5-1 機械式洗車は 600円、手洗い洗車は 1, 600円。この差は何か?原価とは何かを改めて考えてみよう 管理会計の視点で原価を考えると、財務会計の視点で見たときに比べ、実際のビジネスに即した原価をとらえることができます。そのビジネスがどんな付加価値を提供しているのかを、正しく分析するためには、本当の原価をきちんとつかむことが大切です。具体例で考えていきましょう。 【Question】ガソリンスタンドに洗車をしに行きました。スタンドの店員が価格表を提示し、全自動の機械を使えば 8分で 600円、手洗いのシャンプー洗車なら 15分で 1, 600円と言われました。この 1, 000円の価格差の理由は何でしょう。手洗い洗車は、基本的に 1人で行ないます。 ■人件費と考えた人が多いのではないでしょうか 差の 1, 000円は人件費と考えがちですが、果たしてそうでしょうか。 まず機械式洗車の直接原価を考えてみましょう(図 5-1)。直接原価とは、直接原価計算で説明したように洗車にかかわらせて把握できる費用です。大まかに考えて、洗剤 100円、水道光熱費 100円、機械の減価償却費 200円、設置スペースの地代家賃 100円、人件費は全自動なのでゼロ円とすれば、機械式洗車の直接原価は高くても 500円です。洗車料金 600円-直接原価 500円で 100円が粗利益という計算になります。粗利益率 16. 7%( 100円 ÷ 600円)です。 手洗い洗車の直接原価はどうでしょう。洗剤 100円と水道光熱費 100円は機械式と同等に考えます。機械は使わないので、減価償却費はゼロ円です。地代家賃は、洗車場所を洗車時間だけ負担するとして 50円とします(機械式は洗車場所を独占しているので 100円と多く見積もっています)。新たに考える必要があるのは洗車を行なう人の人件費です。手洗い洗車は 15分かかるので、 15分の人件費を計算します。時給 1, 200円として、 1分当たり 20円( 1, 200円 ÷ 60分)、 15分だと 300円( 20円 × 15分)です。手洗い洗車にかかる直接原価は、洗剤 100円、水道光熱費 100円、地代家賃 50円、人件費 300円の合計で 550円です。 つまり機械式洗車 500円と手洗い洗車 550円の差は 50円です。概算ですからこの数字は正確ではありませんが、ここでわかることは直接原価にあまり差がないことです。手洗い洗車では人件費がかかりますが、少なくとも料金の差 1, 000円が、人件費とは言えないようです。
■減価償却費、人件費、地代家賃以外の間接固定費の影響を見てみる 洗剤と水道光熱費は直接原価であり変動費で、減価償却費、地代家賃、人件費は直接固定費です。直接原価には大きな違いがありません。 では、直接原価(変動費 +直接固定費)以外の費用の違いでしょうか。ガソリンスタンドも、経理などの事務員の給与・賞与、役員報酬、オフィスの光熱費、事務用消耗品費などの間接固定費が発生します。これは、洗車をしようがしまいが発生する無関連原価です。もし洗車料金に反映させようとすれば、間接固定費を何らかの形で、洗車というサービス(活動)に配賦計算する必要があります。すでに説明した全部原価計算や ABC(活動基準原価計算)のように原価を配分
配分計算します。 しかし、間接固定費というのは、洗車との関係が不明確な費用、すなわち配賦基準が見つからない費用なので、配賦計算することでかえって本当の原価がわからなくなることはすでに説明しました。よって、間接固定費を料金の大小の原因とするのは説得力に欠けます。 ■「得られたはずの利益」を考える……「機会原価」 管理会計では、機会原価という考え方があります。ある行為を行なうことで、他の行為を実行できないことがありますね。他の行為を行なわなかったことで失った利益のことを機会原価または機会損失と言います。他の行為が複数あれば、その中で最大の利益のことを指します。 ガソリンスタンドでは、洗車のほかいろいろなサービスを行なっています。洗車している人は、洗車の間は他のサービスを提供することができません。たとえば、洗車の間にハイオク 50リットルを給油する車が来て待たせてしまったとします。 50リットルの粗利益を 750円( 150円 × 50リットル × 10%)とすると、手洗い洗車の間は、 750円の機会原価が発生します。 管理会計では、機会原価を手洗い洗車の原価と考えます。手洗い洗車の原価は、 1, 300円(直接原価 550円 +機会原価 750円)で、料金 1, 600円ですから、粗利益は 300円( 1, 600円- 1, 300円)です。機械式洗車は、洗車している間に他の仕事ができるので、機会原価はほとんど発生しません。 このように考えると 1, 000円の価格差は、大部分が機会原価であることがわかります。機会原価が大きいときは、粗利益を大きく設定する必要があるので、価格も高くなります。ゴールデンウィークの観光地のホテル・旅館の宿泊代が高くなるのも機会原価を意識しているからです。 しかし、みなさんは、料金が高い理由が、機会原価だと説明されて納得いきますか。手洗い洗車の顧客に、「手洗い洗車を行なうと、給油ができないので機会原価だけ高くなっています」と説明したらどうでしょう。「そんなのそちらの問題でしょ!」と言われるのがおちですね。 対策として、仕事の繁閑に応じて人員配置や人数を調整する仕組みが、機会原価の発生を防ぐことも理解しておきましょう。 ■粗利益の差 950円は何を意味するのか 前出の図 5-1を見ると、直接原価(変動費 +直接固定費)では、 50円の違いしかなく、大きな違いは粗利益であることがわかります。粗利益は、機械式では 100円( 600円-直接原価 500円)、手洗い式では 1, 050円( 1, 600円-直接原価 550円)、その差は 950円です。この2つの料金の差は粗利益であると言っていいでしょう。 しかし、機会原価を説明に使えないなら、顧客に粗利益の差を説明する根拠がなくなってしまいますね。 損益分岐点のところで説明しましたが、粗利益は一種の付加価値です。このケースでは、間接固定費を支払う原資になります。 普通の店員は、顧客にこう言うでしょう。「いろいろ経費がかかっているので、粗利益をもらわないと、経営が成り立たないのです」。 優秀な店員なら、顧客にこう言うでしょう。「お車を大切にする方には、手洗い洗車をお勧めします。車に傷を付けないように、隅から隅まで大切に洗います。私たち洗車のプロにお任せください」と。 この安心と信頼の提供が、顧客に粗利益 1, 050円を支払う気にさせ、ガソリンスタンドは付加価値を手に入れることができるのです。優秀な店員の人件費(固定費)が、付加価値 1, 050円を生むと言えるのではないでしょうか。優れたサービスのための教育コストをかける必要性が見えませんか。
補足 1:変動費と直接原価が、異なるケースもあります。このガソリンスタンドのケースでは、洗剤と水道光熱費は直接原価であるともに変動費です。減価償却費、地代家賃、人件費は直接原価であり固定費です。補足 2:このケースは、変動費だけで考えるほうがわかりやすいです。変動費は機械式、手洗いとも同じです。変動費は洗剤 100円と水道光熱費 100円の 200円。機械式の限界利益は、 400円( 600円- 200円)で限界利益率は 66. 7%。手洗い洗車では、限界利益は 1, 400円( 1, 600円- 200円)で、限界利益率 87. 5%と非常に高くなっています。 限界利益率が高い理由は、減価償却費、人件費などの固定費にありますが、現場を見れば、優秀な社員が付加価値を生んでいると実感できるはずです。
5-2 原価割れでも注文を受けるべきか?決め手は原価の見方と限界利益 値引きすると大量注文が入ることもあります。しかし、その価格設定によっては原価割れをする可能性もあり、注文を受けるかどうかの判断が難しいときがあります。そんなときにも、管理会計が役に立ちます。 【Question】信州製菓では、銘菓りんご最中を作っています。ある問屋から、通常 1個 1, 200円を 900円に値引きできるのなら、銘菓りんご最中を 1万個購入したいという注文が入りました。現在の原価を以下の計算情報で見ると 1, 000円です。 1万個の注文を受けるべきかを判断してください。 ■総原価を下回ると損失になるか?(総原価 1, 000円と 900円を比較する)
総原価を下回る価格で注文を受ければ、 1個当たり 100円の損失になるのでしょうか。 1万個を受注すれば、年間予定生産量は、 13万個( 12万個 + 1万個)となります。フル操業は 15万個( 12万個 ÷ 80%)なので、注文を受ける生産能力には余裕があります。 また、固定費は、フル操業まで総額は変わらない条件なので、 1万個注文を受けても固定費総額は、 4, 800万円(予定生産量 12万個 × 400円)です。よって、 1万個の注文を受ければ、 1個当たり固定費は、 400円から 369円( 4, 800万円 ÷ 13万個)に下がります。 変動費はフル操業まで単価は変わらないので、 1個当たりの総原価は、 969円(材料費 500円 +外注加工費 100円 +固定費 369円)です。 このように考えると、 900円の受注では、総原価 969円のほうが大きく、損失が出てしまうため、注文を受けないという結論になります。 しかし、そうでしょうか。もう少し考えてみましょう。 ■ 900円と比較すべき単価は何か?(限界利益で分析する) 固定費は、生産水準(年 15万個)を維持するためのコストで、能力原価( Capacity cost)と呼ばれます。生産量が減少しても増加しても変わりません。つまり、 1万個の注文を受けても、固定費は 4, 800万円発生するのです。 4, 800万円のように、注文を受けるという意思決定には関連しない費用を、無関連原価または埋没原価と言います。 ここで損益分岐点分析や変動損益計算書で勉強したように、限界利益に注目する必要があります。 銘菓りんご最中の 1個当たり変動費は、 600円(材料費 500円 +外注加工費 100円)で、受注価格が 900円です。よって 1個当たり 300円の限界利益を得ることができます。 1万個で 300万円( 300円 × 1万個)の限界利益を稼げるので、固定費を回収して、利益に貢献する原資が増えることになります。よって、限界利益がプラスであれば、注文を受けるほうが有利ということになります。 900円と比較すべき単価は変動費 600円ということです。 固定費の回収が、限界利益の役割です。限界利益がプラスか否かが、この意思決定の判断の分かれ目になることを、再確認してください。ただし、現実には、 900円に値段を下げることで、他の問屋からも値引き要求が来るようなことも考えられます。商売がやりにくくなる可能性もあるので、数字以外の影響を考慮する必要がありますね。 ■費用と収益の増減に注目して分析する「差額原価収益分析」 次のような方法もあります。 1万個の注文を受けた場合に、増減する費用(差額費用)、増減する収益(差額収益)を取り出して分析する方法です。差額収益-差額費用で求まる差額利益がプラスであれば、注文を受けるほうが有利です。
ある意思決定で変化する収益と費用を比較し、その差額である差額利益が黒字であれば、その意思決定を行なうほうが有利であると判断できるのです。 このような方法を差額原価収益分析と呼んでいます。銘菓りんご最中のケースでは、差額利益は 1万個の限界利益と一致していることを確認してください。固定費が無関連原価なので、限界利益が差額利益になっています。補足:この問題では、簡略化のために固定費は変化しないものとしています。実際は、生産量(操業度)の水準による販売費、残業や光熱費の増加などによって、固定費も増減することがあるので、そのときは考慮する必要があります。
5-3 時給はどうやって決めるのか?人時生産性と労働分配率がポイント まだ利益が出ないうちから従業員の給料を決めるのは、難しい課題です。高すぎると利益が残りませんし、安すぎればモチベーションがダウンする可能性もあります。 次に、時給を決める考え方を勉強しましょう。 【Question】 10分で 1, 000円の理容サービスがあります。 1日( 8時間営業)平均 100名の客が来るとします。店舗従業員は 3名です。この情報から、従業員の時給(法定福利費や福利厚生費を含めない)は大体いくらにすればよいのでしょうか? ■売上高から人件費を推計して、時給を求めよう 1人当たり 1時間当たり限界利益を出し、そこからどの程度、利益を人件費に分配するのかを示す労働分配率を使って、時給を計算します。 計算の流れは、次のようになります。 ① 1日当たり限界利益を推計する ②人時生産性( 1人当たり 1時間当たり限界利益)を推計する ③労働分配率を想定して、人件費総額を推計する ① 1日当たり限界利益を推計する 1日の売上高は、客単価 ×客数で求めます。これは簡単ですね。 1, 000円で客数 100名ですから、 10万円が 1日当たり売上高になります。 消耗品や水道代などを変動費と考えて、限界利益率は 95%と非常に高いと推計します。すると、 1日当たり限界利益(付加価値)は、次のようになります。 ②人時生産性( 1人当たり 1時間当たり限界利益)を推計する 95, 000円を 8時間で割ると 1時間当たりの限界利益 11, 875円が求まります。 1時間当たり限界利益を従業員 3名で割ると、 1人当たり 1時間当たり限界利益(人時生産性) 3, 958円です。 ③労働分配率を想定して、人件費総額を推計する
限界利益(付加価値)のうち人件費に分配する割合を示す労働分配率を想定します。今回は概算なので、全業種の労働分配率の平均値である 50%を使って計算してみましょう。自分の会社で計算するときは、自分の会社の予定労働分配率を使ってください。 この 1, 979円は何を意味するのでしょうか。この数字は、従業員 1人当たりに支払える人件費になります。しかし、人件費には会社が負担する社会保険などの法定福利費や福利厚生費も含まれます。会社負担分の法定福利費や福利厚生費は、大手企業は比較的大きく、中小企業で小さくなります。ここでは小さく見積もって、 1, 979円が、給与・賞与の 1. 2倍程度の法定福利費等を含んだ人件費総額、と考えて計算しましょう。 すると 1, 979円 ÷ 1. 2 = 1, 649円が、従業員に提示する時給の上限と推計されます。したがって、この金額までは時給を上げてよいと考えられます。 ④年収を確認してみよう せっかくですので、年収まで計算してみましょう。年収は、時給 × 1日の労働時間 ×月間営業日数 × 12か月で計算します。月間営業日数は、 25日とします。すると以下のような結果になります。 ■予定平均月収から雇用可能人数を求めて、何人まで雇用できるのかを判断する では、この人件費は妥当でしょうか? 人件費の総額を求めた後、雇用可能人数を算出することで確認します。 計算の流れは、下記のようになります。 1日当たりの人件費総額を求める 予定月給から必要人件費( 1日当たり)を求める 雇用可能人数を求める 1日当たりの人件費総額を求める 1日当たりの限界利益は 95, 000円でした。これに労働分配率 50%を乗じて人件費総額を求めます。ここまでは、先の「 1日当たり限界利益を推計する」と同じです。
予定月給から必要人件費( 1日当たり)を求める 8時間フルタイムで働いた人に月 30万円を支払うとすると、 1日当たり 12, 000円( 30万円 ÷ 25日)の人件費になります。 12, 000円には、会社負担の法定福利費などが含まれないので、 1. 2倍して人件費総額を算出します。 雇用可能人数を求める 1日当たり人件費総額 ÷会社負担の 1日当たり 1人当たり人件費で雇用可能人数を求めると、 47, 500円 ÷ 14, 400円 = 3. 3人となります。 月給 30万円で人が採用できるなら、時間帯でうまくローテーションを組めば回せそうですが、ぎりぎりの人数です。補足:理美容、外食、小売など労働集約的なサービス業では、人時生産性は重要な管理指標です。人時生産性をアップさせることによって 1人当たりの人件費を確保し、低価格でも利益を稼げる経営が実現できます。
5-4 増員したい! そのとき営業所長はどう提案すべきか?増員で増えるコストを回収できる売上予算を計画しよう 営業所単位で予算を策定したり、提案を通すための数字を作る目的でも、管理会計は使われます。1つ例をあげてみましょう。 【Question】多摩営業所では、営業強化を目指して、 1名の増員を本部に要求しています。本部では、昨年の収益性を維持し、売上を上方修正できるなら認める考えです。そこで、多摩営業所長は、最低限の売上高アップの目標を本部に提案するつもりです。このとき、どの程度の売上高を見積もればよいでしょうか? ただし、 1名の増員で、固定費が 400万円増加する見込みです。
限界利益率を利用して収益性を確保できる売上高を計算する方法と、損益分岐点比率から求める方法の2つがあります。 ■「収益性を維持する」ことをどう考えるか 収益性とは、投資額に対するリターン(利益など)の割合です。その代表的指標は、 ROA(営業利益 ÷総資産)や ROIC(営業利益 ÷〈自己資本 +有利子負債〉)です。しかし、総資産や自己資本のような貸借対照表項目を営業所単位で管理している企業はほとんどありません。よって ROAなどの収益性の指標を提案して、本部の要求に応えるのは難しいでしょう。 そこで、損益情報だけで収益性を考える必要があります。変動損益計算書から利用できる収益性の指標は、限界利益率 30%と売上高営業利益率 5%です。この2つの指標を維持しながら、 1名増員による固定費アップ額 400万円をカバーできる目標売上高を決めればいいわけです。 ■売上高固定費比率に注目して、必要な売上アップの額を判断する 固定費 +営業利益は、限界利益となりますね。下の図 5-2を見てください。限界利益率が 30%で、売上高営業利益率 5%ですから、売上高固定費比率は 25%になるわけです。よって、 400万円 ÷ 25%で、達成しなければならない売上高を逆算すると 1, 600万円です。 1名の増員で、 1, 600万円の売上アップがあればいいわけです。以上が1つ目の方法です。
予定変動損益計算書を作って確認してみましょう。
■損益分岐点比率に注目して、必要な売上アップの額を判断する 次に損益分岐点比率から求める方法を紹介します。すなわち、現状の損益分岐点比率でどれだけの売上を達成すれば、増員に伴うコストの増加分をカバーできるかを計算します。これまでの損益分岐点比率を算出した後、増加に伴って必要となる限界利益を出せば、わかります。 ① 1名増員前の損益分岐点比率 損益分岐点比率は、限界利益に占める固定費の割合です。 まずこのことを以下の式から理解しましょう。 限界利益率を mとします。
損益分岐点の売上高では、限界利益 =固定費となるので、「損益分岐点の売上高 × m(限界利益率)」 =固定費になります。この考え方は、損益分岐点の本質的な理解につながるものですが、計算も速くできるので便利です。 1名増員前の損益分岐点比率は、固定費 6, 000万円 ÷限界利益 7, 200万円 = 83. 3%となります(図 5-2)。 ②固定費の増加に伴って、必要になる限界利益は? 固定費 400万円が増加しても、損益分岐点比率 83. 3%を維持するために必要な限界利益を求めてみましょう。 計算は次のようになります。 そして、 480万円の限界利益を稼ぐ売上高を求めると、 結局、限界利益率 30%、売上高営業利益率 5%、損益分岐点比率 83. 3%と前年並みを堅持して、 1, 600万円の売上高アップを図る具体的な販売計画を提案できれば、増員要求の説得力も増すはずです。本部からは、計数感覚のある営業所長として、評価もアップするでしょう。
5-5 次期の利益計画(予算)はどんな手順で作るのか?必要売上高を求める公式で考えよう 次に、正しい予算の立て方を考えてみましょう。意外と間違った予算の立て方をしている方も多いかもしれません。 【Question】次期の利益計画(予算)を作成する場合、どのような順番で決定していくべきかよく考え、以下の項目を並べ替えなさい。 ■必要売上高を求める公式は? 目標利益を達成するための必要売上高は、以下の公式で求めます。 ここでは、目標利益を営業利益と考えて説明します。 必要売上高とは、固定費予算をカバーして、目標利益を達成できる売上高です。目標利益がゼロの場合、必要売上高は、損益分岐点の売上高となりますね。 公式を記憶しているだけだと、このように手順を聞かれたとき、戸惑うのではないでしょうか。公式を鵜呑みにするのではなく、きちんとした理解をしておく必要があります。それが、この問題の狙いです。 では、固定費予算、目標利益、限界利益率は、どのような順番で決めればよいでしょうか。
■固定費予算、目標利益、限界利益率の決定順は? 望ましいのは、目標利益 ⇒(総合)限界利益率 ⇒固定費予算の順です。この流れは、トップダウンで目標利益を決め、それを前提に販売計画を立て、セールスミックスによって限界利益率が決まることを前提としています。 また販売計画は現場で、目標利益はトップダウンで行なうと考えて、限界利益率 ⇒目標利益 ⇒固定費予算と考えてもいいでしょう。 なお、限界利益率 ⇒固定費予算 ⇒目標利益と考えた人は、限界利益-固定費 =目標利益という計算式を思い浮かべていませんか。ビジネスの流れと計算の流れは、異なることが多いので注意しましょう。 ■次期の利益計画(予算)の流れ 経営戦略が策定され、それに基づく設備投資や M& Aなどの投資計画があることを前提にすると、利益計画はおおむね下の図 5-3のような流れになります。なお、投資計画の採算を検討し、意思決定する方法や投資計画を加味した中期的な利益資金計画(戦略的意思決定)については、第 6章で説明していますので、参照してください。
①目標利益の決定 次期の目標利益は、トップダウンで決めるべきです。その際には、 ROA(総資産利益率)や ROE(自己資本利益率)などの収益性を表わす指標を使うと、貸借対照表との連動性が加味され理想的です。 たとえば、目標 ROA(総資産営業利益率) 5%、設備投資後の総資産 100億円とすると、 5億円(総資産 100億円 × 5%)が目標利益として決定されます。その後、目標利益 5億円を達成するための販売計画を立案するのです。
②販売計画の策定 ⇒(総合)限界利益率の決定 部門別(商品、製品、サービス、エリア、事業ドメインなどの部門を想定)の販売計画の立案を行ないます。 顧客動向、競合動向、経済動向などの外部環境、自社の生産能力、販売力などの内部環境を加味して、販売目標を決めていきます。 たとえば、各製品の市場規模 ×目標シェアで、大まかな売上目標が決まります。製品ごとの予定限界利益率を決めておき、それぞれの売上高の構成比(セールスミックス)が決まれば、全社の目標となる総合限界利益率が決定されます。各売上構成割合 ×各限界利益率の合計が、総合限界利益率になります。 ③固定費予算の見積り 固定費予算を見積もるということは、活動計画を立てることです。販売計画や目標利益が決まらないのに、活動計画を立てられるでしょうか。もし固定費予算が、販売計画や目標利益とは関係なく決められるとしたら、それは経営ではありません。 固定費予算は、人件費予算、販売費予算、その他固定費に分けて考えるといいでしょう。ア.人件費予算 必要人員などを考慮して人件費総額を決めますが、予定労働分配率(会社が目標とする労働分配率で、方針として経営者が決めます)を使って総額の伸びをチェックするといいでしょう。下の式を使って、最大限支払える人件費(許容人件費)を求めます。 許容人件費を上限に設定して、各部門の人件費合計をコントロールすることで、総人件費を抑えることができます。イ.販売費予算 販売費は、管理会計上、2つに分類できます。広告費や販売促進費のように売上を上げるための必要経費である売上獲得費、商品を顧客へ届ける際に必要になる物流費(人件費を除く)や外注費などの売上実行費です。売上獲得費は、変動費的なイメージがありますが、多く使ったから売上高が多くなるとは限らない(売上高と連動しない)ので、性格は固定費です。これに対して売上実行費は、売上と連動する変動費です。 販売費予算は、売上獲得費予算のことで、具体的な販促計画の裏付けが必要です。つまり、「このような販促にいくら使うから、これだけの予算が必要である」ということを具体的に示す必要があります。「販促費は売上高の何%」というような大雑把な設定は、無駄な予算を生むことになるので注意しましょう。ウ.その他固定費 減価償却費、リース料、地代家賃などの設備費は、既存設備から求めます。新規設備投資計画があるときは、そこから発生する設備費を加算します。このほか、会議費、交際費、事務用品費など金額が大きいものを優先して見積もります。細かいものは「その他」としてまとめます。すなわち金額が大きいものは個別に見積もり、細かなものは「その他」としてまとめればよいのです。
④必要売上高 ⇒可能売上高 ⇒目標売上高の決定(図 5-4) 目標利益、(総合)限界利益率、固定費予算が決まれば、必要売上高が計算できます。ここで注意すべきことは、算出された必要売上高が、実現可能かどうかを検討する必要がある点です。 必要売上高が 100億円なのに、市場規模 1, 000億円で目標シェア 7%なら、 70億円が可能売上高です。すると必要売上高 100億円は、可能売上高 70億円の 1. 43倍となり、実現可能性に問題がありますので、再検討が必要です。
そこで、固定費予算、販売計画(限界利益率)を見直し、必要売上高を可能売上高より小さくする必要があります。または、可能売上高をアップする策を考える必要があります。
なお、このような状況では、目標利益を下げることを考えがちですが、実際には、目標利益は成長戦略に基づいてトップダウンで決めているので、簡単に変更することはできないと思います。 現実的には、販売計画と固定費予算を見直しても、必要売上高が可能売上高を下回らない場合、目標利益を下げる必要があります。この結果、 ROAや ROEの見直し、すなわち戦略の見直しが必要になるでしょう。 以上のようなシミュレーションを通じて、可能売上高 ≧目標売上高 ≧必要売上高の範囲で、目標売上高を決めましょう。 なお、目標売上高が必要売上高より大きいときは、最終的に固定費予算で調整せざるを得ません。目標利益、限界利益率での調整も考えられますが、これらは安易に変更すべきではないからです。 ⑤仕入予算の決定 仕入予算とは、製造業では、材料費、外注加工費、物流費(売上実行費)の予算、流通業では、商品売上原価、業務委託費などの予算を意味します。すなわち変動費予算のことです。変動費予算は、以下のように決定します。 結局は、仕入計画(変動費予算)は、販売計画によって制約されることになります。以上が、短期の利益計画の代表的な流れです。それでは、当初の問題の解答を考えてみましょう。 ■利益計画とマネジメントの流れは連動する さて、下が並べ替えの解答例です。 流れの下に示したのは、関係の深いキーワードで、マネジメントの流れでもあります。マネジメントの流れと利益計画の流れは連動している、または連動させて考える必要があることを理解してください。 一連の流れは、経営企画室など経営トップにおいて全社の利益計画の基本方針を決定する場合に最適です。もちろん営業所などでの利益計画を策定するケースでも適用できます。 この例は利益計画の1つのモデルケースですから、実際に適用するときは、この流れを参考にして、修正しながら活用してください。
●実践コラム 業績管理の5つのステップ 管理会計は、意思決定に必要な情報を提供します。その情報は業績管理の内容によって異なります。業績管理の内容は、企業の成長に伴って、5つのステップがあります。管理会計を利用するには、ステップごとの課題をクリアーしていく必要があります。下の図は、ステップの特徴を、管理レベル、経営課題、重点計数目標、キーワードという切り口でまとめています。創業した企業が、成長に応じて直面する業績管理上の経営課題と一致します。 みなさんの会社が、どのステップにあるかを認識し、各ステップの課題をクリアーするにはどうすべきかを考える参考にしてください。
ステップ 1は、財務会計のデータ(過去データ)をきちんと作成できる経理体制固めの段階です。管理会計を行なうには、財務会計のデータが必要です。商品や顧客ごとの売上高と限界利益(粗利益)(率)については、日々データがわかるくらいのスピードが必要です。 もう1つの課題は、資金管理です。資金が回らないと倒産してしまうからです。特に得意先別売上債権、仕入先別買入債務の管理が重要です。在庫はなかなかチェックできないのですが、販売機会損失を減少させるために必要です。会計事務所などの指導を仰ぎ、第 1ステップの課題を数年でクリアーするようにしましょう。 ステップ 2は、管理会計をはじめて導入する段階です。全社レベルで、月次決算ができることが目標です。月次決算では、毎月の変動損益計算書を作成し、それと連動した貸借対照表を作成します。月次の業績がタイムリーにわかれば、年間
年間ベースの利益計画を立案して、予算管理を行なう基礎ができます。業績としては、本業の儲けである営業利益を重視し、キャッシュフローは、本業の活動で生まれた営業キャッシュフローを重視します。 月次決算はスピードが命です。会計事務所から前月分の決算書が 1か月ぐらい遅れて提供されるケースもありますが、これでは業績管理ができません。この段階では、自社で財務データの集計ができる体制(自計化)が必要です。これができるか否かが、第 2ステップの関門です。 ステップ 3は、部門別の業績管理を行なう段階です。部門とは、営業所のように、責任者が管理する単位のことです。支店や営業所が複数ある企業の課題です。ステップ 1・ 2の段階にある企業では、社長以外に会社を引っ張る人材が見当たらず、社長に意思決定が集中しているところが多いようです。そこからステップ 3に移行するには、次の3つの課題をクリアする必要があります。 1つ目は、人材の育成です。人材育成は、ステップ 1・ 2の段階でも必要ですが、ステップ 3では、部門を任せられる人材(経営幹部)がいることが必要です。会社の組織をどのように作るのかという組織化が、企業の今後の成長を左右する段階にあるからです。 2つ目は、部門別業績のタイムリーな把握と部門業績の従業員への公開です。組織化とは、人を活用する仕組みです。人の活用のためには、部門成果の把握とそれを評価する仕組みが必要です。 業績の従業員への公開は、中小企業が中堅企業への脱皮ができるかどうかの分かれ道です。従業員の協力・貢献なくして、ステップ 4以上へのレベルアップは難しいでしょう。 3つ目は、成果配分という考え方の導入です。成果を何で評価し、どう分配するかというルールが必要です。第 5章で取り上げた、付加価値の分配という課題です。労働分配率(人件費 ÷限界利益)、資本分配率(利益 ÷限界利益)などの目標設定が必要になります。 ステップ 3の課題を抱えながら、月次決算のスピードアップができない企業は多くあります。このような企業では、企業の成長に人の評価、人材育成が追いついていません。部門管理を整える前に、ステップ 2の課題に戻ることが必要です。 ステップ 4は、次期の利益計画や資金計画を導入する段階です。第 5章で取り上げたようなテーマを検討できるデータが揃い、予算策定を行ない、月次で予算と実績を比較して問題点を把握します。もちろん、部門単位で利益計画を立てます。さらに第 6章で説明するような予想キャッシュフローを加えた資金計画も同時に行なう必要があります。 このステップでは、幹部社員が育っているはずです。予算管理とは、部門責任者が業績達成に責任を持つということです。そのために、従業員を計画策定に参加させ、経営の勘を養成します。その結果、従業員が付加価値を高めることの本質を理解し、会社が成長できる基盤ができあがります。 ステップ 5は、さらなる成長のために戦略投資を行なう段階です。新市場参入、新製品開発、多角化などの新たな成長戦略が経営課題になるでしょう。 3年から 5年の中期計画の策定と次期利益・資金計画を組み合わせた業績管理が行なわれます。 創業経営者 1人では、これ以上の成長・発展は難しい段階です。ここへ来て、後継者の育成を怠っていたことに気付くことも多いでしょう。早い段階でこの問題を意識する必要があるのです。なおステップ 5は、第 6章の戦略的意思決定の内容と関連しています。ぜひ読んでください。 成長できる企業とは、業績管理の5つのステップの課題を認識しながら、経営体制をレベルアップしていくことができる企業です。
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