第4章仮説を検証する
1実験による検証2ディスカッションによる検証3分析による検証4定量分析の基本技
第4章仮説を検証する
1実験による検証□セブン-イレブンの実験「二〇〇円のおにぎりは売れるか?」仮説は検証し、進化させていく。
検証方法にはいくつかある。
主な方法として、ここでは、実験による検証、ディスカッションによる検証、分析による検証を紹介する。
もちろん、これらを個別に行なうというわけではなく、通常、コンサルタントはこの方法を合わせて使っている。
仮説を検証する場合、一番確実でわかりやすいのは実験することだろう。
それも現場での実験が一番わかりやすい。
前述したセブン-イレブンの例はまさにこれに当たる。
消費者はどんな商品を求めているか、情報を集めて現実を分析しながら仮説を立て、その結果を検証し、修正すべき点を修正しながら消費者のニーズに合うように変えていく。
たとえば、おにぎりについてのユニークな仮説検証例がある。
数年前、「おにぎりが明らかに消費者にあきられている」という時期があった。
この問題を解決するためにセブン-イレブンはどのようなことを行なったか。
スーパーは、昭和三〇年代に商品の価格を安くすることで売上げを伸ばして成長してきたが、モノ余りの現在では、消費者は価格の安さより、味や品質などの商品の価値を重視するようになっている。
こうした背景を受け、セブン-イレブンでは、「品質がよく、味がよければ、二〇〇円のおにぎりも売れる」という仮説を立てた。
おにぎりの価格は一〇〇~一三〇円が常識と考えられていたから、業界では「何を考えているのか?」という声さえ聞かれた。
セブン-イレブンでは、消費者のおにぎり離れは、価格を下げれば解決する問題なのか、質に魅力がないからなのかを検証した。
まずは赤字を覚悟でほとんどのおにぎりを一〇〇円で売ってみた。
その結果、二~三カ月は売上げが二〇パーセント程度伸びた。
次に二〇〇円の質の高いおにぎりを売りだした。
すると、価格を下げたときをはるかに上回る売上増を記録した。
このように仮説を実験してみることで、消費者のニーズをつかむことができたのである。
□ソニーの消費者刺激型開発もうひとつユニークなケースを紹介しよう。
それは消費者刺激型開発という手法である。
これは、ユーザーとコミュニケーションをとりながら製品開発を実施していく戦略である。
メーカーは通常、開発に先立ってマーケット・リサーチを行なった上で製品の最終コンセプトを固め、完成した製品を発売する。
それに対し、消費者刺激型開発では、必ずしも最終製品ではない一種のパイロット的製品をユーザーにぶつけ、返ってくる反応を開発に反映させながら最終的なコンセプトに絞り込んでいくという、仮説検証を行ないながらの商品開発方法だ。
かつてソニーがCDプレーヤーを開発した際、まさに消費者刺激型開発を行なった。
当時、CDプレーヤーというまだ世にない製品をつくるに当たって、ソニーの開発陣は、どのようなデザインがいいのか、どのような機能をもたせたらいいのか、販売価格はどの程度が適当かと頭を悩ませた。
シンプルなデザインにするか、録音機能を付加するなどの多機能型にするか、高価格で売りだすべきか、手頃な値段に抑えるべきかなど、選択肢はいくらでもあった。
このような場合、マーケット・リサーチを行なったところで、消費者自身がCDプレーヤーというものを見たことがないため、聞かれても答えようがない。
かといって、開発サイドの思い込みでつくるのはリスクが大きすぎる。
そこでソニーは、とにかく市場に聞いてみようということで、三一カ月間に一五種類のCDプレーヤーを次々と発売した(図表4-1)。
約二年半で一五種類といえば、モデルチェンジの頻繁なエレクトロニクス業界でも特筆に値する数である。
具体的には、最初に五機種から六機種を同時に発売した。
つまりよいと思われる仮説を消費者に投げたのである。
検証は販売台数となって表れた。
そして、その中でAタイプがよく売れたとすれば、なぜAタイプが売れたかを調べるために、ユーザーからじかにどの点が気に入ってどの点が不満かということを聞いて、その意見に基づいて、AタイプをベースにしたA1、A2……という商品を次々と発売した。
こうした作業を繰り返すことによって、通常よりはるかに短期間で市場のスィートスポットの発見、すなわち売れ筋商品の絞り込みに成功したのである。
どの商品が受けるかわからないというときは、消費者に聞いてみるのが一番だ。
ただし、仮説検証を繰り返しながら売れ筋商品の絞り込みを行なうには、商品開発のスピードが重要なカギを握る。
商品を開発して市場に出す、その反応を見て、次のタイプを開発し市場に出す。
このサイクルに速さが求められる。
一個の商品を出すのに二年も三年もかかっては意味がない。
数カ月で新商品を出せる社内の開発体制が必要になる。
こういう体制をつくるのは容易ではないが、これを実現できれば圧倒的に競争優位を築くことができる。
ソニーがCDプレーヤーを発売した直後、同業他社もソニー製品を見本にして対抗商品を発売した。
しかし、発売するとすぐにソニーが新製品を出すため、他社はソニーに追随するだけで苦労し、ついには息切れしてソニーの勝利に終わったのである。
仮説検証はとても大切だ。
製品開発において、消費者ニーズを把握するためのマーケット・リサーチは不可欠だが、昨今の消費者ニーズの多様化やトレンドの変化の速さを考えると、マーケット・リサーチがあまり役に立たないことが多い。
とりわけ、まだ世にないコンセプトの商品を開発する場合、市場調査はほとんどあてにならない。
ヒット商品はユーザーに聞け、といわれるが、これを額面どおりに受け取ることは危険である。
なぜならユーザーは必ずしも自分のニーズを的確に表現できないし、場合によっては、自分でも何が欲しいのかわかっていないことが多い。
したがって、ソニーのようにメーカー側から商品というメッセージを次々と市場に送りだしてユーザーを刺激し、その反応を見ながら基本コンセプトを固めていくという開発戦略も時には有効なのである。
□テストマーケティングは有効な手段消費者刺激型開発戦略はうまくやればたいへん有効だが、相当の企業体力が必要だ。
そこで、より一般的に行なわれる仮説検証の方法として、テストマーケティングがある。
テストマーケティングとは、商品を発売する際に、当初限定された市場、チャネルなどで、全国発売時と同じ条件(同様のマーケティング活動、チャネル設定など)でテスト的に発売することだ。
テストマーケティングでは、初動、リピート、広告や販促との連動などが測定され、商品仕様、販売計画、訴求ポイントなどが全国展開に向けて修正される。
生産計画などのリスクを最小限に留め、効率のよいマーケティング活動を行なうことができる。
ちなみにテストマーケティングの対象地としては、静岡、札幌、広島などが選択されるケースが多く、これには、所得分布、嗜好などの面で、全国市場をコンパクトにした平均的な市場とみなし得ること、域内で完結した広告媒体が存在すること、などの理由がある。
テストマーケティングというのはまさに仮説の検証だ。
たとえばテレビCMのAパターンとBパターンはどちらがいいかという場合、それを一部地域で流してみる。
あるいは商品パッケージのA案とB案ではどちらが売れるか、一部地域で試してみる。
全国展開するとコストがかかるから、特定のエリアで実際にやってみる。
パイロット的な実行となるが、本格展開する前に行なうと、かなり確度の高い検証をすることができるだろう。
中には、施策を思いつき、検証しないまま本格展開し、手痛いダメージを被る企業もある。
一度検証する機会をもち、仮説を進化させてから導入することで、そうしたリスクは少なからず低減させることができるはずだ。
□実験による検証には向き不向きがある実験による検証はたいへんわかりやすいが、向くものとそうでないものがある。
たとえば、店内のレイアウトや商品ディスプレイの変更などは実験による検証に向く。
アパレルや食品など繰り返し消費の起こる業界での商品改良なども、広い意味では仮説・実験・検証を繰り返しているといえる。
こういう業界では、実験による検証は比較的たやすい。
しかし、自動車メーカーや製薬会社など多額の開発費用がかかり、乾坤一擲の商売をしている業種などは、そう簡単に実験するのは不可能である。
また、問屋を中抜きする、新規事業をスタートさせるなど、会社としての大きな意思決定も実験には向かない。
また、ミクロな意思決定だからといっても、実験を繰り返すには相当な企業体力が必要になるだろう。
したがって、次に述べるディスカッションや分析による検証が、現実的には、重要な意味をもってくる。
徹底的なディスカッションや分析を行なうことによって、仮説の精度を上げることができるのだ。
ときには実験を行なうまでもなく、より精度の高い仮説に進化させることもできるはずだ。
2ディスカッションによる検証□参加メンバーや行なわれる場はさまざまディスカッションは仮説を構築するとき、検証するとき、進化させるとき、いずれの場合にも有効な手段である。
仮説思考のための基本スキルといってよい。
特に仮説を検証するよい機会になる。
自分の出した仮説を、自分で検証するという方法もあるが、それは経験を積まないうちはなかなか難しい。
それよりも他者との対話によって検証するほうが時間もかからず、楽なことが多い。
ディスカッションの参加メンバーや行なわれる場はさまざまだ。
たとえばチームメンバー、同僚、上司や部下とのディスカッションで、自分の仮説について聞いてみる。
コンサルタントの場合、顧客に直接ぶつけるというやり方もあるし、あるいは市場に出て、流通関係者や消費者に仮説をぶつけるという方法もある。
顧客が仮説に納得していなくても、エンドユーザーが納得してくれれば強力な説得材料になる。
前述したインタビューも広い意味ではディスカッションといえる。
インタビューのときに単に取材するだけでなく、あらかじめ用意しておいた仮説をぶつけることができれば、問題解決のスピードはさらに加速することになる。
自分ひとりで考えているとおのずと限界も出てくるし、悪いサイクルに入ってしまうと、自分では気がつかずに同じところをぐるぐる回ってしまうことも多い。
同僚やその道のベテランを交えてディスカッションすることで、自分の考えが進化したり、勘違いや思いこみを排除することができる。
また思い切った発想が必要なときは、逆にその分野では門外漢だが幅広い教養をもった人物や、素人のほうが、ユニークで斬新なアイデアが出てくることが多い。
□社内の恥はかき捨てと心得る最も頻繁に行なわれるのは社内ディスカッションだろう。
BCGでも、プロジェクトチームのメンバーが集まるミーティングで自分たちの仮説をもち寄ってディスカッションする場合もあるし、プロジェクトに関係のないメンバーでフリーディスカッションする場合もある。
最初のうちは、仮説を立てても間違っていたらどうしようかという不安もあるだろう。
だが、若いうちは失敗をおそれずに、大いに間違えることだ。
実際、自分ひとりで悶々と考えていると時間の無駄なので、早めに他人に考えをぶつけたほうがよい。
場合によっては少しくらい乱暴な仮説をぶつけて、相手がおもしろいといってくれるか、あるいは怒られるか、相手に判断してもらう方法もある。
社外のディスカッションで、ピントのずれた仮説を提示し、恥をかいてしまうと問題になることもあるだろう。
だが社内のディスカッションならば大いに恥をかいたり、失敗したりしてもいい。
「社内の恥はかき捨て」と思えば、思いつきレベルの仮説を提示することもできる。
恥をかきたくないと思うと、できるだけ仮説を完璧なものに近づけてから周囲の人とディスカッションをし、答えを出そうとする。
しかし、それでは時間がかかりすぎたり、結局よい解決策に到達できなかったりする場合が多い。
恥をかくことをおそれずに、中途半端な仮説でも前倒しでぶつけてみて、よいインプットをもらい、修正したり進化させたりしていくことが大切だ。
プロジェクトに関係のないメンバーとのディスカッション、あるいは公式なミーティングではないインフォーマルな場でのディスカッションも実に有効だ。
顧客に関する情報など部外者に秘密にするべき話題には注意しなくてはならないが、仮説検証に行き詰まってしまった場合など、役に立つヒントをもらえる可能性が高い。
□仮説の掘り下げや進化も見込めるそのような場で、自分なりの仮説を提示し、仮説を検証し、さらに掘り下げ進化させる。
たとえば、かつてあるプロジェクトで、コンサルタントから、「現在分散しているコンピューターを大型のものひとつにまとめてしまったほうがトータルコストは安くなる」という仮説が出されたことがあった。
大型コンピューターはお金ばかりかかってコストパフォーマンスが悪いから、小さなコンピューターをたくさん使うやり方、いわゆるダウンサイジングすべきという風潮の中で、斬新な仮説であった。
社内ディスカッションでは最初、「そんなはずはないだろう」という声も出た。
が、何人かで話し合ってみると、その企業の場合は単純なデータを大量に処理するために、中型コンピューターセンターを複数もつよりも、一カ所にまとめて大型コンピューターで処理するほうが、効率と経済性の両面で優るということが見えてきた。
その仮説をチームのディスカッションによってさらに進化させ、さらに顧客の反応も予想してみた。
顧客からは、「おもしろいけれど、本当にそんなことが可能で経済性にあうのか」という疑問が出そうだと、メンバーの多くが考えていた。
そこで、チームは数字による分析や技術的な実現性などの検証も加えて確認した上で、顧客に提案した。
結局、顧客も納得し、実行に移すことになった。
□顧客にぶつけるときは分析をした後で一方、コンサルティングの中で仮説を直接顧客にぶつけることもある。
このような場合は、思いつきレベルの仮説を提案することはない。
分析を行なってからの提案となる。
仮に、航空会社に対して、旅行代理店を通さずに直接消費者に販売する方法を提案したとする。
航空券の予約が、コールセンターやインターネット、モバイルで可能になった現在、旅行代理店の存在意義は薄れている。
以前はチケットという物理的なペーパーがあったから、それを受け渡すために旅行代理店は必要だったが、eチケットやチケットレスになれば、さらに存在意義はなくなる。
そこで、代理店は不要だという仮説を提案する。
その際は、あらかじめ代理店を通した場合と直販した場合の経済性比較の分析をしておく。
そうすると、たとえば「経済性の優位はわかるが、代理店には与信機能がある」といった意見が出されることが予想される。
顧客が何らかの理由で航空券の代金を払えなくなったときに旅行代理店が責任をもって支払ってくれるという意味だ。
そこで、「現状で、最終顧客である企業の倒産リスクと代理店の倒産リスクはどちらが高いですか」と再度、質問する。
そして、仮に一般企業より旅行代理店のほうが倒産率が高いことがわかれば、旅行代理店を通すほうがよほど与信のリスクが高くなることがわかる。
このようにディスカッションをしていくことで仮説を確かめていくのである。
□上手なディスカッションを実施するコツディスカッションに際してのコツや心構えのようなものをお話ししよう。
コツ1必ず仮説を立てていくまず、ディスカッションに何の仮説や考えももたずに手ぶらでのぞみ、相手から答えだけを引きだそうと思うのは虫がよすぎる。
ディスカッションで答えを引
きだしたいなら、必ず自分なりに仮説を立てておき、それを先にぶつけなくてはならない。
これは最低限のルールで、自分で何もわからない状態で相手に教えてもらおうとする姿勢では何も得られない。
もちろん完璧な仮説である必要はない。
半完成品でいいからとにかく俎上に載せてみることが大切だ。
「自信はないけれど、こういうことなのではないか」という程度でいいので、仮説をぶつけてみることだ。
たとえ間違っていたとしても、周囲にはその問題に関してよりくわしい人や、まったく違う視点をもった人がいるのだから、その人たちとディスカッションすることによって、仮説を検証し、進化させていけばよい。
コツ2仮説を否定せずに進化を目指すディスカッションで誰からか中途半端な仮説や誤った考え方が出てくると、ついその仮説や考え方のアラを指摘してしまいがちになる。
しかし、否定からは進歩は生まれない。
単に否定するのではなく、「こういう考え方のほうが答えに近づくのではないか」、「こういう視点を加えたらどうか」というアドバイスをする。
これがディスカッションで仮説を検証し、進化させるコツである。
コツ3議論は負けるが勝ちディスカッションで大切なのは、相手の話をしっかり聞くことだ。
そして相手の発言の意図を理解し、なぜそういう発言をするのか踏まえて対応していく。
ディスカッションの目的は勝つか負けるかではなく、仮説の検証と進化である。
ディスカッションを行なうときはそのことを忘れずに、場合によっては「負けて実を取る」ことも必要になる。
コツ4メンバーはバラエティ豊かにディスカッションを成功させるために、時には、あえてチームメンバーに異なる役割を担わせることがある。
メンバー構成としては、たとえば常識はずれでもよいから跳んでいる意見をいう役、人の意見を批判的に見る役、逆にまとめ役などをおく。
もちろんもともと、そういうことの得意な人がうまい具合に散らばっていればよいが、そうでない場合は、たとえ普段は跳んでいる人でも、今日はまとめ役をお願いしますということがある。
違う役割、性格の人がいると、ディスカッションは幅広くなり、仮説の検証も行ないやすくなる。
3分析による検証□分析の基本はクイック&ダーティー分析も検証の際に重要だ。
それでも精緻な分析は必ずしも必要ではない。
仮説の検証のための分析のコツは、まず最小限の要素だけを急いで簡単にやるよう心がけることだ。
われわれはこのような分析のことを、急いでかつ粗いということで「クイック&ダーティー」と呼んでいる。
時にその辺にある封筒の裏を使って、ちょこちょこと計算を行なうことから、「バック・オブ・エンベロップ」分析ともいう。
この分析の目的は、主に自分が納得するためだ。
自分が立てた仮説が合っているかどうかを急いで検証するのである。
次に本格的な分析を行なう。
これは他人を説得するためであり、万が一の間違いを防ぐ目的である。
ただし、これもいかに精緻華麗な分析を行なうかではなく、意思決定に必要な判断を行なえるものであるかという視点が最も重要である。
仕事の意思決定に使う分析と、学術論文の分析とは違う。
学術論文の分析には誰がやっても同じ結果が出るという正確性や精密性が要求されるが、仕事の意思決定に使う分析に、それらは求められない。
有効数字はひと桁でも十分だ。
たとえば、あるプロジェクトを行なうかどうかの意思決定をする際、成功確率が八三パーセントであろうと七九パーセントであろうと、会議の結論が変わることはない。
どちらの数字も成功確率は約八割と判断され、「実行する」という結論になる。
さらにいえば、成功確率が四三パーセントか三九パーセントかで結論が変わることもない。
「実行しない」という結論に変化はない。
成功確率は八割か、あるいは四割かがわかれば結論を出すには十分で、詳細な数字は必要ないのだ。
精密な数字を扱うと判断を誤ることもある。
分析すると小数点第一位までの数字を出したがる人も多い。
たとえばアンケート結果を分析して、「六六・七パーセントの人が賛成」などという記述をよく見かける。
その結果から、一〇〇〇人のうち六六七人が賛成と考えるとたいへん多く感じるが、実は三人のうちの二人が賛成しているにすぎないことも多い。
こうした場合は、ひとりが反対に回ると結果が逆になってしまう。
そうした本質的なことを見ないで細かな数字にとらわれると、判断を間違えることになる。
私は、常々経営に必要な数字は有効数字ひと桁でよいといっている。
□分析を行なう目的は三つ分析による検証を行なう前に、分析の目的をおさらいしておこう。
一般的に考えられている分析の目的は、問題を発見する、相手を説得する、自分を納得させる、の三点である。
問題を発見するたとえば、精神科医やカウンセラーに心理分析をしてもらうとき、多くの人は自分自身が知らないことや気づかないこと、あるいは本当のことがわかるのではないかと期待する。
これはコンサルタントにコンサルティングを依頼する場合も同じだ。
顧客は自分の気づいていない問題、見落としている問題を発見してもらうことを期待する。
このようなケースで、精神科医やコンサルタントは、顧客の問題や課題を発見するため、あるいは現状を診断するために分析を行なう。
相手を説得する問題や課題を発見した後、それを相手に理解してもらうため、相手を説得するためにも分析を行なう。
たとえばあるメーカーの商品開発担当者が、自分たちがよい製品を開発しているのに売上げが上がらないのは、営業やマーケティングに問題があるからだと思っているとしよう。
でも実際に調べてみたら、営業やマーケティングに関しては他社と比べて遜色なく、むしろ問題なのは製品力がないことだとわかった。
担当者は、その結論について、簡単には納得できないだろう。
したがって、担当者にその製品はなぜ競合他社に比べて劣っているのか、あるいは消費者からどう思われているのかということを理解してもらうために分析が必要となる。
自分を納得させるこの問題の真の原因はこれではないかと自分なりに考え、それが本当に正しい答えかどうか、あるいは他に答えがあるのかどうかを自分で納得するために分析をしてみる。
□まず仮説ありき、次に分析このように分析にはいろいろな目的があるが、いずれの場合においても最も大切なのは、仮説を検証するために分析を行なうということだ。
闇雲に分析してから問題を整理するのではなく、まず問題意識をもって仮説をつくり、それが正しいかどうかを検証することが、分析を行なう正しい態度である。
なぜなら仮説を検証するために分析を行なう場合、必要となる分析もおのずと限られ、最小限の工数ですむからだ。
これを忘れて、分析結果から何かを発見しようとすると、あれもこれもと闇雲に分析することになり、結局は情報洪水に溺れてしまう。
パソコンが普及している現在では、データさえあればさまざまな分析が可能だ。
たとえば表計算ソフトを利用すれば相関分析や多変量解析も簡単に行なえる。
あるいは解析専用のソフトウェアを利用して分析しようと思えば、一週間でも、一カ月でも一年でも分析し続けることが可能だ。
だが、このような問題意識のない分析は、決してやってはいけない。
4定量分析の基本技分析には、数字データを使って分析する定量分析と、数字データよりはインタビューのコメントや経営者の考え方、あるいは消費者の声について分析する定性分析がある。
定性分析で十分ならば、定量分析をする必要はないが、仮説検証において多く使用するのは定量分析である。
ここでは定量分析を行なう際に基本となる方法を紹介する。
こうした分析手法を理解して仮説検証に役立ててほしい。
□比較・差異による分析比較・差異は最もわかりやすい分析方法で、二つ、三つのものを比較し、その違いがどこにあるかに注目する。
市場シェア、売上げ、コスト、価格などを比較したり、顧客満足度を調査し、それを数値化するときに使う。
実際に比較・差異の分析を仮説検証に活用した例を紹介する。
事例トイレタリー商品のチャネル別損益図表4-2は、あるトイレタリーメーカーの主力商品の損益をチャネルごとに比較した例だ。
当時、その業界ではいわゆる総合スーパーとよばれているGMS(GeneralMerchandiseStoreの略、イトーヨーカ堂やイオンがこれに当たる)が優良なチャネルだと考えられていた。
なぜならGMSでは基本的に商品の最終市場価格が高い。
メーカー希望価格に近い値段で販売してくれる。
また、買い取るときにはメーカーの提示した価格で納得してくれた。
これらの理由でメーカーからみてGMSは非常に優良なチャネルだった。
一方、ディスカウンターは商品の市場価格をどんどん安くしてしまう。
買い取るときも、大量に買い取るのだからとボリュームディスカウントを要求する。
これらの理由で、扱いにくいチャネルと考えられていた。
そうした中で、あるコンサルタントがメーカーが忌み嫌っているディスカウンターのほうが実はメーカーにも顧客にも貢献しているのではないかということをいいだした。
そこで実際にチャネルごとの収益性を比較してみるとどうだろう。
製販価格とは、メーカーがそれぞれのチャネルにいくらで販売するかという定価のことだ。
販促費は、店舗におけるキャンペーンの協賛金や商品陳列に使うPOPの負担金などをさす。
リベートとは返却する代金の一部で、売上割引とは売上高に応じたディスカウントだ。
このようにさまざまな割引がある。
これらの各種割引を足し合わせると、優良チャネルだと思われていたGMSは、二〇〇円近いディスカウントになり、七二〇円に対して五二五円で卸していることになる。
それに対してディスカウンターには、割引をすべて差し引いても六四五円で卸していることになり、三者の中では最も高く購入していることがわかる。
さらに営業マンがそのチャネルにどのくらい時間を使うかを営業費として比較すると、ディスカウンターにはそれほど時間を使わないが、年中まめに出向いてバイヤーと相談する必要があるGMSやSM(スーパーマーケット)は営業費が多くかかっていた。
営業費まで差し引いて考えると、GMSは一個当たり六五円の赤字、ディスカウンターは九五円の黒字であることがわかった。
メーカーが、GMSが最良顧客だと思い込んでいる場合、GMSには商品を卸したいが、価格破壊者のディスカウンターには商品を卸したがらない。
しかし、このようなチャネルごとの収益性を比較分析してみると、今後はディスカウンターに多く卸したほうが結果的に利益が上がることがわかる。
□時系列による分析時間を追ってどう変化しているかを分析するとき、時系列の手法を使う。
多くの企業は、昨年度と比べて売上げはどれくらい伸びたか、利益は増えたか、あるいはシェアは拡大したかということは気にするが、五年前、一〇年前からの変化を追っている企業はほとんどない。
経営企画の担当者などが、中期計画をつくるときに数年分のデータを時系列で見ることはあるが、一〇年、二〇年単位でものごとを見る人は企業の中にはほとんどいない。
だが、長いスパンで見ることによって、企業が気づかなかった実態が浮かび上がってくることも多い。
事例自動車メーカー別の新車販売台数と販売拠点数の推移自動車メーカーは国内で熾烈なシェア争いをしていて、これまでシェアを少しでも増やすためにディーラーの拠点数を増やしてきた経緯がある。
一方で、自動車ディーラーが儲かっているという話はあまり聞かない。
どうもディーラーの数とシェアに相関関係があるというのは幻想ではないかという仮説を立てて、実際に分析してみたのが、図表4-3のグラフである。
新車販売拠点(ディーラー)の数と新車販売台数について、一九八五年から二〇〇一年までの一六年間の推移を自動車メーカーごとにグラフで表したものだ。
左側のトヨタ自動車のグラフを見ると、新車販売拠点数は途中で少し横這いになりながらも、基本的には右肩上がりに増え続けていることがわかる。
ところが新車の販売台数は、最初の数年間は急増しているが、途中から減少する傾向にある。
これは一店舗当たりの販売台数ではなく総販売台数なので、一店舗当たりの販売台数はもっと大きく減少しているわけだ。
つまり、トヨタ自動車は四割のシェアを維持しているとか、マーケットリーダーだといわれているが、少なくとも販売効率という点においては、劣等生であることがわかる。
ところが本田技研工業(以下、ホンダ)は、販売拠点数は増やしておらず、長期トレンドで見るとどちらかというと減少する傾向にある。
それに対して販売台数は増加しているので、販売効率という意味ではホンダは優等生といえる。
世間ではシェアだけを見て、トヨタはシェアを増やし、ホンダは落としたというが、販売効率を見るとホンダのほうが優等生なのだ。
日産自動車は、販売拠点数は増やしていないが、販売台数も減少しているので、販売効率はトヨタほど悪くないが、ホンダに比べると劣る。
これらのことは時系列で見るからわかることだ。
長いスパンでものを見ることで、たとえば販売拠点を増やすと販売台数が増えるという自動車業界の常識は正しくないということが検証された。
□分布による分析さまざまな事象に関し、そこに何らかの相関関係があるのかないのか、あるいは特異点や異常点があるのかないのかを分析するときに使うのが分布の手法だ。
分布の手法で分析する場合、散布図を使うことが多い。
事例家電製品の収益性を小売店別に見るある家電メーカーのコンサルティングをしたときの例であるが、ある製品の利益率をさらに上げるためには、大手小売店向けの販売価格を上げることが必須だ、という話があった。
なぜならば、小売店との力関係で、中小小売店には販売価格などこちらの意向を通しやすく、十分高価格で販売できるために、儲けることができる。
それに対して、ヤマダ電機やビックカメラに代表される大手量販店向けビジネスは、相手が力をもっているために販売価格も安値を強いられる。
さらに販売員の派遣やチラシなどの政策、あるいは特別仕様の製品の開発・製造などを要求されるために、営業利益は大幅な赤字にならざるを得ない。
この理屈にしたがえば、もし横軸に売上規模をとり、縦軸に利益率をとれば、売上高が増えるにつれて利益率が低下するという右肩下がりのグラフ、すなわち負の相関関係が現れるはずである。
それに対して、われわれの立てた仮説は、中小小売店向けのビジネスにこそ改善余地があるのではないかというものであった。
この仮説を証明するために、全取引先を対象に利益率を計算してみた。
まずは各小売店別の製品販売価格を求める。
次に、各小売店に営業マンが費やしている時間を金額換算し、各小売店ごとの売上げで割ると、売上げに占める営業費用がはっきりする。
さらに、販売促進費、たとえば陳列に要する販促材料費、売上高に応じたマージン、派遣店員のコストなどを金額に換算して、これも実質コストに加える。
そうした実質営業コストを、製造原価並びに本社間接費に加えて、販売価格から引いたものが実質営業利益になる。
そして、これらの数字を図に表したものが図表4-4だ。
いわゆる散布図である。
ひとつひとつの点が小売店を表す。
この散布図によって、実は売上規模と利益率の間にはほとんど相関関係がないことが明らかになった。
これは、中小小売店では販売価格が各営業マンの判断に任されており、少しでも売上げを増やそうとする営業マンが割引をしがちなことが、大きな原因のひとつであることが判明した。
そのため、小売店の規模に関係なく、割引の大きい店とそうでない店が存在していた。
さらに、営業マンが行きやすい小売店ほど頻繁に訪問するために、結果として売上当たりの営業コストが増大していた。
一方で、大型店はたしかに仕入れ価格を値切られるが、売上げが大きいために、売上当たりの営業マンコストはさほどかかっていないこともわかった。
こうした分析の結果、そのメーカーでは中堅以下の小売店と大型店に対してそれぞれ次のような施策をとることにした。
中堅以下の小売店に対しては、価格政策を全社でコントロールすることで、実質赤字の店をなくす。
大型店においては、売上げの多寡よりも自社にとって利益率の高い小売店に対する営業強化を行なうことで、採算性の向上を図る。
結果として、このメーカーは利益率を大幅に向上させることができた。
□因数分解による分析問題を要素に分解し、本当の原因にたどり着くための分析手法が因数分解だ。
問題をどんどん分解していき、最後のポイント、最も重大な原因はどこにあるのかを探す。
ここでは、加工食品メーカーD社のマーケットシェアが低迷している理由を解明するために行なった因数分解の例を紹介したい。
事例加工食品メーカーのマーケットシェア低迷の理由を分解まず各メーカーの売上げを決定する要因を図表4-5のように因数分解してみた。
実際にD社と主要競合E社を比較してみると、以下のようなことがわかった。
まずD社の売上げは、D社の製品を扱っている店の総数に、一店舗当たりのD社売上げをかけたものになる。
さらに、右側のD社製品扱い店数は、小売店の規模別に、大型店、中型食品スーパー、町の小売店やコンビニエンスストアに代表される小型店の数に分解することができる。
また同じように、北海道から始まって九州まで地域別の店数に分けることもできる。
一方で、左側の一店当たり売上げは、D社製品購入者数×一人当たり売上げに因数分解できる。
さらに、D社製品購入者をリピート顧客と新規購入顧客に分けてみることが可能である。
もう片方の一人当たり売上げは、一人当たりの購入個数と価格に分解できる。
そして同様な因数分解を競合E社でも行なってみる。
実際に分析する前の仮説としては、D社の製品は決して品質や味がE社に劣っているわけではないので、いったん購入さえしてもらえれば、必ずリピート購買につながると考えた。
したがってD社の製品はそもそも扱ってもらっている店の数が少ないか、あるいは、実際に購入している顧客のうちの初回購入者が少ない点に問題があるのではないかと想定していた。
そこで、実際にこれらの因数分解のそれぞれの数字を見てみると、たとえば扱い店数については、多少競合E社に負けるところはあるが、おおむね同数で負けていないことがわかった。
一方、購入客のプロファイルを、いくつかの店で実際に調べてみると、すべての店で総購入客数がE社に負けており、特にリピート顧客数が絶対的に不足していることが判明した。
一見仮説が否定されたようであるが、実はリピート顧客数の不足は、初回購入者数の絶対数が少ないために、なかなかリピート顧客総数が増えないことが最も大きな要因であることがわかった。
要するに、一回買ってもらえばD社のファンになってもらえる可能性があるのに、一回も買ってくれていない顧客が多いということが判明したのである。
これは図表4-6に示されるように、D社はE社に対してリピート率では同等に戦っているが、購入経験率で負けていることからも明らかである。
そこでD社は、シェアを増やすために、店頭でとにかく一度D社製品を味わってもらうための試食イベントの実施、商品を無償で提供するサンプリングなどを積極的に行なうことになった。
このような分析のパターンを知っていると、仮説を検証するときにたいへん役に立つ。
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