成長のきっかけは生まれてすぐの本能的欲求 聴覚系脳番地
聴覚系脳番地も、他と同様、おもに言語の聞き取りに使われる番地(左脳側)と、周囲の音に注意を払うときに使われる番地(右脳側)に分けられます。
このうち言語を聞き取る番地が成長を始めるのは、生まれて数カ月が経ってから。生まれたばかりの赤ちゃんは、母親がいくら声をかけても、それを「言葉」だとは認識していません。
ところがずっと話し続けていくうちに、聴覚系脳番地の枝ぶりが良くなり、左脳にある言語系の脳番地が発達し始めるのです。
これは、赤ちゃんが言葉を認識できない段階から声をかけて脳を刺激することで、未開発の能力を引き出したことになります。実はこれこそが、脳番地トレーニングの原点なのです。
最初からすべての細胞が力を発揮しているわけではなく、外部から情報が入ることで、それを処理するために潜在能力細胞が成長を始め、他の細胞とネットワークをつくりながら発達していく……。
このように、潜在能力細胞の機能を高め、成熟した能力細胞に発達させる営みこそが、正しい脳番地トレーニングなのです。
潜在能力細胞から能力を引き出すために、最も必要なのが「 ~したい」という能動的な思考。生まれて間もない赤ちゃんも、本能的に「言葉を理解したい」と思うからこそ、言語系の聴覚系脳番地が伸びていくのです。
これがもし、「 ~させられる」という受動的な思考であれば、引き出される能力もごく限られたものになってしまうでしょう。
何事も受身ではなく、自分から「 ~したい」と考えたほうが、潜在能力細胞から多くの能力が引き出されますが、その象徴的な存在が聴覚系脳番地なのです。
聴覚系脳番地が発達している職業の代表格は音楽家です。他にもテレフォンオペレーター、塾講師、意外なところでは落語家が挙げられます。
落語家が膨大な数に及ぶ噺を師匠から聞き、自分のものにしていくには、話すだけでなく聞く能力も必要とされるのです。
41ラジオを聴きながら寝る
仕事や勉強の成績がいいと言われる人ほど、聞き上手の人が多いようです。聞き上手の人は、相手の話を素直に受け入れることで理解力が身につきますし、良質の情報は「話しやすい」人のところに集まってくるからです。
聞き上手になりたいなら、まずは聴覚系脳番地を鍛えなければいけません。そこでまず、意識を「耳」に集中させる訓練をしてみましょう。
夜、電気を消し、真っ暗な部屋の中でラジオだけをつけて眠りに就くのです。ラジオを聴くのは寝るまでの間で構いません。
ですから、 2 ~ 3時間後にオフタイマーが作動するように設定したうえで、このトレーニングを試してみてください。部屋を暗くすれば、視覚系脳番地への情報入力がなくなります。
また、寝ているときは手足の動きが少なくなり、ものも食べないので、味覚、嗅覚、触覚への情報入力も低下します。その結果、意識はおのずと聴覚に集中します。
つまり寝る前は、五感の中でもとくに聴覚が研ぎ澄まされている時間帯なのです。
ちなみに、聴覚系脳番地は、 1日の最後に「寝付き」、最初に「起きる」脳番地です。多くの人は、朝、目覚まし時計の音で目を覚ますと思いますが、この目覚まし時計の音に反応するのが、聴覚系脳番地。
聴覚系脳番地は、朝の目覚めと同時に動き出しているのです。
なお、このトレーニングはラジオがなければできないわけではありません。
もし、ラジオが手元にないときは、やはり暗闇の中で、次の日の行動目標を 10回ほど声に出してから寝てみましょう。寝る前の研ぎ澄まされた聴覚に働きかけるという意味では、同じ効果があります。
目標を声に出せば、何となく実行したいと思っていたことが言葉によって明確に意識されます。また、自分の耳から目標を入力することで、音声によって明日の「予習」ができるというわけです。
42店で流れている有線を聴いて気に入ったフレーズを拾う
街を歩いていると、さまざまな「音」があふれていることに気づきます。駅に行けば案内放送が聞かれますし、コンビニやファストフード店に入ると、当たり前のように有線放送が流れています。
こうした音は、普段はあまり気に留めずに聞き流していることが多いのではないでしょうか。しかし耳をすませて聴いていると、気になる言葉やフレーズが意外と耳に入ってくるものです。
実際、店の中で何気なく有線放送を聴いている間に、「いい歌詞だな」とか「今の自分の気持ちにピッタリ合う曲だ」と感じて、後で誰の何という曲か調べてみた、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。
そこで、街中に流れている音楽に意識的に耳を傾け、印象に残った言葉を書き留める訓練をしてみましょう。この訓練は聴覚系脳番地を刺激し、言葉を聴き取る能力を高めます。
聴覚系脳番地では、曲を聴いたときに、歌詞に反応する部分とメロディに反応する部分がそれぞれ違います。
歌詞に反応しやすいのは言語をつかさどる左脳にある番地、メロディに反応しやすいのは感覚をつかさどる右脳にある脳番地です。
したがって、普段何気なく聞き流している有線放送でも、「歌詞」だけに意識を向けることで、聴覚系脳番地が多面的に刺激されるというわけです。
43会議中の発言を速記する
外資系企業に勤めるビジネスパーソンは、「速記力」が非常に高いそうです。彼らは少しの時間でもムダにしたくないとの思いから、打ち合わせ中に参加者の発言を速記(タイピング)し、議事録をまとめます。
そして、打ち合わせが終わると同時に、参加者に配布することを習慣化しているのだとか。こんなふうに速記ができる人は、私自身、尊敬してしまいますし、単純にかっこいいと思います。
速記は「聴く力」が鍛えられるため、聴覚系の脳番地が格段に発達します。これを脳番地トレーニングに応用しない手はありません。
社内のミーティングや地域の集まりなどで議事録の作成が必要になったら、積極的に記録係(書記)を買って出ましょう。
そもそも会議に参加する習慣がないという人は、テレビやラジオなどを利用すればいいと思います。
速記は、発言を適当に書き出せばいいというわけではありません。後で読み返したときに、誰がどんな発言をしたかがわかるように、正確に記録することが求められます。しかも、当然ですが、スピーディーに記録しなければいけません。
この同時性が緊張感を生み、聴覚系の脳番地が最大限に働くというわけです。また、速記では、聴き分けた内容を吟味することが求められます。
すべての発言を残すわけではありませんから、記録することと捨てることをとっさに判断しなければいけません。
そこでまずは、相手の言葉をひと言でも多く記録することから始め、一言一句漏らさず書き出せるようになったら、今度は話の中から要点だけをピックアップする練習をしてみてください。
そうすることで、速記の能力だけでなく、情報を選り分ける力が養えます。この選別がうまくできるようになれば、聴覚系脳番地は格段に強くなるでしょう。
44ニュースを見ながらアナウンサーの言葉を繰り返す
テレビのニュースを見ながら、アナウンサーの発言を正確にリピートします。
ディクテーション(聞いたものを速記する)とはやや意味合いが異なりますが、聴いたことを反芻して正確にリピートすることは、それだけで聴覚系脳番地を刺激することになります。
最初のうちは、文章自体が長かったり、なじみのない固有名詞が出てきたりすると、うまくいかないかもしれません。しかし回数をこなすと、 1度聴いただけで正確にリピートできるようになります。
この作業を何度も繰り返していると、やがて「聴いた内容を正確に覚える」という行為が脳の中で習慣化されていき、 1度聴いただけでも自然と人の話が覚えられるような回路ができていくのです。
最終的には、しばらく時間が経った後でも話の細部を再現できる状態にまで持っていきたいところですが、すぐにそのレベルにまで達することは難しいでしょう。
ですから、まずはひとつのニュースが読み上げられた後に、その内容をできるだけ正確に再現することにチャレンジしてみてください。耳で聴いた内容を正確にリピートする力がつくと、いろいろな場面で応用ができます。
メモがない場面でも相手の話をきちんと記憶できたり、交渉において重要な場面で相手の言ったことを誤りなく繰り返すことができるようになるでしょう。
ちなみに、落語家はこれとよく似た方法を修行に取り入れていると聞きます。稽古のときは師匠から 30分ほど噺を聞くそうですが、その間はメモを取ることができません。したがって、終わった後で即座にその内容を書き出すそうです。
噺の内容はもちろんのこと、扇子を使うタイミングも、師匠とまったく同じ型、まったく同じ間の取り方で再現しなければならないため、師匠と膝をつき合せて聞かないと、型通りに伝承されないとのことでした。
日頃からこうした訓練を積んでいるため、落語家の聴覚は鋭く研ぎ澄まされているのです。
45自然の音に注意を払う
楽器の演奏は、聴覚系脳番地を鍛えるうえで最もオーソドックス、かつ効果的な方法です。
どの楽器を使うかによって奏でられる音は異なりますから、自分にとって親しみのある音をつくっておくと、それだけ「音」に対して敏感に反応できるようになるでしょう。
私自身は楽器の演奏ができません。
聴覚系脳番地の訓練になることはよく理解しているのですが、学ぶ機会がなかなかつくれないというのが悲しいところです。ただし、私の場合は、楽器にふれない代わりに自然界の音を聞くことを意識してきました。
郷里の新潟にいた頃は、何度も海に行き、海岸の景色を眺めたり波の音を聞いたりしていましたが、そうするうちに、海の景色がその時々で目まぐるしく変化することを知りました。
今では海の音を聞いただけで、その日の波の立ち方が何となくわかりますし、波が高いのがどの辺りかも手に取るようにわかります。
また、波の音にわずかな変化があっただけでも、「天気が大きく崩れそうだな」ということがわかるようになりました。
楽器を習えない人や楽器が苦手な人がいたら、このように自然の音に注意を払うことから始めてみてください。考えてみると、私たちは日常生活の中でさまざまな音に囲まれています。
道路を車が行き交う音や家電が発する電子音もあれば、雨がアスファルトを叩く音や虫の鳴き声もあります。私の個人的な考えですが、人は人工的な音ではなく、自然の音に対して、より多くの快感を覚えるのではないでしょうか。
しかし、普段の生活の中では人工的な音のほうが多くなり、自然音を聞く機会が少なくなっています。それだけに自然の音を聞いて、その変化に敏感になることは、聴覚系脳番地の素晴らしいトレーニングになるのです。
46遠くのテーブルの会話に耳をすませる
「カクテルパーティー効果」という言葉をご存じでしょうか。パーティーの最中、周囲が騒がしくても、話したい相手の声や聴きたい音だけは、きちんと耳に入ってくるというものです。
まわりが騒がしい場所にいるときに、近くにレコーダーを置いて会話を録音しても、後で聴き直すと雑音に阻まれて、細部まで聴き取ることができません。
しかし、人間の耳を使うと何の支障もなく会話できるのは、たくさんの音の中から相手の声だけを脳が選択的に聴き取っているからです。この「カクテルパーティー効果」を利用して、聴覚系脳番地を伸ばすトレーニングをしてみましょう。
飲食店などに入ったら、自分の席から少し離れた場所に座っている人たちの会話に耳をすませてみるのです。
どんなに小さな声でも、「聴きたい」という意思がある以上、脳は能動的に音をキャッチしようとします。この「聴きたい」という意思こそ、積極的に脳を使う「したい思考」であり、脳番地を活性化させる原動力となるのです。
ここでもうひとつ重要なのは、会話を聴いて話し手の背景を「推測」すること。遠くの声に耳をすませると、会話の端々から、話し手がどんな人なのかを自然と推測することになります。
また、誰かの発言に対して、「なぜ、その言葉が出てきたのか」「そこにいる人たちがどういう関係なのか」を考えることになります。この推測が、聴覚系脳番地の中の「人の話を理解する」番地を鍛えることになるのです。
47特定の音を追いながら音楽を聴く
多くの音の中から、特定の音だけを拾い上げて聴くことでも、聴覚系脳番地を強化することができます。
たとえばオーケストラの演奏を聴きながら、バイオリンやチェロなど特定の楽器の音だけを追いかけるのもいいでしょう(楽器が苦手な私にとっては、どの楽器がどの音なのか、うまく聴き分けられないのが悩みの種ですが……)。
先ほど述べたように、歌詞を聴くのとバックの演奏を聴くのとでは、使う脳番地が異なります。しかも、この2つの番地は同じように発達するわけではありません。
人が成長する過程においては、言葉を聞いて判断する能力より、音を聞き分ける能力のほうが早く身につきます。これは、言葉を理解できない赤ちゃんが、音楽に合わせて体を揺らすことからも、感覚的に理解できるでしょう。
しかし、幼児期に身につく能力は表面的なものにすぎません。だからこそ、このトレーニングは聴覚系脳番地の基本的な部分を鍛え直すという意味で、効果的なのです。
特定の音だけに注目すると、それまで気づかなかった意外な発見があるものです。
ずっと聞き流していた曲でも、なぜか特定の楽器の音だけが強く印象に残ったり、何かブツブツ言っているようにしか聞こえなかった音が、よく聴いてみるとお経をアレンジしたものだったということがわかったりとか……。
こうした聴き分けは、聴覚系脳番地を伸ばすうえで大事なことです。
他にも、キーワードを探しながら聴いてみたり、出だしの音階を当ててみたりと、工夫次第でひとつの曲についていろいろな聴き方ができます。音楽を聴くときには、普段とは少し違う聴き方ができないか、考えてみてください。
48あいづちのバリエーションを増やす
知人のひとりが「最近の子どもは、人の話を聞いてもあまりうなずかなくなった」と話していたことがあります。子どもに何かを教えても、ただぼんやりと見ているだけで、なかなかうなずいてくれないそうです。このことからもわかるように、人は会話中に相手がきちんと反応してくれないと不安を感じてしまうものです。
適切なタイミングであいづちを入れたり、相手がうなずいてほしいところでうなずいたりするのは、この章の冒頭でも述べた「聞き上手」になるための最も基本的なスキルです。
それだけに、会話時の「聞く」リアクションは意識して実践してみるべきでしょう。ただし、「適切なタイミングで」といっても、いつも同じあいづちしか打てない人は相手に飽きられてしまいます。
また、間違ったあいづちを打てば、話が思わぬ方向に脱線したり、相手に不快感を与えたりすることもあるでしょう。要するに、あいづちを打つにも「技術」が必要だということです。
そこで、会話をするときには、さまざまなあいづちを意識的に使い分けてみてください。
たとえば「そうですね」という言葉も、言い方によって相手の感じ方が全然違います。「そうですね!」と言えば、相手の言葉に全面的に賛成というニュアンス。一方、「まぁ、そうですね……」と言えば、口では同意しているものの、何か腑に落ちていない感じが伝わります。
また、相手が話し終わってから、しばらく間を置いて「そうですね」と言えば、よく考えたうえで納得したというメッセージを与えることができるでしょう。
このように、あいづちを使い分けるためには、相手の話にきちんと耳を傾け、話を細部まで理解していなければいけません。また、効果的なタイミングであいづちを打つには、話の中のキーワードに素早く反応することが必要でしょう。
このように話に集中しようという意識が、聴覚系脳番地を鍛えることにつながるのです。
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