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第 2章 「フェルミ推定」とは何か

目次

□フェルミ推定 =地頭力を鍛えるツール

前章で「考える力」としての地頭力について、その定義や重要性、構成要素について説明した。

本章ではその地頭力を鍛えるための強力なツールとして「フェルミ推定」を紹介する。

コンサルティング会社の面接試験で出題されることで一部の関係者ではよく知られたものであったが、これが「フェルミ推定」と呼ばれることや、その由来についてはコンサルタントの間でもあまり知られていなかった。

ここではその定義、背景、有用性等について説明する。

■東京都内に信号機は何基あるか?

「東京都内に信号機は何基あるか?」「世界中にサッカーボールはいくつあるか?」といった、把握することが難しく、ある意味荒唐無稽とも思える数量について何らかの推定ロジックによって短時間で概数を求める方法をフェルミ推定という。

「原子力の父」として知られるノーベル賞物理学者エンリコ・フェルミ(一九〇一─一九五四)が、自身こうした物理量の推定に長けていたとともに教鞭を取ったシカゴ大学の講義で学生にこのような課題を与えたことから、彼の名前を取ってフェルミ推定と呼ばれる。

エンリコ・フェルミは一九〇一年にローマで生まれ、二十代半ばにしてローマ大学の理論物理学の教授に就任した。

一九三八年に中性子の研究に関する業績でノーベル物理学賞を受賞し、その授賞式後に戦時下のイタリアからアメリカに亡命した。

その後シカゴ大学で教鞭を取るとともに一九四二年に世界で初めての原子炉の開発に成功し、最後はアメリカで没した。

死の床でも点滴の落ちる間隔を測定して流速を計算していたという逸話が残っている。

物理学者としてのフェルミの業績からその名を冠したものに原子番号 100番の元素「フェルミウム」や「フェルミオン」(電子、陽子、中性子等の粒子の総称)があり、また 10のマイナス 15乗メートルは 1フェルミ( 1 f)という単位になっている(ちなみにこの長さは日本のノーベル賞物理学者湯川秀樹博士の名前を冠して 1ユカワ( 1 Y)とも呼ばれる)。

フェルミは理論と実験との両方に優れた業績で二十世紀を代表する天才物理学者として名を残すとともに、教育者としても優れ、後に彼の弟子の中から多くのノーベル賞受賞者が出た。

フェルミ自身がシカゴ大学の学生に出したことで知られるのが「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」という質問で、フェルミ推定の「古典」として有名である。

フェルミ推定に関連して、フェルミ自身についてのいくつかのエピソードがある。

その代表が米国移住後に参画したマンハッタン計画におけるもので、世界最初の核実験が行われた一九四五年七月、ニューメキシコ州アラモゴードの砂漠の中のベースキャンプにいたフェルミは、あらかじめ用意していたノートをちぎった紙片を、爆発を感じると同時に部屋に自由落下させて、爆発の衝撃波で飛ばされたその紙の挙動から、実験に用いられた核爆弾の爆発力の規模を推定して、後に実際の規模との比較における正確さから彼の概略計算能力が同僚を驚かせたというものである。

■フェルミパラドックス

もう一つフェルミの名前がついたエピソードとして有名なのが「フェルミパラドックス」である。

これは地球外文明(生物)の存在の有無についてのもので、 ・宇宙の広さや星の数、歴史の長さを考えて地球外文明( Extra Terrestrial Civilization:以下 E T C)が存在しない方が不自然である ・しかし地球上ではこれまでに ETCは正式には目撃されていないというパラドックスである。

フェルミはお遊びで同僚たちにこの話題をしばしば持ちかけて、「みんなどこにいるんだろうね?」という質問をしたという逸話が残っており、このパラドックスは「フェルミパラドックス」と呼ばれる。

この ETCの存在確率に関しては典型的なフェルミ推定が応用可能な課題である。

ちなみにその一例として「フェルミ推定」を用いて天文学者のドレイクが導き出した以下の計算式は「ドレイクの公式」と呼ばれてよく知られている。

ドレイクの公式: N = R × fp × ne × fl × fi × fc × L N:銀河系にある通信する ETCの数 R:銀河系で 1年に星が生まれる率 fp:惑星を持つ恒星の割合 ne:惑星を伴う恒星のうち、生命が維持できる環境を持つ惑星の数 fl:生命が維持できる惑星のうち、実際に生命が育つ割合 fi:その惑星のうち、生命が知的能力を発達させる割合 fc:そのうち、恒星間通信ができる文化が発達する割合 L:そのような文化が通信を行う期間の長さ フェルミパラドックスに関しては、スティーヴン・ウェッブによる著書『広い宇宙に地球人しか見当たらない 50の理由』(青土社)に詳しく、おそらく「フェルミ推定」という言葉が日本で初めて公式な場に登場したのは二〇〇四年に出版されたこの本の翻訳版においてである。

■「オーダー・オブ・マグニチュード」であたりをつける

これらの逸話に代表されるように、フェルミは物理の予備計算に相当するような桁数を推定する能力に非常に長けていたようである。

フェルミ推定は別名「バック・オブ・エンベロープ」( Back of Envelope:封筒の裏)の計算とも呼ばれる。

ちょっとした身近な概数計算をまさに身近にある「封筒の裏で」簡単に算出してみるといったニュアンスで用いられている(日本人的に言うと「割りばしの袋の裏で」といった感覚だろうか)。

ここでは正確な数値を予測するというよりはむしろ、本格的な数値の算出に先立っておおよその桁数(オーダー・オブ・マグニチュード)を算出することに重きが置かれている。

日常生活に近いところでの応用範囲としては、何らかの数値を概算するための「あたり」をつけるという場面が想定される。

例えばビジネスであれば、新規事業における市場規模を算定する、あるいは情報システムやその他投資に関しての投資対効果の算出(投資側と効果側両方に適用できる)である。

当然のことながら、限られた情報でこういったつかみどころのない数値を想定するのは誤差も大きい。

しかしもともとつかみどころ

どころのない数値を扱う際に何のあたりもつけずに詳細の分析や実現性の検討等を始めるのと、はじめにある程度の数値の桁数のあたりをつけて行うのとでは分析作業の効率が格段に違ってくる。

例えばコンピュータの性能が現在ほどでなく、利用できる環境としても限られた時代にあっては、割り当てられた時間を最大限に活用するためには、解の「あたり」をつけてから詳細の計算に入ることによって格段に計算を省力化できたのである。

□どんな場面で使われているか

フェルミ推定が活用されている場面として有名なのが、コンサルティング会社や外資系企業での面接試験である。

こうした会社には、応募者の「地頭のよさ」をテストしたいニーズがあり、そのための質問としてフェルミ推定が用いられてきた。

コンサルティング会社を志望する就職活動中の学生の間では、「傾向と対策」的に模範解答を習得して面接試験に臨むことも行われており、実際にアメリカではこうした質問を集めた専用の対策本も出版されているが、その質問の裏にある問題解決手法の縮図としての本質はあまり理解されていないようである。

フェルミ推定のもう一つの側面として、欧米の学校では理科系の思考訓練の題材としてポピュラーなものとなっていて、いくつかの大学(や高校生以下向け)のウェブサイトに” Fermi Questions”あるいは” Fermi Problems”として様々な質問が掲載されている。

これらを集めてフェルミ推定の「科学オリンピック」のような競技会も毎年行われている。学生に対しての理数系のセンスを養うのに適したツールとして認識されているようである。

フェルミが大学の講義で使用したというのもまさにこの理由からであろう。

□フェルミ推定が面接試験で用いられる三つの理由

フェルミ推定が面接試験等の場で用いられてきた理由は大きく三つある。

第一に質問の内容が明快かつ身近なものであるためだ。

第二は「正解がない」(あるいはあったとしても出題者自身も知らない)ことで、解答者には純粋に考える「プロセス」が問われるためである。

同種の「地頭力」を問う質問として『ビル・ゲイツの面接試験』(ウィリアム・バウンドストーン著、青土社)にも取り上げられている有名なものに「マンホールのふたはなぜ丸い?」というのがあるが、これと比較すればフェルミ推定の特徴が明確になるであろう。

正解のある質問では、解答者が単に正解を「知っていた」のか、その場で「考えた」のかを区別する方法はないが、解答のない質問であればより明確に解答者の「考える力」を試すことができる。

最後の理由が、「簡潔でありながら問題解決の縮図である」ことである。

すなわち後述する地頭力の各構成要素のすべてを駆使する必要があり、ここにフェルミ推定の真髄がある。

先の『ビル・ゲイツの面接試験』で取り上げられている、マイクロソフトで用いられているという面接試験の質問集の中でもここまで簡潔かつ網羅的に考える力を試せる質問は他にない。

これが面接試験の質問の定番としてフェルミ推定が長年生き残っている所以である。

次章では実際に読者にフェルミ推定を体験していただき、前章で定義した地頭力との関係について解説する。

■第 2章のまとめ

つかみどころのない物理量を短時間で概算することをフェルミ推定と呼ぶ。

フェルミ推定は物理学者のフェルミが得意であったことからこう命名された。

フェルミ推定は伝統的にコンサルティング会社の採用面接の場等で「地頭力」を試すための質問として用いられてきた。

フェルミ推定は問題解決の縮図であり、簡単に作成できて内容も身近であることから、地頭力を試したり鍛えたりするためのツールとして非常に有用なものである。

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