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第 3章 怪しい者を見抜く極意

不審者の発する怪しい「気」流れに逆行する者暗がりの不審者指名手配ホクロ一つで別人に手配写真を選ぶ際は似顔絵似顔絵から強盗強姦魔を発見ラブホテルの防犯モニターから似顔絵を作成

第 3章 怪しい者を見抜く極意不審者の発する怪しい「気」 第 1章の冒頭で、警察を退職した後もカンを鈍らせないためのトレーニングを欠かさないというお話をしましたが、もう一つ欠かさないのは「人間観察」です。

街を歩いていても、つい挙動の不審な者はいないか、懐に凶器を忍ばせているような輩はいないかなどと、つい刑事の視点で目を光らせてしまいます(そんな私の方がよほど不審者に見えるかもしれませんが……)。

刑事には、一般の方にはない超能力があります……と言うと大げさですが、「気」のようなものを探知できる力があるように思います。

何か疚しいところのある人物は、群衆の中に紛れ込んでいても、身体や表情、服装などから怪しげな空気を発しているものです。

犯人を職務質問で検挙した経験のある警察官なら、不審者が出しているそういう空気をすぐに発見できるものなのです。

群衆の中で怪しい「気」を発している不審者を見かけた時、警察官は呼び止めて職務質問をすることがあります。

その際、「おい、こんなところで何をしてるんだ!」と居丈高な態度に出てはいけません。

あくまでさりげなく、「こんにちは、買い物ですか?」などとソフトな調子で声をかけるのです。

しかし五感は、その時の相手の反応に集中させます。

いかなる微細な動きも見逃しません。

このとき犯罪者は往々にして、言葉に詰まったり、早口になったり、黙りこくったり、不自然な言葉を発したり、今にも逃げ出さんばかりの体勢をとったり、また反抗的な態度をとったりするものです。

犯罪者の中には、職質されても、ごく自然にふるまうことのできる者もいます。

しかし、心の動きは視線や口元の表情、手の動きなどにいやでも表れるものです。

それが犯罪者の発する「気」というものです。

それをいかにして見逃さないか――これが一流の警察官かそうでないかの分かれ目になるのです。

一般の方でも、「あの人の行動はおかしい」あるいは「あそこの部屋の出入りはおかしい」と思って警察に通報すると、その人物に窃盗の前科があったり、その部屋が過激派とか振り込め詐欺グループの一室だということがよくあります。

自分の五感が異常を感じ取ったら、「警察に通報すると大げさになる」「こんなことを連絡して叱られはしないか」などと臆することなく、まず110番通報することです(緊急でない事案や相談事は、 ♯ 9110番通報もあります)。

街を守るのは、一人ひとりの勇気ある行動なのです。

【一課長の目 その 12】集団の中では、犯罪者の放つ「気」に注意。

流れに逆行する者 怪しい「気」を発している不審者について、もう少し具体的に言うと、動きが周囲の流れに合わない者、すなわちその場の人の流れに逆行したり、立ち止まったり、また年齢や服装がその場の雰囲気にマッチしていない者ということになります。

ダンス集団の中で、リズムが合っていない人と言えば分かりやすいでしょうか。

たとえば事件が起きた直後の現場付近で、大勢の人が一方に向かって移動しているとき、その流れに逆行する者が交じっていることがあります。

殺人事件の発生現場に、パトカーがサイレンを鳴らしながら向かっていたり、交番勤務の警察官が走って向かっているような時は、野次馬的な興味でその後を追う人は結構いるのですが、そんな中で、現場とは逆方向に向かっている人はとても目立ちます。

そのような人に対して、警察官は少なくとも声をかけるべきでしょう。

もし、不審な点がある場合は、その理由を訊ねる必要もあります。

私がまだ駆け出しの刑事だった頃、住宅街で深夜、爆発音とともに火災が発生しました。

宿直勤務中の O刑事は、他の宿直員を捜査車両に乗せて現場に向かいました。

近くにさしかかったところ、多くの野次馬が火災現場に駆け足で向かっている中、一人だけ反対方向に歩いてくる男を発見しました。

O刑事が直ちに職務質問しましたが、男は何も答えません。

男の洋服を調べると、焼けこげた跡がありました。

火薬の臭いもしたので、署に同行を求めました。

そして取調べの結果、男が製造途中の爆発物を誤って爆発させたことが判明したのです。

このように、事件が起きた直後の職務質問は、犯人逮捕に直接つながる可能性があるので特に重要です。

犯人は犯行直後、どのような場所に向かう傾向にあるか、だいたい決まっていますので、その場所に警察官が先回りしておけば、犯人を早く捕まえる可能性も高くなります。

たとえば空き巣などの窃盗犯の場合、犯行後は一刻も早く人混みに紛れ込もうとします。

そのため逃げ道などのルートを下見して犯行に及んだりします。

なかには逃走の際、自分の匂いを消すことで警察犬の追跡を逃れようと川を越えたりする者もいます。

また、警察官に声をかけられたときに、盗んだ現金や貴金属を何気ない素振りでそっと川や植え込みに捨てることもありますから、窃盗犯にとって川(小川)は「重宝」するのです。

ですから、警察官は犯人の先回りをし、川を使った逃走経路を押さえておく必要があるのです。

【一課長の目 その 13】事件現場の近くで、集団と逆方向に向かう者に注意。

流れに逆行する者 怪しい「気」を発している不審者について、もう少し具体的に言うと、動きが周囲の流れに合わない者、すなわちその場の人の流れに逆行したり、立ち止まったり、また年齢や服装がその場の雰囲気にマッチしていない者ということになります。

ダンス集団の中で、リズムが合っていない人と言えば分かりやすいでしょうか。

たとえば事件が起きた直後の現場付近で、大勢の人が一方に向かって移動しているとき、その流れに逆行する者が交じっていることがあります。

殺人事件の発生現場に、パトカーがサイレンを鳴らしながら向かっていたり、交番勤務の警察官が走って向かっているような時は、野次馬的な興味でその後を追う人は結構いるのですが、そんな中で、現場とは逆方向に向かっている人はとても目立ちます。

そのような人に対して、警察官は少なくとも声をかけるべきでしょう。

もし、不審な点がある場合は、その理由を訊ねる必要もあります。

私がまだ駆け出しの刑事だった頃、住宅街で深夜、爆発音とともに火災が発生しました。

宿直勤務中の O刑事は、他の宿直員を捜査車両に乗せて現場に向かいました。

近くにさしかかったところ、多くの野次馬が火災現場に駆け足で向かっている中、一人だけ反対方向に歩いてくる男を発見しました。

O刑事が直ちに職務質問しましたが、男は何も答えません。

男の洋服を調べると、焼けこげた跡がありました。

火薬の臭いもしたので、署に同行を求めました。

そして取調べの結果、男が製造途中の爆発物を誤って爆発させたことが判明したのです。

このように、事件が起きた直後の職務質問は、犯人逮捕に直接つながる可能性があるので特に重要です。

犯人は犯行直後、どのような場所に向かう傾向にあるか、だいたい決まっていますので、その場所に警察官が先回りしておけば、犯人を早く捕まえる可能性も高くなります。

たとえば空き巣などの窃盗犯の場合、犯行後は一刻も早く人混みに紛れ込もうとします。

そのため逃げ道などのルートを下見して犯行に及んだりします。

なかには逃走の際、自分の匂いを消すことで警察犬の追跡を逃れようと川を越えたりする者もいます。

また、警察官に声をかけられたときに、盗んだ現金や貴金属を何気ない素振りでそっと川や植え込みに捨てることもありますから、窃盗犯にとって川(小川)は「重宝」するのです。

ですから、警察官は犯人の先回りをし、川を使った逃走経路を押さえておく必要があるのです。

【一課長の目 その 13】事件現場の近くで、集団と逆方向に向かう者に注意。

暗がりの不審者 以前捕まえたひったくり犯人が、犯行に及ぶ場所について、まず「人気がなく、防犯灯の設備がない地域を選ぶ」と供述していました。

犯罪者が暗がりを選ぶのは、人物が特定されにくいということとともに、逃げても追いつかれにくいからです。

ひったくり犯などの犯罪者は、事前に「犯行後どういうルートで逃げるか」ということまで考えて、下見をしているものなのです。

【事件 8――暗闇にまぎれようとした薬物犯】 ある年の年末警戒日、新宿署地域第 4係の係長だった私は、午後 7時頃から担当区域である新宿の百人町を Y主任と 2人でパトロールをしていました。

制服姿で拳銃を装着し、右手に警棒、左手に懐中電灯を持っての徒歩警らです。

百人町は一大歓楽街・歌舞伎町に隣接する街で、コリアンをはじめ多くの外国人が居住しています。

またいわゆるラブホテルも密集していて、当時はその近くに、売春を目的とした外国人の女性やその用心棒と思しき暴力団員が屯していました。

私がそんな用心棒の一人の前を通り過ぎようとした時です。

その男がほんの少し後ずさりをしたのです。

私はピンときました。

「こんばんは。

どこか具合でも悪いのですか」と訊ねたところ、小走りに暗がりの方に向かっていきます。

私は Y主任と一緒に男の後を追いました。

追いついて「どうして逃げようとしたんですか」と聞いたところ、「いや、別に……」という返事。

名前や年齢、そこにいた目的を訊ねても何も答えません。

ますます不審感が募ります。

カバンなどは持っておらず手ブラのようです。

「ポケットの中のものを見せて下さい」と所持品の提出を求めたところ、渋々ズボンのポケットからハンカチを取り出しました。

ハンカチの中からは、ビニールの小袋( 1 × 2センチ大)が出てきました。

通称「パケ」と呼ばれる、覚せい剤の粉末を入れる際に使う袋です。

ただ、パケの中には何も入っていません。

「空パケ」です。

もちろん、これだけでは署に同行を求めることはできません。

私は何も知らぬ風を装って、「このビニール袋は何に使う物ですか」と質問しましたが、男は「知らない」と言うばかりです。

防犯灯の下で「何ですか」「知らない」と押し問答をすること 30分。

双方の根競べが続きました。

寒さが厳しくなってきたにもかかわらず、男の額にはしだいに玉の汗が浮かび始めてきました。

そして遂に根負けし、小声で「近くの植え込み内に小銭入れを捨てた」とポツリ。

私は「落ちた」と思いました。

しかし、ここで油断すると、男に逃げられてしまう危険があります。

そこで、男の動きから目をそらさぬよう注意しながら、その植え込みに案内させました。

植え込みの中の 1本の枝にビニール袋がしっかりと縛りつけられています。

その袋を指紋がつかないよう取り外し、中を見たところ、男が言うように、黒っぽい小銭入れが入っていました。

中には注射器や覚せい剤が入っています。

応援に駆けつけた専務係員により、その場で覚せい剤の予備試験を実施したところ、青藍色に呈した陽性反応が出たので、男を現行犯逮捕しました。

* このような暗がりで、不審者の存在を見抜くことは案外難しいものです。

そんなとき捜査経験者は、「何としてもブツを出させる」という強い執念と「一挙手一投足を見逃さない」という己の観察力と五感を信じて取り組むしかありません。

ところで職務質問をするにあたっては、地域住民の方の協力も大きな支えになっています。

特に検挙数の多い地域では、町会長をはじめ町会の方々がみな警察官に協力的なのです。

街にショッピングや散策に来ている人にとっては、警察官に職務質問されることなど不愉快以外の何物でもありません。

また、その地域で商売をされている方にとっても、「街にお金を落としてくれるお客様」を「職務質問」によって失う可能性もあるわけです。

にもかかわらず、地域の方々が警察官の行為を「うちの街を守ってくれている」「安全なくして街の発展なし」と声援を贈ってくれるのは本当にありがたいことです。

センター街や道玄坂商店街をはじめ渋谷の街に出かけていただければ、警察官と街の方との連携を実感できるでしょう。

指名手配 繁華街や人混みの中で、犯人を見つけるのに有効なのが指名手配のポスターです。

みなさんも街なかの掲示板や交番の前などで、よく目にされることでしょう。

そこには犯人の顔写真とともに、どんな罪で手配をされているのか、どんな体型で、どんな身体的特徴があるのか、といったことが、短い文章で目立つように書かれています。

指名手配のポスターというと、みなさん長い間、オウム真理教事件の逃亡者の顔写真を目にしてこられたはずです。

その中の一人、平田信が、 2011(平成 23)年の大晦日に警視庁丸の内警察署に出頭して翌日逮捕され、そこから芋づる式に、菊地直子、高橋克也といった逃亡犯が、次々に身柄を拘束されました。

しかし、手配書の写真と現在の彼らの姿とを比較すると、「ずいぶん変わった」「いや、面影がある」、そんなどっちつかずの印象を持たれたのではないでしょうか。

かくいう私も、正直「似ているような、そうでないような」という印象を抱きました。

ところで多くの人は、逮捕状が発付されれば、すぐに指名手配されると思うかもしれません。

逮捕状は、警察官や検事等が裁判所に請求した事実において、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」と裁判官が認めれば発せられます(「相当な理由」とは、一般的に犯人の可能性が高いということです)。

指名手配をするにも、必ず逮捕状の発付が条件になっています。

また指名手配の場合、犯人を発見し、逮捕状の犯人(被疑者)の人定が間違いなければ、事実を否認しようがしまいが逮捕できる取り決めであるため、自ずと審査基準が高くなっています。

つまり、逮捕状が発付されているからといって、「即指名手配」ということにはならないのです。

指名手配の中でも特別手配(警察庁指定被疑者特別指名手配)は、治安上あるいは社会的に影響が大きく、再犯の可能性もある重要犯罪に絞って警察庁が指定しています。

先の 3人のオウム真理教関係被疑者も特別手配犯で、交通機関や各種販売所、銭湯といった生活関連施設など至る所に顔写真の載ったポスターを貼り、警察署の内外の誰でも見られる場所に 3人の顔写真入り等身大パネルを立てかけたりしました。

こうして都道府県警察は組織の総力を挙げて追跡捜査をしたのですが、残念ながら長きにわたり逮捕をすることができませんでした。

もちろんその間、警察は手をこまねいていたわけではありません。

どんなことがあってもこの 3人を早期に逮捕するという気持ちは、警察全体で共有され、毎朝行われる訓授(企業の朝礼に当たる)でも、署員に対して「平田のフルネームは」「高橋の出身地、身長、特徴は」「菊地の特技は」等々を応問して理解度を確かめたり、昇任試験の問題にも 3名の名前や生年月日、特徴を出題していました。

しかし、年を経るにつれ、人の風貌というのは変わっていくので、面影が残っているといっても、たとえば菊地直子の場合、オウム事件の時は 23歳、逮捕時は 40歳ですから、見た目が大きく変わっていたとしても不思議はありません。

そういったことも、あちこちに顔写真のポスターが貼られながら、なかなか逮捕できなかった原因の一つではないかと考えます。

写真の修整技術は、日進月歩で進んでいます。

容疑者の容貌が年を重ねてどう変化しているか、それを見越した手配写真の作成が望まれます。

これには、容疑者の親族の特徴が参考になります。

指名手配 繁華街や人混みの中で、犯人を見つけるのに有効なのが指名手配のポスターです。

みなさんも街なかの掲示板や交番の前などで、よく目にされることでしょう。

そこには犯人の顔写真とともに、どんな罪で手配をされているのか、どんな体型で、どんな身体的特徴があるのか、といったことが、短い文章で目立つように書かれています。

指名手配のポスターというと、みなさん長い間、オウム真理教事件の逃亡者の顔写真を目にしてこられたはずです。

その中の一人、平田信が、 2011(平成 23)年の大晦日に警視庁丸の内警察署に出頭して翌日逮捕され、そこから芋づる式に、菊地直子、高橋克也といった逃亡犯が、次々に身柄を拘束されました。

しかし、手配書の写真と現在の彼らの姿とを比較すると、「ずいぶん変わった」「いや、面影がある」、そんなどっちつかずの印象を持たれたのではないでしょうか。

かくいう私も、正直「似ているような、そうでないような」という印象を抱きました。

ところで多くの人は、逮捕状が発付されれば、すぐに指名手配されると思うかもしれません。

逮捕状は、警察官や検事等が裁判所に請求した事実において、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」と裁判官が認めれば発せられます(「相当な理由」とは、一般的に犯人の可能性が高いということです)。

指名手配をするにも、必ず逮捕状の発付が条件になっています。

また指名手配の場合、犯人を発見し、逮捕状の犯人(被疑者)の人定が間違いなければ、事実を否認しようがしまいが逮捕できる取り決めであるため、自ずと審査基準が高くなっています。

つまり、逮捕状が発付されているからといって、「即指名手配」ということにはならないのです。

指名手配の中でも特別手配(警察庁指定被疑者特別指名手配)は、治安上あるいは社会的に影響が大きく、再犯の可能性もある重要犯罪に絞って警察庁が指定しています。

先の 3人のオウム真理教関係被疑者も特別手配犯で、交通機関や各種販売所、銭湯といった生活関連施設など至る所に顔写真の載ったポスターを貼り、警察署の内外の誰でも見られる場所に 3人の顔写真入り等身大パネルを立てかけたりしました。

こうして都道府県警察は組織の総力を挙げて追跡捜査をしたのですが、残念ながら長きにわたり逮捕をすることができませんでした。

もちろんその間、警察は手をこまねいていたわけではありません。

どんなことがあってもこの 3人を早期に逮捕するという気持ちは、警察全体で共有され、毎朝行われる訓授(企業の朝礼に当たる)でも、署員に対して「平田のフルネームは」「高橋の出身地、身長、特徴は」「菊地の特技は」等々を応問して理解度を確かめたり、昇任試験の問題にも 3名の名前や生年月日、特徴を出題していました。

しかし、年を経るにつれ、人の風貌というのは変わっていくので、面影が残っているといっても、たとえば菊地直子の場合、オウム事件の時は 23歳、逮捕時は 40歳ですから、見た目が大きく変わっていたとしても不思議はありません。

そういったことも、あちこちに顔写真のポスターが貼られながら、なかなか逮捕できなかった原因の一つではないかと考えます。

写真の修整技術は、日進月歩で進んでいます。

容疑者の容貌が年を重ねてどう変化しているか、それを見越した手配写真の作成が望まれます。

これには、容疑者の親族の特徴が参考になります。

手配写真を選ぶ際は 犯人自らが手配写真と印象を変えてしまうのも問題ですが、手配写真そのものが本人のイメージと違っている場合も要注意です。

たとえば、ある傷害致死事件で、手配用の犯人の写真が酒を飲んでいる時に撮られたものだったことがありました。

写真では、アルコールが入って顔が赤く、かつ寝そべった状態だったため、ふだんの犯人とはずいぶん印象が違ったのです。

これでは写真を提示して「ここに写っている男を知っていますか」と訊ねても、犯人を見たことのある人ですら「知らない」と答えるでしょう。

そんなことにならないためにも、手配写真を選ぶ際には、必ず、犯人を知っている者に写真を確認してもらい、犯人の印象に一番近いものを選ぶ必要があります。

最近ではコピー機の進歩によって、鮮明な写真や絵の複写が可能になりました。

そのことを悪用して、他人の履歴書や身分証明書を複製してその人物に成り済ます輩も出てきています。

こうして偽造した履歴書や身分証明書を使って携帯電話を購入したり、マンションに入居する者も後を絶ちません。

ですから、もしあなたが、そういった身分に関する書類を審査する立場にあるなら、あなた以外の複数の目によるチェックが必要です。

そうしておかないと、入居した部屋で犯罪が行われたり、犯罪を誘発する行為があった時取り返しがつかないことになります。

それも、ただ漠然とチェックするのではなく、「これは偽造ではないか」という疑いの目をもって、言い換えれば「性悪説」にもとづいて判断をするべきです。

【一課長の目 その 15】身分に関する書類は、複数の目でチェックする。

似顔絵 似顔絵や人相書きは江戸時代から下手人の手配に使われていました。

そんな古くからある手法ですが、私は今でも有効な手段であると思います。

私が捜査第一課管理官から王子署副署長に異動するころ、鑑識課に似顔絵担当として M嘱託員が在籍していました。

人間の視覚には形状を認識する力(パターン認識力)がかなりあることに着目した Mさんは、目撃者が記憶する犯人の顔や動作を絵で表現したのです。

Mさんの指導により、警視庁似顔絵捜査員が育成されました。

Mさんによると、似顔絵作成には目撃者、すなわち協力者との信頼関係、特に会話が大切であると言います。

「そもそも警察とは関わり合いを持ちたがらない方たちです。

また自分とは年齢、生活環境が異なる場合も多いですから、似顔絵が犯人の検挙につながった経験を語ったりするなど、話術と気配りによって協力してくれる方の抵抗感や緊張感を排除する必要があります」 まさに聞き込みと同じです。

似顔絵は作成者と目撃者の根気を必要とする共同作業です。

目撃者から正確な記憶を引き出し、それを多くの人に伝わるものにするためには、作成者である捜査員にも粘り強いコミュニケーション力が求められるわけです。

今後もさらに工夫を重ねて、より多くの人に伝わる指名手配書を作成して、凶悪犯の逮捕につなげたいものです。

似顔絵から強盗強姦魔を発見 似顔絵が犯人の割り出しに結びついた例を挙げてみましょう。

【事件 10――連続強盗強姦事件】 一課長に着任後半年ほど経った頃、多摩地域や隣県との県境の地域において、アパートやマンションで一人暮らしをする若い女性を狙った強盗強姦事件が連続して発生しました。

手口は、被害者の下の部屋に住んでいる者を装って「雨漏り」や「水漏れ」を調べることを口実に部屋に入り、台所にある包丁を女性の首に突き付けて脅迫、現金を強奪したうえ、姦淫するというものです。

所轄署には、署長の指揮の下、捜査本部が立ち上がり、警視庁からも捜査一課性犯担当主任以下 3名が派遣され、捜査が始まりました。

犯人の似顔絵作成に当たったのは、似顔絵講習を修了している女性捜査員です。

彼女たちは被害者から犯人像を聞きながら描いていきました。

被害者としては、犯人の顔など思い出したくもないことです。

そこを何とか聞き出して形にしていった捜査員の苦労が偲ばれます。

似顔絵を各地に配布した結果、機動捜査隊から「整備不良車両を発見して職務質問した Xという 31歳の男が似ている。

自称塗装工で、血液型は B型」との情報がもたらされました。

被害者の膣内から採取した精液を DNA鑑定した結果でも、犯人の血液型は B型でした。

そこで、捜査本部の主任が、この機動捜査隊員に直接面談しました。

すると、「男の右手甲と左手甲には創傷痕があった。

ケンカの仲裁に入った際、そのうちの一人に刃物で切りつけられ、 N病院で治療を受けたと言っていた」ということも分かりました。

そのことを N病院に確認すると、「4月 24日午後 0時 25分頃、休日診療を受診しており、両手手掌切創として左手甲 3針、右手甲 4針の縫合治療を受け、5月 3日まで 7回通院している」という事実が判明しました。

まさにこの4月 24日に、強盗強姦と住居侵入の2つの事件が発生していたのです。

強盗強姦事件の方は、 24日の午前 0時 50分頃、犯人が「下の者ですが、水漏れがしています。

部屋を見せて下さい」と訪問して犯行に及びました。

このときは被害者が包丁を手に抵抗、包丁を取り上げた際に犯人が手をケガしたのでした。

逃走から 1時間後、今度は隣接署管内の、あるマンションに同じ手口で押し入り、「手を切った」と言って治療して立ち去ったと言います。

その際、傷口を拭いた布片に犯人の血液が付着したのですが、その鑑定結果も B型でした。

Xの自宅周辺の捜査では、 X宅から出されたゴミ袋から Xの爪片を発見。

これを DNA鑑定したところ、犯人の精液を鑑定したものと一致したので、 Xを逮捕したのです。

逮捕事実を Xはすんなり認めました。

動機については「女房が生理になるとセックスができず、欲求不満が溜まって事件を起こした」とふざけた内容の供述をしていたと言います。

そんな Xの供述から、性犯罪者がどのようにして若い女性を物色しているかが明らかになりました。

以下、項目を挙げてみましょう。

■ 大学周辺にあるアパートやマンションで、カーテンの色や柄、ベランダに干してある洗濯物によって若い女性が住んでいるかどうかを見分ける。

さらに一人住まいかどうかを判断する材料になったのは以下の項目です。

■ ブラジャーやパンティが白色で、それをバスタオル等で隠すように干してある。

下着がカラフルであると同棲者がいる、またそのまま干しているのは年長者であると思われるので避けた。

■ タオルやバスタオルは、キャラクターが描かれているものやブランド品である。

商店名の入っているタオルや、一見してお返し品や古びたタオルは生活感が漂っているので避けた。

■ カーテン地の色は、シンプルな色が多い。

ただし原色か、原色に近いカーテン地は、同棲者の存在が窺えた。

■ 玄関口に足を踏み入れた際、まず下駄箱に男物の靴やサンダルがないかを確認する。

もし、男性のものがあれば、立ち去るつもりだったが、カーテンや洗濯物から目星をつけた部屋にはそういったことは一度もなかった。

取調官によると、 Xはこうした内容のことを、淡々と、それも性犯罪の防犯責任者のような口調で語っていたと言います。

Xのしたことのように、自己の性的要求を満たすためだけに女性を弄ぶ行為は、「心の殺人」と同じと言っていいのではないでしょうか。

若い女性の読者の方は、右に挙げた項目を参考に、こうした鬼畜の被害に遭わないようくれぐれもお気をつけください。

【一課長の目 その 16】性犯罪者は若い女性が住む部屋を常にチェックしている。

ラブホテルの防犯モニターから似顔絵を作成 似顔絵は、被害者の身元を割り出す際にも活用します。

【事件 11――外国人ホステス絞殺事件】 街がクリスマス一色に染まったある年の 12月 22日の午後 10時 15分頃、ラブホテルの清掃担当従業員から「客室のトイレで女性客が倒れている」との 119番通報が入りました。

すぐに救急車がホテルに向かいましたが、搬送された病院で死亡が確認されました。

所轄署の刑事が病院に臨場したところ、頸部に絞められたような皮膚変色がありました。

そこで、捜査一課や鑑識課に臨場を求めたのです。

当時捜査一課の理事官だった私は、同署で別の事件を扱っていたこともあって、この事件に遅れて臨場しました。

亡くなった女性は、年齢 20〜 30歳、身長 160センチ位、中肉で髪は長くポニーテール。

発見された時は下着一枚で、身元を特定するような所持品を身に着けていませんでした。

ただ、右脇腹に盲腸の陳旧痕(古い傷あと)と、歯には審美治療(ほとんどの歯を整形治療)した跡がありました。

翌日の司法解剖によって、死因は頸部圧迫による窒息死、凶器は柔らかい布のようなものであることが分かりました。

ホテルの防犯モニターなどから、女性は午後 7時 30分頃男とチェックイン。

女性は、白っぽいコートにマフラー姿。

黒のロングブーツを履き、リュックサックを背負っていました。

男は身長 170〜 175センチ。

頭頂部は薄く、眼鏡をかけ、灰色のコートを着ていました。

同日午後 10時すぎ、男は料金を支払い、一人でホテルを出ています。

その際、リュックサックのようなものを背負っていました。

この種の「ホテル内殺人事件」の場合、被害者の身元が判明すれば、犯人は被害者の友人・知人か、行きずりの者か、など捜査対象を絞ることができます。

そこで被害者の似顔絵作成となるわけです。

その際、本来なら客と接触をしている従業員の記憶に頼って作成するのですが、ラブホテルの場合、従業員が客と顔を合わせることはほとんどありません。

そのため、捜査資料を別に求める必要があります。

このとき資料となったのは、遺体の顔写真と防犯カメラの映像でした。

現場指揮者は、青森弁が抜けきらない T管理官と、なぜか両膝でリズムをとる K係長です。

2人とも仕事の速さでは定評があり、翌日には早くも手配書ができあがりました。

この似顔絵を捜査員に持たせて聞き込みに使用したり、マスコミを通して公開するなどしたのです。

すると数時間後に、スナックの経営者を名乗る男性から捜査本部に電話がありました。

「テレビで見ました。

うちでバイトをしている Aちゃんに似ています。

休むことがないのに昨夜は無断欠勤でした。

遺体を見せて下さい」という内容です。

そこで、この経営者に署に来てもらい、遺体を確認してもらったところ、「 Aちゃんにちがいない」と言います。

外国から留学生として来日している Aさんは、客の Xという男と交際をしているとのことでした。

経営者に防犯カメラに映った男を確認してもらうと、「 Xさんです」と断言します。

スナックの経営者から Xの名刺を入手し、そこから Xが居住するマンションを割り出しました。

28日に捜査員がマンションの管理人に聞き込みをしたところ、「昨日はご苦労様でした」と前置きした後、「 Xさん? そういう方はこのマンションには住んでいません。

人違いではないですか」と言います。

捜査員はあきらめて引き上げようとしましたが、「昨日はご苦労様」という言葉が引っかかりました。

捜査員がこのマンションの管理人を訪ねるのは初めてだったからです。

捜査員が「この男が Xですが」と言って、管理人にホテルの防犯カメラに映っていた Xの似顔絵を見せたところ、「ああ、 Yさんね、この人、昨日救急車で病院に運ばれましたよ。

あれから容体はどうですか?」と聞いてきたのです。

その時の状況をくわしく訊ねると、「 Yさんは昨日の朝、外階段のところで首を吊っていた。

ところが、両足が階段について、う ーう ー唸り声をあげていたので、 119番に通報をした。

まもなく救急車がやってきて病院に搬送された。

首に巻いたひもが伸びてしまったので足がついたみたいです」とのこと。

「昨日はご苦労様でした」という管理人の言葉は、このとき現場を訪れた警察官を、捜査員と同じ人物だと思ったことから出てきたようです。

捜査員の報告を受けた特捜本部が、 Yのマンションに急行し、部屋を捜索したところ、 Aさんのリュックサック、女性ものの下着、メモ帳を発見しました。

似顔絵を見たマンションの管理人からも「この人は Yさんです」という話を得ました。

これで、 Yはホテルから逃げた Xであることが明らかになったのです。

数日後、退院した Yを逮捕したのですが、 Xも Yも偽名で、本名は Zで 59歳であることが分かりました。

関西の会社の従業員でしたが、売上金を数千万円使い込んで所在をくらまし、東京に潜伏していたところ、スナックの客として Aさんと知り合ったのでした。

しかし、 Aさんとの間に金銭トラブルが生じ、首を絞めて殺害。

犯行後、自分も死のうとしましたが、死にきれず、殺人犯として罪を償うことになったのです。

この事件では、似顔絵が被害者の身元割り出しに効果を発揮しました。

不鮮明な写真や映像よりも似顔絵の方が特徴を捉えやすく、年数が経っても写真よりも効果があると、私は感じています。

【一課長の目 その 17】不鮮明な写真や映像よりも似顔絵の方が特徴を捉えやすい。

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