない ○巧みな舞台設定第一期における Case 23は、長髪、サングラスという姿であり、これについて本人は「光を避けるため」と説明していた(第二期にはこれらはきれいさっぱり捨て去っている)。

第一期の外見が客観的にどう見えたか、虚言が暴露された現在の目から評価することは困難である。

もっとも、自分が障害者であるという虚言は、そこに疑いの目を向ける者を強く非難する潜在力を持っており、「全聾の作曲家」という劇的なイメージとあわせ、疑いを当初から排除する巧みな舞台設定と言えるであろう。

○検証困難性 Case 22のような最先端の医学・科学についての虚言は検証困難な性質を持っているが、 Case 23のような虚言は、その気になれば見破るのはそれほど困難ではなかったはずである。

だが、今述べた通り、そもそも検証しようという試みは、障害に対する侮辱であると非難される可能性を恐れてしにくかったと思われる。

また、「全聾の作曲家」としての Case 23の周囲に接近する人々にとっては、 Case 23が「全聾の作曲家」であることに価値を見出し、時には利益を得ているのであるから、あえて検証することを避ける心理もあったであろう。

○虚言の瞬間は無自覚 ○後からは虚言だという自覚あり虚言だという自覚は当初からあったようである。

「確信犯的」という言葉が当てはまるケースである。

○自己顕示明らかに認められる。

○自我肥大不明である。

大作曲家になりきっていたのか、実は常にばれることを恐れて小心翼々としていたのか、不明である。

○対人操作性 ○自己中心的性格認められる。

障害者を自己の都合のいいように利用している。

顕著な例は、「佐村河内の愛弟子」とされる先天性四肢障害の少女「みっくん」である。

少女が「佐村河内の愛弟子」としてテレビに出たあと、少女の家族は Case 23から「お宅は私のおかげで娘がテレビに

出られたにもかかわらず、私への感謝の気持ちがなさすぎる」「自分には絶対服従」などの無理難題を言われるようになった(「みっくん」やその家族がテレビに出して欲しいと Case 23に求めたという事実は無い)。

○我こそは被害者なりそのようなことは言っていない。

○未熟不明である。

○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○衝動コントロール障害これらは診断名であり、報道された情報だけから判断することは不可能である。

ただし、「障害」という診断名でなく、「傾向」というレベルで言うならば、演技性パーソナリティ障害の傾向ありと言えるであろう。

○虚実の混乱認められない。

常に虚言だと自覚していたと思われる。

ばれそうになった時、必死で情報が広がるのを止めようとしたところも見られている。

○湧き出るストーリーゴーストライター新垣隆氏の作品を手にするや、それを自分の作品として各所に売り込む、そのセルフプロデュース力は非常に優れている。

この際には、作品に付随する美談(作り話)も付録にするのが常である。

これらの作り話がどんどん湧き出ているのか、考え抜いた成果なのかは明らかでない。

○メリット欠如逆だ。

自分の利益をどこまでも追求するための虚言である。

「自己利得のための虚言」だ。

○懲りない一発で懲りたようである。

しかし第一期において膨大な人々を欺き怒りを買っていることから、懲りないというより、これ以上の虚言は無効と判断した結果にすぎないか。

○増幅促進(内的要因による)社会に受ける、お涙頂戴の話を作り上げる才能は優れており、結果、暴かれにくい虚言が増幅することになった。

○増幅促進(外的要因による)第一期における外的な増幅促進要素は強力であったと言える。

「被爆二世、全聾の作曲家」というキャッチーさを利用して利益を得た人もまた Case 23本人の周囲には多数存在し、彼らが虚言を増幅したことも否めない。

○攻撃性虚言の指摘に対して激しく反撃するという意味での攻撃性は認められていない。

○撤回拒否 ○部分承認 ○自己正当化ばれたらすぐに主要部分は虚偽であると認めた。

だが、「一時は確かに聴力を失ったが、その後回復したのだ」などの釈明もしており、全面承認とは言えない。

この釈明の真偽は、かなり強く一方向に推定できるものの不明であるが、偽だとしても、嘘がばれた時に誰もがする言い訳との本質的な差は感じられないものである。

○独特の倫理道徳観不明である。

○生活必需品まさに虚言を生活必需品としていた。

虚像がそのまま職業になっており、生活の糧となっていたと思われる。

○先天性? ○後天性?不明である。

○自己改善努力しているようには見えない。

○甚大な被害「心が傷つけられた」という意味において、甚大な被害を受けた人々は膨大な数にのぼるであろう。

しかし他方、被害とは逆に利益を獲得したのは Case 23本人だけではない。

「被爆二世、全聾の作曲家」というキャッチーさを利用して利益を得た人もまた Case 23本人の周囲には多数存在した。

「利用して利益を得た」という言い方は彼らを非難しているようだが、彼らの大部分に悪意はなく、利益に目が向き検証の努力を怠ったという面はあるものの、結果としては甚大な被害を受けた被害者と呼ぶべきかもしれない。

○犯罪性刑事告訴されていない以上、犯罪性があるという判定はできない。

Case 23は、虚像を職業とし、虚言を生活の糧としていたと思われる。

第一期における Case 23は、たくさんの嘘をつく、普通では考えられない嘘をつく、という意味では、病的な虚言者の特徴を持っている。

ただし、虚言の目的・動機は自己利得であることは明白であり、「虚言のための虚言」ではない。

外的な増幅要因を活用し、周囲の人の利害関係も巻き込んだ、巧妙かつ周到な虚言である。

「普通ここまでやらないだろう」という感覚的な意味では病的な虚言と言えるが、自己利得という根本の目的にすべてかなった合理的な言動を維持しており、したがって正常な嘘の発展型として理解できるケースであると言えよう。

Case 23は「たくさんの嘘をつく」「普通では考えられない嘘をつく」というメインの虚言キーワードに当てはまるが、あくまでも「自己利得のための虚言」である。

以上、すべて拠って立つ報道資料が正しいという仮定のもとでの論考である。

Case 24 野々村竜太郎氏政務費で 1年に 195回出張 2014年 7月 2日、日経夕刊の見出しである。

47歳無所属の兵庫県議についての記事だ。

この年の出張費は合計約 300万円。

「具体的活動の記載がなく、例外規定を援用して領収書も添付していなかった」という。

この県議が Case 24、野々村竜太郎氏である。

同記事にはさらに、野々村県議は 1日、記者会見し、「 195回は精力的な活動の結果で、うそや偽りはない」と明言。

経路や金額の根拠は「記憶にない」と話し、活動内容や相手先については説明を拒否した。

と記されている。

しかしそれから数日のうちに、たとえば、彼が出張したと主張する日には大雨で多くの特急が運休しており、日帰りは不可能だったこと、さらには上記出張以外の政務費の疑惑などが明らかとなった。

Case 24は、虚偽の文書を作成し、政務費を不正に取得していたのである。

このため彼は、 7月 11日には兵庫県議会から虚偽公文書作成・同行使容疑で兵庫県警に刑事告発され、 7月 12日には県議を辞職、 7月 24日には自ら政務費 1834万円を全額返還した。

なお、 7月 2日以後の複数の記事には、 1日の会見で Case 24は「号泣」したと記されている。

解説 報道の中に「号泣」という単語があれば、まず間違いなく誇張である。

報道とは、一人でも多くの人の興味をひくことが至上任務であるから、少しでも涙を流せば、「号泣」と書く。

誇張だ。

虚偽とは違う。

だが誇張も度を超せば虚偽だ。

どこまでが誇張で、どこからが虚偽かは難しい。

だがそんな難しい議論は Case 24に関する限り不要である。

彼の「号泣」は、誇張ではない。

まぎれもない「号泣」だ。

ネットで検索すればすぐに「号泣会見」の動画を見ることができる。

音声の一部を引用してみよう。

「ですから、アハアハ、皆さまのご指摘を真摯に受け止めてエ、議員という大きな、ハ、カテゴリーに比べたら、政務調査費(泣き声となり聞き取れず)・・報告・・折り合いをつけるという・・ことで、もう一生懸命本当に・・少子化問題高齢化、アーハーハーハー、高齢者問題、アア、我が県のみならず、アーハーハーハーハー、アーーー、我が県のみならず、アーン、我が県のみならず、西宮日本人の問題やないですか・・そういう問題をアハーハー、解決したいがために、俺はね、アハーハー、誰に投票しても、おんなじやおんなじや思って、ウワハハハハーン、アーン、ずーっと投票してきたんですわ・・失礼やけど変われへんから、私が、実行して、文字通り、アハハーン、命がけで、ヘェヘェヘェヘェーン、ア ゛ ー、ア ゛ ー・・・」「この世の中を、アハーハー、この世の中を、アハーーー、アー、アーアー、ア ゛ア ゛ア ゛、ア ゛ ー、ア ゛ ー、この世ホのホなハかハ、ア ゛ ー、世の中を」(机を叩きつつ絶叫。

流涙あり。

なお、上記カタカナ部分はすべて泣き声である)「号泣」という日本語の単語の意味を説明するのにこれ以上適切な材料はないと思われるほどの「号泣」である。

演技ではない。

人が本当に号泣する様子など滅多に見られるものではない。

だからこそ多数の人々が注目した。

その結果、 Case 24は気の毒なことに笑い者になってしまっているが、良くも悪くも彼の精一杯の気持ちが、号泣の中に表現されている。

まさに「号泣会見」だ。

そして「号泣県議」が Case 24の代名詞となった。

いやしかし、本書は虚言の書である。

号泣に目を奪われることなく、虚言に注目しなければならない。

Case 24は公文書を偽造し、 1800万円以上の政務費を不正に取得していたのだ。

虚言者の疑い濃厚ではないか。

なぜ彼は「虚言県議」と呼ばれないのか。

「号泣」の印象があまりに強いためか。

「虚言」というほどの虚偽ではないためか。

虚言キーワードと照合してみよう。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく 1800万円以上の政務費不正取得。

たくさんの嘘だ。

普通では考えられない。

と言いたいところだが、世の人々は「政治家がこのくらいの金を不正に取得するのは、たくさんとは言えないし、普通だ」と思っているのかもしれない。

ここに、「たくさんの嘘」「普通では考えられない嘘」と言えるかどうかは、社会的文脈が大きく影響していることを実感することができる。

たとえ同じ量・質の嘘であっても、どういう立場の人がどういう場面で言ったかによって、「たくさん」と見るかも「普通では考えられない」と見るかも異なるのだ。

政治家の金にかかわる不正は、それが本当に多いかどうかはともかくとして、「たくさんあるのが普通」だという観念が流布している。

仮に「号泣会見」が存在しなかったら、 Case 24の社会的注目度は低かったであろう。

Case 22の音楽家や Case 23の科学者に比べれば、はるかに低かったであろう。

多額の政務費 =税金を詐取したという確実な事実があるのにもかかわらず。

○かなり細かい話を作り上げる細かく具体的な虚偽記載だが、政務費の報告書で嘘をつくためにはあの程度のことは書くのが普通であろう。

普通だから容認できるという意味ではない。

政務費の不正取得という目的を前提とすれば普通だという意味である。

そして本書の他のケースの「かなり細かい話」に比べると、稚拙ともいえる単純な嘘だ。

○ありとあらゆる事で嘘を繰り返すこれはおそらく当てはまらない。

号泣会見で Case 24は自らの政治家としての高い志を述べており(少なくとも、述べようとしており)、当然この「志」には疑問が投げかけられるところであろう。

だが公の場で高い志を広言するのは政治家としては皮膚に密着した第二の本能とでも言うべきものであって、真実とか虚偽とかいうレベルの話ではない。

○外見は嘘つきに見えない Case 24の外見といえば号泣である。

だがもちろん彼はいつも号泣しているわけではない。

彼の外見イメージとして固定化された「号泣」は、ある 1シーンにすぎない。

そうは言っても、嘘についての釈明記者会見での外見は虚言者のたしなみとしては非常に重要だ。

あくまで毅然とした態度を貫くとか、同じ泣くにしても目に涙を浮かべて潔白を主張し同情をひくなど、最低でもその程度の演出は求められよう。

素直に感情を爆発させて号泣した Case 24には、巧妙な虚言者の資質はなさそうである。

○巧みな舞台設定ぜんぜん巧みでない。

○検証困難性簡単に検証され、嘘がばれた。

本書の他のケースと比べると、あまりに稚拙な嘘である。

もちろん稚拙な嘘を軽蔑しているわけではなく、巧妙な嘘を賞賛しているわけでもない。

巧妙な嘘を非難しているわけではなく、稚拙な嘘を容認しているわけでもない。

○虚言の瞬間は無自覚これについては不明である。

もっとも、不正についての感覚麻痺はあったかもしれない。

○後からは虚言だという自覚ありこれについても不明。

号泣会見と、その後の謝罪には、内容においても雰囲気においても大きなギャップがある。

このギャップの背景としては、号泣会見の時点では嘘をつき通すつもりだったが、証拠を固められ逃げ切れないと観念して謝罪した、という解釈が妥当に見えるが、別の解釈として、アドバイザーの影響が大きいという可能性もある。

つまり Case 24の意思にかかわらず、ここは謝罪するのが最も得策という助言が、何らかの人物から Case 24になされたという可能性である。

県議の公式発言には、当然弁護士などのアドバイザーが関与しているであろう。

○自己顕示 ○自我肥大不明。

選挙運動に象徴されるように、政治活動とは自己顕示が必要である。

そして自我肥大にみえるような大言壮語が必要である。

どちらも政治家として世に出るためには必要に迫られた特徴であり、元々そういう特徴を持っていたのか、必要に迫られてのものかわからない。

○対人操作性 ○自己中心的性格いずれも不明。

○未熟その雰囲気はある。

稚拙な嘘をつき、その嘘をとがめられて大泣きしてしまうのは、子どものやることだ。

○我こそは被害者なりそのような発言はないようである。

○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○衝動コントロール障害これらは診断名であり、報道された情報だけから判断することは不可能である。

「障害」という診断名でなく、「傾向」というレベルで言うならば、自己愛性パーソナリティ障害の傾向あるようにも見えるが、これも政治家としての必要に迫られての言動がそう見せているだけかもしれない。

○虚実の混乱 1年に 195回出張。

これ一つを取ってみても、物理的にあり得ない。

なぜ彼はこんな非常識な嘘を? 虚実の混乱があった? あり得ないということが理解できない知能だった? まさか政務費の請求はこういう非常識がまかり通っていた? 謎である。

○湧き出るストーリーそういう才能もなさそうに見える。

○メリット欠如――虚言のための虚言虚言による金銭の獲得には、間違いなくメリットがある。

自己利益誘導のための虚言であり、正常心理ということになる。

だが、ばれた時のデメリットがあまりに大きい。

金銭請求にかかわる誤魔化しは、世の中でかなり普遍的に行われている不正と考えられるが、ばれない程度にやるのが普通であり、ここでもまたあまりに稚拙という印象は否めない。

○懲りない一発で懲りたようである。

しかしもはやこれまでと観念した結果にすぎないか。

その「観念」にもアドバイザーの助言が関与しているかもしれないが。

○増幅促進(内的要因による)巧妙な虚言の才能を駆使したため、嘘がばれずに増幅したという、本書の他のケースの中に見られるような内的要因は、 Case 24にはなさそうである。

不正に対する感覚麻痺に見られる倫理道徳感の欠如はあったかもしれない。

いずれにせよどうしても号泣のシーンと重なり、幼稚・未熟な人物に見えてくる。

○増幅促進(外的要因による)本項冒頭で引用した記事に、「具体的活動の記載がなく、例外規定を援用して領収書も添付していなかった」とある。

県議の政務費には「例外規定」というものがあるらしい。

領収書がなくても通るらしい。

では不正をチェックできないではないか。

で、 7月 8日の日経夕刊によれば、「兵庫県議会は 8日までに、議長の調査権限を強化し、政務費の支給や運用を厳格化する方向で、条例や内規を見直す方針を固めた」とのことである。

当然の対応に見える。

Case 24が虚偽記載によって 1800万円以上を取得したのは、政務費についてのチェック機構の欠如が強力な増幅促進要因になったことは疑いない。

だから厳格化は当然の対応に見える。

しかし単発の重大事象を受けてのルール変更はしばしば将来に禍根を残す。

これまで政務費に領収書なしの例外規定があったのは、それなりの必要性があってのことであろう。

議員の正当な活動の中には、すべてを公表できない微妙な性質のものも多数あるのであろう。

厳格化は議員の自由な活動を阻害することになるのではないか。

それはひいては県民の大きな不利益につながるのではないか。

一人の人間の虚言の、最大の被害はこういうところにあるのかもしれない。

○攻撃性認められないようである。

○撤回拒否 ○部分承認あっさり撤回し謝罪した。

「この部分は嘘を言い張っても反証しにくいのではないか」という考えに基づく「部分承認」も認められない。

Case 24は正直な虚言者である。

言葉が矛盾しているが。

○自己正当化号泣会見では自己正当化をしているが、その後は謝罪し、全額返金もしている。

なおもちろん、撤回も謝罪も 100%本人の意思によるものか、アドバイザーからの影響が大きいかは、不明である。

○独特の倫理道徳観不明である。

○生活必需品虚言で金銭を得たという点では、 Case 23の音楽家と同様である。

Case 23は虚言による収入で生活していたと強く推認できるが、この Case 24では金の使い道は不明で、生活必需品かどうかはわからない。

何のために金が必要だったのだろうか。

○先天性? ○後天性?これらは不明である。

○自己改善努力しているようには見えない。

○甚大な被害政務費をだまし取った。

だが返還した。

返還すればいいというものではないが、少なくとも金銭的な被害については賠償した。

自らの非を認めて責任を取ったといえる。

だが最大の被害は金銭的なものではないかもしれない。

議員一般への信頼の失墜はどうか。

先に述べた、チェック機構が厳格化されることによって、真面目な議員の自由な活動が阻害されることはどうか。

○犯罪性刑事告発された。

もちろん現時点では推定無罪であるが、犯罪性濃厚であることは否めない。

以上、すべて拠って立つ報道資料が正しいという仮定のもとでの論考である。

さて、ここで話は本項解説の冒頭に戻る。

なぜ彼は「虚言県議」と呼ばれないのか。

「号泣」の印象があまりに強いためか。

「虚言」というほどの虚偽ではないためか。

この問いを考えるための虚言キーワードとの照合であった。

答えは得られたのか。

そもそも病的な虚言には公式の定義がない以上、答えというものはないのかもしれない。

だがキーワードに着目し、複数の実例を比較することで、ヒントは得られるであろう。

それが医学における臨床単位確立の手順でもある。

Case 24を、 Case 22の科学者、 Case 23の音楽家と比較対照した表を記す。

a演出の強さは、嘘をつく意図の強さとかなり相関すると言えよう。

b虚言が病的か否かを判定する上での重要な要素の一つ。

すなわち、本人のメリットがなければそれは「虚言のための虚言」であり、病的側面が強い。

逆に本人にメリットがあればそれは「自己利益誘導のための嘘」であり、病的と言えるかどうかには疑問符がつく。

Case 23は明らかに「自己利益誘導のための嘘」である。

Case 22の虚言は、確かに本人にメリットはあるものの、虚言の構築に費やした彼の労力に見合っているとは到底思えない。

Case 24は金銭を得ている以上は「自己利益誘導のための嘘」であるが、あまりに稚拙な嘘と言わざるを得ない。

cこれも虚言が病的か否かを判定するうえでの重要な要素の一つ。

おそらく 3ケースともこの「虚実の混乱」はなかったと思われる。

( Case 24については厳密には不詳だが) d虚言が増幅されるためには、内的要因(一種の才能)が必要であるのが常である。

この内的要因がないと思われる Case 24の嘘が大きくなったのは、 eの外的要因が大きい。

e Case 22と Case 23は、マスコミが発達した現代社会に特有の虚言増幅である。

Case 24は「号泣」という要因が加わって一気に情報が拡大したが、嘘そのものは昔からある平凡なものにすぎない。

f本章の他のケースの中には、「ばれても嘘と認めず、懲りずに繰り返す」という特徴を有する虚言者が見出され、この特徴は「自分の嘘を真実と思い込む」ことに起因すると思われ、その虚言が病的であるという判定に大きく傾ける要素である。

Case 22、 Case 23、 Case 24にはいずれもこの特徴は認められない。

Case 24の全面承認に対し、 Case 22と Case 23は部分承認の形であるが、どちらも「嘘がばれた時の言い訳」レベルのものである。

但し、大々的に報道された場合には、「ばれても嘘と認めず、懲りずに繰り返す」ことはかなり困難と考えられるから、本章の他のケースと同列に論ずることには無理があるかもしれない。

g大々的に報道されたケースでは、弁護士などのアドバイザーがつくことが多く、すると嘘がばれた後の発言は、アドバイザーの影響が相当に認められることになり、どこまでが本人の意図による発言かは不詳になる。

h被害の大きさは、犯罪性の判定に影響するであろう。

i社会のルール上、犯罪性の判定は刑事告発の有無に基づく以外にない。

もちろん最終的な犯罪性の有無の判定は裁判の結果を待たなければならない。

3章 虚言の精神医学

現代の精神医学には、「虚言症」というような、病的な虚言をひとまとめにした病名は存在しない。

だが実際には本書にここまで紹介してきたように、病的な虚言が目立つ人々は確かに存在する。

公式の診断基準のうち、比較的虚言を伴いやすい診断名として、次のようにいくつかを挙げることができる。

(1)パーソナリティ障害 中でも「 B群パーソナリティ障害」と呼ばれる一群である。

B群パーソナリティ障害には 4種類ある: 自己愛性パーソナリティ障害 演技性パーソナリティ障害 境界性パーソナリティ障害 反社会性パーソナリティ障害 また、これらのどれにも当てはまらず、かつ、( 2)以下のどれにも当てはまらないが、虚言だけが特に目立つというケースもある。

それは 他の特定のパーソナリティ障害 という診断名になる。

(2)行為障害 主として子どもにつけられる診断名で、他人への攻撃性、ルール違反、虚言などを特徴とする。

(3)虚偽性障害 自分が病気であるという虚言。

一種の詐病だが、病気のふりをしても本人にとって何の利得もないという点が、普通の詐病とは異なる。

(4)物質依存 薬物(覚せい剤など)、アルコールなどの依存症である。

(5)解離性障害 記憶や感情などが解離(分断)される。

本章ではこれらのそれぞれについて実例を示していく。

( 1)パーソナリティ障害のうち、自己愛性パーソナリティ障害 (Case 3の「異常なプライド」、 Case 7の「パワハラだという事実無根の密告」)、演技性パーソナリティ障害 (Case 4の「美容整形を繰り返し、演技ばかりの私」)、境界性パーソナリティ障害( Case 6の「一人の異常な嘘で職場がめちゃくちゃです」)はすでに 1章で解説した。

また、これらパーソナリティ障害のうちの二つ以上の特徴をあわせ持つ症例もよくある。

そもそも「 B群」としてひとまとめにされる以上、 4つのパーソナリティ障害には互いに似たところがある。

4つに分けられているのは、あくまで現代の精神医学で仮に定められているもので、将来、原因等が明らかにされていくにつれて、分類は変化していく可能性は十分にある。

本章では、 1章では示さなかった反社会性パーソナリティ障害から順に実例を示していく。

Case 27 嘘を繰り返し、刑務所にも 3回入った父 Q:私は 40代女性です。

69歳の父は私が生まれる前から、女癖が悪く虚言癖もあります。

本妻の他にも女が途切れた事がなく、「自分は弁護士」だの、「娘も弁護士」だの、 5人の自分の子も「自分の子ではなく兄貴の子」等、ありとあらゆる嘘を繰り返し、人からお金を騙し取りこれまで 3度刑務所に入っています。

殆ど働いた事がなく人のお金を当てにして今日まで生きてきたようなものです。

騙し取ったお金や借りたお金は自分で返すどころか、取り立てから逃げ回り全て家族が尻拭いです。

「すまない」と口では言いつつ、働こうとしない父。

言い訳と人のせいにすることは天下一です。

子供たちにも同様、「病院に行きたいがお金が足りない」等と言ってくるのでお金を送ると、そのお金で飲みに行く始末。

お酒には強い方ではなく、気分が良いと「今、居酒屋で飲んでる」と楽しそうに電話をしてきたり、そうかと思えば、ため息をついて「お前たちには苦労をかけて申し訳ないと思っている」と、感情の波があります。

普段の生活でも昔から気分の浮き沈みがあり、子供ながらに父の顔色をうかがいながら生活してきました。

父ももうすぐ 70歳です。

この年で刑務所には入りたくないようで、お金を騙し取る事はしていないと思いますが、相変わらず嘘はついている様です。

平気で嘘をつき、見栄を張りたがる。

働く気はなく、子供の援助で生活できると甘い考えの父。

これは、性格だけの問題でしょうか?精神的な症状に当てはまるものがあるとしたら、今後のために教えて頂きたいです。

解説「反社会性パーソナリティ障害」とは、次のような特徴を持つ人々を指している(精神医学の公式の診断基準より。

1.から 7.のうち 3つ以上を満たすことが必要条件)。

反社会性パーソナリティ障害 自分のことしか考えていないように見える言動を取り続けるパーソナリティ。

1.法律や規則を破る。

逮捕されるような行為を繰り返す 2.欺瞞。

嘘をつく・偽名を使う・人を騙す。

目的は自分の利得、または快感。

3.衝動性や無計画性。

4.攻撃性。

喧嘩や暴力を繰り返す。

5.無鉄砲。

自分や他人の安全をかえりみない。

6.無責任。

仕事が続かない、または請求された金を払わない。

7.良心の欠如。

他人を傷つける・困らせる・物を盗む、こうしたことを平気で行う。

または正当化する。

1章でも解説した通り、単純にこの項目をチェックすることで診断を下すことはできない。

精神科医が直接本人を診察することが必要である。

だが「反社会性パーソナリティ障害の特徴が見られる」「反社会性パーソナリティの傾向がある」というレベルの判定は、診断基準との照合に基づき行うことができる。

なお、反社会性パーソナリティ障害という診断名がつくのは 18歳以上の人に限られ、さらに、その人が 15歳より前に行為障害であったという条件も公式にはついている(行為障害については本章で後に実例を示す)。

Case 27は、 3回刑務所に入り、虚言癖があり、ほとんど仕事をしたことがない、など、明らかに反社会性パーソナリティ障害の特徴が見られる。

困り果てた質問者は、「これは、性格だけの問題でしょうか?」と疑問を投げかけている。

1章でも繰り返されてきた、パーソナリティ障害に共通する疑問である。

現代の精神医学では、いかに本人を精密に診察したとしても、「病気か、性格か」という問いには答えられない。

診断の結果として言えるのは「この人は反社会性パーソナリティ障害である」ということまでで、それが病気か性格かという問いには口ごもる。

パーソナリティ障害は、精神医学の伝統に従えば、性格の著しい偏りである。

だが現代の診断基準のパーソナリティ障害と他の精神疾患に本質的な差異があるとはされていない。

したがって診断基準上は病気である。

また、仮に「性格の著しい偏り」であるという立場を取るとしても、「著しい」は言葉の上では量の違いであるが、量の違いも過度になれば質の違いと言わざるを得ない領域にたどり着く。

質が違えばそれは病気という判断もあり得よう。

つまりパーソナリティ障害と病気とするか否かは、未解決の問題である。

病的な虚言についても同様のことが言える。

Case 27のキーワード ○反社会性パーソナリティ障害 ○良心の欠如良心の欠如(少なくとも、良心が欠如しているように見える)は、反社会性パーソナリティ障害のかなり顕著な特徴である。

他方、病的な虚言をする人は、その虚言をするということ自体が、良心の欠如によると言えるのではないかという見方もあり得る。

だが反社会性パーソナリティ障害は、それとはニュアンスが異なり、虚言以外の言動全体から、良心の欠如という雰囲気が感じ取れるのが普通である。

Case 28 前科、前歴、虚言癖のある弟 Q:家族構成は、両親、兄、私、弟の 5人家族です。

お尋ねしたいのは弟の件です。

弟は現在 27歳で年上女性との離婚経験があります。

そして昨年、 20歳の女性と再婚し、現在その女性は妊娠中です。

昔から弟は感情の起伏が非常に激しく、怒ると大きな音を立る・物にあたる・怒鳴り散らす・家出をする・執拗に嫌がらせの電話をしてくる(一方的に切る)等の行動をとります。

性格は自信家で見栄っ張り、サービス精神は旺盛で、人を楽しませたり助けたりするのは好きなようです。

ただし恩着せがましいのですが、怒りだすきっかけは自分の要求が通らない(他人から見たら我侭な要求なのですが、本人は正当な主張であると思い込んでいるようです)自分が否定された、期待を裏切られた、自分でも「失敗したな ~」と思っている事を責められたり怒られたりしたという場合が多いです。

普段は明るくひょうきんで、友人も多く仕事もよくできて、何も問題がないように見えるのですが、子供の頃から少々虚言癖と見受けられるような、吐かなくていい嘘をよく吐いたりしますし、何にしても行動や言動が極端で、少年の頃に 3回、少年鑑別所に入っており(罪状は窃盗・傷害・公務執行妨害です)昨年も結婚前に、喧嘩をして相手の方を傷つけ、執行猶予付きの有罪判決を受けました。

また、最初の結婚の時には、自分の職場のお金を着服し、裏カジノで数千万円の借金を作り、実家にまで借金取りが押し掛けて来たりしました。

奥さんや子供に対しての直接的な暴力は、ちょっと押すとかその程度らしいのですが、家の中に消火器をまき散らしたり、窓を割ったりするそうです。

私にはよくなついており、弟と義妹と私と私の主人と 4人で一緒にご飯を食べに行ったりとか、うちに頻繁に遊びに来たりとかしているのですが、そういう時は普通に穏やかです。

どうも、信頼している人や、甘えたい人が、自分の思い通りになってくれない時に感情が爆発するように思います。

義妹ともしょっちゅう別れ話になるほどの喧嘩をしています。

喧嘩になった時に言う暴言の数々は耳を疑う程です。

常軌を逸しています(ただし、怒鳴り散らす場合と、しつこく早口で淡々と詰めるような言い方の場合があります)。

正直もう、病気の域に達していると思うのですが、何の病気なのか分かりません。

それともそういう性格なのでしょうか。

解説「子供の頃からの虚言癖」「少年の頃に 3回、少年鑑別所に入っている」「喧嘩をして執行猶予付きの有罪判決を受けた」「裏カジノで数千万円の借金を作った」「家の中に消火器をまき散らしたり、窓を割ったりする」など、一つ前の Case 27で解説した反社会性パーソナリティ障害の特徴が見られる。

本人の姉である質問者は次のように言っておられる:正直もう、病気の域に達していると思うのですが、何の病気なのか分かりません。

それともそういう性格なのでしょうか。

「病気の域に達していると思う」という表現はまさに一つ前の Case 27の「嘘を繰り返し、刑務所にも 3回入った父」に記した、「量の違いも過度になれば質の違いになる」ことを言い表している。

嘘にしても悪事にしても、誰でもある程度は自分に思い当たるところがあるものだ。

するとその程度が強い人については、自分の心理や行動の延長線上にあるものとして理解できる。

だが度を越すと、「病気の域に達している」という印象が出てくる。

本人の言動、周囲の困惑、いずれも一つ前の Case 27とかなり共通点がある。

ただこの Case 28には、 Case 27では明らかでなかった特徴がある。

それは「虚言などの問題が子どもの時から著明であること」である。

これについては、反社会性パーソナリティ障害の診断基準にある、行為障害の説明が必要である(反社会性パーソナリティ障害と診断するための条件として、「 15歳以前に行為障害であったこと」がある)。

次の Case 29で。

Case 28のキーワード ○反社会性パーソナリティ障害

Case 29 お金を盗む、嘘をつき続ける、小学校 6年男子 Q:私は 30代女性です。

同居してから 1年になる、現在小学校 6年生( 12歳)の内縁の息子のことでご相談します。

この一年幾度となく問題を起こしちょっと困っていました。

よく聞くと、同居する以前からそのようなことは多々あり、周りの大人たちはどうしていいのかわからなく困っていたようです。

小さい頃から英才教育を受け、塾通いをずっとやってきていたようです。

私立の小学校に入学しましたが、ホームの非常停止ボタンを押して電車をとめるなど悪ふざけが度をすぎ、結局公立の小学校に転入し、現在私立中学受験をめざし進学塾にほぼ毎日通っています。

問題行動というのは、一番はお金を盗むことです。

一緒に住む前から、親や祖父母のお金を繰り返し盗み、それでゲームやお菓子を考えられないほど買って食べる。

明らかに嘘とわかることを、自分では本当だと思いこんでいるかのようにかたくなに嘘をつき続けるのです。

同居し始めしばらくしてから、私の娘のためていた小銭の貯金箱から再々お金を盗み、明らかになくなっていることがわかるくらいまで使い、知らないふりをしていました。

食べ物などは家のものは盗み食いのような食べ方をしていますが、万引きはしていないと思います。

それからもちょこちょこお金を盗んでいたようですが、私の貯金箱から毎日 2 ~ 3千円ずつぐらい盗み、減っているのではないかと気づいた父親から、数えているから盗っていたらわかるんだよと忠告されたあとも、盗ってませんからと平気な顔で言いのけ、毎日お菓子 10個・アイス 3個・弁当・ジュース 5本などの買い物をし、盗んでいないのにそんなお金があるとは考えられないし、食べきれるとも考えられないのですが、全部買って食べたと本人は言います。

数日後に発覚後かなり父親からも怒られ、本人は今度は二度としない(毎回言う)今度やったら出て行くから、信じてほしいと涙ながらに話しました。

その一週間後また同じようにお金を盗み怒られて・・・の繰り返し。

毎回涙を流して謝る様子はとても演技には見えないのですが、結局は同じことの繰り返しです。

私が本人に、盗むときに見つかったらまた怒られるかもとか、ためらいとかないのかきくと、そういう感覚がどうもわからないようで、またお金がある、やった ーと思ってとったと言うのです。

幼児ならともかく、 6年生にもなってこんな状態というのはとても理解できるものではなく、私は何か病気か障害があるのではないかと感じていました。

父親は受験勉強のストレスだと思うと言いました。

本人もストレスだと言うのですが、あまり悩んでる風には感じられないのが私の印象です。

その後今度は塾をさぼっては家に帰ってこないといったことを繰り返すようになり、たびたび探して見つかってということが起こるようになりました。

行きたくないなら休みたいと言えば塾に電話をするからと言っても、今日は行ってくると言って普通の顔で出かけるのですが、実際は塾に行っておらず、何をしているのかはよくわかりません。

4日帰ってこないこともあり、おなかもすいているだろうし何日も夜中中探してもみつからず、結果あちこちの公園や友達の家でごはんを食べさせて貰ったりしながら過ごしたこともありました。

はじめは怒られるのが怖くて帰って来られないのかと思っていましたが、何度も何度も同じことを繰り返します。

そのたびにもう 2度としないと言うのですが、翌日は同じなのです。

テレビをずっと見ていて学校に遅刻することもしょっちゅうですし、これはこうだからしたらだめだよと言われても何度も繰り返します。

見つからなければ言い・ばれなければいいやと思っている風にとれるのですが、ただの姑息な性格とも違うような感じで、とにかく異常としか言いようがありません。

こういった生活の繰り返しが続き、父親はついに腹に据えかねて暴力で押さえつけようとして、たびたび殴って叱っていたようです。

母親や祖父母は手に負えないので施設に入れようかという話もしていたようですが、何とかちゃんと立派な社会人にしようと自分なりにはがんばっていたつもりのようです。

私と暮らすようになってからは、私は子供をたたいて叱ることはないので、殴らずに叱るように父親に話した結果、父親も殴ることはなくなりました。

病院にも行くように勧めていますが、なかなか認めないと言うか思いたてないようです。

病院受診をした方が良いでしょうか? 大人になったら何かの病気になってしまうのでしょうか?それともこのままで自然に落ち着くのでしょうか? 落ち着くとは思えないのですが・・・。

解説 行為障害とは、主に 18歳未満の人につけられる診断名で、反社会性パーソナリティ障害と同様、自分のことしか考えていないように見えることが特徴である。

公式には過去 1年以内に次の 15項目のうち 3つ以上のエピソードがあることが診断の条件である(そのうち一つ以上は過去半年以内)。

人や動物への攻撃性 1.いじめ、脅迫、威嚇などが多い。

2.喧嘩が多い(言い争いではなく、暴力を行使する喧嘩) 3.凶器の使用(バット、ナイフなど危険な物) 4.人に対する残酷な行為 5.動物に対する残酷な行為 6.強盗に相当する窃盗(万引きや置き引きは除く) 7.強姦や強制わいせつ、器物損壊 8.放火 9.放火以外の器物損壊、欺瞞・窃盗 10.他人の家や自動車への侵入 11.虚言が多い 12.万引きなどの窃盗、重大なルール違反

13.親の許可のない外泊が多い( 13歳以前から) 14.一晩以上の家出 2回以上または長期間の家出 1回以上 15.学校をさぼることが多い( 13歳以前から) Case 29( 12歳)は、窃盗、虚言、家出、学校のさぼりなどがあり、行為障害の特徴が認められる。

「大人になったら何かの病気になってしまうのでしょうか?それともこのままで自然に落ち着くのでしょうか? 落ち着くとは思えないのですが・・・」という質問に対しては、「大人には反社会性パーソナリティ障害という診断名があり、これは 15歳以前に行為障害であったことが条件となっている」という一般的な事実だけが回答になる。

つまり、この Case 29という特定のケースがどのような経過をたどるかについてはわからない。

Case 29のキーワード ○行為障害 ○懲りない

Case 30 嘘が異常に多く、窃盗もした息子 Q:私には今年 21歳になる息子がいます。

中学高校ぐらいからだんだんと嘘が多くなり、嘘がばれるのを恐れてさらにまた嘘を重ねるといったケースが多く、周囲の人たち、友人にもずっと迷惑をかけてきました。

私たち両親が過干渉すぎたり、しつけと勘違いして厳しかったりしたり、母親である私自身が、人の手前だけ息子をよく見せようとしてしまったり、家で同居していた姑と折り合いが悪く、息子は小学生まではいつも大人の顔色をうかがっていた状態でした。

本人に考えさせるふりはしてきても、結局何も考える時間を与えられなく全て私たちのエゴを押しつけてしまってきていました。

今更ながら後悔しています。

兄弟もいなく一人で抱えてきてしまったと思います。

思春期に入り嘘が多くなりその都度注意はしてきてもだんだんとエスカレートしていく状態でした。

高校を卒業してから専門学校へ行ったのですが自分の車がどうしても欲しくて友達や金融機関にお金を勝手に借りたりしていたりネットオークションもやっていたのですが、物が届かない、お金が入金されていないなど様々な問題を起こし、結局学校もやめてしまい自分でそれを隠すようになったり、就職に関しても何も相談せず勝手に決めてきたと思ったらそこでも嘘が原因でトラブルになりやめていたりの繰り返しで、とにかく今までの育て方が間違っていた、これから何でも話し合いながら決して感情的に怒らず心を開いていく努力をして嘘を減らせるようにがんばろうと本人もその時点では納得して努めてきました。

ところがそれから間もなくようやく決まった就職先で無断欠勤をしてしまい、夫と息子と会社の人で話し合い結局解雇になるというところを自主退社という形をとって頂いたにも関わらず、翌日その会社に忍び込み窃盗をしてしまいました。

監視カメラですぐに分り、自宅に連絡を頂き、警察へ出頭させました。

窃盗を働いた理由を聞くと、自分がお付き合いしていた女性のために急遽まとまった金額が必要だったという信じがたい答えが返って来ました。

私たちに相談は怖くてできなかった、周りにも相談できなかったどうしようもなく手を出したと言っていますが、今までも嘘が原因で色々な場所で色々な方たちに多大な迷惑をかけ続け、それを隠すためにまた嘘をつき通し、詰問すれば怒って、どうでもいい言葉の端々で突っかかって来ることを繰り返して来ました。

今では主人とはあまり話をしようとせず、自分の思い通りにできないことがあると私に八つ当たりのように怒りをあらわにしてくることがとみにエスカレートしています。

仕事についても急に就職したと言って時間通りに家を出るのですが調べたら全て嘘でした。

もう嘘はやめよう、悩んでることがあれば話すように、別にすぐ働く必要もないと言い聞かせても、親がすぐ家を追い出そうとするから居場所なんかない、、、と親が全て悪いと思っているような言い方をします。

これは人格障害なのでしょうか。

やはり育て方が悪かったのでしょうか。

解説 現在は反社会性パーソナリティ障害、中学・高校時代は行為障害であったと推定できるケースである。

行為障害と反社会性パーソナリティ障害は、年齢によってつけられる診断名が異なるだけで、実際は同じものであると考えることもできる(ただし、行為障害の人がその後必ず反社会性パーソナリティ障害になるというわけではない)。

このようなケース、ご家族としては、「やはり育て方が悪かったのでしょうか」と考えがちだが、パーソナリティ障害になるのは、育て方の問題ではない。

少なくとも、育て方だけの問題ではない。

パーソナリティ障害の脳についての研究は最近ではかなり進んでいる。

反社会性パーソナリティ障害では前頭葉などに機能障害があることがほぼ確実な所見になりつつある。

ではこのような機能障害の原因が遺伝か環境か、それは明らかにされていない。

遺伝と環境の両方の要素があることは確かであるが、どちらがどの程度影響しているかはまだ明らかにされていない。

ケースによる違いもかなりあると思われる。

Case 30のキーワード ○行為障害 ○先天性? ○後天性? 1章でも解説した通り、それが性格であれ病気であれ、先天性の要素と後天性の要素が合わさって成り立つのが常である。

それぞれの要素の割合はケースによって異なる。

つまり、先天性の要素が大きいケースもあれば、後天性の要素が大きいケースもある。

行為障害の子どもを持つ親は、この Case 30のように、育て方が悪かったのではないかと自分を責めがちであるが、先天性の要素のほうが大きい場合もままあるものだ。

Case 31 懲りない詐欺の繰り返し 1956年の医学論文より。

26歳男性。

小学校時代から空想的傾向が強く、ほら吹きだったが、成績は良かった。

工業学校 3年頃からさぼり出し、家出をして知人宅をわたり歩くようになった。

ここまでは確かな事実であるが、その後の生活歴は不詳。

本人は予科練に入ったと言い、その後に自らそれを否定、予科練には受かったが喧嘩で勾留されているうちに入隊期日が過ぎてしまい入れなかったと言い直す。

会社に勤めていたとも言う。

実際はどれも嘘言で、無職で放浪の生活を送っていたようである。

16歳から、詐欺を繰り返す。

少年兵として応召された者になりすまして出征軍人の留守宅や遺族を訪れて饗応を受けるという手口で、たとえば「既に二階堂の遺族をたずねて来たものでありますが、分会のことで調査して貰いたい。

わたくしは熊谷の陸軍特別攻撃隊第 2皇盾飛行隊尚武隊の伊藤伍良少尉だが」のようにかなり具体的な虚言をしていた。

また、「自分は公爵武者小路幸徳であるが、第一復員局で軍服払下げをしているから、あなたに払下げしてやる」などの虚言をして代金を詐取することもあった。

詐欺で逮捕され服役し、仮出所後しばらく実家にいたが家出し、また詐欺を繰り返すようになる。

たとえば某少佐の弟と称してある保育園に泊まり込み、翌朝、「お世話になった、お礼にお土産を買ってくる」と言ってボストンバッグを借り、そのまま持ち逃げした。

このような詐欺を繰り返すうちにまた逮捕・服役、仮出所。

その後もやはり詐欺を繰り返す。

自分は東大学生で某大将の息子であると称し、「下宿で金を盗られそうになり、犯人を捕らえたが金を証拠品として警察に置いてきた。

それで荷物を運ぶ金がなくて困った、金を貸してくれ」というまことしやかな話や、「某氏が先生の作った像を貰いたいと言っていますので頂きに来ました。

ついでにわたくしは途中で金を盗られたので少し貸してください」という相手の虚栄心を利用した話を作って金を詐取した。

また、こともあろうに刑務所に東大の制服制帽をつけて現われ、「日本学生柔道連盟委員長 東京大学文学部仏文科学生、東大新聞編集長 南郷卓 住所東京都文京区本郷 2-1電話小石川 3951-3」なる名刺を出し、朗々と虚言を語った。

その中で柔道の話になり、自分は柔道六段だとこれもまた虚言を語ったところ、ちょうどその刑務所で柔道の稽古が始まっているから教えてくれと言われると、臆するところなく柔道着を借りて道場に出た。

しかし柔道などできるはずもなく、当然ながらころころ投げられたが、「だいぶ上手な人もいるが、投げられ方を知らない」とうそぶいた。

Case 31は詐欺で逮捕された後、あまりの虚言のため精神障害の可能性が疑われ、精神鑑定が行われた。

以下は担当した精神科医による所見である: 診察には素直に応ずるが、内容には時々虚言が自然・巧みに出てくる。

虚言や詐欺の心理については次のように述べている。

「最初の犯罪では自分は特攻隊になりたくてやった。

本当に特攻隊になりきってしまい自然な気持ちだった。

捕まった時にはじめてしまったと思う。

または暴露しそうになり、ヒヤヒヤしてああそうじゃなかったと思い出す。

だましている時は全く自然でそう思っている」「はじめは計画的である。

家を出る時歩きながら考える。

今晩泊まるところとか、飲食のことなどで計画的に名前をかたろうとする。

はじめ言い出すときは、将棋を指すときにあの手この手を考えてやっている気持ちでやる。

しかし相手が信用してくると、自分も本気になってきて、もうなりきってしまう。

こうなると自然である。

嘘ははじめから用意していない。

その時その時に応じてうまく出てくるものだ。

何か人の話や読んだことをよく覚えていて、それを利用する。

たとえば、友人に東大に行っている者があり、東大新聞を見せて貰ったので、この知識を利用して刑務所へ遊びに行ったわけである」「半分は打算、半分は知らずにやってしまうが、どちらが本当かわからなくなってしまう程のことはない。

名刺を作った時などはもちろん打算的である」解説 診断は、典型的な空想虚言者。

論文にはそう書かれている。

1956年の論文である。

現代の精神医学の観点からは、この Case 31には、子ども時代からの虚言、そして犯罪の繰り返しがあることから、行為障害、反社会性パーソナリティ障害の特徴が認められると言える。

演技性パーソナリティ障害の特徴も認められる。

いずれにせよ、 B群パーソナリティ障害である。

彼は虚言によって金を詐取したり饗応を受けたりしており、確かに詐欺の範疇に入る行為を繰り返している。

だが、手の込んだ作り話をし、また、偽の名刺を作るなど周到な準備をしている割には、結果として得ている金額は少額である。

彼の虚言には利得目的がないとは言わないが、むしろ好意あるもてなしを受けることが主目的であるように見え、自分の虚栄心、空想的願望を満足したい動機が強く、現実の生活を芝居や遊びと心得ている印象がある。

「相手が本気になると、自分も本気になる」というように、自分で自分の虚言に巻き込まれているところが見て取れる。

論文ではこうした点が指摘され、典型的な空想虚言者であると結論されている。

空想虚言者は、現代の精神医学の正式な診断基準には存在しない診断名である。

ではこれを現代の目から見るとどうなるか。

本書 1章で抽出した虚言キーワードに照らして検討してみよう。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつく

これらは明らかに認められる。

○かなり細かい話を作り上げる「下宿で金を盗られそうになり、犯人を捕らえたが金を証拠品として警察に置いてきた。

それで荷物を運ぶ金がなくて困った、金を貸してくれ」など、細かくかつ具体的である。

しかも、「嘘ははじめから用意していない。

その時その時に応じてうまく出てくるものだ。

」と言っており、すると Case 22の科学者の解説などで述べた、「虚言のための虚言」タイプであり、精神医学的にみてより病的な虚言者であると言える。

○ありとあらゆる事で嘘を繰り返す様々な虚言による詐欺を繰り返しており、「ありとあらゆる事」と言っていいレベルである。

○外見は嘘つきに見えないだからこそ多くの人が騙されたのであろう。

○巧みな舞台設定偽の名刺を作るなどの小道具には気を配っているが、刑務所を訪れて虚言を披露するなどは大胆不敵な行為で、人を欺くための巧みな舞台設定とはむしろ逆とも言える。

○検証困難性特攻隊員であるとか、東京大学の学生であるとか、疑うのは失礼にあたる身分を詐称しているという点は、検証困難性の現れと言ないこともないが、むしろ騙してからはその相手に会わないようにする(饗応を受けるなどした後は姿を消す)ことで、追及を逃れている側面が強い。

○虚言の瞬間は無自覚「はじめは計画的である。

家を出る時歩きながら考える。

今晩泊まるところとか、飲食のことなどで計画的に名前をかたろうとする。

はじめ言い出すときは、将棋を指すときにあの手この手を考えてやっている気持ちでやる。

しかし相手が信用してくると、自分も本気になってきて、もうなりきってしまう。

こうなると自然である。

嘘ははじめから用意していない。

その時その時に応じてうまく出てくるものだ」 この「なりきってしまう」という説明から、虚言で人を騙しているまさにその時は、虚言の自覚が消えていることがうかがわれる。

○後からは虚言だという自覚あり「半分は打算、半分は知らずにやってしまうが、どちらが本当かわからなくなってしまう程のことはない。

名刺を作った時などはもちろん打算的である」 という説明、及び、そもそも精神科医の診察時にはこれまで虚言してきたことを認めている以上、後からは虚言という自覚があることは明らかである。

○自己顕示 Case 31の精神鑑定(詳細な精神科的診断)を行った医師は、虚栄心、空想的な欲望を満足させたいという動機が相当大きいことを指摘し、顕揚欲性(自己顕示欲)が空想虚言者では必須であり、精神医学的には( 1956年の精神医学である)性格の異常の範疇であると述べている。

○自我肥大 ○対人操作性 ○自己中心的性格 ○未熟傾向としてはこれらは認められるが、前記の通り、「虚栄心、空想的な欲望を満足させたいという動機」が原点にあって、その結果としてこれらの傾向も派生しているとみるほうが妥当であろう。

○我こそは被害者なりそういうことは言っていない。

○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○反社会性パーソナリティ障害 ○行為障害 ○衝動コントロール障害 先に述べたように、精神鑑定を行った精神科医は、 Case 31を「自己顕示欲が強い性格異常」であると診断している。

これは現代の診断基準では演技性パーソナリティ障害に最も近い。

一方でこの Case 31は犯罪を繰り返しており、自分のことしか考えない反社会性パーソナリティ障害に分類することは不可能ではないが、その動機が空想願望を満たすだけと思われ、すると反社会性パーソナリティ障害と診断することには躊躇される。

演技性パーソナリティ障害も反社会性パーソナリティ障害も、 B群パーソナリティ障害という一群に含まれるから、 Case 31 (=空想虚言症)も、 B群パーソナリティ障害という診断が最も適切ということになるかもしれない。

なお、もし性格傾向などがはっきりしなかったような場合で、しかし病的な虚言があるケースでは、「他の特定のパーソナリティ障害」というのが、現代の診断基準に従った診断名となろう。

○虚実の混乱本人が「相手が信用してくると、自分も本気になってきて、もうなりきってしまう」と言っていることから、虚言をしている最中には、虚実の混乱(さらに言えば、虚言を真実と思い込むこと)が生じていると見ることができる。

1章の Case 1の「嘘ばかりの夫」、 Case 11の「自分の嘘を本当だと思ってしまう」、 Case 22の「私につきまとう虚言男」などでも、嘘を言っているときはその内容が真実だと本人は思い込んでしまっているようであった。

このように、「虚言をしている最中には、自分の虚言を真実と思い込む」のは、病的な虚言者のある群の特徴であると思われる。

なお、 Case 31ではあくまで「どちらが本当かわからなくなってしまう程のことはない」、及び、虚言だと指摘されれば素直に認めていることから、「虚を実と思い込む」とまでは言えず、やはり「虚実の混乱」と呼ぶのが適切であろう。

○湧き出るストーリー詐欺行為にあたっては、事前に周到に準備していることは確かであるが、「嘘ははじめから用意していない。

その時その時に応じてうまく出てくるものだ」というように、かなりアドリブの要素が入っている。

「湧き出るストーリー」ありとみていいであろう。

○メリット欠如――虚言のための虚言詐欺により金品や饗応を受けているが、つぎこんだ努力やリスクと比べると、メリットはかなり小さい。

メリットが欠如した、いわば虚言のための虚言と言ってよい。

○懲りない有罪となり服役までしているのに、詐欺を続けている。

懲りない。

たいしたメリットがないのに懲りずに虚言を繰り返している。

これもまた「虚言のための虚言」を示唆する所見である。

○増幅促進(内的要因による) ○増幅促進(外的要因による)一般に、虚言の増幅を促進する外的要因とは、本来なら社会に存在する抑止力(虚言への非難や罰など)が無い(または弱い)ことである。

この Case 31はまさにその逆で、詐欺で有罪となり服役という刑罰を科されているにもかかわらず、虚言が繰り返されている。

外的な増幅促進要因がない(逆に抑制要因が十分にある)にもかかわらず虚言が続いているという事実から、内的な増幅促進要因が非常に強いと判断できる。

○攻撃性認められない。

○撤回拒否 ○部分承認認められない。

ばれれば虚言だとあっさり認めている。

○自己正当化認められない。

○独特の倫理道徳観不明。

○生活必需品虚言による利益で生計を立ているわけではないので、虚言が生活必需品になっているとは言ない。

もっとも Case 31は、虚言なしでは生きていけないようであるが、現世的な意味での生活必需品になっているわけではない。

○先天性? ○後天性? Case 31は、特に虐げられた子ども時代を送ったわけではない。

他の類似のケースと合わせ、 Case 31を紹介した論文を書いた精神科医は、「空想虚言者は環境とは関わりなく、むしろ素質が根本的である」と明言している。

つまり先天性の要素が強い。

先に述べた、虚言の内的増幅促進要因は、この先天性の要素ということになろう。

○自己改善努力認められない。

なお、 Case 31を紹介した論文には、「空想虚言者は・・・いかに方法をもってもこれを改善することは不可能」と記されている。

○甚大な被害実質的な被害が確かにあるが、比較的軽いものにとどまっている。

甚大とは言えない。

本人のメリット欠如の裏返しである。

すなわち、 Case 25(ノルウェイの森の緑)と同様で、本人のメリットが小さければ周囲の受ける被害も小さいのが普通である。

少なくともこの時代はそれが普通であった。

だがマスコミが巨大化した現代では、 Case 22(科学者)のような相対的メリット欠如の虚言でも、情報が爆発して多くの人を巻き込み被害も巨大化することがあるようになっている。

○犯罪性詐欺で有罪になっており、犯罪性は当然ある。

Case 32 ミュンヒハウゼン症候群 1975年の医学論文より。

21歳女性。

食後の吐き気、嘔吐を繰り返すため検査目的で内科に 2ヶ月入院。

症状は精神的なものとされ、「神経性嘔吐症」と診断されて退院。

退院 7ヶ月後に再入院。

この入院では、退院間近になって吐血を訴え、吐物を見せたが、医師の目からはそれは吐血ではなく、採血した血液と判断された。

他にも身体的な異常なくそのまま退院。

5ヶ月後、連夜、腹痛のため救急外来受診。

ある受診時のレントゲンで、 6本の縫い針が腹部に発見され入院。

だが本人は縫い針を飲んだ覚えは全くないと主張し続けた。

入院中も吐き気を訴えたが、実際に吐くところは一切観察されず、訴え方も「食べたもののうち、味噌汁の汁だけが出た」というように曖昧で不可解なものであった。

食事をとったふりをして捨ててしまい、結果として体重減少し、医師に首をかしげさせるところもあった。

そのほか、恋人がフランスで死んだ、自分は主治医と結婚することになっている、隣にいた独身女性患者に自分の義兄と結婚させると約束するなどの虚言があり、病院スタッフや入院患者とトラブルが絶えなかった。

解説 診断は、ミュンヒハウゼン症候群。

論文にはそう書かれている。

「ほら吹き男爵の冒険」の主人公であるミュンヒハウゼン男爵に由来する病名である。

Case 32は、病気のふりをしている。

だが通常の詐病とは違う。

詐病とは、病気のふりをすることによって何らかのメリットを得ようとするものである。

給料を貰いながら休む。

学校をずる休みする。

障害年金を得る。

などのメリットである。

しかしミュンヒハウゼン症候群は、「病気のふりをすること」そのものが目的であるとしか考えられない。

いわば虚言のための虚言である。

本人にとって何のメリットもない。

典型的なミュンヒハウゼン症候群の患者は、各地を旅行して、その土地の病院を受診、虚偽だらけの病歴や症状を訴え入院を繰り返す。

ばれそうになると忽然と姿を消す。

どう見ても本人にメリットはなく、不可思議とか言いようがない。

現代の公式の診断基準には虚偽性障害という診断名があり、身体症状や精神症状の捏造が特徴と記されているから、虚偽性障害はミュンヒハウゼン症候群とほぼ同義と考えて良い。

おそらくは、周囲から注目を浴びたいという欲求が動機の根本にあるのであろう。

しかしそれなら入院以外にも方法が色々ありそうだが、なぜ「病気のふりをする」という虚言が中心になるのかは謎である。

本人は自分は本当に病気であると言い張るし、ばれそうになると姿を消すから、医学研究の対象としようとしてもその手をすり抜けていってしまう。

だからミュンヒハウゼン症候群についての医学的知識は、この病名が提唱された 1951年のイギリスの Lancetに発表された最初の論文以来、ほとんど進歩していない。

Case 32を虚言キーワードと照合してみよう。

◎たくさんの嘘をつく ◎普通では考えられないような嘘をつくこれらは明らかに認められる。

○かなり細かい話を作り上げる自分の病気に関しては具体的なかなり細かい話を作り上げている。

○ありとあらゆる事で嘘を繰り返すミュンヒハウゼン症候群は、自分の病気についての嘘(虚偽だらけの病歴や症状を訴える)が主症状だが、この Case 32のように、虚言が病気以外の事項に及ぶケースもある。

○外見は嘘つきに見えない ○巧みな舞台設定 ○検証困難性患者を装うというのは、虚言で欺く相手は医師などの医療従事者限定であるという点で、特殊な虚言であると言える。

病院は、受診してきた患者がどんな人であれ、診断・治療するのが社会的義務であるから、どんな患者に対しても、最初から詐病を疑うことは決してない。

したがって、「外見は嘘つきに見えない」かどうかは、欺きやすさとは無関係であり、患者を装って病院を受診すること自体が「巧みな舞台設定」であり、痛い・苦しいなど病気の症状とは最終的には主観的なものであって、たとえ検査所見がなくても絶対に詐病とまでは言ないという点で「検証困難性」がある。

したがって、逆説的だが、本来は病気の専門家である医師を詐病で欺くのは、最も成功しやすい虚言の一つであると言うことができる。

○虚言の瞬間は無自覚不明。

○後からは虚言だという自覚ありないようである。

少なくとも虚言だということを自分で認めることはまずない。

○自己顕示自己顕示性の表現と解釈することができないこともないが、詐病という形に限定して虚言があるケースでは、自己顕示だけで動機を説明することには無理がある。

○自我肥大あるようには見えない。

○対人操作性虚言の結果として、病院スタッフを操作している。

○我こそは被害者なり病気があることを検査で否定されても、自分には症状があって苦しんでいると主張する点は、「我こそは被害者なり」にあたる。

ばれると忽然と姿を消すタイプでは、これにはあたらない。

○自己中心的性格 ○未熟 Case 32にはこれら特徴が認められる。

○自己愛性パーソナリティ障害 ○演技性パーソナリティ障害 ○境界性パーソナリティ障害 ○反社会性パーソナリティ障害 ○行為障害 ○衝動コントロール障害先に述べた通り、ミュンヒハウゼン症候群は現代の診断基準では「虚偽性障害」にあたるので、虚言キーワードに ○虚偽性障害を加えることにする。

Case 32には B群パーソナリティ障害(自己愛性パーソナリティ障害、演技性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害の総称)が合併している可能性は高そうだが、十分な医学的データがないので不明である。

○虚実の混乱不明。

○湧き出るストーリー不明。

○メリット欠如――虚言のための虚言とてもメリットがあるようには見えず、「虚言のための虚言」という様相を呈している。

○懲りない虚言の繰り返しはあるが、典型的なミュンヒハウゼン症候群では、ばれそうになると姿を消すので、そもそも懲りるような罰やデメリットを本人が被ることがない。

○増幅促進(内的要因による) ○増幅促進(外的要因による)たとえ虚言の疑いがあっても、病院は慎重な姿勢を取り、ぎりぎりまで詐病であるという結論は下さないことは、外的な増幅促進要因であると言える。

「病気のふり」は、虚言の疑いが限りなくクロに近くてもクロと断定されにくい虚言の一つなのである。

○攻撃性認められない。

○撤回拒否 ○部分承認 ○自己正当化自分には症状がある、病気に違いない、という主張は撤回しない。

自分の病気に関してはどこまでも自己正当化を貫いている。

○独特の倫理道徳観不明である。

○生活必需品現世的な意味で生活の糧にしているとは言ない。

○先天性? ○後天性?データがなく不明である。

○自己改善努力ないように見える。

○甚大な被害ミュンヒハウゼン症候群の患者が一人でも入院したり、あるいは救急外来などを頻繁に受診すると、病院は振り回されて多大な迷惑を被り、ひいては他の患者に甚大な被害をもたらす。

○犯罪性病気を装って病院を受診したり入院したりする行為は明らかに犯罪であるが、告訴されることはきわめて稀、ないしは皆無である。

Case 33 明らかに嘘をついているのに自覚がない夫 Q: 30代の主人の相談です。

うつ・不眠で 4年以上通院しています。

夫は明らかにたくさんの嘘をつくのですが、その自覚がないようなのです。

嘘というのは、主にコンビニに行って何を買ったかについてです。

毎晩のように夕方や夜に出掛けては、数百円のお金を使っています。

時には私の財布から勝手にお金を持っていってしまいますので、今はお金は隠しています。

本人は、「 ○ ○と △ △を買った」と言うのですが、それだけでは明らかに財布に残っている額と合わないのです。

ほかにも何か買っているはずなのに、全く思い出せませんし、嘘をついているようにも見えません。

その点は信じています。

なので、自覚のない虚言癖なのか?と思ってしまいます。

あとは、私が夜風呂に入っている間に、明らかに出掛けた形跡があり、お金も減っているのに、「ずっとここにいた。

出掛けてなんかない」と言うのです。

本人に財布を確認させ、お金が減っていることを指摘すると、「 ○ ○円あったはずなのに ~~」と本当に悔しそうなのです。

何を買ったか記憶がないだけでなく、出掛けたことすら覚えていないのです。

ほんの何分か前のことなのに、です。

最初は何かの病気で記憶を無くしてしまうのか?と思いましたが、そんなに簡単に記憶をなくすというよりは、自覚もなく嘘を繰り返しているというほうが納得がいく気がします。

そして、そのように出掛けてから何らかの記憶をなくしたときは、その後目がとろんとしてふらふらになって、ひどいと一人で立てないくらいになります。

それが数時間は続くので、それも家族にはつらいです。

これは一体何の影響なのでしょうか? 治療法はないものなのでしょうか?そして肝心の、何を買っているかということですが、たぶん酒だと思います。

酒で体を壊して入院して、お酒を止められているので、辛いんだと思います。

本人は、苦も無く酒をやめられると思っているので、こんなふうに夜な夜な酒を買いに行ってしまう現実を直視したくないのではないでしょうか。

本人に問いただすのも無意味だと思います。

現場を押さえたほうがいいのでしょうか。

解説 自覚もなく嘘を繰り返している。

妻は夫をそのように見ている。

すると病的な虚言の一種だろうか。

しかし夫のつく嘘が、妻の言うように、コンビニでの買い物に限られているとすれば、話は違ってくる。

「何か、妻に知られたくないものを買い、それについて嘘ばかりついている」ということになるからである。

一般論として、夫が自分の買い物について妻に嘘をつくという状況は(逆に、妻が自分の買い物について夫に嘘をつくという状況も)、そう少なくない頻度で実在する。

その場合は一定以上の高額な買い物であることが常だが、この Case 33では、財布の中にある金で買える額であること、近所に出かけて買える額のものであることから、対象物は限られてくる。

そして妻は、買っているのは酒だと推測している。

さらに「そのように出掛けてから何らかの記憶をなくしたときは、その後目がとろんとしてふらふらになって、ひどいと一人で立てないくらいになります。

それが数時間は続く」という事実があれば、買っているのは酒に間違いなく、ふらふらしたり記憶がなくなるのは酒の影響が最も考えられる。

するとこの夫の行動は、「酒を買って飲んで酔っぱらっている。

酒を買って飲んだことは嘘をついて否定している」という、アルコール依存症にしばしばみられる、ごく単純な言動そのものにすぎないことになる。

妻は、夫が「こんなふうに夜な夜な酒を買いに行ってしまう現実を直視したくない」と考えており、それが虚言につながっていると見ているようである。

そのように解釈することも可能だが、アルコール依存症にしばしばみられる、アルコールについての嘘とみるほうが自然である。

アルコール依存症や薬物依存症では、自分のアルコール・薬物について、非常に嘘が多いことはよく知られている。

その中には、普通の心理から類推可能な嘘もあるが、なぜこんなわかりきった嘘をつくのかと周囲が思うような、信じられないような嘘もしばしばある。

それは病的な虚言と非常によく似ている。

おそらく彼らにとってはアルコールや薬物が何よりも大切なものになっており、とにかく今ここでアルコールや薬物を得るというのが最優先事項であるため、傍からは信じられないような虚言が生まれるのであろう。

ところでこのケース、妻の質問は「現場を押さえたほうがいいのでしょうか」である。

答えはイエスだ。

このままでは夫のアルコール依存症はどんどん進行して行くことは避けられない。

現場をおさえ、事実を確認したうえで、断酒の方向に持っていくのが、それを防止する唯一の方法である。

このままでは破滅に至るのは目に見えている。

Case 33のキーワード ○物質依存

Case 34 夫は覚せい剤をやめたのに、他人から貰った普通の薬を飲むと精神症状が出ます Q:私も夫も 30代です。

主人は 5年くらい前(独身時代)に覚せい剤を 3年くらいやっていました。

5年前に結婚してからは、今現在も覚せい剤はやっていません。

お聞きしたい事は、主人は、病院で処方して貰った風邪薬や、バイアグラ、自分で購入した市販の栄養ドリンクや私が購入したダイエット薬などでは変わった症状は起こりませんが、他人から貰った栄養ドリンク、ウコン、通信販売の性欲促進薬?ダイエット薬などを口にすると、飲んだ日から 2日間は ①全く寝ない ②全く食べない ③無気力、仕事に行かない ④性欲は増進するが勃起不全 ⑤イライラという様な状態が続きます。

他人から貰った薬と言っても CMでやっている様な普通の物で、違法な物ではありませんし、私自身がその薬を見ているので、おかしな物ではありません。

本人も他人から貰った物を口にすると、必ず同じ症状が出ると分かっているのですが、飲んでしまいます。

飲んでしまうと、上記の症状により家庭の中が滅茶苦茶になってしまう事も本人はわかっているのですが他人から貰って飲む事をやめられないようです・・・。

必ず上記の様な症状が出てしまう事や、他人から薬を貰って飲んでしまう事がやめられないのは覚せい剤の後遺症でしょうか?本人も飲んでおかしくなってしまう自分が嫌だと言って病院に行こうか迷っています。

薬を飲んでいない時には睡眠、食欲、性欲、気力、性格ともに正常です。

くれる相手も、仕事仲間や上司で、夏バテや、二日酔いにと、好意で渡してくれている物です。

後遺症でしょうか? 病院に行けば治るものなのでしょうか?解説 私のサイトにいただいた質問メールが出典である。

この妻は、夫に騙されている。

以下、サイトの回答をそのまま転記する。

林の回答: ご主人は覚せい剤をやめていません。

飲んだ日から 2日間は ①全く寝ない ②全く食べない ③無気力、仕事に行かない ④性欲は増進するが勃起不全 ⑤イライラという様な状態が続きます。

それは覚せい剤を飲んだ(または、注射・あぶりなど、何らかの方法で摂取した)からです。

5年前に結婚してからは、今現在も覚せい剤はやっていません。

あなたがそう信じているだけでしょう。

なぜそのようなことが言えるのか。

第一に、ご主人の症状は覚せい剤摂取による典型的な精神症状だからです。

第二に、覚せい剤をやっていても、家族などには覚せい剤をやっていないと話し、家族がそれを信じこんでいるのはとてもよくあることだからです。

他人から貰った薬と言っても CMでやっている様な普通の物で違法な物ではありませんし、私自身がその薬を見ているので、おかしな物ではありません。

あなたはだまされているのでしょう。

最も考えられるストーリーは、ご主人は質問者に隠れて覚せい剤の摂取を続けており、しかし精神症状が出てしまっていることをうまく説明するため、質問者には「友達から貰った普通の薬を飲むとどうもおかしくなる」というような嘘をついているということです。

そもそも、くれる相手も、仕事仲間や上司で、夏バテや、二日酔いにと、好意で渡してくれている物です。

これ自体、不自然な説明です。

なぜ長期にわたって、他人がこのように薬をくれるのか。

さらに言えば、「夏バテや、二日酔いに」という理由づけは、他人を騙して覚せい剤を始めさせようとする人が、覚せい剤を渡すときの常套手段です。

今現在ご主人の仕事仲間や上司がそのようなことをしているとは考えにくいですが、ご主人は過去にそのような形で覚せい剤を貰ったことがあるか、人に渡したことがあり、その経験の一部をあなたへの嘘に再利用しているのでしょう。

これもよくあることです。

もう一つさらに言えば、覚せい剤などの違法薬物を摂取する人が、「これこれの理由で友達が好意でくれた薬だ」と家族などに説明する(もっとはっきり言えば、他人のせいにする)のもまたよくあることです。

おそらくあなたはご主人の説明を信じ切っており、この回答をお読みになると私がご主人に対し、さらには覚せい剤使用者に対し、悪意や偏見を持っていると感じられるかもしれません。

しかし私にはそのような意図は一切なく、単に最も可能性の高いことを指摘しているにすぎません。

薬物依存の患者さんが自分の薬物使用に関して嘘をつくのは公式とも言える事実です。

そしてこのことから、「薬物依存の人は嘘つき」ということが言われがちです。

嘘をつくから嘘つきと言えばそれまでなのですが、薬物依存の人の嘘は、単なる嘘つき

嘘つきとは異質のものではないかという印象を私はもっています。

一種の症状と言ってもいいかもしれません。

おそらくこれは、薬物が快感を引き起こすという脳への直接作用を持っていることに関係しているのではないかと思います。

そして薬物依存の人の、自分の薬物使用に関する嘘には、多くの人が騙されます。

「覚せい剤をやめているのに、まだ精神症状がある」とされている人(そして、家族の医師も、覚せい剤をやめているというのは本当だと思っている)を長くみていると、実は覚せい剤をやめていなかったことがあとになってわかることはよくあることです。

というわけで結論は次の通りとなります。

後遺症でしょうか? 違います。

ご主人は今も覚せい剤を摂取しています。

病院に行けば治るものなのでしょうか? 覚せい剤をやめなければ治りません。

Case 34のキーワード ○物質依存

Case 35 相談に乗っていると、明らかな嘘がたくさん出てくる Q: 30代男性です。

私の友人に今 30歳の女性がいます。

彼女は現在精神科に通ってはいるものの、医者や家族だけでなく、私に深い相談をしてきます。

現在、かなり具合が悪いのか、ストレスを感じるといきなりバタッと倒れます。

痙攣も起こすみたいです。

今、循環器科で 24時間の血圧を測ったりしています。

相談に乗っていると、明らかに筋の通らない話がでてきます。

彼女は以前付き合っていた男性と関係を保つために、どうやらしたくない性行為をずっと我慢していたようなのです。

最初も付き合っているとはいえ、レイプだったようです。

彼女は今でも前の男性とのそういう関係や、された事を少しでも話すと涙が溢れてきて、感情が爆発し、過呼吸に陥ってしまうほどです。

彼女の記憶を辿っていくと、男性に性行為を強要され、その後もガマンしていたという数ヶ月めから明らかに記憶の欠如が見受けられます(記憶の欠如は 1年以上の期間におよびます)。

その男性と同棲していたのですが、何をしていたか、何処に行ったかなど殆ど思い出す事ができません。

ただ部分的に覚えている事もありますし、私と話しているうちに思い出した事もあります。

しかし、あまりに記憶が無かったり、彼女自身が確信をもってしていないと思っていたことが、相手の男に要求されると性行為として応じていたという事実が明らかになったため、自身がより嫌いになり、信じられなくなったようです。

よって現在、服薬による自殺行未遂を繰り返しています。

こんな彼女の話には、しかし、いささか疑念があります。

わたしは彼女に「今の薬はいくら飲んでも死なないから無駄だよ」と以前教えておきました。

もちろんそういう事をさせないためです。

しかし、それを理解しているにも関わらず、何度も薬を飲み「もう疲れました。

さようなら」のようなことを言うわけです。

彼女が辛いのは事実だと思いますし、死にたいと思う感情がわくのも理解できますが、これはいわゆる「心配して欲しい。

かまって欲しい」という心理による物なのでしょうか。

つまり、わざと行なっている可能性です。

先に書いたように彼女には間違いなく過去の記憶一年分以上が殆どありません。

彼女がその事実を知った時のショック度合いから間違いはなさそうです。

しかし、それと同時に虚言癖とでも言うべきか、嘘をつくことがかれこれ 30回はあるかと思います。

もしかするとその中にも本当に最初は気づかなくて、途中で気づき、言いづらかったのもあるかもしれませんが、一年以上何度も確認し続けても嘘をつき続けたものもあります。

彼女自身、嘘をつくこと、ついてしまったことを非常に後悔し、もうしないと約束するのですがまた繰り返すという状態です。

よくよく考えてみると、「自分はこういうタイプの人間だ、だからこれはしていないに決まっている」と決め込んで嘘もしくは勘違いをしているようにも捉えられますが。

彼女は物事を思考する事が異常に不得手になっています。

男性と別れたあと、自分から別れを切り出し去ったのにも関わらず、その後何回も映画を見にいったり、家に言って料理を作ったりしていました。

本人は全く覚えていませんが、男から証拠の写真を回収したので間違いはありません。

それも彼女にはとてもショックなようです。

解説 本章の冒頭に示した( 5)解離性障害の例である。

解離性障害とは、記憶や感情が解離(分断)されるというもので、「記憶が飛ぶ」「ある期間についての記憶がない」というのが一つの典型的な形である。

解離(分断)されるのは記憶と感情に限らず、意識、アイデンティティ(自分が誰であるか)、知覚、運動コントロール、行動など、広い範囲のものが含まれる。

これらのうち一つが解離(分断)されるケースもあれば、複数のものが解離(分断)されるケースもある。

そして、これら症状は、心理的なストレスに反応する形で起こることが大部分である。

この Case 35の症状には解離性障害の典型的な症状がいくつも認められる。

ストレスを感じるといきなりバタッと倒れます。

痙攣も起こすみたいです。

これは意識の解離、または運動コントロールの解離である。

「解離性けいれん」「解離性失神」と呼ばれることもある。

ストレスに反応して起こることも典型的で、伝統的な精神医学では、ヒステリー発作と呼ばれていた症状である。

ヒステリーは、未熟で依存的な性格を指す医学用語で、解離性障害の中にはそのような性格と結びついているケースも多い。

わたしは彼女に「今の薬はいくら飲んでも死なないから無駄だよ」と以前教えておきました。

もちろんそういう事をさせないためです。

しかし、それを理解しているにも関わらず、何度も薬を飲み「もう疲れました。

さようなら」の様なことを言うわけです。

彼女が辛いのは事実だと思いますし、死にたいと思う感情がわくのも理解できますが、これはいわゆる「心配して欲しい。

かまって欲しい」という心理による物なのでしょうか。

つまり、わざと行なっている可能性です。

「心配して欲しい。

かまって欲しい」という心理は、ヒステリー性格の人の特徴とされている。

彼女には間違いなく過去の記憶一年分以上が殆どありません これは記憶の解離。

解離性健忘である。

男性に性行為を強要され、その後もガマンしていた 解離性障害の人は、このように過去に虐待(強姦のような性的虐待が多い)を受けた体験を語ることが多い。

その中には、確かに虐待を受けた事実が認められるケースもあれば、逆に明らかな虚偽であるケースもある。

確実に虐待を受けた事実が認められるケースも少なくないことから、解離性障害と過去の虐待には何らかの因果関係があるというのが定説である。

他方、明らかな虚偽の場合、本人が意識的に嘘をついているのか、それとも事実でないことを事実だと思い込んでいるのか、不明のケースが多い。

この Case 35も、彼女の記憶を辿っていくと、男性に性行為を強要され、その後もガマンしていたという数ヶ月めから明らかに記憶の欠如が見受けられます。

同棲していたのですが、何をしていたか、何処に行ったかなど殆ど思い出す事ができません。

ということは、この性行為についての解離性健忘(記憶障害)があることが認められ、すると記憶そのものの信頼性も揺らぐことになる。

明らかに筋の通らない話がでてきます虚言癖とでも言うべきか、嘘をつくことがかれこれ 30回はあるかと思います さらにはこのような虚言の問題がある。

解離性障害の中には、このように病的な虚言が見られるケースが少なからずある。

虚言の内容は日常的な事柄のこともあれば、過去に受けたという虐待についてのこともある。

こうなると、本人の言うところのこれまで受けた被害のうち、どれが真実でどれが虚偽か、判断することはとても難しいことになる。

彼女は今でも前の男性とのそういう関係や、された事を少しでも話すと涙が溢れてきて、感情が爆発し、過呼吸に陥ってしまうほどです このような姿を目の当たりにすれば、まさか虚言だとは信じられないのが常だが、それでも実は虚言ということが十分にあり得るのがまさに病的な虚言というもので、いくら信じられなくても虚言は虚言なのである。

自分はこういうタイプの人間だ。

だからこれはしていないに決まっている。

と決め込んで嘘もしくは勘違いをしているようにも捉えられますが 病的な虚言をする人を観察すると、そのように解釈できると感じられることはしばしばある。

しかし虚言とは結局は本人の主観にかかっているので、最終的にはこの解釈が正しいかどうかを決める方法はない。

なお、この Case 35は狂言的な自殺企図を繰り返しており、境界性パーソナリティ障害に似ていると感じられるであろう。

事実、境界性パーソナリティ障害では解離の症状を伴うことが多い。

Case 35のキーワード ○解離性障害 ○虐待?

Case 36 兄からの性的虐待の夢。

いろいろな記憶が曖昧。

現実感がない。

Q: 22歳女性です。

私は、約一年前に解離性障害と診断されました。

二重人格の一歩手前とも言われました(が、現在は通院しておりません、経済的困難のためです)。

主治医には、以下の事を話しました。

・鏡の中の自分には、違和感があること。

・自分の名前にも違和感があり、胸がざわつくこと。

・ある一部分の出来事の記憶がないこと。

(うっすらと覚えてはいるが、現実に起こったか否かが分からなくなっている)・世界から切り離されている感覚。

(自分が自分でない感覚)・入眠時、幻聴があること。

上記の症状は、現在も続いています。

それで、最近気になっている事が生じましたので、メールをした次第です。

まず、 ①悪夢を見る。

②最近(大分前から?)、一人称を「私」と言ったり「あたし」と言ったり、「俺」や「僕」と言ったりしたい衝動に駆られる。

③この世が終われば良いと思う。

そして、その前に私自身が終わりたい。

④死にたい、面倒臭い、やる気がない。

⑤「愛」という感情がよくわからない。

⑥現実と夢の境界が曖昧。

⑦記憶保持困難。

⑧入眠時幻聴。

と言った症状があり、最近になってこの症状が強く出ている様な気がします。

以下から番号に沿って、補足・質問を行います。

①性的虐待を受けた場面の夢を幾度となく繰り返し見ました。

その結末は皆一緒で、現実と同じ結末でした。

その出来事でとった、両親の行動も夢に出てきます。

ここで聞きたいのは、性的虐待は実兄からで恐らく幼稚園児位からあったかと思います。

ですが、実兄とは三つしか離れていないので当時は小学校低学年です。

その年で性行為等できるのでしょうか? また、この悪夢の意味は何なのでしょうか? ②一人称を変える衝動、と言うのは意図的ではないです。

一人称が変わると、私は冷静になれたり、感情的になれたりします(目線が変わる?と言った感じでしょうか)。

私は私自身を見ており、滑稽だとさえ感じます。

そして、一人称が変わると、更に自分という概念はなく、私は「器」と称されます。

これは、妄想ですか?逃避ですか? ③・ ④何時からか、この世が終われば良いのに、と思っています。

でも、本当はそんな事は望んでおらず(多少、世界は醜く・汚れており、滑稽だとは感じますが)、私自身の世界を終わらせたいのです。

自分は生きている価値はなく、将来なんて見える筈もない。

何が楽しく、何が退屈で、「自分」という概念が消えている今、本当は私は生きていないのではないか、と思っているからです。

死にたくないけど、生きたくもない。

弱いからその考えに至るのでしょうか? ⑤私の家庭は、決して恵まれているものではありませんでした。

借金ができたのは、あなたたちを産んだから。

だから、借金は子供たちが払うのが当然の義務。

そう考えている両親の元で育ち、手が痛くなるから、と箒で殴られ、箸が頬をかすめ、怒鳴り声が絶えず、と同時に笑い声も絶えず、不思議で贔屓がある環境でした。

私には、「愛」が分かりません。

家族でさえ、血の繋がりがなければ赤の他人と幼少時代から考えてきた私にとって、普通と正常の境界線も分からないまま。

どうしたら、「普通」を手にいれられるのでしょうか? ⑥現実と夢の境界がとても曖昧です。

常に現実感はなく、物語の傍観者であり、ここでこうして PCに向かっている私も、果たして本当の私であるのかどうか。

それさえも曖昧です。

私は誰だろう? 実はすべて夢ではなかろうか、と考えてしまいます。

私は、本当に「私」なのでしょうか?自分の名前に違和感を覚えながら生きる私は、本当の「私」なのでしょうか? ⑦例えば、買った本を棚に戻した筈が、何処に戻したか忘れていたり、恋人との会話を覚えていなかったり、一緒に見た筈のテレビを覚えていなかったりしています(絶対に一緒に見た、と恋人は言い張りますが、私は全く記憶にないです。

誰か他の人と勘違いしているのでは?と思っているのですが)。

また、家族に関する記憶や、幼稚園、小中学生、その当時の気持ち・思考・行動、全てが靄に掛かっており、卒業式や入学式などの記憶も曖昧、または欠けています。

この症状は、診断時にもあり、ますます悪化した気がします。

自力で何とかできないものでしょうか? ⑧入眠時の幻聴は、時たまあり、翌朝は身体が酷くだるく、気分も悪くなります。

幻聴は、男の子の声であったり、女の人、男の人様々です。

時には、頑張り過ぎですよ、と優しく言われたり、生きたいと叫んでいたり泣いていたり喧嘩していたり(幻聴同士で)忙しい幻聴ですが、不快でありません。

ただ、自分が自分を見下ろしている感覚や、手足が自由に動かせず、ザーザーと砂嵐の耳鳴り?があるのが不快です。

この入眠時幻聴は、和らげる事はできませんでしょうか?(砂嵐が、始まりの合図みたいです) なお、 ①の中で、「実兄とは三つしか離れていない」と書きましたが、私の記憶が曖昧です。

性的虐待が起こった部分の記憶が欠けており、完全に思い出せない部分と曖昧で靄が掛かっている部分があるためです( ⑦参照のこと)。

最後に、二重人格一歩手前とは、どういう意味なのでしょうか? 解離性障害の事を簡潔に説明している、という意味か。

それとも、何かのきっかけがあれば、二重人格になってしまうよ、という警告の意味か。

林先生は、どう思われますでしょうか?解説 解離性障害である。

本人には幼少時に虐待を受けた記憶がある。

ただし、 Case 35で解説した通り、解離性障害の人が語る虐待の記憶は、その内容が事実かどうかの判断が難しい。

それを念頭においたうえで、質問者が記憶している内容は事実と仮定したサイトの回答は次の通りである。

林の回答: まず現在の症状ですが、 ②一人称を変える衝動、と言うのは意図的ではないです。

一人称が変わると、私は冷静になれたり、感情的になれたりします(目線が変わる?と言った感じでしょうか)。

私は私自身を見ており、滑稽だとさえ感じます。

そして、一人称が変わると、更に自分という概念はなく、私は「器」と称されます。

これは、妄想ですか?逃避ですか? これは解離の色彩がある症状です。

「色彩がある」という意味は、解離であるとは言い切れないまでも、その傾向があるということです。

そしてこの Case 36には、以下に述べるように解離と判断できる症状が複数ありますので、この ②についても、解離と解釈するのが妥当と言ます。

③・ ④何時からか、この世が終われば良いのに、と思っています。

でも、本当はそんな事は望んでおらず(多少、世界は醜く・汚れており、滑稽だとは感じますが)、私自身の世界を終わらせたいのです。

自分は生きている価値はなく、将来なんて見える筈もない。

何が楽しく、何が退屈で、「自分」という概念が消えている今、本当は私は生きていないのではないか、と思っているからです。

死にたくないけど、生きたくもない。

弱いからその考えに至るのでしょうか? これも解離の色彩がある症状です。

このうち、「本当は私は生きていないのではないか、と思っている」は、離人の一種と言ます。

離人は、解離性障害でしばしば見られる症状です。

⑥現実と夢の境界がとても曖昧です。

常に現実感はなく、物語の傍観者であり、ここでこうして PCに向かっている私も、果たして本当の私であるのかどうか。

それさえも曖昧です。

私は誰だろう? 実はすべては夢ではなかろうか、と考えてしまいます。

私は、本当に「私」なのでしょうか?自分の名前に違和感を覚えながら生きる私は、本当の「私」なのでしょうか? これも上記 ②③④と同様、解離ないし離人と言ます。

⑦例えば、買った本を棚に戻した筈が、何処に戻したか忘れていたり、恋人との会話を覚えていなかったり、一緒に見た筈のテレビを覚えていなかったりしています。

(絶対に一緒に見た、と恋人は言い張りますが、私は全く記憶にないです。

誰か他の人と勘違いしているのでは?と思っているのですが) 上記とあわせ、解離性健忘と判断できます。

また、家族に関する記憶や、幼稚園、小中学生、その当時の気持ち・思考・行動、全てが靄に掛かっており、卒業式や入学式などの記憶も曖昧、または欠けています。

この症状は、診断時にもあり、ますます悪化した気がします。

これも解離性健忘です。

⑧入眠時の幻聴は、時たまあり、翌朝は身体が酷くだるく、気分も悪くなります。

幻聴は、男の子の声であったり、女の人、男の人様々です。

時には、頑張り過ぎですよ、と優しく言われたり、生きたいと叫んでいたり泣いていたり喧嘩していたり(幻聴同士で)忙しい幻聴ですが、不快でありません。

ただ、自分が自分を見下ろしている感覚や、手足が自由に動かせず、ザーザーと砂嵐の耳鳴り?があるのが不快です。

一般的には入眠時幻覚は病的なものではありませんが、この Case 36では、他の解離症状とあわせ、解離の一種とみるのが妥当です。

約一年前位に解離性障害と診断されました。

二重人格の一歩手前とも言われました。

とのこと、現在もその状態と判断できますので、少なくとも一年前から今のような症状があったと思われます。

二重人格一歩手前とは、どういう意味なのでしょうか? 解離性障害の事を簡潔に説明している、という意味か。

それとも、何かのきっかけがあれば、二重人格になってしまうよ、という警告の意味か。

どちらも正しいと思います。

解離性障害であることはまず確実で、それを言い換えたとも言えますし、今後、二重人格(解離性同一性障害)に発展していく可能性もあると思います。

そして幼少時についてですが、 ④私の家庭は、決して恵まれているものではありませんでした。

借金ができたのは、あなたたちを産んだから。

だから、借金は子供たちが払うのが当然の義務。

そう考えている両親の元で育ち、手が痛くなるから、と箒で殴られ、箸が頬をかすめ、怒鳴り声が絶えず、と同時に笑い声も絶えず、不思議で贔屓がある環境でした。

このような家庭環境が、現在の解離性障害の発症に影響したとみることが可能です。

そして当然ながらこの性的虐待の夢についても検討する必要があります。

①性的虐待を受けた場面の夢を幾度となく繰り返し見ました。

その結末は皆一緒で、現実と同じ結末でした。

その出来事でとった、両親の行動も夢に出てきます。

ここで聞きたいのは、性的虐待は実兄からで恐らく幼稚園児位からあったかと思います。

ですが、実兄とは三つしか離れていないので当時は小学校低学年です。

その年で性行為等できるのでしょうか? また、この悪夢の意味は何なのでしょうか? この文章には今ひとつわからない点があります。

というのは、「現実と同じ結末でした」という一文からは、夢の内容が事実あったことかどうかがわからない、と質問者は考えているように読めますが、その一方で、「その結末は皆一緒で、現実と同じ結末でした。

」という一文からは、この性的虐待そのものは現実にあったことと質問者は確信しておられるのでしょうか。

この一文の「現実」の意味が今ひとつわかりかねます。

しかしメールの後のほうでこの出来事について、 ①の中で、「実兄とは三つしか離れていない」と書きましたが、私の記憶が曖昧です。

性的虐待が起こった部分の記憶が欠けており、完全に思い出せない部分と曖昧で靄が掛かっている部分があるためです。

と書かれていますので、おそらくこの性的虐待については「曖昧な記憶」として持っておられるのだと思います。

このように、性的虐待についての記憶が曖昧というケースはしばしばあります。

質問者は、この年齢では性行為ができないはずなのになぜ? という疑問を持っておられますが、性的虐待についての研究によれば、虐待そのものがあったこと、そしてその内容の記憶が正しくても、その虐待の時期についての記憶が誤っていることはしばしばあるとされていますので、時期についての質問者の疑問はもっともではあるものの、それをもって記憶そのものが誤っているとまでは言えません。

Case 36のキーワード ○解離性障害 ○虐待?

Case 37 私は本当に虐待されたのでしょうか Q: 22歳、女性です。

1年程前から精神科に通院しています。

病名は知りませんが、鬱の一種かなあと思ってます。

私には何となく、幼少の頃に虐待?された様な記憶があります。

でも、もしかしたら自分で作りあげた妄想かなあ、と思ったりもします。

その記憶の一つと言うか発端は、 18歳の時に北海道を旅行していて、ある港に着いたとたん、あっ!この場所だっ!私はここで母親に髪をひきずられながら殴られ、細い路地に連れて行かれさらに殴られたっけ・・・・。

その光景を船に乗るために並んでいる人が見ていて恥ずかしかった事、母親が犬みたく「はっ、はっ、はっア」と苦しそうに呼吸しながら、私を殴り倒した事などを鮮明に思い出したのです。

これを思い出した時は特に何とも思わず、「人間の記憶はすごいなあ」などと、のん気に思っただけでした。

それから 1年くらいの間に他の事をふと思い出すことが何回かありました。

幼稚園の頃アイロンが頭に飛んできて病院に行った事や、小学校の頃、怪我した足があまりにも痛くて保健室で手当てして貰った事。

先生にどうしたか聞かれた時気まずくて、滑り台から落ちたと嘘をついた事などです。

よーく考えたら私の額に 3つの傷が残っているのですが、それも母親にひっかかれたものです。

確か。

新聞で児童虐待の記事を見かけると、心臓がドキドキします。

その記事を読んでいる自分の姿を誰にも見られてはいけない様な気がして、こっそり部屋に持っていって読んだりします。

20歳頃から、私ってもしかして虐待に遭ったと自分で思いこんでんのかなあ、と漠然と思うようになりました。

何となく、当時の恐怖や出来事は心にあるのですが、思い起こそうとしたり、考えたりすると全部自分の作った嘘の様な気もしてくるのです。

最近、自分と向き合う事ができるようになり、何だかつらくて、真っ黒だった 2年間がとても遠い事に感じるようになりました。

自分にこういう平静な気持ちが取り戻せた、なんて今でも夢みたく感じ、それだけで幸せを感じます。

そしたら、何だか人(主治医?第三者?)に幼少の頃の自分の事を話したい、話してみようかな、という衝動にかられます。

何だか人に話したら、全部が解決して終わるような気がするのです。

でも、私の記憶が真実であるのか、自分で作りあげた妄想なのかイマイチ微妙な気がします。

もしかしたら忙しい先生の注意を引きたいがために、自分で話を作ってんのかなあ、と思ったりします。

それとも、今の自分を母親のせいにしたいがために「私は虐待されました」、という物語を展開しているのか分からなくなります。

以前は小さい時の事を考えると感情が爆発しそうで、どうしようもなくなったりしましたが、今はその事で不安定になったりはしません。

でもやっぱり、たまに「どうして?どうして?どうして?」と心の中で思いっきり叫んでます。

果たして私は本当に虐待にあったのでしょうか?それとも自分の芝居なのでしょうか?解説 過去に虐待を受けたという記憶。

この Case 37は、「受けたかもしれないという記憶」と言うべきか。

本人も事実だったかどうか判断できない。

実際の臨床例では、虐待の記憶についてはいくつかのパターンがある: A.虐待は事実だったのに、本人の記憶には全くない B.虐待は事実のような気もするが、本人はよくわからない C.虐待は事実でないのに、本人は事実だと思い込んでいる D.虐待は事実でないのに、本人が故意に捏造して事実だと言っている Aは典型的な解離性健忘である。

Bは解離性健忘と思い込みのどちらの可能性もある。

Cは「偽りの記憶」である。

Dは意図的な嘘である。

この Case 37は Bにあたり、虐待が事実だったかどうかが最も難しいケースである。

サイトで私は次のように回答した。

林の回答: 非常に難しい問いです。

しかしあえて二者択一の問いにお答えすると、本当にあった可能性の方が強いと思います。

虐待に関しては、それが「蘇った記憶(つまり本当の記憶)」なのか、それとも「偽りの記憶」なのか、ということについては、数々の論争があり、論文もたくさん書かれています。

ですから、あなたの疑問は、決してあなただけのものではありません。

たくさんの人が同じような疑問を持っています。

虐待の記憶が「本当」か「偽り」かという論争に火がついた原因として、歴史的に大きいのは、アメリカでこれに関する訴訟が頻発したことです。

まず起きた訴訟は、自分の症状は幼児期に虐待されたためである、として、子供が親を訴えるというケースです。

ここで子供が「虐待されたためである」と言い出した発端は、精神療法中に虐待の記憶が蘇ったという事実です。

ところが実際にはこの虐待の記憶は「偽りの記憶」で、本当は虐待などなかったというケースも少なからずあることが明らかになり、訴訟された親が逆に「偽りの記憶症候群協会」という会を作り、ときには精神療法の治療者を訴える(つまり、治療と称して偽りの記憶を植え付けた)というような、ある意味では不毛な争いに発展しています。

この争いの大きなポイントの一つは、精神療法の場面で、治療者(医師やカウンセラー)が誘導尋問的に虐待のことを聞き出し(必ずしも治療者に悪意があったという意味ではありません。

虐待があったはずだという思い込みはあったかもしれませんが)、本人もそれが本当であると信じ込んでしまったのではないか、という議論です。

ここで、誘導されたのが「偽りの記憶」であると主張する側の有力な根拠は、精神療法の場面以外で、忘れていた虐待の記憶が「自然に」思い出されるということは無い、という事実です。

ところで、あなたの場合には、特に治療を受けて誘導されたわけではないのに、虐待された記憶が急に蘇ったということのようですので、それを「偽りの記憶」だとする理由は無いことになります。

したがいまして、回答の最初に書いた通り、虐待は本当であった可能性の方が高いと私は判断しました。

ただしこれも最初に書いたことですが、正直言って本当はわかりません。

実際、虐待については、何が本当かということを明らかにするのは非常に難しいことが多いものです。

最後に、過去の出来事については、真実を知るのが本当にいいことかどうかはわかりません。

虐待が本当だったかどうか、気になるのはよく理解できますが、これ以上追究するべきかどうかは慎重に考えられたほうがいいでしょう。

Case 37のキーワード ○解離性障害 ○虐待? ○虚実の混乱

Case 38 たとえそれが解離であっても、嘘は嘘なんですか Q: 10代男性です。

記憶に空白があり混乱しています。

こんなこと、人に言うのが怖いです正気を失ってると思われるのがこわい。

時々記憶に空白があります。

そのときの事は全く覚えてないんだ。

大量服薬だったり、買い物をしていたりするんだけど、全く覚えてなくて人から言われてそんなことしたっけと思う。

おととい、たまっていた眠剤がなくなってました。

3シートもあったんです、まさか!と思い探しまわると、着た覚えのないジャンパーに空の 2シートが、きのう親が教えてくれたんです。

死にそうになってたって、部屋の中で呼吸ができなくて、しゃっくりをし続けてたとか何とか。

ぼくがそんなことするなんてもうゾッとしました。

全くおぼえてないです。

ここ一年そんな事が数回起きています。

買った覚えのない、買い物袋。

お風呂に入った事を忘れて、入ろうとしたら親にさっき入ってたよと言われたり。

記憶のないときは、たいてい自暴自棄で自傷行為をしています(らしいです)。

今日の朝なんて全く記憶がないのに親と話していたようです 高校卒業以前の記憶がわかりません。

事実として覚えている記憶ばかりで、実態感に乏しいのです。

高校卒業して、気がつくようになりました。

高卒で就職してからです。

目覚めたら買った覚えのない買い物袋があったり、会社に提出するためのレポートを書いていたら、一つの漢字が途中までしか書かれていないのに、次の漢字に手がうつっていたり(次の文字を書き始めていたり)。

高校時代の三年間、人間不信で一人も友達をつくりませんでした。

誰とも雑談さえしませんでした。

すると、頭の中で、声がするようになりました。

高校時代ほとんどその声と頭の中で話していました。

一人は、オレと言って話し始めます(知識はすごくていろいろアドバイスくれますが、投げやりで、死にたいとか言ったり自殺しようとします)。

二人目はボクと言って話します(ボクは、泣き虫です。

もう死にたいよ、と言って、泣き言ばかり言います。

)。

三人目は、一人称を言いません。

四人目は、なだめ役と言うかおおらかで、頭が硬いヤツです(自殺しようとすると、「自殺もできないような弱い弱いあなたが好きです」とか「もう少し辛抱しようよ」とか言ってきます)。

僕は寂しがり屋です。

あのときの孤独に堪えられませんでした。

何度も死のうとしました、死のうとするたびに(たとえば、電車に飛び込もうとしたとき)、「やめろ」となだめ役の子がボクを止めました。

高校時代ボクはいじめられていました。

鞄にごみを詰められたり、下駄箱に昼食のごみを入れられたり。

誰とも話さないからです。

悪口をいっぱい言われました。

でも、不思議と悪口を言われても、楽でした。

なんか自分を遠くから眺めることができる特技があるからです、それをつかうと、すっといじめを受けている自分から遠ざかって、何も聞こえなくなるからです。

今考えて見ると、昔からそういうことがありました。

悪いことをしてしまったりすると、先生や親が問い詰めてきますが、何も覚えていないということがありました。

寂しかった。

ほんとに寂しかった。

今までさみしかったんだよ。

だれもボクを守ってくれなかったんだよ。

お母さんが、いつも親には何も相談できなかった。

なんで強がっていたんだろう。

なんでこんなになってしまったんだろう。

もう何もかも思い出したくない。

別の町で生きたい。

自分にかかわった全てのものを見るのもつらい。

どこか遠くで生きたい。

名前も捨てたい。

病院の先生からは、解離性障害だと言われました。

入院もしました。

入院中、ぼくは八歳の子供になりました。

自分でもうっすら記憶があり、どちらかと言うと制御不能で、子供返りした感じ、と思います。

遠くから自分を眺めていたようです。

「せんせいたすけて、おちつかない」とひらがなでメモして先生にメモを渡したようです。

先生のことを「にゃんにゃん」と呼んだりしました。

いろいろな問題を起こしました。

八歳の子供は以前、私の前髪を、夢の中で切っていました。

そしたらそれは夢ではなく現実だったのでした。

看護師さんから記憶がないことで言われたことは「女子トイレに行ってたってほかの患者さんが言ってた」「夜、裸で寝ていたよ」 全くピンとこない記憶です。

本当に自分がした行動か、今も信じられません。

女子トイレに関しては、ぜったいだれかの妄想です。

トイレが近くならまだしも、距離離れているし。

それとか、とにかく入院中問題をおこしまくって、その記憶が飛んでいったり、戻ってきたりの繰り返しでした。

記憶を取り繕って、嘘をつく人格があるみたいで、そいつが前回の入院のときも嘘をつきました。

記憶のつなぎ合わせをします。

口が達者で、その場で考えた言い訳で、記憶を張り合わせるのです。

自分は「強いストレスが掛かると、無意識に嘘をついているの」と言ったら、看護師さんから、「嘘を言っているのは自分自身の頭だからね」と言われました。

あるときは、おぼえている。

あるときはおぼえていない。

先生はぼくが嘘つきだとおもっているのでしょうか? ぼくは嘘つきなんでしようか? すくなくとも、その時々では本当のことを言っている、はずです。

書道が好きで、「誠実と素直」とかかげていて、嘘はつくはずがないです。

言われたそのときは、本当に覚えていなくて、ピンとさえこない。

しばらくたつとその行動がフラッシュバックして思い出されることもあります。

たとえそれが解離であっても、嘘は嘘なんですか? 今まで強がって、自分の気持ちに嘘ばかりついてきました。

他人には嘘をついたことがほとんどありません。

むしろ、正直すぎるくらいで、面と向かうと嘘がつけない。

「口を合わせろ」と言われたことがあります。

「人のちょっとした嘘を訂正するな」と言われたこともあります。

そもそもここが疑問です。

みなさん完全に物事記憶しているなんてないでしよう。

ぼくはその程度がすこし重いだけです。

みんなだって、記憶が飛ぶでしょう。

ぼくを嘘つきよばわりしているようで、主治医が信じられません。

たしかに、嘘ついていると、疑われるような行動は客観的に見て、多かったです。

だって、女子トイレに行っておぼえていないなんて、嘘と言われるに決まってます。

ぼくだって自分が本当にそんなことしていたらと思うと怖いです。

解説 診断は解離性障害。

そして虚言がある。

だが本人は、その虚言が意図的かそうでないかがわからなくなっている。

自分の中の別人格が言っていると自覚していることもある。

病的な虚言では、それが意図的な嘘なのか本当だと信じているのか、周囲の人は判断できず困惑することがよくあるが、このように本人にもわからなくなっているケースもある。

もしかすると病的な虚言で見られる「虚実の混乱」とは、主観的にはこの Case 38に近い状態なのかもしれない。

Case 38のキーワード ○解離性障害 ○虚実の混乱

Case 39 自分の正体がわかりません Q: 20歳の女です。

今までたくさん犯罪被害を受けました。

でもそれは全部全部全部、自分の妄想なのかもしれないと最近思うようになりました。

思い返せば、昔から嘘つきよばわりされるのが怖かったです。

高校生の頃から、携帯で一日数十枚写真を撮っていました。

人に嘘だと言われた時に証拠として写真を見せられるようにです。

昨日は理由はよくわからないけど大きな声で何時間も泣いていました。

最近この世の全てがよくわからなくなってきました。

たった今は幽体離脱しているような感覚でした。

天井から、とまではいかなくても、自分の数十センチ後ろから自分を見てるような…。

ここ数週間は、親が立派な人すぎて、自分の作り上げた空想上の理想の親なのではないかと疑うようになりました。

小学生の頃から色んな精神科や心療内科のある病院に何箇所も行きましたが、現在通院している病院は 2年以上は通っています。

自分がだめすぎて嫌です。

前向きになりたくてもなれません。

色々総合的に考えたら死んだ方がましと思います。

薬を飲み忘れるとやっぱり体調が悪くなるのですが、よく飲み忘れて何時間も後に飲んだりします。

とりあえずできるだけ飲み忘れることのないように頑張って薬を飲むようにしています。

解散後にどっと疲れますが、友人と食事に行ったりはできます。

だから自分は怠けてるだけのクズ野郎だと思います。

本当に病気ならメールも打てないと思います。

テンションの上がり下がりが激しいです。

鏡を見て、すごく美人だと思ったりブスで本当気持ち悪い、どこもましなところがなくて全てだめと思ったり、極端です。

しかもたまに自分と認識できません。

その時は、「鏡に映っているからまあ自分なんだろう」という解釈をします。

何度も自殺未遂をしました。

なかなか死にません。

自分は死にたいのかすらわかりません。

心配してほしいだけの構ってちゃんで気持ち悪いとも思います。

高校卒業後大学を 3ヶ月で中退して、今は予備校に通っていますが勉強も苦しいです。

何を目指すのかもよくわからないし、そもそも全部わからないのです。

このメールを書いている今も、大袈裟に書いて怠けることを許して貰おうとする最悪な嘘つき野郎なのかということも 9割くらい思います。

←というこの文書すら、かわいそうな弱い自分を演出するための演技、アピールなのかとも思っています。

自分の考えすらよくわからなくなってきています。

困っています。

突然悲しくなったりすることもとても困ります。

どうしたら普通になるでしょうか。

解説 解離性障害では、自分の症状や言動を嘘ではないかと自覚することは少なからずある。

実際には、嘘か否かをつきとめるのはとても難しい。

解離性障害以外の病的な虚言者の中にも、自分の虚言の内容を事実と思い込んでいる( =虚実の混乱)と強く思われるケースがいくつもあった。

Case 38の「たとえそれが解離であっても、嘘は嘘なんですか」で述べたように、彼らにおいても、あるいは解離性障害と共通するところがあるのかもしれない。

Case 39のキーワード ○解離性障害 ○虚実の混乱 ○虐待?

Case 40 私の症状は全部嘘なんです Q: 10代女です。

私は解離性同一性障害のふりをしています。

症状を見せるのは恋人にだけです。

気づいたら普段と違う立振舞いをし、違う名を名乗り、喋り方も変えている自分がいます。

時には喋らなかったり子供のようだったり逆に大人ぶったりします。

しかしすべて演技なのです。

わざとやっています。

記憶も消えません。

恋人はそれに気づいていないようです。

私は多重人格なんかではありませんし、解離症状も出た事はありません。

嘘に嘘を重ね、わたしはそれをやめる事ができないでいます。

小さい頃性的虐待を受けましたが、それも嘘です。

処女を喪失してから破壊的なセックスをするようになりましたが、それはすべて自分の意思です。

性的被害にあったのは嘘です。

わたしの生活の 8割は嘘で構築されています。

このような異常な虚言癖は私の性格によるものでしょうか。

それとも何らかの病気なのでしょうか。

解説 解離性障害(解離性同一性障害)では、自分の症状をすべて嘘であると、ある時期に告白する場合がある。

このとき、「嘘である」という告白自体が嘘であるか、それとも真実であるか、誰にもわからない。

本人にもわからない。

この Case 40も、何が真実で何が嘘かわからない。

わからないというより、解離の人の中には、真実と虚構の間を自然に行き来しているように見える人がいる。

それが自覚されると本人は悩む。

自覚されないと、本人は悩まないが、周囲は悩む。

Case 40のキーワード ○解離性障害 ○虚実の混乱 ○虐待?

Case 41 どれが本当か嘘か自分でも分からない Q:私は中学 3年生の女です。

小 6のときいじめを受けていました。

例えば、椅子を窓から放られたり、陰口、バケツで水をかけられる等です。

女だからか、直接暴力を振るわれたりすることは少なかったと思います。

四年前の嫌な思い出なのであまりはっきりと分かりません(妄想かもしれないです、すいません)。

それから、私は中学受験をして私立の中学に入りました。

理由はいじめっ子の Yと同じ学校に行きたくなかったのと、自分を変えたかったからです。

いじめられたのには、私に原因があったからだと思ったからです。

だからまず人に優しく、誰にでも笑顔で接しました。

それから顔がブスなのはどう仕様もないので髪にストレートパーマをかけて、母に頼んで眼鏡をコンタクトにして、毎日化粧水を塗り始めました。

あと、文房具や小物など全部買い換えました。

今までのはダサいと思ったからです。

あと雑誌を買って流行に強くなったり、運動神経はしごく悪かったので変えようがなかったので、勉強をし始めました。

努力の成果もあって、友達がたくさんできました。

でも、多分この頃から自分の中にもう一人居るような気がしてきました、それは、主に人と話をした後に強く感じました。

何か物を買ったりしたあとにも出てきました。

極端に言うと「もう取り返しのつかないとき」です。

何処に行っても、「あの時こんなこと言って良かったのか」「好きでもない雑誌を買って虚しくないのか」などと言います。

「私(お前?)は自意識過剰だ、誰もお前の事なんて見ていない」と言ったかと思えば、「皆が私のことを見ている!」と言ってきたり要するに私がやることなすこと全部否定してくるのです。

誰かに相談しようと考えたこともありますが、その度に「そんなことを言ったらキチ xイだと思われる」と言ってきて邪魔をします。

でも私はそれは確かにそうだなと思いました。

でも、何か命令されているような気がして、それは悔しいと思ったので、一度だけお母さんに相談しました。

案の定、変な顔をされたので途中で話をやめました。

その後はもう一人の自分に「ほら言っただろ」と怒られたりして落ち込みました。

それ以来誰にも言わないでいました。

それどころか、その「誰か」に怒られるのが怖くて、人と話をするのが億劫になりました。

自分自身も(話をして落ち込むくらいなら友達なんて要らない)と思ってある時思い立ってケータイから連絡先を全部消してしまい、それから友達は少なく(いなく?)なってしまいました。

中 2のときには知り合いか友達か分からない様な人が数人いる程度でした。

それ迄休日になると友達とよく遊びに行ったので、ずっと布団で寝ている私を見てお母さんが「どうしたの?」と聞いてくるのがうざったくてお母さんとも喋らなくなってしまいました。

同時に、ずっと頭の中の人に監視されてきました。

それは今もされています(でもこれも妄想なのでしょうか。

また後で書きます。

)。

最近インターネットを見始めるようになって、色々なサイトを見ているうちに精神の病気の事を少し知るようになって、私は自分がもしかして病気なんじゃないだろうかと思いました。

で、もしそうならば私はいじめられていたという事は事実でなく、全部私が自分自身が悲劇のヒロインになるため自分で考えた妄想、または夢なんじゃないかと思います。

だって私が人と仲良くできないのは、友達がいないのは私が自己中心的な考え方だから、また自意識過剰だから、性格が悪いからなので、自意識過剰ならいじめられたという妄想もしてしまうんじゃないだろうか、母に「頭に誰か居る!」などと訴えてしまうような馬鹿だったら、そんな妄想もしてしまうんじゃないだろうか。

と、どれが本当で何が妄想、私の頭の夢の話なのか訳分かりません。

そもそも私は自意識過剰なのですか? どこからが普通でどこまでが性格悪いのですか? 少なくとも「頭の中に人が居る!」は本当で、「頭の中の人」は妄想なんだと分かります。

そして、私は私が病気なのではないかと疑っているのですが、お母さんには知られたくありません。

何故なら、お母さんと話したくないし、お母さんも不安になるし心配してくれるだろうし、お母さんが自分を責めたりするのは良くないからです(ただ話したくないだけかも知れません)。

だからもし私が病気なら、病院には行きたくありません。

うつ病とかは「心の風邪」というし、風邪なら家で寝てたら治るので、わざわざ病院に行きたくないからです。

でも私みたいな良い学校に行っていて、良い生活をしていて良い環境にいる人が心の病気になったりするのでしょうか???という疑問もあるし、違ったら恥ずかしいし、ただ思春期によくあることだと言われたら恥ずかしいからです。

そうあって欲しいです。

質問をまとめると、 ①どれが本物でどれが妄想ですか? ②私は自意識過剰ですか? ③私は病気ですか?そうなら何という病気ですか? ④もしそうなら今後どうすればいいですか、違うならどうすればいいですか ⑤もしそうなら病院に行かずに治せますか。

ということです。

長文乱文読んでくださりありがとうございました。

解説 解離性障害。

まだ中学 3年生だが、とても自己洞察のある人とみえ、症状の進行する過程をよく見つめている。

小 6のときいじめを受けていました 解離性障害では過去に受けた虐待の体験が語られることがよくあるのは、これまで述べてきた通りである。

多分この頃から自分の中にもう一人居るような気がしてきました、それは、主に人と話をした後に強く感じました。

何か物を買ったりしたあとにも出てきました。

極端に言うと「もう取り返しのつかないとき」です。

別人格があるという自覚。

アイデンティティの解離(分断)である。

解離性同一性障害という診断名になる。

ストレスに反応して生ずるという点は、他の解離の症状と同様である。

私はいじめられていたという事は事実でなく、全部私が自分自身が悲劇のヒロインになるため自分で考えた妄想、または夢なんじゃないかと思います。

解離性障害では、このように自分の症状が真実か虚偽かわからなくなることがある。

どれが本物でどれが妄想ですか? という質問がそれを象徴している。

何人もの解離性障害の人から深く話を聞くと、彼らの虚言――ここでは、事実と違う話という意味である――は、意図的な虚偽なのか、本気で事実だと思っているのか、実は本人にもよくわかっていないという印象を強くする。

普通わたしたちは、嘘か嘘でないかは、

本人の中でははっきり分けられるものだと思っている。

だが本当にそうだろうか。

意識的・無意識的という区別は、実は普通に思われているほどきれいに分けられるものではないのではないか。

虚実が混乱する病的な虚言もまた、そういうものなのかもしれない。

そしてこの Case 41の中学生も、それを感じ取っている。

なお、 Case 41は、それとは全く別の次元で、精神科について重大な誤解をしている。

すなわち、うつ病とかは「心の風邪」というし、風邪なら家で寝てたら治るので、わざわざ病院に行きたくないからです この考え方は二つの点で大きく間違っている。

第一に、うつ病が心の風邪というのは重大な間違いだ。

うつ病は風邪にたとえられるような軽い病気ではない。

第二に、うつ病が心の風邪かどうかはともかくとして、精神科の病気はうつ病だけではない。

うつ病という病気についての原則や対応は、他の病気にはあてはまらない。

Case 41は優れた洞察力を持った方のようだが、精神科の病気に対する考え方にはこのように大きな誤解がある。

うつ病について現代の日本社会に流布している誤った情報がその原因である。

また、この Case 41には幻聴があり、統合失調症という病気ではないかという見解もあり得るが、経過と全体像からみて、統合失調症ではなく解離性障害だと判断できる。

うつ病や統合失調症についての解説は本書の範囲を超えるので、ここには記さない。

ぜひ私のサイト「こころと脳の相談室」の実例を参照していただきたい。

Case 41のキーワード ○解離性障害 ○虚実の混乱 ○虐待?

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次