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第3章仮説を立てる

目次

1コンサルタントが仮説を思いつく瞬間

□ディスカッションやインタビューから生まれる

少し前にBCGの社内で、「コンサルタントは、どんなときに仮説を思いついているのか」というアンケートをとったことがある。

コンサルタントは日常的に仮説思考を使っている、いわば仮説思考のプロフェッショナルだ。

そうしたコンサルタントがどのようなタイミングで仮説を思いついているかに興味を覚えたのだ。

図表3-1がその結果だが、最も多かった回答は「ディスカッション中に思いつく」だった。つまり誰かと話しているときに仮説を思いついたという答えだ。

ディスカッションには、同僚とのミーティング、顧客とのミーティングがある。

この場合は、あらかじめいろいろ考えていたところに、相手の発言に刺激を受けて思いつく、あるいは考えが進化するというのが多く、まったく〝棚からぼたもち〟のように相手から仮説をもらえるケースは少ない。

二番目は、「インタビュー中あるいはインタビュー後に思いつく」だった。

顧客へのインタビュー、あるいは顧客のお客様や取引先へのフィールドインタビューを通じてという回答だった。

こちらはどちらかというと、机上で考えていたのでは浮かんでこないアイデアが、現場に行くことで思いつくというのが多いようであった。

□仮説の立て方には定石はない

三番目は「突然ひらめく」、四番目は「じっくり考えているときに思いつく」という回答だった。

突然ひらめく人の中には、「朝、仕事が始まる前でないとひらめかない」という人や「寝ているときにひらめくので、ベッドサイドにメモ用紙を置いておく」という人もいた。

そのほか、「サインペンで紙に書きなぐっているときに、頭が整理されて仮説を思いつく」、「風呂で思いつくので、風呂の壁に論点、課題を書いた紙を貼っておき、何か思いついたら鉛筆で自分の考えを書き留めておく」という人もいた。

筆者自身はこの三番目のタイプで、たとえば電車に乗っていて新聞や本を読んでいるときに、あるいはただつり革にぶら下がっているときに突然思いつくことが多い。

もちろん、自分だけでは考えが煮詰まってしまったときに、誰かとディスカッションすることで仮説が生まれたり、進化することもある。

反対に、「じっくり考えているときに思いつく」というように、システマティックに仮説を立てる人もいる。

最初に書籍や議論を通じて情報を頭に詰め込み、その後ひとりで静かな時間をつくり、頭の中に入っているヒントや思いつきを書きだしていく。

次にそれを構造化し、整理し、そして最後にストーリーや絵(イメージ)にして一枚の紙に仮説を書き表し、冷静にチェックする。

このように仮説の立て方は人それぞれで定石はない。仮説構築にはさまざまな方法がある。

ここでは、分析結果から仮説を立てる方法、インタビューから仮説を立てる方法、そして、ヒラメキの三つを紹介する。

2分析結果から仮説を立てる

□事例清涼飲料市場のグラフを読み込む

まずは分析結果から仮説を立てる方法だ。これは、すでにある分析結果を見て仮説を立てるやり方だ。

仮説を立てるに当たり、あらためて何らかの分析を行なうわけではない。仮説検証の項でも述べるが、分析は本来、仮説検証のために使うものだ。

ただし、分析結果から仮説を立てることもできる。

まぎらわしいので、ここで整理しておくが、一般の人が問題解決に当たり九割を分析に頼るのに対し、仮説思考型の人では二割程度しか頼らない。

むしろ、分析に着手する前に仮説を立て、深掘りすべき分野をしぼった上で、そこについて分析を行ない、仮説の検証・進化につなげていくのだ。

それでは分析結果から仮説を立てる例を具体的に見ていこう。

図表3-2は、日本における清涼飲料市場についてのグラフで、一九九九年までの日本の清涼飲料市場がどのように拡大、多様化してきたかを表している。

ここからどのような仮説が立てられるだろうか。

たとえば一人当たりの消費量を見ると、一九六〇年代後半から急激に増加していること、さらに一九九〇年くらいから再び急激に増加していること、つまり二回にわたって増加していることがわかる。

このデータと自分自身の知識・体験や想像から二回目の消費量増加の理由について、いくつかの仮説が立てられるだろう。

ひとつには、それまでの清涼飲料水は炭酸飲料や果実飲料など甘いものが多かったが、一九八〇年代半ば以降は機能性飲料、あるいはウーロン茶やミネラルウォーターなどの消費が増加している。

つまり、日本人の健康志向の高まりと合わせて、糖分の入っていない飲料の消費が伸び、飲料市場の拡大を引き起こしたのではないかという仮説が立てられる。

あるいは、かつて飲料の容器は瓶や缶が主流だったが、もち運びに便利なペットボトルの登場によって、清涼飲料の飲み方が変化したとも考えられる。

ペットボトルなら歩きながら飲んだり、水筒代わりに利用することもできる。その利便性から清涼飲料の需要が増加したという仮説も考えられる。

その他、清涼飲料の販売チャネルが変化したという仮説も立てられる。かつて飲料は食料品店やスーパーマーケット、あるいは酒屋で購入していたが、自動販売機の登場とともに、路上、駅、オフィスなど、どこでも手軽に飲料を買うことができるようになった。

その手軽さが清涼飲料の需要を加速させた可能性も考えられる。その一方で、自動販売機で売られているペットボトルは少ないから、コンビニエンスストアの発展がペットボトルの売上げを増加させた可能性も同時に考えられる。

もちろん日本人の健康志向や安全志向が高まってきたことも考えられる。以前、水道水は無料かつ安全な水だと思われていたが、現在では水道水には消毒のための塩素も入っているし、不純物が入っているのではないかと疑う人も多くなった。

そうした状況の中で、ミネラルウォーターが健康にいいという情報が広まり、ミネラルウォーターの需要が拡大している可能性もある。つまり、分析結果から仮説を立てるということは、このような仮説をグラフからどのくらい読みとれるかということになる。

分析結果から将来についての仮説を立てることも可能だ。

たとえば日本人の健康志向がより強まれば、機能性飲料の消費がもっと伸びるのではないか、あるいは安全志向がより強まれば水道水が飲まれなくなり、日本ではあまり売れていないミネラルウォーターの需要が拡大するかもしれないという仮説が立てられる。

企業にとっては、将来に向けた商品開発や、今後の戦略につながる重要な仮説となる。

□事例日本の自動車市場のグラフを読み込む

分析結果から仮説を立てるもうひとつの例として、日本の自動車市場を見てみよう。

図表3-3は、日本の自動車市場のバリューチェーン別のディーラーと独立系企業の推定シェアを示している。

全体で二〇〇三年度で約三〇兆円規模のマーケットだ。

そのうち新車販売が三分の一を占め、残りの三分の二は、ローン、保険、アフターパーツ、車検、中古車などで、これらをアフターマーケットと総称する。

さて、このグラフからどのような仮説が立てられるだろうか。自動車業界についてある程度の知識・経験があれば、いくつかの仮説を立てることができるだろう。

たとえば、現在、ディーラーが儲からずに苦労しているが、アフターマーケットに関しては独立系という、自動車メーカーとは関係のない企業が多く参入していることがわかる。

すなわち独立系の企業は、アフターマーケットで多くの利益を上げているのではないかと考えられる。

したがってアフターマーケットで利益を上げられないのは、自動車メーカーの戦略に問題があるのではないか、だから独立系の企業が利益を上げ、ディーラーが儲かっていないのではないかという仮説が立てられる。

あるいは、現在日本では新車の販売台数が減少し、ピーク時には約六〇〇万台売れていた小型普通乗用車が、いまでは三分の二の四〇〇万台程度しか売れなくなっている。

ところが街中を走っている車の数は減少しているようには感じられない。

そこで新車販売のマーケットに比べ、中古車販売のマーケットのほうがより成長しているのではないかという仮説も立てられる。

このように、分析結果と自分の知識・経験を組み合わせることによって仮説を立てることができる。

3インタビューから仮説を立てる

□事例消費財メーカーの売上げを伸ばす

次に紹介するのはインタビューから仮説を立てる方法だ。

ここでは、コンサルタントが顧客の消費財メーカーから「よい製品を出しているにもかかわらず、売上げが伸びないので、その原因を調べて戦略の提案をしてほしい」という依頼を受けたとする。そこで顧客にインタビューした結果、以下のことがわかったとしよう。

「消費者が以前よりモノを買わなくなった気がする」「競争相手から出ている製品は以前と変わらない」→すなわち競合他社から新製品が出て、顧客が負けているわけではない

「コンビニエンスストアでの売上げが増えている」→すなわち全体的な売上げは減少しているが、コンビニエンスストアにおける売上げだけは拡大している

「流通段階で価格競争が激化している」→すなわち小売店や卸で価格競争が激化し、安売り店ほど商品が売れている

「製品に自信があるので値下げしていない」

□聞きだしたところから仮説を立てる

これらの結果から、「よい製品を出しているにもかかわらず、売上げが伸びない原因」について、以下のような仮説が立てられる。

仮説消費者の嗜好が他ジャンルに移っている顧客は自社の製品の売上げだけを見て、消費者がモノを買わなくなったと考えているが、消費者の財布の中身が変わらないとすれば、他のモノにカネを消費し、顧客の製品の購入に使われるカネが減っているのではないか、という仮説が立てられる。

たとえば女子高生に携帯電話が流行した時代には、二万~三万円程度のお小遣いのうちの一万~一万五千円を携帯電話に使ってしまうことがあった。

すると、それまでお小遣いを使っていた衣類、プリクラ、CDなどにカネを使うことができず、それらの売上げが落ちるという現象が実際に起きた。

仮説末端で価格競争が起きていて、安い商品に需要が流れている価格競争が起きた結果、消費者がより安いモノを買うようになっているのではないかという仮説である。

もちろん安ければ商品が売れるというわけではない。

ブランド品などは高いことが価値となる場合もあるから、必ずしも安い商品に需要が移るわけではないが、この商品の場合、そのような現象が起きているのではないかと考えられる。

仮説口コミで他社製品に人気が集まっている他社から出ている製品は変わっていないが、テレビや雑誌で紹介されたり、インターネットで評判になったりと、口コミによって人気が広まり、他社製品のほうに売上げがシフトしているのではないかという仮説だ。

仮説競争相手が流通マージンを増している競争相手は商品の末端価格は下げていないけれども、流通マージンを増やしているのではないかとも考えられる。

一般に、大衆薬や化粧品など店頭で店員が推奨販売する商品、つまり来店した消費者のニーズを聞きながら、「お客様にはこの商品がいいですよ」と勧めるような商品の場合、この仮説が当てはまる。

たとえば薬局に行き、「風邪をひいたようで頭痛がするのですが、よい薬はないでしょうか」と店員に尋ねると、「熱はありますか」と聞き返される。

「熱はないです」と答えると、「喉は痛いですか」とさらに質問され、「喉は痛いです」と答えると、「それならばこの薬がいいですよ」とある薬を推奨してくれる。

そのとき、店員は消費者のニーズに合った商品を提供するのだが、その一方で自分の店の利幅が高い商品を推奨する。

つまり大衆薬は効能もさることながら、小売店の利幅が大きい商品が多く売れる傾向にある。

仮説チャネルのシフトが起きている消費者が商品を購入する場所が、百貨店・スーパーからコンビニエンスストア、ディスカウンターにシフトしているという仮説だ。

キリンビールとアサヒビールの販売競争の例でこの仮説を説明しよう。

キリンビールは酒屋というチャネルが強力であるがゆえ、酒屋と敵対関係にあるコンビニエンスストアをあまり重要視していなかった。

ところが消費者は、ビールを買うときに酒屋に注文して届けてもらうのは面倒だから、コンビニエンスストアで飲みたい分だけ買うという購入方法に移行した。

消費者がコンビニエンスストアでビールを買うようになるにつれ、キリンビールの相対的なシェアは下がった。

アサヒビールがコンビニチャネルを強化したからだ。

このように消費者がモノを買う場所が変わり、そこが自社の弱いチャネルだった場合には、販売の施策とかマーケティングがまったく変わらなくても売上げが下がる可能性がある。

インタビュー結果の中に、「コンビニチャネルの売上げだけ伸びている」という話があったが、顧客のコンビニチャネルが弱いとすると、全体的な売上げも下がる。

反対にコンビニチャネルが主力なチャネルだった場合、コンビニでの売上げが伸びているなら、全体的な売上げもより伸びるはずなので、この仮説は間違っている可能性が高くなる。

このように、インタビューの結果からも仮説を立てることができる。ただ、この方法で重要なのは、いかにきちんとしたインタビューを行なえるかである。そこで効果的なインタビューのポイントについて、次項で簡単に解説しておく。

4仮説構築のためのインタビュー技術

□まず、インタビューの目的を定める

仮説を構築するに当たり、インタビューがたいへん有効な方法であることは前述したとおりである。そこで、ここではインタビューの具体的な技術について話をしたい。

インタビューを行なう場合、まずは目的をきちんと理解することだ。一般的には、次のような目的でインタビューは行なわれる。

目的業界・業務を理解するコンサルタントの場合、顧客について知らなければ会話にもならないので、顧客の業務内容を理解したり、あるいはどういった業界であるかを理解するためにインタビューを使う。

一般のビジネスパーソンにとっても、新規市場や新規事業、新しいチャネルに参入する場合などに同様の目的でインタビューを行なうことがあるだろう。

こういう情報を入手するために書籍を読んだりもするが、やはり実際に働いている人から直接情報を得るほうがわかりやすく、実態を正確に把握できるので、業界や業務に関する情報を得るためのインタビューは重要になる。

目的問題を発見・整理するコンサルタントの場合、顧客の経営課題は何かを調べるためにインタビューを行なう。

経営問題が何であるか理解している場合は、それを聞いて整理すればいいのだが、大抵の場合はそうではない。そこでインタビューによって問題を発見し、整理していくことが大切だ。

一般のビジネスパーソンの場合も、自社やグループ企業の経営課題を把握するためにこの種のインタビューを行なうことがあるはずだ。

目的仮説を構築・検証する問題が整理されれば、なぜその問題が起きているのか、あるいはどうしたらその問題を解決できるのかという仮説を立てる。

よい仮説をつくっていく、あるいはつくった仮説が本当に正しいか検証していくためにインタビューを利用する。

□フィールドインタビューは宝の山

社内で行なうインタビュー、あるいは顧客や取引先に対するインタビューなど、現場で行なうインタビューをフィールドインタビューと呼ぶ。

フィールドインタビューで現場の現状や実態を把握することは、問題を発見し、それを効果的に解決していくための土台となる。

そういう意味でフィールドインタビューは宝の山といえる。

フィールドインタビューの重要性、有効性を認識し、机に向かって悩む前に現場に出かけ、そこで何が起こっているのかを知ろうとする姿勢がたいへん重要だ。

□深く掘り下げた質問ができるかがカギ

質問は深く掘り下げていく必要がある。仮説を立てるためにも、仮説を進化させるためにもこれはとても重要なことだ。具体的な例で説明しよう。

たとえばインタビュー相手に「わが社のA商品はシェアが高くて好評だ」といわれたとき、「そうですか」と頷きながら「A商品はシェアが高い」とメモをして、すぐに次の話題に移ってしまってはいけない。

その場合には「A商品はなぜシェアが高いのですか」と二の矢を放つべきだ。

そして相手が「A商品の商品力が優れているからだ」と答えても、そこで終了せず、「どういう点で商品力が優れているのですか」と一段掘り下げて質問する。

そしてそれまではスムーズに答えていた相手が、「競合商品に比べてどこが優れているのか」と考え始めれば、インタビューが深くなってきた証拠だ。

相手がいろいろと考えた上で、「A商品は多機能だから消費者に支持されている」とか、「うちの商品のよさはデザインが優れていることだ」などと答えてくれれば、A商品の商品力の決め手についてわかってくる。

つまり、相手が商品力の決め手だと考えているものは一体何かというところまで聞いて初めて、質問の深掘りができたことになる。

インタビューで大切なことは相手の本音を引きだすことだ。そのためにはいきなり核心をつく質問をし、相手をグッと詰まらせることも必要だ。

たとえば商品開発の担当者が、自分の会社の商品が売れないのはコマーシャルや宣伝が下手だからとか、営業が怠けているからと考えているとする。

その担当者に、「商品力がないから売れないのではないでしょうか」という質問をし、さらに「状況からはそう見えますが、それについてはどう思われますか」という厳しい質問をしてみると、担当者はその質問に本音で答えてくれる。

インタビューは和やかに話を進めるだけではいけない。ときには相手の嫌がる質問も必要になる。

「新製品はマーケティングに失敗してうまくいかなかった」という話を聞いたときは、製品そのものが失敗だったのか、広告やプロモーションで失敗したのか、チャネル政策を誤ったのか、それとも価格のつけ方が悪かったのかというところまで踏み込んで質問する必要がある。

もちろん一歩間違うと相手を怒らせることになる。相手のプライドを傷つけないように注意を払うべきだ。

たとえば、「あなたは間違っているから私が教えてあげよう」というふうに話を進めると、相手は確実に怒る。

相手に自分から気づいてもらう、あるいは勘違いしていたかもしれないと思ってもらうような質問の仕方をする。

それは決して難しいことではない。相手に敬意をはらっていれば、自然とそういう言い方、話の進め方ができるはずだ。

それに、そういう核心をつく質問をすることによって、相手が自分の問題の本質に気づいたり、答えのヒントを手に入れたりすることも考えられる。

□質問の進化が仮説の進化につながる

A事業部、B事業部、C事業部のそれぞれでインタビューを行なわなくてはならない場合がある。

もちろんあらかじめ質問の雛形は用意しておくのだが、不慣れなインタビュアーは雛形の質問を最初から最後まで変えず、A事業部、B事業部、C事業部に同じ質問をする。

これでは返ってくる答えも似たようなものになってしまう。

それに対してインタビューのうまい人は、最初にA事業部にインタビューを行ない、その結果、「この質問は自明の理だからもう聞く必要はない」と思えば、B事業部、C事業部には、その質問はしない。

逆にA事業部にインタビューした質問の中で、「これはもう少し深く掘り下げて質問しないと本当の答えは得られない」と思うものがあれば、B事業部、C事業部には追加の質問を用意して出かける。

そして次にB事業部でインタビューし、また違う結果がでたら、C事業部にはA事業部ともB事業部とも違う質問を用意してインタビューする。

つまり、インタビューが一件終わるたびに結果を咀嚼し、インタビューの目的と照らし合わせながら、質問の内容を変えたほうがいいかどうかを考え、次のインタビューにのぞむのだ。

よいインタビューをするためには、このように質問を進化させていくことが必要だ。

そしてインタビューの最中でも、あらかじめ決められた質問を順番に聞いていくのではなく、相手の出方や答えに応じて臨機応変に質問の内容を変えていくことが重要だ。

こうした態度で事実に迫ることができれば、筋のよい仮説が立てやすくなる。

また、ときにはインタビュー中に自分の仮説をぶつけてみることで仮説を検証し、仮説を進化させることもできる。

□インタビューメモをつくる

インタビューメモをつくる目的は三つある。それは、自分の頭を整理するため、インタビューで得たことを他人とシェアするため、プレゼン資料を作成するときのベースにするため、だ。

目的によってメモ作成のポイントは異なる。目的自分の頭を整理するために自分の頭を整理するためには、まずメモを構造化する。

インタビューしたときに取ったメモは、聞いたことを順番にメモするため時間軸に沿ったものになっている。

ただし相手の話はインタビュー中、行ったり来たりするから、メモは話の内容ごとにひとかたまりになっているわけではない。

そこでメモの構造化を行なう。

たとえば問題の現象が語られている部分、原因が語られている部分、解決策の可能性について語られている部分など、話の内容ごとに構造化したり、あるいは営業、開発、人事など、インタビューした相手の業務内容によって構造化したりする。

メモを構造化することで、どんな内容の話かがわかるように整理する。

仮説の検証結果があれば、それも書いておく。

検証プロセスまで進んだ段階で行なうインタビューは、こちらから強い仮説をもってのぞむことが多く、その場合にはインタビューの中で、その仮説が本当に現場で当てはまるのか、あるいは経営トップから見てその仮説は納得できるかということを相手に判断してもらい、仮説が正しいかどうかを検証する。

そういうインタビューのメモには、自分の仮説が相手に受け入れられたのか、拒絶されたのか、あるいはおおむね受け入れられたけれど、いくつかの問題点を指摘されたなど、仮説の検証結果を細かく書いておく。

目的他人と情報をシェアするために他人と情報をシェアするには、メモの内容を客観と主観に区別する必要がある。

自分の思いや考えは主観、インタビューした相手の話は客観なので、相手が述べたことなのか、あるいは自分が考えたことなのかを明確に区別する。

目的プレゼン資料のベースとするために資料のベースとして使うインタビューメモは、定量化を心がける。

たとえば、相手が、「新製品を出したら売上げが伸びた」、「シェアが増した」という話をしたら、○パーセント伸びたか、○円伸びたか、○個伸びたかを具体的に聞き、定量化する。

定量化された情報がなければ、「売上げが伸びた」、「シェアが増えた」とメモしても、「一パーセントの伸び」か「五〇パーセントの伸び」かによって天と地ほどの差が生じ、あまり役立つメモにはならない。

以上のようなインタビュー方法を身につけると、相手の本音や事実に迫ることができる。

それが仮説を構築するための有力な手がかりとなるのだ。

5仮説を立てるための頭の使い方

□「ヒラメキ」を意図的に生む

仮説の立て方で最後に焦点を当てるのは、ヒラメキである。

なぜ、ひらめくか。それは個々人で違いがあるだろう。

そこで、ここではひらめくための頭の使い方、すなわち脳に揺さぶりをかけるコツをいくつか紹介することにしよう。

人は誰でも知らず知らずのうちに決まったモノの見方をしている。自分の得意なものの見方で思考してしまう。それが新しい仮説を生みだす阻害要因になることがある。

そこで意識的に頭の使い方を変えるのだ。するといままで見えていなかったものが見え、仮説がひらめくようになる。

頭の使い方を変えるとは、一言でいえば普段より幅広く使うことに尽きる。

幅広く考える方法として、ここでは反対側から見る、両極端に振って考える、ゼロベースで考える、の三つを紹介しておく。

□方法1反対側から見る

最初に「反対側から見る」について説明しよう。反対側から見るには、顧客・消費者の視点をもつ、現場の視点で考える、競争相手の視点で考える、の三つの思考法がある。

顧客・消費者の視点をもつ自分がモノを売ることを考える前に、ユーザーはどんな人であり、どこでなぜ自社の商品を購入しているのか、使っているのかを考えてみる。

ひとりのユーザーになりきり、ユーザーは本当は何を感じているのかを理解することで、新しい仮説が生まれてくる。

一例として、自社のビジネスが携帯電話の普及でどう変わるかを考えてみてほしい。

その場合のポイントは、携帯を使うことで自社のビジネスがどんなふうに変えられるかではなく、消費者が携帯を使いこなすことで自社のビジネスがどう変わるのかを考えることである。

一見言葉の遊びのようだが、大きな違いがある。

たとえばレンタルビデオのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)では、これまで販売促進にハガキを使ったダイレクトメールを送っていたが、現在では携帯電話のメールをハガキ代わりによく使っている。

理由は、もちろん一通五〇円以上かかるハガキに比べてただ同然ですむメールのほうがコストが安いことが挙げられる。

これは、自社にとって携帯を使うことのメリット、すなわち前者の考え方である。

一方で、後者の見方をすれば、従来の方式では、ハガキがいくらレンタル無料券や割引券になっていても、実際に店に行くときに忘れないように持っていくのは意外に面倒くさいものだ。

あるいは、時間があるときにたまたまビデオ屋に行く場合には、ハガキは持ってきていないことも多い。

それに対して、携帯電話に送ったメールをクーポン代わりにすれば、昨今財布は忘れても携帯電話は忘れない若者たちのこと、便利この上ない。

こうした消費者側の発想をもたずに企業側の論理だけで進めたビジネスは、失敗する確率が高い。

NTTのICテレフォンカードが典型例である。

NTTでは従来の磁気式テレフォンカード(通称テレカ)が偽造問題などでトラブルを起こしたために、ICテレフォンカードを導入して、従来型を置き換えようとした。

しかしユーザーから見れば、新型テレフォンカードは従来型に比べて何のプラスアルファの機能もない上に、普及台数が少なすぎて使える電話機が限られてしまう。

これではうまくいくわけがない。

これに比べるとJR東日本のSuicaは、従来の磁気式のイオカードに比べて、追加でチャージができる、定期券との併用が可能、定期を万が一なくした場合でも再発行してもらえるなど、明確に利便性が向上している。

現場の視点で考える本社のデスクにしがみついているのではなく、現場の視点で考えるために、実際に現場に行って、具体的な事実を経験し観察してみよう。

そうすることで新しい仮説が生まれてくる。

たとえば小売業で、何の変哲もなく日々当たり前のことをきちんとやっているだけで確実に売上げの上がっている店と、見かけ上は華やかで頻繁に売り場の変更をやって、次々に新しい商品を並べているのに売上げの上がらない店がある。

これも現場に行ってみればわかるのだが、日用品であればあるほど毎日売り場が変わったら困るわけで、いつもの売り場に自分の欲しい商品が確実にあるほうがありがたい。

これが本社や企画部門にいると、つい何か新しい手を打って売上げを増やしたいと短絡的に考えてしまう。

もちろんたまには新商品を入れて新鮮味を出さないと消費者に飽きられてしまうわけだが、これもファッションのように常に新しいものでないといけないものと、加工食品のように圧倒的に定番商品の売上げが多いものでは、話が異なる。

こうしたことは本社でコンピューターから打ちだされたデータだけ見ていても、なかなかわからないものであり、実際現場に行って新しい発想を得るか、少なくとも現場に想いを馳せて考えてみる必要がある。

また別の例を挙げると、以前コンサルティングをしたある企業では、支店や営業所の営業現場は本社を自分たちの仕事の邪魔をする存在だと信じ切っていた。

というのも、毎日のようにあれをやれこれをやれの指示は降ってくるし、このデータをよこせ、資料をつくれと業務を増やすばかりだからだ。

その割に実際に現場の売上げが上がるようなことは何ひとつやってくれない。

一方で本社の方は、自分たちが一所懸命考えたことを現場が実行すればうまくいくのに、なぜ彼らは指示にしたがわないのかと嘆いていた。

これを解決するひとつの方法は、本社は現場の仕事やオペレーションがスムーズに進むためのサポート部隊だと割り切ることだ。

そこで、この企業の場合は、いま行なわれている本社と現場のやりとりをすべて見直した。

本社の施策の立て方を上から下に降ろす形でなく、本社の主要業務を現場に役立つことだけに絞り込み、本社が現場から報告を求めることは最低限にすることで、現場の士気が上がり、業績が大いに改善された。

競争相手の視点で考えるもし自分が競争相手の社員だったら、我が社をどのように見ているだろうと考えてみることは、とても有効な思考方法である。

競合企業は、我が社の一番弱点と思われているところを突いてくるかもしれない。

そうだとすれば、その弱点を補強することを考えるか、あるいはそれを攻撃された場合に備えて、相手に反撃を加えるシナリオを用意する必要がある。

たとえば、デルコンピュータがBTO(BuildtoOrder)という方法で直販を始めたときに、コンパックやIBMのような既存の戦い方で強い企業はどうすればよいか。

従来の見込み生産モデルの強化で対抗するのか、あるいは、自分たちもデルと同じ直販モデルを採用したほうがよいのか、考えてみる。

逆に、競合企業は我が社の強いところに正面攻撃を加えてくるかもしれない。

その場合はどんな手だてがあるのか、考えておく。

たとえば、自社が製品力に強みがある場合には、それをやっつけるために同じ土俵での新製品開発を仕掛けてくるのか、それとも違う切り口での新製品開発で仕掛けてくるか考えてみる。

者の例は、トヨタがベンツに対抗してレクサスを開発したケースが当てはまるし、後者の例ではキリンビールの牙城にアサヒビールがラガービールとは異なるドライビールという分野を生みだすことで勝負していった例が挙げられる。

また、こちらが意識するほど相手は自社のことを気にしていないといったケースも考えられる。

この場合は一見肩すかしを食った気がするかもしれないが、実はこちらの戦略的打ち手に対して、相手がそれを無視したり、気づかない可能性があるということで、大変なチャンスなのである。

一方で、相手はトップメーカーだから、我が社の新しい製品のことは気にしないだろうと思っていても、実は日ごろから我が社をウォッチしていて、何かあれば叩きにくる覚悟でいるかもしれない。

その場合はうかつに競争を仕掛けるべきではないということになる。

どちらもあり得るシナリオ、すなわち仮説である。

自社では当たり前と思っていることが、競争相手から見るとうらやましい経営資源に見えるかもしれない。

特にブランドなどはこうしたケースが多い。

となれば、いままではまだ当たり前すぎて特に脚光を浴びていなかった経営資源や強みに立脚した戦略を考えてみる価値はある。

コンサルティングの事例からさらにここでは、反対側から見ることで顧客に価値を提供できたコンサルティングの事例を紹介しておこう。

以前われわれがコンサルティングを実施した、高額の機械を製造販売する会社は、どこでもよく見られるように本社、とりわけ機械の開発をしている部門が最も力をもっており、その次に機械を実際に顧客に販売している販売部門に力があった。

そしていったん販売してしまった機械のメンテナンスは子会社に任されており、その地位はきわめて低かった。

ところが、実際に顧客の購買動向や満たされていないニーズをよく調べてみると、メンテナンスサービスを行なっている人々が最も顧客ニーズをよく把握しており、そこに最大の事業機会があることも判明した。

そこでわれわれは、バリューチェーン(価値が顧客にどのように伝わっていくかを現したもの。

価値連鎖とも呼ぶ)の川上から川下に流れる従来の発想ではなく、川下すなわち顧客接点を中心としたビジネスの仕組みをつくるように提案した。

これまで会社の中で一番下に見られていた業務を最も上にもってこいというに等しい提案だったため、最初は大変な抵抗があった。

しかし、商品差別化から得られる追加の収入より、メンテナンスレベルで得られるサービス収入のほうがはるかに利益額が大きいことを理解したその企業では、いまでは昔と違ってバリューチェーンを下からさかのぼるビジネスの進め方をして成功している。

同様なことはあなたの所属している企業や業界でも簡単に行なえるはずだ。

もし読者の企業がメーカーや素材メーカーであれば、通常は自分たちの製品を誰にどのように売るべきか、あるいは少しでも高く買ってもらうにはどうしたらよいかに腐心しているはずだ。

そこで立場を変えて、自分たちの製品を買ってさらに製品をつくるメーカーの立場や、あるいはそれを仕入れて販売する流通業者の立場に自分をおいて、その視点で見てみることを勧める。

小売店の立場で見てみれば、自社製品は品質はよいのに価格が高いから売れにくい、売りたくないと思っているかもしれない。

あるいは、いつも品切れが多く消費者に迷惑がかかるので積極的に売っていないのかもしれない。

または、競争相手と比較して特によいところは何もないのだけれど、昔からの取引だからという理由だけで扱っていてくれるのかもしれない。

あるいは自分が総務部門の人間で、いつも営業や生産といった現場の人たちから文句をいわれたり、迷惑をかけられたりしているとしたら、一度そちらの立場に身を置いてみて問題を考えてみることを勧める。

ものの見え方が違ってくるはずだ。

慣れないうちは、実際にそちらの仕事を経験したり、あるいは相手の話を直接聞いたりしないと学べないことが、徐々に想像するだけで答えが浮かぶようになってくる。

□方法2両極端に振って考えるもうひとつが「反対まで振る」という考え方だ。

これは両極端に振って考えるともいえる。

先述した『戦争論』の著者クラウゼヴィッツは、先の読めない霧の中を見通すためには、「物事を両極端に振って考えることだ」といっている。

たとえば、「戦争」の代わりに「平和」を追求したらどうなるのか、「攻撃」の代わりに「防御」を徹底的にやるとどうなるかといった思考法である。

両極端に振って考えることによって、物事の本質が見えてくるのだ。

「両極端」を探求することによって、無数の事象や関係の中から、何が最も重要で決定的なことかを識別するスキルを磨くことができる。

具体的な例を紹介しよう。

デフレ時代というと誰も自社の製品の値下げを考える。

値下げすべきか、すべきでないか。

あるいはすべきだとしたら、どれくらい下げるべきか。

しかし、こうした時代だからこそ、逆に自社製品を値上げしたらどうなるかを考える。

たとえば、五〇〇枚三〇〇円で売っていたコピー用紙を四〇〇円に値上げしたとすると、多分、まったく売れなくなるだろう。

コピー用紙のようなものは、ブランド的なイメージもほとんどないし、特別な用途でないかぎり紙の質にこだわる人もいない。

このように価格ですべてが決まってしまう商品をコモディティー商品と呼ぶが、この場合には需要に対する価格弾力性がきわめて高い。

つまり、自社製品は価格が理由で買われている可能性が高い。

そうなると、たとえ苦しくても競争相手に合わせるところまで値下げせざるをえない。

一方、高級ブランドのルイ・ヴィトンのバッグを考えてみよう。

いままで九万円で売っていたものを一〇万円に値上げしたとしよう。

それで売上げが落ちるだろうか。

多分大して変わらないだろう。

では値下げして、八万円にしたらどうだろうか。

一時的に売上げは増えるかもしれないが、中期的に見ると値下げが消費者に対して悪い印象を与えかねない。

「人気が落ちたのか」、「流行遅れになったのか」という印象を与え、売上げが伸びるどころか、反対に減ってしまう危険性が高いのではないか。

このように一方向だけでものを考えるのではなく、逆サイドにあえて思考を振ることで、自社が扱っている商品やサービスが、なぜ顧客に支持されているかが浮かび上がってくる。

支持されている理由が、機能やコスト以外の要素、たとえばブランドだったり、アフターサービスだったり、長期的な安定供給だったり、確実な納期だったりすれば、実はデフレ時代といっても、そんなに大きく価格を下げる必要はないはずである。

□方法3ゼロベースで考える最後に紹介するのがゼロベースで考えるという方法だ。

既存の枠組みにとらわれず、目的に対して白紙の段階から考えようとする姿勢のことだ。

既存の枠組みで考えると、過去の事例やさまざまな規制などの存在により思考の幅が狭くなり、目的に対する最適な方法に到達するのが難しくなる。

そのため、「ゼロベース思考」で考えようとする姿勢が、仮説を立てるときには特に重要だ。

たとえばあなたが顧客からの苦情を取り扱うコールセンターの運営を任されているとしよう。

会社の方針で、現在一〇〇人でやっている仕事を、「人数を二割減らせ」、あるいは「コストを二割カットせよ」と命令された場合、誰でもいろいろな方法を思いつくことができる。

仕事をマニュアル化して効率化し、一件当たりのクレーム処理時間を二割短くてすむようにするとか、クレームの電話がかかってくる時間を詳細に分析することで、必要な社員数をミニマムにするとか、仕事を外注化して安くするとか、いろいろ出てくるであろう。

ところが、「現在の半分の人員で行なえ」とか、「七割削減しろ」と命令されたらどうであろうか。

先に挙げたような効率化では限界がある。

それよりまったく異なる発想を求められる。

たとえば、クレームが発生するから自分のところの仕事が必要なのであって、クレームがゼロすなわちまったく発生しなければ、自分たちの仕事はなくなる。

そうすれば、七割削減どころか一〇〇%のコストダウンが可能ということになる。

そこで、クレームの発生理由を分析して、それが工場の品質管理にあるのであれば、生産管理や品質管理を徹底する。

あるいは説明書がわかりにくいために質問が多いのであれば、取扱説明書をつくり直してもらうことでクレームを根本から絶つ。

もちろん、ゼロにはならないにしても、クレームが大幅に減れば、コールセンターのコストダウンにつながることは間違いない。

一方、どうしても仕事はなくせないがコストは下げなくてはならないとすれば、コストを限りなくゼロにすることを考えてみる。

コールセンターでもっとも大

きなコストになっているのは人件費であるから、それを大幅に削減するために、人件費が一〇分の一から二〇分の一ですむ中国にコールセンターを設けて、コストダウンをはかるといったアイデアもでてくるかもしれない。

このように現状をいったん忘れて新たに考えるときに、創造的な仮説が生まれる。

もちろん追い込まれたときに、こういうゼロベースの発想をすることは大事であるが、日頃からゼロベースで考える癖をつけておくと大きな効果の上がる解決策を効率的に思いつくことができる。

最初から非現実的な仮説や突拍子もない仮説を除いて考えると、常識的な考えしか思い浮かばず、真の課題や原因にたどり着かないことがある。

だから最初は枠を外し、あえて幅広く考えてみるのだ。

その後で、非現実的な仮説やすぐに反証のでる仮説を除いていく。

6よい仮説の条件──悪い仮説とどこが違う?

□条件1掘り下げられているさて、これまで仮説の立て方について述べてきたわけだが、仮説があっているか、違っているかということ以外に、よい仮説・悪い仮説という考え方がある。

誤解があるといけないので繰り返しておくが、BCG社内では仮説が当たっていたか、間違っていたかをよい・悪いとはいわない。

たとえ間違っていても、それをベースに新たな仮説がつくられたり、選択肢のひとつが消去できれば、それはそれで仕事が前に進むからである。

それでは、よい仮説と悪い仮説は一体どこが違うのだろうか。

「営業成績が上がらない原因を調べ、対策を練る」というケースで考えてみよう。

たとえば、次のような仮説を立てたとする。

【仮説】営業マンの効率が悪い【仮説】できない営業マンが多い【仮説】若手営業マンが十分教育を受けていないこれらの仮説は決して間違ってはいないが、よい仮説とはいえない。

ではよい仮説とはどんなものか。

たとえば次のような仮説である。

【仮説】営業マンがデスクワークに忙殺されて、取引先に出向く時間がない【仮説】営業マン同士の情報交換が不十分で、できる営業マンのノウハウがシェアされていない【仮説】営業所長がプレイングマネジャーのため、自分自身の営業活動に忙しく、若手の指導や同行セールスができていない見比べてほしい。

はじめに挙げた仮説とよい仮説との違いがわかるだろうか。

まず、仮説の掘り下げ方が違う。

「営業マンの効率が悪い」(【仮説】)というだけでなく、なぜ効率が悪いのかという原因にまで踏み込んでいるのがよい仮説だ。

すなわち、「営業マンがデスクワークに忙殺されて、取引先に出向く時間がない」(【仮説】)ために、営業効率が悪いのではないかと考えている。

同様に、「できない営業マンが多い」(【仮説】)のは、優秀な営業マンがノウハウ、セールストーク、ツールをもっているにもかかわらず、「営業マン同士の情報交換が不十分で、できる営業マンのノウハウがシェアされていない」(【仮説】)ことに原因があるのではないか。

「若手営業マンが十分教育を受けていない」(【仮説】)という問題についても、本来なら若手営業マンを教育する立場にある営業所長が自分も顧客を抱えていることで、自分の顧客の面倒をみるのに忙しかったり、あるいは自らも営業成績を上げなくてはならなかったりして、若手営業マンの指導や同行セールスができていないのではないか。

つまり、「営業所長がプレイングマネジャーのため、自分自身の営業活動に忙しく、若手の指導や同行セールスができていない」(【仮説】)と考える。

こういう仮説がよい仮説だ。

「なぜ、そうなのか」というところまで、もう一段掘り下げて考えてみなくてはならない。

これができるようになるために、仮説を立てるときには常に、SoWhat?(「だから、何?」、「だから、どうする?」)と考えるべきだ。

たとえば、「体重が一年間で一〇キロも増えた」としよう。

「だから、何?」と考えると、「やせないと身体に悪い」となる。

そして「だから、どうする?」と考えれば、「運動をする」となる。

さらに「だから、どうする?」と考えれば、「毎日ジョギングする」という具体的な行動に落とし込むことになる。

このように具体的になるまでSoWhat?を繰り返すのが、仮説を掘り下げるコツである。

□条件2アクションに結びつくよい例として挙げた【仮説】、【仮説】、【仮説】は、いずれも掘り下げられている。

すると、仮説が正しいと証明されたときに、すぐに実行できる解決策につながる。

これがよい仮説の条件の二つ目だ。

一方、【仮説】、【仮説】、【仮説】では、正しいと証明されたところで、明日からどうすればいいのかという解決策にはつながらない。

たとえば、「営業マンの効率が悪い」(【仮説】)という仮説を立てたからといって、営業マンに向かって、「効率よく働け」というだけでは、普通の営業マンはどうしていいかわからない。

ところが、「営業マンがデスクワークに忙殺されて、取引先に出向く時間がない」(【仮説】)にまで進化していると、「デスクワーク専門のアシスタントを置き営業マンが頻繁に外出できるようにする」、「ITを活用してデスクワークを半分の時間ですむようにする」、「売上げにつながらない業務日誌のためにデスクワークの時間が長くなっているので日誌を簡潔にする」などの、具体的な解決策につながる。

つまり、よい仮説の条件とは、「一段深く掘り下げたものである」ことと、「具体的な解決策あるいは戦略に結びつく」ことの二つだ。

□よい仮説を立てることが重要な理由よい仮説を立てられると、問題解決はとてもスムーズになる。

問題発見が早くなる前述した、営業成績が上がらない例で考えると、問題を発見するためには、営業効率が悪いという表面的な問題だけではなく、なぜ効率が悪いのかという理由まで掘り下げて考えなくてはならない。

さらにひとつだけではなく複数の仮説を立て、どの原因が最も営業の効率を悪化させているのかを検証することも必要だ。

たとえば、営業マンがデスクワークに忙殺されている場合も考えられるが、取引先に注文品が予定どおり届いていない、あるいは取引先からの入金確認ができていないなど、営業マンの活動とは関係のないところでトラブルがあり、そのトラブル処理に営業マンが忙殺されて営業効率が悪い場合もあるかもしれない。

その場合には、営業だけ改善しても営業成績が上がらないという問題は解決せず、解決策を間違えることになる。

問題の真因を発見していくときには、一段掘り下げた複数の仮説を立ててみることが重要な役割を果たす。

解決策が早く立てられる

有効な解決策を立てるためには、仮説を掘り下げてより詳細化、あるいは具体化することで、解決策につながりやすい仮説に進化させることが重要だ。

解決策が絞り込める営業成績が上がらないという問題に対して仮説を立てていくと、いくつかの解決策を立てることができる。

ただし、その中でより有効な解決策を選択し、実行しなくてはならないので、解決策を絞り込むことが必要だ。

その際には、営業の効率が悪いことと、営業マンの教育が十分でないことの、どちらがより重要な問題なのかを見極めなくてはならない。

それにはさらに掘り下げた仮説を立て、それを検証することが必要になる。

その結果、営業マンの教育も十分に行なわれていないけれど、それ以上に営業効率が悪いことが問題だと判断すれば、営業効率を改善する解決策を優先するし、営業効率を二〇~三〇パーセント改善するよりはひとりひとりの営業マンの質を高めたほうが売上げがアップすると判断すれば、営業効率の改善策はひとまず置き、営業マンの教育に力を入れる。

このように解決策を絞り込むときにも、仮説は重要な役割を果たす。

問題解決のためには仮説が重要で、しかも深く掘り下げたよい仮説でなくてはならない。

よい仮説をつくるには、いったん立てた仮説をそれでおしまいにせず、深掘りして進化させる必要がある。

そのためには次章で述べる「検証」という技が重要な意味をもつのである。

7仮説を構造化する

□大きな問題と小さな問題を明確にする構築した仮説は深掘りして進化させていく必要がある。

ここでは仮説を深掘りする上で便利な方法として、イシュー・ツリー、あるいは論点の構造化と呼ばれるアプローチを紹介したい。

図表3-4のようなツリー構造の絵を描き、システマティックに仮説を構造化する方法だ。

こうすることによって、大きな問題と小さな問題を明確にすることができる。

インタビュー結果から仮説を立てるところで紹介した、「よい製品を出しているにもかかわらず、売上げが伸びないので、その原因を調べて戦略の提案をしてほしい」という例を再度使い、この方法を説明しよう。

□事例売上げが上がらない理由を構造化するまず、売上げが上がらないという問題を構造化する。

売上げが上がらないときに考えられる大きな理由は二つある。

総需要が減少しているため応分のシェアは維持しているものの売上げが減少しているケース総需要は減少していない、あるいは増加しているけれども、自社の売上げだけが減少しているケース。

つまり自社が競争相手に負けているケースまずはこの二つを明確に分けて考える。

仮説総需要が減少→なぜ総需要が減少したか需要自体が減少している場合には、なぜ需要が減っているのかをさらに考える。

たとえば需要が一巡して成熟期に入ってしまった場合が考えられる。

携帯電話がよい例で、新規加入者も減少し、端末も昔ほどのペースでは買い換えなくなり、携帯電話は明らかに需要が一巡し、需要が減少した。

その他、消費者の嗜好が他ジャンルにシフトしてしまっている場合も考えられる。

たとえば女子高生が携帯電話により多くのお金を使うようになると、女子高生向けのファッション業界は全体的に需要が落ちる。

仮説─競争相手に負けている→製品力で負けている競争に負けている場合には、さらに次の二つに分けられる。

製品力で負けている場合販売力・マーケティング力で負けている場合製品力で負けている場合、さらに二つに分けられる。

ひとつは、他社から新製品が出ている場合で、ここでは他社から新製品は出ていないので点線で囲ってある。

しかし実際には、他社から強力な新製品が出て、それに負けてしまうこともよくある。

たとえばキリンビールのラガーがアサヒビールのスーパードライに負けたケースなどは典型的な例として挙げられる。

もうひとつ、製品そのものは変わらないけれど、口コミで他社製品に人気が集まってしまっていることも考えられる。

この仮説は製品力にも、販売力、マーケティング力にも入らない中間的な仮説かもしれないが、ここではあえて製品力に入れておく。

仮説─競争相手に負けている→販売力・マーケティング力で負けているそして販売力・マーケティング力で負けている場合は、さらに想定される要因によって三つに分けることができる。

A価格競争を仕掛けられている場合B競争相手が非常に上手なプロモーションをやっている場合C消費者が商品を購入するチャネルが変わり、顧客が得意でないチャネルにシフトしている場合価格競争を仕掛けられている場合には、次の通りに分けられる。

a末端価格において安売りが始まっている場合b末端価格は崩れていないけれども、競争相手が中間の卸売りや小売店のマージンを増やし、結果的に卸や小売店が競争相手の商品を消費者に推奨しているため、顧客の製品が売れない場合競争相手のプロモーションがうまい場合には、次の二つに分けられる。

a競争相手が効果的なテレビコマーシャルや新聞・雑誌の広告をどんどん行なっている場合b販売促進のためのツールを配布したり、キャンペーンガールを派遣して積極的にキャンペーンを行なっている場合このようにして、イシュー・ツリーという形で論点を掘り下げていき、構造化していく。

□立てた仮説を検証して絞り込むもちろん、途中で総需要は減少していないことがわかれば、需要が減少している場合を構造化したツリーは捨て、左半分の競争に負けている場合のツリーだけに集中して調べればいい。

さらに製品力では負けていないことがわかれば、販売力・マーケティング力で負けている場合のツリーだけを調べていく。

このように、立てた仮説を検証して絞り込み、可能性のある仮説についてはさらに踏み込んで仮説を立てて、検証する。

それを繰り返すことで仮説を進化させていくのが、イシュー・ツリーを使ったアプローチだ。

この方法を使うと、自分が立てた仮説を検証するときにわかりやすく整理できるし、相手を説得するときにも有効だ。

たとえば相手から何か反論を受けたときにも、このイシュー・ツリーを見せながら、「それは検証済みだ」、「それは違う」と論理的に説得することができる。

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