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第5章仮説思考力を高める

第5章仮説思考力を高める

1よい仮説は経験に裏打ちされた直感から生まれる2日常生活の中で訓練を繰り返す3実際の仕事の中で訓練する4失敗をおそれるな──知的タフネスを高める

第5章仮説思考力を高める

1よい仮説は経験に裏打ちされた直感から生まれる□直感、勘を磨く?これまでは、ひとつのプロジェクトにおいて、仮説を構築し、検証し、進化させるという話をしてきたが、本章では、能力としての仮説思考力を高めていくにはどうしたらよいかという話をしたい。

仮説思考力が高まっていくと、最初から相当筋のよい仮説を立てることができる。

検証した結果誤っていたので振りだしに戻って仮説を立て直すということがほとんどなくなる。

少なくとも筋のよい仮説を立てる確率は上がる。

言葉を換えれば、最初から進化した仮説を立てられるともいえる。

それは無意識のうちに脳内で仮説検証を素早く行なってしまっていることを意味する。

仮説を思いついた瞬間に、ああでもない、こうでもないとさまざまな視点から検証し、わずかな時間のうちに仮説を進化させてしまうのだ。

コンサルタントの場合も、経験を積んだコンサルタントは無意識のうちに脳内で仮説検証作業を行なうので、最初に構築した仮説がかなり進化した仮説になっている。

つまり、仮説の構築、検証、進化が渾然一体となって行なわれるわけだ。

脳内で無意識のうちに仮説検証を行なうようなレベルになるには、かなりの経験が必要だ。

では、どうしたらそのような仮説思考力の高い人になれるのだろうか。

石油採掘の専門家と素人が石油採掘をしたとする。

地上にいながら地下の油田を見ることはできない。

そういう点では二人の条件は同じといえる。

しかしながら、実際に採掘してみると、専門家のほうがはるかに高い確率で油田にたどり着くだろう。

これは経験の差としかいいようがない。

専門家は何百本、何千本と石油採掘を行なっている。

「ここを掘ろう」という専門家の決断は、素人目には、「なぜそこなのか」と疑問に思うこともある。

が、掘ってみると油田に出会うのである。

それは刑事コロンボや古畑任三郎の犯人の見極め方にある種似ている。

フィクションであることは承知の上で語るが、刑事コロンボや古畑任三郎は、仮説思考によって「犯人らしい人物」を最初に特定し、それから詳細な捜査をスタートさせる。

仮説志向型の捜査である。

他の登場人物から見れば、なぜその人物をマークしているのかまったくわからない。

一般的には直感が優れている、勘が優れているというような言葉で片づけられる。

しかし、それでは不十分だ。

これは経験に裏づけられた直感や勘なのである。

ビジネスにおける課題解決も石油採掘のようなものだ。

簡単に答えを見いだせない解決困難な課題がほとんどなのである。

そのため最初から答えを導きだすなど、予言者でもないかぎり不可能だろう。

だからこそ仮説が必要なのだ。

なぜ問題の答えが直感的にわかるかといえば、それは仮説と検証の経験によるものだ。

よい仮説は、経験に裏打ちされた直感から生まれる。

仮説を立てるには経験を積むことが大切だ。

少ない情報でよい仮説を立てられるようになるには、経験を重ねるしかない。

どんどん仮説を立て、間違っていたら別の仮説を立てる。

間違った仮説を立ててしまった場合には、次からは違う要素も加えて仮説を立てることを試みて、仮説を進化させていく。

よければその仮説をさらに進化させる。

これを繰り返しトレーニングすることだ。

□トレーニング1SoWhat?を常に考える実は仮説思考をトレーニングする方法はある。

そのひとつは日ごろからSoWhat?(日本語にすれば、「だから何?」となる)と考え続けることだ。

すなわち、身の回りにある現象が起きたときに、それが意味するところは何かと考え続けることだ。

具体的にいうと、たとえばアップルコンピュータの携帯型ミュージックプレーヤーiPodが非常に流行していると聞いたときに、SoWhat?と考える。

つまりiPodが流行すると、どういう影響があるのかと考える。

iPodの流行はさまざまな分野に影響を与えるだろう。

たとえば、iPodがはやるとそれまで携帯型ミュージックプレーヤー市場を牽引していたウォークマンの市場シェアが減少し、ソニーの業績が悪化することも考えられる。

すると、ソニーの株主は株を売ったほうがいいかもしれないし、ソニーの経営に携わっている人は戦略を変更する必要があるかもしれない。

アップルコンピュータの業績が回復すると、株価も上昇することが予想され、アップルコンピュータの株を購入するというアクションにつながる。

IT業界、パソコン業界の勢力地図にも影響があるだろう。

ソニーの株価が下がるのは一時的現象で、実はマイクロソフトの株価のほうが長期的には大きな影響を受けるのではないだろうか。

そうなるとマイクロソフトが新たな施策を打つ可能性がある。

あるいは音楽がダウンロードできたり、常に携帯できたりする状況になれば、音楽業界やCD・レコード業界が大きく変わる可能性も高くなる。

もしかすると、若者の消費が携帯電話や飲食から音楽に戻ってくる可能性もある。

そうなるとNTTドコモの株が下がるだろう。

NTTドコモが先手を打って、携帯電話とiPodの融合(一体化)が進めば、NTTドコモの株は上がるだろう。

このようにiPodの流行という現象から導きだされるSoWhat?は何通りもあるのだ。

周囲で起きている事象についてSoWhat?と考えるクセをつけると、仮説思考力は磨かれていく。

□トレーニング2なぜを繰り返す二つ目が、「なぜ」を繰り返すことだ。

BCGではこの考え方が徹底していて、なぜを最低五回は繰り返す。

これを日常的に行なうことによって、仮説思考力も磨かれていく。

たとえば、「なぜプロ野球ははやらないのか」と思ったとしよう。

それについて「なぜ」を繰り返しながら、原因と打ち手を考える。

たとえば、次のような具合だ。

〈一段目〉「なぜ、プロ野球ははやらないのか」→「プロ野球がつまらないから」〈二段目〉「なぜ、プロ野球はつまらないのか」→「スターがいないから」(※こちらを深掘り)→「ファンを楽しませる努力を球団がしていないから」〈三段目〉「なぜスターがいないのか」→「スターはメジャーリーグに流失してしまうから」→「若い有望な選手がプロ野球に入ってこないから」(※こちらを深掘り)〈四段目〉「なぜ、若い有望な選手がプロ野球に入ってこないのか」

→「プロ野球の給料が低いから」(事実でないことはすぐわかる=検証できる)→「サッカーなど魅力的なスポーツに若者が向かっているから」(※こちらを深掘り)〈五段目〉「なぜ、サッカーが若者を引きつけるのか」→「Jリーグが魅力的だから」→「中田英寿や中村俊輔がヨーロッパで活躍しているから」→「ワールドカップがあるから」→「世界中のチームに移籍できる可能性が高いから」→「地元のクラブチームが若いうちから選手を育成しているから」このように五回のなぜを繰り返すと打ち手も見えてくる。

この中でプロ野球でもまねをして実行できそうなのは、たとえば五段目の仮説のクラブチームによるサッカーの地元密着戦略である。

中高生のうちから傘下のクラブチームで選手を育成し、多くの有望な若者が将来のスター選手を目指している。

そこで、プロ野球の人気を高めるには、「もっと地元密着のスポーツに転身すべき」という仮説が考えられる。

あるいは、サッカーのほうが世界に活躍の場が多いということに対しては、日本のプロ野球とアメリカのメジャーリーグを一緒にしたような混成リーグや、セパ交流戦のようなシーズン途中での日米プロ野球相互乗り入れなどを行なうことも可能かもしれない。

要するに、日本に閉じたスポーツから世界に開かれたリーグ戦へ変身させるのである。

ちなみに、トヨタ自動車でも「なぜを五回繰り返す」という言葉が、カイゼンの基本ポリシーになっている。

トヨタ生産方式の生みの親といわれる大野耐一は、「なぜと五回問え。

そうすれば原因ではなく真因が見えてくる」といいながら現場をまわり、トヨタ生産方式を定着させた。

2日常生活の中で訓練を繰り返す□日々の出来事から将来を予測日常起きていることや感じていることをベースに将来どうなるかという仮説を立ててみるという方法も、仮説思考力を高めるよいトレーニングになる。

たとえば、「高齢化社会が到来すると、どのようなビジネスがはやるか」と考えてみよう。

日本は諸外国に例を見ない速さで人口の高齢化が進んでおり、二一世紀の半ばには国民の三人にひとりが六五歳以上という超高齢社会の到来が予測されている。

そのときに、どのようなビジネスがはやるかという仮説を立ててみてほしい。

「高齢化社会が到来するとどうなるか」という問いに対して、「お金をもったまま使わない高齢者が増える」という仮説を立てたとしよう。

そうなるとさらに、「遺産ビジネスが大流行する」という仮説が立てられるだろう。

また、「高齢者がお金を使うようになる」という仮説を立てたとしよう。

そうするとさらに、「高齢者向けショップがはやる」、「孫と高齢者をセットにした商品・サービスがはやる」という仮説が立てられるだろう。

さらに「アクティブな高齢者が増える」という仮説を立てたとすると、「スポーツ産業・旅行業・趣味などがはやる」という仮説が立てられる。

このように身近な現象をベースに、将来どうなるかという仮説を立てるトレーニングをするとよいだろう。

以下に具体的な場面に応じたトレーニング法を紹介したい。

新聞記事から考える新聞記事で報じられている事象から、なぜそうなったかという仮説=原因仮説を考え、それを検証してみるというトレーニング法だ。

たとえば新聞に、「○○工業の決算が史上最高益を更新した」と出ていたとしよう。

これに対しては、以下のような仮説が立てられる。

〔仮説1〕業界全体が好調→他社の利益はどうか?〔仮説2〕日本経済全体の回復・好景気→日本企業全体の経常利益はどうか?〔仮説3〕売上げが伸びた→なぜ伸びたのか?→新製品の伸び?既存製品の伸び?新規事業の伸び?〔仮説4〕コストが減った→原価率の推移を見る→調達コストの削減に成功?製品数を減らした?在庫の削減?人件費の圧縮?〔仮説5〕新製品がヒットした→実際にヒットした商品の売上げインパクトを見る→意外に小さいことが多い。

新製品の利益率は?〔仮説6〕リストラに成功→具体的にやったことを調べる→人員削減?事業撤退・売却?資産の売却?〔仮説7〕リーダーシップ→それ以前とどう変わったのか?それによってどんな業績インパクトがあったのか?実際にやってみる際には、原因仮説を立てる段階では、新聞に書いてある以上の情報はあえて使わない。

まず仮説を立て、その後で『会社四季報』やインターネットなどで情報を集めて、仮説を検証する。

テレビの話題からテレビを見ながら気になったことについて仮説を立てる。

ここでは、韓流ドラマがはやった理由の仮説を考えてみる。

〈韓国側の理由を考える〉〔仮説1〕韓国俳優が日本女性の心をつかんだ(流行)〔仮説2〕純愛というテーマが日本人女性にフィットした〔仮説3〕韓国のテレビドラマのつくり方が日本とは違う(テンポがゆるい、家族がよく出てくる、など)〔仮説4〕韓国そのものの魅力に日本人が気づき始めた〈日本側の理由を考える〉〔仮説1〕日本のテレビドラマがワンパターンで飽きられ始めている〔仮説2〕日本に中高年女性向けの良質のテレビドラマがなかった〔仮説3〕日本の時代背景:日本のような下り坂の国のドラマより、韓国や中国のような勢いのある国のドラマが受ける〈SoWhat?を考えてみる〉韓国ドラマに視聴率を取られた日本のテレビ局が衰退する→考えにくいシナリオ。

いくら韓流ドラマがはやったとしても、全体の中ではごく一部の時間帯にすぎない。

また日本人全セグメントに受け入れられているわけではない。

今後韓国以外にも台湾、香港、中国、シンガポール、タイなどアジア各国のドラマ・タレントが日本でもブームを呼ぶ→自分にビジネスチャンスはあるのか?日本のテレビドラマのつくり方、はやるタレントが大きく変わる→どんなドラマ、誰がはやりそうか当たりをつける。

二~三年後には検証できる。

職場の話題から

職場での話題を使ってトレーニングする。

たとえば、気に入らない上司に当たったときにどう処すべきかを、相反する意見を出して同僚とディベートする。

たとえば、「我慢して仕えるのが得策」という意見と、「衝突覚悟で自分のスタイルを押し通すほうが、キャリア形成の上ではプラスになる」という意見が出たとする。

もし前者の仮説を追求するならば、以下のような論を展開できる。

その上司が仕事ができるなら、たとえいやな上司でも仕事を学ぶことができ、自分の肥やしになる。

いつかはどちらかが転勤するから、一、二年我慢すれば次の上司に巡り会う。

逆に、後者の意見であれば、以下のような論を展開できる。

我慢しても得るものは少ない。

それより自分の考え方を貫くほうが、精神衛生上もよいし、場合によっては骨のあるヤツと他の上司から認めてもらえるかもしれない。

上司が転勤したとしても、次の上司が自分と馬が合う上司である保証はない。

それなら、上司の好き嫌いに関係なく、自分の仕事のスタイルを確立することに時間を使ったほうが将来のためになる。

どうしても合わなければ、自分のほうから転勤願を出せばよい。

こんな感じで議論を始めてみる。

もちろん、嫌いな上司にたてついて、人事考課でバツをつけられるリスクもあれば、他へ飛ばされてしまう可能性もある。

そうした中で、何と何がトレードオフの関係になっていて、どのオプションを取ると何を得て、何を失うのかといった議論は、企業がいままでと違う戦略を取る場合に起きる議論と本質的に同じである。

家庭の話題からたとえば、近所ではやっているレストランと、はやっていないレストランの違いは何かを議論してみる。

最初に検討すべき点は「味」と「価格」になるだろう。

しかし、それ以外にも立地、メニュー、建物・インテリア、サービスなども大きな要素となる。

また、近所に競争相手がいるかどうかも考慮すべきだ。

そうした点を十分議論して自分なりの仮説を立ててみる。

もちろん、こうした個別要素のひとつが圧倒的に優れているために勝敗がついている場合もある。

しかし、実際には、個別の要素の良し悪しよりも、ターゲットセグメントと提供しているサービスがマッチしているかどうか、さらに近所に同じ顧客セグメントを対象としている強力な競争相手がいるかどうかのほうが重要な場合が多い。

果たして、あなたの近所のレストランはどのケースであろうか。

その仮説を家族や近所の知り合いに話してみるのも、よいトレーニングになる。

そして、結論が出たら、次に自分がそのレストランのオーナーだとしたら、何を変え、何を変えないのかというアクションプランを立て、提案につなげてみる。

ちなみに私は自分がある店で買い物をするときに、その場で自分なりの仮説を立て、店員に聞いてみる(検証する)、ということをよくやる。

たとえば、「最近あちら側にショッピングセンターができたので客が減ったのではないですか」などと聞いてみる。

すると、「ショッピングセンターができたおかげで、このエリアに来る人が増えてうちもよい影響を受けているんですよ」といった自分の仮説とは逆の反応を得ることもある。

それによって、エリア同士の競争、たとえば渋谷と新宿の間の競争のほうが、個別の店の競争より客足に影響がある場合もあるということを学ぶことができる。

友人との話題からたとえば、共通の趣味であるゴルフを題材にトレーニングする。

最初に、「ゴルフがうまいかどうかとドライバーの飛距離には相関関係がある」という仮説を立てたとする。

これをどうすれば検証できるかを考える。

そこで、友人のドライバーの平均飛距離と平均スコアまたはハンディキャップをグラフにして相関を見る。

仮に両者に相関関係がなかったとすれば、一体何と関係があるのか、新たな仮説をつくる。

そして、進化した仮説として、ドライバーの方向性、アプローチ、パットなどが候補に挙がる。

仮に、そのうちのどれかが正解だとした場合、そこから導きだされるあなたにとってのアクションプラン(打ち手)は何だろうか。

もし自分がゴルフをしない場合は一般論の提言でもよい。

□信じていない仮説の正しさを証明する自分の信じていない仮説を補強したり、その正しさを証明する。

たとえば、あなたが経営破綻したスーパーのダイエーについて、真の理由は経営者の問題でもなく、店舗運営の稚拙さでもなく、総合スーパーという業態が役割を終えたのが一番重要な要因と信じているとしよう。

その他のイトーヨーカ堂もイオンも、総合スーパー部門は同様に低迷し、低収益に悩んでいることからも、これが本当の理由だと考えている。

そのような考えをもっているあなたが、あえてダイエー経営破綻の理由は、総合スーパーの店舗運営に問題があったためという仮説の立証を試みるのである。

たとえば次のように思いつくかぎり挙げてみる。

店舗の改装や売り場構成の変更を、他のスーパーに比べ、あまり行なっていないのではないか店員教育がおろそかで、顧客が店頭で不満を抱く機会が多いのではないかPOSなどを活用した「売れ筋」、「死に筋」管理をきちんと行なっていないために、売上げの機会損失や売れ残りの在庫ロスなどが頻繁に起きているのではないか店舗が全国に散らばっているため、配送コストが高くついたり、広告面で集中によるスケールメリットが発揮できず、大きなロスが起きているのではないか思いつくかぎり挙げた後に、逆に本来の自分であればどう反論するかを考える。

どんなトレーニング法でもトレーニングの基本は、仮説の幅を拡げ、検証し、SoWhat?で深く掘り下げることだ。

これでアクションにつながる仮説づくりに挑戦してほしい。

自分の仕事にダイレクトに関係しないテーマであれば、さまざまな仮説を立てたとしても、実際の業務に適用されることはない。

適用しないかぎりは、間違っても一切の損失は発生しない。

これは大きなメリットだ。

ただでいくらでもトレーニングできて、きわめて安上がりである。

3実際の仕事の中で訓練する□相手のメガネをかけてものを見る相手のメガネをかけてものを見る、すなわち相手の立場で考えることが、いままでと違う発想や、より建設的な提案につながる仮説を生むことになる。

たとえば生産部門にいると、つい営業部門を批判しがちになる。

営業の売上見込みの立て方がいい加減なために生産計画に支障をきたす、平気で返品してくる、在庫がどれだけあってもまったく気にしない、……といった具合だ。

そして、営業が生産の悩みを理解して変身しないかぎり、生産部門の効率化は無理といった結論になりがちだ。

こうした考え方は間違ってはいないが、これでは進歩はない。

それよりも相手の立場になって仮説をつくる。

これが自分の仮説の幅を拡げる練習になる。

この場合、自分が営業部門にいたとしたらと考える。

営業が余分に注文する理由は、顧客の急ぎの注文に生産部門が柔軟に対応できないためであり、在庫が多くても気にしないわけではないかもしれない。

だとすれば、生産計画に柔軟性をもたせ、緊急注文に応えられるようにすれば、余分な注文はなくなる可能性がある。

また、これまでの生産方式では人気商品ほど欠品になることが多かったので、営業では多めの注文を行なうのが常態化しているのではないか。

それを防ぐには注文が確定している商品のみの生産方式に切り替えるか、あるいは人気商品に限っては割り当て式にするなどの対処ができるのではないだろうか。

また、現在の生産計画は一カ月以上前に確定するため、実際のリードタイムは二カ月程度かかってしまう。

結果的に営業の販売予測はかなり前もって行なうことになるので、精度が上がらないのかもしれない。

だとすれば、生産計画の大枠はいままで同様に一カ月以上前に決めるものの、詳細な生産計画は生産にかかる前日に決定することにすれば、営業の販売予測の精度は大きく上がり、結果として売れ残りや在庫の問題は解消するかもしれない。

このように相手の立場で考えると、いままでは考えられなかった仮説を構築できる。

□上司の意思決定をシミュレーションするもし自分が上司なら、問題解決に際し、どのような意思決定をするか。

これをいつも頭に置き、シミュレーションしてみる。

自分ならどんな仮説を立てて、どう判断するか考えてみるという方法だ。

たとえば、競争相手の新製品がよく売れ、自社の売上げが下がったときに、上司(我が社)は値下げをして、売上げを増やそうとしたとしよう。

そのとき、「自分ならどうしたか」と考えてみる。

当該商品の営業マンを増やす、訪問回数を増やす、販促費を増やす、広告出稿量を増やす、その製品はあきらめて将来の売上確保のために新製品開発に力を入れる、何もしない。

選択肢は多いが、そのうちのどれを選択するか、その理由は何かと常に考える。

この方法をとると、実際の上司の選択に対して、ビジネスの結果が出る。

すなわち、少なくとも上司の意思決定の検証はできることになる。

つまり、仮説を実験した場合と同じになる。

さらに少し想像力を働かせれば、自分の仮説どおりに意思決定をした場合はどんな結果になったかも、かなりの確率で検証できるので、仮説思考のトレーニングとしてだけでなく、将来リーダーになるためのトレーニングもできるのだ。

4失敗をおそれるな──知的タフネスを高める□創造的であればあるほど失敗はつきもの仮説を立てることは決して単純な話ではなく、よい経験、バラエティに富んだ経験を積むことが非常に大切だ。

ビジネス経験が浅いうちはどんどん仮説を立ててみて、もしも間違っていたら別の仮説を立て、もしよさそうであればその仮説をさらに進化させることを繰り返し練習することだ。

なぜベテランコンサルタントが筋のよい仮説を思いつくかというと、似たようなことを新人コンサルタントの何百倍も考えているからだろう。

しかし、ただ経験を積みさえすればよいのかといえば、そうではない。

仮説を自分で立てて、成功したり失敗したりしていかなくてはならない。

特に失敗は重要な意味をもつ。

若いうちはどんどん失敗したほうがいい。

二〇〇五年のプロ野球日本一になった千葉ロッテマリーンズの監督であるボビー・バレンタインは、著書『バレンタインの勝ち語録』(主婦と生活社)の中で、「平凡から抜けだすには、失敗してみるしかない」と語っている。

「自分が何かの分野で成長するために、それまでと違ったことに挑戦したり、さらに上の段階を目指して努力するときには失敗がつきもの」だと。

仮説も立て始めたばかりのときは、誤った仮説を立てることが多いだろう。

だからといって、仮説を立てることをやめてしまったら、仮説思考力をアップさせることはできない。

失敗することによって、次は、よりよい仮説が立てられるようになるのだ。

バレンタインはこうも述べている。

「勝ち星は逃しても、教訓は手に入れろ」。

これは、負けたときほど学ぶチャンスが多いのだから、それを見逃してはいけないという意味だ。

仮説の場合もそうだ。

よい仮説が立てられなかったときこそ、なぜうまくいかなかったのかと考えるチャンスがある。

失敗は成功のもとというくらいだから、創造的な仮説を立てれば立てるほど失敗はつきものなのだ。

□知的に打たれ強くなる少ない情報から答えを見出す仮説構築という技が、初めからうまくいくわけはない。

失敗というとマイナスのイメージでとらえ、「避けたい」と思いがちだが、意識してみると失敗から学ぶことはとても多いのだ。

うまくいく方法ばかりでは、既存の手法のまねや過去に起きた同様のケースへの対応はできても、新たな経営課題に直面したらお手上げになってしまうだろう。

だから、大いに失敗してほしい。

失敗をおそれず仮説を構築し、検証し、進化させる。

これを何度も繰り返す。

こうして仮説の精度が高まってくると、問題解決のスピードは格段に速くなる。

経営課題に直面した瞬間に、その答えがすっと頭に思い浮かぶようになる。

それは、羽生善治が八〇手のうち二、三手をひらめくのと同じである。

しかし、ヒラメキの裏には数限りない経験があることを忘れてはならない。

羽生が将棋を覚えたのは小学校一年生のときだという。

それ以来、とりつかれたようにのめりこんでいった。

小学校六年生で奨励会に入会し、そのころは道を歩いていても頭の中に将棋盤を思い浮かべ、四六時中将棋のことを考えていた。

三年間で四段(プロ棋士)になり、以来、二十数年間、来る日も来る日も将棋盤に向かってきた。

数限りない仮説検証こそが、一瞬にして妙手が浮かぶヒラメキの源泉となっているのである。

すべては経験なのだ。

現場での経験を積み重ねることで、短時間で質の高い仕事ができるようになるための仮説思考力をぜひとも身につけてほしい。

自分が勘が悪いとあきらめる必要はない。

いくら確率が悪くても繰り返し仮説構築・検証を行なう根気と学習能力があれば、仮説思考力は必ず高まる。

BCGには「知的タフネス」という言葉がある。

知的に打たれ強いという意味だ。

いくらIQ(知能指数)が高くても、人にいろいろいわれると耐えきれなくて、ポロッと折れてしまう人がいる。

それに比べると、IQが多少低くても、何度でも何度でも挑戦して、そこから学び取れる人間のほうが成功している。

何百人というコンサルタントを見てきた私がいうのだから間違いない。

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