脳コラム ③ 脳は大きい方がいいのか?
伝達系脳番地「伝達」とは、言葉による伝達だけを意味するわけではありません。
紙に文字を書く、手を使ってジェスチャーをするなど、誰かに何かを伝えたいときに用いられる、あらゆる行為が伝達系脳番地の守備範囲です。
伝達系脳番地は言葉で伝える言語系と、図形や映像などで伝える非言語系の 2種類に大きく分けられます。
これまで述べてきたように、言語の使用は左脳に依存しているため、言葉を使って伝える場合には左脳の伝達系脳番地が、非言語の場合は右脳の伝達系脳番地が使われます。
つまり、左脳側の番地が発達している人ほど、「話し上手」ということです。また、伝達系脳番地と、その後方にある理解系脳番地や聴覚系脳番地は、非常に深い関係にあります。
人は聴覚系脳番地を通して物音や相手の話を聞き、うなずいたりあいづちを打ったりしながら理解系脳番地で理解を深めますが、この作業によって得られた情報が伝達系脳番地に送られ、「伝達」の材料となるのです。
ところで、どんなに話好きな人でも、ずっとしゃべりっぱなしだと疲れてくるでしょう。そういうときには意図的に聞く側に回ってみるといいかもしれません。
役割を交代することで、伝達系脳番地から聴覚系脳番地に意識をシフトすることができ、相手の話がすんなり入ってくるようになるからです。
伝達系脳番地が発達しやすい職業としては、営業・販売の仕事に従事する人や司会者、面白いところでは僧侶や牧師などが挙げられます。
いずれも、自分の言いたいことを正確に理解してもらわなければならない仕事ですから、自然と伝達系脳番地が強くなるのでしょう。
17創作料理をつくってみる
「伝達」という言葉を聞くと、たいていの人は「話す」ことをイメージするのではないでしょうか。
もちろんそれ自体は間違いではありませんが、言葉による伝達だけがコミュニケーションではありません。身振り手振りで自分の意思を伝えることもあれば、相手の目を見て意思表示をするケースもあります。
コミュニケーションは、多くの言葉以外の要素を含みながら成立しているのです。こうした伝達力を育てるべく、脳内には伝達系脳番地が存在します。
この番地を重点的に鍛えることで、相手の気持ちをきちんとくみ取りながら話したり、人前でのスピーチを難なくこなせるようになるのです。
では、伝達系脳番地を発達させるには、どんな訓練が必要なのでしょう。
「口下手を何とかしたい」「自分の意見をちゃんと相手に伝えたい」と悩んでいる人がいれば、私はまず、誰かのために創作料理をつくってみることをすすめています。
「なぜ、創作料理が伝達力と関係あるのか」と疑問に思われるかもしれませんが、これにはちゃんとした理由があるのです。
初めてつくる料理は、どんなふうにできあがるか想像もつかないものです。しかし、それでも失敗した料理をそのまま出すわけにはいきません。
ですから、ほとんどの人が、「どう調理すればおいしくなるかな」「あの人はきっとこういう味付けが好きに違いない」「こんなふうに盛りつけたら喜んでくれるだろう」などとあれこれ考えながら調理するでしょう。
創作料理をつくることは、すなわち相手に対して配慮をすることでもあるのです。つくった料理が好評であれば、相手との結びつきも強くなり、相手の心に深く入っていくことができます。
創作料理は、いわば最高のコミュニケーション・ツール。相手をどう思い、どう対応したのか、しゃべらなくても伝えることができるのです。
このとき、料理が自分と相手を「結びつける」という考え方が生まれます。実はこの「結びつける」という考え方こそ、伝達系脳番地を刺激する発想なのです。
料理で相手をもてなすために思いを巡らすことは、問題解決の手順を筋道立てて考えること。一方、相手に自分の意思を伝達するのも、筋道立てた考えを言葉に置き換える作業です。
したがって、料理をつくることは論理的な思考を鍛える訓練にもなるのです。
18団体競技のスポーツに参加する
サッカーや野球、バレーボールといったチームスポーツは、必ずしも個人のテクニックの優劣だけで勝利できるものではありません。
たとえばサッカーの場合、チームメイトの望まない場所にパスを出しても、いとも簡単に相手チームにボールを取られてしまいます。
パスをつなげてゴールに結びつけたいなら、今置かれている状況を瞬時に理解し、味方の望む場所にパスを出すことが不可欠です。
コミュニケーションについても同じことが言えるでしょう。
伝達力の高い人ほど、話の流れを瞬時に把握し、相手が理解できるような言葉を正しく伝える能力を持っています。しかも、会話のときばかりでなく、手紙やメールを書くときや、料理をつくるとき、誰かにプレゼントを贈るときにもこの能力を発揮するのです。
このように、団体競技とコミュニケーションには大きな共通点があります。したがって、サッカーや野球などをプレーすると、おのずと伝達系脳番地が鍛えられるのです。
また、団体競技に参加すると、状況の変化に柔軟に対応する力を養うことができます。これも伝達系脳番地を鍛えるための重要な要素。
サッカーでは試合中に目まぐるしくポジションチェンジが行われますし、野球も打順や守備のポジションが変わると、自分に求められる役割が大きく変化します。
キャプテンに選ばれればチームをまとめる統率力が必要とされますし、控えに回って試合に出られなかったとしても、味方を鼓舞するなどさまざまな役割が要求されます。
状況の変化に応じて柔軟に対応できる人は、間違いなくチームに不可欠な人材になるはずです。これはスポーツに限ったことではなく、仕事に置き換えても同じこと。
「上司に指示される立場だったが、突然部下を持つことになり、リーダーシップを発揮しなければならない」「急な配置転換で仕事の内容そのものが大きく変わった」など、状況の変化に応じて自分の立場は日々変化していきます。
このような状況変化に適応し、それに応じたコミュニケーションを取れるかどうかで、仕事の成果やその人への評価はまったく違うものになるでしょう。
19相手の話に 3秒間の「間」を空けて応じる
以前、人間の脳はどれだけ「待てる」のかという実験を行ったことがあります。被験者に図 Aを見せたうえで、「続いて図 Bが出ます。それまで図 Aをよく見て覚えてください。後でどんな図だったか説明してもらいます」と指示しました。
「次の図が出る」と指示されていますから、この人の脳は待機しています。その間、脳はずっと酸素を使って働いている状態です。そこで、図 Bが出るまでの時間を少しずつ長くしていき、脳がどのように働くかを調べました。
この実験から、人間の脳は、最大でも 6秒ほどしか待てないことがわかったのです。脳は図 Aが出た後 6秒間は休むことなく働き続けますが、それ以上の時間が超過すると働きが鈍くなってしまいます。
つまり、人間の脳がひとつの情報を継続して処理できるのは 5 ~ 6秒が限界だということでしょう。私は、このことを伝達系脳番地のトレーニングに応用しようと考えました。
人と会話をする際に、相手の話に対して意図的に「間」を置くようにするのです。もっとも、会話で 5 ~ 6秒の間が空くのは長すぎますから、 3秒程度の間を置けば十分です。
3秒の間を置いて話すと、自分のコメントに対する相手の反応に違いが生まれることに気づくはずです。
同意を求めてきているのに、 3秒空けて「……そうだね」と答えれば、相手は「あれ? おかしいな」と不安になるでしょう。
また、意見の相違から口ゲンカになったときには、あえて 3秒の間を置くことで、怒りが収まることもあります。これには理由があります。口ゲンカではお互いが相手の言葉をさえぎり、発言を断ち切ってしまいますが、それではお互いに適切な伝達ができません。
そこで、一呼吸できる間をつくることで、意見を言い合える状況ができ、相互理解が深まるのです。こうした違和感や感情の変化は、「 3秒の間を置く」という特別な状況をつくらない限り、通常はあまり気づかないものです。
しかし、このようにわずかな時間差を意識するだけで、「相手の顔色が変わってきたから言葉を変えてみよう」などと変化に敏感になるため、結果的に伝達系脳番地の働きを大きく向上させられるのです。
20選択肢を3つ考えながら話をする
今、目の前に口下手でうまく言葉を伝えられない人がいるとします。
そんな人に、「レポートは、いつ提出できそう?」と詰め寄っても、おどおどするばかりで明確な答えは返ってこないでしょう。
しかし、「今月中? それとも来月上旬? 下旬?」と複数の選択肢を用意すると、相手も「来月のはじめには……」と答えやすくなるものです。
このように、あらかじめ選択肢を準備して質問することは、相手を楽にするだけでなく、質問する自分自身の伝達力を向上することにもつながります。
なぜなら、選択肢を準備するためには、相手に対する分析や伝え方の工夫が不可欠であり、この作業が伝達系脳番地への刺激につながるからです。
ちなみに、ここで選択肢を「3つ」としたのは、明確な数字を示すことで脳が考えをまとめやすくなるから。脳には、「脳の『癖』を知る」でふれたように、「数字でくくると認識しやすい」という特徴があるのです。
選択肢をあえて「3つ」にすると、たとえ2つし見つからなくても、「まだ何かあるのではないか……」と考えるようになります。
選択肢をいつも3つ準備するのは、頭を使う作業かもしれません。しかしこれは、訓練すれば必ずできるようになります。
それに、この思考法をマスターすれば、冒頭の例のように誰とでも意思疎通ができるようになりますから、コミュニケーションの幅が広がるはず。このトレーニングは、仕事でも大いに役立ちます。
たとえば交渉の場面であれば、頭の中で「即決する」「内容をもっと詰める」「話がこじれそうだからやめる」と、あらかじめ3つの選択肢をつくることができるでしょう。
さらに、自分のプランを提示するときや、重要な話をするときにも、「相手にとって最悪な条件はこれ」「一番いい条件はこれ」「現実的に相手が納得する妥協点はこれ」と、相手が考えうるパターンを先読みできるようになるのです。
仕事上での伝達力をつけるためにも、選択肢を準備しながら話すことを普段の会話の中で心がけてみてください。
21自分の目標を親にメールで伝える
「自分はこれをやりたい!」という明確な目標を持つと、その目標は日常生活を送るうえで大きなモチベーションになります。
目標を本当に実現させたければ、手帳やノートに書き出すといいと言う人がいますが、それでは不十分だというのが私の意見です。目標があるならそれを明言し、大切な人に聞いてもらうことが一番。
誰かに話すことで「実現させよう」という意志が強くなりますし、価値のあるアドバイスがもらえれば、一気に実現の可能性が高くなります。
それでも「他の人に話すのは恥ずかしい」という人がいれば、自分の親(父親でも母親でも構いません)に目標を伝えてみてください。
伝える手段はメール、あるいは手紙です。親というのは最も身近な存在で、ずっと自分を見てくれていた人です。よほど常識外れな目標でない限り、真摯に聞いてくれるはず。
ただし、そこで「目標をどう説明するか」という問題が生まれます。
「なぜ、その目標を立てたのか」「どのように実現するのか」「実現するには何が必要なのか」などを、筋道立てて説明しなければいけません。
たとえば、「システムエンジニア( S E)になりたい」という目標があるとしましょう。読者の親世代で、この内容を即座に理解してくれる人はどれだけいるでしょうか。まずは、それがどんな職業かという説明から始めなければならないかもしれません。
このトレーニングは、年代の違う相手に思いを伝えるという点と、それをわかりやすく文章化するという二重の課題を要求されているところに難しさがあるのです。
22相手の口癖を探しながら話を聞く
人には、多かれ少なかれ「口癖」というものがあります。
話題を変えるときに、必ず「ちなみに」という人や、こちらが話を進めていると、「なるほど!」を連発する人、また、なかには「 ~する」と言えばいい場面で「 ~させていただく」と言ってしまう人も。そこで、人と話すときに相手の口癖を探しながら会話をしてみましょう。
「キーワードを探しながら相手の話を聞く」ことは、伝達系脳番地を鍛えるのに大きな効果があります。
伝達系脳番地は、相手に何かを伝えるときだけでなく、人から情報を得ようとするときにも刺激されるのです。
ですから、「口癖を探す」という目的を定めておくと、脳は必死にキーワードを探すようになり、その言葉が見つかると、伝達系脳番地が即座に反応するのです。
たとえば、相手が会話の中で「ちなみに」を連発していることに気づくと、そこに注意を払いながら話を聞くようになるでしょう。
そこで実際に「ちなみに」が出れば、相手がどうしても補足しておきたいことや、本音に通じる部分が語られていることがわかります。
また、口癖や気になるフレーズはひとつとは限りません。慣れてきたら複数見つけたうえで話を聞くと、その分、自分自身の伝達技術も高まります。
実は文章を読むときも、脳は同じような反応を示します。
たとえば経済・金融系の雑誌を読むとき、「マネーロンダリング」という言葉に注目しようと決めると、記事中の「マネーロンダリング」という文字が自然と目につくようになります。
さらに、新聞やインターネットなどを見ていても、「マネーロンダリング」という言葉に敏感に反応するようになるでしょう。
このように、キーワードを探しながら人や情報に接触するだけで、あなたの伝達力は確実に高くなっていくのです。
23カフェでお店の人に話しかけてみる
以前、カフェでパソコンを使っていたときに、近くに座っていた外国人に話しかけられたことがあります。
彼はパソコンの画面に映し出された脳の画像を見ながら、「面白い画像だね」と話しかけてきて、それから彼といろいろな話をするようになったのです。
私がふと「君はどこから来たの?」と聞くと、「僕はイスラエルから来たんだ。この辺りで通信関係の会社の社長をしていてね」と言います。
そんな経緯から名刺交換をすることになり、彼との付き合いはその後も続いています。
この体験から、私はカフェや喫茶店に入って、見知らぬ人に話しかけてみることで、伝達系脳番地をトレーニングできるのではないかと考えるようになりました。
とはいえ、他のお客さんにいきなり話しかけるのはさすがに勇気がいるでしょう。
そこで、お店の人に注文を伝えるときに、「このコーヒーの産地はどこですか?」「おすすめは何ですか?」と話しかけることから始めてみてはいかがでしょうか。
お店の人に話しかけることも、他のお客さんに話しかけることも、やろうと思えば誰でもできますから、非常に簡単なトレーニングです。
これがなぜ伝達系脳番地を鍛えることにつながるかと言えば、「ぶっつけ本番」のコミュニケーションだからです。
見知らぬ人に話しかけるときには相手のリアクションが読めませんし、性格や立場などその人の予備知識はまったくありません。そのため、伝達系の脳番地がフル回転するというわけです。
ちなみに私の場合、国際学会で英語のスピーチをすることで、ぶっつけ本番の伝達力をトレーニングしていました。
壇上にひとりで立ち、各国の学者たちを前に英語で話す——。
時間にして 10分程度の短い時間ですが、イメージしただけでも「清水の舞台から飛び降りる」どころではないことを理解していただけるのではないでしょうか。
英語が上手でなくてもとにかく話さなければいけませんし、何より話自体に内容がないといけません。これなどは、いわばスパルタ式の伝達系脳番地トレーニングと言えるでしょう。
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