■「結論から考える」仮説思考力/ ■「全体から考える」フレームワーク思考力/ ■「単純に考える」抽象化思考力/ ■地頭力のベース ■地頭力の判定結果について
□フェルミ推定の例題に挑戦
第 1章、第 2章で「地頭力」とは何か、「フェルミ推定」とは何か、そしてそれらがなぜ重要なのかについて解説した。
続いて本章では、フェルミ推定というツールによっていかに地頭力を鍛えるかについて具体的に解説する。
まずは読者自身で以下のフェルミ推定の例題を考えてみてほしい(この後の説明の理解度を上げるために、必ずここで問題に挑戦し、答えを出してみてほしい)。
「日本全国に電柱は何本あるか?」※解答に際してのルールは以下の三つ: ・制限時間:三分(厳守) ・電卓/ PC等は使用不可(紙と筆記具のみ) ・一切の情報の参照不可
■フェルミ推定例題の解法例
挑戦の結果はいかがだっただろうか? 以下に解法例を示すので、読者の解法と比較するとともに、表 3- 1 ★にある地頭力チェックリストで自己採点してみてほしい。
強調しておくが、この例題で試されるのは最終的に出てきた結果の正確性よりもどういう考え方で解答に至ったかの「プロセス」である。
突然このような質問をされて読者はどう考えただろうか。
よほどの専門家でない限り、この解答を「知識」として知っている人はいないだろう。
また出題者が真に期待しているのも現実の本数よりは最も正解に近づくための「算出ロジック」である。
そうなると頼りにすべきは最低限の常識と純粋な「考える力」、すなわち地頭力だけである。
アプローチ設定 どうすれば電柱の数が算出できるだろう。
家の周りの電柱のことなら少し頭に描いてみれば推定できるかもしれないが、相手は日本全土である。
大胆な仮定を置かざるを得ないだろう。
ここでは「単位面積当たりの本数を市街地と郊外(山間部も含めた市街地以外すべて:以下同様)に分けて総本数を算出する」という切り口を考える(この他にも例えば「単位世帯当たりの本数で考える」というのも妥当な切り口である)。
モデル分解 次に対象をモデル化して単純な要素に分解する。
ここで考慮すべきポイントは住宅の密集する市街地と山間部を含む郊外では電柱の密度が大きく
大きく違うことである。
各エリアの「単位面積当たりの本数」と各々の「総面積」がわかればそれらの積により総本数が算出できるであろう。
ここがこの解法の肝の部分であり、いかにうまい切り口で分解し、推測可能かつ時間内で計算できる適当な粒度に因数分解するかがポイントである。
計算実行 ここから数値の代入と計算に入っていくが、そのためには で誰でもある程度の数字の推測が可能なところまで因数分解しておくところがポイントである。
「単位面積当たりの本数」から考えてみる。
市街地の代表的な電柱配置を「五〇 m四方に一本」、郊外を「二〇〇 m四方に一本」と二つの代表値にモデル化する(例えば現実には電柱が二〇〇 mも間隔が開くことはありえないが、あくまでも面積当りの密度を概算したいのでこう仮定する)。
そうすれば一 当りの本数は四〇〇本(市街地)、二五本(郊外)となる。
次に必要なのは各々の総面積である。
これをさらに「因数分解」すると、(日本の総面積) ×(各々の占有率)となる。
まず日本の総面積、これは小学校の社会科で約三八万 と習うのでこれを覚えていればそのまま使えばよいのであるが、もし忘れている場合には知っている数値からさらに「フェルミ推定」すればよい。
例えば東京─博多間の距離が約一二〇〇 であることを知っていたとしよう(わからなければさらに新幹線の速度と所要時間等からもう一度フェルミ推定する)。
この場合に日本地図を思い浮かべて日本全土を同面積の長方形で近似した場合にどのぐらいになるかを想定し、大体一五〇〇 ×二〇〇 になったとすれば総面積は三〇万 と近似できる(この他にもモデル化による近似の仕方はいろいろと考えられるであろう)。
さらに市街地と郊外の面積比について、ここでは二割程度が市街地と想定(一般に「日本の国土の四分の三が山間部」と言われている)する。
これらの数値をもとに総本数を計算すると、図 3- 1の計算式より計三〇〇〇万本と算出できる( のプロセスはセットとなった連続的なもので、 の計算実行の中にも のモデル分解的な要素がでてくるが、ここでは計算の便宜上のモデル化は に含めるものとする)。
現実性検証 でひとまず結果が出るが、現実のデータが(部分的にでも)入手可能な場合には で計算した概算結果がどの程度現実に近いものかのチェックができる。
いわばフェルミ推定における仮説検証である。
実は電柱の本数は電力会社と NTTから数字が公開されている(図 3- 2)。
これによると合計本数は約三三〇〇万本であり、例題のフェルミ推定による算出結果がかなり「いい線」だったことがわかる(実際の電柱を街中で観察してみると、密集地では約二〇 mおきに配置されているところもあるが、市街地をおしなべて五〇 mの格子としたのは結果としては妥当であったようである)。
なお、この問題を筆者の身の回りのコンサルタント約二〇名に実施した結果は(算出方法は様々であったが)大体五〇〇万本 ~五〇〇〇万本の間に収まっていた。
あくまでもフェルミ推定で重要なのは算出プロセスであることは前述のとおりだが、目安として本問に関しては「真実」の数値と一桁以内の誤差に収まれば「合格」としておこう。
この解法を読まれて読者はどう思っただろうか。
おそらくはじめに問題を聞いたときには「途方もなく見当もつかない問題だ」と思ったに違いない(一体数万本なのか、数億本なのか……)が、少しずつ問題を冷静に「解きほぐして」いけば、常識的な知識の範囲で一桁の誤差の精度にまでは三分もあれば算出が可能なのである。
解法例では微分積分を使ったわけでもなければ専門家しか知らないような知識を使ったわけでもない。
極論すれば小学生でも「考える」ことさえ怠らなければたどり着ける解答なのである。
解答例の締めくくりとして、シャーロック・ホームズの相棒ワトソンの言葉を引用しておこう。
「推論の根拠を聞くと、いつでもばかばかしいほど簡単なので、僕にだってできそうな気がするよ。
それでいて実際は、説明を聞くまでは、何が何だかわからないのだから情けない。
眼だって君より悪くなんかないつもりなんだがねえ」 (『ボヘミアの醜聞』の冒頭部分で、久々に再会したホームズに自分の近況をぴったりと推理されたことに対して)
□フェルミ推定と地頭力との関連
■「地頭力」を構成する三つの思考力
一連のフェルミ推定のプロセスを紹介したが、前述した「地頭力」の各構成要素がこのプロセスの中で具体的にどう必要とされ、フェルミ推定によってどう鍛えられるのかを見てみよう。
図 3- 3に示すとおり、フェルミ推定のプロセスは簡潔ながら問題解決の縮図であり、地頭力を駆使する場面が随所にちりばめられている。
各要素を個別に解説して行こう。
■「結論から考える」仮説思考力
仮説思考とは、 いまある情報だけで最も可能性の高い結論(仮説)を想定し、 常にそれを最終目的地として強く意識して、 情報の精度を上げながら検証を繰り返して仮説を修正しつつ最終結論に至る思考パターンのことである。
ではフェルミ推定でいかに仮説思考を鍛えるか? ポイントは、 どんなに少ない情報からでも仮説を構築する姿勢、 前提条件を設定して先に進む力、 時間を決めてとにかく結論を出す力の三点である。
まず に関して、曖昧模糊とした対象物に対して「情報が少ないなりに結果を算出する」と強く意識することが重要であり、ここで「情報が少ないから算出は難しい」と考えたらその瞬間にゲームオーバーである。
例題でいうと「アプローチ設定」のプロセスにこの能力が必要になる。
おそらく読者はこの電柱の例題を解いていく中で日本の総面積や世帯数といった情報が必要だと思ったであろう。
でも使える情報は「頭の中にあるもの」だけである。
こんな場合に仮説思考では「とにかくいまある情報で仮説を立てる」ことが必要になる。
追加情報を収集するにしても「この情報があれば結果が出るはず」という仮説ありきで情報収集を開始すべきである。
この発想を持っていない人に仮説思考の概念を説明し、体感し、納得してもらうのは実は非常に難しいのだが、これを具体的なイメージとして伝えるための手法としては筆者の経験からフェルミ推定が最も有効である。
次のキーワードは「前提条件の設定」である。
使える情報が限られた場面では「先に進むために前提条件を決める」能力が必要になってくる。
読者は解答に際して「電柱の定義はどこまでか?」等といった問題の定義に関する疑問にぶつかったに違いないが、ここであれこれ悩みだしたらあっという間に時間切れである(例えば対話式の面接試験においては適切な質問をしながら前提条件を決めていくのも正しい考え方であるが、ここでのゲームのルールは制限時間内かつ与えられた条件だけで答えを出すことであるから何らかの前提条件を置いて前に進むのが正しい姿勢である)。
第三に習得すべき概念は、時間を区切って何が何でも答えを出す「タイムボックス」の考え方である。
仮説思考では「スピード重視」である。
■「全体から考える」フレームワーク思考力 フレームワーク思考は大きく「対象とする課題の全体像を高所から俯瞰する全体俯瞰力(ビッグピクチャーシンキング)」と、「とらえた全体像を最適の切り口で切断し、断面をさらに分解する分解力」とで構成される(図 3- 4)。
さらにこの「分解力」は大きく「分類」(足し算の分解:狭義のフレームワーク)と「因数分解」(掛け算の分解)とに分けられる。
フレームワークというと経営分析に出てくる 3 Cやマーケティングの 4 Pといったものを思い浮かべる読者が多いかと思うが、それらはフレームワーク思考の観点からはあくまでも「ツール」であり、ここでは「フレームワークを活用してものごとを考える」という広義でとらえておく。
ではフレームワーク思考力はフェルミ推定でどう鍛えることができるのか。
フェルミ推定のプロセスの「アプローチ設定」から「モデル分解」に至るまでのプロセスはフレームワーク思考そのものである。
ここでのポイントは大きく五点あり、 全体 →部分への視点移動、 切断の「切り口」の選択、 分類(足し算の分解)、 因数分解(掛け算の分解)、 ボトルネック思考である。
これらは、図 3- 4のプロセスとほぼ一対一に対応する。
まず 視点移動に関して、全体俯瞰ができるようになると、はじめに全体像をとらえた後で部分像へ「ズームイン」の視点移動で考えるが、「視点の低い」人はまず身の回りのこと、あるいは「とっつきやすい」ところから入って全体に広げていく「ズームアウト」的な視点の移動をとる。
例えば電柱の問題について、全体俯瞰力のある人はまず全国にある電柱を市街地/郊外で見るといった全体の把握から始めるが、これが苦手な人はいきなり自分の近所、あるいは慣れ親しんだエリアのみから具体的な計算に取り掛かる。
本来ははじめに自分の知っている地域は「全体の中で」どういう位置づけか(市街地か郊外か等)を決めてからこうした計算に入っていくのが全体俯瞰の視点である。
次が 「切断の切り口」の選択である。
例えば電柱本数の算出にはいくつかの仮説が立てられ、地理的観点のアプローチ(面積当たりの本数、あるサイズの格子当たりの本数)と、電力・通信機能供給観点のアプローチ(世帯当たりの電柱本数)といった切り口が考えられる。
これらの切り口のオプションを複数出し、その後利用できる情報の確からしさや切り口の妥当性によって最適なものを選択していく「オプション思考」の考え方が必要である。
続いて 分類(足し算の分解)について、全体をもれなくダブりなく適切なセグメントに分けることが求められる。
狭義の「フレームワーク発想」ともいえ、これを効率的に行うためのツールが 3 Cや 4 P等のフレームワークである。
次に各セグメントを 因数分解(掛け算の分解)する。
ここでは電柱の例のように、複雑な全体像をいかに取り扱いやすいサブ要素に展開できるかという力が必要とされる。
最後が ボトルネック思考である。
の因数分解ではボトルネックとなる因数の精度に全体の精度が制約されることを考えれば、例えばこの事例である要素だけ詳細に計算できるからといって、有効数字を三桁以上算出することに意味のないことは明白であろう。
計算しやすいところだけ詳細に計算しても意味はないのである。
■「単純に考える」抽象化思考力 抽象化思考力とは 対象の最大の特徴を抽出して「単純化」「モデル化」した後に 抽象レベルで一般解を導き出して、 それを再び具体化して個別解を導くという三ステップによる思考パターンのことである(図 3- 5)。
ではフェルミ推定をどうやって活用し、抽象化思考力を鍛えるか? キーワードは三つで、 モデル化、 枝葉の切り捨て、 アナロジー(類推:ある事象を類似のものから説明すること)である。
そもそもフェルミ推定自身が「一見つかみどころがない事象を単純化して計算を容易にし、概数を算出する」という抽象化思考そのものである。
例えば電柱の問題では、図 3- 6のように日本列島や電柱配置をモデル化、単純化して考える発想が必要となる。
また同じ特徴を有する既存の知識やロジックを適用できないかという「アナロジー」を活用する発想もこの抽象化思考の応用である(例えば、たまたま今朝の新聞で目にした全国の郵便ポスト数との比較で推定できないか……とか)。
次に「いかに枝葉を切り捨てられるか」という発想も重要である。
抽象化思考を苦手とする解答者の典型的な反応として、いろいろなパターンを考えすぎて時間切れになってしまう状況が挙げられる。
電柱の事例で言えば電柱の用途や世帯の種類等を分類しすぎてしまうことである。
当然最後の精度を上げるためであれば属性ごとにセグメントを分類して考えることは重要であるが、算出していること自体が相当な概算であるので、一部だけを詳細化したところで最終結果は一番不確かな情報量のところがボトルネックになりほとんど意味がないのは少し考えればわかるはずである。
「情報が少なすぎる」と結論が出しにくいのは仮説思考力の項で述べたとおりだが、同様に「情報がありすぎる」のも結論を出すのに邪魔になるというフェルミ推定のジレンマである。
面白いことに解答者の専門分野でフェルミ推定をすると、ああでもないこうでもないと瑣末な話になって一向に結論が出ない傾向にある。
■地頭力のベース 実はフェルミ推定に一番求められるのは問題解決に対しての好奇心かもしれない。
フェルミ推定の問いかけに対しての解答者の反応は大きく二とおりに分けられる。
「目を輝かせて」乗ってくるタイプと何やら難しそうだと当惑して眉をひそめてしまう、あるいははじめからわかるわけがないとあきらめてしまうタイプである。
筆者の経験上、実際にやってみると、この解答者の「目の輝き」(ファイティングポーズと言ってもよい)と地頭力はほぼ比例する傾向があるのは興味深い。
すぐに知識に頼ろうとする「 Z軸(知識・記憶力)型」の人は途中で情報がわからないとすぐにギブアップ、あるいは「この情報があれば……」という言い訳が多く、わからない情報を次々と推定していく姿勢が見られない。
また Z軸が勝る人の典型的な反応は、背後のロジックより結果としての「解」にこだわると同時に間違った解を出すことにとても臆病であるということである。
このタイプの人が多いのは、我が国の教育が従来「知識の詰め込み」つまり Z軸型の人を養成することに主眼が置かれてきたことと無縁ではなかろう。
フェルミ推定の解答の根本には論理思考力がある。
ここでは、誰に対しても合理的に話がつながっているということが算出ストーリーとして要求される。
特に他人に対して自分の推定根拠を簡潔かつ論理的に説明してみるのがいい訓練になる。
最後に直観力に関してだが、フェルミ推定は必ずしも論理的に考えるだけでは解答の切り口等は見つけることはできず、ひらめきや直観という要素が必要になってくる。
またある程度フェルミ推定の数をこなすことによって適切な仮説や切り口のオプションを考えるスピードが速くなってくるため、こうした簡単な訓練の繰り返しにより、実際にはより複雑なビジネスへの応用力を上げることも可能になる。
□あなたの地頭力を判定する
ここまでの地頭力の説明のまとめとして、読者の現状の「地頭力」を表 3- 1のチェックリストで確認してみてほしい。
Q 1 ~ Q 10までの質問に対する自分の反応が「 A」、「 B」のいずれだったかチェックしていただき、「 A」を各 1点、「 B」を各 0点として、合計点を出してもらおう。
判定結果は以下のとおりだ。
8 ~ 10点:地頭力 A級 4 ~ 7点:地頭力 B級 0 ~ 3点:地頭力 C級 これらの設問の各々の意図を解説しよう。
問 1:問題を見たときの反応はどうでしたか? これは知的好奇心、特に問題解決に対しての好奇心を試している。
パズルを解くのが好きなタイプの人はほぼ間違いなくこの「電柱」の問題に高い興味を示して目を輝かせるはずである。
一方で問題解決への意識の低い人はこの問題に対してすぐにあきらめるか、困惑することになるだろう。
問 2:解答の可否はどうでしたか? 「タイムボックス」で答えを出せるかという仮説思考力を試している。
締め切り時間から逆算してできることをはかりながら計算するという思考回路を持っていないと、「一生懸命計算しているうちにいつの間にかタイムアップ」という結果になったはずである。
途中でギブアップした、あるいははじめからファイティングポーズすらとらなかったというのは論外である。
問 3:前提条件不足へはどう対処しましたか? 少ない前提条件をどうやって処理したかを試す設問である。
どこまでを電柱というのか、電力用だけなのか、通信用も含めるのか等々細かいことを気にしだしたら三分間などすぐにたってしまう。
あまり瑣末なことを気にせずに、「常識的に普通の人が電柱と思うのはこの辺りであろう」というのを早めに割り切ることが必要である。
専門家であるほどひっかかるのがこの項目である。
事情をよく知っていればいるほど「 ○ ○とはどこまでを言うのか」的な細かい定義を決めたがるのが人情であるが、実はその定義の違いは大勢にはほとんど影響しないことの方が多い(特に桁数レベルにはほとんど影響ない)。
あるいは専門家であっても、一般人が考える ○ ○とはどこまでか? とか、 △ △が目的と仮定すれば……等という前提条件を設定してさっさと先に進むのが正しいアプローチである。
問 4:基礎データの不足にはどう対処しましたか? どんなに少ない情報でも仮説を設定できたか? という仮説思考力を問う設問である。
考える姿勢の強さ、裏を返せば情報への非依存度が問われている。
まずこの問題そのものに対してギブアップしてしまわなかっただろうか? 突然日本全国の電柱の数はと聞かれて、インターネットという絶対の武器を取り上げられた「ネット検索中毒」の人は手も足も出なかったに違いない。
あるいは、「せめて △ △の情報があれば……」とあくまでも情報を頼りにする姿勢を崩さなかったのではないだろうか。
問 5:「モデル分解」のオプションはいくつ考えましたか?
フレームワーク思考における「切り口の選択」の力を問う設問である。
全体俯瞰(この場合には全国の電柱)をした後にどういう「切り口」で全体本数を算出するかという選択肢(オプション)を考える力が必要になる。
例えばこの問題の場合、大きく電柱あるいは電線の用途から考える方法(各世帯数から世帯当たりの電柱本数を考える)と地理的な配置から考える方法(単位面積当たりの電柱本数を考える)が考えられ、地理的な配置の考え方でもエリアを一律で算出するとか、都会と山間部で分けるか等の基本的なアプローチがある。
瞬時にこれを複数考えてどれが最終的に計算しやすく精度の高い結果が得られるかを判断する能力が必要になる。
問 6:課題着手の順序はどうしましたか? フレームワーク思考における「視点の高さ」を問う設問である。
要は自分の身の回りから「ズームアウト」で考えたか、上空の視点から「ズームイン」で考えたかということである。
視点の低い考え方をする人というのは、例えば家の近くの電柱の状況を頭に思い浮かべて算出してしまってからそれを日本全体に「外挿」していこうという発想をとる。
つまり、算出すべきことから考えるのではなく、算出できることから考えるという自分中心の視点が抜けていないとこうした発想になってしまうのである。
問 7:「因数分解」の粒度はどうでしたか? 枝葉末節にこだわっていないかという、「抽象化思考」の確認とともにボトルネックの考え方ができるかという「フレームワーク思考」を確認する設問である。
「因数が一〇個」というのは一つの目安であるが、要は計算時間を考慮した場合に必要以上に細かく分けていないか? それも全体のバランスを考慮した上で自分がわかる部分だけ詳細にブレークダウンしていないか? といったことが問われる。
例えば世帯当たりの電柱本数を算出するというアプローチを取った場合に、世帯数を計算するのに法人用建物と個人用建物、さらにそれを戸建てと集合住宅ぐらいに分けるのはよいが、集合住宅をマンション・アパート・寮とか、さらにそれを用途別に分けるといったことはやろうと思えばいくらでもできるが、最終結果へのインパクトを考えればあまり意味はないだろう。
問 8:出した解答の有効数字は何桁でしたか? フレームワーク思考で述べた「ボトルネック」の考え方ができるかどうかである。
わかるところだけ詳細に計算した有効数字をそのまま使って必要以上に細かい計算結果になってはいなかっただろうか。
解答例の中でも述べたように全体の精度を考慮すれば、有効数字三桁以上の答えにほとんど意味はないだろう。
問 9:解答し終わっての感想はいかがでしたか? 考えることへの志向が強いか、情報や知識への志向が強いかを試す設問である。
知識志向の強い人はこれが正解に近かったかどうか、非常識な結果でなかったかを非常に気にする(ネット検索中毒の人はおそらく検索エンジンを使いたくてうずうずしていることだろう)。
これに対して考える志向の強い人というのは、自分のとった「アプローチ」に関してさらにいいものがなかったかというのを気にするのである。
また考えるタイプの人は自動的に同じような問題をやってみようという意識が出てくるのが特徴である(同じように考えたら郵便ポストはどうやって計算すればよいだろうとか)。
問 10:解答結果はいかがでしたか? 算出結果が「真実」の値にどれだけ近かったかを問う設問である。
繰り返し述べたようにフェルミ推定の意図は真実に近い値を出すことが目的ではないが、当然最善のプロセスで推定したほうが結果が真実に近づくということは間違いないだろう。
その意味での結果の正しさである。
第 2章のフェルミ推定の解説で述べた「科学オリンピック」では正解のはっきりしている課題を与えてそれに対しての近さで採点するという形式をとっているものもあるが、ここではあくまでも精緻さは二の次ということで、全体における配点も単に一〇問のうちの一問という位置づけにとどめた。
本問についての「正解」のレンジはかなり広めにとった。
上限の「三億本」というのは少し行き過ぎ(国民一人当たり電柱二本以上というのは感覚的にはかなりはずれるかもしれない)という考え方もあるかもしれないが、あくまでも真実の値からプラス・マイナス一桁という基準で線引きをしてみた。
■地頭力の判定結果について
さて、読者の判定結果はいかがだったであろうか? もちろんこの結果は厳密な定義に基づいたものではないが、地頭力が高いというのは具体的にどういう思考パターンであるというイメージについてはご理解いただけたと思う。
もし得点が低かった方については、この結果があなたの現状の「考え方の癖」であるので、これらを改善すべく自分の弱点を認識した上で地頭力を鍛えていただきたい。
また、今回の問題をクリアされた方に関しても、実はこの例題を解くというのはいわば基本動作の習得だけ(単に「素振り」がきれいにできる)であって、実戦での応用が必要であることを肝に銘じた上で、本書を参考にして地頭力のより実戦レベルでの強化を図っていただきたい。
フェルミ推定の問題を単なる表面的なレベルで理解することで、こんなものかと安心してしまってそこで終わってしまっている人が多いのは非常に残念なことである。
問題解決の縮図としてのフェルミ推定の真の効果が発揮されるのはこれからなのである。
そこで次章では、フェルミ推定の中で出てきた問題解決に関する「基本動作」を実際のビジネスに適用するのがいかに難しいか、あるいは日々の複雑な業務の中でいかに我々が基本を忘れてしまっているかをケーススタディでご覧いただくこととする。
■第 3章のまとめ
「日本全国に電柱は何本あるか?」という例題でフェルミ推定を体験していただいた。
解答のポイントは結果の精緻性ではなく、解答に至るまでの思考プロセスである。
フェルミ推定の解答プロセスは問題解決一般のプロセスの縮図そのものであり、その中で第 1章で定義した「地頭力」の構成要素である「三つの思考力」(「結論から」「全体から」「単純に」考える)を駆使する必要がある。
地頭力のチェックリストによって現状の自分の考え方の癖を知り、今後のトレーニングに生かしていく必要がある。
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