ビジネスパーソンに効く、セルフ・コンパッションの4つの効果
ここからは、ビジネスの場でのセルフ・コンパッションについてみていきましょう。
①自分をケアできるようになる
1つ目の効果は、心身の健康管理ができ、早めに自分をケアすることができるようになることです。早く寝たり、リラックスするなど自分に必要な行動をとれるようになります。
ここで〝 Want〟ではなく〝 Need〟を思い出してください。
この仕事を終わらせたい( Want)と思っていても、今の自分にとっては体をケアすることが必要( Need)だと気づき理解することが、心身の健康管理につながります。
② 共感力が向上する
2つ目の効果は共感力が向上することです。自分だけではなく、他人の感情に気づくことで、相手に共感しやすくなります。自分の感情に振り回されず、他人にイライラすることが少なくなります。
自他の感情を理解し、状況に応じて自分の感情をコントロールできる能力である E Q( Emotional Intelligence Quotient・こころの知能指数)が上がっていきます。
③ 自他共に客観的理解ができるようになる
そして3つ目の効果は、他人も含めて今の自分を客観的に理解することができるようになることです。今の状況を広い視点から眺めることで、多面的に分析でき、より効果的な方法や改善策などを検討することができます。
④ モチベーションが高まり、行動が変わる
ビジネスパーソンにとってのセルフ・コンパッションの効果の4つ目は、モチベーションが高まり、行動が変わるということです。気持ちに振りまわされることなく、自分にとって必要な行動を冷静にとることができるようになります。
この4つはどれもビジネスパーソンにとって欠かせないものです。ではセルフ・コンパッションを実践したビジネスパーソンのみなさんは、どのような感想を抱いたでしょうか。
それぞれの方にヒアリングした結果をご紹介しましょう。
〈Aさん/会社員・ 20代・男性〉
「なかなかやる気が出なくて、いろいろなタスクを先延ばししてしまう傾向があったけど、セルフ・コンパッションを実践した結果、前よりも先延ばしをしなくなった。自分にとって必要なことが見えるようになり、仕事に対してもやる気が出た」
〈Bさん/会社員・ 30代・女性〉「自分の健康より仕事を優先し、無理してしまうことが多かったので、毎月風邪をひいていた。それが、セルフ・コンパッションを実践して、必要なときには長めに寝たり、休んだりできるようになった。今では体調が継続的に良くなり、仕事を休むことが格段に減った。仕事もまわしやすくなった」
〈Cさん/会社員(管理職)・ 50代・男性〉
「他人へのイライラが減ってきた。相手の立場を考え、状況を冷静に見ることができるようになった」
〈Dさん/フリーランス・ 30代・女性〉
「行動が変わった。自分にとって、いま何が必要かを自分自身に問いかけるようになった。他人に対して『どうせ言っても無駄だ』とか『何も言わないで自分でやってしまおう』とあきらめてしまうのではなく、まずは伝えてみようと思うようになった。また、自分の感情に振りまわされずに、その場で必要かつ冷静な対応がとれるようになった」
いかがでしたか? みなさん、セルフ・コンパッションを取り入れることで、自分自身や他人に思いやりが発揮できるようになっているようです。
また、自分の内面をしっかり見つめることで、いま何をやるべきかを冷静に考えるようになり、他者とのコミュニケーションにも積極性が垣間見えるようになっています。
セルフ・コンパッションはビジネスの現場で活きるものですが、とくに管理職・リーダーの方はよくよく身につけておくと良いでしょう。
働き方改革の事例でも触れたように、これからのリーダーは単なるトップダウン型ではなく、「コンパッションのあるリーダーシップ」が求められています。
管理職・リーダーに最も必要なのは「思いやり」
「コンパッションのあるリーダーシップ」とは、上司から部下に一方的な指導をするのではなく、部下の立場や価値観に配慮し、思いやりをもって、それぞれの従業員に応じたマネジメントをするということです。
ここで注意したいのは、単に愛想よくしたり共感したりするのではなく、相手にとって必要なものを提供することです。
リーダーが思いやりを前面に出して相手に寄り添うとき、このひとを「助けよう」「大切にしよう」と明確な意図をもつことが大切です。
部下に責任のある仕事を任せ、期待したり励ましたり、時には厳しく対応することもあるでしょう。そんなときもベースに思いやりがあれば、コンパッションのひとつになります。
部下にとって、そのときそれが必要であれば、コンパッションのある行動になるからです。
もちろん、思いやりをもっていることが相手に伝わっていることが前提です。
部下はたとえ厳しいことを言われたとしても、「自分にはそんなことできない」と諦めるのではなく、「〇〇さんにそう言ってもらえるならやってみようかな」「もし失敗しても、きっと上司が助けてくれるだろう」「みんなでやれるかもしれない」というように、チャレンジする力につながっていくでしょう。その結果、チームの生産性が上がると思いませんか。
管理職・リーダーがコンパッションをもつと部下は安心感を抱く
これまでの日本のリーダーは、どちらかというと部下を管理・統制する「コントロール型」が多かったのではないでしょうか。私自身も、能力や創造性よりも、協調性を重視するところでの勤務を何度か経験しています。
しかし、そういう環境では心理的な安全感・安心感というのは生まれにくく、社員・職員が本来もっている力を発揮しづらいものです。
もちろんマネジメントやコントロールが必要な場合もありますが、それと同時にリーダーがコンパッションをもつことで、組織は社員・職員にとって心理的な安全性のある安全な場所になります。
組織が管理・統制するだけになっていたら、そこはただただ苦しいところ、安全感・安心感を抱く場所というには程遠いものになってしまいます。
家賃を払うため、お金を稼ぐためだけのやり過ごす場所になってしまうかもしれません。そんな場所で生産性を上げる方が難しいです。
2012年に実施した Googleの調査で、「チームの生産性を上げるためには、心理的な安全性・安全感( =サイコロジカルセイフティ)が大切である」という結果が示されていることからもわかります。
コンパッションはチームプレーでも効果を発揮します。会社では、大きなプロジェクトになればなるほど、チームでの仕事が必要となります。
仕事をしていく上で欠かせない、人とのつながりや人間関係を構築するためには、社員が心理的な安全性や安全感を持つことが欠かせません。
具体的には、相手に信頼されている、相手に受け入れられている、相手に尊重されている、相手に必要とされている、相手が関心をもってくれている、と感じられるものが、安全性・安全感です。
こういったものは居場所感にもつながり、落ち着いて業務に取り組み、組織にコミットし、よりよいパフォーマンスを発揮するために欠かせないものになります。
管理職・リーダーがセルフ・コンパッションを高める4つのメリット
あらためて、リーダー視点のセルフ・コンパッションを高めるメリットをまとめていきましょう。
以下に4つのポイントを示します。
① 感情がコントロールできる ② 部下との人間関係が良くなる ③ 問題から目をそらさないようになる ④ 変化を怖れず、必要な行動を選択できる それでは説明していきましょう。
① 感情がコントロールできる
リーダーになると、私( I)の視点から、私たち( W e)の視点に切り替えなければなりません。最初は大変です。しかしリーダーが自分の感情にふりまわされず、自分の欲求を優先せず、部下のモチベーションを上げて、チームのパフォーマンスを向上していくためには、どうしても必要なことです。
② 部下との関係が良くなる
セルフ・コンパッションを取り入れていると、自分の個人的な感情に左右されることなく、相手の役に立ちたい、相手を理解したいと思い、自然と共感できるようになります。
そして、部下の悩みやつらさにしっかりと目を向け、部下の困りごとを受け入れたうえで、一緒に対処法を考えるようになります。
感情をコントロールすることで、日頃から落ち着いた気持ちで一貫性を持った対応ができます。
そして、部下の相談を親身になって聞くことで信頼関係が生まれます。
その積み重ねで、部下との人間関係が円滑になり、結果的にリーダーである自分にとってもメリットとなるのです。
心理学者であるバーバラ・フレドリクソンの興味深い研究結果があります。それは、「人間はポジティブな経験とネガティブな経験について 3: 1の割合で経験したときに、やっと同じくらいだと感じる」というものです。
つまりネガティブな経験が1つあれば、それを打ち消すにはポジティブな経験が3つ必要ということになります。それほど、ネガティブなものほど印象に残りやすいのです。上司のネガティブな印象を打ち消すには、その3倍のポジティブな印象が必要になってしまいます。
日頃からコンパッションを持って接することは必要かもしれません。
余談ですが、心理学者のジョン・ゴットマンが試みた、結婚生活についての調査では、「結婚生活を長く続けるためには、夫婦間のポジティブなやりとりがネガティブなやりとりの 5倍以上が必要」という結果が出ています。上司と部下の関係よりも、夫婦の間柄が濃密な分だけ〝帳消し〟になるための割合も大きくなるようです。
夫婦間では意識的にポジティブな経験を増やしていかなければ、ネガティブな経験のほうが印象に残りやすいので気をつけなければなりません。
③ 問題から目をそらさないようになる
問題から目をそらさないことは、組織として問題に取り組む際に欠かせないことです。
しかし、私たちはネガティブなものほど、目をそらしたくなります。ネガティブなものに注目しやすい一方、目はそらしたい、見たくはないと思ってしまいます。
部下の相談を受ける際も同じです。部下が何に困っているのかにしっかりと目を向けることが大切です。
部下の話がつらい内容だと、無意識的に話をそらしてしまったり、アドバイスをして早く相談を終わらせようとしてしまいます。
しかし、それでは部下は話を聞いてもらった感覚が持てず、信頼関係は構築されないでしょう。
そして自分だけではなく、相手、周囲の状況を観察し、そのうえで部下にとって何が必要かと考えて選択することが大切です。私たちはどうしても固定概念にとらわれた判断や選択をしやすいので注意が必要です。いったん物事を客観的にとらえたうえで部下にアドバイスしていくことが望まれます。
④ 変化を怖れず、必要な行動を選択できる
リーダーである自分が「自分は変わることができる」と考えられるようになります。そしてそのようなマインドは、会社や個人の成長につながっていくものです。
「自分は変われない」という考えをもっているリーダーであったらどうでしょうか?「自分は変われない」という考えをもっていると、「他人も変わらない」という考えにつながりやすくなります。
「他人も変わらない」と思うことにより、次のような悪循環を生んでしまいます。
他人は変わるわけがないと思う
↓
部下の成長を期待しなくなる
↓
部下の成長を諦めてしまう
↓
部下に積極的な働きかけをしなくなる
というサイクルです。
セルフ・コンパッションを高めることで、自分が変わるためのモチベーションを上げることができます。
自分の良い面と悪い面をバランスよく見ることで、自分のリソースと問題点にも気づき、どこを変えていけばいいのか道筋を立てることができます。
道筋が立てば、実行しやすくなり、実際の変化が起こります。変化すること、成長することで、自信にも繋がっていくのです。
コメント