第 4章実践編〈ソリューション・システム〉活用の現場
ワンポイントレッスン 1チャートやグラフで経営を考えるクセをつける 1 事業課題を設定する 1 大手家庭用品メーカー S社の問題を洗い出す 2 問題となる現象を分析するワンポイントレッスン 2シェア分析:問題は市場のカバー率か、あるいは競合とバッティングしたときの総合力の差か? 3 事業課題を設定する 4 解の方向性を探る 5 セールスシステムをリ・デザインするワンポイントレッスン 3パレート分析:「 20 ー 80」のルールは生じていないか? 2 〈ソリューション・システム〉で新商品の導入を図る 1 「新商品」と市場の相性を考える 2 販売チャネルを「街の雑貨屋」にしない 3 新商品づくりのプロセスを追うステップ( 1):顧客との相性ステップ( 2):商品との相性ステップ( 3):販売チャネルとの相性ステップ( 4):収益への貢献度 4 最初の仮説は「 NO GO」だった 5 仮説づくりはインタビューから始めるワンポイントレッスン 4問題解決のためのインタビューのコツ 6 2回目の仮説は「 GO」に変わった 7 情報収集と分析を行うワンポイントレッスン 5分析に自らの思考の付加価値を加えているか? 8 3 C(市場/競合/自社)で分析する市場( Customer)分析ワンポイントレッスン 6 CS・ CE分析:顧客にとっての価値を高めているか?競合( Competitor)分析ワンポイントレッスン 7付加価値分析:自社の価値を生み出す源泉はどこか?自社( Company)分析 3 解決策を実行する 1 協力メーカーを絞り込む 2 商品をユーザーの目線でチェックするワンポイントレッスン 8価格分析:「価格弾性値曲線」と「マークアップ方式」 3 「 GO」への障壁が発生する 4 前進のくさびを打つ 5 テスト販売に挑むあとがき
ワンポイントレッスン 1チャートやグラフで経営を考えるクセをつける
仮説を立てるために数字を分析したり、 ソリューション・システム で考えた仮説を検証したり、あるいは解決策を実行していく過程でその結果を評価するときに力を発揮するのが、グラフやチャートである。
「いや、私は数字については、表を見ただけで動きも問題点もすぐわかる。
そんな手間は無駄だ」という数字の達人でも、人にその内容を伝えるにはグラフのほうがわかりやすいことは理解できるはずだ。
チャートやグラフにして分析をするのは、 瞬時に見ただけで自分以外のだれにでも内容を伝えやすい 表よりも精度の高い状況把握ができ理解のスピードが速い 視覚的にインパクトが強く記憶に残りやすいといったメリットがあるからだ。
したがって、多くの人に自分と同じレベルの理解を求め、スピードのある判断を常に行うには、経営をチャートやグラフで考えることが重要となる。
ただし、多種多様なグラフ作成ソフトにより、いとも簡単に 3次元グラフが作成可能とはいえ、何でも複雑にビジュアル化すればいいというわけではない。
基本的には 2次元でも十分であり、むしろ人間の理解力を考えれば、 2次元のほうがいいかもしれない。
大事なことは、 2次元であれば、なぜその X軸と Y軸をとるのか、その意味と、グラフ化したときにその分析からどんな仮説(意味合いや結論)が導けるのかをよく考えることである。
この訓練をすると、 SO WHAT?(だから何なの)的な無駄な分析は、次第に姿を消すようになる。
1事業課題を設定する 1大手家庭用品メーカー S社の問題を洗い出す第 1章の冒頭で述べたように、 S社は家庭用品をホームパーティ形式により販売するダイレクト・セリングの会社である。
ワールドワイド 50ヵ国以上に販売網を持ち、日本市場に参入して 30年強(当時)。
ディストリビューターという、専属で S社の商品を販売する独立系の販社が日本全国に約 160社あり、その傘下にいる主婦を中心にした販売員は、資格によりマネジャー、ディーラーと呼ばれる。
マネジャーは全国で約 3000人、その下にディーラーが約 10万人。
彼女たちから商品を購入する顧客が約 115万人いる(図 4 1)。
これまで扱ってきた商品カテゴリーは、ほとんどがプラスチック保存容器。
これは非常に密封性の高い商品で、この密封性の技術により、乾燥の持続だけでなく湿気の持続、冷凍保存、電子レンジ調理などに真価を発揮する。
最近ではこの密封性の技術を、食品容器だけでなく衣料用にも発展させている。
また、本国アメリカのグループ会社の多層鍋も導入し、家事の合理性・健康志向の主婦に受け入れられている。
ホームパーティでは販売員が商品の使い方のデモンストレーションを行ってその付加価値を高め、高価格で商品を販売してきた。
しかし、今日では他メーカーの技術力も向上し、 S社商品ほどの密封性は実現できないものの、類似の商品が非常に低価格で販売されるようになった。
販売チャネルも一般スーパーやディスカウント・ショップ、ホームセンターなどさまざまで、日用品を扱う小売店ならばどこの棚にでも並んでいる商品といえる。
販売員によるデモンストレーションにより付加価値がつくといっても、それだけでは埋められないほどの大きな価格差が生じている。
一方、販売上にも問題が2つある。
顧客と販売員の問題だ。
1つは有職主婦や、スポーツクラブやカルチャーセンターに積極的に出かけて昼間は不在の主婦の増加により、主婦の在宅率が激減していることである。
ホームパーティを開きたくても顧客がいない。
商品上からの顧客の減少のみならず、販売システム上からも顧客の減少が顕著だ。
S社も販売システムの見直しが必要になってきている。
2つ目は、専業主婦の販売員の確保が難しくなってきているということ。
もともと S社の拡販システムでは、まず専業主婦が顧客として大量に商品を購入して使いこなす。
そしてその良さを理解した人が販売員にリクルートされて販売活動に入る、というのが典型的パターンだった。
しかし、この将来の販売員予備群である専業主婦層の減少と、他にパートタイムの仕事も含め主婦にとっての雇用機会が増加するにつれて、販売員のリクルートがますます難しくなってきている。
現場では、なんとか商品を購入してもらうために主婦を説得し囲い込む手段として、本来販売員の特権である数十%になる販売マージン(利益)を、自分用の商品を安く買える特権として与えるようになった。
要するに販売員のカスタマー化が生じており、過去の強力な商品力に引っ張られてできた販売網が二極化していたのである。
2問題となる現象を分析する商品と顧客に絞ってこれらの現象を見てみると、“ same food for the same fish in the same pond”といえる。
これは「同じ餌(商品)を同じ池(市場)の同じ魚(顧客)に与えている」という意味である。
言い換えれば、まったく同じ商品で同じ市場の同じ顧客を相手にしていては、いずれ成長にも限界がくるということである。
特にこれは、買い替えサイクルの長い耐久消費財や半耐久消費財にとっては、致命的である。
時代や消費者が変化しているのに対応が遅れ、商品・サービス開発力に元気がなく、そのうえいつも同じ常連顧客ばかり相手にしていて新規顧客開拓力に欠ける、そんな元気のない企業であれば、業種・業態を問わず当てはまる。
S社はまさにこの状況にはまり込んでおり、売上高は 1980年代の初めをピークに、綺麗な S字カーブを描きながら下降していた(図 4 2)。
これをマトリックスにしてみよう。
商品の軸を X軸にとり、市場/顧客の軸を Y軸にとる。
そしてそれぞれを、既存と新規というように MECE に分ける(図 4 3)。
“ same food for the same fish in the same pond”とは、この 2 2マトリックスの左下の象限をいう。
つまり、既存市場の既存顧客に既存商品をいつまでも売っている状態を指す。
したがって、この閉塞
状況を脱するためには、既存商品であっても新たな市場や新たな顧客を開発するか、既存市場の既存顧客であっても新たな商品を開発するか、はたまた、完全なニュービジネスとしてまったく新しい商品をまったく新しい市場の顧客に展開するか、理論的には3つの選択肢しかない。
また、これらの現象を「 3 C 1 C」のフレームワークで整理してみよう(図 4 4)。
まず Competitor(競合)はどうなのか。
プラスチック容器や日用雑貨、あるいは百貨店などの小売りの仕事に携わっていなければ、メーカー名までは頭に浮かばないかもしれない。
それでも S社の競合は? と質問されれば、大方が「メーカーだけでも数社」「チャネルでいってもアムウェイなどの訪販の会社や大手スーパーやホームセンター」等々を頭に浮かべることと思う。
しかし、いままでの S社のとらえ方でいうと「競合はゼロ」であった。
あるときある経営幹部に質問したら、即座に返ってきた言葉は「競合はいません」であった。
これには驚いた。
特殊なチャネルで閉鎖的市場に対して訪問販売方式をとっている高級プラスチック保存容器市場という非常に狭い意味でとらえると、たしかに「競合」はいないということになる。
しかし、先ほど挙げたように、商品だけを見てもいたるところにあるし、プラスチック容器を販売しているチャネルと考えれば、やはり無数にある。
競合だらけといってもよいくらいである。
S社のとらえ方では、まったく競合を認知していなかったのだ。
もちろん、スーパーなどで販売している安いプラスチック容器を競合ととらえ、せっかく高く売れるものを価格競争力がないといって安易に安く売る必要はまったくない。
しかし、だからといって競合を見なくてもよいということにはならない。
競合をよく見ていれば、自社の商品開発上でもまったく違うアプローチが出てくるはずだ。
私が手がけた新商品群は、競合を視野に入れたからこそ生まれたものであるが、既存のラインでも競合を見るか見ないかで、ずいぶん商品開発のアプローチが違ってくる。
このように、「競合」をどうとらえるのかということは、商品開発上、マーケティング上、営業政策上、はたまた経営戦略上でも重要なポイントである。
たとえば宅配ピザの業界を例にとると、「デリバリー・システム」に対する競合は何かととらえると、同じピザ業界以外でも、そば屋、寿司屋、弁当屋などが挙げられるであろう。
商品から見ると、イタリア料理はもちろん、おやつ的な軽食としてお好み焼きやたこ焼き、肉まん、パンなど数々ある。
ファミリーターゲットのフードビジネスととらえると、デニーズなどのファミリーレストランやファストフードなども挙がってくる。
もちろん、競合と思われるところをすべて MECE にとらえればよいかというと、そういうわけではない。
なぜなら、そのための労力と成果を考えなければならないからだ。
だからこそ、どこを競合と見るのかということが、企業の戦略上重要なポイントになる。
S社の場合、 3 Cの中では「競合」をなしととらえ、「 Company(自社)」のことしか見ていなかったことが大きな敗因であった。
「Channel(チャネル)」に関しては、訪問販売のホームパーティ方式一本。
時代とのズレが大きくなり、「 Customer(市場)」のカバー率は次第に小さくなってきている。
しかし、この方式を変えようともしなければ、修正しようとさえしていない。
ここ数年、 S社に限らず、通信販売市場は大きな伸びを見せているのに対し、訪問販売業界自体は微増にとどまっている。
その原因は何かということを突き詰める努力をせずに、ひたすら営業にプッシュをかけ続けている。
そのため、プロモーションやインセンティブ・プランは、網の目のように複雑に張り巡らされ、次第次第に肥大化・自己目的化していった。
ここには明らかに構造的問題が存在する。
とにかく S社の場合、市場におけるシェアという観点では、シェアを構成する市場のカバー率および勝率という点で、ともに大きな問題を抱えていた(ワンポイントレッスン 2)。
これは伸び悩んでいる訪問販売企業、たとえばミシンや着物、化粧品などにはそのまま当てはまる。
それだけではない。
この構造的問題は他業界でもよく見受けられる。
たとえば、昔は強力な系列化特約店網を持っていた家電、化粧品、酒類、石油製品などの業界だ。
その網が強ければ強いほど、きめ細かければきめ細かいほど、チャネルの変化が激しい今日においては、それが逆に大きな足かせとなり、チャネルや市場に関して同様の問題が表面化しているのは確かである。
もちろん、競合をまったく見ていないということはないとは思うが……。
このような販売組織上の問題点は、まったく新しい組織を作ることによって打開されることもある。
そのほうが一見簡単で、かつ効率的なのだ。
しかし、これはタイミングが非常に難しい。
衰退しているとはいっても、いまでも営業基盤組織である場合は、短期間で新チャネルがうまく立ち上がらない限り、共倒れの自殺行為になるからだ。
ワンポイントレッスン 2シェア分析:問題は市場のカバー率か、あるいは競合とバッティングしたときの総合力の差か?自社のシェアの構成要素を市場のカバー率と競合とバッティングしたときの勝率に大別し、シェアの要因分析を行うときに利用する。
市場のカバー率とは、商品がターゲットとする顧客の全体集合を 100%としたとき、自社が何らかの販売促進活動や営業活動により、顧客にアクセスしている割合をいう。
また、勝率とは自社が競合とバッティングしたとき、商品力から営業力に至るまで自社の総合力により、競合に打ち勝つ確率をいう。
一般の小売チャネルで販売されているマスプロダクト型の商品では、カバー率とは小売チャネルをカバーする割合で、勝率は自社がカバーしている小売店の平均店内シェアで近似することが可能だ。
一方、訪問販売(法人営業や業務ルート営業を含む)や通信販売といった直接販売では、市場のカバー率とは上記の定義そのもので顧客にアクセスしている割合であり、勝率とはアクセスしている顧客の獲得率である。
ほとんどの小売店をカバーしているマスプロダクト型の普及商品では、自社と競合のカバー率が 100%に近いと勝率(店内シェア) =シェアとなるため、シェア分析による要因分析の重要性はそれほど高くないが、ワン・ツー・ワン型の直接販売(ダイレクト・マーケティング)ではシェア低迷の原因がカバー率なのか勝率なのかによって打ち手や経営資源の配分が大きく異なるため、基本分析としては重要である。
3事業課題を設定するさて、第 1章でも述べたように、 S社にゼネラル・ディレクター(経営会議メンバー兼事業開発本部長)として招かれた私は、これらの問題に直面し、解決するために3つの事業課題を設定した(図 4 5)。
右下の象限:現顧客(同じ池の同じ魚)に新たなカテゴリーの商品(違う餌)を提供することは可能なのか。
従来のプラスチックにこだわらない新商品の開発・導入である。
左上の象限:現商品(同じ餌)を、いつのまにかモレてしまった働く主婦(違う池の違う魚)に提供するための、新たな販売システム(たとえば通信販売)の開発は可能か。
左下の象限:現商品(同じ餌)を同じ主婦層(同じ池)ではあるが、いまのパーティ方式ではキャッチできなくなってしまった主婦層(同じ池だが違う魚)をできるだけ広くカバーするために、現在の販売システムを全面的に見直すことは可能か。
現セールスシステムのリ・デザインである。
4解の方向性を探る設定された課題に対して解決策(仮説)を考える際に、解の方向性として、いま企業が有する強みをテコにするか、弱みを強化するのか、あるいはまったく新しい方向性をゼロから創り出していくのかという判断がまず必要だ。
企業にとって何が強みかということは、非常に重要なポイントだ。
市場と競合の関係においてどちらが得かということだが、新しいことを始めるときのビジネスの鉄則は、とにかく強みを「テコ」にすること以外にない。
その判断に立つと、 S社は現在の強みを完全にとらえそこなっていた。
競合品がなく、右から左へと飛ぶように売れた過去の神話を引きずり「ホームパーティ方式の販売システムは素晴らしかった」「商品の品質はいまでも素晴らしい」としかとらえられず、現在の強みは何かということを忘れていた。
現在の強みは、明らかに約 10万人の販売員ネットワークである。
この販売組織こそが企業としての最大の資産なのだ。
しかし、「こんなにいい商品なのに売れないのは販売力が弱いからだ」という認識がいまだ支配的であり、過去の強みによって生まれた約 10万人の販売員ネットワークが強みだとはだれも思わなかったのだ。
私はこの強みを生かして事業コンセプトを再定義することにした。
事業コンセプトとは、企業の収益を生み出すメカニズムを定義したものである。
プラスチック保存容器の販売メーカーから、約 10万人のフェース・ツー・フェースでつながった強力な販売網を持つ企業として、顧客の立場に立って優れた商品を選択・開発し販売する「マーケット・インテグレーター」と再定義したのだ(図 4 6)。
これは、いままでのように商品を作っては売るというメーカーの概念からの 180度の大転換を意味する。
マス・マーケティングのような顧客が見えにくい、点でつながっている関係ではなく、ダイレクトにお互いの顔が目に見える線でつながっているからこそ、顧客のニーズをいち早く的確にとらえることができ、そのニーズに合った商品の開発・調達が可能になる。
裏を返せば、この販売網のニーズに合った商品を導入すれば、確実に販売数量が予測できる販売システムとなる。
技術も商品も優秀だが販売チャネルの弱いメーカーにとっては非常に魅力的なチャネルだ。
この事業コンセプト「マーケット・インテグレーター」は、今後の S社の中長期戦略の基本概念として、アメリカ本社のマネジメント・メンバーへもプレゼンテーションを行い、今後の商品開発の方向性も含め承認された。
そして、この販売組織の強みが、さまざまな商品の共同開発や OEM開発をメーカー各社に持ちかけるときのバーゲニング・パワーの源泉となり、開発費用の分担や厳しい仕入コストの交渉時の強みとなるのだ。
こうして、「マーケット・インテグレーター」というコンセプトで世界中のいろいろなメーカーと共同開発する形で、商品開発を行っていく枠組みができた。
しかし、このコンセプトをさらに盤石な基盤とするには、時代の変化に合わせて販売システムそのものを大幅にチューンアップする改革が必要であった。
それが、事業課題設定の 現商品(同じ餌)を同じ主婦層(
層(同じ池)ではあるが、いまのパーティ方式ではキャッチできなくなってしまった主婦層(同じ池だが違う魚)をできるだけ広くカバーするために、現在の販売システムを全面的に見直す、である。
現セールスシステムのリ・デザインという課題に対して行った解決のプロセスについて、まず簡単に説明する。
5セールスシステムをリ・デザインする過去からの財産である約 10万人の販売員と、約 115万人の顧客の販売ネットワークを強みにした「マーケット・インテグレーター」コンセプトだが、この強力な販売ネットワークを今後も維持・発展させるには、大がかりな改革が必要であった。
というのも 30年にわたる年月の間に、非常に大きな構造変化が生じており、 ゼロベース思考 による再設計が必要な状態にあったからだ。
そこで事業課題 に挙げた、いまのパーティ方式の販売システムではリーチできない有職女性には、まったく別の販売システムとして通信販売の手法をとることにした。
しかし、それだけでは不十分だ。
メインターゲットである専業主婦を顧客として、また販売員として確保するには、現在の販売システムでは難しくなっていたのだ。
現在の販売網の構造は「 20 80のルール」(ワンポイントレッスン 3)が当てはまる。
生産性の高い 20%の販売員が全体の 80%の売上げを担っており、残りの 80%の販売員は、 20%の生産性しか持たない。
つまり、約 80%の販売員はカスタマー化している。
一番の本質的要因は、商品力が相対的に落ちてきたため、高付加価値とはいえ、他社商品と数倍から 10倍近い価格差があっては、売るのが大変難しくなったということだ。
このようなチャネルの二極化は、訪問販売型のチャネルでは商品力の低下とともによく見られる現象だ。
この2つの異なるセグメント(集団)は、それぞれ解決策が異なる。
まず初めに大きく2つの集団、 20%のハイ・パフォーマンスの強力販売員グループと、 80%のロー・パフォーマンス・グループとにセグメンテーション(細分化)した。
そして、売上減のリスクをシミュレーションしながら、カスタマー化したロー・パフォーマンス・グループへのマージン(利益の分配)を低めていき、そのマージン減から出てくる原資を、ハイ・パフォーマンス・グループの活動的な販売員へ売上貢献度に応じて再配分した。
それにより、ハイ・パフォーマンス・グループのインセンティブを強め、全体の売上増を狙った。
このリ・デザインした販売システムは「 Nシステム」として 3地域で約半年のテスト・ランを行った後、全国展開を図った。
「 Nシステム」は、全面的に資源配分を見直し、設計し直すことで販売員のマネジメントの効率化を図ったものだ。
そして、カスタマー化した販売員はロイヤル・ユーザーと位置づけ、原資配分を低めながらも、さまざまなコミュニケーション・ツールやインセンティブ・スキームによりロイヤルティを高める工夫をこらした。
しかしながら、プラスチック保存容器という半耐久消費財の特性から、顧客は自宅にひと通り買いそろえてしまうと、ひと休みに入る。
これは、カスタマー化した販売員も同じこと。
この構造的問題を解決し、販売のピラミッドを支える顧客の底辺層を広げなければ、販売組織の拡大にも限界がある。
この構造的問題を解決するために、新販売システムにはさまざまな工夫をこらしたのだが、さらに、商品戦略上も工夫をこらす必要があった。
“Foot in the door”とは、文字どおり「ドアに足を入れる」であるが、販売員がドアに足を入れてドアを閉めさせないことを指す。
いまの時代、ドアを開けてもらうのさえ至難のわざ。
一度開けたらずっと開けておいてもらわなければ割が合わない。
実際に、新規に顧客を開拓するのと、リピートユーザーを維持するのとでは、使うコストとエネルギーはおそらく 10倍以上違うだろう。
したがって、商品と販売システムを車輪の両輪にたとえるなら、商品としては、顧客を囲い込むための定期的リピート性のある消費財/消耗財が必要であった。
この消費財としての要件は、何も訪問販売に限ったわけではなく、業務用のコピーマシンやプリンター等も、トナーやコピー用紙そして定期点検サービスといった消耗財によって顧客との関係を維持しながら収益源にしているというのは、みなさんもご存じであろう。
第 1章で説明したポット型浄水器「 A SLIM」の浄水フィルターも、定期的交換という意味では、この消耗財の範疇に入るものだ。
Nシステムへ販売システムのリ・デザインを行うと同時に、当初の課題 を解決し、新販売システムの効果を最大化するため、消費財/消耗財を早急に市場導入しなければならなかった。
ワンポイントレッスン 3パレート分析:「 20 ー 80」のルールは生じていないか?販売員や特約店といった販売店から商品アイテムに至るまで、構成要素の数が多くかつ各要素ごとのパフォーマンス(生産性)が定量化できる場合は、とりあえずハイ・パフォーマンス・グループとロー・パフォーマンス・グループに分けて問題点をとらえるといい。
当然 80%近い(必ずしも 80%ぴったりになるわけではないが)貢献度を持つ 20%の構成要因の重要度は高いが、残りの生産性の低いグループの売上げも無視できない。
企業の資源配分の観点からは、ロー・パフォーマンス・グループは再考すべきだが、ハイ・パフォーマンス・グループとの関係(たとえば、商品ラインアップの1つとして)が強かったり、営業上重要なこともあり、単純にカットできない場合もある。
どちらに注力すべきかバランスのとり方が難しく、どの企業でも悩みの1つであり、資源配分の試行錯誤はある程度必要だ。
しかし、いずれにしてもハイ・パフォーマンス・グループとロー・パフォーマンス・グループでは、その解決方法は異なること、およびロー・パフォーマンス・グループは、常にそのまま存続させる基準や理由が明確でなければならない点は銘記すべきである。
生産性の高い要素から順次累積していったものをグラフ化したものをパレート図と呼ぶ。
2 ソリューション・システム で新商品の導入を図る 1「新商品」と市場の相性を考えるマーケット・インテグレーターとしてはどんな新商品を選択するのがよいか。
最初に頭に浮かぶのは、既存の顧客に既存のルートで販売するのだから、既存の商品との相性の良さだ。
この「相性」というのが簡単なようで判断が難しい。
「宅配ピザの専門店が、そのデリバリー・システムを生かして新たにお好み焼きの宅配を始めるとしたら、さらに売上げを伸ばすことは可能か?」という課題があったとする。
宅配ピザは、 ゼロベース思考 のところでも述べたが、「おいしいピザを家で作るのは大変、だけどピザを食べたい」というニーズに「デリバリー」という従来の出前とは異なるコンセプトで応えた。
すでにある程度の成功を収めた宅配ピザの専門店が、同じ池にさらに違う餌をまく。
この場合はお好み焼きの宅配である。
顧客はいるし、デリバリーのシステムもできている。
店舗もある。
季節ごとに変更する注文用カタログに新たにお好み焼きを紹介するだけ。
いままでの顧客も新しいメニューをきっと喜ぶに違いない。
しかし、私の答えは NOである。
一見相性がよさそうに見えるが、お好み焼きは従来の商品、顧客、システムすべてとの「相性」が悪く、そのデリバリー・システムがまったく生かされないからだ。
「デリバリー」専門店は、配達専任のアルバイトを常時抱えている。
都内の非常に効率のいい配達区域で平均して往復 20分、配達にかかるとしよう。
アルバイト料を時給 900円とすれば、最低でも 300円が 1回当たりの配達コストとなる。
このコストは、顧客あるいはピザ専門店のどちらかが負担しなければならない。
自宅でも簡単にでき、スーパーでお好み焼きの素を買ってくればとても簡単にできてしまうという付加価値の低い商品に、顧客がわざわざ配達料のコスト分を負担するだろうか。
ピザと一緒に注文してもらえるならば、ピザにこの配達コストを負担させればいいのだが、顧客にはいったいどのぐらいの頻度で、ピザとお好み焼きを一緒に食べたいシーンがあるのか。
商品に付加価値が生まれないうえに、同じ顧客でもピザを食べたいときとお好み焼きを食べたいときが異なれば、ピザとの抱き合わせ販売も難しく、お好み焼きのデリバリー・コストをまったくのゼロにはできない。
つまり、デリバリー・システムに乗らない商品ということになる。
これだけでも、ノックアウト・ファクターになっているが、さらに駄目押しすると、宅配ピザの専門店がお好み焼きを作るには、ピザの製造ラインとは異なる、お好み焼きの粉をミックスしては焼き上げる別ラインを作らなければならない。
新たな設備投資もかかるのだ。
このように、商品、顧客、システムすべてとの「相性」が悪いのである。
したがって、いまのデリバリー・システムを生かすためには、ピザと同じように、「家で作るのは大変、だけど食べたい」と思わせるような、顧客にとって付加価値の高い第 2の主力商品を開発するか、あるいは、ピザ注文時に抱き合わせで注文してもらえるサラダやデザート類といった、手間をかけずに取り扱える商品を開発しなければならないということになる。
このように、既存の顧客に既存のルートで販売する新たな商品を選択するには、あくまでも商品、顧客、システムをワンセットにした相性を考えなくてはならない。
2販売チャネルを「街の雑貨屋」にしないところが、事業がうまくいってしばらく経つと、商品、顧客、システムすべてがワンセットになっていまの事業が成立していることを忘れてしまう。
自社の強みをテコにするのがビジネスの鉄則なのであるが、ハードな販売システムの一部をもって自社の強みと勘違いすることがよくある。
宅配ピザの例でいうと、デリバリー・システムはたしかに強みではあるが、そのハードな側面だけを見てお好み焼きやアイスクリームやコーヒー豆、しまいにはお菓子まで乗せてしまい、いったい何屋さんかわからなくなってしまうようなものだ。
こうなると、瞬間風速的に売上げが多少伸びても、消費者から見ると何の特徴もなく、次第に飽きられてしまい、作る側は仕入れやら在庫管理やらクレーム対応やらで費用が増加して、遂には売上げも利益も出なくなる。
実は、この現象はあらゆる形態の販売チャネルで起きており、私は「街の雑貨屋」現象と呼んでいる。
商品、顧客、システムがワンセットで完成した特徴のあるビジネスから、次のステップを目指すときによく起こりがちなことである。
思慮が浅いために失敗しているケースをよく見かける。
健康飲料や冷凍食品のセールスレディが、あるとき急に化粧品を販売する。
化粧品の訪問販売員が、健康補助栄養剤を売り始める。
街で見かける小売専門店が何でも扱っていくうちに、次第に特徴を失うのも同じことだ。
なんとなく近そうだなと思ってもよく考えないと、街のパン屋さんがいつのまにか家庭用電気パン焼き器を売っているような羽目に陥る。
「街の雑貨屋」にしないためには、あくまでも商品、顧客、販売システムの特徴をワンセットにして、十分に考えなければならない。
このことを肝に銘じて、私はサードパーティとの共同開発(たとえば、 H社との共同開発によるポット型浄水器)や OEMによる新商品の導入を進めた。
3新商品づくりのプロセスを追う
それでは、商品/顧客/販売システムとの「相性」の良い新商品選びのプロセスを説明しよう(図 4 7)。
——ステップ :顧客との相性顧客層は、 20〜 30代の合理的で健康に関心の高い主婦であるから、まず初めに ロジックツリー によりリストアップしたのは、そうした平均的ファミリー世帯が保有している何百何千という商品アイテムである。
インテリア家具、寝具、家電製品、食器、テーブルウエア、食料品、衣料品、書籍、自動車用品からアウトドア用品に至るまでの全商品である。
こうした商品の中から、特に主婦の関心が高く、購買決定時に主婦が主導権を取りやすい商品アイテムに、まず絞り込んだ。
——ステップ :商品との相性商品に関する基準は、高品質と高付加価値である。
つまり、どこのスーパーやディスカウントストアにも並んでいるような特徴のない商品ではなく、たとえ同じカテゴリーの商品であっても、素材や機能性に優れた利用価値の高いものでなければならない。
結果として高価格になることはあっても、最初から高級品やブランド品を選ぶということにはならない。
たとえば百貨店の日用雑貨のコーナーでよく見かけるデモ販売の商品。
棚に並んでいるときはなかなか魅力が伝わらないが、ひとたびデモンストレーションが始まると人垣ができる。
あくまでもクオリティは高いが説明が必要な商品である。
そして、国内品の場合は、あまり知られていないものがよい。
チャネルのバッティングは価格競争を生みかねないからだ。
だからまったく新しいもの、あるいは海外からの輸入品が目のつけどころと考えた。
——ステップ :販売チャネルとの相性 S社の販売方式は、主に 30〜 40代の主婦がデモンストレーションによって、商品の使い方を含めた利用価値を消費者に伝える販売システムだ。
デモンストレーションによって新たな付加価値を生み出せなければ、そこで発生するコストを価格に転嫁して吸収できない。
特に主婦が主婦に販売するのであるから、商品にストーリー性があってわかりやすく、クチコミに乗りやすいものや、継続して次々と売りやすい商品ラインに幅のあるものがいい。
また、販売時や販売後の技術的トラブルなど、フォローが大変なものは除くことにした。
——ステップ :収益への貢献度最後の基準は、ビジネスである以上は売上げと収益への貢献度である。
売上げはステップ 〜 の基準が満たされていれば、ほぼ自動的に満たされるが、収益に関しては、競合と仕入コストの観点からチェックする必要がある。
競合に関しては、特に S社と同様の訪問販売を行っている企業の商品構成や価格、そして開発動向をチェックし、ダイレクトな競争は回避する。
また、仕入コストに関しては、基本的考え方が、自社の必要コストや利益をあらかじめはじき出したうえで価格を決定するマークアップ方式をとっているため、仕入コストが高くなってしまうと価格を高く設定せざるをえなくなり、売れない商品になってしまう。
つまり市場での価格競争力を保つために、かなり安く仕入れる必要がある。
また、価格をできるだけ自由に設定できるようにするため、独占的に販売可能なユニークな商品を導入することにした。
これらのステップに沿って、まず商品ドメイン(領域)を設定した。
大きく分けて短期的には4つのカテゴリーに着手することにした。
その過程では MECE と ロジックツリー を駆使して、ロングリストからショートリストへと絞り込んだ。
それぞれのカテゴリーの中ではさらに個別に商品をピックアップして、具体的交渉に入っていった。
たとえばポット型浄水器 A SLIMの開発や、日本ではあまり認知度が高くないが、クチコミレベルで商品力が非常に高いと評判のスイス製のハンディ・フードプロセッサーの OEM生産など、具体化できるものから次々に商品化を図っていった。
これらの商品選択のプロセスでは、大きな課題として消費財/消耗財の検討があった。
A SLIMの浄水フィルターなどの消耗品はあるものの、 Nシステム上の大きな目玉としての消費財/消耗財を、打ち出さなければならなかったのだ。
次に、この1つの要として検討を行った洗剤の例を詳細に説明する。
4最初の仮説は「 NO GO」だったホームケア・プロダクトはどの家庭でも必ず使用する消耗品であるため、消費財/消耗財の有力候補としては、当初からこれを検討対象として掲げていた。
しかし開発の優先順位としては最下位に置いていた。
それはホームケア・プロダクトの市場参入障壁が低いとは考えられなかったからだ。
特に洗剤で基礎を築いたアムウェイのことが競合上、気になった。
したがって、商品カテゴリーが経営会議の場で議論され、方向性として合意された後も、私が積極的にコンタクトを取り、話を具体化していったのは、スイス製のハンディ・フードプロセッサーをはじめとする付加価値の高い各種キッチンツール類。
フランスの紅茶メーカーと提携した S社プライベートブランドの紅茶の開発。
それをオリジナル紅茶用容器にセットした紅茶セットと日本茶セット。
その他のドライフード類。
日本の大手玩具メーカーを巻き込む形で進行していた知育玩具等の共同開発だった。
そのためトップから「ホームケア・プロダクトはどんな状況か」と突然聞かれたとき、その場での私の結論(仮説)は「 NO GO」であった(図 4 8)。
調べるまでもなく日本の洗剤市場は、 3 Cのフレームワークで見ても、市場は成熟している。
競合面では花王、ライオン、 P& Gといったジャイアントに押さえられた寡占市場。
さらに、各社とも技術開発には相当しのぎを削って開発合戦となる一方、スーパー店頭では安売りが常態化し、客寄せの目玉商品化している。
また、自社を考えても、洗剤用の容器は作れても中身を作る技術は皆無。
ほとんどが自社でコントロールできないノックアウト・ファクターだらけであったからだ。
しかし、これは単なる初期の仮説であり、検証は当然必要だ。
ある程度、他の商品の開発スケジュールにメドがついたので部下に情報収集を命じ、自分でも小売りの店頭をまわってみた。
案の定、部下の集めた情報をそのまま総合すると、 NOという結論しか示さなかった。
一方、私が小売りの店頭をまわってみると、たしかにスーパーの棚は大手メーカーの商品が独占しているが、よく見ると必ずしも特売品ばかりとは限らない。
台所用洗剤を例にとると、 600 mlの標準ボトルでも 1本 100円前後のスーパー PB商品の合成洗剤から 1本 400円もする液体石鹸まで、思ったより価格の幅が大きい。
大きい。
棚に並ぶということはその商品を選択する消費者が存在するのであるから、この棚だけを見てもニッチはありそうな気がしてきた。
S社の場合は、何かストーリー性のある商品なら、ニッチ商品のほうがかえってセールスレディのデモンストレーションの強みを生かすことができる。
5仮説づくりはインタビューから始める成熟市場だろうと寡占市場だろうと、世の中が変化する限りビジネスチャンスは必ず存在する。
世の中にはさまざまな消費者がいるわけで、消費者がニーズとして認め、その商品が棚に並んで消費者に認知されれば、その商品は購入される。
王様のアイデア商品でも、本当に欲しいと思う人はお金を出す。
ただ、その消費者のかたまり(マーケティング上はセグメント)をターゲットとしてとらえて企業が商品化を行った場合、企業の視点からビジネスとして成り立つか、というのが判断のポイントになるにすぎない。
「洗剤市場への参入は可能ではないか?」とのポジティブな課題設定の下に、とにかく何人かの主婦の話や、洗剤を中心としたホームケア・プロダクトに詳しい専門家の意見を聞いてみることにした。
ゼロベース思考 で述べたように、論理学では全体集合が明確に定義されていれば、ノックアウト・ファクターを見いだせば全体の否定は簡単である。
しかし実際のビジネスの現場では、全体集合が初めから簡単には見えないこともある。
その場合、仮説を立てることはもちろん大事だが、狭い視野の範囲で否定的要素がたまたま大きく見えるために全体も否定的に見てしまい、本当は解があるのに見逃してしまうことがある。
そういう意味では、解があるかもしれないという ゼロベース思考 からのポジティブな課題設定とネガティブな課題設定を行った場合、ポジティブな課題設定を行うほうが何十倍も解決策を見つけ出す可能性は高まる。
これは本質的に、評論家と問題解決者の決定的違いと言ってもいい。
評論家は往々にして考える枠を狭く設定して物事を議論する傾向があるが、問題解決者はなるべく枠を大きく広げて解決策を見つけ出す。
それに費やすエネルギー量は 100倍以上の開きがある。
それでも問題解決者は、エネルギーを 100倍費やしても問題を解決しなければならない。
だからこそ課題設定においては ゼロベース思考 が重要になる。
自分の思い込みで短絡的な市場把握をしているときは、消費者の原点に戻るしかない。
このレベルのインタビューは担当者自身がまず、ヒョイヒョイと自分で行ってみるとよい(ワンポイントレッスン 4)。
まず、主婦へのインタビュー。
ざっくりとだが、とりあえずは MECE になるように、自社の顧客とそれ以外の主婦、若い主婦と年配の主婦、合成洗剤を使っている主婦とそれ以外を使っている主婦、という具合に分ける。
とにかく聞いてみると、使い方、選択の仕方は千差万別である。
安くて汚れがよく落ちれば何でもいいという主婦もいれば、皮膚がとても敏感なため、合成洗剤では肌荒れを通り越して炎症を起こしてしまうという主婦は、価格は少々高くても我慢して液体石鹸を使っているという。
また、購入チャネルも店頭以外に、通信販売から訪問販売に至るまでいろいろである。
同時に専門家の意見も聞いてみた。
専門家の話というのは、技術動向や新たな消費者動向、欧米での動きなどマクロな内容から、メーカーの開発動向といったミクロな内容も含め、全体観を持って市場の構造を把握するには非常に効率的である。
私が話を聞くことができた専門家は、ある企業の開発顧問をしていた方で、欧米での開発・消費者動向にも詳しく「洗剤市場を成分の切り口で見ると、日本の合成洗剤市場は大手独占で新規参入は難しい。
ただし、ヨーロッパやアメリカでは、消費者団体とメーカーが協力しながら環境や人体に影響の少ない、石鹸を主体にしたエコロジータイプの商品も開発されている。
日本では、エコロジーをうたい文句に販促活動をしながらも、実はただの合成洗剤というまがいものが出回っている」とコメントした。
まだニッチながらも、消費者の構造変化はありそうである。
合成洗剤で勝負しなくとも、肌が敏感な主婦や、健康・環境を意識した主婦向けの洗剤の可能性がありそうだという仮説を持った。
ワンポイントレッスン 4問題解決のためのインタビューのコツグループ・インタビューやアンケート方式の定量調査などは専門家に依頼して適宜行うケースが多いが、問題解決にあたって自分自身で個別インタビューを行うことは、あらゆる段階で重要なポイントである。
ソリューション・システムの各段階でどのようなインタビューをどのような目的で行うとよいかの一例は、図のとおりである。
インタビューを行うときには必ず相手が存在し、何度も同じことを聞くわけにはいかないので事前準備が大事だ。
準備を怠ると、的を外したり、十分に話を引き出せず無駄に終わってしまったり、相手を不快にさせて、紹介者に迷惑をかけたり、企業のイメージを落としかねない場合もある。
そのため、インタビュー以外の手段で得られる情報は、あらかじめ収集して勉強しておく。
インタビューの目的を整理し、詳細な質問票を作り、内容を吟味する。
さらに内容によっては事前にテストしてみるとよい。
インタビュー時に気をつけなければならないことは、相手にインタビューをお願いする理由を明確にすることである。
いったい何を聞きたいのかわからないまま質問を続けてしまい、表層的な意見しか引き出せないケースも多い。
また、一般的な世間話に終わってしまうこともある。
問題解決のためのインタビューは、必ず下図のような目的を明確にしたうえで、適切なインタビュー先を選定して実施する。
そして終了後はそこから出てくる意味合い( SO WHAT?)を、箇条書きでもいいから、とにかくその日のうちにまとめておくことが重要である。
62回目の仮説は「 GO」に変わった私は部下にあらゆるメーカーのあらゆる種類(洗濯用、台所用、住居用を問わず)の洗剤を買い求めるよう指示すると同時に、早速 ソリューション・システム を開始した。
課題はもちろん「洗剤市場への新規参入は可能か?」である。
3 Cのフレームワークにより分析し、「 GO」あるいは「 NO GO」の総合的判断を下すとともに、「 GO」の場合は具体的解決策の方向性を出さなければならない。
インタビューや小売店まわりによりどの程度仮説が深まったか、2つの仮説を比べてみよう(図 4 9)。
2度目の仮説設定で私が念頭に置いたのは、インタビューの結果、健康志向で環境への影響の少ないエコロジー性の高い商品であり、そうした商品を求める消費者が、 10人に 1人ぐらいはいるだろうということだ。
まず、市場( Customer)である。
市場の見方のポイントとしては、これから入り込めるような成長性の期待できるニッチ(隙間)があるか? 付加価値の取れる分野があるのか? が個別課題のポイントになる。
最初は、ただ単に市場全体の規模や成長性のみを見ていたが、今回はもっと絞り込んでとらえてみる。
そして、それぞれの個別課題に関する仮説は、市場全体は成熟しているが、エコロジー・カテゴリーのニッチ市場があり、ある程度成長の兆しがある。
そして主婦の間では、健康や環境に対する関心が高まっており、エコロジー商品が受け入れられている。
次は、競合( Competitor)である。
競合の見方のポイントとして、当初は合成洗剤の大手メーカー間の熾烈な競争に目を向けた。
しかし今回の視点としては、価格競争を回避することができるのか? また、エコロジー性がどの程度商品上の差別化につながるのか? という点である。
それぞれの個別課題に関する仮説は、価格競争は通信販売や訪問販売といった小売りとは異なるルートで多少回避できる。
また、エコロジー性洗剤の市場は小さく、大手にとって参入の規模に達していないことだ。
さらに、自社( Company)である。
自社に関するポイントは3つ。
1つは、自社による商品開発は可能か? 2つ目は、最大の目的である自社へのロイヤルティの高い顧客の取り込みはどの程度可能か? そして3つ目は、自社の収益性の最低条件を満たすか? である。
それぞれの個別課題に関する仮説としては、自社保有の要素技術から見てパッケージ開発は可能だが、中身の液体/粉末は洗剤メーカーとの共同開発を行う。
自社の顧客の取り込みは、商品コンセプトが明確であれば、想定競合からのブランド・スイッチは可能。
そして収益性については、最低利益率は確保できる。
以上の 3 Cから見た個別解決策の仮説を全体観を持って判断すると、総合解決策は「 GO.エコロジー・カテゴリーの洗剤にビジネスチャンスの可能性あり」となる。
この 3 Cから見た個別解決策の仮説は、当初の、まさにその場での仮説に比べ、ほとんどがポジティブ設定になっているうえ、課題がかなりフォーカスされていることがわかると思う。
もしかしたら「 GO」できそうな要素があるときは、とりあえず仮説をポジティブに設定したほうがよい。
そうすると、最終的に否定する場合でも、大きなモレは未然に防ぐことができる。
7情報収集と分析を行う次のステップは、個別解決策の仮説を検証する作業である。
1つ1つの仮説に関して情報収集と分析を行うのだが、最も効率的な分析方法を考える必要がある。
とにかくメーカーにしても販売・サービス会社にしても、この情報収集と分析のスキルはかなり格差が大きい。
第一に、情報収集と分析の違いがわからない。
私がスタッフに仮説を示したうえで分析を依頼したときに、まず何が起きたか。
集めてきた情報を切り貼りしたり、わざわざパソコンに打ち直して綺麗に体裁を整えて持ってきては「分析しました」と言う。
前述の 仮説思考 の例で言うと、「体重が増えた」という情報を集めてきて体裁を整え、「分析した結果、やはり体重が増えた」と報告するようなもの。
まったく頭を使っていない、ただのデータマンである。
分析というのは、ある仮説を持ったときに、事実を読み込んだ結果出てくる意味合い( SO WHAT?)を指すのであって、事実の羅列ではない。
この場合で言うと「体重が増えた」という事実から、「このままでは太り過ぎで機能障害を起こす可能性がある」という意味合いを引き出すのが分析である。
このように情報をただ羅列してしまうというのは、スキル以前の問題である。
本人の自覚がないまま、仮説なき情報収集に終始する場合に発生する。
いわゆる企業の企画部門や調査部門が、膨大な情報を扱っているにもかかわらず本来の機能を果たさないケースが見受けられるが、それは情報収集が先行してしまい、企業や部門の仮説が情報の中に埋没してしまうからである(ワンポイントレッスン 5)。
私のケースでは、1つ1つ集めた情報をもとに、どう数字を加工してどんなグラフを作ると何が言えるのか = SO WHAT?(だから何なの)を、辛抱強くオン・ザ・ジョブ・トレーニングで行った。
第二に、情報ネットワーク化が進めば進むほど、入手できる情報の範囲が広がるために錯覚が生じる。
たしかに情報の取れる範囲とスピードは格段に向上した。
自宅にいても情報ネットにつなげば即座に国内外の情報が取れる。
さらに、インターネットのホームページをのぞいてみると、企業 PRなのか、販促媒体なのか位置づけが曖昧なまま情報コントロールがされておらず、かなりの企業情報が簡単に取れる。
しかし、気をつけないと2つの問題に必ず直面する。
1つは、個人情報などの良質な情報がますます得にくくなり、その範囲が急速に広がっていること。
2つ目は、だれから得られた情報かという情報の信頼性が定かでないことに加え、ときには意図された歪んだ情報が多々存在するということだ。
こうした情報環境のもと、依頼する側には世の中にない情報はないという錯覚が、一方で依頼される側には全部あたったが取れないのは自分のせいではないという自己正当化が生じやすい。
しかし、これは MECE ではないし、 ゼロベース思考 でもなく、 仮説思考 でもない。
情報収集の基本は、欲しい情報が大事な情報、価値のある情報であり、かつ世の中に存在しない情報は自分で作る、というスタンスで臨むべきだ。
ビジネスでは、仮説(その時点での結論)を持って行動することが重要であるから、もしそのものズバリの情報がなくとも頭を使ってひねり出せばよい。
つまり、情報を自分で存在させればよいのである。
もちろんデータをねつ造しろと言っているわけではない。
得られた情報をもとに、仮説の重要性を認識したうえでポジティブに臨めば、「ありませんでした」ではなく、「私はこう推定しました」
となるはずだ。
MECE 風に分ければ、しょせん情報源は検索ネット、図書館、データバンクといった情報ライブラリーから、専門家あるいは企業そのもの、チャネルやユーザーとそれほど多くあるわけではなく、あとはアプローチ方法による。
たとえば、チャネルやユーザーからの情報も、個別インタビューから、グループ・インタビュー、そして定量化できる規模のリサーチといった具合に、分析のステップや重要度により使い分けることが大事なのだ。
ワンポイントレッスン 5分析に自らの思考の付加価値を加えているか?かつてはデジタル化により印刷用の紙需要は大幅に減少すると言われていたが、実態はそうではなく、むしろ需要の変動は景気動向によるところが大きい。
こうした中、オフィスの中では紙の資料が減るどころか、枚数だけを稼ぐ中身の薄いパワーポイントの資料が氾濫している。
この現象を“パワポ・シンドローム”といって、 PCで作成した資料やプレゼンテーションを嫌うトップもいる。
いったい何が問題か?だれもがあまり意味がないと感じつつも、集めた情報をただコピペ(コピー&ペースト)して体裁だけを整える。
こうした資料が会議に使われると、意味のない説明に時間が奪われ、本質的な議論がおろそかになり深まらない。
典型的 NG分析例を示すと、 集めてきた情報をただ羅列する コピペ資料を貼り付けて、その内容を説明するだけ 自分の言いたい結論に都合のよい情報だけを貼り付けるこれらはすべて分析とは呼ばない。
いま直面している情報に対して、自分の頭で考えて、“ WHY?”で深掘りし、“ SO WHAT?”で重要な意味合いをどれだけ引き出しているのか? 自らの思考の付加価値がまったく加えられない分析は、分析とは呼べないわけだ。
あなたは、以下のチャートをどうとらえるのだろうか? カーシェアリング市場に参入を考えている企業にとって、はたしてグッドニュースだろうか? 83 C(市場/競合/自社)で分析する ——市場( Customer)分析まず市場の概要は検索ネットによる記事検索や日本石鹸洗剤工業会資料等により、ここ数年の全体市場の伸びや規模、そして合成洗剤と石鹸、また用途別の洗濯用、台所用、住居用、その他の項目がだいたい把握できた。
このような市場の動きをとらえるときは、全体とサブセグメント化してとらえたものを必ずグラフ化してみるとよい。
その結果、データのモレやダブリをチェックすることができる。
工業会の出荷ベース金額を末端消費者ベースに換算し、市場全体を推定すると、多少モレの修正は加えても約 7000億円近い市場規模となった。
また、成長を見ると年 4%程度の微増。
市場規模の用途別規模としては、洗濯用、台所用、住居用の順序でそれぞれ 60%、 20%、 10%程度。
さらに、合成洗剤が洗剤市場の 97%以上を占め、石鹸は 3%にも満たない 170億円程度の規模しかなく、伸びは鈍化していることがわかった。
これを単純に解釈してしまうと、エコロジー寄りの石鹸というカテゴリーは、参入するにしては「超ニッチのあまり将来性のない市場」で終わってしまう。
しかし、さらに詳しく調べると、いくつかの事実がわかった。
定量化はできないが重要なポイントである。
まず、ここ数年、合成洗剤メーカーが肌や健康に配慮した合成洗剤を商品化し、アピールしているという事実。
また、東京湾の汚染原因の 70%は家庭廃水で、家庭廃水の 50%は台所と洗濯廃水が占めるという事実(図 4 10)。
そして、 90%以上の主婦が環境保護に対する関心が高いという事実。
一方、合成洗剤と石鹸の性能を比較すると、洗浄力や使用感ではっきりと違いが出てしまうというネガティブな事実。
とはいえ「生分解性*」という観点から見ると、石鹸は成分的には生分解性が抜群に高い。
さらに分解スピードも速く、環境への影響度が低いことが明らかになった(図 4 11)。
こうした定性データも含め、いくつかの事実を積み上げてその意味合いを考えると、技術や製品の切り口に限界はあっても、消費者の「自然にやさしいもの」へのニーズは高まりつつある。
そういう意味で考えると、洗剤製品と市場の切り口に構造的なズレが生じていることがわかる。
そこを大手企業は、合成洗剤ながら、うまい具合にメークアップした「自然にやさしい」風の商品を出している。
私は市場に関しては可能性ありと結論を出した。
市場
市場規模からは洗濯用、台所用、住居用という順位になる。
しかし、 CS・ CE調査(ワンポイントレッスン 6)の結果により「肌にやさしい」と「自然にやさしい」の2つの項目に関して、 CE(期待値)が高いのに CS(満足度)が低く、ギャップが大きいこと、また S社の商品やユーザーとの相性のよさを考え、台所用を最優先とし、以下洗濯用、住居用とした。
CS・ CE調査といっても、仮説のスピーディな検証が目的であり、大がかりな調査はせず、現在使用している洗剤に対する満足度と今後洗剤に期待することを大きく 洗浄力、 価格、 肌にやさしい、 自然にやさしい、 成分自体、 パッケージ・デザイン、 サイズ/ボリューム、 ブランド・イメージに分け、重要項目に限りさらに細分化して調査を行った。
調査対象は新しいチャレンジに協力的な販売代理店(ディストリビューター)のユーザーである。
*生分解性とは物が分解して自然に戻る性質をいう。
最近では環境保護上、プラスチックでさえ生分解性プラスチックが開発され、いろいろな材質での開発が盛んである。
ワンポイントレッスン 6 CS・ CE分析:顧客にとっての価値を高めているか? ゼロベース思考 で説明した「顧客にとっての価値」を具体的に分析し、戦略に反映させるための定量的分析手法である。
顧客第一主義を経営理念のトップに掲げながらも実践されていない企業は、この分析を一度試みるべきだ。
自社の商品やサービスの各項目に関する現在の CS(顧客満足度)と将来への CE(顧客期待度)を競合品との比較も含め定量的に分析する。
その結果を 2 2のマトリックスに落とし、打ち手の優先順位を決定する。
たとえば、右下の象限に入る、 CE(将来への期待度)が高いが CS(現状での満足度)が低い項目の場合は、大至急改善しないといずれ顧客離れが生じる。
商品開発やユーザーへのサービス体制の競争力を高めるためには重要な分析だ。
——競合( Competitor)分析エコロジー寄りの洗剤市場は石鹸市場としてとらえると小さいが、消費者の方向性としては確実にシフトしている。
そして、大手メーカーは市場への対応を合成洗剤をベースにしながら、メークアップ方式で解決しようとしていることが市場の分析でわかった。
したがって、競合をチェックするポイントは、価格競争に巻きこまれないようにしながら付加価値を取り込むことが可能か、となる。
ここは、 S社が付加価値の高い商品を扱っているという意味も含めて、分析上重要な部分である。
この情報は手分けしてフィールドからかき集めた。
実際に、どんな商品がどのようなチャネルで、いくらの実売価格で消費者に買われているのかまで調べる必要がある。
海外のものも含め、ほとんどすべての商品をすべてのチャネルから購入した。
倉庫は洗剤だらけである。
スタッフも通信販売や訪問販売、紹介販売の会員になって手に入れた。
こうした情報をもとに付加価値分析(ワンポイントレッスン 7)を行うと、以下のように面白いことがわかった。
洗剤によって入っている容量も異なれば、希釈密度や 1回当たりの使用量も違う。
分析にあたっては、これらの条件をすべて標準化したうえで、台所用洗剤を例にとり、 600 ml当たりの価格を求めて比較したところ、商品やチャネルによってかなりの付加価値の差が出てきた(図 4 12)。
同じ小売りの棚で合成洗剤と石鹸を比較して、値引率も勘案したうえで単純平均すると、 16%石鹸が高い。
さらに合成洗剤のくくりで、小売チャネルと直接販売チャネル(通信販売や訪問販売など)を比べると、まず直接販売チャネルでは定価販売であるため 31%も高い。
結論を単純化すると、石鹸をもし直接販売チャネルで売った場合は、 1. 16 1. 31 = 1. 52であるから、理論的には 52%高い付加価値が取れるということになる。
同様の分析を、洗濯用や住居用に関しても行った。
その結果、競合・チャネル面での結論は、エコロジー寄りの商品カテゴリーで直接販売ルートを活用した場合、付加価値の取れる可能性が高いということであった。
そして重要性を増した直接販売チャネル・ルートの市場規模を調べると、約 600億円ある。
直接販売チャネルの企業とは、日本アムウェイが 50%近いシェアを持っているが、その他はダスキン、ホームケアジャパン、生協や生活クラブといったところだった。
ワンポイントレッスン 7付加価値分析:自社の価値を生み出す源泉はどこか?顧客にとっての価値を生み出すプロセスを、ビジネス・システムやバリュー・デリバリー・システムに沿って原材料の調達からエンドユーザーに至るまでの付加価値構成に細分化して分析する。
自社の付加価値上の問題の所在を明らかにするときに活用する。
特に、競合との比較は重要だ。
ただし、自社の付加価値を高めるために、単純に川上・川下展開すればいいというわけではない。
自社の強みに特化しながら、必要なものはアウトソーシング(社外調達)する考え方は、今後ますます重要性を増す。
——自社( Company)分析自社分析のポイントは3つあった。
自社で中身が作れるのか? 売上げはどの程度確保できるのか? 利益は出せるのか? 特に売上げに関しては、売上げそのものの重要性以上に、当初の目的でもある、ロイヤルティの高いユーザーを S社のシンパとして囲い込んでおけるのかという点が大事であった。
この段階で台所用洗剤の想定売上規模を 仮説思考 により推定してみよう。
S社の販売組織は 10万 3000人の販売員を擁している。
ただし、先に述べたように 20 80ルールにより、 20%の 2万 3000人は活動的販売員であるが、 80%の 8万人の販売員はカスタマー化している。
活動的販売員 1人当たりの平均顧客が 50人と仮定すると、販売員自身も含んだ全ユーザー数は、全ユーザー数 = 50 23, 000 103, 000 = 1, 253, 000人であるから、約 125万人となる(図 4 13)。
この中で、肌や環境への関心が非常に高い人、および他の直接販売ルートを使っている人が、比較的ブランドスイッチしやすい層と仮定。
20〜 50%の幅でとりあえず押さえておく。
一方、台所用洗剤の使用年額は、 1本 250円の 600 mlボトルを月当たり 1. 5本消費すると仮定すると、洗剤の使用年額 = 250円 1. 5本 12ヵ月 = 4500円/年したがって、 S社が取り込める市場は、 4500円/年 125万世帯 20〜 50% = 11〜 28億円/年ただし、商品とチャネル特性を考えると付加価値がさらに取り込め、 50%アップとすると、 17〜 42億円/年の売上増が見込まれることになる。
一方、クレンザー類を除く家庭用台所用洗剤の市場規模は全世帯の 70%をファミリー世帯と仮定すると、 4500円/年 4000万世帯 70% = 1260億円であるから、前述の調査資料からの推定市場規模 7000億円に台所用の推定用途別規模 20%を掛けた計 1400億円とおおむね合致している。
そうすると、シェア的には 1〜 2%程度であるから大手が目くじらを立てるほどのこともない、ニッチである。
まあこの程度なら売上貢献度から考えてまずまずといえる。
次の課題、自社で中身が作れるのか? については、共同開発しか選択の余地はない。
装置産業的な洗剤プラントを造るだけの初期投資は、まったく念頭になかった。
それは 10〜 30億円程度の売上げでは、計算するまでもなく収支が合わないからだ。
利益は出せるのか? に関しては、商品やチャネルの選択により付加価値は取れそうだというのはグッドニュースだが、いったいどの程度の仕入れができるのか検討がつかない。
一応、外部から製品を調達する際の仕入コストに関しては、トップと協議のうえガイドラインを設定していた。
3解決策を実行する 1協力メーカーを絞り込むこの段階に来ると、実際に OEM共同開発の可能性のある洗剤メーカーをあたりながら、ある程度具体的に内容を打診しなければ先には進まない。
まず、メーカーのリストアップである。
国内外のメーカー 10社のロングリストを作成した。
開発パートナーの条件は単純に2つ。
1つは、肌と環境にやさしいエコロジー寄りの商品開発力を持っているか、というこちら側にとっての理由。
2つ目は、相手にとって、 S社のチャネルとブランド力を利用するメリットがあるかということだ。
したがって、販売力のあるフル・カバレッジの大手合成洗剤メーカーは自動的に振り落とされ、海外 1社を含む 3社がショートリストとして残った。
早速、打診開始である。
このような場合のコンタクトのコツは、トップダウン、つまり、組織のできるだけ上から順にコンタクトを開始することである。
この洗剤の例に限らず、私のとったアプローチは、他の 4カテゴリーの商品群の開発パートナーを探す場合でも、上場、未上場といった企業の規模や格に関係なく、すべて代表取締役社長に直接電話することから始まった。
ビジネスはギブ・アンド・テイク。
相手にとってのメリットが明確であれば、一応は話し合いのテーブルにはつくことができる。
そして、企業の規模に関係なく社長は社長、最終意思決定者なのだ。
少なくとも、商品開発がらみでは 30社以上の企業の社長に直接コンタクトを取ったと思うが、相手にされなかったのは数社にすぎない。
その場合は、相手にとってのビジネス上のメリットがないということである。
こうしたアプローチが可能だったのは、もちろん
自分の背後には 2万 3000人の強力な販売組織網と合計 125万人以上の顔の見えるロイヤルティの高いユーザーが控えているという、チャネルとしての強みがあったからであり、新しい動きに協力的な販売会社(ディストリビューター)のバックアップがあったからだ。
こうして、ショートリスト 3社へのコンタクトが開始され、結局、日本企業 1社と海外企業 1社に絞られた。
そして、最終的にはベルギーに本社を置く E社とパートナーシップを組み、共同開発の可能性を模索することになった。
E社は、ヨーロッパでは環境保全型洗剤のトップブランド企業として認知されている。
来日した E社の国際本社 CEOの話からは、環境への影響を最小限にとどめることを企業理念として掲げながら、商品の品質・機能性を追求する明確なポリシーが伝わってきた。
さらにヨーロッパでは、自然環境を守るさまざまな啓蒙キャンペーンも実施しているという。
そして何よりも決め手となったのは、 E社は石鹸の強みである環境や手肌への影響の少なさを生かしながら、一方で、石鹸の欠点でもある洗浄力の弱さやヌメリ感、そして臭気を補完する複合洗剤という、石鹸と合成洗剤のメリットを吸い上げた商品を開発し、すでに市場導入していたことである(図 4 14)。
あとは、日本市場に合った、コスト的にも採算の取れる商品が開発できるかどうかにかかっている。
2商品をユーザーの目線でチェックする開発が始まると、まずベンチマークとして開発者が提案してきたのは、 E社の現商品を少し改良したタイプのもの。
欧米人は気にしないのかもしれないが、どうしても魚の脂のにおいとヌメリ感が気になる。
こうして、製品のプロトタイプは何度も作り替えられては、我々自身が消費者の目でチェックした。
同時に、外部の専門家にも評価を依頼した。
次第に期待に沿う商品が完成しつつあった。
そこで、トップを GOの方向で説得するためにも、市場分析で不十分だった現在の他社商品の利用状況や、価格の値頃感に関する調査も兼ねて、クリームクレンザーと台所用液体洗剤 2種類のホームユース・テストを約 1ヵ月間、 120人に行うことにした。
調査の結果は上々だった。
現在使っている商品との使用感を比較しても、洗浄力、ヌメリ感、においに対するネガティブな反応はほとんどなかった。
むしろ、いままではゴム手袋をしないと手が荒れてしまう主婦の方々から、手袋をしないで利用しても肌荒れがないという、非常に良い反応が戻ってきた。
石鹸成分 60%に天然の植物性油脂から精製された良質の界面活性剤を加えた「複合洗剤」で、従来の石鹸の欠点である、洗浄力、ヌメリ感、臭気は全面的に改良された。
もちろん、人によってはもともと皮膚の強い人もいるわけで、そうした人にとっては肌への影響はまったく関心のないことであり、むしろいま使っている洗剤との使用感の違いがしっくりこないという人もいた。
しかし、皮膚の敏感な人は常に手の荒れない洗剤を探しているようで、現実的には大きな問題なのである。
商品の品質上の問題は、かなりクリアされた。
問題は価格設定である。
複合洗剤の成分や内容について改良に改良を重ねる過程で、技術者は使用する素材の品質を上げることに腐心したため、原材料費がどんどん上がっていってしまったからだ。
価格と品質は相矛盾する部分もあり、なかなかコストを抑えながら品質を向上させるというのは難しいものだ。
技術者にとって、どこまでもつきまとう課題だ。
したがって 120名程度の簡単なリサーチとはいえ、価格の値頃感に厳しい評価が下された場合、前途は多難であると思われた(ワンポイントレッスン 8)。
そして結果は、約 50%の主婦が、この商品なら 600 mlボトルで 400円でも購入すると出た(図 4 15)。
1ヵ月の短い試用テストという限界はあるものの、スーパーで売られている合成洗剤が 200円以下で、石鹸タイプのものが 300円前後という状況では、多少割り引いて考えても、まずまずの結果といっていい。
また、商品としても、人間と自然への影響を最優先したものでターゲットが絞られており、必ずしも万人受けする必要はない。
いずれにしても、市場と現在出回っている商品にズレが出始めたところに、ニッチながら正攻法で新商品をぶつけることができそうである。
さらに、現在使っている商品や購入チャネルを分析すると(図 4 16)、石鹸および合成洗剤でも手肌への影響を改良したタイプを使っている人が約 30%。
また、スーパーや一般店頭からではなく、直接販売チャネルからの購入が 40%強であるから、ニッチとはいいながらも、価格次第ではかなりの市場は取り込めそうである。
ここで、もう一度売上予想のシミュレーションを行ってみた。
仮の価格を 350円と設定する。
この場合の年間使用金額は、 1本 350円の 600 mlボトルを月当たり 1. 5本消費すると仮定すると、洗剤の使用年額 = 350円 1. 5本 12ヵ月 = 6300円/年一方、価格の値頃感調査によると 350円では 70%の主婦が購入するから、これをうまくいった場合の上限と考え、最大 70%の顧客獲得。
また、商品の試用調査からは、現在、石鹸および改良タイプの合成洗剤の利用率が約 30%であるから、このうちの約半分が手荒れに切実な主婦で確実にブランドスイッチできると推定し、最小では 15%。
したがって、 S社が取り込める市場は、 6300円/年 125万世帯 15〜 70% = 12〜 55億円/年ということになる。
したがって最低でも 10億円程度は期待できる。
これは、堅実な推定である。
クローズドの顧客の顔の見える直接販売だから、高い精度での推定が可能なのである。
ワンポイントレッスン 8価格分析:「価格弾性値曲線」と「マークアップ方式」価格の変化と需要の関係を分析し、さらに競合関係を考えたうえで、市場占有率と自社の収益性の両面から戦略的に価格を決定する。
価格と需要の関係は、一般的には価格弾性値曲線によって近似することが可能。
図に示すように高価格帯では価格の変化に対する需要の変化は小さいが、低価格帯では価格の変化に対する需要の変化は大きい。
また、価格弾性値 が大きいほど普及型のマスプロダクトとなり、価格の変化に対する需要の変化が大きくなる。
一方マークアップ方式とは、あらかじめ諸々の費用や確保すべき収益率を考えたうえで価格を設定する方法である。
価格の決定は通常、値頃感などという推定の価格弾性値曲線を頭の中に描きながらある程度価格を設定する。
そして、市場占有率や売上げ、利益を検討したうえで最終決定が行われている。
しかし、いずれにしても価格決定の基本はこれらの考え方の組み合わせである。
3「 GO」への障壁が発生するこうして最終プロトタイプ商品ができ上がった。
経営会議の場での討議も十分に尽くされ、いよいよ「 GO」の方向で開発パートナーの E社と最終ステージに向かうことになった。
E社は、何度にもわたる開発のやり直しから、ホームユース・テストのサンプル提供、外部第三者機関による成分や性能テスト実施への協力など、大変なエネルギーをつぎ込んでいた。
ところが、ゴールまであと 1歩というところで大変な事態が発生した。
S社の日本の社長が驚いた顔で私の席にやってきて、「アメリカ本社の CEOが、洗剤開発に NOのサインを出した」というのだ。
実は、洗剤の開発は日本以外でも進めていて、オーストラリアの合成洗剤の OEM製品開発については私も知っており、合成洗剤カテゴリーでの開発にはかなり疑問を持っていた。
今回 NOのサインを出したのは、オーストラリア、アルゼンチンでの安易な合成洗剤の開発に対してであったが、それは洗剤すべてという意味にもとられた。
日本の社長にとっては、アメリカ本社の CEOと対立してまで、それほど大きな売上貢献度のない商品をあえて出す理由はなかった。
しかし、アメリカ本社の CEOの方針とはいっても、一般の合成洗剤とは一線を画する今回の複合洗剤を日本市場で出すリスクは小さい。
何よりも前述のごとく、 Nシステムという新販売システムには、同時に顧客をつなぎ止めるさまざまな消耗財が不可欠であったのだ。
要するに、消耗財と新システムは車輪の両輪なのだ。
その点では最終ステージまで進めることができた洗剤は、消耗財の要。
それだけではない。
最初の仮説で NOだったものが GOになった背景には、開発パートナーや前線の販売店、販売員の協力もあり、明確な理由なしに簡単にあきらめるわけにはいかなかった。
しかし、このアメリカ本社の CEOの発言で今後の進め方が非常に難しくなったことは、厳然とした事実であった。
このような事件の背景には、突き詰めれば管理スパンが大きく、重大な管理責任は問われるものの、本当の最終意思決定権を持ちえないローカル CEOの限界がある。
いわば、最終権限を持たない日本の大企業の支店長のようなものである。
もう1つの原因は、アメリカ本社から距離が遠くなればなるほど、ローカルの戦略を認識するのが難しくなり、アメリカ本社 CEOの権限と、市場の認識度のギャップから生じる。
しかし、こうした状況はどの外資系企業にも多かれ少なかれ存在する、当たり前のことである。
それを打開するためにボス・マネジメントに知恵を絞るのがマネジメント・メンバーの務めでもあり、だからこそエネルギーを振り絞ってチャレンジする面白さも生まれる。
4前進のくさびを打つ鉄は熱いうちに打てというが、とにかく冷めきらないうちに手を打つ必要があった。
「もうやめましょう」と言えば、政治的には簡単に終止符が打たれるが、それではみんなの努力が水の泡。
実行すれば、成功する確率は生まれる。
「 GO」と「 NO GO」、白と黒の間で、なんとかもう一度「 GO」に近づくために、後戻りしないための「くさび」を打ち込む計画を立てた。
管理職とは、英語でマネジメント。
管理するという日本語で考えると、上が下を管理するという意味が強すぎて、ついつい自分と上司を管理するのを忘れてしまう。
セルフ・マネジメントもボス・マネジメントも大事な仕事の1つである。
ボス・マネジメントが管理職の 50%の仕事と考えれば、やるべきことはたくさんある。
上司への不満を言っている暇はない。
理屈も理論も通用しない相手には、理屈や理論以外の手を使えばいいのだ。
とにかく、日本の社長に腹をくくらせるために、ボス・マネジメントの3つのくさびを打ち込むことにした。
まず最初のくさびは、ポット型浄水器「 A-SLIM」のときと同様、アジア・パシフィックのマーケティング担当責任者に対して複合洗剤のプロジェクトを説明することである。
彼は日本の社長とほぼ同格であり、日本の社長との人間関係も良い。
もちろん商品開発上の影響力も強く、アメリカ本社とのパイプが太い。
そして何よりもロジックやファクト・ベースでの議論を重んじる人であった。
彼に日本の複合洗剤がオーストラリアやアルゼンチンの合成洗剤とは、内容も戦略的位置づけも違うことを理解してもらう必要があった。
幸い、各種キッチンツールやドライフード商品の売上貢献度によって私に対する信頼感ができていたため、商品内容および新販売システムとの連携上の重要性に関しては、きわめて前向きなスタンスで話を聞いてもらうことができた。
そして、後に彼が日本とアメリカ本社のニュートラルな情報の橋渡しになった。
第 2のくさびは、全国 2000人モニター調査の実施である。
調査対象は、一般ユーザーと販売員とした。
すでに 120名ではあるが、約 1ヵ月の試用調査を行っていたので、消費者の試用反応調査という意味では数は 20倍になったものの、再検証の意味合いしかない。
しかし、これには2つの重要な目的があった。
アメリカ本社の CEOの「 NO GO」サインが出る前に日本の経営会議の場で「 GO」サインが出ていたため、 E社は実際の生産開始のスケジュールに合わせた準備を開始し、水面下で素材メーカーや容器メーカー等との仕入れ交渉や、日本での委託生産先のラインの増設手配など、着々と生産準備体制を整えつつあった。
したがって、ここで一度プロジェクトを凍結すると、たとえ再開することになったとしても、かなりのタイムラグが生じることになる。
そして、複合洗剤の内容の詰めにあたっては、コスト上の課題もあり、かなり原材料メーカーにはコスト面で協力をお願いしていたため、いったん打ち切った後でまた同じ条件でというのも、交渉上はなかなか難しい部分があった。
要するに、やめるわけにはいかないし、市場に商品を出すという前提では、
では、先に引き延ばすメリットは何ひとつない状況であった。
私はここで決着をつけなければならないと決意した。
E社にも海外でのいきさつや事情を説明したうえで覚悟をしてもらい、とにかく 20倍の事実の重みでまず日本のトップへの決断を迫るということで合意した。
そして、もう1つの目的は 2000人のモニター調査とは形式的な位置づけであって、実態としては 2000人への新商品事前発表会的に調査に含みを持たせたことである。
要するに草の根レベルでのファンづくりといっていい。
したがって、調査対象は全国の中でも規模的にも、成長率で見ても元気のいい 10の販売会社(ディストリビューター)を選定し、その販売会社傘下の、非常に前向きで優秀な販売員とユーザーを巻き込む形に設計した。
そして調査依頼にあたっては、スタッフを総動員して各地区での説明会を設定すると同時に、私自身も時間の許す限り調査をお願いする販売会社に赴き、リピートオーダーにつながる消耗財の戦略的重要性と複合洗剤の優れた内容を説いてまわった。
そして、3つ目のくさび。
「 GO」あるいは「 NO GO」の結論は、いずれにしても日本支社が最終的に下す必要がある。
そのために、 E社が直接 S社の経営会議の席で最終提案を行い、その場で討議・判断を下す場面を設定した。
もし「 NO」ならば、複合洗剤の開発は完全に打ち切りである。
E社は、 2000人調査の分析も含め、かなり綿密なプレゼンテーションの準備を行った。
プレゼンテーションの予行演習には私も立ち会い、想定されるあらゆる質問を指摘し、周到に準備をした。
内容に関してはすでに社内の経営会議で十分に討議されていたため、最終提案のプレゼンテーションは双方にとって最終判断への儀式であった。
このような、後に戻らないための3つのくさびを実施したわけだが、香港のアジア・パシフィック本部への根回し以外は、それぞれのくさびの計画はトップの確認を取ったうえで実施しており、それぞれの計画が自分のボスである日本の社長に承認された段階で、これはもしかしたらなんとかなるかもしれないという光が見えた気がした。
事実、くさびの 2と 3は、否定されればかなりのノックアウト・ファクター的要素が強い。
この3つのくさびは、思った以上に効果を発揮した。
日本の社長は、もとはといえば自分自身も現場で物を売った経験を持つ根っからの営業マン。
アメリカと日本という国の違い、自分で苦労して売った 20年前の昔と今の違いはあれ、販売第一線での販売員の悩みがわからないわけがない。
“ Foot in the door”のためにリピート性のある商品を顧客に買い続けてもらう必要性は、よく理解していた。
この3つのくさびは、論理的アプローチとは言い難いし、ほかにも手があったかもしれない。
しかし、ボスを説得するというコミュニケーション上の課題を、プロセスにおいてはきわめてグレーではあるが、なんとか解決することができた。
遂に「 GO」である。
ただし、あくまでも「テスト」販売という位置づけでの承認であった。
それはアメリカ本社への、弁明(エクスキューズ)をあらかじめ組み込んだ、日本の社長としてはぎりぎりの決断であった。
とはいえ、実際に商品を市場に送り出すことが決まったことに違いはない。
本当に良い商品であれば、現場の販売員もロイヤルティの高いユーザーもサポートし、それが結果として出るはずである。
それは、テスト販売だろうと本格導入だろうと、本質的には変わらない。
こうして、日本国内でのテスト販売という「ベターな解決策」が決定された。
アメリカ本社への次年度計画のプレゼンテーションでは、アメリカ本社の CEOをはじめとするボードメンバーに対して、私が担当する日本の新商品計画と新販売システムについて発表を行った。
当初はこの複合洗剤計画はプレゼンテーション資料からは外していたが、結局はアメリカ本社 CEOの顔色をまさにうかがいながら、そろりそろりと発表した。
イエスもノーも反応がないままの、一見無視に近いノーコメントのままであったが、ダメな場合は烈火のごとく激怒する性格から推察すると、テスト販売は黙認されたようだ。
日本の社長は、とにかくハラハラしていたが、これでひと安心である。
5テスト販売に挑むこのようなプロセスをたどり、テスト販売方式によるステップ・バイ・ステップのプロセスではあるが「 GO」サインも出され、市場導入に向けて最終段階に入ることになった。
そして、 S社と E社間での、開発・販売に関する共同開発契約および独占的販売契約も交わされ、これをもって後戻りしない最終くさびとした。
商品に関しては、まず 2種類、台所用液体洗剤と台所用クリームクレンザーとし、 600 mlの基本ボトルをベースに、それぞれ詰め替え用の 2〜 3本パックセットの袋入りレフィルを計画した。
そして、ネーミング、パッケージ・デザイン、販促資料の準備も同時に開始された。
2000人モニター調査を参考にしながら、地域展開を考えた販売予測と生産計画を何度も練り直しながら詰めていき、生産準備体制は着々と進んでいた。
そして名古屋地区での半年間のテスト販売を経て全国展開が図られた。
この洗剤をはじめとする新商品群と新販売システムは、展開後約 1年間で、新カテゴリー商品群による売上貢献が約 50億円(当時の S社の年間売上高が小売ベースで約 270億円であるから、貢献度は約 19%)。
また、開発・マーケティング費用はほとんどを開発メーカー側に負担してもらったため、新販売システムによる資源の再配分から生まれる本社への利益吸収部分と合わせると、税引前利益ベースで約 20億円を新たに生み出すことに成功し、当時の売上成長と収益改善に大きな貢献を果たすことができた。
もちろんダイレクト・セリングという販売システムの特殊性があるとはいえ、社内新規事業という側面から評価すると、新たに約 50億円の売上げと 20億円の営業利益の達成は、決して簡単なことではないと思う。
この成功はすべて、2つの思考 ゼロベース思考 仮説思考 と、2つの技術 MECE ロジックツリー 、そして問題解決の実践的方法 ソリューション・システム を常に使うように心がけたからである。
そして1つ付け加えるならば、ビジネスの現場で実践するには、前向きにチャレンジする相当なポジティブ・エネルギーが不可欠である。
あとがき ——どうしたら問題解決ができるようになるのだろうか?企業の経営上の課題を解決するために、新人から経営のトップに至るまで、さまざまなビジネスマンや経営コンサルティング・スタッフとともに数々の問題解決に取り組んできたが、「どうしてだろうか?」といつも気になるのは、問題解決スキルのバラツキが、個人によってきわめて大きいことだ。
巷にあふれるビジネス書や経営の理論書はみんなよく読んでおり、人によっては、ビジネススクールで専門分野ごとの実践的解決法も勉強している。
それなのに、どうも考えが浅かったり、理屈ではそうも見えるが実行できそうな実感が持てなかったり、なかなかピンとくる解決策が出てこない場合がある。
問題解決のプロジェクトチームに選抜されたビジネスマンは、少なくとも自分のいる現場に関しては、その業界の裏も表も、ビジネスのメカニズムはよく理解しているはずだし、それをサポートするコンサルタントは、実践的問題解決のフレームワークをかなり勉強しているはずだ。
ビジネスの最前線で仕事をこなしているビジネスマンは、毎日の忙しさの中で日常業務をこなすのが精一杯。
問題はわかっていても、解決策を考える時間がなかったり、ましてや他の部門を巻き込む形で問題をとらえる習慣ができていないのか、評論は一流だが解決策がなかなか出てこない。
また、新人コンサルタントが、ビジネススクールで仕入れたフレームワークを、考え方の本質をしっかり押さえないまま表面的に応用すると、相手をやり込めるディベートは一流でも、ズレやキシミを起こしギクシャクするだけだ。
しかし、一方では鋭い切り口で問題を定義し、解決策を提案し、実行に移す問題解決力に優れた人もいる。
優れた能力と知識に相関関係はなく、むしろ一番の大きな違いは、とにかくよく考えていることと、そして自己責任において自分の結論(仮説)を持って前向きに実行する力を備えていることだ。
この「どうしたら問題解決ができるようになるのだろうか?」という素朴な疑問に答えながら、できるだけ多くの人に優れたプロブレム・ソルバー(問題解決者)になってもらいたいと思ったのが、本書を執筆する直接のきっかけとなっている。
——本書の特徴は何か?本書で紹介している問題解決の思考と技術は、トランプで言うとオールマイティのカード、ジョーカーに当たる。
なぜなら、ビジネスに関する限り、どのような場面のどんな立場の人にとっても役に立つ思考と技術を取り上げているからだ。
本文の中でも再三述べているように、基本となる考え方は、だれもが無意識的に使っているきわめて当たり前のものばかりである。
それを、ビジネスの現場でだれもが意識的に活用できるように体系化したのが本書である。
しかし、どのような場面でも、だれにでも役立つように体系化するには、少なくとも「理論としての汎用性」と「実務に役立つ具体性」の2つの要件を満たす必要がある。
したがって、「理論としての汎用性」を満たすために、2つの思考 ゼロベース思考 仮説思考 と、2つの技術 MECE ロジックツリー 、そしてそれらを総合した1つのプロセス ソリューション・システム の、5つの基本的な考え方に集約させた。
つまり、問題解決のコンセプトをできるだけ単純化し、理論として考える力を養うようにするために、知識的フレームワークや応用的理論はすべて排除し、理解するうえで必要なものに限り載せるようにした。
また、「実務に役立つ具体性」を示すために、さまざまなビジネスシーンへの、それぞれの考え方の実践的適用例を紹介している。
このように本書を設計したのは、本書の最終目的が単に「わかること」で終わるのではなく、あくまでもビジネスの現場で「実行できること」を支援することにあるからだ。
そのためには、この「単純」というコンセプトが、きわめて重要になるからである。
ところで、どの企業にも本書で示した問題解決を行っている人が、必ず 1人は存在するはずだ。
それは、代表権を持った社長である。
企業規模の大小にはまったく関係ない。
社長は、部門の壁を越えた ゼロベース思考 で、企業全体として最適な解決策を考えるため 24時間知恵を絞り出すのが仕事なのだ。
もちろん、情報が足りなくても、デッドラインがくれば結論を即座に出さなければならない。
これは、まさに 仮説思考 そのものだ。
そして、さまざまな課題に対して最適な経営資源の配分を行うために、 MECE で考え、 ロジックツリー でチェック・具体化し、 ソリューション・システム で解決策の代替案を出し、最後に検証・評価している。
そういった意味では、本書は、創業時の社長が現場で問題解決を図るときに使う思考と技術を体系立てたものでもある。
——なぜいまの時代に問題解決の思考と技術が必要なのか?企業にとってのパラダイム・カタストロフィー(枠組みの崩壊)は、そのまま企業に属する個人にとっても、パラダイム・カタストロフィーへの直面を意味することになる。
ビジネスを取り巻く環境が大きく変化する中で、企業はますます自社の強みに徹したプロフェッショナル志向を推し進めようとしている。
要するに、付加価値のいちばん高い、最も強みとする機能にフォーカスしながら自社の競争力を高めようとする方向性であり、アウトソーシング(社外調達)はその裏返しといえる。
こうした動きは、企業の人事評価制度や人材育成制度にも反映されている。
従来の平均的人材像への平均的資源投入から、成果主義を取り入れた評価・動機のメリハリづけや選抜方式による人材育成へと、大きく変わりつつある。
これは、第 3章の冒頭の例でも述べたように、企業自身が「 UP型人材」のフェアな評価・育成を促進しながら、同時に「 OUT型人材」を厳しい選抜・評価システムの中で自動的に振り落とす、明確な線引きとなって表れている。
こうした状況下では、自分の市場価値を客観的に認識したうえで、自分のやる気( WILL)を維持しながらどのように能力( SKILL)を向上させるかが、ますます重要になってくる。
それは、専門分野や職種によって求められる能力に違いがあっても、安定した高いパフォーマンスを生み出すプロフェッショナルを企業がさらに求めてくるということだ。
そして、そのプロフェッショナルが企業の中で生み出す価値に応じて、それぞれの評価・待遇が決まってくる。
こうしたプロフェッショナルはどこの企業でも通用するため、市場価値にきわめて敏感であり、今後人材の流動化はますます進行するだろう。
それでは、自分自身の市場価値を高めるための最もベーシックで重要なスキルは何か。
私は問題解決の能力であると考える。
それは、どの分野でのプロフェッショナルを目指すにしても、まず「問題解決のプロフェッショナル」になることが、「 UP型人材」として自分の市場価値を最大限に高めることの始まりになると考えられるからだ。
そこで、本書がやる気にあふれ「 UP型人材」を目指してはいるが、何をどう考えたらいいのか試行錯誤しているビジネスマンに対し、何らかのサポートになればと思っている。
——これからの問題解決のアプローチ方法は?第 1章の冒頭でも述べたように、「わかること」から「実行できること」に移行し、最後に「結果がうまくいく」ところまで導くためには、大変なエネルギーが要求される。
そして、「わかること」と「実行できること」は、足し算ではなく掛け算であり、どちらかが
かがゼロになれば結局何も生まれない。
1 0 = 0よりは、 0. 7 0. 7 = 0. 5のほうが、はるかにましなのだ。
そのためには、問題解決と実行をワンセットで自主的に行うことがポイントになる。
他人に解決策を与えられ、なんとか「説得」されて自分が実行するのと、自分たちの力で解決策を練り上げて「納得」したうえで実行するのとでは、結果に雲泥の差がある。
それは、本書の随所で述べているように、解自体が常に変化する中で解決を図るためにも必要な条件である。
「問題解決のプロフェッショナル」になるためには、自己誘導型ミサイルのように、「走りながら解決する」のが最短かつ最善なのである。
私自身もこれまで経営コンサルタントとして、また大手家庭用品メーカーのマネジメント・メンバーとして、いろいろな立場でさまざまな種類の問題解決に取り組んできた。
私が現時点で到達した結論は、自主的問題解決が最も優れた結果を生み出すということである。
現在、私が企業の問題解決に取り組む場合には、この自主的問題解決を最大限に高めるための「コラボレーション・アプローチ」をとっている。
企業自身が自主的に問題解決することを目的とするこのアプローチは、企業の担当者やプロジェクトチームに対して問題解決のトレーニングを行うと同時に、ワークショップ形式で私自身が議論を活性化するための触媒となり、解決策の立案を行う。
必要に応じて、さまざまな分野のプロフェッショナルからなるコラボレーション・チームを組み、問題解決を強力にバック・アップすることもある。
コラボレーションとは、解決のために共に働く( co labor)という意味である。
これまで、コンピュータ関連や医薬品関連といった非常に変化の激しい業界のシナリオやロードマップづくりをはじめ、比較的成熟・安定した食品や飲料業界の新規ビジネスの立ち上げのサポートなど、この「コラボレーション・アプローチ」により自主的問題解決を図り、効果を上げている。
また、企業を対象にした問題解決のためのトレーニングも行っている。
2 ~ 3日間のワークショップ型トレーニングが中心となる。
これは、外資系コンサルティング会社、金融機関、生命保険会社、広告代理店、コンピュータ機器メーカー、百貨店、輸入商社、製薬企業等広範にわたり実施している。
本書は、そうしたトレーニングの基本を理解するための教科書でもある。
最後に、本書の執筆にあたり新人コンサルタント時代から現在に至るまで、経営上の問題解決の基本スキルを吸収する場と機会を与えてくれたマッキンゼー社およびクライアント企業にこの場を借りて、厚く御礼を申し上げたい。
また、草稿にあたっては、多くの有益なコメントをいただいた現 ファーストプレス代表( DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー前編集長)の上坂伸一氏、そして新装版にあたっては、 DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長岩崎卓也氏、副編集長木山政行氏、田中順子氏、 インフォナビ代表上野佳恵氏に御礼を申し上げる。
ビジネスコラボレーション代表 齋藤嘉則本電子書籍は 2014年9月 3日にダイヤモンド社より刊行された『新版問題解決プロフェッショナル』(新版第 6刷)を、一部加筆、修正の上、電子書籍化したものです。
[著者]齋藤嘉則(さいとう・よしのり)株式会社ビジネスコラボレーション代表東京大学工学部卒業。
英国ロンドン大学ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス( LSE)校にて経済学修士( MSc)を取得。
マッキンゼー・アンド・カンパニーの経営コンサルタント、米国大手家庭用品メーカーのゼネラル・ディレクター等を経て、’ 96年より現職。
大手企業を中心に経営戦略やマーケティング戦略のコンサルティング、企業の戦略プラットフォーム強化のための戦略スキル開発、新規事業開発のためのナビゲーション、幹部教育、問題解決技法や状況マネジメント力強化のトレーニングなどの指導を行う。
著書に『問題解決プロフェッショナル 思考と技術』、『問題発見プロフェッショナル 構想力と分析力』(いずれもダイヤモンド社)、『戦略シナリオ 思考と技術』、『コラボレーション・プロフェッショナル』、『齋藤嘉則の現場イズム』(いずれも東洋経済新報社)、『戦略パワー・プロフェッショナル』(ファーストプレス)。
他に監訳書として『戦略サファリ【第 2版】』(東洋経済新報社、 H・ミンツバーグ等著)がある。
新版問題解決プロフェッショナル——思考と技術 2010年4月 15日 プリント版新版第 1刷発行 2015年1月 19日 電子版発行著 者——齋藤嘉則発行所——ダイヤモンド社 〒 150‐ 8409 東京都渋谷区神宮前 6‐ 12‐ 17 http:// www. diamond. co. jp/電話/ 03・ 5778・ 7232(編集) 03・ 5778・ 7263(製作)装丁————デザインワークショップ・ジン編集協力——田中順子/上野佳恵(インフォナビ)製作進行——ダイヤモンド・グラフィック社編集担当——木山政行
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